2019-014979
ターピリジン誘導体を用いた電子輸送材料及び有機EL素子
- 審判番号
- 2019-014979
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-141085外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年11月08日
- 審決日
- 2020年09月18日
- 公報発行日
- 2020年12月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】国立大学法人山形大学
- 【請求人代理人】木下 茂
- 分類
- P18 .121-Z (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 14項目
1 手続の経緯
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本願は、平成27年7月15日の出願であって、平成31年3月22日付けで拒絶理由が通知され、令和元年6月13日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされ、同年8月6日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年11月8日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
なお、令和元年11月8日の手続補正は、特許請求の範囲の補正を含まないものである。
2 本件発明
本願の請求項1及び請求項2に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定されるとおりの発明であって、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりである。
「 【請求項1】下記構造式で表されるターピリジン誘導体よりなる電子輸送材料。【化1】」
3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は、本願の請求項1及び請求項2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
また、原査定の拒絶理由に引用された引用文献は次のとおりであり、引用文献1~4をそれぞれ主引用発明が記載された文献として引用し、引用文献5~8を周知技術を示す文献として引用している。
引用文献6:Hisahiro Sasabeら, Influence of Substituted Pyridine Rings on Physical Properties and Electron Mobilities of 2-Methylpyrimidine Skeleton-Based Electron Transporters, ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS, 2011, vol.21, pp.336-342
4 引用文献の記載事項及び引用発明
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(1)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶理由に主引用発明が記載された文献として引用され、本願出願前の平成20年12月4日に頒布された刊行物である特開2008-294161号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。以下の文献についても同様である。
ア 「【技術分野】【0001】本発明は、電気エネルギーを光に変換できる発光素子に関する。(中略)続きを表示(全27行)【発明が解決しようとする課題】【0007】しかし、上記文献に記載された材料を用いても、発光素子の高効率化、低駆動電圧化および長寿命化のいずれにおいても充分なレベルに達していない。特に、低駆動電圧化と長寿命化とを備えた発光素子を得るためには、更なる改善が望まれている。【0008】本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、発光効率、低駆動電圧化、発光寿命が向上された発光素子を提供することにある。【課題を解決するための手段】【0009】すなわち、本発明は以下のとおりである。本発明は、陽極と陰極との間に、少なくとも正孔輸送層と発光層とを有する発光素子であって、前記正孔輸送層は、下記一般式(1)で表される化合物を含有する、発光素子である。【化1】(R1~R6は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基を表す。Aは、単結合、アリーレン基、ヘテロアリーレン基を表す。Ar1~Ar3は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい、アリール基である。Ar2-N-Ar3は、縮合して環を形成していてもよい。)【0010】上記一般式(1)で表される化合物は、高い正孔輸送能を有する。このため、上記一般式(1)で表される化合物を正孔輸送層に用いると、駆動電圧を低下させた発光素子を提供することができる。【0011】また、上記発光素子は、上記陰極と上記発光層との間に、少なくとも電子輸送層を有し、上記電子輸送層は、不対電子対を有する含窒素芳香族化合物を含有するものであるとよい。【0012】上記したように発光効率を向上させるためには、電子と正孔の注入バランス因子(キャリアバランス)が重要となる。高い正孔輸送能を有する上記一般式(1)で表される化合物と、キャリアバランスをとるためには、電子輸送能の高い電子輸送層を設ければよい。不対電子対を有する含窒素芳香族化合物を含有するものは、電子輸送能が高いので、キャリアバランスをとることができる。この結果、発光効率の向上した発光素子を得ることができる。【発明の効果】【0013】本発明の発光素子では、高い正孔輸送能を有する化合物を正孔輸送層に用いる。この結果、発光素子の低駆動電圧化を図ることができる。【0014】さらに、電子輸送層を設ける場合に、電子輸送能の高い化合物を用いる。この結果、発光効率の向上した発光素子を得ることができる。」
イ 「【発明を実施するための最良の形態】【0015】以下に本発明を詳細に説明する。本発明の発光素子は、陽極と、陰極と、これらの電極間に、少なくとも、正孔輸送層と発光層とを、この順に備えている。また、本発明の発光素子は、陽極と、陰極と、これらの電極間に、少なくとも、正孔輸送層と発光層と電子輸送層とをこの順に備えていてもよい。(中略)続きを表示(全33行)【0023】[正孔輸送層]正孔輸送層は、陽極から正孔が注入され、注入された正孔を輸送する層である。正孔輸送層の材料としては、陽極からの正孔の注入を容易にし、また注入された正孔を輸送する能力が高いことが要求される。本発明では、正孔輸送材料として、少なくとも下記一般式(1)で表される化合物を含有する。(中略)【0031】次に、本発明の一般式(1)で表される化合物の好ましい具体例を挙げる。本発明の一般式(1)で表される化合物は、これらに限定されるものではない。式中、Meは、メチル基を意味する。(中略)【0034】【化5】(中略)【0038】本発明の発光素子において、正孔輸送層は、単独の一般式(1)で表される化合物のみで構成してもよく、一般式(1)で表される化合物を複数混合して構成してもよく、その他の正孔輸送材料の一種類以上を本発明の化合物と混合して構成してもよい。(中略)【0045】[発光層]発光層では、正孔と電子との結合により、発光材料の励起子を生じさせ、励起子が基底状態に戻る際に発光する。(中略)【0053】[電子輸送層]電子輸送層は、陰極から電子が注入され、注入された電子を輸送する層である。電子輸送層は、電子輸送層には、電子注入効率が高く、注入された電子を効率良く輸送することが要求される。このため、電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であると好ましい。一方、正孔と電子の輸送バランスを考えた場合に、電子輸送層が陽極からの正孔が再結合せずに陰極側へ流れるのを効率よく阻止できる役割を主に果たすならば、電子輸送能力がそれ程高くない材料で構成されていてもよい。すなわち、電子輸送能力がそれ程高くない材料であっても、発光効率を向上させる効果は電子輸送能力が高い材料で構成されている場合と同等となる。したがって、本発明における電子輸送層には、正孔の移動を効率よく阻止できる正孔阻止材料で形成された層も同義のものとして含まれる。【0054】電子輸送層に用いられる電子輸送材料は、特に限定されず、ナフタレン、アントラセンなどの縮合多環芳香族誘導体、4,4’-ビス(ジフェニルエテニル)ビフェニルに代表されるスチリル系芳香環誘導体、アントラキノンやジフェノキノンなどのキノン誘導体、リンオキサイド誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体が挙げられる。特に、駆動電圧を低減し、高効率発光が得られることから、不対電子を有する電子受容性窒素を含む含窒素芳香環構造を有する化合物を用いることが好ましい。【0055】ここで、電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。窒素原子が高い電子陰性度を有することから、該多重結合は電子受容的な性質を有する。それゆえ、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環は、高い電子親和性を有し、電子輸送能に優れ、電子輸送層に用いることで発光素子の駆動電圧を低減できる。電子受容性窒素を含むヘテロアリール環としては、例えば、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、キノリン環、キノキサリン環、ナフチリジン環、ピリミドピリミジン環、ベンゾキノリン環、フェナントロリン環、イミダゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンズイミダゾール環、フェナンスロイミダゾール環などが挙げられる。【0056】ヘテロアリール環構造を有する化合物としては、例えば、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体、キノキサリン誘導体およびナフチリジン誘導体などが好ましい化合物として挙げられる。中でも、トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼンなどのイミダゾール誘導体、1,3-ビス[(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾリル]フェニレンなどのオキサジアゾール誘導体、N-ナフチル-2,5-ジフェニル-1,3,4-トリアゾールなどのトリアゾール誘導体、バソクプロインや1,3-ビス(1,10-フェナントロリン-9-イル)ベンゼンなどのフェナントロリン誘導体、2,2’-ビス(ベンゾ[h]キノリン-2-イル)-9,9’-スピロビフルオレンなどのベンゾキノリン誘導体、2,5-ビス[6’-(2’,2”-ビピリジル)]-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロールなどのビピリジン誘導体、1,3-ビス[4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル)]ベンゼンなどのターピリジン誘導体、ビス(1-ナフチル)-4-(1,8-ナフチリジン-2-イル)フェニルホスフィンオキサイドなどのナフチリジン誘導体が、電子輸送能の点から好ましく用いられる。(中略)【0062】本発明の発光素子は、電気エネルギーを光に変換する。ここで電気エネルギーとしては主に直流電流が使用されるが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値および電圧値は特に制限はないが、素子の消費電力や寿命を考慮すると、できるだけ低いエネルギーで最大の輝度が得られるよう選べばよい。」
ウ 「【実施例】【0067】以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例にある化合物の番号は、上記の化学式に記載した番号を意味する。【0068】続きを表示(全25行)(実施例1) 化合物[23]の合成アルゴン雰囲気下、塩化鉄(III)38.9gとクロロホルム240mLを加えた2Lの三口フラスコに、カルバゾール20.0gのクロロホルム400mL懸濁液を室温にて撹拌しながら加え、一晩撹拌した。塩化鉄(III)12.2gのクロロホルム50mL溶液を加え、さらに5時間撹拌した。この反応液を氷冷したのち、1M塩酸325mLと酢酸エチル400mLを加え、30分間撹拌した。析出した沈殿物を吸引濾過により濾取し、水、酢酸エチルで順次洗浄した。得られた固体をN,N’-ジメチルイミダゾリジノン(以下、「DMI」という)130mLに加え、120℃に加熱して溶解したのち、室温に冷却した。析出した沈殿物を吸引濾過により濾取し、DMI、メタノールで順次洗浄したのち、70℃にて2時間真空乾燥した。ついで、得られた固体を1,4-ジオキサン400mLに加え、130℃に加熱して溶解し、熱時濾過した。濾液を室温に冷却したのち、エバポレーターで減圧濃縮した。濃縮残渣を1,4-ジオキサン20mLに加え、130℃にて1時間撹拌したのち、放冷した。沈殿物を吸引濾過により濾取し、1,4-ジオキサン、メタノールで順次洗浄したのち、70℃にて真空乾燥し、3,3’-ビスカルバゾール11.3gを得た。【0069】次に、3,3’-ビスカルバゾール10.0g、4-ブロモトルエン10.8g、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)[以下、「Pd(dba)2」という]1.81g、トリ-tert-ブチルホスフィンテトラフルオロホウ酸錯体822mg、tert-ブトキシナトリウム6.07gとキシレン300mLの混合溶液をアルゴン雰囲気下、130℃で22時間撹拌した。室温にまで冷却したのち、トルエン300mLを加えて濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。濃縮残渣をトルエン50mLに加え、110℃に加熱して溶解し、放冷した。析出した固体を濾過し、トルエン、ヘキサンで順次洗浄したのち、70℃にて真空乾燥し、9-p-トリル-9H-カルバゾール二量体10.0gを得た。【0070】アルゴン雰囲気下、9-p-トリル-9H-カルバゾール二量体9.80gのジクロロメタン300mL溶液に、N-ブロモコハク酸イミド7.15gのジクロロメタン200mL懸濁液を加え、室温にて5時間撹拌した。析出した固体を濾過により除去し、濾液をエバポレーターにて濃縮した。濃縮残渣をトルエン400mLに加え、115℃に加熱して1時間撹拌したのち、放冷した。白色の沈殿物を濾過し、トルエン、ヘキサンで順次洗浄したのち、70℃にて真空乾燥し、3-ブロモ-9-p-トリル-9H-カルバゾール二量体17.0gを得た。【0071】3-ブロモ-9-p-トリル-9H-カルバゾール二量体2.40g、4-(ジフェニルアミノ)フェニルボロン酸2.12g、Pd(dba)2206mg、トリ-tert-ブチルホスフィンテトラフルオロホウ酸錯体93.5mg、tert-ブトキシナトリウム705mgとキシレン70mLの混合溶液をアルゴン雰囲気下、130℃で18時間撹拌した。室温にまで冷却したのち、トルエン70mLを加えて濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。濃縮残渣をカラムクロマト(Wakogel C-200、ヘキサン/トルエン)にて分離したのち、熱トルエン20mLにて4回洗浄し、70℃にて真空乾燥し、化合物[23]0.64gを得た。この化合物を、油拡散ポンプを用いて1×10-3Paの圧力下、280度で昇華精製を行ってから正孔輸送材料として使用した。【0072】(実施例2)正孔輸送層に化合物[23]を使った発光素子を次のように作製した。38mm×46mmの無アルカリガラス基板(コーニング(株)製、#1737)上にITO導電膜(スパッタ品)を、ガラス基板中央部分に38mm×13mm、膜厚150nm(11Ω/□)に形成し陽極とした。陽極が形成された基板をアセトン、“セミコクリン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。続いて、イソプロピルアルコールで15分間超音波洗浄してから熱メタノールに15分間浸漬させて乾燥させた。素子を作製する直前にこの基板を1時間UV-オゾン処理し、さらに真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として銅フタロシアニン(以下、「CuPc」という)を10nmの厚さに成膜した。次に正孔輸送層として化合物[23]を50nm積層した。その上に発光層を以下の通りに形成した。ホスト材料としてトリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq3)を、発光性ドーパントとしてN,N’-ジメチル-キナクリドンをドープ濃度が2重量%になるように40nmの厚さに積層した。次に電子輸送層として下記に示す(E-1)を35nmの厚さに積層した。以上のようにして形成した有機層上に、フッ化リチウムを0.5nm蒸着した後、アルミニウム100nmを蒸着して陰極とし、5×5mm角の発光素子を作製した。ここで示した膜厚は水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子を10mA/cm2で直流駆動したところ、発光効率4.2lm/Wの緑色発光が得られた。またこの発光素子を10mA/cm2で直流駆動した時の輝度半減時間は9000時間であった。【0073】【化9】(中略)【0081】(実施例4~5)電子輸送層として下記の化合物(E-3)~(E-4)を用いた以外は実施例2と同様にして発光素子を作製、評価した。各実施例の結果は表1に示した。【化12】【表1】【0082】表1から、本発明にかかる正孔輸送材料を用いた発光素子では、従来からの電子輸送層を用いても、電力効率(実施例4:3.8、実施例5:4.0)、輝度半減時間(実施例4:8000、実施例5:7400)ともに、比較例1、2の発光素子の電力効率(比較例1:3.0、比較例2:3.5)、輝度半減時間(比較例1:4000、比較例2:3000)に比べ、優れていることがわかる。」
(2)引用文献3に記載された発明
引用文献3の前記記載事項イには、「電子輸送層に用いられる電子輸送材料は、特に限定されず、・・・が挙げられる。特に、駆動電圧を低減し、高効率発光が得られることから、不対電子を有する電子受容性窒素を含む含窒素芳香環構造を有する化合物を用いることが好ましい。」(段落【0054】)、「ここで、電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。窒素原子が高い電子陰性度を有することから、該多重結合は電子受容的な性質を有する。それゆえ、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環は、高い電子親和性を有し、電子輸送能に優れ、電子輸送層に用いることで発光素子の駆動電圧を低減できる。電子受容性窒素を含むヘテロアリール環としては、例えば、ピリジン環、・・・などが挙げられる。」(段落【0055】)、「ヘテロアリール環構造を有する化合物としては、例えば、・・・、ビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体、・・・などが好ましい化合物として挙げられる。中でも、・・・、1,3-ビス[4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル)]ベンゼンなどのターピリジン誘導体、・・・が、電子輸送能の点から好ましく用いられる。」(段落【0056】)と記載されている。当該記載に基づけば、「1,3-ビス[4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル)]ベンゼン」は、「電子輸送層に用いられる電子輸送材料」であるといえる。そして、引用文献3の前記記載事項ウの実施例5に用いられる化合物(E-4)は、その化学構造からみて、「1,3-ビス[4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル)]ベンゼン」である。
そうすると、引用文献3には、実施例5として次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていたと認められる。
「電子輸送層に用いられる電子輸送材料である1,3-ビス[4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル)]ベンゼン。」
(3)引用文献5の記載事項
原査定の拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の平成25年10月10日に頒布された刊行物である、特表2013-538436号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の記載事項がある。
「【0009】良好な効率、良好な動作寿命、熱ストレスに対する高い安定性及び低い動作電圧を示す有機電子デバイス、特に有機発光デバイスを提供することが、本発明の目的であった。【0010】前記目的は、第1電極、第2電極及び第1電極と第2電極の間に置かれた有機層を含む有機電子デバイスにより解決され、ここで有機層は、下記式:続きを表示(全41行)【化3】(I)の有機金属錯体及び下記式:【化4】(II)の化合物を含み、式中、(中略)【0013】R81、R82、R83及びR84は、好ましくは互いに独立して、H又はC1~C18アルキル、より好ましくはHである。R81'、R82'、R83'及びR84'は、好ましくは互いに独立して、H又はC1~C18アルキル、より好ましくはHである。【0014】Qは、好ましくは、下記式:【化7】〔式中、R85は、H、C1~C18アルキル、Eで置換されている及び/若しくはDで中断されているC1~C18アルキル、C6~C24アリール、Gで置換されているC6~C24アリール、C2~C20ヘテロアリール又はGで置換されているC2~C20ヘテロアリールであり、そしてD、E及びGは、上記に定義されたとおりである〕の基である。【0015】式IIの化合物がさらにより好ましく、ここでQは、下記式:【化8】の基であり、R85は、H、C1~C18アルキル、Eで置換されている及び/若しくはDで中断されているC1~C18アルキル、C6~C24アリール、Gで置換されているC6~C24アリール、C2~C20ヘテロアリール又はGで置換されているC2~C20ヘテロアリールであり、D、E及びGは、上記に定義されたとおりである。【0016】下記式:【化9】の基が最も好ましい。【0017】下記式:【化10】(IIa)の化合物が好ましく、ここでQは、下記式:【化11】の基であり、R85は、H、C1~C18アルキル、Eで置換されている及び/若しくはDで中断されているC1~C18アルキル、C6~C24アリール、Gで置換されているC6~C24アリール、C2~C20ヘテロアリール又はGで置換されているC2~C20ヘテロアリールであり、D、E及びGは、上記に定義されたとおりである。前記実施態様において、R81、R82、R83及びR84は、好ましくは互いに独立して、H又はC1~C18アルキルである。【0018】下記式:【化12】(IIb)の化合物、例えば、【化13】の化合物が、さらにより好ましく、ここでQは、下記:【化14】であり、R85は、H又はC1~C18アルキルであり、そしてR85'は、H、C1~C18アルキル又は下記:【化15】である。」
(4)引用文献6の記載事項
原査定の拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の2011年に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献である、ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS, 2011, vol.21, pp.336-342(以下、「引用文献6」という。)には、以下の記載事項がある。
ア 336頁右欄下から5行~337頁左欄27行
「2. Results and Discussion2.1. DFT CalculationsTo estimate the effect of the 2-methylpyrimidine skeleton, we conducted density functional theory (DFT) calculations for four molecules: B2PyMPM, B3PyMPM, B4PyMPM, and 2,9-dimethyl-4,7-diphenylphenanthroline(BCP) as a reference ( Figure 1 ). Here, the only structural difference between the BPyMPM derivatives is the position of substituted pyridine rings (2-pyridine for B2PyMPM, 3-pyridine for B3PyMPM, and 4-pyridine for B4PyMPM, respectively). The optimized structures were calculated at the RB3LYP 6.31G(d) level for the ground state, and at UB3LYP 6.31G(d) for the excited triplet state. The single-point energies were calculated at the corresponding 6-311+G(d,p) levels. The vertical ionization energies (Ip) and electron affinities (Ea) were obtained using the ΔSCF method. Here, the single-point energies of radical ion species were calculated at the UB3LYP 6-311+G(d,p) level using the optimized ground-state structures. In addition, using the previously reported method,[10]the ET1 energies of BPyMPM derivatives were calculated. All the calculated values are summarized in Table 1.The Ip was shown to increase in the order B2PyMPM(7.36eV)<BCP(7.40eV)<B3PyMPM(7.81eV)<B4PyMPM(8.17eV). Similarly, the Ea increased in the order BCP(0.47eV)<B2PyMPM(0.90eV)<B3PyMPM(1.30eV)<B4PyMPM(1.47eV). The BPyMPM derivatives have deep Ips similar to that of BCP but much lower-lying Eas than that of BCP. Thus, these compounds are expected to have both high hole-blocking and favorable electron-injection properties. All the ET1s of the BPyMPM derivatives were estimated to be ca. 0.4eV higher than those of BCP, suggesting their practical use for blue and green phosphorescent OLEDs.」
翻訳文「2.結果と考察
2.1. DFT計算
2-メチルピリミジン骨格の効果を推定するために、B2PyMPM、B3PyMPM、B4PyMPM、及び参照として2,9-ジメチル-4,7-ジフェニルフェナントロリン(BCP)の4つの分子の密度汎関数理論(DFT)計算を行った(図1)。ここで、BPyMPM誘導体間の唯一の構造的な違いは、置換されたピリジン環の位置である(B2PyMPMの場合は2-ピリジン、B3PyMPMの場合は3-ピリジン、B4PyMPMの場合は4-ピリジン)。最適化された構造は、基底状態ではRB3LYP 6-31G(d)レベルで、励起三重項状態ではUB3LYP 6-31G(d)で計算した。単一点エネルギーは、対応する6-311+G(d.p)レベルで計算した。イオン化ポテンシャル(Ip)と電子親和力(Ea)は、ΔSCF法を使用して取得した。ここでは、ラジカルイオン種のシングルポイントエネルギーを、最適化された基底状態構造を使用してUB3LYP 6-311+G(d.p)レベルで計算した。さらに、以前に報告された方法[10]を使用して、BPyMPM誘導体のET1エネルギーを計算した。すべての計算値を表1にまとめる。
Ipは、B2PyMPM(7.36eV)<BCP(7.40eV)<B3PyMPM(7.81eV)<B4PyMPM(8.17eV)の順に増加することが示された。同様に、EaはBCP(0.47eV)<B2PyMPM(0.90eV)<B3PyMPM(1.30eV)<B4PyMPM(1.47eV)の順に増加した。BPyMPM誘導体は、BCPと同様の深いIpを有するが、BCPよりもはるかに低いEaを示す。したがって、これらの化合物は、高い正孔阻止特性および好ましい電子注入特性の両方を有すると期待される。全てのBPyMPM誘導体のET1は、BCPよりも約0.4eV高いと推定されるため、青と緑のリン光OLEDへの実用化が示唆される。」
イ 337頁のFigure 1.
「」
ウ 337頁のTable 1.
「」
(5)引用文献7の記載事項
原査定の拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の平成20年6月5日に頒布された刊行物である、特開2008-127326号公報(以下、「引用文献7」という。)には、以下の記載事項がある。
「【技術分野】【0001】本発明は、新規なジ(ピリジルフェニル)誘導体、それよりなる電子輸送材料およびそれを含む有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)に関する。(中略)続きを表示(全18行)【課題を解決するための手段】【0009】本発明の第1は、下記一般式(1)【化7】(式中、Qは【化8】よりなる群から選ばれた基であり、R1~R6およびR10~R13は水素、炭素数1~6の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数1~6の直鎖または分岐のアルコキシキ基および炭素数1~6の直鎖または分岐のモノ-またはジ-アルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である)で示されるジ(ピリジルフェニル)誘導体に関する。(中略)【0014】本発明化合物の具体例を以下に例示する。【0015】【化11】」
(6)引用文献8の記載事項
原査定の拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の平成26年8月28日に頒布された刊行物である、特開2014-156441号公報(以下、「引用文献8」という。)には、以下の記載事項がある。
「【0018】以下、本発明について、より詳細に説明する。本発明に係る3,5-ジピリジルフェニル誘導体は、前記一般式(1)で表される化合物である。(中略)このような3,5-ジピリジルフェニル誘導体は、新規化合物であり、高い電子輸送特性、高い三重項エネルギーを有し、かつ、電子注入性、ホールブロック性及び熱特性にも優れており、電子輸送材料として好適に用いることができる。【0019】前記一般式(1)で表される化合物のうち、具体的には、下記に示すようなものが好ましい。【0020】【化4】」
5 対比
本件発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「1,3-ビス[4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル)]ベンゼン」は「電子輸送材料」である。また、引用発明における「1,3-ビス[4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル)]ベンゼン」は、その化学構造からみて、本件発明でいう「ターピリジン誘導体」に該当する。
以上より、本件発明と引用発明とは、
「ターピリジン誘導体よりなる電子輸送材料。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]本件発明のターピリジン誘導体は、以下の構造式で表される「3-TerpyB」又は「4-TerpyB」、つまり、「1,3-ビス[4’-(3,3’:6’2”-ターピリジニル)]ベンゼン」又は「1,3-ビス[4’-(4,4’:6’2”-ターピリジニル)]ベンゼン」であるのに対し、引用発明のターピリジン誘導体は、「1,3-ビス[4’-(2,2’:6’2”-ターピリジニル)]ベンゼン」である点。
6 判断
引用文献3には、「本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、発光効率、低駆動電圧化、発光寿命が向上された発光素子を提供することにある。」(段落【0008】)及び「電子輸送層に用いられる電子輸送材料は、特に限定されず、・・・が挙げられる。特に、駆動電圧を低減し、高効率発光が得られることから、不対電子を有する電子受容性窒素を含む含窒素芳香環構造を有する化合物を用いることが好ましい。」(段落【0054】)と記載されている。これらの記載に基づけば、引用発明は、駆動電圧を低減し、高効率発光が得られる発光素子を提供することを目的とするものといえる。
そして、発光素子に用いる材料を選択するにあたり、ピリジン環の結合部位の異なる異性体を考慮することは、本件出願前の当業者において既に広く知られていた事項といえる。すなわち、引用文献5には、前記4(3)に記載したとおり、式(IIa)の化合物として、末端にピリジン環の2位、3位及び4位が結合した化合物が列記されている。また、引用文献6にも、置換されたピリジン環の位置のみが異なる2-メチルピリミジン骨格を有する化合物が列記されており、それぞれの、イオン化ポテンシャルIp及び電子親和力PaをΔSCF法を使用して計算したことが記載されている。さらに、引用文献7にも、有機エレクトロルミネッセンス素子の電子輸送材料として用いるジ(ピリジルフェニル)誘導体の具体例として、末端にピリジン環の2位、3位及び4位が結合した化合物が列記されている。そして、引用文献8にも、電子輸送材料として用いることができる3,5-ジピリジルフェニル誘導体の具体的な化合物として、末端にピリジン環の2位、3位及び4位が結合した化合物が列記されている。これらの化合物は、いずれも、有機エレクトロルミネッセンス素子の電子輸送材料として用いられるものであり、末端にピリジン環構造を有する点でも共通している。
そうすると、引用発明に接した当業者が、ピリジン環の結合部位の異なる異性体についても考慮し,発光素子に用いたときに、駆動電圧を低減し、高効率発光が得られるかを試みることは、容易に想到し得たことである。
7 請求人の主張
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審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「本願発明では、ターピリジン骨格の外縁部の窒素の置換位置を変えて種々検討することで、請求項1に定義するターピリジン誘導体の構造において、ピリジン外縁部の窒素が3位又は4位にある場合に、2位にある場合に比べて、電子親和力(Ea)が大きく、駆動電圧が低く、青から緑色リン光を放出する有機EL素子用の電子輸送材料として好適であることを見出している。」、「このような知見は、本願発明の構成を記載も示唆もしていない引用文献1~4と、本願発明に係るターピリジン誘導体とは異なるピリジン化合物を開示する引用文献5~8とを組み合わせても、容易に想到し得るものではなく、また、本件発明の構成による効果の程度は、上述の通り、引用文献から当業者が予測することができた効果を超える顕著なものである。」と主張している。
しかしながら、有機化合物が有する電子親和力(Ea)は、その化学構造に基づいて、当業者が推定できるものである。例えば、下位幸弘ら、「基礎講座 <有機分子エレクトロニクスの基礎と応用>有機分子材料の電子状態I」,応用物理,2007年,第76巻,第9号,第1050~1054頁には、「イオン化ポテンシャルや電子親和力は,有機ELや有機太陽電池の電荷注入や電荷分離過程を考えるうえで基本的な物性値である.イオン化ポテンシャルの小さい分子は電子供与体(ドナー),電子親和力の大きい分子は電子受容体(アクセプター)として働く.」(第1053頁左欄第2~6行)、「イオン化ポテンシャル,電子親和力の理論的評価には,イオン状態と中性状態を個別に計算し,真空準位をエネルギーの原点として,両者の全エネルギーの差をとればよい.HF近似,DFT法を用いたこの評価法は,二つのSCF計算の差を求めるのでΔSCF法と呼ばれている.」(同欄第10~14行)、「粗い近似としては,イオン化ポテンシャルは電子の真空準位から見たHOMOエネルギーの深さに対応し,電子親和力はLUMOの深さに対応する(クープマンの定理).」(同欄第21~23行)と記載されている。これらの記載に基づけば、電子親和力について、その化学構造から理論的評価を行うことは、本件出願前の当業者に広く知られていた事項といえる(例えば、引用文献6には、置換されたピリジン環の位置が異なるB2PyMPM、B3PyMPM、B4PyMPMについて、その電子親和力(Ea)を、ΔSCF法を使用して取得したことが記載されている。)。また、駆動電圧についても、上記のとおり、密度汎関数理論による計算により、励起一重項及び励起三重項を見積もることができるのであるから、その化学構造に基づいて当業者が予測し得たものである。
さらに、引用発明を電子輸送層として用いて発光素子を作製した場合、「緑色」の発色光が得られる(引用文献3の段落【0081】)ものである。そうすると、「青から緑色リン光を放出する」という効果も、引用文献3の記載から当業者が予測できた範囲のものといえる。
以上勘案すると、本件発明の効果は、引用文献3及び技術常識に基づいて当業者が予測できたものと比較して、予想外の顕著なものであるとまではいえない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
8 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用文献3及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-014979