特許拒絶査定不服審判
2019-015665
二次電池用負極材料及びそれを用いた非水電解質二次電池
- 審判番号
- 2019-015665
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-110531外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年11月22日
- 審決日
- 2021年07月21日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エルジー・ケム・リミテッド
- 【請求人代理人】堅田 健史
- 【請求人代理人】松野 知紘
- 分類
- P18 .121-Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2015-110531「二次電池用負極材料及びそれを用いた非水電解質二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月28日出願公開、特開2016-225143〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、平成27年5月29日の出願であって、平成30年12月27日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、平成31年2月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものの、令和1年7月19日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、同年11月22日に請求された拒絶査定不服審判であって、令和3年1月18日付けで拒絶の理由及び審尋が通知され、これに対して、同年4月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。
2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和3年4月9日になされた手続補正により補正された、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
二次電池用負極材料であって、
合金粒子と炭素材料とにより複合化されたものであり、
前記合金粒子は、遷移金属と、ケイ素とを備えてなり、
前記合金粒子が、アモルファスケイ素と、前記ケイ素及び前記遷移金属によるシリサイド微結晶とを備えてなるものであり、
前記アモルファスケイ素の中に前記シリサイド微結晶が点在する構造を備えてなるものであり、
前記遷移金属は、電子伝導性を有し、前記ケイ素と合金化し、リチウムと合金化しないものであり、かつ、遷移金属に属する金属群から選択される一種又は二種以上のものであり、
前記合金粒子は、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面の回折ピークが存在しないものであり、
前記シリサイド微結晶の結晶子の大きさが、5nm以上100nm以下である、二次電池用負極材料。」(以下、「本願発明1」という。)
3 当審において通知した拒絶の理由
当審において通知した拒絶の理由のうちの理由2は、次のとおりのものである。
この出願の請求項1~15に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(刊行物)
1 特開2014-107132号公報
2 特開2010-135336号公報
4 引用刊行物の記載事項及び引用発明
(1)引用刊行物1の記載事項
ア 令和3年1月18日付けで通知された拒絶の理由に引用され、本願の出願日前である平成26年6月9日に頒布された刊行物である、特開2014-107132号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質シリコン中にシリコン化合物を含み、シリコン化合物を形成していないシリコンの量が20~98質量%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記シリコン化合物は、X線回折測定結果からシェーラーの式を使って算出した結晶子サイズが10nm以上の金属間化合物であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
・・・(略)・・・
【請求項7】
前記シリコン化合物が、金属D(Cu、Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、およびBaより選ばれたすくなくとも1種の元素)を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
・・・(略)・・・
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を用いたリチウムイオン二次電池用負極。
・・・(略)・・・
【請求項11】
リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極と、
請求項9または10に記載の負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータとを有し、
リチウムイオン伝導性を有する電解質中に、前記正極と前記負極と前記セパレータとを設けたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
・・・(略)・・・
【請求項13】
シリコンとシリコン化合物を含む負極材料に、機械的な応力をかけることにより、シリコンを非晶質する、またはシリコンの結晶相を機械的な応力をかける以前に比べて微細にすることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に記載の発明は、シリコンの体積膨張を抑制することが不十分であり、サイクル特性の劣化は十分には防げなかった。
【0009】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、高容量と良好なサイクル特性および高レート特性を実現するリチウムイオン二次電池用の負極材料、前記負極材料を用いたリチウムイオン二次電池用負極、および前記リチウムイオン二次電池用負極を備えたリチウムイオン二次電池を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、非晶質シリコンの中に、リチウムを吸蔵しにくいシリコン化合物を加えると、非晶質シリコンがリチウムを吸蔵して膨張する際に、シリコン化合物が膨張しにくいため、非晶質リコンの膨張が抑制されることを見出した。本発明は、この知見に基づきなされたものである。また、シリコン化合物は黒鉛より電子伝導性が高いためレート特性に優れることを見出した。」
「【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る負極材料1を示す図。・・・(略)・・・
【発明を実施するための形態】
【0014】
(負極材料1の構成)
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る負極材料1を示す図である。負極材料1は、非晶質シリコン3中にシリコン化合物5を含み、シリコン化合物を形成していないシリコンの量が20~98質量%である。
【0015】
非晶質シリコン3は、非晶質状のシリコンであり、X線回折などで明瞭な回折を示さないが、元素分析ではシリコンの存在が確認できる状態である。なお、図1(a)、(b)では、非晶質シリコン3の輪郭を明りょうにしているが、実施例等で明らかなとおり、実際には明りょうな輪郭を持たないことが多い。非晶質シリコン3は、充放電を行う前から非晶質であっても良いし、充放電前はシリコンの結晶成分を含んでいてもシリコンは充放電により非晶質になる。また、結晶性のシリコンはメカニカルアロイングのように、機械的に圧縮やせん断を加えることで容易に非晶質となる。
【0016】
シリコン化合物5は、X線回折測定結果からシェーラーの式を使って算出した結晶子サイズが10nm以上の金属間化合物であることが好ましく、金属D(Cu、Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、およびBaより選ばれたすくなくとも1種の元素)を含むことが好ましい。シリコンの充放電に伴う体積変化による影響を抑制するピン止め効果を発揮するには、結晶子サイズが10nmを超える大きさであることが好ましい。また、シリコン化合物は、導電率が高いため、レート特性が優れる。
【0017】
金属Dは、リチウムを吸蔵しにくい元素であり、シリコンとDSix(0.15<x≦3)である化合物を形成可能である。例えば、FeSi2やCoSi2の場合はx=2であるが、Rh3Si4(RhSi1.33)のようにx=1.33となる場合や、Ru2Si3(RuSi1.5)のようにx=1.5となる場合、Sr3Si5(SrSi1.67)のようにx=1.67となる場合、Mn4Si7(MnSi1.75)やTc4Si7(TcSi1.75)のようにx=1.75となる場合がある。さらに、Cu3Si(CuSi0.33)やTi3Si(TiSi0.33)のようにx=0.33となる場合、Mn6Si(MnSi0.167)のようにx=0.167となる場合がある。シリコン化合物5は、シリコンに比べるとリチウムを吸蔵しにくい。
【0018】
シリコンは理論容量が4200mAh/gと高容量であるが、充放電に伴う体積変化が最大4倍にもなり、活物質と集電体との剥離等が生じてサイクル特性に劣る。シリコン化合物に関して、FeはFeSi2として60mAh/g、NiはNiSi2として198mAh/g、CoはCoSi2として58mAh/g、の放電容量を有し、シリコンに比べると容量が極めて小さい。そのため、シリコン化合物の体積変化は無視できるため、非晶質シリコン中にシリコン化合物を含む負極材料は充放電に伴う体積変化の影響が緩和され、サイクル特性が向上する。また、シリコン化合物がリチウムと反応することは、リチウムがシリコン化合物相をすり抜け可能であることを意味しており、シリコン相の利用率向上に寄与する。さらに、シリコン化合物の導電性は、シリコンの10の8乗から10乗倍、黒鉛の50から100倍程度高いため、シリサイドを含むシリコン系負極材料は電子伝導性に優れ、レート特性に優れる。」
「【0019】
シリコン化合物5の直径が20nm~10μm程度であることが好ましい。また、30nm~1μm程度であることがより好ましい。さらに、40nm~500nm程度であることがさらに好ましい。小さすぎるとシリコンの充放電に伴う体積変化の影響を緩和する効果が十分得られなくなる。また、大きすぎるとシリコン化合物の量が多くなりすぎることや、スラリー塗布時の電極にスジや突起が生じやすくなり厚みの精度が低下するなどの支障をきたすためである。
【0020】
また、シリコン化合物5の表面が、曲面を有し、さらには円弧の一部であってもよい。シリコンとシリコン化合物とが、互いに接合した粒子をリチウムイオン二次電池用負極材料として用い、充放電を繰り返すと、シリコンが非晶質になり、負極材料1となる。シリコンとシリコン化合物とが、互いに接合した粒子は、気相合成法により合成される。特に、原料粉末をプラズマ化し、1万K相当にまで加熱し、その後冷却することで、粒子を製造可能である。このような粒子由来の負極材料1では、シリコン化合物5の形状は、シリコンに接合していた際の断面が略三日月状の形状となる。
【0021】
図2(a)に示すように、シリコン化合物5aの形状が、不定形状であってもよい。不定形状のシリコン化合物は、例えば、図5に示すようなガスアトマイズ法や図6に示すような単ロール急冷法で得られる。シリコン化合物の形状は、組成比率や製法に依存する。その理由の一つは、組成の組み合わせや比率に依存して固溶体を形成することがあるためである。融点の異なる成分が共存する場合に融点の高い成分が高い温度で固形化が始まるためである。急冷速度に依存して結晶子のサイズが小さくなる。
・・・(略)・・・
【0022】
また、シリコンとシリコン化合物を含む負極材料に、適切な条件で機械的な圧縮やせん断を加えることで、シリコン化合物を結晶性のまま保ち、結晶性のシリコンを非晶質とした負極材料を得ることが出来る。さらに、シリコン化合物とシリコンが所定の比率になるように構成する元素の組成を調合し、溶解、急冷、粉砕、分級により、2相あるいは2相以上の相を形成する合金を予め均質に混合し、適切な条件で機械的な圧縮やせん断を加えることで、所望の組成比率で負極材料を得ることが出来る。なお、金属を溶解後、単ロール法やアトマイズ法等で急冷すると、結晶相が微細となり、均質に分散したシリコン化合物を得ることが出来るため、より好ましい負極材料となる。なお、粉砕法には、サイズ、形状等に応じて各種の方法を選ぶことができ、例えば、ジョークラッシャー、ローラーミル、ロッドミル、ジェットミル、メディアミル、ボールミル、ビーズミル等がある。」
「【0030】
(リチウムイオン二次電池の作製)
(リチウムイオン二次電池用負極の作製)
まず、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法を説明する。ミキサーに、スラリー原料を投入し、混練してスラリーを形成する。スラリー原料は、負極材料1、導電助剤、結着剤、増粘剤、溶媒などである。
・・・(略)・・・
【0033】
導電助剤は、炭素、銅、スズ、亜鉛、ニッケル、銀などからなる群より選ばれた少なくとも1種の導電性物質からなる粉末である。炭素、銅、スズ、亜鉛、ニッケル、銀の単体の粉末でもよいし、それぞれの合金の粉末でもよい。例えば、ファーネスブラックやアセチレンブラックなどの一般的なカーボンブラックを使用できる。特に、導電性が良好なカーボンナノホーンを導電助剤として加えることが好ましい。ここで、カーボンナノホーン(CNH)とは、グラフェンシートを円錐形に丸めた構造をしており、実際の形態は多数のCNHが頂点を外側に向けて、放射状のウニの様な形態の集合体として存在する。CNHのウニ様集合体の外径は50nm~250nm程度である。特に、平均粒径80nm程度のCNHが好ましい。」
「【0035】
また、粒子状の導電助剤とワイヤー形状の導電助剤の両方を用いても良い。ワイヤー形状の導電助剤は導電性物質のワイヤーであり、粒子状の導電助剤に挙げられた導電性物質を用いることができる。ワイヤー形状の導電助剤は、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、銅ナノワイヤー、ニッケルナノワイヤーなどの外径が300nm以下の線状体を用いることができる。ワイヤー形状の導電助剤を用いることで、負極活物質や集電体などと電気的接続が保持しやすくなり集電性能が向上するとともに、ポーラス膜状の負極に繊維状物質が増え、負極にクラックが生じにくくなる。例えば粒子状の導電助剤としてABや銅粉末を用い、ワイヤー形状の導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF:Vapor Grown Carbon Fiber)を用いることが考えられる。なお、粒子状の導電助剤を加えずに、ワイヤー形状の導電助剤のみを用いても良い。」
「【実施例】
【0053】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
まず、各実施例で用いるシリコン系負極材料の合成例を説明する。
[合成例1]
シリコン粉末と鉄粉末とをモル比でSi:Fe=6:1になるように混合し、乾燥させた混合粉末を原料粉末として、図4の装置を用い、反応チャンバー内に発生させたAr-H2混合ガスのプラズマ中にキャリアガスで連続的に供給することにより、シリコンと鉄のナノ粒子を作製した。
【0054】
図4に示すシリコン系負極材料製造装置41を説明する。反応チャンバー55の上部外壁には、プラズマ発生用の高周波コイル57が巻き付けてある。高周波コイル57には、高周波電源59より、数MHzの交流電圧が印加される。好ましい周波数は4MHzである。なお、高周波コイル57を巻きつける上部外壁は石英ガラスなどで構成された円筒形の2重管となっており、その隙間に冷却水を流してプラズマによる石英ガラスの溶融を防止している。
【0055】
また、反応チャンバー55の上部には、原料粉末供給口45と共に、シースガス供給口49が設けてある。原料粉末フィーダーから供給される原料粉末47は、キャリアガス53とともに原料粉末供給口45を通してプラズマ61中に供給される。また、シースガス51はシースガス供給口49を通して反応チャンバー55に供給される。シースガス51は、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガスなどである。なお、原料粉末供給口45は、必ずしも図3のようにプラズマ61の上部に設置する必要はなく、プラズマ61の横方向にノズルを設置することもできる。また、原料粉末供給口45を冷却水により水冷してもよい。なお、プラズマに供給するシリコン系負極材料の原料の性状は、粉末だけに限られず、原料粉末のスラリーやガス状の原料を供給しても良い。
【0056】
反応チャンバー55は、プラズマ反応部の圧力の保持や、製造された微粉末の分散を抑制する役割を果たす。反応チャンバー55も、プラズマによる損傷を防ぐため、水冷されている。また、反応チャンバー55の側部には、吸引管が接続してあり、その吸引管の途中には合成された微粉末を捕集するためのフィルター63が設置してある。反応チャンバー55からフィルター63を連結する吸引管も、冷却水により水冷されている。反応チャンバー55内の圧力は、フィルター63の下流側に設置されている真空ポンプの吸引能力によって調整する。
【0057】
さらに詳細には、下記の通りの方法で製造した。反応チャンバー内を真空ポンプで排気した後、Arガスを導入して大気圧とした。この排気とArガス導入を3回繰り返して、反応容器内の残留空気を排気した。その後、反応容器内にAr-H2混合ガスを13L/minの流量で導入し、高周波コイルに交流電圧をかけて、高周波電磁場(周波数4MHz)により高周波プラズマを発生させた。この時のプレート電力は、20kWとした。原料粉末を供給するキャリアガスは、1.0L/minの流速のArガスを用いた。反応終了後得られた微粉末をフィルターで回収した。
【0058】
[合成例2~12]
合成例2、4~10では、シリコン粉末と鉄粉末とをモル比で表1に記載の活物質組成に混合する点以外は、合成例1と同様にして行った。
合成例3では、シリコン粉末と鉄粉末とスズ粉末とをモル比でSi:Fe:Sn=21:1:1になるように混合する点以外は、合成例1と同様にして行った。
合成例11では、シリコン粉末にリンを、モル比でSi:P=139:1となるように混合する点以外は、合成例1と同様にして行った。
合成例12では、シリコン粉末のみを用いる以外は、合成例1と同様にして行った。
【0059】
[合成例13]
合成例13では、図5に示すガスアトマイズ装置111を用いて、溶融したシリコン、金属Dの合金溶湯109を、ガスアトマイズ法により100K/sec以上で冷却して合金粒子123を形成する。
合成例13では、シリコンと金属Dとの化合物、すなわちシリコン化合物が、シリコンの融点1412℃より低いFeSi2の場合を例示する。合成例13は、最初に、モル比でSi:Fe=6:1になるような比率で混合した、合計3kgのシリコンと鉄を、BNコートしたるつぼ113に投入した。るつぼはAr雰囲気に制御し、30kHzの周波数で60V、45Aの条件で加熱した。材料は完全に溶解させるために1550℃まで加熱し、完全に溶解したことを確認して、85秒間のガスアトマイズにより粉末を作製した。ガスアトマイズ法により得られた粉末を、さらにビーズミル(ビーズ径φ0.1mm)で粉砕し、シリコン系負極材料を得た。合成例13に係るシリコン系負極材料は、少なくとも1回フルに充放電反応を行うことにより、シリコンは非晶質となる。
【0060】
[合成例14~18]
合成例14~18は、るつぼでシリコンと鉄とを溶解させて得られた合金を、粉砕してシリコン系負極材料を得る。
まず、るつぼ中で、表1の割合のシリコンと鉄とを溶解させる。その後、シリコンと鉄との溶湯を型に注ぎ、冷却した後にインゴットとした。そのインゴットを、ロールミルによる粗粉砕を行った後、さらに微粉砕を行い、シリコン系負極材料を得た。
合成例14では、ビーズ径φ0.1mmのビーズを用いたビーズミルにより微粉砕を行い、シリコンと、鉄シリサイドは結晶質の粉末を得た。シリコンの結晶子サイズはX線回折測定結果からSi(111)をシェーラーの式で算出したところ127nmであった。合成例14に係るシリコン系負極材料は、少なくとも1回フルに充放電反応を行うことにより、シリコンは非晶質となる。
合成例15では、ビーズ径φ0.1mmのビーズを用いたビーズミルにより微粉砕を行い、シリコンと、鉄シリサイドは結晶質の粉末を得た。その後、奈良機械製作所製のミラーロでメカニカルアロイング(MA)処理を8時間行ったところ、Si(111)の結晶子サイズは51nmとなり、結晶子サイズが小さくなった。合成例15に係るシリコン系負極材料は、結晶子サイズが小さくなるものの、結晶性は保たれたままであるが、少なくとも1回フルに充放電反応を行うことにより、シリコンは非晶質となる。
【0061】
合成例16では、シリコンと鉄をモル比で6:1の割合で混合したのち、汎用の高周波溶解炉で溶解し、平板状の鋳型に流して合金を得た。その後、ロールミルで数mmに粗粉砕した後、ビーズ径φ5mmのビーズを用いたビーズミルにより粉砕を行い、さらに、ビーズ径φ0.5mmのビーズを用いたビーズミルにより微粉砕を行った。シリコンの結晶性が大きいまま残った粉末が得られた。
同様に、合成例17では、ビーズ径φ0.5mmのビーズを用いたビーズミルにより微粉砕を行い、シリコンの結晶性が大きいまま残った粉末を得た。
合成例18では、ビーズ径φ0.5mmのビーズを用いたビーズミルにより微粉砕を行い、シリコンの結晶性が大きいまま残った、平均粒径15μmの粉末を得た。」
「【0066】
[実施例1]
(i)負極スラリーの調製
合成例1に係るシリコン系負極材料粒子(Si:Fe=6:1)64重量部とアセチレンブラック(平均粒径35nm、電気化学工業株式会社製、粉状品)16重量部の比率でミキサーに投入した。さらに結着剤としてスチレンブタジエンラバー(SBR)40wt%のエマルジョン(日本ゼオン(株)製、BM400B)を固形分換算で5重量部、スラリーの粘度を調整する増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、ダイセル化学工業(株)製、#2200)2wt%溶液を固形分換算で15重量部の割合で混合してスラリーを作製した。
(ii)負極の作製
調製したスラリーを自動塗工装置のドクターブレードを用いて、厚さ10μmの集電体用電解銅箔(古河電気工業(株)製、NC-WS)上に25μmの厚みで塗布し、70℃で乾燥させた後、プレスによる調厚工程を経て、リチウムイオン二次電池用負極を製造した。
(iii)電池の組み立て
リチウムイオン二次電池用負極と、1mol/LのLiPF6を含むエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液に3質量%のビニレンカーボネートを加えた電解液と、金属Li箔対極を用いてリチウムイオン二次電池を構成し、充放電特性を調べた。
まず、25℃環境下において、電流値を0.1C、電圧値を0.02Vまで定電流定電圧条件で充電を行い、電流値が0.05Cに低下した時点で充電を停止した。次いで、電流値0.1Cの条件で、金属Liに対する電圧が1.5Vとなるまで放電を行い、0.1C初回放電容量を測定した。なお、1Cとは、1時間で満充電できる電流値である。また、充電と放電はともに25℃環境下において行った。次いで、0.1Cでの充放電速度で上記充放電を50サイクル繰り返した。50サイクル目の電池の放電容量を測定したところ、1128mAh/gであった。放電容量は、シリコンとリチウムの吸蔵・放出に有効な活物質Siの理論容量4000mAh/gを基準として算出した。」
「【0068】
シリコン系負極材料の結晶性に関して、リガク社製RINT-UltimaIIIを用いてXRD解析を行った。図7(b)に合成例1に係るシリコン系負極材料のサイクル試験前とサイクル試験後のX線回折パターンを示す。サイクル試験前のシリコン系負極材料に、28°付近に存在した結晶性のシリコン由来のピークは、50サイクルのサイクル試験後の負極材料をX線回折測定した際に、消滅していた。一方で、18°付近と38°付近に存在するFeSi2(鉄シリサイド)由来のピークは、50サイクルの充放電を繰り返した後でも、ピークに大きな変化がない。
このことから、結晶性のシリコンは、充放電後、非晶質化する一方で、鉄シリサイドは結晶性を保っているため、非晶質シリコン中に、鉄シリサイドの化合物を有する負極材料が得られたと考えられる。」
「【0093】
[実施例10]
合成例1に係るシリコン系負極材料に代えて、合成例14に係るシリコン系負極材料(溶解・粉砕法、Si:Fe=23:2)を用いた点以外は、実施例1と同様にして、負極スラリーの調製、負極の作製、電池の組立てを行い、充放電を50サイクル繰り返した。50サイクル目の電池の放電容量を測定したところ、1160mAh/gであった。合成例14に係るシリコン系負極材料は、非晶質のシリコンと、結晶性のシリコン化合物を有するため、50サイクルの充放電の後でも、高い放電容量を維持している。
【0094】
[実施例11]
合成例1に係るシリコン系負極材料に代えて、合成例15に係るシリコン系負極材料(るつぼ溶解・粉砕・MA法、Si:Fe=6:1)を用いた点以外は、実施例1と同様にして、負極スラリーの調製、負極の作製、電池の組立てを行い、充放電を50サイクル繰り返した。50サイクル目の電池の放電容量を測定したところ、965mAh/gであった。」
「【0097】
[比較例1~3]
合成例1に係るシリコン系負極材料に代えて、合成例16、17、18に係るシリコン系負極材料(溶解・粉砕法)を用いた点以外は、実施例1と同様にして、負極スラリーの調製、負極の作製、電池の組立てを行い、充放電を50サイクル繰り返した。50サイクル目の電池の放電容量を測定したところ、比較例1~3でそれぞれ420、360、250mAh/gであった。
比較例1~3では、使用したシリコン系負極材料のシリコン相が5μm以上で結晶性が高いため、50サイクル目の放電容量が小さくなってしまった。特に、実施例10と比較例2を比較すると、実施例10ではシリコン相のサイズが2μm以下であり、少なくとも1回の充放電でシリコンは非晶質となるためサイクル特性が良好であることがわかる。つまり、微粉砕の条件が異なることにより、
比較例2で用いる合成例17に係るシリコン系負極材料のシリコンの結晶相が大きいのに対し、実施例10で用いる合成例14に係るシリコン系負極材料のシリコンが非晶質あるいは結晶性のシリコン相のサイズが2μm以下であり、少なくとも1回の充放電でシリコンは非晶質となるためである。」
「【0098】
以上の実施例、比較例の条件を以下の表2にまとめた。実施例において、非晶質シリコン中にシリコン化合物を含み、シリコン化合物を形成していないシリコンの量が20~98質量%であることを特徴とする負極材料を得ることができた。また、実施例1~10では、サイクル試験の結果が良好であり、サイクル特性に優れた負極材料が得られたことがわかる。
【0099】
【表2】
[図:0001380221000001.jpg]
」
「【図1】
[図:0001380221000002.jpg]
」
「【図5】
[図:0001380221000003.jpg]
」
「【図7】
(a)・・・(略)・・・
(b)
[図:0001380221000004.jpg]
」
(2)引用文献1に記載された発明
ア 上記(1)の請求項1及び2を引用する請求項7には、次の事項が記載されている。
「非晶質シリコン中にシリコン化合物を含み、
シリコン化合物を形成していないシリコンの量が20~98質量%であり、
前記シリコン化合物は、X線回折測定結果からシェーラーの式を使って算出した結晶子サイズが10nm以上の金属間化合物であり、
前記シリコン化合物が、金属D(Cu、Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、およびBaより選ばれたすくなくとも1種の元素)を含むリチウムイオン二次電池用負極材料。」
イ また、上記(1)の【0015】には、上記アの「リチウムイオン二次電池用負極材料」の「非晶質シリコン」について、X線回折などで明瞭な回折を示さないが、元素分析ではシリコンの存在が確認できる状態であることが記載されている。
さらに、上記(1)の【0015】には、上記アの「リチウムイオン二次電池用負極材料」の「非晶質シリコン」について、充放電を行う前から非晶質であっても良いことが記載されているから、実質的に、充放電を行う前から非晶質であることが記載されているといえる。
ウ さらに、上記(1)の【0020】の「シリコンとシリコン化合物とが、互いに接合した粒子をリチウムイオン二次電池用負極材料として用い」るとの記載、上記(1)の【0053】の「シリコン粉末と鉄粉末とを・・・(略)・・・混合し、乾燥させた混合粉末を原料粉末として、図4の装置を用い、・・・(略)・・・シリコンと鉄のナノ粒子を作製した」との記載、上記(1)の【0059】の「シリコンと鉄を、BNコートしたるつぼ113に投入した。・・・(略)・・・材料は完全に溶解させるために1550℃まで加熱し、完全に溶解したことを確認して、85秒間のガスアトマイズにより粉末を作製した。ガスアトマイズ法により得られた粉末を、さらにビーズミル(ビーズ径φ0.1mm)で粉砕し、シリコン系負極材料を得た」との記載等から、上記アの負極材料は、「粒子状」であるといえる。
エ また、上記(1)のアの図1は、「本発明に係る負極材料1を示す図」(【0013】)であるところ、この図1より、アモルファスシリコン中にシリコン化合物が点在することが看取できるから、上記アの負極材料は、アモルファスシリコン、すなわち、非晶質シリコン中にシリコン化合物が点在したものであるといえる。
オ 上記ア~エより、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「非晶質シリコン中にシリコン化合物を含み、
非晶質シリコン中にシリコン化合物が点在したものであり、
シリコン化合物を形成していないシリコンの量が20~98質量%であり
前記非晶質シリコンは、X線回折などで明瞭な回折を示さないが、元素分析ではシリコンの存在が確認できる状態であり、
前記非晶質シリコンは、充放電を行う前から非晶質であり、
前記シリコン化合物は、X線回折測定結果からシェーラーの式を使って算出した結晶子サイズが10nm以上の金属間化合物であり、
前記シリコン化合物が、金属D(Cu、Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、およびBaより選ばれたすくなくとも1種の元素)を含む、粒子状のリチウムイオン二次電池用負極材料。」
(3)引用刊行物2の記載事項
ア 令和3年1月18日付けで通知された拒絶の理由に引用され、本願の出願日前である平成22年6月17日に頒布された刊行物である、特開2010-135336号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
シリコンを主成分とする固体状態の合金の粒子からなるリチウム二次電池用の電極材料において、
前記固体状態の合金の粒子は微結晶シリコンあるいは非晶質化シリコンの中に、シリコン以外の元素からなる微結晶あるいは非晶質が分散していることを特徴とするリチウム二次電池用の電極材料。」
「【請求項4】
前記合金がシリコンと、シリコンより原子比率の低い少なくとも第一の元素Aから構成され、前記第一の元素Aがスズ、インジウム、ガリウム、銅、アルミニウム、銀、亜鉛、チタンからなる群から選択される一種類以上の元素であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用の電極材料。」
「【請求項15】
前記シリコンを主成分とする合金粒子もしくはシリコンを主成分とする粒子に、炭素材料、金属マグネシウム、炭素材料と金属マグネシウムの群から選択される材料を複合化させたことを特徴とする請求項1もしくは請求項10のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用の電極材料。」
「【0070】
さらに、前記シリコンを主成分とするシリコン粒子もしくはシリコンを主成分とするシリコン合金粒子に、炭素材料、金属マグネシウム、炭素材料と金属マグネシウムから選択される材料を複合化させることは、その複合物をリチウム二次電池の負極材料として用いた場合、電池の充放電効率、電池電圧、放電電流特性、充放電の繰り返し特性等に関する性能を高めることができる。
【0071】
炭素材料の複合化は、電気化学的リチウムの挿入脱離(放出)の繰り返し時の、体積膨張収縮による疲労を低減でき、寿命を伸ばすことが可能にする。シリコンを主成分とする合金への添加量は、リチウムの挿入脱離(放出)量の著しい低下が無い、1~10重量%が好ましく、2~5重量%がより好ましい。」
「【0092】
炭素材料やマグネシウム金属を、シリコンもしくはシリコン合金粒子に複合化する場合は、非晶質化の条件より緩やかな混合条件でボールミル等の粉砕処理を行なうのがよい。」
イ 上記アの【0070】より、引用文献2には、次の事項が記載されている。
「充放電の繰り返し特性を高めるために、シリコンを主成分とするシリコン粒子もしくはシリコンを主成分とするシリコン合金粒子に、炭素材料を複合化させる技術事項。」
5 対比・判断
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「リチウムイオン二次電池用負極材料」、「非晶質シリコン」は、それぞれ、本願発明1の「二次電池用負極材料」、「アモルファスケイ素」に相当する。
イ 引用発明の「リチウムイオン二次電池用負極材料」は、上記アのとおり、本願発明1の「二次電池用負極材料」に相当するものであって、「非晶質シリコン中にシリコン化合物を含」むものであり、さらに「粒子状」であるから、本願発明1の「合金粒子」を含む事項を有するものである。
そうすると、引用発明は、「非晶質シリコン中にシリコン化合物を含み、」「前記シリコン化合物が、金属D(Cu、Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、およびBaより選ばれたすくなくとも1種の元素)を含む」から、本願発明1の「合金粒子」を含み、「合金粒子は、金属と、ケイ素とを備えてなり、前記合金粒子が、アモルファスケイ素と、前記ケイ素及び前記金属によるシリサイドとを備えてなるものであ」る事項を含むものである。
ウ 引用発明の「非晶質シリコン中にシリコン化合物を含み、非晶質シリコン中にシリコン化合物が点在したものであ」る事項と、本願発明1の「アモルファスケイ素の中に前記シリサイド微結晶が点在する構造を備えてなるものであ」る事項とは、「アモルファスケイ素の中にシリサイドが点在する構造を備えてなるものであ」る事項で共通する。
エ 引用発明は、「非晶質シリコン中にシリコン化合物を含」むものであるところ、引用発明の「非晶質シリコン」は、「X線回折などで明瞭な回折を示さない」ものであるし、また、引用発明の「シリコン化合物」は、「金属間化合物」であるから、ケイ素の(111)面の回折ピークが存在しないものと考えられる。
そうすると、引用発明の「非晶質シリコンは、X線回折などで明瞭な回折を示さないが、元素分析ではシリコンの存在が確認できる状態であ」る事項と、本願発明1の「合金粒子は、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面の回折ピークが存在しないものであ」る事項とは、合金粒子が、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面の回折ピークを明瞭には示さない事項で共通する。
オ 上記ア~エより、本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、
「二次電池用負極材料であって、
合金粒子を含み、
前記合金粒子は、金属と、ケイ素とを備えてなり、
前記合金粒子が、アモルファスケイ素と、前記ケイ素及び前記金属によるシリサイドとを備えてなるものであり、
前記アモルファスケイ素の中に前記シリサイドが点在する構造を備えてなるものであり、
合金粒子が、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面の回折ピークを明瞭には示さない、二次電池用負極材料。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点1)
「二次電池用負極材料」について、本願発明1が、「合金粒子と炭素材料とにより複合化されたものであ」るのに対し、引用発明は、炭素材料と複合化されているか否かが不明である点。
(相違点2)
「シリサイド」について、本願発明1は、「微結晶」であって、その「シリサイド微結晶の結晶子の大きさが、5nm以上100nm以下である」のに対し、引用発明は、「X線回折測定結果からシェーラーの式を使って算出した結晶子サイズが10nm以上の金属間化合物であ」り、「微結晶」であるか否かが不明である点。
(相違点3)
「ケイ素」とともに「シリサイド」を形成する「金属」について、本願発明1は、「電子伝導性を有し、前記ケイ素と合金化し、リチウムと合金化しないものであり、かつ、遷移金属に属する金属群から選択される一種又は二種以上のものであ」るのに対し、引用発明は、「金属D(Cu、Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、およびBaより選ばれたすくなくとも1種の元素)」である点。
(相違点4)
「合金粒子」について、本願発明1は、「X線回折測定により得られるケイ素の(111)面の回折ピークが存在しないものであ」るのに対し、引用発明は、「非晶質シリコンは、X線回折などで明瞭な回折を示さないが、元素分析ではシリコンの存在が確認できる状態であ」る点。
(2)相違点についての検討
ア 以下、上記相違点について検討するに、まず、上記相違点1について、検討する。
イ 引用文献1(【0008】~【0010】)の記載によれば、引用発明は、非晶質シリコンの膨張を抑制することで良好なサイクル特性を実現し、また、電子伝導性を高めて高レート特性を実現することを目的とするものである。
ウ 一方、引用文献2(【0070】)には、充放電の繰り返し特性(上記イの「サイクル特性」に相当。)を高めるために、シリコンを主成分とするシリコン粒子もしくはシリコンを主成分とするシリコン合金粒子に、炭素材料を複合化させる技術事項が記載されている(上記4の(4)参照。)。
エ そして、引用発明及び引用文献2に記載された事項は、シリコン(ケイ素)を含む合金粒子を用いたものであって、良好なサイクル特性を実現することを目的とする点で共通するものであるから、引用発明において、引用文献2に記載された事項を適用し、引用発明の「粒子状のリチウムイオン二次電池用負極材料」を、炭素材料と複合化させることは、当業者が容易になし得たことである。
オ また、リチウムイオン電池用負極材料の技術分野において、シリコン系活物質粒子と炭素とを複合化したシリコン系炭素複合材料を用いて、電気伝導性の改善を行うことは周知(必要ならば、次の参考文献参照。)であるから、この周知技術を考慮しても、引用発明の「粒子状のリチウムイオン二次電池用負極材料」を、炭素材料と複合化させることは、当業者が容易になし得たことである。
(参考文献)
Xuefeng Song el.,「高性能リチウムイオン電池のためのシリコン負極材料の進展」Material Matters 2013,Vol.8 No.4,pp10(日本語版2014年10月発行)
(https://www.sigmaaldrich.com/japan/materialscience/alternative/lithium-ion-batteries/silicon-anode-materials-for-lithium-ion-batteries.html)
「一つの手法としてシリコン系炭素複合材料があり、その利点として、電気伝導性の改善と炭素マトリックスの緩衝効果の向上が挙げられます」(「Si 系炭素複合負極材料」の欄。)と記載されている。
カ よって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
キ 次に、上記相違点2について検討する。
ク 上記4の(1)の【0016】によれば、シリコン化合物5は、X線回折測定結果からシェーラーの式を使って算出した結晶子サイズが10nm以上の金属間化合物であることが好ましいとのことであるから、シリコン化合物の結晶子サイズは、10nm以上で適宜選択しうる数値であるといえる。
ケ また、本願発明1の「シリサイド微結晶」は、その「結晶子の大きさが、5nm以上100nm以下であ」って、この範囲の大きさの結晶子を持つものを「微結晶」としている。
コ そうすると、引用発明は、「シリコン化合物」の「X線回折測定結果からシェーラーの式を使って算出した結晶子サイズが10nm以上」であるところ、上記クの検討より、引用発明において、シリコン化合物の結晶子サイズを10nm以上100nm以下とすることは、当業者が容易になし得たことであり、また、上記ケより、結晶子サイズが10nm以上100nm以下であるシリコン化合物は、本願発明1の「シリサイド微結晶」に相当するから、結局、結晶子サイズを10nm以上100nm以下とするのに伴い、引用発明の「シリコン化合物」は本願発明1の「シリサイド微結晶」に相当することとなる。
サ よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
シ 次に、上記相違点3について検討する。
ス 引用発明は、「シリコン化合物が、金属D(Cu、Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、およびBaより選ばれたすくなくとも1種の元素)を含む」との発明特定事項を含むものである。
セ 一方、引用文献1の実施例には、上記スの「金属D」として、合成例1、2、4~10、13~18ではFe、合成例3ではFe及びSn、合成例11ではPをそれぞれ用いており、合成例12では「金属D」を用いておらず、18の合成例の中で、15の合成例でFeを用いている(上記4の(1)の【0053】、【0058】~【0061】参照。)。
ソ また、Feは、技術常識に照らせば、遷移金属に属し、さらに、上記4の(1)の【0017】には、「リチウムを吸蔵しにくい元素」として上げられており、また、上記4の(1)の【0018】には、FeSi2としてシリコン化合物となる、すなわち、ケイ素と合金化するとされている。
タ さらに、本願の請求項1を直接または間接的に引用する請求項4には、請求項1の「電子伝導性を有し、前記ケイ素と合金化し、リチウムと合金化しないものであり、かつ、遷移金属に属する金属群」の一つとして、「Fe」が挙げられている。
チ 上記セ~タからすると、引用発明において、「金属D(Cu、Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、およびBaより選ばれたすくなくとも1種の元素)」の中から、Feを採用して、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
ツ 最後に、上記相違点4について検討する。
テ 本願発明1の「合金粒子は、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面の回折ピークが存在しないものであ」る事項について、本願の願書に添付された明細書(以下、「本願明細書」という。)には、次の記載がある。
「【0007】
・・・(略)・・・ケイ素の結晶子がX線回折によって測定できる程度の大きさ(概ね5nm以上)の場合、微粉化を抑制し、充放電に伴う容量低下をある程度回避可能である」
「【0022】
〔定義〕
(完全なアモルファスケイ素)
完全なアモルファスケイ素とは、本発明による合金粒子において、ケイ素が、金属と金属間化合物を形成している部分と、ケイ素単体で存在している部分とが存在し、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面のピークが確認されないことを意味する。」
「【0032】
(シリサイド微結晶)
・・・(略)・・・本発明による合金粒子は、X線回折ではケイ素のピークはほぼ確認することができない。また、非常にブロードなピークがある場合でも、半価幅を特定することができない水準である。」
「【0040】
<X線回折、TEM観察>
本発明にあっては、合金粒子において、ケイ素が、金属と金属間化合物を形成している部分と、ケイ素単体で存在している部分とが存在し、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面のピークが確認されないものが好ましい。さらに、TEMによって、ケイ素の結晶格子が確認されないことが好ましい。」
ト ここで、上記テの【0007】より、ケイ素の結晶子がX線回折によって測定できる程度の大きさ(概ね5nm以上)の場合、本願発明1の「合金粒子は、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面の回折ピークが存在しないものであ」る事項に含まれないと解される。
ナ また、上記テの【0022】、【0032】、【0040】より、本願発明1の「合金粒子は、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面の回折ピークが存在しないものであ」る事項は、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面のピークが確認されないことを意味すると解される。
ニ 一方、引用発明の「粒子状の」「負極材料」は、「非晶質シリコン中にシリコン化合物を含」むものであって、「非晶質シリコン」及び「シリコン化合物」を含むものであるところ、そのうち、「非晶質シリコンは、X線回折などで明瞭な回折を示さない」ものであるし、「シリコン化合物」の存在により、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面のピークが確認されないのは当然であるから、引用発明1の「非晶質シリコンは、X線回折などで明瞭な回折を示さない」事項は、本願発明1の「合金粒子」が「X線回折測定により得られるケイ素の(111)面の回折ピークが存在しないものであ」ることに相当する。
ヌ そうすると、上記相違点4は実質的な相違点ではない。
ネ 仮に、上記相違点4が実質的な相違点であったとしても、次の理由により、引用発明において、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
ノ 引用文献1には、「金属を溶解後、単ロール法やアトマイズ法等で急冷すると、結晶相が微細となり、均質に分散したシリコン化合物を得ることが出来るため、より好ましい負極材料となる」(【0022】)、すなわち、「結晶相が微細とな」ることが負極材料として「好ましい」と記載されている。
ハ また、引用文献1において、同一の合成方法で得られた合金(すなわち、「るつぼでシリコンと鉄とを溶解して得られた合金」(【0060】))から、同一組成の活物質を合成した実施例11、比較例1を比較すると、実施例11で用いられている合成例15の活物質は、合成直後のSi(111)の結晶子サイズが51nmである(【0060】)のに対し、比較例1で用いられている合成例16の活物質は、シリコンの結晶性が大きいまま残ったものである(【0061】)ところ、50サイクル後の放電容量について、実施例11は965mAh/g、比較例1は420mAh/gとなっており(【0099】の【表2】)、結晶子サイズが小さい実施例11はサイクル特性が良好であることが理解できる。
ヒ さらに、同一の合成方法で得られた合金(すなわち、「るつぼでシリコンと鉄とを溶解して得られた合金」(【0060】))から、同一組成の活物質を合成した実施例10、比較例2、比較例3を比較すると、実施例10で用いられている合成例14の活物質は、合成直後のSi(111)の結晶子サイズが127nmである(【0060】)のに対し、比較例2で用いられている合成例17の活物質、及び、比較例3で用いられている合成例18の活物質は、いずれもシリコンの結晶性が大きいまま残ったものである(【0061】)ところ、50サイクル後の放電容量が、実施例10は1160mAh/g、比較例2は360mAh/g、比較例3は250mAh/gとなっており(【0099】の【表2】)、結晶子サイズが小さい実施例10はサイクル特性が良好であることが理解できる。
フ そうすると、上記ノ~ヒより、良好なサイクル特性を実現するためには、シリコンの結晶子の大きさを小さくした方がよいことが理解できるから、引用発明において、良好なサイクル特性を実現するために、シリコンの結晶子を更に小さくして、本件発明1の「合金粒子は、X線回折測定により得られるケイ素の(111)面の回折ピークが存在しないものであ」る事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
ヘ よって、引用発明において、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
ホ そして、本願明細書に記載された本願発明1の奏する「充放電に伴う結晶構造の変化がなく、良好なサイクル特性を実現し、かつ、膨張率を低減させる」(【0011】)という効果についても、引用文献1の「高容量と良好なサイクル特性および高レート特性を実現する」(【0009】)、「非晶質シリコンの中に、リチウムを吸蔵しにくいシリコン化合物を加えると、非晶質シリコンがリチウムを吸蔵して膨張する際に、シリコン化合物が膨張しにくいため、非晶質リコン(当審注:「非晶質シリコン」の誤記であると認める。)の膨張が抑制される」(【0010】)という記載から、当業者が予測可能なものである。
マ また、「合金粒子と炭素材料とにより複合化されたものであ」ることによる、「容易に導電性を高めることが可能である」(【0050】)という効果も、上記オの「リチウムイオン電池用負極材料の技術分野において、シリコン系活物質粒子と炭素とを複合化したシリコン系炭素複合材料を用いて、電気伝導性の改善を行う」という周知技術から、当業者が予測可能なものである 。
ミ よって、本願発明1は、引用発明、並びに、引用文献1に記載された事項、及び、引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、令和3年4月9日付けの意見書において、概ね次の主張をしている。
引用文献1は、その実施例全てにおいて、結晶質のSiであったことのみを開示するに止まり、アモルファスSiについては実施例及び比較例として一つも開示されていない。
また、引用文献1にあっては、二次電池におけるフル充放電後においてのみアモルファスであったということを開示するのに止まっている。
(2)しかしながら、以下の理由により、審判請求人の主張には理由がない。
(3)確かに、引用文献1の実施例に記載された合成例1~12の負極材料は、シリコンが非晶質か否かが不明であるし、合成例13の負極材料は「少なくとも1回フルに充放電反応を行うことにより、シリコンは非晶質となる」(【0059】)ものであるし、合成例14の負極材料は、合成直後のシリコンの結晶子サイズが127nmであって、「少なくとも1回フルに充放電反応を行うことにより、シリコンは非晶質となる」(【0060】)ものであるし、合成例15の負極材料は、合成直後のシリコンの結晶子サイズが51nmであって、「少なくとも1回フルに充放電反応を行うことにより、シリコンは非晶質となる」(【0060】)ものであるし、合成例16~18の負極材料は、「シリコンの結晶性が大きいまま残った」(【0061】)ものであり、合成直後の不負極材料におけるシリコンは、非晶質であることが示されていない(上記4の(1)参照。)。
(4)ここで、引用文献1には、「非晶質シリコン3は、充放電を行う前から非晶質であっても良い」(【0015】)と記載されている。
(5)また、引用文献1には、シリコンの結晶子を微細とする方法について、「金属を溶解後、単ロール法やアトマイズ法等で急冷すると、結晶相が微細とな」(【0022】)ること、「結晶性のシリコンはメカニカルアロイングのように、機械的に圧縮やせん断を加えることで容易に非晶質となる」(【0015】)こと、「シリコンとシリコン化合物を含む負極材料に、適切な条件で機械的な圧縮やせん断を加えることで、シリコン化合物を結晶性のまま保ち、結晶性のシリコンを非晶質とした負極材料を得ることが出来る」(【0022】)ことが記載されている。
(6)そして、引用文献1の【0060】の合成例14では、るつぼでシリコンと鉄とを溶解させて得られた合金を、粉砕して得られた材料に対し、ビーズ径φ0.1mmのビーズを用いたビーズミルにより微粉砕を行うことにより、シリコンの結晶子が127nmの負極材料が形成され、また、【0060】の合成例15では、るつぼでシリコンと鉄とを溶解させて得られた合金を、粉砕して得られた材料に対し、ビーズ径φ0.1mmのビーズを用いたビーズミルにより微粉砕を行った後、メカニカルアロイング(MA)処理を8時間行ったところ、シリコンの結晶子が51nmの負極材料が形成され、さらに、【0061】の合成例16、合成例17では、高周波溶解炉で溶解して得た合金を、それぞれビーズ径φ5mm、0.5mmのビーズを用いたビーズミルにより微粉砕を行うことにより、シリコンの結晶が大きいまま残った負極材料が形成されている。
(7)すなわち、上記(6)によれば、合成例14と合成例15との比較により、8時間のメカニカルアロイング(MA)処理を加えることにより、シリコンの結晶子が127nmから51nmへと小さくなることが理解できる。
(8)また、上記(6)によれば、合成例14と合成例17との比較により、ビーズミルのビーズ径φを0.1mmから0.5mmに変更することにより、シリコンの結晶子が127nmから大きいまま残ったものとなることが理解できる。
(9)さらに、上記(5)、(7)の検討からすると、メカニカルアロイング処理により強い力で、より多くの時間をかければ、より結晶子の大きさが小さくなると考えられる。
(10)そうすると、例えば、上記(5)を参照して、ガスアトマイズ法や単ロール急冷法を採用して、急冷速度に依存してシリコン結晶子のサイズの小さい材料を得て、上記(8)を参照して、ビーズミルのビーズ径φを0.1mmでビーズミルを行い、さらに、上記(5)、(7)、(9)の検討を参照して、合成例14よりも、強い力を加えつつ、より長い時間メカニカルアロイング処理を行うこと等により、「充放電を行う前から非晶質であ」(【0015】)る負極材料が得られると考えられる。
すなわち、引用文献1には、引用発明での「非晶質シリコンは、X線回折などで明瞭な回折を示さないが、元素分析ではシリコンの存在が確認できる状態であり、前記非晶質シリコンは、充放電を行う前から非晶質であ」る事項を、実現する方法が開示されているといえるから、当該事項は、引用文献1に記載されたものである。
(11)よって、審判請求人の主張には、理由がない。
7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明、並びに、引用文献1に記載された事項、及び、引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-015665