特許拒絶査定不服審判
2025-004044
リチウムイオン二次電池用電解液の精製方法
- 審判番号
- 2025-004044
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-015101
- 請求日
- 2025年03月13日
- 審決日
- 2025年10月30日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オルガノ株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人あしたば国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 涌井 智則
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P18 .121-Z (H01M) / P18 .575-Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 15101「リチウムイオン二次電池用電解液の精製方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年10月28日出願公開、特開2021-170525〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年2月2日(優先権主張令和2年4月14日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 7月19日付け:拒絶理由通知
令和6年 9月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年12月13日付け:拒絶査定(原査定)
令和7年 3月13日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和7年3月13日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和7年3月13日の手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
令和7年3月13日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1を本件補正における請求項1に変更する補正事項を含むものである。
そして、補正前の請求項1及び本件補正における請求項1は、それぞれ、以下のとおりのものと認める(本件補正における請求項1の下線部は、補正された箇所を示す。)。
〈補正前の請求項1〉
「【請求項1】
LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物を正極活物質とするリチウムイオン二次電池用電解液の精製方法であって、
前記リチウムイオン二次電池用電解液を含む被処理液を弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電解液の精製方法。」
〈本件補正における請求項1〉
「【請求項1】
LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物を正極活物質とするリチウムイオン二次電池用電解液の精製方法であって、
前記LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物がLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=1:1:1)またはLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=5:2:3)であり、
前記リチウムイオン二次電池用電解液を含む被処理液を弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる工程のみからなる
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用電解液の精製方法。」
なお、令和7年3月13日に提出された手続補正書の請求項1には「(Ni:Co:Mo=1:1:1)」、「Ni:Co:Mo=5:2:3)」と記載されているが、LiNiCoMnO2はMoを含んでおらず、また、本願明細書の段落【0147】には「LiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=1:1:1)」と、段落【0161】には「LiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=5:2:3)」と記載されているから、請求項1の「Ni:Co:Mo」は「Ni:Co:Mn」の誤記と認め、本件補正における請求項1を上記のように認定した。
2 補正の適否
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物」について、「LiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=1:1:1)またはLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=5:2:3)」である旨の限定を付加するとともに、補正前の請求項1に記載された発明である「リチウムイオン二次電池用電解液の精製方法」がリチウムイオン二次電池用電解液を含む被処理液を弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる工程「のみからなる」ことの限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正による請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本願明細書の段落【0147】には「LiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=1:1:1)」と、段落【0161】には「LiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=5:2:3)」と記載され、また、段落【0020】ないし【0051】には精製形態1として、工程が被処理液をイオン交換樹脂が充填されたイオン交換部に通液する酸吸着工程のみである精製形態が記載されている。
してみると、「LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物」について、「LiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=1:1:1)またはLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=5:2:3」であること、また、「リチウムイオン二次電池用電解液の精製方法」がリチウムイオン二次電池用電解液を含む被処理液を弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる工程「のみからなる」ことはいずれも、発明の詳細な説明に記載された事項であり、本件補正による請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
また、特許法第17条の2第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正による請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「1」の〈本件補正による請求項1〉の欄に記載したとおりのものである。
(2)引用文献2の記載事項、引用発明等
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に公開された特開平11-185810号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、リチウム電池用電解液に関し、より詳細には電解液に含まれている酸性不純物を除去する方法及び該方法によって得られる電解液に関する。
【0002】
【従来の技術】リチウム電池では、有機非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)などのリチウム系電解質を溶解させた非水電解液が電解液として用いられている。しかし、溶媒及び電解質には微量の水分が残留する。この水分は、フッ素を含有する電解質、例えばLiPF6など、が用いられた場合に、それらの電解質と反応するため、フッ酸等の生成を引き起こす。このフッ酸等は電池容量や充放電のサイクル特性を低下させ、また、電池内部の腐食を引き起こすという問題がある。
【0003】電解液中の酸性不純物、特にフッ酸等の遊離酸を除去する方法としては、酸化アルミニウム等の吸着剤を電池に内蔵させ、吸着除去する方法(特開平4-284372号、特開平5-315006号)、アンモニウム塩等の添加剤を電解液に溶解等して除去する方法(特開平第3-119667号)、水酸化リチウム、水素化リチウム等のアルカリ処理剤(特開平4-282563号)で中和して除去する方法、金属フッ化物(特開平8-321326号)を使用する方法がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、酸化アルミニウム等の固体粉末吸着剤を電池に内臓させることによって電解液中の遊離酸を除去する方法は、電池の設計変更が必要となるためあまり好ましくない。モレキュラーシーブ等による吸着法は効果が小さい。また、電解液に添加剤を加える方法は、電池性能を低下させるおそれがある。
【0005】そこで本発明は、電池の設計変更を要すること無く、且つ電池に新たな成分を加えることなく、電解液から遊離酸を効率的に除去する方法及び該方法を用いて遊離酸の含有量が低い電解液を提供することを目的とする。」
「【0010】
【発明の実施の形態】本発明の電解液を用いるリチウム電池の構成については、特に制限は無く、公知のリチウム2次電池の構成を有することができる。負極活物質としては、例えばリチウム金属、黒鉛等の炭素材料、正極活物質としては、LiCoO2等のリチウムイオン含有金属酸化物を用いることができる。」
「【0020】
【実施例】以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
・・・中略・・・
【0022】実施例1
ジメチルカーボネートとプロピレンカーボネートを体積比4:6で混合した溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1モル/lの濃度になるように溶解させて電解液を調製した。該電解液を電解液-Aとした。電解液-Aの水分含有量は20ppmであり、又遊離酸含有量(フッ酸換算)は24ppmであった。
【0023】陰イオン交換樹脂(スチレン系アミン型)は、イオン交換水で洗浄後、約80℃、減圧下にて乾燥した。
【0024】電解液-A500mlに、上記の陰イオン交換樹脂を5重量%添加し、窒素雰囲気下、室温で48時間撹拌した。陰イオン交換樹脂を濾別して取り除き、遊離酸の含有量を測定したところ、8ppmであった。」
イ 引用文献2に記載された技術事項
上記記載から、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
(ア)【0001】の記載によれば、引用文献2には、リチウム電池用電解液に含まれている酸性不純物を除去する方法が記載されている。
(イ)【0010】の記載によれば、本発明の電解液を用いるリチウム電池の正極活物質としては、LiCoO2等のリチウムイオン含有金属酸化物を用いる。
(ウ)【0022】の記載によれば、電解液は、ジメチルカーボネートとプロピレンカーボネートを体積比4:6で混合した溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1モル/lの濃度になるように溶解させて調製した、水分含有量は20ppmであり、又遊離酸含有量(フッ酸換算)は24ppmのものである。
(エ)【0023】の記載によれば、陰イオン交換樹脂(スチレン系アミン型)は、イオン交換水で洗浄後、約80℃、減圧下にて乾燥したものである。
(オ)【0024】の記載によれば、電解液500mlに、上記の陰イオン交換樹脂を5重量%添加し、窒素雰囲気下、室温で48時間撹拌し、陰イオン交換樹脂を濾別して取り除き、遊離酸含有量を8ppmとしてなるのものである。
ウ 引用発明
上記イの(ア)ないし(オ)の技術事項を総合勘案すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「正極活物質として、LiCoO2等のリチウムイオン含有金属酸化物を用いるリチウム電池に用いられるリチウム電池用電解液に含まれている酸性不純物を除去する方法であって、
ジメチルカーボネートとプロピレンカーボネートを体積比4:6で混合した溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1モル/lの濃度になるように溶解させて調製した、水分含有量が20ppmであり、又遊離酸含有量(フッ酸換算)が24ppmの電解液500mlに、
イオン交換水で洗浄後、約80℃、減圧下にて乾燥した陰イオン交換樹脂(スチレン系アミン型)を5重量%添加し、
窒素雰囲気下、室温で48時間撹拌し、陰イオン交換樹脂を濾別して取り除き、遊離酸含有量を8ppmとした、
リチウム電池用電解液に含まれている酸性不純物を除去する方法。」
(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用文献2の段落【0002】の記載によれば、引用発明の「リチウム電池」は六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)などのリチウム系電解質を用い充放電するものであるから、リチウムイオン二次電池である。
そして、引用発明は「リチウム電池用電解液に含まれている酸性不純物を除去する方法」であるから、リチウム電池用電解液を精製する方法といい得るものである。
してみると、引用発明の「正極活物質として、LiCoO2等のリチウムイオン含有金属酸化物を用いるリチウム電池に用いられるリチウム電池用電解液に含まれている酸性不純物を除去する方法」と、本願補正発明の「LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物を正極とするリチウムイオン二次電池用電解液の精製方法」とは、「リチウム含有金属複合酸化物を正極活物質とするリチウムイオン二次電池用電解液の精製方法」である点で一致するといえる。
ただし、リチウム含有金属複合酸化物が、本願補正発明では「LiNiMnCo系」であるのに対して、引用発明ではLiCoO2等である点で相違する。
イ 本願補正発明では、「前記LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物がLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=1:1:1)またはLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=5:2:3)」であるのに対して、引用発明では、LiCoO2等である点で相違する。
ウ 引用発明の「陰イオン交換樹脂」はスチレン系アミン型であるから、本願補正発明の「弱塩基性陰イオン交換樹脂」に相当する。
そして、引用発明は「水分含有量が20ppmであり、又遊離酸含有量(フッ酸換算)が24ppmの電解液500mlに、」「陰イオン交換樹脂(スチレン系アミン型)を5重量%添加し、窒素雰囲気下、室温で48時間撹拌し、陰イオン交換樹脂を濾別して取り除き、遊離酸の含有量を8ppmとした」ものであるから、遊離酸含有量24ppmの電解液に陰イオン交換樹脂(スチレン系アミン型)を接触させる工程のみで当該電解液を遊離酸含有量8ppmまで精製しているといえる。
してみると、引用発明が「水分含有量が20ppmであり、又遊離酸含有量(フッ酸換算)が24ppmの電解液500mlに、イオン交換水で洗浄後、約80℃、減圧下にて乾燥した陰イオン交換樹脂(スチレン系アミン型)を5重量%添加し、窒素雰囲気下、室温で48時間撹拌し、陰イオン交換樹脂を濾別して取り除き、遊離酸の含有量を8ppmとした」ことは、本願補正発明が「前記リチウムイオン二次電池用電解液を含む被処理液を弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる工程のみからなる」ことに相当する。
エ 以上のことより、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有するといえる。
〈一致点〉
「リチウム含有金属複合酸化物を正極活物質とするリチウムイオン二次電池用電解液の精製方法であって、
前記リチウムイオン二次電池用電解液を含む被処理液を弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる工程のみからなる
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用電解液の精製方法。」
〈相違点〉
リチウム含有金属複合酸化物が、本願補正発明では「LiNiMnCo系」であり、「前記LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物がLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=1:1:1)またはLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=5:2:3)」であるのに対して、引用発明ではLiCoO2等である点。
(4)判断
ア 相違点について
以下、相違点について検討する。
たとえば、特表2019-517720号公報の段落【0006】に「近年、動力源用に使用されるより良好な性能で、より高容量のリチウムイオン二次電池の必要性が劇的に増加している。LiCoO2(「LCO」)およびLiNi0.33Mn0.33Co0.33O2(「NMC」)などのリチウム遷移金属酸化物は、市販の電池に使用されている最新式の高エネルギーカソード材料である。」、段落【0025】に「「NMC」という用語は、一般にLiNixMnyCozOwを含有するカソード材料を指し、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2およびLiNi0.5Mn0.3Co0.2O2を含有するカソード材料を含むが、それらに限定されない。」と記載され、特開2015-82480号公報の段落【0002】に「従来より、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2を正極活物質として含むリチウムイオン二次電池が知られている。」と記載されるように、リチウムイオン二次電池の正極活物質に用いられるリチウム遷移金属酸化物として、LiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=1:1:1)またはLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=5:2:3)のLiNiMnCo系リチウム遷移金属酸化物を用いることは、本願の優先日前周知の技術事項である。
そして、引用発明は「正極活物質としては、LiCoO2等のリチウムイオン含有金属酸化物を用いる」ものであるから、引用発明の正極活物質として、上記周知のリチウムイオン含有金属酸化物であるLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=1:1:1)またはLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=5:2:3)を用い、相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。
また、引用文献2の段落【0002】に「このフッ酸等は電池容量や充放電のサイクル特性を低下させ、また、電池内部の腐食を引き起こすという問題がある。」と記載されていることを考慮すれば、本願補正発明の奏する効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいない。
イ 審判請求書での請求人の主張について
審判請求書において請求人は、「しかしながら、拒絶査定書において原審審査官殿が認められているように、本願明細書の段落[0004]には、リチウムイオン二次電池の電解液中にフッ化水素等の酸性不純物が存在する場合、充放電のサイクル特性を低下させるという技術課題が明記されています。
また、本願明細書の実施例1および実施例2(表2)には、リチウムイオン二次電池用電解液を含む被処理液を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させることにより得られた特定の精製液を、LiNiCoMnO2を正極活物質とするリチウムイオン二次電池の電解液として使用することにより、酸性不純物によるリチウムイオン二次電池の劣化を好適に抑制し、充電容量維持率が62%~74%と高くなることが記載されています。
さらに、本願明細書の表3には、下記算出式{(実施例1における容量維持率80%となるサイクル数-実施例2における容量維持率80%となるサイクル数)/実施例2における容量維持率80%となるサイクル数)}×100により求めたサイクル特性向上率が52%と高いことも記載されています。
加えて、リチウムイオン二次電池において、一般に、電解液中のフッ化水素等の酸性不純物により充放電のサイクル特性が低下することは(本願明細書の段落[0004]にも記載しているとおり)当業者に周知の事実であり、出願人が提示した上記「対比実験例」も、本点を裏付けるために提示したものに過ぎません。
このため、本願発明に係るLiNiCoMnO2を正極活物質とするリチウムイオン二次電池が、電解液中のフッ化水素等の酸性不純物の低減によるサイクル特性の向上が大きいという効果(効果C)を有することについて、本願明細書に記載されていることは明らかです。」(第12頁下から3行目ないし第13頁下から9行目)、「しかしながら、上述した理由により、本願発明が効果Cを有すること、すなわち、本願発明が、LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物であるLiNiCoMnO2を正極活物質とするリチウムイオン二次電池において、LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物以外の材料を正極活物質とするリチウムイオン二次電池に比べて、電解液中のフッ化水素等の酸性不純物の低減によるサイクル特性の向上が大きいという効果Cを有することは、認められるべきものであります。」(第16頁下から10ないし4行目)と主張している。
しかしながら、本願明細書の各実施例より、LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物であるLiNiCoMnO2を正極活物質とするリチウムイオン二次電池において、本願補正発明により電解液中のフッ化水素等の酸性不純物を低減することによりサイクル特性が向上する効果が得られると当業者は理解し得ると認められるものの、本願明細書の段落【0013】に「本発明に係るリチウムイオン二次電池用電解液の精製方法において、得られる電解液を使用するリチウムイオン二次電池の正極活物質としては、特に制限されない」と記載されると共に、本願明細書にはLiNiCoMnO2を正極活物質とした例が記載されているのみであるから、本願補正発明が、LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物を正極活物質とするリチウムイオン二次電池において、LiNiCoMnO2以外のリチウム含有金属複合酸化物の材料を正極活物質とするリチウムイオン二次電池に比べてサイクル特性の向上が大きいという効果を奏することまでは、本願明細書に記載された効果とは認められず、本願明細書の記載より当業者が理解し得るとも認められない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するもので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和6年9月19日付けの手続補正書の請求項1に記載されたとおりのものであり、上記「第2[理由]1」の〈補整前の請求項1〉に摘記されたとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記2.の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
<引用文献等一覧>
2.特開平11-185810号公報
3 引用文献の記載及び引用発明等
原査定の引用文献2の記載事項及び引用発明は、上記「第2[理由]2(2)」に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]1」で検討した本願補正発明から、「LiNiMnCo系のリチウム含有金属複合酸化物」について、「LiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=1:1:1)またはLiNiCoMnO2(Ni:Co:Mn=5:2:3)」であることの限定、すなわち上記「第2[理由]2(3)」に記載した<相違点>における一部の特定事項を省くと共に、「リチウムイオン二次電池用電解液の精製方法」がリチウムイオン二次電池用電解液を含む被処理液を弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる工程「のみからなる」との限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「(4)」に記載したとおり、引用発明及び周知技術から当業者が容易になし得たものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術から当業者が容易になし得たものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明ついて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-004044