特許異議申立
2019-700198
難燃性ポリアミド組成物
- 審判番号
- 2019-700198
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-522057
- 登録番号
- 特許第6387569号(P6387569)
- 請求日
- 2019年03月12日
- 審決日
- 2019年05月21日
- 公報発行日
- 2019年07月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
- 【権利者代理人】池田 成人
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】酒巻 順一郎
- 【権利者代理人】熊谷 祥平
- 【異議申立人】野中 恵
- 審判長/審判官
- 審判長 大熊 幸治
- 審判官 井上 猛
- 審判官 海老原 えい子
- 分類
- P1651.121-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条、特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6387569号発明「難燃性ポリアミド組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6387569号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6387569号(請求項の数12。以下,「本件特許」という。)は,平成24年7月24日(パリ条約による優先権主張:平成23年7月27日,欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特許出願(特願2014-522057号)に係るものであって,平成30年8月24日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成30年9月12日である。)。
その後,平成31年3月12日に,本件特許の請求項1~12に係る特許に対して,特許異議申立人である野中恵(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~12に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
(A)融解温度(Tm-A)を有する半結晶性半芳香族ポリアミド;
(B)融解温度(Tm-B)を有する半結晶性脂肪族ポリアミド;
(C)ホスフィン酸および/またはジホスフィン酸の金属塩であるハロゲン不含難燃剤システム;
(D)無機充填剤および/または繊維強化材;ならびに
(E)他の成分からなる難燃性ポリアミド組成物であって,
-(A):(B)の重量比が,50:50~75:25の範囲であり;
-(A)が,10,000~25,000g/モルの範囲の数平均分子量(Mn-A)を有し;
-(B)が,7,500~50,000g/モルの範囲の数平均分子量(Mn-B)を有し;
-Tm-Aが290~350℃の範囲であり,
-Tm-AがTm-Bよりも高く,
(A)/(B)50:50~75:25の範囲の重量比のポリアミド(A)およびポリアミド(B)30~90重量%;
(C)(ジ)ホスフィン酸金属塩5~25重量%;
(D)無機充填剤および/または繊維強化材0~60重量%;
(E)他の成分0~40重量%;からなり,
(E)が,酸捕捉剤,耐衝撃性改良剤,可塑剤,安定剤,加工助剤,固体潤滑剤,着色剤及びナノ粘土からなる群より選択される少なくとも一種であり,
重量パーセンテージ(重量%)は,組成物の全重量に対するパーセンテージであり,(A)~(E)の合計は100%である,
難燃性ポリアミド組成物。
【請求項2】
Mn-Bが,10,000~40,000g/モルの範囲である,請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項3】
Tm-Aが300~340℃の範囲であり,かつ/またはTm-Bが250~300℃の範囲である,請求項1または2に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項4】
(A):(B)の重量比が55:45~72.5:27.5の範囲である,請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項5】
前記難燃剤システム(C)が(ジ)ホスフィン酸アルミニウムを含む,請求項1~4のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項6】
前記組成物の全重量に対して少なくとも5重量%の総量で無機充填剤および/または繊維強化材(D)を含む,請求項1~5のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項7】
難燃剤(C)を5~25重量%,ガラスまたは炭素繊維強化材を5~60重量%含む難燃性ポリアミド組成物であって,前記重量%が前記組成物の全重量に対する%である,請求項1~6のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項8】
組成物が射出成形機で加熱されてポリマー溶融物が形成される工程を含む,射出成形によって難燃性ポリアミド組成物から成形部品を製造する方法において,
前記組成物が,融解温度(Tm-A)を有する半結晶性半芳香族ポリアミド(A);および融解温度(Tm-B)を有する半結晶性脂肪族ポリアミド(B);を含む,請求項1~7のいずれか一項に記載の難燃性ポリアミド組成物であり;かつ前記溶融物が,Tm-Aを最大で10℃超える温度に加熱されることを特徴とする,方法。
【請求項9】
前記ポリマー溶融物が,少なくとも100℃,好ましくは110~150℃の範囲の金型温度を有する金型に射出される,請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物から製造される物品。
【請求項11】
コネクター用のプラスチック部品である,請求項10に記載の物品。
【請求項12】
電子デバイス用のハウジングまたは補強フレームである,請求項10に記載の物品。
第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件発明1~12は,下記1及び2のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1~12に係る特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記3の甲第1号証~甲第11号証(以下,「甲1」等という。)を提出する。
1 取消理由1(進歩性)
本件発明1~12は,甲1に記載された発明及び甲2~11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
2 取消理由2(サポート要件)
本件発明1~12は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
3 証拠方法
・甲1 国際公開第2010/081871号(訳文:特表2012-515243号公報)
・甲2 特開2006-37100号公報
・甲3 特開2008-280535号公報
・甲4 特表2010-513652号公報
・甲5 国際公開第2011/030911号
・甲6 特表2006-504833号公報
・甲7 特開2000-63664号公報
・甲8 国際公開第2006/054774号
・甲9 特開2010-254760号公報
・甲10 特開2009-270107号公報
・甲11 国際公開第2009/037858号
第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の訳文として,特表2012-515243号公報を用いる。当該公報は,甲1に係る外国語でなされた国際特許出願について提出された日本語による翻訳文に記載した事項を掲載した公表公報である。以下,記載箇所の特定は,訳文に基づいて行う。
甲1の記載(請求項1,6)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「光学的に透明なポリマーフィルムもしくは押出製品を作製するための半結晶性ポリアミド(A)を含むポリマー組成物であって,
前記半結晶性ポリアミド(A)が,少なくとも270℃の融解温度(Tm-A)を有し,かつ前記半結晶性ポリアミド(A)が半芳香族の半結晶性ポリアミドからなり,前記ポリマー組成物の総重量に対して少なくとも60重量%の量で存在し,
前記ポリマー組成物が,270℃未満の融解温度を有する半結晶性の脂肪族ポリアミドを含み,
前記ポリマー組成物が少なくとも270℃の融解温度(Tm-C)を有し,
前記フィルムもしくは前記押出製品の一部が,ASTM D1003Aに準拠した方法で測定される,12%未満のヘーズおよび少なくとも88%の光透過率を有する,ポリマーフィルムもしくは押出製品を作製するための半結晶性ポリアミド(A)を含むポリマー組成物。」(以下,「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「半結晶性ポリアミド(A)」は,「少なくとも270℃の融解温度(Tm-A)」を有し,「半芳香族の半結晶性ポリアミド」からなるものであるから,本件発明1における「(A)融解温度(Tm-A)を有する半結晶性半芳香族ポリアミド」に相当する。
甲1発明における「270℃未満の融解温度を有する半結晶性の脂肪族ポリアミド」は,本件発明1における「(B)融解温度(Tm-B)を有する半結晶性脂肪族ポリアミド」に相当する。
甲1発明における「光学的に透明なポリマーフィルムもしくは押出製品を作製するための半結晶性ポリアミド(A)を含むポリマー組成物」は,本件発明1における「ポリアミド組成物」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,少なくとも,
「(A)融解温度(Tm-A)を有する半結晶性半芳香族ポリアミド;
(B)融解温度(Tm-B)を有する半結晶性脂肪族ポリアミド;
を含むポリアミド組成物であって,
-Tm-AがTm-Bよりも高い,
ポリアミド組成物。」
の点で一致し,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,ポリアミド組成物が,さらに,「(C)ホスフィン酸および/またはジホスフィン酸の金属塩であるハロゲン不含難燃剤システム」を組成物の全重量に対して「5~25重量%」含む,「難燃性」のポリアミド組成物であるのに対して,甲1発明では,ポリマー組成物が,難燃剤システムを含むものではなく,難燃性のポリマー組成物ではない点。
イ 相違点1の検討
(ア)甲1発明は,光学的に透明なポリマーフィルムもしくは押出製品を作製するための半結晶性ポリアミド(A)を含むポリマー組成物に関するものであるところ,甲1には,当該ポリマー組成物に難燃剤を含有させることについては,記載されていない。
甲1には,ポリマー組成物が,1つ以上の添加剤を任意選択的に含むことが記載されており(請求項7,【0053】),当該添加剤について,「この添加剤,またはこれらの添加剤は,透明度が損なわれない,少なくとも有意の程度に損なわれないように個々の量および組み合わせが選択されるという条件で,透明なフィルムに使用されるあらゆる補助添加剤であることができる。これらの添加剤は,可塑剤,安定剤,染料,蛍光増白剤,着色剤,滑剤,ナノスケール充填剤および強化材からなる群から選択されてもよく,好ましくは熱安定剤および/またはナノスケール充填剤を含む。」(【0053】)との記載があるが,難燃剤は記載されていない。
(イ)また,甲1には,甲1発明に係るポリマー組成物の難燃性を改善することについても,記載されていない。
甲1には,ポリマー組成物で作製された光学的に透明なポリマーフィルムもしくは押出製品の使用について,押出製品については,「容器または注射器などの,スチーム滅菌可能な医療物品」(請求項14,【0070】)に使用することが記載され,ポリマーフィルムについては,「単層状および多層状包装材料」における「バリアフィルム」(【0072】),「例としては,電極,センサー,光電池およびその他の光学素子,ディスプレー構成要素における,PCBキャリアなどとしての,より具体的には,電子ペーパーおよび有機ELディスプレーを含む,LCDおよびOLEDなどの,フラットパネルディスプレーおよびフレキシブルディスプレー用のバックプレイン」などの「電気および電子用途」(【0073】),「超高バリア性能をもたらす,無機物堆積用の基材材料」(【0074】)に使用することが記載されている。
以上のとおり,甲1には,ポリマー組成物で作製された光学的に透明なポリマーフィルムもしくは押出製品を各種用途に使用することが記載されているものの,これらの用途において,難燃性が必要とされることや,難燃性を改善すべきことについては記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。また,ポリアミドが,その用途によらず,常に難燃性が必要とされ,必ず難燃剤を含有させて使用するものであることが技術常識であるともいえない。そして,これらのことは,甲2~11の記載を考慮したとしても,変わるものではない。
(ウ)以上によれば,甲1発明に係るポリマー組成物には,難燃性を改善すべきとの課題が存在するとはいえないから,甲1発明に係るポリマー組成物において,難燃性を改善するために,難燃剤を含有させる動機付けがあるとはいえない。
そうすると,申立人が主張するように,仮に,甲2に相違点1に係る構成が記載されているとしても,甲1発明に係るポリマー組成物において,難燃性を改善するために,さらに,「(C)ホスフィン酸および/またはジホスフィン酸の金属塩であるハロゲン不含難燃剤システム」を組成物の全重量に対して「5~25重量%」含有させ,「難燃性」のポリマー組成物とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
ウ 小括
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲2~11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~12について
本件発明2~12は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲2~11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2~12についても同様に,甲1に記載された発明及び甲2~11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1~12は,いずれも,甲1に記載された発明及び甲2~11に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2(サポート要件)
(1)申立人は,実施例において,本件発明1の効果である「良好なプレートアウト性能,良好な表面外観」が示されているのは,半結晶性半芳香族ポリアミドが「PA4T/66」であり,半結晶性脂肪族ポリアミドが「PA-46」又は「PA-66」の場合のみであり,それ以外の実施例は記載されていないが,ポリアミドは,その構成成分の違いにより,その性質が変化することは技術常識であり,物性が変化すれば,当然,生産性や表面外観も異なってくるため,上記以外のポリアミドを用いた場合に,本件発明1の課題が解決できるか不明であるから,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであると主張する。また,本件発明2~12についても同様に主張する。
しかしながら,本件明細書には,半結晶性半芳香族ポリアミドとしては,「原則的に,成形組成物の製造に使用される,いずれの半結晶性半芳香族ポリアミドも使用することができる」(【0011】)こと,半結晶性脂肪族ポリアミドとしては,「多種多様なポリアミドを使用することができる」(【0016】)ことが記載されている。
そして,本件明細書には,申立人が指摘するとおりの半結晶性半芳香族ポリアミド及び半結晶性脂肪族ポリアミドを用いた実施例(実施例I~III)及び比較例(比較例A~D)が記載されており(【0040】~【0045】,表1),これらの実施例において,本件発明1の課題,すなわち,流動性,ウェルドライン強度,表面外観(光沢),着色,ブルーミング,難燃性,腐食等の特性に関し,優れた特性のバランスを有し,かつ良好なプレートアウト性能を有する,ハロゲン不含難燃性成形組成物を提供するとの課題(【0003】,【0006】)が解決できることが示されている。
そうすると,当業者であれば,上記実施例以外の場合であっても,各種の半結晶性半芳香族ポリアミド及び半結晶性脂肪族ポリアミドを用いることにより,同実施例と同様に,本件発明1の課題が解決できることが理解できるといえる。
これに対して,申立人は,本件発明1がその課題を解決できる範囲を超えるものであることの具体的な根拠を何ら示していない。
以上によれば,申立人が主張するように,本件明細書に,実施例として,半結晶性半芳香族ポリアミドが「PA4T/66」であり,半結晶性脂肪族ポリアミドが「PA-46」又は「PA-66」の場合が記載されるのみであるからといって,本件発明1について,特許請求の範囲の範囲がサポート要件を満たしていないなどということはできない。また,本件発明2~12についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。
(2)申立人は,本件明細書には,実施例で用いた半結晶性半芳香族ポリアミド及び半結晶性脂肪族ポリアミドの数平均分子量の具体的な数値が記載されていないため,当該実施例が本件発明1を満たすのか不明であるから,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載したものではないと主張する。また,本件発明2~12についても同様に主張する。
しかしながら,本件明細書に記載される実施例I~III(表1)は「実施例」である以上,実施例I~IIIで用いた半結晶性半芳香族ポリアミド及び半結晶性脂肪族ポリアミドの数平均分子量は,本件発明1における数値範囲を満たすと解するのが自然である。
仮に,実施例I~IIIで用いた半結晶性半芳香族ポリアミド及び半結晶性脂肪族ポリアミドの数平均分子量が,本件発明1における数値範囲を満たすものでないとしても,実施例I~IIIにおいて,本件発明1の課題が解決できることが示されていることは,上記(1)のとおりである。そうすると,当業者であれば,数平均分子量が本件発明1における数値範囲を満たす半結晶性半芳香族ポリアミド及び半結晶性脂肪族ポリアミドを用いることにより,本件発明1の課題がより好適に解決できることが理解できるといえる。
以上によれば,申立人が主張するように,本件明細書に,実施例において用いた半結晶性半芳香族ポリアミド及び半結晶性脂肪族ポリアミドの数平均分子量の具体的な数値が記載されていないからといって,本件発明1について,特許請求の範囲の範囲がサポート要件を満たしていないなどということはできない。また,本件発明2~12についても同様である。
よって,申立人の主張は理由がない。
(3)したがって,取消理由2(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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