特許異議申立
2019-700042
光学ガラス、プレス成形用プリフォーム、光学素子およびそれらの製造方法
- 審判番号
- 2019-700042
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-129606外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年01月24日
- 審決日
- 2019年03月15日
- 公報発行日
- 2019年05月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】HOYA株式会社
- 【権利者代理人】前田・鈴木国際特許業務法人
- 【異議申立人】宮園 祐爾
- 分類
- P1651.537-Y (C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6364382号発明「光学ガラス、プレス成形用プリフォーム、光学素子およびそれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6364382号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6364382号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、2008年(平成20年)2月27日(優先権主張 平成19年3月6日 日本国)を国際出願日とする特願2009-503981号の一部を平成24年4月27日に新たな特許出願とした特願2012-102826号の一部を平成27年6月29日に新たな特許出願としたものであって、平成30年7月6日にその特許権の設定登録がされ、平成30年7月25日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、平成31年1月24日に特許異議申立人宮園祐爾により特許異議の申立てがされたものである。
2 本件特許発明
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、「本件特許発明1~4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
3 申立理由の概要
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1は、光学ガラスを物性要件と組成要件によって特定しているところ、以下のア~ケのとおり、本件特許発明1の組成要件で特定されるガラス組成は極めて広範囲であるのに対して、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)に開示された、物性要件を満たす実施例1の光学ガラス(No.1~4、6、10~12、18)のガラス組成は、ごく一部の組成範囲に限定されているから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである。
ア P5+含有量
本件特許発明1のP5+含有量は3~30カチオン%であるのに対して、上記実施例1のP5+含有量の範囲は10.25~29.0カチオン%と限定された範囲となっており、特に、本件特許発明1と本件実施例の下限値において乖離が大きい。そして、P5+は本件特許発明の成分で唯一のネットワークフォーマーである(本件特許明細書段落【0022】)ことから、P5+含有量を本件特許発明1の下限値の3カチオン%まで下げた場合に、本件特許発明1のガラス組成がガラス化する蓋然性が高いと当業者が認識できない。
イ Mg2+含有量
本件特許発明1のMg2+含有量は0~10カチオン%であるのに対して、上記実施例1のMg2+含有量の範囲は4.07~6.8カチオン%と限定された範囲となっており、特に、本件特許発明1の下限値は0カチオン%と任意成分であるのに対して、上記実施例1の下限値は4.07カチオン%と必須成分となっている。そして、Mg2+はガラスの安定性に寄与する成分である(本件特許明細書段落【0024】)ことから、Mg2+含有量を0カチオン%とした場合に、安定的にガラスが製造できる蓋然性が高いと当業者が認識できない。
ウ Ca2+含有量
本件特許発明1のCa2+含有量は0~30カチオン%であるのに対して、上記実施例1のCa2+含有量の範囲は4.0~23.26カチオン%と限定された範囲となっており、特に、本件特許発明1の下限値は0カチオン%と任意成分であるのに対して、上記実施例1の下限値は4.0カチオン%と必須成分となっている。そして、Ca2+はガラスの安定性に寄与する成分である(本件特許明細書段落【0024】)ことから、Ca2+含有量を0カチオン%とした場合に、安定的にガラスが製造できる蓋然性が高いと当業者が認識できない。
エ Sr2+含有量
本件特許発明1のSr2+含有量は0~30カチオン%であるのに対して、上記実施例1のSr2+含有量の範囲は5.0~15.09カチオン%と限定された範囲となっている。そして、本件特許発明1の下限値は0カチオン%と任意成分であるのに対して、上記実施例1の下限値は5.0カチオン%と必須成分となっており、Sr2+含有量を0カチオン%とした場合に、安定的にガラスが製造できる蓋然性が高いと当業者が認識できない。また、本件特許発明1と上記実施例1の上限値は乖離が大きく、本件特許明細書に「特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れる」(段落【0024】)と記載されていることから、Sr2+含有量を30カチオン%にした場合に、他の成分とのバランスが崩れ、安定的にガラスが製造できる蓋然性が高いと当業者が認識できない。
オ Ba2+含有量
本件特許発明1のBa2+含有量は0~30カチオン%であるのに対して、上記実施例1のBa2+含有量の範囲は8.52~25.0カチオン%と限定された範囲となっている。そして、本件特許発明1の下限値は0カチオン%と任意成分であるのに対して、上記実施例1の下限値は8.52カチオン%と必須成分となっており、Ba2+含有量を0カチオン%にした場合に、安定的にガラスが製造できる蓋然性が高いと当業者が認識できない。また、本件特許発明1と上記実施例1の上限値は乖離が大きく、本件特許明細書に「特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れる」(段落【0024】)と記載されていることから、Ba2+含有量を30カチオン%にした場合に、他の成分とのバランスが崩れ、安定的にガラスが製造できる蓋然性が高いと当業者が認識できない。
カ Li+含有量
本件特許発明1のLi+含有量は0~30カチオン%であるのに対して、上記実施例1のLi+含有量の範囲は6.12~21.0カチオン%と限定された範囲となっており、本件特許発明1の下限値は0カチオン%と任意成分であるのに対して、上記実施例1の下限値は6.12カチオン%と必須成分となっているし、また、本件特許発明1と上記実施例1の上限値には大きな乖離がある。そして、Li+はガラスの粘性を下げ、過剰の導入は安定性を低下させる(本件特許明細書段落【0025】)ことから、Li+含有量を0カチオン%にした場合や30カチオン%にした場合に、安定的にガラスが製造できる蓋然性が高いと当業者が認識できない。
キ Y3+含有量
本件特許発明1のY3+含有量は0~2.68カチオン%であるのに対して、上記実施例1のY3+含有量の範囲は1.0~2.68カチオン%と限定された範囲となっており、特に、本件特許発明1の下限値は0カチオン%と任意成分であるのに対して、上記実施例1の下限値は1.0カチオン%と必須成分となっている。そして、Y3+は光学ガラスを低分散に保つ成分である(本件特許明細書段落【0026】)ことから、Y3+含有量を0カチオン%とした場合に、「アッベ数(νd)が70を超え」との要件を維持できる蓋然性が高いと当業者が認識できない。
ク O2-含有量
本件特許発明1のO2-含有量は5~60アニオン%であるのに対して、上記実施例1のO2-含有量の範囲は17.36~58.7アニオン%と限定された範囲となっており、特に、本件特許発明1と上記実施例1の下限値において乖離が大きい。そして、O2-はカチオン同士を結びつける骨格として機能する成分であり、この成分が極端に少ない組成の場合はガラス化することが困難であることから、O2-含有量を本件特許発明1の下限値の5アニオン%まで下げた場合に、本件特許発明1のガラス組成がガラス化する蓋然性が高いと当業者が認識できない。
ケ Na+及びK+含有量
本件特許発明1のNa+及びK+含有量はそれぞれ0~20カチオン%であるのに対して、上記実施例1ではこれら成分が含まれる実施例がない。そして、Na+、K+の過剰な導入は安定性を低下させる(本件特許明細書段落【0025】)ことから、Na+及びK+を本件特許発明1の上限値の20カチオン%まで含有させた場合に、安定的にガラスが製造できる蓋然性が高いと当業者が認識できない。
(2)本件特許発明2~4について
本件特許発明2~4は本件発明1を引用する発明であるため、上記(1)と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである。
(3)むすび
本件特許発明1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4 申立理由の検討
(1)本件特許発明1について
ア P5+含有量について
特許異議申立人の上記3(1)アの主張について検討するに、本件特許発明1の組成要件及び物性要件を満足する具体例は、実施例1のNo.1~4、10~12、18(以下、「本件実施例」という。)の光学ガラスである。そして、発明の詳細な説明の段落【0022】には、「P5+はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な成分であり3%未満ではガラスが極端に不安定になる。」と記載されているように、P5+成分は、フツリン酸塩ガラスの骨格成分であるところ、本件特許明細書の実施例1(No.38)には、P5+が4.67カチオン%のフツリン酸塩ガラスが記載され、また、参考文献1(特開平7-157330号公報)の実施例16には、Pイオンが2.99カチオン%のフツリン酸塩ガラス、参考文献2(特開平9-52731号公報)の実施例1には、Pイオンが3.00カチオン%のフツリン酸塩ガラスがそれぞれ記載されているように、P5+が3カチオン%のフツリン酸塩ガラスを形成できることは技術常識であるといえるから、例えば、本件実施例の光学ガラス(No.18)のP5+含有量10.25カチオン%を、本件特許発明1の下限値の3カチオン%まで下げた場合でも、ガラス化すると当業者が認識できるといえる。
よって、上記3(1)アの申立理由は、理由がない。
イ Mg2+、Ca2+、Sr2+又はBa2+含有量について
特許異議申立人の上記3(1)イ~オの主張について検討すると、発明の詳細な説明の段落【0024】に「Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のようなアルカリ土類金属はガラスの安定性を高め、屈折率を上昇させる成分であり、その合計量を10%以上にすることで安定性に対する効果が高くなる。しかし、特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れるため、満遍なく導入することが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の少なくとも2種以上を導入することが好ましい。」と記載され、また、段落【0023】に「Al3+はフツリン酸ガラスにおいて安定性を高めるための重要成分」であること、段落【0028】に「Zn2+、In3+はアルカリ土類金属と同様に容易にガラス中に導入できる特性を持ち、Zn2+やIn3+を導入して多成分にすることによる安定性の向上効果が期待できる」と記載されている。そして、本件実施例の光学ガラスのアルカリ土類金属の合計含有量が39.4~51.87カチオン%、Al3+含有量が22.3~29.08カチオン%、Zn2+及びIn3+含有量が0カチオン%であることから、例えば、本件実施例の光学ガラス(No.10~12、18)のMg2+含有量4.07カチオン%を、本件特許発明1の下限値の0カチオン%まで下げた場合でも、また、本件実施例の光学ガラス(No.1、4)のMg2+含有量6.8カチオン%を、本件特許発明1の上限値の10カチオン%まで上げた場合でも、その他のアルカリ土類金属であるCa2+、Sr2+又はBa2+の含有量のバランスを取りつつ、同じ安定性を高める成分であるAl3+、Zn2+又はIn3+の含有量を調整することによって、安定的にフツリン酸塩ガラスが得られると当業者が認識できるといえる。
また、本件実施例の光学ガラスのCa2+、Sr2+又はBa2+の含有量を、本件特許発明1の下限値や上限値に変更した場合にも、同様に、その他のアルカリ土類金属の含有量のバランスを取りつつ、Al3+、Zn2+又はIn3+の含有量を調整することによって、安定的にフツリン酸塩ガラスが得られると当業者が認識できるといえる。
よって、上記3(1)イ~オの申立理由は、理由がない。
ウ Li+、Na+及びK+含有量について
特許異議申立人の上記3(1)カ及びケの主張について検討すると、発明の詳細な説明の段落【0025】に「Li+、Na+、K+のようなアルカリ金属はガラスの粘性、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの製造を容易にすることができる成分である」と記載されているように、Li+、Na+及びK+は、それぞれ置換可能な成分であるから、例えば、本件実施例の光学ガラス(No.18)のLi+含有量6.12カチオン%を、本件特許発明1の下限値の0カチオン%まで下げた場合でも、その他のアルカリ金属であるNa+及びK+を含有することによって、安定的にフツリン酸塩ガラスが得られると当業者が認識できるといえる。
また、発明の詳細な説明の段落【0025】に「Li+、Na+、K+のようなアルカリ金属は・・・過剰の導入は安定性を低下させる。」と記載されているが、段落【0025】には「Li+の量を0~30%、Na+の量を0~20%、K+の量を0~20%とすることが好ましい。」と記載され、また、参考文献3(特開2005-353718号公報)の実施例7には、Li+が29.5カチオン%のフツリン酸塩ガラス、参考文献4(特開2004-83290号公報)の実施例3には、Li+が39.54カチオン%のフツリン酸塩ガラスがそれぞれ記載されているように、Li+が30カチオン%超のフツリン酸塩ガラスを安定的に形成できることは技術常識であるといえるから、例えば、本件実施例の光学ガラス(No.1)のLi+含有量17.3カチオン%を、本件特許発明1の上限値の30カチオン%まで上げた場合でも、安定的にフツリン酸塩ガラスが得られると当業者が認識できるといえる。
さらに、Na+又はK+の含有量を、本件特許発明1の上限値に変更した場合にも、同様に、安定的にフツリン酸塩ガラスが得られると当業者が認識できるといえる。
よって、上記3(1)カ及びケの申立理由は、理由がない。
エ Y3+含有量について
特許異議申立人の上記3(1)キの主張について検討すると、発明の詳細な説明の段落【0026】に「Y3+、La3+、Gd3+、Yb3+などの希土類元素はガラスの低分散性を保ちつつ屈折率を高める成分であるが、過剰な導入は熔解温度を上昇させガラスの安定性も低下させてしまう。」と記載されているように、Y3+、La3+、Gd3+及びYb3+は、それぞれ置換可能な成分であるから、例えば、本件実施例の光学ガラス(No.2、4)のY3+含有量1.0カチオン%を本件特許発明1の下限値の0カチオン%に下げた場合でも、その他の希土類元素含有量を調節することで、「アッベ数(νd)が70を超え」との要件を維持できるフツリン酸塩ガラスが得られると当業者が認識できるといえる。
よって、上記3(1)キの申立理由は、理由がない。
オ O2-含有量について
特許異議申立人の上記3(1)クの主張について検討するに、発明の詳細な説明の段落【0031】に記載されているように、O2-はF-に準ずる主要アニオン成分であって、カチオン同士を結びつける骨格として機能する成分といえるところ、本件特許明細書の実施例(No.38)には、O2-が7.12アニオン%のフツリン酸塩ガラスが記載され、また、参考文献1の実施例16には、Oイオンが3.65アニオン%のフツリン酸塩ガラス、参考文献2の実施例1には、Oイオンが3.69アニオン%のフツリン酸塩ガラスがそれぞれ記載されているように、O2-が5アニオン%未満のフツリン酸塩ガラスを形成できることは技術常識であるといえるから、例えば、本件実施例の光学ガラス(No.18)のO2-含有量17.36アニオン%を、本件特許発明1の下限値の5アニオン%まで下げ、F-含有量を増やした場合でも、ガラス化すると当業者が認識できるといえる。
よって、上記3(1)クの申立理由は、理由がない。
(2)本件特許発明2~4について
本件特許発明2~4に対する申立理由も、上記(1)と同様に理由がない。
5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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