2019-700349
正極活物質層
- 審判番号
- 2019-700349
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-057348外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年04月25日
- 審決日
- 2019年08月08日
- 公報発行日
- 2019年09月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社半導体エネルギー研究所
- 【異議申立人】特許業務法人 朝日奈特許事務所
- 分類
- P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 35項目
1 手続の経緯
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特許第6423472号の請求項1、2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年3月13日(優先権主張平成24年4月10日、平成24年5月31日)に出願した特願2013-50128号の一部を、平成28年11月4日に新たな特許出願とした特願2016-216240号の一部を、平成29年3月23日にさらに新たな特許出願としたものであって、平成30年10月26日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月14日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、平成31年4月25日に特許異議申立人三嶋眞弘(以下、「申立人」という。)により請求項1、2に対して特許異議の申立てがなされたものである。
2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】正極活物質が凝集した第1の凝集部と、正極活物質が凝集した第2の凝集部と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料と、続きを表示(全16行)六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料と、を有し、前記第1のシート状の炭素材料は、前記第1の凝集部を包む領域と、前記第2の凝集部を包む領域と、を有し、前記第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散していることを特徴とする正極活物質層。【請求項2】第1の二次粒子と、第2の二次粒子と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料と、を有する正極活物質層であって、前記第1の二次粒子は、正極活物質であり、前記第2の二次粒子は、正極活物質であり、前記第1のシート状の炭素材料は、前記第1の二次粒子を包む領域と、前記第2の二次粒子を包む領域と、を有し、前記第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散していることを特徴とする正極活物質層。」
3 特許異議申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
ア 本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記a、bの刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記a~dの刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(刊行物)
a Haegyeom Kim et al.,"Nano-graphite platelet loaded with LiFePO4 nanoparticles used as the cathode in a high performance Li-ion battery",CARBON 50、第1966~1971頁、2012年1月5日(Available online 5 January 2012)(申立人が提出した甲第1号証、以下、「甲1」という。)
b Y. Ding et al.,"Preparation of nano-structured LiFePO4/graphene composites by co-precipitation method",Electrochemistry Communications 12 (2010) 第10~13頁、2009年10月21日(Available online 21 October 2009(申立人が提出した甲第2号証、以下、「甲2」という。))
c Li Wang et al.,"A facile method of preparing mixed conducting LiFePO4/graphen composites for lithium-ion batteries",Solid State Ionics 181 (2010) 第1685~1689頁、2010年(申立人が提出した甲第3号証、以下、「甲3」という。)
d Ke-Cheng Jiang et al.,"Improved kinetics of LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2 cathode material through reduced graphene oxide networks",Phys. Chem. Chem. Phys. 2012, 14, 第2934~第2939頁、2011年12月20日(Published on 20 December 2011)(申立人が提出した甲第4号証、以下、「甲4」という。)
(2)特許法第36条第4項第1号について
本件発明1及び2は、本件発明の効果を奏さない部分を含むものであって、当該部分について、実施可能であるとはいえないから、本件特許は、その明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。
(3)特許法第36条第6項第1号について
本件発明1及び2は、本件発明の効果を奏さない部分を含むものであるから、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。
4 本件明細書の記載
本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、次の記載がある。
「【0005】そこで、アセチレンブラック(AB)やグラファイト(黒鉛)粒子などの導電助剤を混合することで活物質間又は活物質-集電体間の電子伝導性を向上させている。これにより電子伝導性の高い正極活物質の提供を可能としている・・・(略)・・・【発明が解決しようとする課題】【0007】続きを表示(全11行)しかしながら、導電助剤として用いられるアセチレンブラックは、平均粒径が数十nmから数百nmの嵩高い粒子であるため、活物質との面接触が難しく点接触となりやすい。このため活物質と導電助剤との接触抵抗は高いものとなる。一方、活物質と導電助剤との接触点を増やすために導電助剤の量を増加すると、電極中の活物質量の比率が低下して、電池の放電容量は低下する。【0008】また、導電助剤としてグラファイト粒子を用いる際には、コストの問題から天然グラファイトを用いることが一般的であるが、その際にはグラファイト粒子中に不純物として含有している鉄、鉛、銅等が活物質や集電体と反応し、電池の電位低下や容量低下が生じる。【0009】さらに、活物質は微粒子化に伴い粒子間の凝集力が強くなるため、結着剤や導電助剤に均一に分散するように混合することが困難となる。このため活物質粒子が凝集した密な部分と凝集していない疎な部分とが局所的に発生し、導電助剤の混入がなされていない活物質粒子の凝集部分においては、活物質粒子が電池の放電容量形成に寄与しない結果となる。【0010】そこで、上記課題に鑑み、本発明の一態様では、少量の導電助剤で電子伝導性の高い活物質層を形成するための導電助剤の原料である酸化グラフェンを提供することを目的の一とする。また、少量の導電助剤で、充填量が高く高密度化された正極活物質層を含む非水系二次電池用正極を提供することを目的の一とする。また、該非水系二次電池用正極を用いることにより、電極体積当たりの容量が大きい非水系二次電池を提供することを目的の一とする。」
「【0036】また、本発明の一態様は、炭素に対する酸素の重量比が0.405以上である酸化グラフェンを分散媒に分散させ、酸化グラフェンを分散させた分散媒に、正極活物質を添加して混練することで混合物を作製し、混合物に結着剤を添加して混練することで正極ペーストを作製し、正極ペーストを正極集電体に塗布し、塗布した正極ペーストに含まれる分散媒を揮発させた後又は揮発させると同時に、酸化グラフェンを還元して、グラフェンを含む正極活物質層を前記正極集電体上に形成する非水系二次電池用正極の製造方法である。」
「【0074】図3(B)に示す正極活物質層202の上面図のように、複数の粒状の正極活物質203は、複数のグラフェン204によって被覆されている。一枚のシート状のグラフェン204は、複数の粒状の正極活物質203と接続する。特に、グラフェン204がシート状であるため、粒状の正極活物質203の表面の一部を包むように面接触することができる。正極活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフェン204は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、導電助剤の量を増加させることなく、粒状の正極活物質203とグラフェン204との電子伝導性を向上させるができる。【0075】また、複数のグラフェン204どうしも面接触している。これはグラフェン204の形成に、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いるためである。均一に分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還元してグラフェンとするため、正極活物質層202に残留するグラフェン204は部分的に重なり合い、互いに面接触する程度に分散していることで電子伝導の経路を形成している。」
「【図3】」
5 各甲号証の記載、及び、各甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
なお、下線は当審で付し、翻訳は当審による。以下、同じ。
ア 「LiFePO4 nanoparticles were grown on nano-graphite platelet (NGP) using a simple chemical route. The material was used as the cathode in Li-ion rechargeable batteries and exhibited excellent cyclability and rate capability because of the easy electron transport in it. The electrochemical stability of the electrode was improved by the two-dimensional conductive network of the NGP.」(第1966頁abstractの第1行~第3行)
(当審訳)「単純な化学的方法を用いて、ナノグラファイトプレートレット(NGP)上にLiFePO4ナノ粒子が成長された。この材料は、リチウムイオン二次電池のカソードとして使用され、電子の輸送が良好であるため、優れたサイクル特性およびレート特性を示した。電極の電気化学的安定性は、NGPの二次元導電性ネットワークによって改善された。」
イ 「The illustration in Fig. 1 shows the fabrication of LiFePO4/NGP electrodes and the transport behavior of electrons and Li ions within the electrode. First, NGP was coated with amorphous FePO4 using Fe3+ and PO43- precursors. Because NGP often contains surface defects, heterogeneous nucleation of FePO4 is believed to occur preferentially on the NGP [29-33]. LiFePO4 was grown on the NGP by a solid-state route using Li2CO3 as the Li source. The resulting electrodes are hypothesized to be composed of stacked assemblies of alternating LiFePO4 and NGP units, where electrons and ions can move readily throughout the whole electrode.」(第1967頁右欄第11~21行)
(当審訳)「図1中の例は、LiFePO4/NGP電極の構成および電極内の電子およびリチウムイオンの移送挙動を示す。まず、Fe3+とPO43-の前駆体を用いて、NGPにアモルファスFePO4がコーティングされる。NGPは、しばしば表面欠陥を有するので、FePO4の異質核形成がNGP上に優先的に起こると考えられている[29-33]。リチウム源としてLi2CO3を用いて、固体状態でLiFePO4がNGP上に成長された。得られた電極は、LiFePO4とNGPユニットとの交互ユニットが積層されたアセンブリで構成されるものと仮定され、電子およびイオンは全電極をたやすく移動し得る。」
ウ 「Fig. 4(a)-(d) shows the morphology of the LiFePO4/NGP hybrid material. LiFePO4 particles can be seen on the wrinkled NGP surface in both the SEM and TEM images. Energy dispersive spectroscopic analyses confirmed the presence of Fe, P, O, and C in the hybrid material (Fig. 4(b)). The Fe/P ratio was 1.04, on average, indicating the presence of LiFePO4. The TEM image in Fig. 4(c) shows that individual LiFePO4 crystals were approximately 90 nm in diameter. The high resolution TEM image in Fig. 4(d) shows a spacing between lattice fringes of approximately 0.35 nm, which is consistent with that of the (111) plane of LiFePO4. Elemental analyses revealed a carbon content, mostly NGP, of about 25 wt.%. This indicates that the total carbon content in the electrode was about 20 wt.%.」(第1968頁左欄第12行~24行)
(当審訳)「図4(a)-(d)は、LiFePO4/NGPハイブリッド材料の形態を示す。SEM画像およびTEM画像の両方で、LiFePO4粒子が皺の寄ったNGP表面上に確認することができる。エネルギー分散型分光分析により、ハイブリッド材料中のFe、P、OおよびCの存在を確認した(図4(b))。Fe/P比率は、平均1.04であり、LiFePO4の存在を示している。図4(c)のTEM画像は、個々のLiFePO4結晶の直径が約90nmであることを示している。図4(d)の高解像度TEM画像は、格子縞間の間隔が約0.35nmであることを示しており、LiFePO4の(111)平面の間隔と一致している。元素分析は、炭素含量が約25重量%であり、その殆どがNGPであることを示している。」
エ 「」
(当審訳)「図1-LiFePO4/NGP電極の製造及びハイブリッド電極中のLiイオンと電子の輸送を示す。」
オ 「」
(当審訳)「図4-(a)皺のあるNGP表面の均一に分散されたLiFePO4粒子のSEM画像を示す。(b)エネルギー分布スペクトルは、ハイブリッド材料中のFe,P,O,C原子の存在を示す。(c)低分解能のTEM画像は、NGP表面に固着されたLiFePO4粒子(~90nm)を示す。(d)HR-TEM画像は、一つの粒子の格子縞の間隔が0.35nmであることを示しており、この値はLiFePO4粒子の(111)面に対応する。」
(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)のアの「ナノグラファイトプレートレット(NGP)上」の「LiFePO4ナノ粒子」が、「リチウムイオン二次電池のカソードとして使用され」るものであるとの記載から、上記(1)のイの「LiFePO4/NGP電極」の「LiFePO4/NGP」は、正極活物質層に含まれるものであるといえる。
イ 上記(1)のイの記載より、「LiFePO4/NGP」は、Fe3+とPO43-の前駆体を用いて、NGP上にFePO4の異質核形成を起こし、その後、リチウム源としてLi2CO3を用いて、固体状態でLiFePO4をNGP上に成長させるものである。
ウ 上記(1)のアの「電極の電気化学的安定性は、NGPの二次元導電性ネットワークによって改善された」との記載より、NGPは導電性である。
エ 上記ア~ウより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「Fe3+とPO43-の前駆体を用いて、ナノグラファイトプレートレット上にFePO4の異質核形成を起こし、その後、リチウム源としてLi2CO3を用いて、固体状態でLiFePO4をナノグラファイトプレートレット上に成長させることにより形成され、ナノグラファイトプレートレットは導電性である、LiFePO4/ナノグラファイトプレートレットを含む正極活物質層。」
(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
ア 「Graphene materials with superior electrical conductivities and high surface area would be advantageous for application in energy storage. And LiFePO4 has been a promising electrode material however its poor conductivity limits its practical application. To improve the electronic conductivity, we prepare LiFePO4/graphene composites in a co-precipitation method, in which graphene nanosheets are used as additives. The composites were characterized by X-ray diffraction (XRD) and atomic force microscopy (AFM), and their electrochemical properties were investigated by galvanostatic charge and discharge tests. The experimental results show that the capacity delivery and cycle performances of LiFePO4 could be improved considerably by adding graphene. Therefore, LiFePO4/graphene composites are a promising candidate for lithium secondary batteries.」(第10頁abstract全文)
(当審訳)「優れた導電率および高い表面積を有するグラフェン材料は、エネルギー貯蔵における用途に有利であろう。そして、LiFePO4は有望な電極材料であったが、その低い導電性はその実用的用途を制限する。電子伝導性を向上させるために、グラフェンナノシートを添加剤として使用する共沈法でLiFePO4/グラフェン複合材料を調製する。その複合材料をX線回折(XRD)と原子間力顕微鏡(AFM)により特性化し、定電流充電と放電試験を行うことにより、それらの電気化学的性質を調べた。実験結果により、LiFePO4の容量とサイクル性能はグラフェンを添加することによってかなり改善できることを示された。したがって、LiFePO4/グラフェン複合材料はリチウム二次電池の有望な候補である。」
イ 「The Olivine-type LiFePO4 has been recognized as a promising candidate for lithium secondary batteries cathode because of its low cost, environmental compatibility, cycling stability and high theoretical capacity of 170 mA h g-1 [5-7].」(第10頁左欄第10~13行)
(当審訳)「オリビン型LiFePO4は、その低コスト、環境適合性、サイクル安定性および170 mA h g-1という高い理論容量のため、リチウム二次電池のカソードとして有望な候補として認識されています[5-7]。」
ウ 「2.1. Preparation of materialsTypically, graphene was synthesized from natural graphite powder by a modified Hummers method [12]. Natural graphite powder was first oxidized by reacting them with concentrated nitric acid and sulfuric acid (1:2, v/v). The reaction unit was immersed in an ice bath, and potassium chlorate was added slowly. Then the ice bath was removed and replaced by a water bath, and the mixture was heated to 65℃. The reaction was maintained for 120 h in order to increase the oxidation degree of the graphite powder. Graphite oxide (GO) was obtained by thoroughly washing and filtering using de-ionized water until pH 7. The GO suspended in a mixture of ethanol and water was exfoliated through ultrasonication for 2 h. Then the exfoliated GO was reduced to graphene by hydrazine hydrate at 100℃ for 24 h. The final products were centrifuged, washed, and finally vacuum-dried.The LiFePO4/graphene composites were prepared using a coprecipitation method in de-ionized water at room temperature. Aqueous solution of (NH4)2Fe(SO4)26H2O and NH4H2PO4 was added to a Suspension of graphene. Then aqueous solution of LiOH was added to the mixture with blowing nitrogen gas into the solution. The obtained green color deposit was washed with the de-ionized water and separated by the high-speed centrifugation separator. The deposit was put into pellets, and then the pellets were heated to 120℃ for 5 h and finally sintered at 700℃ for 18 h in a tubular furnace under argon flow. Cooling to room temperature and grinding the resulting product, the LiFePO4/graphene composites were obtained. For comparison, we also synthesize the LiFePO4 follow the same procedure except that no graphene was added.」(第10頁右欄第4行~第11頁第6行)
(当審訳)「2.1.材料の準備
典型的には、グラフェンは、修正ハマー法によって天然黒鉛粉末から合成された[12]。まず、天然黒鉛粉末をそれらを濃硝酸および硫酸(1:2, v/v)と反応させることによって酸化した。反応ユニットを氷浴中に浸し、そして塩素酸カリウムをゆっくり加えた。その後、氷浴から水浴に置き換え、混合物を65℃に加熱した。黒鉛粉末の酸化度を高めるために、その反応を120時間維持した。pH7になるまで脱イオン水を用いてよく洗浄し、濾過することによって、酸化グラファイト(GO)を得た。エタノールと水の混合物中に懸濁したGOを2時間の超音波処理によって剥離した。その後、剥離したGOをヒドラジン水和物により100℃で24時間還元してグラフェンにした。最終生成物を遠心分離し、洗浄し、そして最後に真空乾燥した。
LiFePO4/グラフェン複合材料は、室温で脱イオン水中で共沈法を用いて調製した。(NH4)2Fe(SO4)26H2O 及び NH4H2PO4 の水溶液をグラフェンの懸濁液に添加した。次に、溶液に窒素ガスを吹き込みながらLiOH水溶液を混合物に加えた。得られた緑色沈殿物を脱イオン水で洗浄し、高速遠心分離機で分離した。堆積物をペレットに入れ、次いでペレットを120℃で5時間加熱し、最後にアルゴン流下で管状炉内で700℃で18時間焼結した。室温に冷却し、得られた生成物を粉砕して、LiFePO4/グラフェン複合材料を得た。比較のために、グラフェンを添加しなかったこと以外は同じ手順に従ってLiFePO4も合成した。」
エ 「The morphological features of LiFePO4, graphene and LiFePO4/graphene composites were characterized by AFM and the results are shown in Fig. 2. The LiFePO4 prepared from co-precipitation method has spherical shapes and their average particle-sizes are about 100 nm. Fig. 2b displays an atomic force microscopy (AFM) image of primitive graphene nanosheets on atomically flat mica surfaces. Analysis of a larger number of AFM images reveals graphene sheets with lateral dimensions of 200-2000 nm and heights in the range of 0.6-4 nm. Approximately 80% of the graphene sheets display a smooth surface and a height of 0.6-2 nm. As can be seen from Fig. 2c, the surface of graphene nanosheets is covered with LiFePO4 nanoparticles with the diameter less than 10 nm. By controlling the precipitation conditions, the deposit could be attached to the graphene sheets by using graphene as additives. Though there are also some unattached and aggregated LiFePO4 particles in the composites. Obviously, the particle-graphene sheets are homogeneous without large-diameter LiFePO4 particles. The particle-sizes are basically matched to the calculated result from the Scherrer’s equation. The data of BET surface area of LiFePO4/graphene composite and graphene sheet are 112.8 and 684.4 m2 g -1, respectively. The specific surface area of graphene is much lower than the theoretical value of 2630 m2 g -1 due to the restacking of the graphene sheets under the van der Waals forces. By comparison, the measured surface area of LiFePO4/graphene composites is also lower than that of graphene.」(第12頁左欄第9~34行)
(当審訳)「LiFePO4、グラフェンおよびLiFePO4/グラフェン複合材料の形態的特徴をAFMによって特性化し、結果を図2に示した。共沈法から調製したLiFePO4は球形であり、それらの平均粒径は約100nmである。図2bは、原子レベルで平坦な雲母表面上に存在する、基本となるグラフェンナノシートの原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。多数のAFM画像を分析すると、グラフェンシートは、横方向の寸法が200~2000nm、高さが0.6~4 nmであることが分かります。グラフェンシートの約80%が滑らかな表面であって、高さが0.6~2 nmであることを示しています。図2cから分かるように、グラフェンナノシートの表面は、10nm未満の直径を有するLiFePO4ナノ粒子で覆われている。沈殿条件を制御しつつ、グラフェンを添加剤として使用することによって、堆積物をグラフェンシートに付着させることができた。その複合体には、未結合の凝集したLiFePO4粒子もある。明らかに、粒子とグラフェンのシートは、大きな直径のLiFePO4粒子を含まずに均一である。粒径は基本的にシェラーの式からの計算結果と一致しています。LiFePO4/グラフェン複合体、及び、グラフェンシートのBET表面積のデータは、それぞれ112.8及び684.4m2 g-1である。グラフェンの比表面積は、ファンデルワールス力によりグラフェンシートが再積層するために、2630m2 g -1の理論値よりはるかに低い。また、LiFePO4/グラフェン複合体の測定表面積もグラフェンのそれよりも低い。」
オ 「」
(当審訳)「図2 LiFePO4、グラフェン、LiFePO4/グラフェン複合材料の形態、(a)LiFePO4:(b)グラフェン:(c)LiFePO4/グラフェン複合材料」
(4)甲2に記載された発明
ア 上記(3)のアの「LiFePO4は有望な電極材料であったが、その低い導電性はその実用的用途を制限する。電子伝導性を向上させるために、グラフェンナノシートを添加剤として使用する共沈法でLiFePO4/グラフェン複合材料を調製する」との記載から、「LiFePO4/グラフェン複合材料」は電極材料である。そして、上記(3)のイの「オリビン型LiFePO4は、」「リチウム二次電池のカソードとして有望な候補として認識されてい」るとの記載も考慮すると、「LiFePO4/グラフェン複合材料」は「リチウム二次電池のカソード」材料であって、技術常識に照らせば、「LiFePO4/グラフェン複合材料」は正極活物質層に含まれるものであるといえる。
イ 上記(3)のエの「図2cから分かるように、グラフェンナノシートの表面は、10nm未満の直径を有するLiFePO4ナノ粒子で覆われている」との記載、上記(3)のエの「その複合体には、未結合の凝集したLiFePO4粒子もある」との記載から、「LiFePO4/グラフェン複合材料」は、グラフェンナノシートの表面が、LiFePO4ナノ粒子で覆われており、そのLiFePO4ナノ粒子には、未結合の凝集したものもある。
ウ 上記(3)のアの「優れた導電率および高い表面積を有するグラフェン材料」との記載から、上記ウの「LiFePO4/グラフェン複合材料」の「グラフェンナノシート」は優れた導電率を有するといえる。
エ 上記ア~ウより、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「LiFePO4/グラフェン複合材料を含み、グラフェンナノシートの表面は、LiFePO4ナノ粒子で覆われており、そのLiFePO4ナノ粒子には、未結合の凝集したものもあり、グラフェンナノシートは優れた導電率を有する、正極活物質層。」
(5)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
ア 「In this work, mixed (electron and ion) conducting LiFePO4/graphene composites have been prepared through a facile hydrothermal route followed by heat treatment. It was found that the LiFePO4 particles adhered to the surface of graphene and/or embedded in the graphene nanosheets. As a result, an effective three-dimensional conducting network was formed by bridging graphene nanosheets, which can facilitate electron transport effectively and thus improve the kinetics and rate performance of LiFePO4.」(ABSTRUCT第1~4行)
(当審訳)「この研究では、混合(電子およびイオン)伝導性LiFePO4/グラフェン複合体を、容易な水熱法とそれに続く熱処理によって調製した。 LiFePO4粒子がグラフェンの表面に付着し、および/またはグラフェンナノシートに埋め込まれていることが分かった。 結果として、グラフェンナノシートを架橋することによって効果的な三次元伝導性ネットワークが形成され、それは電子輸送を効果的に促進し、かくしてLiFePO4の速度論と速度性能を改善することができる。」
イ 「 In this work, we report preparation of the LiFePO4/graphene mixed conducting network through a hydrothermal route followed by heat treatment. This composite showed an enhanced electrochemical performance as cathode materials in lithium-ion batteries when compared with pristine LiFePO4.」(第1685頁右欄第6~10行)
(当審訳)「本研究では、水熱法とそれに続く熱処理によるLiFePO4/グラフェン混合伝導ネットワークの作製について報告する。この複合材料は、元のLiFePO4と比較したとき、リチウムイオン電池におけるカソード材料として強化された電気化学的性能を示した。」
ウ 「2.1. Preparation of samplesGraphite oxide (GO)was prepared according to the method reported by Hummers [25] from graphite powder (Aldrich, powder, <20μm, synthetic). LiFePO4/graphene (8 wt.%) composites (denoted as LFPG-8%) were prepared by a facile hydrothermal process [24]. Typically, appropriate quantities of FeSO4・7H2O, H3PO4 and ascorbic acid were dissolved into 35 mL of deionized water. Then LiOH solution was added dropwise into the conical flask while stirring. The molar ratio of the Li:Fe: P was 3:1:1. After vigorous magnetic stirring for 5 min, GO (the weight ratio of GO to LiFePO4 was 8:92) was added into the mixed solution and kept stirring for several minutes. The mixed solution was transferred into a 50 mL Teflon-lined stainless steel autoclave, which was heated at 200℃ for 5 h. After the solution cooled down to room temperature, the precipitate powder was centrifuged and washed several times with deionized water and acetone. Then the obtained powder was dried at 60℃ for 4 h under vacuum oven, followed by sintering at 600℃ for 2 h under a H2/Ar (5:95, v/v) atmosphere. As a reference, LiFePO4 (without GO addition) was also prepared following the same procedure.」(第1685頁右欄第12行~第1686頁左欄第5行)
(当審訳)「2.1.サンプルの準備
グラファイト粉末(Aldrich、粉末、b20μm、合成)から、Hummers[25]によって報告された方法に従って、グラファイト酸化物(GO)を調製した。LiFePO4/グラフェン(8重量%)複合材料(LFPG-8%と表示)は、容易な水熱プロセスによって調製された[24]。典型的には、適量のFeSO4・7H2O, H3PO4およびアスコルビン酸を35mLの脱イオン水に溶解した。次に、LiOH溶液をコニカルフラスコに撹拌しながら滴下した。 Li:Fe:Pのモル比は3:1:1であった。5分間激しく磁気撹拌した後、GO(GO対LiFePO4の重量比は8:92であった)を混合溶液に添加し、数分間撹拌し続けた。混合溶液を50mLのテフロン内張りのステンレス鋼オートクレーブに移し、これを200℃で5時間加熱した。溶液を室温に冷却した後、沈殿物粉末を遠心分離し、脱イオン水およびアセトンで数回洗浄した。次いで、得られた粉末を真空オーブン下で60℃で4時間乾燥し、続いてH2/Ar (5:95, v/v)雰囲気下で600℃で2時間焼結した。参考として、LiFePO4(GO添加なし)も同じ手順に従って調製した。」
エ 「Some representative transmission electron micrographs of graphene, LiFePO4 and LFPG-8% composites are shown in Fig. 3. The typical morphology of agglomerated graphene layers was observed. From Fig. 3, it can be seen that the LiFePO4 particles are homogenously adhered to the surface of the graphene surface and/or embedded in the graphene nanosheets. Scheme 1 represents the structure of mixed conducting LFPG composites, in which the bridging graphene nanosheets can form an effective conducting network. At the same time, a porous structure between LiFePO4 and graphene nanosheets was formed by the random hybrid composite, which can facilitate the penetration of the electrolyte to the surface of active materials, resulting in the superior rate capability and higher reversible capacities in comparison with the LiFePO4.」(第1687頁左欄第25~37行)
(当審訳)「グラフェン、LiFePO4およびLFPG-8%複合材料のいくつかの代表的な透過型電子顕微鏡写真を図3に示す。凝集したグラフェン層の典型的な形態が観察された。図3から、LiFePO4粒子がグラフェン表面に均一に付着している、および/または、LiFePO4粒子がグラフェンナノシートに埋め込まれていることが分かる。スキーム1は、混合された導電性LFPG複合材料の構造を表し、該複合材料において、混合グラフェンナノシートが有効な導電性ネットワークを形成することができることを表している。同時に、LiFePO4とグラフェンナノシートとの多孔質構造をランダムハイブリッド複合材料によって形成した。それは活物質の表面への電解質の浸透を容易にすることができ、結果として、LiFePO4と比較して優れたレート性能と高い可逆容量をもたらした。」
オ 「」
(当審訳)「スキーム1 LFPG混合伝導ネットワークの構成の概要図」
カ 「」
(当審訳)「TEM画像(a)グラフェン、(b)LiFePO4、(c)LFPG-8%の複合材料」
(6)甲3に記載された発明
ア 上記(5)のイの「LiFePO4/グラフェン混合伝導ネットワーク」は、「元のLiFePO4と比較したとき、リチウムイオン電池におけるカソード材料として強化された電気化学的性能を示した」との記載から、「LiFePO4/グラフェン混合伝導ネットワーク」はカソード材料であり、技術常識に照らせば、「LiFePO4/グラフェン混合伝導ネットワーク」は正極活物質層に含まれるものである。
イ 上記(5)のエの記載より、「LiFePO4/グラフェン混合伝導ネットワーク」は、グラフェン層が凝集しており、LiFePO4粒子がグラフェン表面に均一に付着している、および/または、LiFePO4粒子がグラフェンナノシートに埋め込まれている。
ウ 上記(5)のアの「LiFePO4粒子がグラフェンの表面に付着し、および/またはグラフェンナノシートに埋め込まれていることが分かった。 結果として、グラフェンナノシートを架橋することによって効果的な三次元伝導性ネットワークが形成され、それは電子輸送を効果的に促進し、かくしてLiFePO4の速度論と速度性能を改善することができる」との記載より、「グラフェンナノシート」は「LiFePO4粒子」の導電助剤であるといえる。
エ 上記ア~ウより、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「LiFePO4/グラフェン混合伝導ネットワークを含み、グラフェン層が凝集しており、LiFePO4粒子がグラフェン表面に均一に付着している、および/または、LiFePO4粒子がグラフェンナノシートに埋め込まれており、グラフェンナノシートはLiFePO4粒子の導電助剤である、正極活物質層。」
(7)甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
ア 「An electronically conducting 3D network of reduced graphene oxide (RGO) was introduced into LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2 (LNMC) cathode material in a special nano/micro hierarchical structure. The rate test and cycling measurement showed that the hierarchical networks remarkably improve the high rate performance of LNMC electrode for lithium-ion batteries.」(第2934頁abstract第1~4行)
(当審訳)「還元グラフェン酸化物(RGO)の電子伝導3Dネットワークを、特別なナノ/マイクロ階層構造においてLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(LNMC)カソード材料に導入した。レート試験とサイクル測定により、階層ネットワークがリチウムイオン電池用LNMC電極の高速性能を著しく改善することを示された。」
イ 「The LNMC powders were synthesized by a sol-gel method using citric acid as the chelating agent.11,43,44 A stoichiometric amount of lithium acetate, manganese acetate, nickel acetate and cobalt acetate were chosen as starting materials to prepare the precursor. All salts were dissolved in distilled water and added drop-wise into citric acid solution with continuous stirring. After the dissolution of all salts, the temperature of solution was raised to 80℃. Continued stirring was applied until the clear viscous gel was formed. The gel was dried in an oven at 100℃ to obtain the precursor powder. After precalcining at 450℃ in air for 5 h, the powder was grounded and pelletized and then calcined at 900℃ for 12 h in air.In order to get well dispersed RGO, natural graphite was oxidized using a modified Hummers method38,45 followed with reducing in H2/Ar stream. At first, 2g graphite was poured into 50 mL of concentrated H2SO4 with 1g NaNO3, and the mixture was cooled down to 0℃. Then, 6 g KMnO4 were added slowly while maintaining the temperature below 5℃. The cooling bath was removed and the suspension was maintained quiescent by 90 min. After that, 100 mL of water was added and the temperature was increased to 90℃. The mixture was further diluted with 300 mL of water, treated with 50 mL of 5%H2O2, filtered and washed with hot water. After being dried in vacuum, the graphene oxide was reduced under H2/Ar flowing condition for 2 h. The production was mixed with N-methyl-pyrrolidinone (NMP) by vigorous ultrasonication for 8 h to obtain a well dispersed RGO/NMP suspension.To prepare the electrode with mixed conducting 3D networks, a mixture of LNMC, RGO/NMP suspension, carbon black (CB), and poly(vinyl difluoride) (PVDF) at a weight ratio of 80 : 5 : 5 : 10 was pasted on an Al foil. For comparison, a mixture of LNMC, CB, and PVDF at a weight ratio of 80 : 10 : 10 was also prepared.X-ray diffraction (XRD) measurements of the LNMC powder were carried out using a Philips PW3710 with filtered Cu-Ka radiation (Rigaku D/max-2500). A scanning electron microscope (SEM) (JEOL 6701F, operating at 10kV) was employed to investigate the morphology of the LNMC powders and the electrode films. 」(第2935頁左欄第31行~右欄第12行)
(当審訳)「LNMC粉末はキレート剤としてクエン酸を用いてゾル-ゲル法で合成された。11,43,44化学量論比の酢酸リチウム、酢酸マンガン、酢酸ニッケルおよび酢酸コバルトを前駆体を調製するための出発原料として選択した。全ての塩を蒸留水に溶解し、連続的に攪拌しながらクエン酸溶液に滴下した。全ての塩が溶解した後、溶液の温度を80℃に上げた。透明な粘性ゲルが形成されるまで攪拌を続けた。ゲルを100℃のオーブンで乾燥させて前駆体粉末を得た。空気中450℃で5時間予備焼成した後、粉末を粉砕しペレット化し、次いで空気中900℃で12時間焼成した。
よく分散したRGOを得るために、修正Hummers法38,45を用いて天然黒鉛を酸化し、続いてH2/Ar中で還元した。最初に、2gのグラファイトを、1gのNaNO3を含む50mLの濃H2SO4に注ぎ入れ、その混合物を0℃に冷却した。次いで、温度を5℃未満に維持しながら、6gのKMnO4をゆっくり加えた。冷却浴を取り外し、懸濁液を90分間静止させた。その後、100mLの水を加え、そして温度を90℃に上げた。その混合物を300mLの水でさらに希釈し、50mLの5%H2O2で処理し、濾過し、そして熱水で洗浄した。真空中で乾燥させた後、グラフェン酸化物をH2/Arフロー条件下で2時間還元した。その生成物を、8時間の激しい超音波処理によってN-メチル-ピロリジノン(NMP)と混合して、よく分散したRGO/NMP懸濁液を得た。
混合導電性3Dネットワークを有する電極を調製するために、LNMC、RGO/NMP懸濁液、カーボンブラック(CB)、およびポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)を80:5:5:10の重量比で混合した混合物をAlホイルに貼り付けた。比較のために、LNMC、CB、およびPVDFを80:10:10の重量比で混合した混合物も調製した。
LNMC粉末のX線回折(XRD)測定は、フィルター処理したCu-Kα線を有するPhilips PW3710を使用して実施した(Rigaku D/max-2500)。走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL 6701F、10kVで操作)を用いて、LNMC粉末および電極膜の形態を調べた。」
ウ 「A typical SEM image of the LNMC particles synthesized by the sol-gel process is shown in Fig. 2a. It can be clearly seen that the as-synthesized LNMC powders exhibit uniform size with smooth facets, which indicates their high crystallinity. In the RGO-free LNMC electrode, wide interspaces between LNMC particles and CB are found, and the CB itself cannot form interconnected network, which might lead to limited kinetics of the electrode・・・(略)・・・However, after introducing RGO into the electrode, the weak point is released as shown in the SEM images of a cross-sectional view of the RGO-added LNMC electrode (Fig. 2c,d). The LNMC particles are well mixed with RGO and CB (ca. 50 nm) without the wide interspaces. Due to the excellent electrical conductivity and the special two-dimensional (2D) structure ・・・(略)・・・, the RGO nanosheets form a 3D interconnected network over the LNMC particles and the CB particles as illustrated in Fig. 2b. The 3D conducting network, together with CB, is expected to provide sufficient electrons from the Cu foil current collector for the storage of Li in each LNMC particles and hence to improve the kinetics (Fig. 2c,d).」(第2935頁右欄第43行~第2936頁左欄第5行)
(当審訳)「ゾル-ゲル法で合成したLNMC粒子の典型的なSEM像を図2aに示します。合成されたままのLNMC粉末は平滑な面を有し、均一な大きさを示すことがはっきりと見て取れ、その平滑な面は結晶性が高いことを示している。RGOを含まないLNMC電極では、LNMC粒子とCBとの間に広い間隔が見いだされ、そしてCBそれ自体は相互接続ネットワークを形成することができず、そのネットワークは電極の動作を制限している可能性がある・・・(略)・・・しかしながら、RGOを添加したLNMC電極の断面図のSEM画像に示されるように、電極にRGOを導入すると、その弱点が解消される(図2c、d)。 LNMC粒子は、広い間隔を空けることなくRGOおよびCB(約50nm)とよく混合されている。優れた導電性と特殊な二次元(2D)構造・・・(略)・・・により、RGOナノシートは、図2bに示すようにLNMC粒子とCB粒子とを接続する3D相互接続ネットワークを形成します。3D導電ネットワークは、CBと共に、各LNMC粒子中にLiを溜めるのに十分な電子をCu箔集電体から供給することが期待され、したがって、速度を改善することが期待される(図2c、d)。」
エ 「」
(当審訳)「図2(a)LNMC粒子のSEM画像、(b)LNMC、RGO、CBからなる3Dネットワークの概要図、(c)RGOを添加したLNMC電極の断面のSEM画像、(d)(c)の選択された領域の拡大されたSEM画像」
(8)甲4に記載された発明
ア 上記(7)のアの「還元グラフェン酸化物(RGO)の電子伝導3Dネットワークを、特別なナノ/マイクロ階層構造においてLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(LNMC)カソード材料に導入した」との記載より、甲4には、還元グラフェン酸化物(RGO)の電子伝導3Dネットワークが導入されたLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(LNMC)正極活物質について記載されているといえ、「LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(LNMC)正極活物質」は正極活物質層に含まれるものである。
イ 上記(7)のウには、「RGOを添加したLNMC電極」は、「LNMC粒子」が、「広い間隔を空けることなくRGOおよびCB(約50nm)とよく混合されている」と記載されている。
ウ 上記ア、イより、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「還元グラフェン酸化物の電子伝導3Dネットワークが導入された、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2正極活物質層であって、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2粒子が、広い間隔を空けることなく還元グラフェン酸化物およびカーボンブラックとよく混合されている、正極活物質層。」
6 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
6-1 本件発明1について
(1)甲1発明を主引例とした場合
(1)-1 対比
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
イ 甲1発明の「LiFePO4」は、本件発明1の「正極活物質」に相当する。
ウ 甲1発明の「ナノグラファイトプレートレット」は、技術常識に照らせば、本件発明の「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造」に相当する構造を有するものである。
また、甲1発明の「ナノグラファイトプレートレット」は、「導電性である」から、本件発明1の「導電助剤となる」事項を有するものである。
そうすると、甲1発明の「ナノグラファイトプレートレット」は、本件発明1の「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料」と「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料」に相当する。
エ 上記ア~ウより、本件発明1と甲1発明とは、
「正極活物質と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料と、を有する、正極活物質層。」で一致し、次のa~cの点で相違する。
(相違点)
a 「正極活物質」について、本件発明1は、「正極活物質が凝集した第1の凝集部と、正極活物質が凝集した第2の凝集部と、」「を有」するのに対し、甲1発明は、凝集部を有するがが明らかでない点。
b 「第1のシート状の炭素材料」が、本件発明1は、「第1の凝集部を包む領域と、前記第2の凝集部を包む領域と、を有」するのに対し、甲1発明は、凝集部を包む領域を有するかが明らかでない点。
c 本件発明1は、「第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散している」のに対し、甲1発明は、「ナノグラファイトプレートレット」同士が、互いに接する面を有するように分散しているかが明らかでない点。
(1)-2 当審の判断
ア まず、上記aの相違点について検討する。
イ 甲1発明の「LiFePO4」は、「Fe3+とPO43-の前駆体を用いて、ナノグラファイトプレートレット上にFePO4の異質核形成を起こし、その後、リチウム源としてLi2CO3を用いて、固体状態でLiFePO4をナノグラファイトプレートレット上に成長させることにより形成され」るものであるから、ナノグラファイトプレートレット上に成長された「LiFePO4」は1つの粒子とみなすことができ、「凝集した」ものとはいえない。
また、甲1のFig.4(a)、(c)から、「LiFePO4」の粒子は各粒子が離散していることが看取できるものの、凝集していることは看取できない。
ウ さらに、甲1発明の「LiFePO4」は、上記イの成長方法で「ナノグラファイトプレートレット上に成長させる」ものであるから、「異質核」が局所的に凝集することによって、「LiFePO4」の粒子が凝集部を形成する動機付けや、「異質核」から成長した、それぞれの粒子をナノグラファイトプレートレットから分離し、凝集部を形成する動機付けも見当たらない。
エ したがって、上記aの相違点は実質的な相違点であるし、上記aの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
オ 次に、念のため、上記bの相違点について検討する。
カ 技術常識に照らせば、「ナノグラファイトプレートレット」は何らかの正極活物質を包み込むような力を加えない限り平面状のものであり、正極活物質を包むことにはならないところ、上記イの成長方法では、「ナノグラファイトプレートレット」に正極活物質を包み込むような力を加えていないので、正極活物質を包む領域が存在しないことは明らかである。
また、上記イで検討したとおり、「LiFePO4」の粒子はそもそも凝集したものとはいえないから、「ナノグラファイトプレートレット」において、凝集部を包む領域も存在しない。
キ さらに、上記カで検討したとおり、「ナノグラファイトプレートレット」は何らかの正極活物質を包み込むような力を加えない限り平面状のものであり、正極活物質を包むことにはならないところ、上記イの成長方法において、「ナノグラファイトプレートレット」に正極活物質を包み込むような力を加える動機付けが見当たらない。また、仮に、「ナノグラファイトプレートレット」に何らかの力を加えたとしても、正極活物質を包むこととなるか否かは不明である。
ク したがって、上記bの相違点は実質的な相違点であるし、上記bの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
ケ よって、上記cの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第2項の規定に違反するものともいえない。
(2)甲2発明を主引例とした場合
(2)-1 対比
ア 本件発明1と甲2発明とを対比する。
イ 甲2発明の「LiFePO4ナノ粒子」は、本件発明1の「正極活物質」に相当する。
ウ 甲2発明の「未結合の凝集したLiFePO4ナノ粒子」は、本件発明1の「正極活物質が凝集した第1の凝集部」及び「正極活物質が凝集した第2の凝集部」に相当する。
エ 甲2発明の「グラフェンナノシート」は、技術常識に照らせば、本件発明1の「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造」に相当する構造を有するものである。
また、甲1発明の「グラフェンナノシートは優れた導電率を有する」から、本件発明1の「導電助剤となる」事項を有するものである。
そうすると、甲2発明の「グラフェンナノシート」は、本件発明1の「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料」及び「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料」に相当する。
オ 上記ア~エより、本件発明1と甲2発明とは、
「正極活物質が凝集した第1の凝集部と、正極活物質が凝集した第2の凝集部と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料と、を有する、正極活物質層。」で一致し、次のd及びe点で相違する。
(相違点)
d 「第1のシート状の炭素材料」が、本件発明1は、「第1の凝集部を包む領域と、前記第2の凝集部を包む領域と、を有」するのに対し、甲2発明は、凝集部を包む領域を有するかが明らかでない点。
e 本件発明1は、「第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散している」のに対し、甲2発明は、「グラフェンナノシート」同士が、互いに接する面を有するように分散しているかが明らかでない点。
(2)-2 当審の判断
ア まず、上記dの相違点について、検討する。
イ 甲2のFig.2cには、甲2発明の「LiFePO4/グラフェン複合材料」のAFM画像が示されているが、当該図から、グラフェンがLiFePO4粒子を包んでいることは看取できない。
ウ また、本件明細書には、本件発明の製造方法として、「炭素に対する酸素の重量比が0.405以上である酸化グラフェンを分散媒に分散させ、酸化グラフェンを分散させた分散媒に、正極活物質を添加して混練することで混合物を作製し」(【0036】)たと記載されているのに対し、甲2には、甲2発明の製造方法として、「(SO4)26H2O 及び NH4H2PO4 の水溶液をグラフェンの懸濁液に添加した。次に、溶液に窒素ガスを吹き込みながらLiOH水溶液を混合物に加えた。得られた緑色沈殿物を脱イオン水で洗浄し、高速遠心分離機で分離した。堆積物をペレットに入れ、次いでペレットを120℃で5時間加熱し、最後にアルゴン流下で管状炉内で700℃で18時間焼結した。室温に冷却し、得られた生成物を粉砕して、LiFePO4/グラフェン複合材料を得た」(上記5の(3)のウ参照。)と記載されている。
エ すなわち、本件発明1は、「酸化グラフェンを分散させた分散媒に、正極活物質を添加して混練」しており、該混練により、酸化グラフェンが正極活物質を包みやすくなると考えられるのに対し、甲2発明は、グラフェンの懸濁液と活物質の原料である(SO4)26H2O、NH4H2PO4 、及び、LiOHを混合、加熱、焼結、粉砕して、LiFePO4/グラフェン複合材料を得ており、本件発明1は、「酸化グラフェンを分散させた分散媒に、」「正極活物質を添加して混練」することにより、「第1の凝集部を包む領域」や「第2の凝集部を包む領域」が生じやすいと考えられるのに対し、グラフェンの懸濁液と活物質の原料を混合、加熱、焼結、粉砕するだけであって、混練を行うものではないから、本件発明1と同程度に、「第1の凝集部を包む領域」や「第2の凝集部を包む領域」が生じやすいとは言い難い。
オ また、甲2発明において、グラフェンがLiFePO4粒子を包む領域を形成する動機付けも見当たらない。
カ したがって、上記dの相違点は実質的な相違点であるし、上記dの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
キ よって、上記eの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明から、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第2項の規定に違反するものともいえない。
(3)甲3発明を主引例とした場合
(3)-1 対比
ア 本件発明1と甲3発明とを対比する。
イ 甲3発明の「LiFePO4粒子」は、本件発明1の「正極活物質」に相当する。
ウ 甲3発明の「グラフェンナノシート」は、技術常識に照らせば、本件発明1の「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造」に相当する構造を有するものである。
そうすると、甲3発明の「LiFePO4粒子の導電助剤である」「グラフェンナノシート」は、本件発明1の「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料」及び「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料」に相当する。
エ 上記ア~ウより、本件発明1と甲3発明とは、
「正極活物質と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料と、を有する、正極活物質層。」で一致し、次のf~h点で相違する。
(相違点)
f 「正極活物質」について、本件発明1は、「正極活物質が凝集した第1の凝集部と、正極活物質が凝集した第2の凝集部と、」「を有」するのに対し、甲3発明は、凝集部を有するがが明らかでない点。
g 「第1のシート状の炭素材料」が、本件発明1は、「第1の凝集部を包む領域と、前記第2の凝集部を包む領域と、を有」するのに対し、甲3発明は、「LiFePO4粒子がグラフェンナノシートに埋め込まれて」いるものの、「LiFePO4粒子」を包んでいるかが明らかでない点。
h 本件発明1は、「第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散している」のに対し、甲3発明は、「グラフェンナノシート」同士が、互いに接する面を有するように分散しているかが明らかでない点。
(3)-2 当審の判断
ア まず、上記fの相違点について検討する。
イ 甲3発明は、「LiFePO4粒子がグラフェン表面に均一に付着している」ものであるから、本件発明1の「正極活物質が凝集した第1の凝集部」や「正極活物質が凝集した第2の凝集部」を有するものとはいえない。
ウ また、甲3のFig.3(c)から、「正極活物質が凝集した第1の凝集部」や「正極活物質が凝集した第2の凝集部」を看取することができない。
エ さらに、甲3発明の「グラフェン表面に均一に付着している」「LiFePO4粒子」を均一な付着ではなく、凝集させる動機付けも見当たらない。
オ したがって、上記fの相違点は実質的な相違点であるし、上記fの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
カ 次に、事案に鑑み、上記hの相違点について検討する。
キ 甲3発明は、「グラフェン層が凝集して」いるものの、本件発明1のように「第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散している」か否かは不明である。
ク また、甲3のFig.3(c)から、「グラフェンナノシート」同士が互いに接する面を有することを看取することができない。
ケ さらに、甲3発明の「グラフェンナノシート」同士を互いに接する面が生じるように形成する動機付けも見当たらない。
コ したがって、上記hの相違点は実質的な相違点であるし、上記hの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
サ よって、上記gの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明から、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものとはいえない。
(4)甲4発明を主引例とした場合
(4)-1 対比
ア 本件発明1と甲4発明とを対比する。
イ 甲4発明の「LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2粒子」は、本件発明1の「正極活物質」に相当する。
ウ 甲4発明の「還元グラフェン酸化物」は、技術常識に照らせば、本件発明1の「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造」に相当する構造を有するものである。
また、甲4発明の「還元グラフェン酸化物」は、「電子伝導3Dネットワーク」であるから、本件発明1の「導電助剤」であるといえる。
そうすると、甲4発明の「電子伝導3Dネットワーク」である「還元グラフェン酸化物」は、本件発明1の「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料」及び「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料」に相当する。
エ 上記ア~ウより、本件発明1と甲4発明とは、
「正極活物質と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料と、を有する、正極活物質層。」で一致し、次のi~k点で相違する。
(相違点)
i 「正極活物質」について、本件発明1は、「正極活物質が凝集した第1の凝集部と、正極活物質が凝集した第2の凝集部と、」「を有」するのに対し、甲4発明は、凝集部を有するがが明らかでない点。
j 「第1のシート状の炭素材料」が、本件発明1は、「第1の凝集部を包む領域と、前記第2の凝集部を包む領域と、を有」するのに対し、甲4発明は、凝集部を包む領域を有するかが明らかでない点。
k 本件発明1は、「第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散している」のに対し、甲4発明は、「還元グラフェン酸化物」同士が、互いに接する面を有するように分散しているかが明らかでない点。
(4)-2 当審の判断
ア まず、事案に鑑み、上記jの相違点について検討する。
イ 甲4のFig.2には、甲2発明の「還元グラフェン酸化物の電子伝導3Dネットワークが導入された、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2電極」のSEM画像が示されているが、当該図から、「LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2」が凝集していることは看取できない。
ウ また、本件明細書には、本件発明1の製造方法として、「炭素に対する酸素の重量比が0.405以上である酸化グラフェンを分散媒に分散させ、酸化グラフェンを分散させた分散媒に、正極活物質を添加して混練することで混合物を作製し」(【0036】)たと記載されているのに対し、甲4には、甲4発明の製造方法として、「混合導電性3Dネットワークを有する電極を調製するために、LNMC、RGO/NMP懸濁液、カーボンブラック(CB)、およびポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)を80:5:5:10の重量比で混合した混合物をAlホイルに貼り付けた」(上記5の(7)のイ参照。)と記載されている。
エ すなわち、本件発明1は、「酸化グラフェンを分散させた分散媒に、正極活物質を添加して混練」しており、該混練により、酸化グラフェンが正極活物質を包みやすくなると考えられるのに対し、甲4発明は、LNMC、RGO/NMP懸濁液、カーボンブラック(CB)、およびポリ(二フッ化ビニル)(PVDF)を混合するだけであって、LNMCとRGOとの混練まで行うものではないから、本件発明1と同程度に、「第1の凝集部を包む領域」や「第2の凝集部を包む領域」が生じやすいとは言い難い。
オ また、甲4発明において、「第1のシート状の炭素材料は、前記第1の凝集部を包む領域と、前記第2の凝集部を包む領域と、を有」するとの発明特定事項を得る動機付けも見当たらない。
カ したがって、上記jの相違点は実質的な相違点であるし、上記jの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
キ 次に、事案に鑑み、上記kの相違点について検討する。
ク 甲4のFig.2には、甲2発明の「還元グラフェン酸化物の電子伝導3Dネットワークが導入された、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2電極」のSEM画像が示されているが、当該図から、「第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散している」事項を看取することができない。
ケ また、甲4発明の「還元グラフェン酸化物」同士を互いに接する面が生じるように形成する動機付けも見当たらない。
コ したがって、上記kの相違点は実質的な相違点であるし、上記kの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
サ よって、上記iの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明から、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものとはいえない。
6-2 本件発明2について
(1)甲1発明を主引例とした場合
ア 上記6-1の(1)の(1)-1と同様に、本件発明2と甲1発明とを対比すると、本件発明2と甲1発明は、
「第1の粒子と、第2の粒子と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料と、を有する正極活物質層であって、前記第1の粒子は、正極活物質であり、前記第2の粒子は、正極活物質である、正極活物質層。」で一致し、次のl~nの点で相違する。
(相違点)
l 「第1の粒子」及び「第2の粒子」が、本件発明2は、二次粒子であるのに対し、甲1発明は、二次粒子であるかが明らかでない点。
m 「第1のシート状の炭素材料」が、本件発明2は、「第1の二次粒子を包む領域と、前記第2の二次粒子を包む領域と、を有」するのに対し、甲1発明は、凝集部を包む領域を有するかが明らかでない点。
n 本件発明2は、「第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散している」のに対し、甲1発明は、「ナノグラファイトプレートレット」同士が、互いに接する面を有するように分散しているかが明らかでない点。
イ まず、上記lの相違点について検討する。
ウ 甲1発明の「LiFePO4」は、「Fe3+とPO43-の前駆体を用いて、ナノグラファイトプレートレット上にFePO4の異質核形成を起こし、その後、リチウム源としてLi2CO3を用いて、固体状態でLiFePO4をナノグラファイトプレートレット上に成長させることにより形成され」るものであるから、ナノグラファイトプレートレット上に成長された「LiFePO4」はそれぞれが離散して存在する1つの粒子とみなすことができ、「二次粒子」とはいえない。
また、甲1のFig.4(a)、(c)から、「LiFePO4」の粒子は各粒子が離散していることが看取できるものの、凝集していることは看取できない。
ウ さらに、甲1発明の「LiFePO4」は、上記ウの成長方法で「ナノグラファイトプレートレット上に成長させる」ものであるから、「異質核」が局所的に凝集することによって、「LiFePO4」の粒子が凝集部を形成する動機付けや、「異質核」から成長した、それぞれの粒子をナノグラファイトプレートレットから分離し、凝集部を形成する動機付けも見当たらない。
エ したがって、上記lの相違点は実質的な相違点であるし、上記lの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
オ また、上記mの相違点は、上記bの相違点と同様の相違点であり、上記6-1の(1)の(1)-2で検討した理由と同様の理由で、上記mの相違点は実質的な相違点であるし、上記mの相違点に係る本件発明2の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
カ よって、上記nの相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明ではないし、甲1発明から、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第2項の規定に違反するものともいえない。
(2)甲2発明を主引例とした場合
ア 上記6-1の(2)の(2)-1と同様に、本件発明2と甲2発明とを対比すると、本件発明2と甲2発明は、
「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料と、を有する正極活物質層であって、正極活物質を含む、正極活物質層。」で一致し、次のo~q点で相違する。
(相違点)
o 「正極活物質」が、本件発明2は、「第1の二次粒子」及び「第2の二次粒子」であるのに対し、甲2発明は、「未結合の凝集したものもあ」る点。
p 「第1のシート状の炭素材料」が、本件発明2は、「第1の二次粒子を包む領域と、前記第2の二次粒子を包む領域と、を有」するのに対し、甲2発明は、二次粒子を包む領域を有するかが明らかでない点。
q 本件発明2は、「第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散している」のに対し、甲2発明は、「グラフェンナノシート」同士が、互いに接する面を有するように分散しているかが明らかでない点。
イ 上記pの相違点は、実質的に、上記dの相違点と同様の相違点であるから、上記6-1の(2)の(2)-2で検討した理由と同様の理由により、上記pの相違点は実質的な相違点であるし、上記pの相違点に係る本件発明2の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ よって、上記o、qの相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明ではないし、甲2発明から、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3)甲3発明を主引例とした場合
ア 上記6-1の(3)の(3)-1と同様に、本件発明2と甲3発明とを対比すると、本件発明2と甲3発明は、
「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料と、を有する正極活物質層であって、正極活物質を含む、正極活物質層。」で一致し、次のr~t点で相違する。
(相違点)
r 「正極活物質」が、本件発明2は、「第1の二次粒子」及び「第2の二次粒子」であるのに対し、甲3発明は、「グラフェン表面に均一に付着して」おり、「二次粒子」であるかが明らかでない点。
s 「第1のシート状の炭素材料」が、本件発明2は、「第1の二次粒子を包む領域と、前記第2の二次粒子を包む領域と、を有」するのに対し、甲3発明は、「LiFePO4粒子がグラフェンナノシートに埋め込まれて」いるものの、「LiFePO4粒子」を包んでいるかが明らかでない点。
t 本件発明2は、「第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散している」のに対し、甲3発明は、「グラフェンナノシート」同士が、互いに接する面を有するように分散しているかが明らかでない点。
イ 上記r、tの相違点は、上記f、hの相違点と同様の相違点であるから、上記6-1の(2)の(2)-2で検討した理由と同様の理由により、上記r、tの相違点は実質的な相違点であるし、上記r、tの相違点に係る本件発明2の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ よって、上記sの相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明から、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものとはいえない。
(4)甲4発明を主引例とした場合
ア 上記6-1の(4)の(4)-1と同様に、本件発明2と甲4発明とを対比すると、本件発明2と甲4発明は、
「六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第1のシート状の炭素材料と、六角形の炭素骨格を平面状に延ばした構造を有し、導電助剤となる第2のシート状の炭素材料と、を有する正極活物質層であって、正極活物質を含む、正極活物質層。」で一致し、次のu~wの点で相違する。
(相違点)
u 「正極活物質」が、本件発明2は、「第1の二次粒子」及び「第2の二次粒子」であるのに対し、甲4発明は、二次粒子であるかが明らかでない点。
v 「第1のシート状の炭素材料」が、本件発明2は、「第1の二次粒子を包む領域と、前記第2の二次粒子を包む領域と、を有」するのに対し、甲4発明は、二次粒子を包む領域を有するかが明らかでない点。
w 本件発明2は、「第1のシート状の炭素材料と、前記第2のシート状の炭素材料とは、互いに接する面を有するように分散している」のに対し、甲4発明は、「還元グラフェン酸化物」同士が、互いに接する面を有するように分散しているかが明らかでない点。
イ 上記v、wの相違点は、上記j、kの相違点と同様の相違点であるから、上記6-1の(2)の(2)-2で検討した理由と同様の理由により、上記v、wの相違点は実質的な相違点であるし、上記v、wの相違点に係る本件発明2の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ よって、上記uの相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲4発明から、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものとはいえない。
7 特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号について
(1)本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「少量の導電助剤で電子伝導性の高い活物質層を形成するための導電助剤の原料である酸化グラフェンを提供すること」(【0010】)であると認められる。
(2)そして、本件明細書には、「図3(B)に示す正極活物質層202の上面図のように、複数の粒状の正極活物質203は、複数のグラフェン204によって被覆されている。一枚のシート状のグラフェン204は、複数の粒状の正極活物質203と接続する。特に、グラフェン204がシート状であるため、粒状の正極活物質203の表面の一部を包むように面接触することができる。正極活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフェン204は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、導電助剤の量を増加させることなく、粒状の正極活物質203とグラフェン204との電子伝導性を向上させるができる」(【0074】)と記載されている。
(3)すなわち、上記(2)の記載によれば、「グラフェン204が」「粒状の正極活物質203の表面の一部を包むように面接触することができ」ることにより、「導電助剤の量を増加させることなく、粒状の正極活物質203とグラフェン204との電子伝導性を向上させるができる」とのことである。
(4)そうすると、上記(3)によれば、本件発明1の「第1のシート状の炭素材料は、前記第1の凝集部を包む領域と、前記第2の凝集部を包む領域と、を有」する事項、及び、本件発明2の「第1のシート状の炭素材料は、前記第1の二次粒子を包む領域と、前記第2の二次粒子を包む領域と、を有」する事項は、いずれも「導電助剤の量を増加させることなく、粒状の正極活物質203とグラフェン204との電子伝導性を向上させるができる」こととなるから、本件発明1及び2は、いずれも上記(1)の課題を解決しうるものである。
(5)したがって、上記(4)のとおり、本件発明1は「第1のシート状の炭素材料は、前記第1の凝集部を包む領域と、前記第2の凝集部を包む領域と、を有」する事項が特定され、本件発明2は、「第1のシート状の炭素材料は、前記第1の二次粒子を包む領域と、前記第2の二次粒子を包む領域と、を有」する事項が特定されているから、これらの発明は、いずれも上記(1)の課題を解決し得ない態様を含むとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
(6)また、当業者が、本件発明1及び2について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、上記(1)の課題を解決し得、実施をすることができるものである。
(7)よって、本件特許は、その明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、また、その特許請求の範囲の記載が、同条第6項第1号の規定を満たすものである。
8 むすび
以上のとおり、本件の請求項1、2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すべき理由を発見しないし、他に本件の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700349