特許異議申立
2019-700347
偏光性積層体および眼鏡
- 審判番号
- 2019-700347
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-503619
- 登録番号
- 特許第6414362号(P6414362)
- 請求日
- 2019年04月25日
- 審決日
- 2020年04月24日
- 公報発行日
- 2020年09月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】住友ベークライト株式会社
- 【権利者代理人】増田 達哉
- 【権利者代理人】朝比 一夫
- 【異議申立人】特許業務法人 創成国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 樋口 信宏
- 審判官 高松 大
- 分類
- P1651.121-ZDA(G02B) / P1651.536-ZDA(G02B) / P1651.537-ZDA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第36条、特許法第113条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6414362号発明「偏光性積層体および眼鏡」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6414362号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-7〕,〔8-10〕,11について訂正することを認める。
特許第6414362号の請求項1,2,4ないし7,11に係る特許を取り消す。
特許第6414362号の請求項8ないし10に係る特許を維持する。
特許第6414362号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続等の経緯
特許第6414362号の請求項1~請求項10に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は,2017年(平成29年)9月26日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年9月29日(3件),平成29年6月19日)を国際出願日とし,平成30年10月12日にその特許権の設定登録がされたものである。
本件特許について,平成30年10月31日に特許掲載公報が発行されたところ,平成31年4月25日に,特許異議申立人 特許業務法人創成国際特許事務所(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の手続等の経緯は,以下のとおりである。
令和元年 7月17日付け:取消理由通知書
令和元年 9月19日付け:訂正請求書
令和元年 9月19日付け:意見書(特許権者)
令和元年10月29日付け:意見書(特許異議申立人)
令和元年12月 5日付け:取消理由通知書
令和2年 2月 7日付け:訂正請求書
令和2年 2月 7日付け:意見書(特許権者)
令和2年 3月18日付け:意見書(特許異議申立人)
なお,令和元年9月19日付け訂正請求書による訂正の請求は,特許法120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
令和2年2月7日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は,特許第6414362号の特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1~請求項11について訂正することを求める,というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は,以下のとおりである。なお,下線は訂正箇所を示す。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,「前記第1の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを含む第1の樹脂材料で構成された第1の層」と記載されているのを,「前記第1の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第1の樹脂材料で構成された第1の層」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に,「前記第2の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを含む第2の樹脂材料で構成された第2の層」と記載されているのを,「前記第2の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第2の樹脂材料で構成された第2の層」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に,「80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバ-コル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バ-コル硬さが,前記浸漬前の前記バ-コル硬さに対して70%以上」と記載されているのを,「80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバーコル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バーコル硬さが,前記浸漬前の前記バーコル硬さに対して70%以上」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に,「100%以下である」と記載されているのを,「100%以下であり,
前記第1の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドおよび前記第2の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドは,それぞれ,下記化学式で示されるものであり,
(ただし,前記化学式中,R3,R4は,それぞれ独立に,炭素数が4以下の炭化水素基,oは,2以上14以下の整数,pは,0以上6以下の整数,nは,2以上の整数である。)」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に,「ことを特徴とする偏光性積層体。」と記載されているのを,「
前記第1の層および前記第2の層は,それぞれ,前記第1の面および前記第2の面に二液型のウレタン系接着剤により接合されていることを特徴とする偏光性積層体。」に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に,「請求項1ないし3のいずれか1項」と記載されているのを,「請求項1または2」に訂正する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に,「請求項1ないし4」と記載されているのを,「請求項1,2および4」に訂正する。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6に,「請求項1ないし5」と記載されているのを,「請求項1,2および4~5」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項7に,「請求項1ないし6」と記載されているのを,「請求項1,2および4~6」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項8に,「前記第1の樹脂材料と前記第2の樹脂材料とは,ガラス転移温度が異なる請求項1ないし7のいずれか1項に記載の偏光性積層体。」と記載されているのを,「 第1の面と,前記第1の面とは反対の面である第2の面とを有する偏光膜と,
前記第1の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第1の樹脂材料で構成された第1の層と,
前記第2の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第2の樹脂材料で構成された第2の層とを備える偏光性積層体であって,
前記第1の層のリタデーションが2600以上,8000以下であり,
前記第2の層のリタデーションが0以上,500以下であり,
JIS K 7060:1995に準拠して,80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバーコル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バーコル硬さが,前記浸漬前の前記バーコル硬さに対して70%以上,100%以下であり,
前記第1の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドまたは前記第2の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドは,下記化学式で示されるものであり,
(ただし,前記化学式中,R3,R4は,それぞれ独立に,炭素数が4以下の炭化水素基,oは,2以上14以下の整数,pは,0以上6以下の整数,nは,2以上の整数である。)
前記第1の樹脂材料のガラス転移温度は,前記第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも低いことを特徴とする偏光性積層体。」に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項10に,「請求項1ないし9のいずれか1項」と記載されているのを,「請求項8または9」に訂正する。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲に請求項11を新たに設けて,「 第1の面と,前記第1の面とは反対の面である第2の面とを有する偏光膜と,
前記第1の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第1の樹脂材料で構成された第1の層と,
前記第2の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第2の樹脂材料で構成された第2の層とを備える偏光性積層体であって,
前記第1の層のリタデーションが2600以上,8000以下であり,
前記第2の層のリタデーションが0以上,500以下であり,
JIS K 7060:1995に準拠して,80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバーコル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バーコル硬さが,前記浸漬前の前記バーコル硬さに対して70%以上,100%以下であり,
前記第1の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドまたは前記第2の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドは,下記化学式で示されるものであり,
(ただし,前記化学式中,R3,R4は,それぞれ独立に,炭素数が4以下の炭化水素基,oは,2以上14以下の整数,pは,0以上6以下の整数,nは,2以上の整数である。)
前記第1の樹脂材料および前記第2の樹脂材料のうちの少なくとも一方に含まれる前記ポリアミドのガラス転移温度が140℃以上,190℃以下であり,
前記第1の樹脂材料のガラス転移温度は,前記第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも高いことを特徴とする偏光性積層体。」とする。
3 訂正の適否
本件訂正請求は,訂正前の一群の請求項である請求項1~請求項10に対してされたものである。
ただし,本件訂正請求は,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)を目的とする訂正を含むものである。また,特許権者からは,別の訂正単位とする求めがされている。
そこで,以下,本件訂正請求による訂正後の一群の請求項である,請求項〔1-7〕,〔8-10〕,11ごとに,訂正の適否を判断する。
(1) 訂正後の請求項1~請求項7について
ア 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は,請求項1に記載された「第1の樹脂材料」を,「脂環式ポリアミドを含む」ものから「脂環式ポリアミドを60質量%以上含む」ものに限定する訂正である。また,この点は,請求項1の記載を引用して記載された,請求項2及び請求項4~請求項7についてみても,同じである。
そうしてみると,訂正事項1による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また,本件特許の願書に添付した明細書の[0081]には,「第1の層32中におけるポリアミドの含有率は,60質量%以上であるのが好ましく,70質量%以上であるのがより好ましく,80質量%以上であるのがさらに好ましい。」と記載されている。
そうしてみると,訂正事項1による訂正は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるから,訂正事項1による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに,訂正事項1による訂正によって,訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから,訂正事項1による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2による訂正についての判断は,訂正事項1による訂正についての判断と同様である。
そうしてみると,訂正事項2による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。また,訂正事項2による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。さらに,訂正事項2による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は,請求項1に記載された「バ-コル」という記載を,「バーコル」に誤記訂正するものである。また,この点は,請求項1の記載を引用して記載された,請求項2及び請求項4~請求項7についてみても,同じである。
そうしてみると,訂正事項3による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる事項(誤記又は誤訳の訂正)を目的とする訂正に該当する。また,訂正事項3による訂正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面とみなされたもの(日本語特許出願に係る国際出願日における明細書,請求の範囲又は図面)に記載した事項の範囲内においてしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは,明らかである。
エ 訂正事項4について
訂正事項4による訂正は,請求項1に記載された,「第1の樹脂材料」に含まれる「脂環式ポリアミド」,及び「第2の樹脂材料」に含まれる「脂環式ポリアミド」を,いずれも,特定の化学式(前記2(4)参照)のものに限定するものである。また,この点は,請求項1の記載を引用して記載された,請求項2及び請求項4~請求項7についてみても,同じである。
したがって,訂正事項4による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また,本件特許の願書に添付した明細書の[0045]及び[0046]には,それぞれ,「第1の層32は,ポリアミドを含む第1の樹脂材料で構成されている。」及び「偏光性積層体3は,脂環式ポリアミドを含む第1の樹脂材料で構成された第1の層32を含むことにより,眼鏡レンズに必要な耐衝撃性を担保できるという効果が得られる。」と記載されている。
加えて,本件特許の願書に添付した明細書の[0068]及び[0069]には,次のとおり記載されている。
「[0068] 脂環式ポリアミドとしては,例えば,ポリアミドを構成するモノマーとしてのジカルボン酸,ジアミンのうちの少なくとも一方が脂環式の化学構造を有する化合物等が挙げられる。
脂環式ポリアミドは,例えば,下記式(8)で示される。
[0069][化8]
(ただし,式(8)中,R3,R4は,それぞれ独立に,水素原子または炭素数が4以下の炭化水素基,oは,2以上14以下の整数,pは,0以上6以下の整数,nは,2以上の整数である。)」
さらに,本件特許の願書に添付した明細書の[0089]には,「第2の層33に用いられるポリアミドとしては,第1の層32で挙げたポリアミドと同様のポリアミドが挙げられる。」と記載されている。
以上勘案すると,訂正事項4による訂正は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるから,訂正事項4による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに,訂正事項4による訂正によって,訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから,訂正事項4による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
オ 訂正事項5について
訂正事項5による訂正は,請求項1に記載された「偏光性積層体」の「第1の層」と「第1の面」,及び「前記第2の層」と「第2の面」を,いずれも,「二液型のウレタン系接着剤により接合されている」ものに限定する訂正である。また,この点は,請求項1の記載を引用して記載された,請求項2及び請求項4~請求項7についてみても,同じである。
そうしてみると,訂正事項5による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また,本件特許の願書に添付した明細書の[0097],[0100],[0115]及び[0116]には,それぞれ,「偏光膜31と第1の層32との間には,これらを接合(接着)する接着層(第1の接着層)34が設けられている。」,「接着層34は,次に示す方法で形成されることが好ましい。まず,2液型のウレタン系接着剤を第1の層32に塗布し,塗布層を得る。次に,低湿度の環境下で硬化反応を進行させる第1の処理と,処理温度を第1の処理よりも高温とする第2の処理とを塗布層に施すことにより接着層34を形成する。」,「偏光膜31と第2の層33との間には,これらを接合(接着)する接着層(第2の接着層)35が設けられている。」及び「接着層(第2の接着層)35は,前述した接着層(第1の接着層)34と同様の条件を満足するのが好ましい。」と記載されている。
そうしてみると,訂正事項5による訂正は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるから,訂正事項5による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに,訂正事項5による訂正によって,訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから,訂正事項5による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。
カ 訂正事項6について
訂正事項6による訂正は,請求項3を削除する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。また,訂正事項6による訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは,明らかである。
キ 訂正事項7について
訂正事項7による訂正は,訂正事項6による訂正により請求項3が削除されたことに伴い,訂正後の請求項4が,削除された請求項3を引用する記載となることを回避する訂正である。また,この点は,請求項4の記載を引用して記載された,請求項5~請求項7についてみても,同じである。
そうしてみると,訂正事項7による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。
また,訂正事項7による訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは,明らかである。
ク 訂正事項8~訂正事項10について
訂正事項8~訂正事項10による訂正についての判断は,訂正事項7による訂正についての判断と同様である。
そうしてみると,訂正事項8~訂正事項10による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。また,訂正事項8~訂正事項10による訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。さらに,訂正事項8~訂正事項10による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
ケ 小括
訂正後の請求項1~請求項7についてした訂正(訂正事項1~訂正事項10による訂正)は,特許法120条の5第2項ただし書,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
(2) 訂正後の請求項8~請求項10について
ア 訂正事項11について
訂正事項11による訂正は,以下の訂正に分けて考えることができる。
[A] 請求項1~請求項7のいずれか一項の記載を引用する請求項8のうち,請求項1の記載を引用する請求項8の記載を,請求項1の記載を引用しないものとする。
[B] 上記[A]による訂正後の請求項8に記載された「第1の樹脂材料」を,「脂環式ポリアミドを含む」ものから「脂環式ポリアミドを60質量%以上含む」ものに限定する。
[C] 上記[A]による訂正後の請求項8に記載された「第2の樹脂材料」を,「脂環式ポリアミドを含む」ものから「脂環式ポリアミドを60質量%以上含む」ものに限定する。
[D] 上記[A]による訂正後の請求項8に記載された「バ-コル」という記載を,「バーコル」に誤記訂正する。
[E] 上記[A]による訂正後の請求項8に記載された「第1の樹脂材料」に含まれる「脂環式ポリアミド」,又は「第2の樹脂材料」に含まれる「脂環式ポリアミド」を,特定の化学式(前記2(11)参照)のものに限定する。
[F] 請求項8に記載された,「第1の樹脂材料」と「第2の樹脂材料」の「ガラス転移温度」の関係を,「ガラス転移温度が異なる」ものから,「前記第1の樹脂材料のガラス転移温度は,前記第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも低い」ものに限定する。
また,これらの点は,請求項8の記載を引用して記載された,請求項9及び請求項10についてみても,同じである。
そうしてみると,訂正事項11による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書1号,2号及び4号に掲げる事項(「特許請求の範囲の減縮」,「誤記又は誤訳の訂正」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」)を目的とする訂正に該当する。
また,訂正事項11による訂正のうち,上記[A]による訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。
加えて,前記(1)ア~ウで述べたとおりであるから,訂正事項11による訂正のうち,上記[B]~[D]による訂正も,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。
さらに,前記(1)エで挙げた明細書の各記載は,「第1の樹脂材料」に含まれる「脂環式ポリアミド」と,「第2の樹脂材料」に含まれる「脂環式ポリアミド」の一方のみが,[0069]に記載の[化8]のものであることを許容する記載と理解される。そうしてみると,訂正事項11による訂正のうち,上記[E]による訂正も,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。
そして,本件特許の願書に添付した明細書の[0122]には,「第1の樹脂材料と第2の樹脂材料とは,ガラス転移温度が異なっていてもよい。この場合,第1の層32および第2の層33のうちの,ガラス転移温度が小さい方の層に対して,リタデーションを発現させるための延伸を好適に行うことができる。」と記載されている。また,この記載は,第1の樹脂材料のガラス転移温度が第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも低い態様,及び第1の樹脂材料のガラス転移温度が第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも高い態様の双方を意図した記載と理解される。そうしてみると,訂正事項11による訂正のうち,上記[F]による訂正も,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。
以上勘案すると,訂正事項11による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに,訂正事項11による訂正によって,訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから,訂正事項11による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
イ 訂正事項12について
訂正事項12による訂正は,請求項10が引用する請求項を「請求項1ないし9のいずれか1項」から「請求項8または9」に減ずる訂正である。
そうしてみると,訂正事項12による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。また,訂正事項12による訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは,明らかである。
ウ 小括
訂正後の請求項8~請求項10についてした訂正(訂正事項11及び訂正事項12による訂正)は,特許法120条の5第2項ただし書,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
(3) 訂正後の請求項11について
ア 訂正事項13について
訂正事項13による訂正は,以下の訂正に分けて考えることができる。
[A] 請求項1~請求項7のいずれか一項の記載を引用する請求項8のうち,請求項2の記載を引用する請求項8の記載を,請求項2の記載を引用しないものとするとともに,新たな請求項11に記載する(請求項8には,請求項1の記載を引用する請求項8が記載されている。)。
[B] 上記[A]による訂正後の請求項11に記載された「第1の樹脂材料」を,「脂環式ポリアミドを含む」ものから「脂環式ポリアミドを60質量%以上含む」ものに限定する。
[C] 上記[A]による訂正後の請求項11に記載された「第2の樹脂材料」を,「脂環式ポリアミドを含む」ものから「脂環式ポリアミドを60質量%以上含む」ものに限定する。
[D] 上記[A]による訂正後の請求項11に記載された「バ-コル」という記載を,「バーコル」に誤記訂正する。
[E] 上記[A]による訂正後の請求項11に記載された「第1の樹脂材料」に含まれる「脂環式ポリアミド」,又は「第2の樹脂材料」に含まれる「脂環式ポリアミド」を,特定の化学式(前記2(13)参照)のものに限定する。
[F] 請求項11に記載された,「第1の樹脂材料」と「第2の樹脂材料」の「ガラス転移温度」の関係を,「ガラス転移温度が異なる」ものから,「前記第1の樹脂材料のガラス転移温度は,前記第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも高い」ものに限定する。
そうしてみると,訂正事項13による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書1号,2号及び4号に掲げる事項(「特許請求の範囲の減縮」,「誤記又は誤訳の訂正」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」)を目的とする訂正に該当する。
また,前記(2)アで述べたとおりであるから,訂正事項13による訂正(上記[A]~[F]による訂正)は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。
そうしてみると,訂正事項13による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに,訂正事項13による訂正によって,訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから,訂正事項13による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
イ 小括
訂正後の請求項11についてした訂正(訂正事項13による訂正)は,特許法120条の5第2項ただし書,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
4 まとめ
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,全て,特許法120条の5第2項ただし書,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって,結論に記載のとおり,特許第6414362号の特許請求の範囲を,本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-7〕,〔8-10〕,11について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり,本件訂正請求による訂正は認められたから,本件特許の請求項1,請求項2及び請求項4~請求項11に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」などという。)は,本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1,請求項2及び請求項4~請求項11に記載された事項によって特定されるとおりの,下記のものである。
記
【請求項1】
第1の面と,前記第1の面とは反対の面である第2の面とを有する偏光膜と,
前記第1の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第1の樹脂材料で構成された第1の層と,
前記第2の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第2の樹脂材料で構成された第2の層とを備える偏光性積層体であって,
前記第1の層のリタデーションが2600以上,8000以下であり,
前記第2の層のリタデーションが0以上,500以下であり,
JIS K 7060:1995に準拠して,80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバーコル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バーコル硬さが,前記浸漬前の前記バーコル硬さに対して70%以上,100%以下であり,
前記第1の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドおよび前記第2の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドは,それぞれ,下記化学式で示されるものであり,
(ただし,前記化学式中,R3,R4は,それぞれ独立に,炭素数が4以下の炭化水素基,oは,2以上14以下の整数,pは,0以上6以下の整数,nは,2以上の整数である。)
前記第1の層および前記第2の層は,それぞれ,前記第1の面および前記第2の面に二液型のウレタン系接着剤により接合されていることを特徴とする偏光性積層体。
【請求項2】
前記第1の樹脂材料および前記第2の樹脂材料のうちの少なくとも一方に含まれる前記ポリアミドのガラス転移温度が140℃以上,190℃以下である請求項1に記載の偏光性積層体。
【請求項4】
前記偏光性積層体は,眼鏡用レンズである請求項1または2に記載の偏光性積層体。
【請求項5】
前記偏光性積層体を使用するとき,前記第2の層が設けられた前記第2の面が,使用者の目側に向いている請求項1,2および4のいずれか1項に記載の偏光性積層体。
【請求項6】
前記第1の層が凸面を構成するように,前記偏光性積層体が湾曲板状をなしている請求項1,2および4~5のいずれか1項に記載の偏光性積層体。
【請求項7】
JIS K 7209:2000に準拠して測定された,前記第1の層および前記第2の層の吸水率は,0.5%以上,6.0%以下である請求項1,2および4~6のいずれか1項に記載の偏光性積層体。
【請求項8】
第1の面と,前記第1の面とは反対の面である第2の面とを有する偏光膜と,
前記第1の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第1の樹脂材料で構成された第1の層と,
前記第2の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第2の樹脂材料で構成された第2の層とを備える偏光性積層体であって,
前記第1の層のリタデーションが2600以上,8000以下であり,
前記第2の層のリタデーションが0以上,500以下であり,
JIS K 7060:1995に準拠して,80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバーコル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バーコル硬さが,前記浸漬前の前記バーコル硬さに対して70%以上,100%以下であり,
前記第1の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドまたは前記第2の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドは,下記化学式で示されるものであり,
(ただし,前記化学式中,R3,R4は,それぞれ独立に,炭素数が4以下の炭化水素基,oは,2以上14以下の整数,pは,0以上6以下の整数,nは,2以上の整数である。)
前記第1の樹脂材料のガラス転移温度は,前記第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも低いことを特徴とする偏光性積層体。
【請求項9】
前記第1の樹脂材料の前記ガラス転移温度と,前記第2の樹脂材料の前記ガラス転移温度の差は,3℃以上,35℃以下である請求項8に記載の偏光性積層体。
【請求項10】
請求項8または9に記載の前記偏光性積層体を備えたことを特徴とする眼鏡。
【請求項11】
第1の面と,前記第1の面とは反対の面である第2の面とを有する偏光膜と,
前記第1の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第1の樹脂材料で構成された第1の層と,
前記第2の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第2の樹脂材料で構成された第2の層とを備える偏光性積層体であって,
前記第1の層のリタデーションが2600以上,8000以下であり,
前記第2の層のリタデーションが0以上,500以下であり,
JIS K 7060:1995に準拠して,80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバーコル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バーコル硬さが,前記浸漬前の前記バーコル硬さに対して70%以上,100%以下であり,
前記第1の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドまたは前記第2の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドは,下記化学式で示されるものであり,
(ただし,前記化学式中,R3,R4は,それぞれ独立に,炭素数が4以下の炭化水素基,oは,2以上14以下の整数,pは,0以上6以下の整数,nは,2以上の整数である。)
前記第1の樹脂材料および前記第2の樹脂材料のうちの少なくとも一方に含まれる前記ポリアミドのガラス転移温度が140℃以上,190℃以下であり,
前記第1の樹脂材料のガラス転移温度は,前記第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも高いことを特徴とする偏光性積層体。
第4 取消しの理由及び証拠
1 取消しの理由
令和元年12月5日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由は,以下のとおりである。
(1) 理由1(進歩性)
本件特許の請求項1~請求項10に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物(甲1)に記載された発明に基づいて,先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本件特許の請求項1~請求項10に係る特許は,特許法29条の規定に違反してされたものであるから,取り消されるべきものである。
甲1:特開2007-93649号公報
甲2:再表2006/040954号
(当合議体注:甲2の刊行物は,国際公開第2006/040954号の再公表特許である。)
甲3:実験成績証明書
(当合議体注:作成者は「株式会社DJK」である。)
甲4:「Grilamid TR 高機能透明ポリアミド」と題されたカタログ,エムスケミー・ジャパン株式会社,1~36頁
(当合議体注:34頁の末尾に「Domat/EMS,2011年5月」との記載がある。なお,「Domat/EMS」は地名である。)
参考文献1:「トロガミド(R) TROGAMID(R)」と題されたカタログ,ダイセル・エボニック株式会社,表紙,1~10頁,裏表紙
(当合議体注:裏表紙に「2000.2.1000P.A.」との記載がある。なお,登録商標を表す丸囲いのRを,(R)で代用表記した。)
(2) 理由2(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許の請求項1~請求項10に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。
したがって,本件特許の請求項1~請求項10に係る特許は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから,取り消されるべきものである。
(3) 理由3(明確性)
本件特許の請求項1~請求項10に係る発明は,明確であるということができない。
したがって,請求項1~請求項10に係る特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから,特許法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。
2 証拠について
(1) 特許異議申立人が提出した証拠
特許異議申立人は,以下の証拠も提出している。
甲5:小川伸,「英和 プラスチック工業辞典」,5版第2刷,株式会社 工業調査会,1992年5月25日,表紙,前付,68~69頁(「バーコル硬度」の項),1300頁,奥付
参考資料1:特開2006-227591号公報
参考資料2:特開2005-138365号公報
参考資料3:加藤信子 他1名,「ポリウレタンの分析」,日本接着学会誌,日本接着学会,2004年6月1日,40巻6号,234~240頁
参考資料4:「三井化学ポリウレタン(株)の発足について」,三井武田ケミカル株式会社及び三井化学株式会社,2006年3月2日
(当合議体注:同じ内容のものは,インターネット<URL:https://jp.mitsuichemicals.com/jp/release/2006/2006_0302.htm>において閲覧することができる。)
(2) 特許権者が提出した証拠
特許権者は,以下の証拠を提出している。
乙1:「意見書(特許出願2006-540876)」
(当合議体注:甲2の審査において提出された,平成23年4月20日付け意見書を,J-PlatPat<URL:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/>から照会した結果である。)
乙2:特許権者が「一部実施例の生データ」とするもの
(当合議体注:作成者,作成年月日等を裏付けるものは記載されておらず,また,これらを推認させる証拠等も提出されていない。)
第5 当合議体の判断
1 理由1(進歩性)について
(1) 甲1の記載
甲1(特開2007-93649号公報)は,先の出願前に頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,透明ナイロン樹脂からなる保護層を有する偏光板に球面加工を施し,凹面側に透明ナイロン樹脂を積層一体化した偏光レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
偏光性薄膜に保護層を積層一体化した偏光板は,液晶表示用の他,優れた防眩性を発揮することから,例えばサングラスやゴーグル等としても用いられている。
…(省略)…
【0004】
第三の手法は,偏光性薄膜の両面に保護層としてポリカーボネート系シートを貼着一体化させた偏光板を,熱成形により球面状等レンズ状に加工,あるいはさらに射出成形にてポリカーボネート樹脂を積層一体化することによるものである(特許文献2参照)。この方法で得られた偏光レンズもポリカーボネート樹脂を使用しているため耐熱性・耐衝撃性の向上が見られるものの,ポリカーボネート樹脂には耐溶剤性が弱いという欠点があり,塩化ビニル系,セルロイド系等の可塑剤を多く含む眼鏡フレームを使用した場合,フレームからポリカーボネート樹脂層へ可塑剤が徐々に移行してゆき,最終的にはポリカーボネート樹脂層に溶剤クラックが発生してしまうため,使用可能なフレーム材質に制限が生じる。さらに,射出されたポリカーボネート樹脂の分子量および内部歪みに起因するストレスクラック耐性が低下し,2ポイントフレームレスレンズ用途での使用が困難となる。
…(省略)…
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は,上記問題を解決し,耐衝撃性,耐熱性に優れ,界面での剥離もなく,耐溶剤性が改善され,かつ2ポイントフレームレスレンズとしても使用できる偏光レンズを提供することを目的とする。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明者らはポリカーボネートと近い透明性,耐熱性,耐衝撃性を有し,ポリカーボネートの短所である2ポイントフレームレス加工性(ストレスクラック耐性),フレーム含有可塑剤耐性(溶剤クラック耐性)に優れた透明ナイロン樹脂に着目し本発明を完成させた。
…(省略)…
【発明の効果】
【0008】
本発明の偏光レンズは,2色性色素を高分子フィルムに吸着・配向させた偏光性薄膜に保護層を設けた偏光板をレンズ状に球面加工し,凹面側にインサートモールド法により透明ナイロン樹脂を積層一体化したものであり,かつ凹面側の保護層を透明ナイロン樹脂とすることにより,耐衝撃性,耐熱性に優れ,偏光板とインサートモールド法で積層された樹脂との界面での剥離もなく,耐溶剤性が改善され,比較的多くの可塑剤を含むプラスチックフレームを選択・使用でき,2ポイントフレームレスレンズ用途としても充分に使用可能である。」
ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の偏光レンズ構成を図1に示す。
…(省略)…
【0011】
偏光性薄膜の両面に設けられる保護層(3,5)のうち,球面加工して凹面側となる面の保護層(5)は透明ナイロン樹脂よりなるものが用いられる。この透明ナイロン樹脂としては,耐熱性を有する市販の透明ナイロン樹脂を用い,溶液キャスト成形,押出成形,カレンダー成形,溶融キャスト成形等によりシート状とする。得られたシート状のものを偏光性薄膜に,接着剤を介在させて,積層一体化し保護層とする。接着剤としては,例えばアクリル系接着剤,エポキシ系接着剤,ポリウレタン系接着剤,オレフィン系接着剤等が挙げられるが,偏光性薄膜と保護層とを十分に接着することができて,光学性透視感に優れ,経時的に黄変することがなく,熱成形時に剥離やクラック,白化等の不具合が起こらなければいかなるものでも良い。
…(省略)…
【0012】
偏光性薄膜の両面に設けられる保護層のうち,球面加工して凸面側となる面の保護層(3)は,トリアセチルセルロース,ポリカーボネート樹脂,環状ポリオレフィン樹脂,あるいは透明ナイロン樹脂よりなるものが用いられる。これらの樹脂を上記のように周知の成形法でシート状としたものが偏光性薄膜に,上記同様に接着剤を介して積層一体化される。
…(省略)…
【0015】
上記のようにして調整された偏光板は,真空成形,プレス成形等によりレンズ状に球面加工される。ただ,成形後室温まで徐冷させてレンズ状に賦形させると,保護層の材質の違い,厚みの違い,偏光性薄膜・保護層に内在している収縮力により,冷却過程において反りが発生し,目的としている球面状態が得られにくいといった場合がある。このような不具合を解決するには,所望するレンズ形状と同一の雄型,雌型の金型で50℃以下,好ましくは40℃以下に維持されたものを用意し,球面加工された偏光板を直ちにこの雄型,雌型の金型で挟持し,急速冷却させることにより,所望するレンズ形状の偏光板を得ることができる。挟持する金型温度が50℃以上の場合は反りの発生がみられる。このようにしてレンズ状に加工された偏光板の凹面側に透明ナイロン樹脂をインサートモールド法にて射出することにより本発明の偏光レンズが得られる。ここで射出される透明ナイロン樹脂は,保護層として用いられるものと同じものが用いられる。
…(省略)…
【0017】
本発明の保護層には,酸化防止剤,可塑剤,改質剤,光安定剤,帯電防止剤等に代表される各種添加剤を適宜組成物内部に配合してもよく,あるいは表面にこれらに代表される添加物を用いて処理を行ってもよい。」
エ 「【実施例】
【0018】
次に,本発明の具体的実施例について説明する。
【0019】
<偏光性薄膜>
ポリビニルアルコールフィルム(商品名:「クラレビニロン#7500」,クラレ社製)を,2色性染料を溶解させた水溶液(ブリリアントブルー6Bの濃度が0.4g/L,ベンゾパープリンの濃度が0.2g/L,クロラゾールブラックBHの濃度が0.1g/L)中,40℃条件で10分間染色した。この染色フィルムを酢酸ニッケル4水塩(0.4g/L)とホウ酸(40g/L)を溶解せしめた水溶液中に40℃で20分間浸漬した後,この溶液中で1軸方向に約2倍延伸し,次いで水洗,乾燥を行って,偏光性薄膜を得た。
【0020】
<保護層用シート>
透明ナイロン樹脂(商品名:「CX7323」,デグッサ社製),ポリカーボネート樹脂(商品名:「ユーピロンE-2000」,三菱エンジニアリングプラスチック社製)をそれぞれ押出成形し,またその際にポリシングロールの樹脂温度,ポリシングロールと引き取りロールとの速度差を調整することによって表1に示す厚みおよびリタデーション値を有するシートを得た。なお,このシートのリタデーション値は自動複屈折率計(KS-SYSTEMS社製)を用いて,10箇所測定し,その範囲(最も小さい数値から最も大きい数値まで)を示す。また,厚み80μmのトリアセチルセルロースシート(商品名:「フジタックTA80」,富士写真フィルム社製)を用意した。
【表1】
【0021】
<実施例1~3>
上記の偏光性薄膜の両面に,保護層(3,5)として,表1の保護層用シートを表2に示すように選択し一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤で貼り合わせ偏光板を得た。得られた偏光板を直径7cmの円形に打ち抜いた後,70℃にて12時間予備乾燥し,レマ成形機(真空成形機)CR-32型にて150℃雰囲気下で6カーブの球面型に吸引させ6分間保つことによって球面形状に賦形した。得られた球面加工品はレマ成形機から取り出し後,直ちに6カーブの球面を持つ40℃の雄型,雌型に挟持させ,室温まで冷却することによって球面加工を完成させた。次に,6カーブのレンズ金型を取り付けた射出成形機に得られた球面加工品を挿入し,その凹面側に上記透明ナイロン樹脂を用いて射出一体化し厚さ約2.0mmの偏光レンズを得た。
…(省略)…
【0025】
…(省略)…
<2ポイントフレームレスレンズ適性>
各試料(偏光レンズ)に対して市販の眼鏡加工機を用い2ポイント用の螺子穴を開け,金属製テンプルと螺子固定し,レンズとの角度を120°に拡げた状態でサイクル試験(70℃×1hr~-20℃×1hr:100サイクル)後,螺子穴周辺部にクラックが入っていないものを「○」,クラックが入ったものを「×」と示した。なお,この評価を表2においては,「2ポイント適性」と称する。
…(省略)…
【表2】
【0026】
上記の結果から明らかなように,本発明の技術範囲である実施例1~3の偏光レンズは,耐熱性,耐衝撃性に優れ,界面での剥離もなく,耐溶剤性の問題もなく,2ポイントフレームレスレンズとして使用できることが確認された。」
オ 【図1】
(2) 甲1発明
甲1には,【0001】に記載された技術分野に属し,【0008】に記載された効果を奏し,【0018】~【0026】に記載された「実施例1」の構成を具備する,次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。なお,保護層(3)が偏光レンズの凸面側,保護層(5)が偏光レンズの凹面側となること(【0011】及び【0012】)を考慮し,「保護層(3)」及び「保護層(5)」を,それぞれ「凸面側保護層」及び「凹面側保護層」と表記した。また,凹面側に射出される透明ナイロン樹脂について,【0015】の「射出される透明ナイロン樹脂は,保護層として用いられるものと同じものが用いられる」という記載を考慮するとともに,偏光性薄膜の製造工程(架橋工程)については技術常識も勘案した。
「 透明ナイロン樹脂からなる保護層を有する偏光板に球面加工を施し,凹面側に透明ナイロン樹脂を積層一体化した偏光レンズであって,
透明ナイロン樹脂(商品名:「CX7323」,デグッサ社製)を押出成形することによって,厚みが0.7mm,リタデーション値が2800~3600nmである保護層用シートAを得,
ポリビニルアルコールフィルムを2色性染料で染色,架橋,1軸延伸,水洗及び乾燥を行って偏光性薄膜を得,
透明ナイロン樹脂(商品名:「CX7323」,デグッサ社製)を押出成形することによって,厚みが0.25mm,リタデーション値が20~200nmである保護層用シートCを得,
偏光性薄膜の両面に,凸面側保護層として保護層用シートA,凹面側保護層として保護層用シートCを選択し一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤で貼り合わせ偏光板を得,得られた偏光板を円形に打ち抜いた後,球面形状に賦形し,次に,凹面側に透明ナイロン樹脂(商品名:「CX7323」,デグッサ社製)を用いて射出一体化して得た,
2色性色素を高分子フィルムに吸着・配向させた偏光性薄膜に保護層を設けた偏光板をレンズ状に球面加工し,凹面側にインサートモールド法により透明ナイロン樹脂を積層一体化したものであり,かつ凹面側の保護層を透明ナイロン樹脂とすることにより,耐衝撃性,耐熱性に優れ,偏光板とインサートモールド法で積層された樹脂との界面での剥離もなく,耐溶剤性が改善され,比較的多くの可塑剤を含むプラスチックフレームを選択・使用でき,2ポイントフレームレスレンズ用途としても充分に使用可能である,
偏光レンズ。」
(3) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
ア 偏光膜
甲1発明の「偏光性薄膜」は,「ポリビニルアルコールフィルムを2色性染料で染色,架橋,1軸延伸,水洗及び乾燥を行って」得たものである。
この構成からみて,甲1発明の「偏光性薄膜」は,前面と,裏面とを有する偏光膜である。
したがって,甲1発明の「偏光性薄膜」は,「第1の面と,前記第1の面とは反対の面である第2の面とを有する」とされる,本件特許発明1の「偏光膜」に相当する。
イ 第1の層
甲1発明の「偏光板」は,「偏光性薄膜の両面に,凸面側保護層として保護層用シートA,凹面側保護層として保護層用シートCを選択し一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤で貼り合わせ」て得たものである。また,甲1発明の「保護層用シートA」は,「透明ナイロン樹脂(商品名:「CX7323」,デグッサ社製)を押出成形することによって」得た,「厚みが0.7mm,リタデーション値が2800~3600nm」のものである。
この構成からみて,甲1発明の「凸面側保護層」は,「偏光性薄膜」の前面,すなわち第1の面の上に設けられたものであるとともに,その文言が意味するとおり,「層」である。また,甲1発明の「透明ナイロン樹脂(商品名:「CX7323」,デグッサ社製)」は,その商品名を考慮すると,「脂環式ポリアミド」に分類される(甲2の【0086】,参考文献1の2頁参照。)。そうしてみると,甲1発明の「凸面側保護層」は,脂環式ポリアミドに該当する樹脂材料(100質量%)から構成されたものである。また,この樹脂材料を「第1」という数詞を付けて他と区別することは,請求項の記載上の問題にすぎない(物としての構成を左右しない。)。さらに,甲1発明の「凸面側保護層」のリタデーション値の範囲(2800~3600)は,2600~8000の範囲に含まれる。
したがって,甲1発明の「凸面側保護層」は,「前記第1の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第1の樹脂材料で構成された」とされる,本件特許発明1の「第1の層」に相当する。また,甲1発明の「凸面側保護層」は,本件特許発明1の「第1の層」における,「リタデーションが2600以上,8000以下であり」という要件を満たす。
ウ 第2の層
前記イで述べたのと同様に,甲1発明の「凹面側保護層」は,「前記第2の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第2の樹脂材料で構成された」とされる,本件特許発明の「第2の層」に相当する。また,甲1発明の「凹面側保護層」は,本件特許発明1の「第2の層」における,「リタデーションが0以上,500以下であり」という要件を満たす。
エ 偏光性積層体
上記ア~ウの対比結果,並びに,甲1発明及び本件特許発明1の全体構成を勘案すると,甲1発明の「偏光レンズ」は,本件特許発明1の「偏光膜と」,「第1の層と」,「第2の層とを備える」とされる,「偏光性積層体」に相当する。
(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。
「 第1の面と,前記第1の面とは反対の面である第2の面とを有する偏光膜と,
前記第1の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第1の樹脂材料で構成された第1の層と,
前記第2の面上に設けられ,脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第2の樹脂材料で構成された第2の層とを備える偏光性積層体であって,
前記第1の層のリタデーションが2600以上,8000以下であり,
前記第2の層のリタデーションが0以上,500以下である,
偏光性積層体。」
イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「偏光性積層体」が,本件特許発明1は,「JIS K 7060:1995に準拠して,80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバーコル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バーコル硬さが,前記浸漬前の前記バーコル硬さに対して70%以上,100%以下」という要件を満たすのに対して,甲1発明は,これが明らかではない点。
(相違点2)
「偏光性積層体」が,本件特許発明1は,「前記第1の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドおよび前記第2の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドは,それぞれ,下記化学式で示されるものである」という構成を具備するのに対して,甲1発明は,「下記化学式で示されるもの」ではない点。
(当合議体注:「下記化学式」は,前記「第3」の【請求項1】に記載のとおりのものである。)
(相違点3)
「偏光性積層体」が,本件特許発明1は,「前記第1の層および前記第2の層は,それぞれ,前記第1の面および前記第2の面に二液型のウレタン系接着剤により接合されている」という構成を具備するのに対して,甲1発明は,「偏光性薄膜の両面に,凸面側保護層として保護層用シートA,凹面側保護層として保護層用シートCを選択し一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤で貼り合わせ」という構成からなる(接着剤の種類が「二液型のウレタン系接着剤」ではなく「一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤」である)点。
(5) 判断
事案に鑑みて,相違点2,相違点3,相違点1の順に判断する。
ア 相違点2について
甲1発明の「透明ナイロン樹脂」に関して,甲1の【0006】には,「本発明者らはポリカーボネートと近い透明性,耐熱性,耐衝撃性を有し,ポリカーボネートの短所である2ポイントフレームレス加工性(ストレスクラック耐性),フレーム含有可塑剤耐性(溶剤クラック耐性)に優れた透明ナイロン樹脂に着目し本発明を完成させた。」と記載されている。そして,甲1の【0011】には,「透明ナイロン樹脂としては,耐熱性を有する市販の透明ナイロン樹脂を用い」と記載されているから,甲1発明の「透明ナイロン樹脂(商品名:「CX7323」,デグッサ社製)」は,このような「透明ナイロン樹脂」の一例として使用されたものと理解される。
ここで,先の出願前の当業者において,上記【0006】及び【0011】に記載された要件を満たすと認められる「透明ナイロン樹脂」として,「Grilamid TR90」が上市されている(周知である)。また,「Grilamid TR90」は,3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンと,ドデカン二酸の共重合体であるから,本件特許発明1の「下記化学式」の要件を満たす(当合議体注:この点については,特開2016-147925号公報(以下「参考文献2」という。)の【0084】を参照。)。
そうしてみると,当業者が,甲1発明の「透明ナイロン樹脂(商品名:「CX7323」,デグッサ社製)」に替えて,周知の「Grilamid TR90」を採用することにより,相違点2に係る本件特許発明1の「下記化学式」の要件を満たすものとすることは,甲1の記載が示唆する範囲内の事項である。
イ 相違点3について
甲1発明の「一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤」に関して,甲1の【0011】には,「接着剤としては,例えばアクリル系接着剤,エポキシ系接着剤,ポリウレタン系接着剤,オレフィン系接着剤等が挙げられるが,偏光性薄膜と保護層とを十分に接着することができて,光学性透視感に優れ,経時的に黄変することがなく,熱成形時に剥離やクラック,白化等の不具合が起こらなければいかなるものでも良い」と記載されている。そうしてみると,甲1発明の「一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤」は,このような「接着剤」の一例として使用されたものと理解される。
ここで,先の出願前の当業者において,甲1発明において使用された「一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤」に類似する「接着剤」として,「二液型のウレタン系接着剤」は,例示するまでもなく周知である。また,参考資料1(特開2006-227591号公報)の【0001】,【0027】,【0029】,【0039】,【0064】,【0072】,【0077】及び【0133】の記載からみて,甲1発明の「一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤」に替えて,周知の「二液型のウレタン系接着剤」を採用しても,何ら支障がないと理解される。さらに,特開2005-62262号公報の【0036】,特開2007-217667号公報の【0055】及び特開2004-144943号公報の【0054】及び【0055】には,いずれも,偏光膜の接着剤として,一液型のものよりも二液型のウレタン系接着剤の方が好ましい旨の記載がある。
そうしてみると,当業者が,甲1発明の「一液型湿気硬化型ポリウレタン系接着剤」に替えて,周知の「二液型のウレタン系接着剤」を採用することにより,相違点3に係る本件特許発明1の構成を具備したものとすることも,甲1の記載が示唆する範囲内の事項である。
ところで,本件特許の明細書の【0100】及び【0101】には,それぞれ,「特に,接着層34は,次に示す方法で形成されることが好ましい。まず,2液型のウレタン系接着剤を第1の層32に塗布し,塗布層を得る。次に,低湿度の環境下で硬化反応を進行させる第1の処理と,処理温度を第1の処理よりも高温とする第2の処理とを塗布層に施すことにより接着層34を形成する。」及び「これにより,NCO基の量が,主剤の水酸基に対して過剰となることを防止することができる。すなわち,NCO基の量を,主剤の水酸基に応じた好適な量となるように,好適に調整することができる。加えて,硬化反応(重合反応)の初期段階でウレタン結合の形成を好適に進行させ,二酸化炭素の発生による気泡が偏光性積層体3の外観,機能に悪影響を与えることを効果的に防止することができる。さらに,偏光性積層体3の生産性を向上させることができる。」と記載されている。
しかしながら,本件特許発明1の「偏光レンズ」は,【0100】に記載された工程や【0101】に記載された調整によって得られたものに限定されるものではない(請求項1には,「前記第1の層および前記第2の層は,それぞれ,前記第1の面および前記第2の面に二液型のウレタン系接着剤により接合されている」と記載されているにとどまる。)。
なお,参考文献1の【0072】には,主材(ポリオール)と硬化剤(イソシアネート化合物)の分量を調整することが開示されているところでもある(周知技術である)。
ウ 相違点1について
上記ア及びイで述べたとおり変更した後の甲1発明は,その構成からみて,相違点1に係る本件特許発明1の要件を優に満たすと考えられる(この点は,甲3からも類推される事項である。)。
あるいは,甲1発明は「偏光レンズ」であるから,熱水に対する耐性が求められることは当然のことである。そうしてみると,甲1発明の「偏光レンズ」を相違点1に係る本件特許発明1の要件を満たすものとすることは,当業者が採用するべき構成である。
(6) 発明の効果について
本件特許発明1の効果は,「長期間安定した品質(特に,偏光特性)を保持することができ,加工性および耐久性(特に,耐水性および耐候性)に優れる偏光性積層体を提供すること…ができる。」([0018])というものである。
しかしながら,甲1発明は,「耐衝撃性,耐熱性に優れ,偏光板とインサートモールド法で積層された樹脂との界面での剥離もなく,耐溶剤性が改善され,比較的多くの可塑剤を含むプラスチックフレームを選択・使用でき,2ポイントフレームレスレンズ用途としても充分に使用可能である」というものである。また,この効果は,前記(5)ア及びイで述べたとおり「透明ナイロン樹脂」及び「接着剤」を変更した後の甲1発明においても,奏されるものである。
そうしてみると,本件特許発明1の効果は,甲1発明から予測される範囲内の効果であり,また,前記(5)ア及びイで述べたとおり変更した後の甲1発明(甲1発明及び周知技術)からも,予測される範囲内の効果である。
(7) 小括
本件特許発明1は,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8) 本件特許発明2及び本件特許発明4~本件特許発明10について
ア 本件特許発明2について
「Grilamid TR90」のガラス転移温度は155℃(甲4の5頁)である。
その余は,すでに述べたとおりである。
本件特許発明2も,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件特許発明4について
甲1発明の「偏光レンズ」は,「2ポイントフレームレスレンズ用途としても充分に使用可能である」。
そうしてみると,甲1発明の「偏光レンズ」を「眼鏡レンズ」とすることは,甲1発明の「偏光レンズ」において予定されている用途と認められる。
その余は,すでに述べたとおりである。
本件特許発明4も,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件特許発明5について
甲1発明の「偏光レンズ」を「眼鏡レンズ」とするに際して,当然採用される構成と認められる。
その余は,すでに述べたとおりである。
本件特許発明5も,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件特許発明6について
「前記第1の層が凸面を構成するように,前記偏光性積層体が湾曲板状をなしている」という構成は,甲1発明も具備する構成である。
その余は,すでに述べたとおりである。
本件特許発明6も,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 本件特許発明7について
「Grilamid TR 90」の吸水率は,概ね,3%程度と認められる(甲4の10及び11頁参照。なお,ISO62は,JIS K 7209:2000に対応する。)。
そうしてみると,「JIS K 7209:2000に準拠して測定された,前記第1の層および前記第2の層の吸水率は,0.5%以上,6.0%以下である」という構成は,前記(5)ア及びイで述べたとおり変更した後の甲1発明も具備する蓋然性が極めて高いものである。
その余は,すでに述べたとおりである。
本件特許発明7も,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 本件特許発明8~本件特許発明10について
本件特許発明8は,「前記第1の樹脂材料のガラス転移温度は,前記第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも低い」という構成を具備する。
また,本件特許の明細書の【0122】には,「第1の層32を構成する第1の樹脂材料のガラス転移温度が,第2の層33を構成する第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも低い場合,第1の層32に対して,比較的低い温度で,リタデーションを発現させるための延伸を好適に行うことができる。」と記載されている。
これに対して,甲1発明の「凸面側保護層」及び「凹面側保護層」は,ともに,同一の樹脂(透明ナイロン樹脂(商品名:「CX7323」,デグッサ社製)からなる。
そうしてみると,本件特許の明細書の【0122】に記載された効果は,甲1発明の「偏光レンズ」が奏することのない,異質な効果である。
また,甲1には,このような効果に関する記載はなく,これを示唆する記載もない。この点は,他の証拠についてみても同様であり,また,このような効果が,先の出願前の当業者における技術常識であったということもできない。
本件特許発明9及び本件特許発明10も,「前記第1の樹脂材料のガラス転移温度は,前記第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも低い」という構成を具備するから,同様のことがいえる。
本件特許発明8~本件特許発明10は,たとえ当業者といえども,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものではない。
キ 本件特許発明11について
本件特許発明11と甲1発明を対比すると,両者は,以下の点で相違し,その余の点では一致する。
(相違点1)
「偏光性積層体」が,本件特許発明11は,「JIS K 7060:1995に準拠して,80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバーコル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バーコル硬さが,前記浸漬前の前記バーコル硬さに対して70%以上,100%以下」という要件を満たすのに対して,甲1発明は,これが明らかではない点。
(相違点4)
「偏光性積層体」が,本件特許発明11は,「前記第1の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドまたは前記第2の樹脂材料に含まれる前記脂環式ポリアミドは,下記化学式で示されるものであり」という構成を具備し,また,「前記第1の樹脂材料および前記第2の樹脂材料のうちの少なくとも一方に含まれる前記ポリアミドのガラス転移温度が140℃以上,190℃以下であり」及び「前記第1の樹脂材料のガラス転移温度は,前記第2の樹脂材料のガラス転移温度よりも高い」という要件を満たすのに対し,甲1発明は,「下記化学式で示されるもの」ではなく,また,ガラス転移温度に関する上記の要件も満たさない点。
(当合議体注:「下記化学式」は,前記「第3」の【請求項11】に記載のとおりのものである。)
事案に鑑みて,相違点4,相違点1の順に判断する。
(相違点4について)
以下に示すとおり,甲1発明において,その「凸面側保護層」の材料を,周知の「Grilamid TR90」に替えて,相違点4に係る本件特許発明11の構成に想到することは,当業者が容易になし得たことである。
すなわち,前記(5)アで述べたとおり,甲1発明の「透明ナイロン樹脂(商品名:「CX7323」,デグッサ社製)」は,甲1の【0006】や【0011】に言及されているような「透明ナイロン樹脂」の一例として使用されたものと理解される。そうしてみると,甲1発明の「透明ナイロン樹脂」は,「CX7323」以外のものに替えて良いものである。
また,甲1の【0011】では「凹面側保護層」の樹脂として「透明ナイロン樹脂」のみが挙げられ,【0012】では「凸面側保護層」の樹脂として「トリアセチルセルロース,ポリカーボネート樹脂,環状ポリオレフィン樹脂,あるいは透明ナイロン樹脂」が挙げられている。そうしてみると,甲1発明において,「凸面側保護層」と「凹面側保護層」の樹脂を異なるものとすることは,甲1発明において予定されている事項といえる。
加えて,前記(5)アで述べたとおり,先の出願前の当業者において,上記【0006】及び【0011】に記載された要件を満たすと認められる「透明ナイロン樹脂」として,「Grilamid TR90」が上市されている(周知である)。また,前記(5)アで述べたとおり,「Grilamid TR90」は,「下記化学式で示されるもの」である。さらに,「Grilamid TR90」のガラス転移温度は155℃(甲4の5頁)であるのに対して,「CX7323」のガラス転移温度は,140℃(甲2の【0086】)である。
そして,甲4の4頁左欄下から2~1行には,「脂環式 Grilamid TR 90 は耐候性と耐紫外線強度も優れています。」と記載されており,「偏光レンズ」の「凸面側保護層」に適う性能を具備すると認められる。
さらに,「Grilamid TR90」は,「CX7323」に比してTgが高い。加えて,「偏光レンズ」の外側(凸面側)の層が,内側(凹面側)の層よりも,輻射熱等に対する耐久性が求められることは自明であるから,甲1発明において,その「凸面側保護層」の材料を,「CX7323」から,周知の「Grilamid TR90」に替えることには,動機付けがあるといえる。
(当合議体注:Tgだけを考慮するならば,周知の「Grilamid TR55」の方が5℃程度高いが,耐候性及び耐紫外線強度をも考慮すると,上述のとおりである。)
(相違点1について)
甲1発明において,その「凸面側保護層」の材料を,周知の「Grilamid TR90」に替えてなるものが,相違点1に係る本件特許発明11の要件を満たすことについては,前記(5)ウと同様である。
以上勘案すると,本件特許発明11は,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 理由2(実施可能要件)について
本件特許の明細書の[0154]の[表1]を参照すると,実施例1~実施例5及び実施例7~実施例9において,第1の層及び第2の層の,[0136]に記載された方法で測定した浸漬前後のバーコル硬さの比率(以下「バーコル硬さ比率」という。)が,有効数字2桁で全く同じとなっている。また,これら実施例においては,いずれも,第1の層の膜厚と第2の層の膜厚が異なるものとなっており,このような場合についてまで,第1の層及び第2の層のバーコル硬さ比率の値が,有効数字2桁で全く同じになることには疑問がなしとしない。
しかしながら,本件特許の明細書の[0154]の[表1]を参照すると,実施例1~実施例9の全てにおいて,第1の層及び第2の層のバーコル硬さ比率は,70%以上,100%以下となっており,本件特許発明8~本件特許発明10の,「JIS K 7060:1995に準拠して,80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバーコル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バーコル硬さが,前記浸漬前の前記バーコル硬さに対して70%以上,100%以下であり」との要件を満たす。
そうすると,当業者ならば,これら実施例を参考にして,本件特許発明8~本件特許発明9の「偏光性積層体」,並びに,本件特許発明10の「眼鏡」を製造することができる。
(当合議体注:本件特許発明8~本件特許発明10は,第1の層及び第2の層のバーコル硬さ比率の値を揃える発明ではない。)
したがって,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許の請求項8~請求項10に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
3 理由3(明確性要件)について
本件訂正請求による訂正により,理由3は解消した。
第6 取消しの理由において採用しなかった特許異議申立ての理由についての判断
1 29条1項3号について
甲1には,「透明ナイロン樹脂」として,「下記化学式で示されるもの」を採用した発明は開示されていない。
したがって,本件特許発明8~本件特許発明10は,甲1に記載された発明であるということができない。
2 36条6項1号について
本件特許発明8~本件特許発明10の「第1の層」及び「第2の層」は,いずれも,「脂環式ポリアミドを60質量%以上含む第1の樹脂材料で構成された」ものである。また,「JIS K 7060:1995に準拠して,80℃の蒸留水に前記偏光性積層体を15分浸漬する前後の前記偏光性積層体のバーコル硬さを測定したとき,前記浸漬後の前記バーコル硬さが,前記浸漬前の前記バーコル硬さに対して70%以上,100%以下であり」という,安定した性能をも具備する。
これら構成からみて,本件特許発明8~本件特許発明10の「偏光レンズ」ないし「眼鏡」は,本件特許の明細書の【0005】に記載された,「耐衝撃性,耐熱性に優れ,界面での剥離もなく,耐溶剤性が改善され,かつ2ポイントフレームレスレンズとしても使用できる偏光レンズを提供する」という課題を解決することができるものと認められる。
したがって,本件特許発明8~本件特許発明10は,発明の詳細な説明に記載したものである。
3 36条6項2号について
バーコル硬さの値(比率ではなく値)を発明特定事項として具備しないとしても,本件特許発明8~本件特許発明10は明確である。
第7 まとめ
以上のとおり,本件特許発明1,本件特許発明2,本件特許発明4~本件特許発明7及び本件特許発明11は,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
そうしてみると,請求項1,請求項2,請求項4~請求項7及び請求項11に係る特許は,特許法29条の規定に違反してされたものであるから,特許法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
請求項8~請求項10に係る特許は,特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由,及び当合議体が通知した取消しの理由によっては,取り消すことができない。そして,他に請求項8~請求項10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項3に係る特許は,訂正により削除された。したがって,特許異議申立人による特許異議の申立てのうち,請求項3に係る特許に対するものについては,申立ての対象が存在しないものとなった。
そうしてみると,請求項3に係る特許に対する特許異議の申立ては,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下されるべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700347