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特許異議申立

2019-700240

回路基板および窒化ケイ素焼結基板の製造方法

審判番号
2019-700240
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-509256外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年03月27日
審決日
2019年10月04日
公報発行日
2020年01月31日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1652.537-YAA(C04B) / P1652.121-YAA(C04B) / P1652.851-YAA(C04B) / P1652.853-YAA(C04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第36条第6項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6399252号発明「回路基板および窒化ケイ素焼結基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】
特許第6399252号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第6399252号の請求項1~11、13、14に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 11項目
【理 由】

第1 手続の経緯

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特許第6399252号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月24日(優先権主張 平成28年3月28日 (JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年9月14日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月3日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~11、13及び14に係る特許に対して、平成31年3月27日に特許異議申立人青木眞理により特許異議の申立てがされ、令和1年5月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年7月30日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたものであり、本件訂正請求に対して、特許異議申立人から令和1年9月3日付けで意見書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(なお、訂正箇所に下線を付した。)

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1において、「端部のボイド率veが1.00%以下である、」を「端部のボイド率veが1.00%以下であり、」に訂正し、この後に、「前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上である、」を追加する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項1において、「窒化ケイ素焼結基板を用いた回路基板であって、」の後に、「前記窒化ケイ素焼結基板における前記中央部の密度dcは、前記端部の密度deよりも小さく、かつ、前記中央部のボイド率vcは、前記端部のボイド率veより大きく、」を追加する。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項2において、「前記端部の密度deが3.160g/cm3以上であり、」を「前記端部の密度deが3.160g/cm3以上である、」に訂正し、「前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上である、」を削除する。

2 訂正要件の判断

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、訂正前の請求項1を引用する請求項2に記載された「前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上である」ことを請求項1の発明特定事項として追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載された「比dc/deが0.98以上」の上限を限定し、さらに、訂正事項1によって追加された「比ve/vcが0.50以上」の上限を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0022】に「本願発明者の詳細な検討によれば、窒化ケイ素焼結基板のサイズを大きくすると、基板の中央付近と端部とで種々の物性に差が生じ、基板面内での物性の均一性が低下する。特に、基板の中央付近では、焼結時にグリーンシートが収縮しにくいため、基板中央付近において、密度が小さくなることおよびボイド率が大きくなることが分かった。」と記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。

(3)訂正事項3について

訂正事項3は、訂正事項1による訂正後の請求項1との重複する記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について

訂正前の請求項2~10は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1~10は、一群の請求項である。

したがって、訂正事項1~3の特許請求の範囲の訂正は、この一群の請求項1~10について請求されたものである。

3 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

(1)本件訂正請求により訂正された請求項1~10に係る発明を含む、請求項1~14に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明14」といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面を有し、前記主面における中央部の密度dcと端部の密度deの比dc/deが0.98以上であり、前記主面における中央部のボイド率vcが1.80%以下であり、端部のボイド率veが1.00%以下であり、前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上である、窒化ケイ素焼結基板を用いた回路基板であって、前記窒化ケイ素焼結基板における前記中央部の密度dcは、前記端部の密度deよりも小さく、かつ、前記中央部のボイド率vcは、前記端部のボイド率veより大きく、8.0kV以上の絶縁破壊耐圧および6以上の絶縁破壊耐圧のワイブル係数を有する回路基板。
【請求項2】
前記中央部の密度dcが3.120g/cm3以上であり、前記端部の密度deが3.160g/cm3以上である、請求項1に記載の回路基板。
続きを表示(全49行)
【請求項3】
前記中央部の密度dcが3.140g/cm3以上であり、前記端部の密度deが3.160g/cm3以上であり、前記中央部のボイド率vcが1.3%以下である、請求項1に記載の回路基板。
【請求項4】
10pCの放電電荷量に達した時の電圧値で定義される部分放電開始電圧が、4.0kV以上である請求項1または2に記載の回路基板。
【請求項5】
10pCの放電電荷量に達した時の電圧値で定義される部分放電開始電圧が、5.0kV以上である請求項1または3に記載の回路基板。
【請求項6】
炭素含有量が0.20質量%以下である請求項1から5のいずれかに記載の回路基板。
【請求項7】
0.15mm以上2.0mm以下の厚さを有する請求項1から6のいずれかに記載の回路基板。
【請求項8】
前記主面は、150mm×170mmの長方形よりも大きい形状を有する請求項1から7のいずれかに記載の回路基板。
【請求項9】
前記主面は、1辺が250mmの正方形またはこれよりも小さい形状を有する請求項1から8のいずれかに記載の回路基板。
【請求項10】
前記主面は、1辺が220mmの正方形またはこれよりも小さい形状を有し、10以上の絶縁破壊耐圧のワイブル係数を有する請求項1から9のいずれかに記載の回路基板。
【請求項11】
80質量%以上98.3質量%以下のSi3N4粉末、酸化物換算で0.7質量%以上10質量%以下のMg化合物粉末および酸化物換算で1質量%以上10質量%以下の少なくとも1種の希土類元素の化合物粉末を混合し、混合粉末を得る工程(a)と、
前記混合粉末をスラリーにして複数のグリーンシートに成形する工程(b)と、
前記複数のグリーンシートを、窒化ホウ素粉末層を介して積層し、積層組立体を得る工程(c)と、
前記積層組立体を焼結炉内に配置し、前記積層組立体を焼結する工程(d)と
を包含し、
前記工程(c)において、前記窒化ホウ素粉末層の厚さは3μm以上20μm以下であり、
前記工程(d)は、
80Pa以下の真空雰囲気下、900℃以上1300℃以下の雰囲気温度を保持し、前記グリーンシートから炭素を除去する工程(d1)と、
前記工程(d1)の後、窒素雰囲気下、1600℃以上2000℃以下の雰囲気温度で前記グリーンシートを焼結させる工程(d2)とを
含み、
1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面を有する、窒化ケイ素焼結基板の製造方法。
【請求項12】
Si3N4換算で、80質量%以上98.3質量%以下のSi粉末、または、Si粉末およびSi3N4粉末、酸化物換算で0.7質量%以上10質量%以下のMg化合物粉末および酸化物換算で1質量%以上10質量%以下の少なくとも1種の希土類元素の化合物粉末を混合し、混合粉末を得る工程(a)と、
前記混合粉末をスラリーにして複数のグリーンシートに成形する工程(b)と、
前記複数のグリーンシートを、窒化ホウ素粉末層を介して積層し、積層組立体を得る工程(c)と、
前記積層組立体を焼結炉内に配置し、前記積層組立体を焼結する工程(d)と
を包含し、
前記工程(c)において、前記窒化ホウ素粉末層の厚さは3μm以上20μm以下であり、
前記工程(d)は、
80Pa以下の真空雰囲気下、900℃以上1300℃以下の雰囲気温度を保持し、前記グリーンシートから炭素を除去する工程(d1)と、
前記工程(d1)の後、窒素雰囲気下、1350℃以上1450℃以下の雰囲気温度で前記グリーンシート中の前記Si粉末を窒化させる工程(d2)と
前記工程(d2)の後、窒素雰囲気下で、1600℃以上2000℃以下の雰囲気温度で前記グリーンシートを焼結させる工程(d3)とを
含み、
1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面を有する、窒化ケイ素焼結基板の製造方法。
【請求項13】
前記主面は、150mm×170mmの長方形よりも大きい形状を有する請求項11または12に記載の窒化ケイ素焼結基板の製造方法。
【請求項14】
前記主面は、1辺が250mmの正方形またはこれよりも小さい形状を有する請求項11から13のいずれかに記載の窒化ケイ素焼結基板の製造方法。」

2 取消理由の概要

訂正前の請求項1~10に係る特許に対して、令和1年5月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

(1)特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する取消理由

訂正前の請求項1に記載された「主面における中央部の密度dcと端部の密度deの比dc/deが0.98以上であ」るとの特定事項、及び、訂正前の請求項1を引用する請求項2に記載された「前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上である」との特定事項は、その上限が特定されていないため、例えば、1.00を大幅に超える数値を包含するのか明らかでない。

そうしてみると、訂正前の請求項1及び2に係る発明、並びに、これらを引用する請求項3~10に係る発明は明確でないから、訂正前の請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6第2号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものである。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する取消理由

発明の詳細な説明の段落【0004】、【0020】、【0022】~【0024】の記載からみて、本件発明の課題は、大型の窒化ケイ素焼結基板では、密度及びボイド率の面内均一性が低く、絶縁信頼性が低いということであるところ、訂正前の請求項1に係る発明は、「中央部の密度dcと端部の密度deの比dc/de」の上限を特定しておらず、また、「中央部のボイド率vc」と「端部のボイド率ve」との相対的な関係も特定していないため、上記課題を解決できない態様を含んでいる。

そうしてみると、訂正前の請求項1に係る発明、並びに、これらを引用する請求項2~10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明といえないから、訂正前の請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものである。

3 取消理由の検討

(1)特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する取消理由

本件発明1では、「前記窒化ケイ素焼結基板における前記中央部の密度dcは、前記端部の密度deよりも小さく、かつ、前記中央部のボイド率vcは、前記端部のボイド率veより大きく」との事項が特定されることによって、「比dc/de」及び「比ve/vc」が1未満であること、つまり、上限が明らかになった。

したがって、本件発明1~10は明確である。

よって、特許法第36条第6項第2項に関する取消理由に理由はない。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する取消理由

本件発明1では、上記(1)において検討したように、「比dc/de」及び「比ve/vc」の上限が特定されたため、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載からみて、上記2(2)に示した本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものになった。

したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるし、本件発明1を引用する本件発明2~10も同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。

よって、特許法第36条第6項第1号に関する取消理由に理由はない。

(3)特許異議申立人の意見について

ア 特許異議申立人は、実施例3~28のボイド率比の上限値(0.93、実施例11)より大きいボイド率比0.97の参考例51を根拠にして、本件発明1の「前記主面における中央部の密度dcと端部の密度deの比dc/deが0.98以上」、「前記主面における中央部のボイド率vcが1.80%以下」、「端部のボイド率veが1.00%以下」、「前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上」、「前記中央部の密度dcは、前記端部の密度deよりも小さく」、「前記中央部のボイド率vcは、前記端部のボイド率veより大きく」及び「8.0kV以上の絶縁破壊耐圧および6以上の絶縁破壊耐圧のワイブル係数」であっても、「1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面」が得られないから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものでない旨を主張している(令和1年9月3日付け意見書の3.(1)参照)。

この点について検討すると、発明の詳細な説明の実施例及び参考例は、大型で絶縁信頼性が高い窒化ケイ素基板の回路基板を実現するとの課題に対して、回路基板の大きさが1辺120mmの正方形よりも大きいものを実施例、小さいものを参考例として区別したものであるから、参考例51が、本件発明1の「1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面」との特定事項以外の特定事項の全てを満たすものであっても、「1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面」との特定事項を欠くものは、本件発明1に当らないというにすぎない。

そして、発明の詳細な説明の実施例3~28には、本件発明1の「1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面」との特定事項を満たし、さらに、「前記主面における中央部の密度dcと端部の密度deの比dc/deが0.98以上」、「前記主面における中央部のボイド率vcが1.80%以下」、「端部のボイド率veが1.00%以下」、「前記中央部のボイド率vcと前記端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上」、「前記中央部の密度dcは、前記端部の密度deよりも小さく」、「前記中央部のボイド率vcは、前記端部のボイド率veより大きく」及び「8.0kV以上の絶縁破壊耐圧および6以上の絶縁破壊耐圧のワイブル係数」との発明特定事項も満たす回路基板が記載されているし、また、実施例3~28のボイド率比が上限値(0.93)を超えて1未満の範囲である程に、ボイド率の均一性が向上するため、本件発明の課題を解決できることは、技術常識に照らして明らかであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載から拡張又は一般化できる範囲のものといえる。

よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 特許異議申立人は、発明の詳細な説明の実施例3~28の中央部のボイド率vcの下限値は0.31%であり、端部のボイド率veの下限値は0.28%であるのに対して、本件発明1の「中央部のボイド率vcが1.80%以下」及び「端部のボイド率veが1.00%以下」との特定事項は、下限値が規定されていないため、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものといえない旨を主張している(令和1年9月3日付け意見書の3.(2)参照)。

この点について検討すると、発明の詳細な説明の記載からみて、本件発明1の「中央部のボイド率vcが1.80%以下」及び「端部のボイド率veが1.00%以下」との特定事項は、任意の下限値まで拡張することを意味しているとは認められないし、また、ボイド率は小さいほど絶縁破壊耐圧や絶縁破壊耐圧のワイブル係数が向上し、絶縁信頼性が向上することも技術常識に照らして明らかであるため、これら特定事項の数値範囲は、発明の詳細な説明の記載を超えているといえない。

よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ 特許異議申立人は、発明の詳細な説明の段落【0104】の記載及び図14の記載により、本件発明1の絶縁破壊耐圧が8.0kV以上と導き出しているが、本件発明1の「8.0kV以上の絶縁破壊耐圧」との特定事項は、上限値が規定されていないし、また、実施例3~28の絶縁破壊耐圧の上限値は8.7kVであることからして、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものといえない旨を主張している(令和1年9月3日付け意見書の3.(3)参照)。

この点について検討すると、発明の詳細な説明の記載からみて、本件発明1の「8.0kV以上の絶縁破壊耐圧」との特定事項は、任意の上限値まで拡張することを意味しているとは認められないし、また、絶縁破壊耐圧が大きいほど絶縁信頼性が向上することも技術常識に照らして明らかであるため、これら特定事項の数値範囲が、発明の詳細な説明の記載を超えているといえない。

よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

エ 特許異議申立人は、発明の詳細な説明の段落【0103】には、図13(a)から、一辺が250mmの正方形形状を有する窒化ケイ素焼結体基板を作製しても、中央部の密度dcが3.120g/cm3以上であり、端部の密度deが3.160g/cm3以上となり得ることが推定できることが記載されているが、図13(a)の中央部の密度の近似直線と250mmのラインとの交点は、3.120(g/cm3)を超える値となっていて、3.120(g/cm3)以上であるといえないから、「中央部の密度dcが3.120g/cm3以上」とする本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものといえない旨を主張している(令和1年9月3日付け意見書の3.(4)参照)。

この点について検討すると、発明の詳細な説明の段落【0103】記載された中央部の密度dc及び端部の密度deは、そもそも、図13(a)に示された実施例及び参考例の具体的な数値の近似直線から推定された数値であって誤差を含むものであり、また、段落【0029】の記載からみて、中央部の密度dcと端部の密度deとの差が0.06g/cm3未満であれば、密度の均一性を満足するため、本件発明の課題を解決できるといえるところ、一辺が250mmの正方形形状を有する窒化ケイ素焼結体基板においても、中央部の密度dcと端部の密度deとの差は、0.06g/cm3未満になっていることからして、本件発明1の「中央部の密度dcが3.120g/cm3以上」は、発明の詳細な説明の記載を逸脱するものでない。

よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の検討

(1)特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する申立理由

特許異議申立人は、訂正前の請求項1に係る発明において、「8.0kV以上の絶縁破壊耐圧」との特定事項は、その上限が特定されておらず、不明確であるし、また、「6以上の絶縁破壊耐圧のワイブル係数」との特定事項は、複数の回路基板の絶縁破壊耐圧から求められたワイブル係数を示すものなのか、1つの回路基板内の複数点の絶縁破壊耐圧から求めた単位回路基板あたりのワイブル係数を示したものなのか不明確であるから、訂正前の請求項1に係る発明は明確でない旨を主張している(特許異議申立書第9頁第20行~第10頁第4行)。

まず、「絶縁破壊耐圧」の特定事項について検討すると、本件発明1の「8.0kV以上の絶縁破壊耐圧」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識を踏まえれば、上限値がないことを意味しているわけでないことは明らかであるから、その上限値の特定がなくとも当該特定事項が不明確であるとまではいえない。

次に、「絶縁破壊耐圧のワイブル係数」の特定事項について検討すると、発明の詳細な説明の段落【0046】には、絶縁破壊耐圧のワイブル係数の求め方について、「Lnを自然対数とし、絶縁破壊確率(確率密度関数)をFとし、絶縁耐圧をV(kV)とした場合、回路基板から切り出した円板について、Ln(Ln(1/(1-F)))を縦軸に、Ln(V)を横軸にとり、プロットした測定点から、Ln(Ln(1/(1-F)))=mLn(V)+定数で示される近似式で求める。」と記載され、当該記載の「回路基板から切り出した円板」は、段落【0044】に記載された「窒化ケイ素焼結基板101の主面101aにおける中央部および端部の位置において切り出された円板」といえるから、本件発明1の「絶縁破壊耐圧のワイブル係数」の特定事項は、1つの回路基板内の複数点の絶縁破壊耐圧から求めた単位回路基板あたりのワイブル係数を示したものであることは明らかである。

したがって、本件発明1は明確であるから、特許異議申立人の主張する申立理由に理由はない。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する申立理由

ア 特許異議申立人は、訂正前の請求項1に係る発明の「中央部のボイド率vcが1.80%以下」及び「端部のボイド率veが1.00%以下」との特定事項は下限値が規定されておらず、また、「8.0kV以上の絶縁破壊耐圧および6以上の絶縁破壊耐圧のワイブル係数」との特定事項は上限値が規定されていないため、発明の詳細な説明の記載を超えているし、また、「比dc/deが0.98以上」との特定事項の0.98(下限値)、「中央部のボイド率vcが1.80%以下」との特定事項の1.80%(上限値)、「端部のボイド率veが1.00%以下」との特定事項の1.00%(上限値)、及び、「8.0kV以上の絶縁破壊耐圧および6以上の絶縁破壊耐圧のワイブル係数」との特定事項の8.0kV及び6(下限値)は、実施例3~28の数値範囲から外れているため、これら特定事項の数値範囲にまで拡張又は一般化することができないことから、訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない旨を主張している(特許異議申立書第10頁第25行~第13頁第7行)。

そこで検討するに、上記3(3)イ及びウで検討したとおり、本件発明1の「中央部のボイド率vcが1.80%以下」及び「端部のボイド率veが1.00%以下」との特定事項は任意の下限値まで拡張することを意味しているとは認められないし、「8.0kV以上の絶縁破壊耐圧および6以上の絶縁破壊耐圧のワイブル係数」との特定事項も任意の上限値まで拡張することを意味しているとは認められないし、さらに、ボイド率は小さいほど、あるいは、絶縁破壊耐圧や絶縁破壊耐圧のワイブル係数が大きいほど、絶縁信頼性が向上することも技術常識に照らして明らかであるから、これら特定特定事項の下限値または上限値が規定されていなくとも、発明の詳細な説明の記載を超えているといえない。

また、発明の詳細な説明の段落【0029】には、「dc/deが0.98以上であることにより、窒化ケイ素焼結基板101の中央部と端部との密度差が小さくなり、窒化ケイ素焼結基板101における密度の均一性高められる。」ことが記載されており、さらに、発明の詳細な説明の段落【0103】~【0105】には、「中央部のボイド率vcが1.80%以下であり、端部のボイド率veが1.00%以下であり」、「絶縁破壊電圧(絶縁破壊耐圧)は8kV以上であり」、「絶縁破壊耐圧のワイブル係数は6以上であ」ることで、「耐圧および絶縁信頼性に優れ、かつ、これらの基板面内での均一性に優れることが推定される」ことが記載されていることから、「比dc/deが0.98以上」との特定事項の0.98(下限値)、「中央部のボイド率vcが1.80%以下」との特定事項の1.80%(上限値)、「端部のボイド率veが1.00%以下」との特定事項の1.00%(上限値)、及び、「8.0kV以上の絶縁破壊耐圧および6以上の絶縁破壊耐圧のワイブル係数」との特定事項の8.0kV及び6(下限値)においても、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるため、これら特定事項の数値範囲にまで拡張又は一般化できる範囲のものといえる。

よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明といえるから、特許異議申立人の主張する申立理由に理由はない。

イ 特許異議申立人は、訂正前の請求項2に係る発明の「中央部の密度dc」及び「端部の密度de」の特定事項の下限値は、実施例3~28の数値範囲から外れているため、これら数値範囲にまで拡張又は一般化することができないし、また、訂正前の請求項2及び3に係る発明の「中央部の密度dc」及び「端部の密度de」の特定事項、並びに、訂正前の請求項4及び6に係る発明の「部分放電開始電圧」の特定事項は、上限値が規定されていないため、発明の詳細な説明の記載を超えているし、さらに、訂正前の請求項3に係る発明の「中央部のボイド率vc」の特定事項、及び、訂正前の請求項6に係る発明の「炭素含有量」の特定事項は、下限値が特定されていないため、発明の詳細な説明の記載を超えているから、訂正前の請求項2~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない旨を主張している(特許異議申立書第13頁第8行~第14頁第10行、第14頁第21行~第16頁第15行)。

しかしながら、上記アで検討したとおり、本件発明1は、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであって、発明の詳細な説明に記載された発明といえるから、本件発明1をさらに減縮した本件発明2~6も、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであって、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。

よって、特許異議申立人の主張する申立理由に理由はない。

(3)特許法第29条第2項(進歩性)に関する申立理由

ア 特許異議申立人は、訂正前の請求項1~10に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明、及び、下記の甲第2号証~甲第5号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、訂正前の請求項11、13及び14に係る発明は、下記の甲第6号証に記載された発明、並びに、下記の甲第2号証及び甲第5号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~11、13及び14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨を主張している(特許異議申立書第16頁第16行~第23頁第12行)。

(証拠方法)

甲第1号証:特開2003-192445号公報
甲第2号証:特許第5673106号公報
甲第3号証:特開2014-73937号公報
甲第4号証:特許第5142198号公報
甲第5号証:特許第3797905号公報
甲第6号証:特開2015-164184号公報

(なお、特許異議申立人が証拠方法として提出した甲第3号証(特許第5928896号公報)及び甲第6号証(特許第6396817号公報)は、いずれも、本件特許に係る出願の優先日後に頒布されたものであるため、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された、これら特許の公開公報をそれぞれ甲第3号証、甲第6号証とした。)

イ 甲号証に記載された発明

(ア)甲第1号証に記載された発明

甲第1号証には、

「【請求項1】 焼結助剤を含有する窒化けい素焼結体から成る窒化けい素基板において、上記窒化けい素焼結体中に実質的に気孔が存在しないことを特徴とする窒化けい素基板。」、

「【0067】また焼結体の気孔率は表面性状(表面粗さ)、リーク電流の発生量、熱伝導率および強度に大きく影響するため検出限界(0.01%未満)となるように製造する。気孔率が0.01%以上となると、リーク電流が急増するとともに熱伝導の妨げとなり、焼結体の絶縁性および熱伝導率が低下するとともに、焼結体の強度低下が起こる。なお、上記気孔率はアルキメデス法により測定される。」、

「【0096】上記窒化けい素基板をレーザーダイオード等のサブマウント材やパワーモジュールや回路基板として使用する場合は、窒化けい素基板上に薄膜や金属回路板を一体に接合して設け、薄膜付き窒化けい素基板や窒化けい素回路基板として用いることになる。」、及び、

「【0101】・・・それぞれ実施例1~7に係る窒化けい素基板を調製した。なお、各基板のサイズは縦50mm×横40mmに統一した。」

ことが記載されており、これら記載を整理すると、

「縦50mm×横40mmのサイズを有し、窒化けい素焼結体中に実質的に気孔が存在せず、気孔率が0.01%未満である窒化けい素基板を用いた回路基板。」

の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)甲第6号証に記載された発明

甲第6号証には、

「【0081】
まず、β化率が10%(即ち、α化率が90%)、純度が98%である窒化珪素の粉末と、添加成分として酸化マグネシウム(MgO)、酸化エルビウム(Er2O3)、酸化アルミニウム(Al2O3)および酸化モリブデン(MoO3)の各粉末を、回転ミルを用いて湿式混合し、粒径(D90)が1μm以下となるまで混合・粉砕してスラリーとした。なお、このとき、表1に示す含有量となるカルシウム粉末についても添加した。
【0082】
ここで、上記各粉末の含有量は、窒化珪素質基板におけるマグネシウム、エルビウム、アルミニウムおよびモリブデンの各含有量が酸化物換算でそれぞれ2.5質量%、14質量%、0.3質量%および0.5質量%となるようにそれぞれ秤量した。
【0083】
次に、得られたスラリーに有機バインダを加えた後、ASTM E 11-61に記載されている粒度番号が250のメッシュの篩いに通した後に噴霧乾燥機を用いて乾燥させることによって、窒化珪素質顆粒を得た。そして、粉末圧延法を用いて、窒化珪素質顆粒をシート状に成形してセラミックグリーンシートとし、このセラミックグリーンシートを所定の長さに切断し、平板状の窒化珪素質成形体を得た。
【0084】
次に、得られた窒化珪素質成形体を相対密度が75%である窒化珪素質焼結体からなるこう鉢の内部に入れた。なお、このとき、窒化珪素、酸化マグネシウムおよび希土類金属の酸化物等の成分を含んだ共材を、窒化珪素質成形体の100質量部に対して6質量部の量で窒化珪素質成形体の周囲に配置した状態で、黒鉛抵抗発熱体が設置された焼成炉内に入れて焼成した。
【0085】
焼成条件については、室温から500℃までは真空雰囲気中にて昇温し、その後、窒素ガスを導入して、窒素分圧を100kPaに維持した。そして、焼成炉内の温度を上げて1690℃で5時間保持した。そして、降温速度を200℃/時間として冷却することによって、試料No.1~7の窒化珪素質基板を得た。」

ことが記載されており、これら記載を整理すると、

「窒化珪素の粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化エルビウム粉末、酸化アルミニウム粉末及び酸化モリブデン粉末を、窒化珪素質基板におけるマグネシウム、エルビウム、アルミニウムおよびモリブデンの各含有量が酸化物換算でそれぞれ2.5質量%、14質量%、0.3質量%および0.5質量%となるよう混合・粉砕してスラリーとし、得られたスラリーに有機バインダを加えた後、噴霧乾燥して窒化珪素質顆粒とし、得られた窒化珪素質顆粒を、粉末圧延法によりシート状にして、セラミックグリーンシートとし、焼成炉内で、室温から500℃までは真空雰囲気中にて昇温し、その後、窒素ガスを導入して、1690℃で5時間焼結して窒化珪素質基板とする、窒化珪素質基板の製造方法。」の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。

ウ 当審の判断

(ア)本件発明1~10について

本件発明1と甲1発明を対比すると、本件発明1は、窒化ケイ素焼結基板が「1辺が120mmの正方形よりも大きい形状」であり、窒化ケイ素焼結基板の密度及びボイド率のばらつきについて、「主面における中央部の密度dcと端部の密度deの比dc/deが0.98以上」であり、「中央部の密度dcは、端部の密度deよりも小さく」、及び、「中央部のボイド率vcと端部のボイド率veとの比ve/vcが0.50以上」であり、「中央部のボイド率vcは、端部のボイド率veより大き」いことによって特定しているのに対して、甲1発明では、窒化ケイ素焼結基板の大きさが「縦50mm×横40mmのサイズ」であって、窒化ケイ素焼結基板の密度及びボイド率のばらつきが明らかでない点で少なくとも相違している。

そこで、上記相違点について検討すると、甲第2号証~甲第5号証のいずれにも、1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面を有する窒化ケイ素焼結基板の中央部の密度dcと端部の密度deの比dc/de、及び、中央部のボイド率vcと端部のボイド率veの比ve/vcを調整することは記載されていないから、甲1発明において、窒化ケイ素焼結基板を1辺が120mmの正方形よりも大きい形状とすると共に、密度比dc/deを0.98以上であり、密度dcを密度deよりも小さく、ボイド率比ve/vcを0.50以上であり、ボイド率vcを端部のボイド率veより大きくすることは、当業者が容易に想到し得ることといえない。

よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

また、本件発明2~10は、本件発明1を引用するものであって、少なくとも上記相違点が存在するから、本件発明2~10も、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

よって、特許異議申立人の主張する申立理由に理由はない。

(イ)本件発明11、13及び14について

本件発明11と甲6発明を対比すると、本件発明11は、「1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面を有する」窒化ケイ素焼結基板の製造方法であって、「複数のグリーンシートを、窒化ホウ素粉末層を介して積層し」て焼結する際の「窒化ホウ素粉末層の厚さ」を「3μm以上20μm以下」としているのに対して、甲6発明では、この点が明らかでない点で少なくとも相違している。

そこで、上記相違点について検討すると、甲第2号証及び甲第5号証のいずれにも、1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の主面を有する窒化ケイ素焼結基板の製造方法において、複数のグリーンシートと積層する窒化ホウ素粉末層の厚さを、3μm以上20μm以下とすることは記載されていないから、甲6発明において、1辺が120mmの正方形よりも大きい形状の窒化ケイ素焼結基板を製造するに際して、複数のグリーンシートを、厚さが3μm以上20μm以下の窒化ホウ素粉末層を介して積層して焼結することは、当業者が容易に想到し得ることといえない。

よって、本件発明11は、甲第6号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第5号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

また、本件発明13及び14は、本件発明11を引用するものであって、少なくとも上記相違点が存在するから、本件発明13及び14も、甲第6号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第5号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

よって、特許異議申立人の主張する申立理由に理由はない。

5 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1~11、13及び14に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1~11、13及び14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2019-700240

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