特許異議申立
2019-700730
ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子
- 審判番号
- 2019-700730
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-250441
- 登録番号
- 特許第6480722号(P6480722)
- 請求日
- 2019年09月13日
- 審決日
- 2020年03月09日
- 公報発行日
- 2020年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】HOYA株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】宮園 祐爾
- 審判長/審判官
- 審判長 豊永 茂弘
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.537-YAA(C03C) / P1651.121-YAA(C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6480722号発明「ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6480722号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6480722号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6480722号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成26年12月10日に出願され、平成31年2月15日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月13日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、請求項1~6に係る特許に対して、令和1年9月13日付けで特許異議申立人宮園祐爾による特許異議の申立てがされ、令和1年11月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和2年1月10日付けで意見書及び訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)の提出がされ、本件訂正請求書に対して特許異議申立人に意見を求めたところ、意見書の提出はされなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求書による訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「P5+含有量は10~45カチオン%であり」との記載を、「P5+含有量は10~30カチオン%であり」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1における「Al3+およびP3+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P3++Al3+)」との記載を、「Al3+およびP5+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0009】における「Al3+およびP3+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P3++Al3+)」との記載を、「Al3+およびP5+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0036】における「Al3+とP3+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P3++Al3+)を、0.39未満とする。モル比(Li++Na++K+)/(P3++Al3+)の上限は、0.14以下、0.10以下、0.08以下の順に好ましい。また、上述のガラスは、上記の通りR’+含有量(Li+、Na+およびK+の合計含有量)は0%でもよいため、モル比(Li++Na++K+)/(P3++Al3+)」との記載を、「Al3+とP5+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)を、0.39未満とする。モル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)の上限は、0.14以下、0.10以下、0.08以下の順に好ましい。また、上述のガラスは、上記の通りR’+含有量(Li+、Na+およびK+の合計含有量)は0%でもよいため、モル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0073】における「Al3+およびP3+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P3++Al3+)」との記載を、「Al3+およびP5+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0088】における「Al3+およびP3+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P3++Al3+)」との記載を、「Al3+およびP5+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)」に訂正する。
ここで、訂正前の請求項1~6について、同請求項2~6が、訂正事項1及び2によって訂正される請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正事項1及び2の特許請求の範囲に係る訂正は、一群の請求項〔1~6〕に対して請求されたものであり、また、訂正事項3~6の明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1~6〕について請求されたものである。
なお、本件訂正請求書に添付された訂正明細書の段落【0032】には、
との取り消し線が付された記載があるが、当該取り消し線は明らかな誤記であって、「更に、上述のガラスにおいては、ガラスの熱的安定性および均質性向上の観点」との記載が正しい記載であると認める。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「P5+含有量」の数値範囲を「10~45カチオン%」から「10~30カチオン%」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0021】には、「P5+含有量は、ガラスの均質性、耐酸性向上の観点から、好ましくは45%以下であり、より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは35%以下であり、一層好ましくは30%以下である。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(2)訂正事項2~6について
願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1、並びに、願書に最初に添付された明細書の段落【0009】、【0036】、【0073】及び【0088】には、「モル比(Li++Na++K+)/(P3++Al3+)」と記載され、一方、同明細書の【表1】、【表2】及び【表3】には、「(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)」と記載されていることからみて、「P3+」あるいは「P5+」のいずれかは誤記であることは明らかである。
そして、願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲の記載において、上記「モル比(Li++Na++K+)/(P3++Al3+)」に係る箇所以外のリンカチオンは、「P5+」と記載されていること、さらに、ガラス成分としてのリンを5価のカチオン成分として取り扱うことが当該技術分野の技術常識であることからして、「P3+」との記載は誤りであり、「P5+」との記載が正しい記載であるといえる。
よって、訂正事項2~6は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであって、願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求書による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求書により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1~6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
カチオン成分として、P5+、Al3+、Ba2+およびR2+(R2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびZn2+からなる群から選択される一種以上)を少なくとも含み、
アニオン成分として、O2-およびF-を少なくとも含み、
P5+含有量は10~30カチオン%であり、
Al3+含有量は25~40カチオン%であり、
Ba2+およびR2+の合計含有量(Ba2++R2+)は30~60カチオン%であり、
F-含有量は58アニオン%以上であり、
カチオン成分比率において、
Al3+およびP5+の合計含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/(Al3++P5+)は0.56~0.75の範囲であり、
Ba2+およびR2+の合計含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/(Ba2++R2+)は0.58以上であり、
Ba2+およびR2+の合計含有量に対するBa2+およびSr2+の合計含有量のモル比(Ba2++Sr2+)/(Ba2++R2+)は0.60以上であり、
Al3+およびP5+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)は0.39未満であり、
屈折率ndが1.47超1.53以下の範囲であり、かつアッベ数νdが80~95の範囲であるガラス。
【請求項2】
屈折率ndとアッベ数νdとが、下記式1:
nd≧2.0466-0.0067×νd …(式1)
を満たす請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
P5+含有量に対するO2-含有量のモル比O2-/P5+が3.60以上である請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子。」
2 取消理由の概要
令和1年11月7日付けの取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1
訂正前の請求項1に係る発明は、「P5+含有量は10~45カチオン%」であり、「Al3+含有量は25~40カチオン%」であり、「Ba2+およびR2+の合計含有量(Ba2++R2+)は30~60カチオン%」であることが特定されているから、訂正前の請求項1に係る発明のAl3+及びP5+の合計含有量の取り得る数値範囲は、35カチオン%~70カチオン%であるといえる。
そして、訂正前の請求項1に係る発明の「P5+含有量は10~45カチオン%」との発明特定事項について検討すると、P5+含有量が上限値(45カチオン%)である場合には、訂正前の請求項1に係る発明のAl3+含有量の取り得る数値範囲(25~40カチオン%)とAl3+及びP5+の合計含有量の取り得る数値範囲(35~70カチオン%)を踏まえると、Al3+含有量は25カチオン%となり、これら数値から算出されるモル比Al3+/(Al3++P5+)は0.357(=25カチオン%/(25カチオン%+45カチオン%))となるため、訂正前の請求項1に係る発明の「Al3+およびP5+の合計含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/(Al3++P5+)は0.56~0.75の範囲」との発明特定事項と矛盾する。
よって、訂正前の請求項1~6に係る発明は明確でない。
(2)取消理由2
訂正前の請求項1に係る発明の「Al3+およびP3+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P3++Al3+)は0.39未満」との発明特定事項の「P3+」と、その他の発明特定事項の「P5+」との関係が明確でない。
よって、訂正前の請求項1~6に係る発明は明確でない。
(3)小活
以上のとおりであるから、訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由の検討
(1)取消理由1について
本件発明1では、P5+含有量に係る発明特定事項は、「P5+含有量は10~30カチオン%」に限定されており、その上限値(30カチオン%)である場合、本件発明1のAl3+含有量の取り得る数値範囲(25~40カチオン%)を踏まえると、モル比Al3+/(Al3++P5+)は、0.45(=25カチオン%/(25カチオン%+30カチオン%))~0.57(=40カチオン%/(40カチオン%+30カチオン%))となるし、その下限値(10カチオン%)である場合、同じく上記Al3+含有量の数値範囲を踏まえると、モル比Al3+/(Al3++P5+)は、0.71(=25カチオン%/(25カチオン%+10カチオン%))~0.80(=40カチオン%/(40カチオン%+10カチオン%))となるため、請求項1に係る発明の「Al3+およびP5+の合計含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/(Al3++P5+)は0.56~0.75の範囲」との発明特定事項と矛盾しない。
よって、取消理由1に理由はない。
(2)取消理由2について
本件発明1では、「Al3+およびP5+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)は0.39未満」に特定され、つまり、「P3+」が「P5+」に訂正されたため、その他の発明特定事項の「P5+」との関係が明確になった。
よって、取消理由2に理由はない。
4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の検討
(1)申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証(特開2007-76958号公報)を提出し、以下の申立理由を主張している。
ア 申立理由1
訂正前の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 申立理由2
訂正前の請求項1に係る発明のP5+の含有量の上限値が45%と規定されているにも関わらず、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許発明」という。)の実施例では、20.66%までしか実験されておらず、約30%の開きがあるため、当業者が実施例に記載された限定的な組成の範囲から、物性要件を満たす組成範囲を訂正前の請求項1に係る発明で特定する数値範囲まで、拡張又は一般化して認識することができないから、訂正前の請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明といえない。
よって、訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由1についての検討
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、
「【実施例】
【0117】
・・・
実施例1(光学ガラスの製造例)
ガラスの原料として、各ガラス成分に相当するリン酸塩、フッ化物などを使用し、表1に示すNo.1~11の組成を有するガラスとなるように前記原料を秤量し、十分混合した。
【0118】
上記調合原料を白金坩堝を使用し850℃で1時間熔解を行った後急冷し粉砕したものをラフメルトカレットとして使用した。このラフメルトカレットを蓋により密閉された白金ルツボに10kg投入して900℃に加熱し、熔融した。次いで、白金ルツボ中に十分な乾燥ガスを導入して乾燥雰囲気を保ちつつ1100℃、2時間かけて熔融ガラスを清澄した。・・・
【0119】
清澄後、ガラスの温度を清澄時の温度よりも低い850℃まで下げた後、ルツボ底部に接続したパイプからガラスを流出させた。・・・
【0120】
得られた熔融ガラスを乾燥窒素雰囲気中でカーボン製金型に鋳込んだ。鋳込んだガラスを転移温度まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、転移温度付近で1時間アニールし、アニール炉内で室温まで徐冷して、表1に示すNo.1~11の各光学ガラスを得た。
【0121】
得られた各光学ガラスNo.1~11を顕微鏡によって拡大観察したところ、結晶の析出や原料の熔け残りは認められなかった。
【0122】
得られた光学ガラスNo.1~11について、屈折率(nd)、アッべ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)を、以下のようにして測定した。測定結果を表1~2に示す。
・・・
【0123】
なお、屈折率ndに関しては、上記条件で測定された光学ガラスNo.1~11の各屈折率の値をnd(1)とし、光学ガラスNo.1~11の再熔融、冷却後の屈折率nd(2)を次のようにして測定した。
・・・
【0126】
【表1】
」
と記載されており、特許異議申立人が主張する上記実施例1のNo.6の光学ガラスに注目して整理すると、甲第1号証には、
「カチオン成分として、P5+含有量が14.0カチオン%、Al3+含有量が29.4カチオン%、Mg2+含有量が3.9カチオン%、Ca2+含有量が22.4カチオン%、Sr2+含有量が14.5カチオン%、Ba2+含有量が8.2カチオン%、Li+含有量が5.0カチオン%、Y3+含有量が2.6カチオン%、La3+含有量が0.0カチオン%、Gd3+含有量が0.0カチオン%であり、
アニオン成分として、F-含有量が81.5アニオン%、O2-含有量が18.5アニオン%であるガラス組成を有し、
屈折率の値ndが1.4679、アッベ数νdが89.1である光学ガラス。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
イ 本件発明1について
(ア)甲1発明との対比及び判断
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「P5+含有量が14.0カチオン%」、「Al3+含有量が29.4カチオン%」、「F-含有量が81.5アニオン%」、及び、「アッベ数νdが89.1」は、それぞれ、本件発明1の「P5+含有量は10~30カチオン%」、「Al3+含有量は25~40カチオン%」、「F-含有量は58アニオン%以上」、及び、「アッベ数νdが80~95の範囲」に相当する。
また、甲1発明の「Mg2+含有量が3.9カチオン%、Ca2+含有量が22.4カチオン%、Sr2+含有量が14.5カチオン%、Ba2+含有量が8.2カチオン%」であることは、これらの合計含有量が「49カチオン%」になり、また、甲1発明のガラス組成にZn2+が含有していないことから、本件発明1の「Ba2+およびR2+〔Mg2+、Ca2+、Sr2+およびZn2+からなる群から選択される一種以上〕の合計含有量(Ba2++R2+)は30~60カチオン%」を満足する。
さらに、甲1発明のガラス組成は、Zn2+、Na+及びK+を含有しておらず、当該ガラス組成の各カチオン成分の含有量から、本件発明1のカチオン成分比率を算出すると、モル比Al3+/(Al3++P5+)は「0.68」、モル比Al3+/(Ba2++R2+)は「0.60」、モル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)は「0.12」になることから、本件発明1の「モル比Al3+/(Al3++P5+)は0.56~0.75の範囲」、「モル比Al3+/(Ba2++R2+)は0.58以上」、「モル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)は0.39未満」を満足する。
したがって、本件発明1は、甲1発明と、
「カチオン成分として、P5+、Al3+、Ba2+およびR2+(R2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびZn2+からなる群から選択される一種以上)を少なくとも含み、
アニオン成分として、O2-およびF-を少なくとも含み、
P5+含有量は10~30カチオン%であり、
Al3+含有量は25~40カチオン%であり、
Ba2+およびR2+の合計含有量(Ba2++R2+)は30~60カチオン%であり、
F-含有量は58アニオン%以上であり、
カチオン成分比率において、
Al3+およびP5+の合計含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/(Al3++P5+)は0.56~0.75の範囲であり、
Ba2+およびR2+の合計含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/(Ba2++R2+)は0.58以上であり、
Al3+およびP5+の合計含有量に対するLi+、Na+およびK+の合計含有量のモル比(Li++Na++K+)/(P5++Al3+)は0.39未満であり、
アッベ数νdが80~95の範囲であるガラス」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明1では、「Ba2+およびR2+の合計含有量に対するBa2+およびSr2+の合計含有量のモル比(Ba2++Sr2+)/(Ba2++R2+)は0.60以上」であることが特定されているのに対して、甲1発明では、これのガラス組成の各カチオン成分の含有量から当該モル比を算出した値は「0.46」である点。
(相違点2)
本件発明1では、屈折率ndが「1.47超1.53以下の範囲」であるのに対して、甲1発明は、屈折率ndが「1.4679」である点。
まず、相違点1について検討するに、モル比(Ba2++Sr2+)/(Ba2++R2+)をパラメータとする技術思想は、甲第1号証に記載も示唆もされていないし、このような技術思想が本件特許に係る出願時の技術常識であるともいえないから、甲1発明において、そもそも、モル比(Ba2++Sr2+)/(Ba2++R2+)を0.60以上にすることは、当業者が想起し得ることではない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)特許異議申立人の主張について
上記相違点1に関して、特許異議申立人は、甲第1号証には、実施例のガラスが、Ba2+、Mg2+、Sr2+及びCa2+を含むことが記載されていること、甲第1号証の段落【0040】には、Ba2+、Mg2+、Sr2+及びCa2+を調整できることが記載されていること、及び、甲第1号証のすべての実施例の各ガラス組成から算出したモル比(Ba2++Sr2+)/(Ba2++R2+)の範囲は0.46~0.74になり、訂正前の請求項1に係る発明の数値範囲と重複することを根拠にして、甲1発明において、モル比(Ba2++Sr2+)/(Ba2++R2+)を0.06以上にすることは、単なる設計事項である旨を主張している(特許異議申立書第6~8頁の「(4-2-1)」参照)。
当該主張について検討するに、甲第1号証の段落【0035】~【0040】の記載からして、甲第1号証には、Ba2+、Mg2+、Sr2+及びCa2+は、それぞれが置換可能な成分であり、また、低分散を保ちつつ高屈折率の光学ガラスを得る観点から、Mg2+、Sr2+又はCa2+含有量の一部をBa2+に置換して、Ba2+含有量を増やすことは示唆されているといえるものの、上記(ア)で検討したとおり、甲1発明において、そもそも、モル比(Ba2++Sr2+)/(Ba2++R2+)を「0.60以上」とすることは、当業者が想起し得ることではなく、設計事項になり得ないものである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を更に限定するものであるから、本件発明1に対する検討と同様に、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
エ 小活
以上で検討したとおり、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでないから、特許異議申立人の主張する申立理由1に理由はない。
(3)申立理由2についての検討
本件発明1では、P5+含有量に係る発明特定事項は「P5+含有量は10~30カチオン%」となっている。
そして、P5+成分は、本件特許明細書の段落【0021】に記載されているとおり、ネットワーク形成成分であるところ、例えば、本件発明1のP5+含有量の上限値(30カチオン%)に最も近い実施例(No.5)のガラス(P5+含有量が20.66カチオン%、屈折率1.52066、アッベ数80.22)において、ガラス製造において通常行われる試行錯誤の範囲内で、ネットワーク形成成分であって低分散特性に寄与する成分であるAl3+成分(段落【0022】)の一部、及び、低分散特性に寄与する成分であるBa2+成分及び/又はSr2+成分(段落【0024】、【0029】)の一部を、P5+成分に置き換えると共に、低分散特性に寄与するアニオン成分であるF-成分(段落【0019】)の含有量を調整することで、P5+含有量が30カチオン%であるガラス組成にしても、本件発明1の「屈折率ndが1.47超1.53以下の範囲であり、かつアッベ数νdが80~95の範囲である」との物性要件を満たすガラスが得られることを当業者であれば認識できる。
したがって、当業者が実施例に記載されたガラス組成範囲を、本件発明1で特定するガラス組成の数値範囲まで拡張又は一般化することを当業者が認識できるから、特許異議申立人の主張する申立理由2に理由はない。
5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700730