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特許異議申立

2019-700262

セルロース微細繊維及びその製造方法

審判番号
2019-700262
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-035663外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年04月05日
審決日
2019年10月31日
公報発行日
2020年01月31日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(D21H) / P1651.121-YAA(D21H) / P1651.16 -YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H) / P1651.536-YAA(D21H)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6404382号発明「セルロース微細繊維及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6404382号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6、7〕について訂正することを認める。 特許第6404382号の請求項1~7に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6404382号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成29年2月28日の出願であって、平成30年9月21日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年10月10日)がされたものであり、その特許について、平成31年4月5日に特許異議申立人日野原悦子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において令和1年6月28日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である令和1年9月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、この本件訂正請求について、令和1年10月10日に申立人より意見書が提出されたものである。 第2 訂正の請求について 1.訂正の内容 本件訂正請求は、「特許第6404382号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める」ものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。 (1)請求項1~5に係る訂正及び関連する訂正 ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる添加物(A)」と記載されているのを、「亜リン酸水素ナトリウムからなる添加物(A)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する)。 イ.訂正事項2 願書に添付した明細書の段落【0007】に「亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる添加物(A)」と記載されているのを、「亜リン酸水素ナトリウムからなる添加物(A)」に訂正する。 (2)請求項6、7に係る訂正及び関連する訂正 ア.訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6に「セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されて、亜リン酸のエステルが導入されている」と記載されているのを、「セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されて、亜リン酸エステルのナトリウム塩が導入されている」に、 また、構造式(1)について、訂正前に 「 」と記載されていたものを、 「 」とし、さらに、「βは有機物又は無機物からなる陽イオンである」と記載されているのを削除する訂正をする(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する)。 イ.訂正事項4 願書に添付した明細書の段落【0008】に「セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されて、亜リン酸のエステルが導入されている」と記載されているのを、「セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されて、亜リン酸エステルのナトリウム塩が導入されている」に訂正する。 ウ.訂正事項5 願書に添付した明細書の段落【0009】の構造式(1)について、訂正前に 「 」と記載されていたものを、 「 と訂正する。 エ.訂正事項6 願書に添付した明細書の段落【0010】の「βは有機物又は無機物からなる陽イオンである」と記載されているのを削除する。 オ.訂正事項7 願書に添付した明細書の段落【0013】に「本形態のセルロース微細繊維は、セルロース繊維のヒドロキシ基(-OH基)の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されて、亜リン酸のエステルが導入(修飾、変性)された(エステル化された)ものである。好ましくは、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、カルバメート基で置換されて、カルバメート(カルバミン酸のエステル)も導入されたものである」と記載されているのを、「本形態のセルロース微細繊維は、セルロース繊維のヒドロキシ基(-OH基)の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されて、亜リン酸エステルのナトリウム塩が導入(修飾、変性)された(エステル化された)ものである」に訂正する。 カ.訂正事項8 願書に添付した明細書の段落【0014】の構造式(1)について、訂正前に 「 」と記載されていたものを、 「 と訂正する。 キ.訂正事項9 願書に添付した明細書の段落【0015】の「βは有機物又は無機物からなる陽イオンである」と記載されているのを削除する。 2.訂正の適否 (1)請求項1~5に係る訂正 ア.訂正事項1について 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1の「添加物(A)」について、「亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる添加物(A)」から、具体的に「亜リン酸水素ナトリウムからなる添加物(A)」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様である。 また、訂正事項1の「亜リン酸水素ナトリウム」との事項は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0036】に、「添加物(A)としては、・・・・亜リン酸水素ナトリウムを使用するのが好ましい。」と記載されていることから、訂正事項1は本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様である。 さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 イ.訂正事項2について 訂正事項2は、上記訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項2が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2)請求項6、7に係る訂正 ア.訂正事項3について (ア)訂正事項3の「セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されて、亜リン酸エステルのナトリウム塩が導入されている」とする訂正は、特許請求の範囲の請求項6の「亜リン酸のエステル」について、具体的に「亜リン酸エステルのナトリウム塩」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、構造式(1)を訂正し、「βは有機物又は無機物からなる陽イオンである」と記載されているのを削除する訂正は、「亜リン酸のエステル」を「亜リン酸エステルのナトリウム塩」に限定することと整合させるためであって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。請求項6の記載を引用する請求項7も同様である。 (イ)また、訂正事項3は、本件特許明細書の段落【0076】の、セルロース繊維にリンオキソ酸として亜リン酸水素ナトリウムを添加するとの記載、同じく段落【0080】の【表2】の亜リン酸エステルが導入(修飾)されるとの記載からみて、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。請求項6の記載を引用する請求項7も同様である。 (ウ)さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 イ.訂正事項4~9について 訂正事項4~9は、上記訂正事項3に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項4~9が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項4~9は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 ウ.申立人の意見 申立人は、意見書(「(1)訂正要件違反について」)において、「セルロース繊維に亜リン酸水素ナトリウムを添加し、リンオキソ酸反応を行ったからといって、セルロース繊維に導入される亜リン酸エステルが亜リン酸エステルのナトリウム塩であるということは自明な事項ではない。」と主張している。 しかし、セルロース繊維に亜リン酸水素ナトリウムを添加して、セルロース繊維のヒドロキシ基を亜リン酸エステルで置換すると、セルロース繊維の周囲に存在する陽イオンのNa+は、置換された亜リン酸エステルの官能基に吸引され塩を形成することは、技術常識からみて明らかであり、訂正事項3に係る「セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されて、亜リン酸エステルのナトリウム塩が導入されている」との事項は、本件特許明細書の記載から自明であり、申立人の上記主張は採用できない。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項2~5は、訂正前の請求項1を直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、また、訂正前の請求項7は、訂正前の請求項6を引用するものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。 また、訂正事項2による本件特許明細書の訂正に係る請求項は、請求項1及びこの請求項1を直接又は間接に引用する請求項2~5であり、訂正事項4~9による本件特許明細書の訂正に係る請求項は、請求項6及びこの請求項6を引用する請求項7であるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項に規定する、一群の請求項の全てについて行われたものである。 3.訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6、7〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件特許発明 上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 セルロース繊維に、亜リン酸水素ナトリウムからなる添加物(A)、並びに尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる添加物(B)を添加し、加熱及び洗浄した後に、解繊する、 ことを特徴とするセルロース微細繊維の製造方法。 【請求項2】 前記加熱を、水分率が10%以下となるまで行う、 請求項1に記載のセルロース微細繊維の製造方法。 【請求項3】 前記添加物(A)の添加量を前記セルロース繊維1kgに対して1~10,000gとし、前記添加物(B)の添加量を前記添加物(A)1molに対して0.01~100molとする、 請求項1又は請求項2に記載のセルロース微細繊維の製造方法。 【請求項4】 前記加熱を、100~210℃で行う、 請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース微細繊維の製造方法。 【請求項5】 前記加熱、pH3~12で行う、 請求項1~4のいずれか1項に記載のセルロース微細繊維の製造方法。 【請求項6】 繊維幅が1~1000nmであり、 セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されて、亜リン酸エステルのナトリウム塩が導入されている、 ことを特徴とするセルロース微細繊維。 構造式(1)において、αは、なし、R、及びNHRのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。 【請求項7】 セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、カルバメート基で置換されて、カルバメートが導入されている、 請求項6に記載のセルロース微細繊維。」 2.取消理由の概要 本件発明1~7に対して、特許権者に通知した令和1年6月28日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。 理由1)本件発明1~7は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2)本件発明1~7は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の甲1又は甲5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 《刊行物等一覧》 甲1:特開2015-189698号公報 甲4:「実験成績証明書」、作成者:日野原悦子、平成31年3月15日 甲5:特開2013-127141号公報 甲6:特開2015-98526号公報 周知例:特公昭46-10551号公報 3.当審の判断 (1)甲1を主引用例とする理由について ア.甲1に記載された発明 (ア)甲1の段落【0034】の記載によれば、微細繊維状セルロースは、「セルロースを含む繊維原料を、リンのオキソ酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」という)により処理して、セルロースにリンオキソ酸基を導入するリンオキソ酸基導入工程(a)と、該工程(a)終了後に、リンオキソ酸基を導入したセルロース(以下、「リンオキソ酸基導入セルロース」という)を解繊処理する解繊処理工程(b)により製造」され、 甲1の段落【0039】の記載によれば、リンオキソ酸として「亜リン酸」が記載され、 甲1の段落【0042】の記載によれば、リンオキソ酸の水溶液のpHは、pH3~7が好ましく、 甲1の段落【0080】の記載によれば、リンオキソ酸基導入工程(a)において尿素を添加することが記載され、 甲1の段落【0044】の記載によれば、リンオキソ酸基導入工程(a)においては100~170℃の加熱処理を施すことが好ましいとされ、同じく段落【0082】~【0084】の記載によれば、得られた薬液含浸パルプを加熱処理後、脱水洗浄し、解繊処理することが記載されている。 そうすると、甲1には、次の「甲1発明」が記載されている。 「セルロースを含む繊維原料を、リンオキソ酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物により処理して、セルロースにリンオキソ酸基を導入するリンオキソ酸基導入工程(a)と、該工程(a)終了後に、リンオキソ酸基を導入したセルロースを解繊処理する解繊処理工程(b)により、微細繊維状セルロースを製造する方法であって、 リンオキソ酸は亜リン酸であり、リンオキソ酸の水溶液のpHは、pH3~7であり、リンオキソ酸基導入工程(a)において尿素を添加し、得られた薬液含浸パルプに100~170℃の加熱処理を施し、脱水洗浄した後、解繊処理する、方法。」 (イ)また、甲1(特に、【請求項1】、【請求項3】)には、上記の甲1発明の方法によりセルロース繊維を処理して得た微細繊維状セルロースに係る、次の「甲1’発明」も記載されている。 「1000nm以下の繊維幅を有し、かつ繊維を構成するセルロースのヒドロキシ基の一部がリンオキソ酸基で置換された微細繊維状セルロースであって、微細繊維状セルロースのヒドロキシ基の一部が、下記構造式 [式中、 a、b、m、nは自然数であり(ただし、a=b×mである)、 α1、α2、・・・、αn及びα’のうちの少なくとも1つはO-であり、残りはR又はORであり、 Rは、各々独立して、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基又はこれらの誘導基であり、 βは有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである] で表されるリンオキソ酸基で置換されたものである、 微細繊維状セルロース。」 イ.本件発明1について (ア)本件発明1と甲1発明を対比すると、本件発明1と甲1発明とは、セルロース繊維に添加する化合物について、本件発明1が「亜リン酸水素ナトリウム」を添加するのに対し、甲1発明は「リンオキソ酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物」であって、「リンオキソ酸は亜リン酸」を添加する点(以下「相違点1」)で相違し、その余で一致する。 (イ)この相違点1について検討する。 甲1の段落【0039】には、セルロース繊維に添加する化合物について、「本発明で使用する化合物Aとしては、リン酸及びポリリン酸などのリン酸基を有する化合物、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸又はこれらの塩若しくはエステルが挙げられる。」と記載され、「亜リン酸」の塩若しくはエステルが選択肢として示されているが、具体的に選択し得る化合物としては、段落【0040】~【0041】に、「これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、また、セルロースのヒドロキシ基にリン酸基を導入して解繊効率をより向上できることから、リン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウム、更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムなどが挙げられる。」、「これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましい。」としている。すなわち、「低コストであり、扱いやすく、また、セルロースのヒドロキシ基にリン酸基を導入して解繊効率をより向上できる」ことから「リン酸」の塩が好適とされており、「亜リン酸」の塩である「亜リン酸水素ナトリウム」については記載も示唆もされていない。 そうすると、甲1には、セルロース繊維に「亜リン酸水素ナトリウム」を添加することが記載されているとはいえず、上記相違点1は、実質的な相違点である。 そして、このセルロース繊維に「亜リン酸水素ナトリウム」を添加することは、提出された甲2(稲垣訓宏他2名、「亜リン酸セルロースの熱分解」、高分子化学、Vol.30、No.342(Oct.1973)、p.653-657)、甲3(国際公開第2014/185505号)及び甲4~甲6のいずれにも記載されておらず、上記相違点1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 よって、本件発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ)申立人は、意見書(「(2)訂正請求項1~5の新規性及び進歩性欠如について」)において、「甲第1号証及び甲第5号証には『亜リン酸の塩』が明記されているのだから、『亜リン酸水素ナトリウム』が開示されているに等しい」(意見書5頁)、「本件特許明細書においては、例えば『亜リン酸』と比較した『亜リン酸水素ナトリウム』の異質な効果や同質であるが際だって優れた効果が一切記載されておらず、・・・『亜リン酸』の下位概念である『亜リン酸水素ナトリウム』に限定したことによる、進歩性が認められる余地はない」(同8頁)旨主張している。 しかし、上記(イ)で述べたように、「亜リン酸」の塩が選択肢として示されているものの、甲1の記載では、セルロース繊維に添加する化合物として、「低コストであり、扱いやすく、また、セルロースのヒドロキシ基にリン酸基を導入して解繊効率をより向上できる」ことから「リン酸」の塩が好適とされ、具他的な化合物も、「リン酸」の塩が専ら例示されているのであり、これらの記載からみて、甲1に、セルロース繊維に添加する具体的な化合物として、「亜リン酸水素ナトリウム」が開示されているとすることはできない。 そして、本件特許明細書に、亜リン酸と比較した亜リン酸水素ナトリウムの効果について記載されていないとしても、セルロース繊維の解繊効率を向上させるために「亜リン酸水素ナトリウム」を添加することが、提出された甲1~甲6に記載されていない以上、その構成を想到することが容易であるとすることはできない。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 ウ.本件発明2~5について 本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記イ.のとおり、本件発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2~5も、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 エ.本件発明6、7について 本件発明6と甲1’発明を対比すると、本件発明6と甲1’発明とは、セルロース繊維のヒドロキシ基を置換する官能基について、本件発明6が「亜リン酸エステルのナトリウム塩」が導入されているのに対し、甲1’発明は、そのように特定されていない点(以下「相違点2」)で相違し、その余で一致する。 この相違点2について検討する。 セルロース繊維のヒドロキシ基を置換するために添加される化合物について、上記イ.で述べたように、甲1には、「亜リン酸」の塩若しくはエステルが選択肢として示されているが、段落【0040】に「セルロースのヒドロキシ基にリン酸基を導入して解繊効率をより向上できることから、リン酸基を有する化合物が好ましい」と記載され、具体的な化合物として、「リン酸」の塩が例示されており、セルロース繊維のヒドロキシ基を「亜リン酸エステルのナトリウム塩」で置換することは記載も示唆もされていない。 そうすると、甲1には、セルロース繊維のヒドロキシ基を「亜リン酸エステルのナトリウム塩」で置換することが記載されているとはいえず、上記相違点2は、実質的な相違点である。 そして、このセルロース繊維のヒドロキシ基を「亜リン酸エステルのナトリウム塩」で置換することは、提出された甲2~甲6のいずれにも記載されておらず、上記相違点2は、甲1’発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 よって、本件発明6は甲1’発明ではなく、甲1’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 また、本件発明7は、本件発明6の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明6は甲1’発明ではなく、甲1’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明6の発明特定事項をすべて含む本件発明7も、甲1’発明ではなく、甲1’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)甲5を主引用例とする理由について ア.甲5に記載された発明 甲5には、次の「甲5発明」が記載されている。 「セルロースを含む繊維原料を、リンオキソ酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物により処理して、セルロースにリンオキソ酸基を導入するリンオキソ酸基導入工程(a)と、該工程(a)終了後に、リンオキソ酸基を導入したセルロースを解繊処理する解繊処理工程(b)により、微細繊維状セルロースを製造する方法であって、 化合物は、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらの塩またはエステルによるものであり、 リンオキソ酸の水溶液のpHは、pH3~7であり、リンオキソ酸基導入工程(a)において100~170℃の加熱処理を施し、脱水洗浄した後、解繊処理する、方法。」 また、甲5(特に、【請求項5】)には、次の「甲5’発明」も記載されている。 「1~1000nmの繊維幅を有し、かつ繊維を構成するセルロースのヒドロキシ基の一部が、下記構造式に示す官能基で置換されたことを特徴とする、微細繊維状セルロース。 上記構造式において、a,b,m,nは自然数である(ただし、a=b×mである。)。 α1、α2、・・・、αn及びα’のうちの少なくとも1つはO-であり、残りはR、ORのいずれかである。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、およびこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。」 イ.本件発明1について 本件発明1と甲5発明を対比すると、本件発明1と甲5発明とは、 (相違点3)本件発明1の方法が、セルロース繊維に亜リン酸水素ナトリウムからなる添加物(A)を添加するのに対し、甲5発明の方法は、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらの塩またはエステルによるものであり、亜リン酸水素ナトリウムと特定するものではない点、 (相違点4)本件発明1の方法が、尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる添加物(B)を添加するのに対し、甲5発明の方法は添加しない点で相違し、その余で一致する。 まず、上記相違点3について検討する。 甲5の段落【0027】には、セルロース繊維に添加する化合物について、「本発明で使用する化合物Aとしては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらの塩またはエステルが挙げられる。」と記載され、「亜リン酸」の塩若しくはエステルが選択肢として示されているが、同じく段落【0027】に「低コストであり、扱いやすく、また、セルロースのヒドロキシ基にリン酸基を導入して解繊効率をより向上できることから、リン酸基を有する化合物が好ましい」と記載され、具体的な化合物についても、「リン酸」の塩が例示されており、セルロース繊維のヒドロキシ基を「亜リン酸エステルのナトリウム塩」で置換する化合物とすることは記載も示唆もされていない。 また、このセルロース繊維に「亜リン酸水素ナトリウム」を添加することは、提出された甲1~甲4及び甲6のいずれにも記載されておらず、上記相違点3は、甲5発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 よって、本件発明1は、相違点4について検討するまでもなく、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.本件発明2~5について 本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記イ.のとおり、本件発明1は、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2~5も、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.本件発明6、7について 本件発明6と甲5’発明を対比すると、本件発明6と甲5’発明とは、セルロース繊維のヒドロキシ基を置換する官能基について、本件発明6が「亜リン酸エステルのナトリウム塩」が導入されているのに対し、甲5’発明は、そのように特定されていない点(以下「相違点5」)で相違し、その余で一致する。 この相違点5について検討する。 セルロース繊維のヒドロキシ基を置換するために添加される化合物について、上記イ.で述べたように、甲5には、「亜リン酸」の塩若しくはエステルが選択肢として示されているが、段落【0027】に、セルロース繊維に添加する化合物について、「本発明で使用する化合物Aとしては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらの塩またはエステルが挙げられる。」と記載され、具体的な化合物として、「リン酸」の塩が好適とされており、セルロース繊維のヒドロキシ基を「亜リン酸エステルのナトリウム塩」で置換することは記載も示唆もされていない。 また、このセルロース繊維のヒドロキシ基を「亜リン酸エステルのナトリウム塩」で置換することは、提出された甲1~甲4及び甲6のいずれにも記載されておらず、上記相違点5は、甲5’発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 よって、本件発明6は、甲5’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 また、本件発明7は、本件発明6の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明6は、甲5’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明6の発明特定事項をすべて含む本件発明7も、甲5’発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ア.申立人は、特許異議申立書(56頁9行~66頁5行)において、本件発明1~7について、甲第7号証(特開2017-66272号公報。以下「甲7」という。)、又は甲第8号証(国際公開第2017/170908号。以下「甲8」という。)に基づき、特許法第29条の2に規定される要件を満たさない旨主張する。 しかし、甲7及び甲8のいずれにも、セルロース繊維に亜リン酸水素ナトリウムを添加すること、セルロース繊維のヒドロキシ基を「亜リン酸エステルのナトリウム塩」で置換することが記載されておらず、甲7又は甲8に記載された発明と本件発明1~7が同一であるとはいえない。 よって、特許法第29条の2の規定に係る申立人の上記申立理由は採用できない。 イ.また、申立人は、特許異議申立書(66頁6行~67頁4行)において、「リンオキソ基の置換率が大きく異なる条件で、リン酸エステル化セルロース微細繊維と亜リン酸エステル化セルロース微細繊維の黄変化を評価」しており、「実施例の試験系(条件設定及び評価手法)には重大な不備がある。このため、当業者であっても、本件特許明細書に記載された試験系によって、本発明の課題であるセルロース微細繊維の黄変化を解決することを到底認識することができない」旨、さらに、特許異議申立書(67頁5行~68頁7行)において、「リンオキソ基の置換率が同等の条件においての比較では、亜リン酸エステルを導入したセルロース微細繊維とリン酸エステルを導入したセルロース微細繊維との目視による黄変化には差違が無く」、「本発明の課題は、本件特許発明の構成からは解決されないことが明らかとなっている」、「化学的に不適切な試験条件を設定し、あたかも黄変化の抑制がなされているとの主観的評価のみが記載された本件特許明細書が、技術文献としての役割を果たすはずがないことは明らかである」旨主張する。 しかし、本件発明1~7の解決しようとする課題について、本件特許明細書には、「得られるセルロース微細繊維が黄色くなるとの問題が解決されたセルロース微細繊維の製造方法、及びセルロース微細繊維を提供すること」(段落【0006】)と記載され、この課題は、セルロース繊維に亜リン酸水素ナトリウムを添加し、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部に置換して亜リン酸エステルのナトリウム塩を導入することにより解決できることが、本件特許明細書中の試験例3~12により確認されている。 申立人は、甲4において、リン酸エステルの場合でも、亜リン酸エステルと同等以上の光透過率(微細化度)となるセルロース微細繊維が得られ、リン酸エステルと亜リン酸エステルとで、黄変化には差違がないことを示し、このことから、本件発明1~7の課題は、本件発明1~7の構成では解決されないとしているが、上述のように、セルロース繊維に亜リン酸水素ナトリウムを添加し、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部を置換して亜リン酸エステルのナトリウム塩を導入することにより、試験例3~12で、黄変化の官能試験において、いずれも評価が「◎:透明又は白くなった場合」か「○:アイボリーになった場合」の、良好な結果を得ることが確認されており、むしろ、セルロース繊維に亜リン酸水素ナトリウムを添加した場合に、黄変化の点で効果のあることは、申立人が提出した甲4の「実験成績証明書」のB-1~B-4の追試実験によっても、追認されていることである。 そうすると、本件特許明細書は、本件発明1~7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものといえ、また、本件発明1~7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものともいえない。 よって、特許法第36条第6項第1号又は第4項第1号の規定に係る申立人の上記申立理由は採用できない。 (4)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1~7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2019-700262

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