特許拒絶査定不服審判
2019-008792
積層型圧電素子およびこれを備えた噴射装置ならびに燃料噴射システム
- 審判番号
- 2019-008792
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-571824外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年07月01日
- 審決日
- 2020年06月25日
- 公報発行日
- 2020年08月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】京セラ株式会社
- 分類
- P18 .121-WY (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-571824「積層型圧電素子およびこれを備えた噴射装置ならびに燃料噴射システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 4日国際公開、WO2016/121278、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,2015年(平成27年)12月24日(優先権主張 平成27年1月28日)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 7月 6日 :国内書面
平成30年 9月 5日付け:拒絶理由通知書(起案日)
平成30年11月 6日 :意見書,手続補正書の提出
平成31年 4月11日付け:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。)
令和 元年 7月 1日 :審判請求書,手続補正書の提出(以下この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1.(新規性)本願請求項1,4,7に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
2.(進歩性)本願請求項1,4-8に係る発明は,以下の引用文献1-3に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特表2010-506412号公報
2.特開2008-300466号公報
3.特開2007-281256号公報
第3 本件補正について
本件補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,本件補正後の請求項1-8に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。
第4 本願発明
本願請求項1-8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
圧電体層および内部電極層が交互に複数積層されてなる活性部および該活性部の積層方向の両端部に設けられた圧電体層からなる不活性部を有する積層体と,該積層体の側面を取り囲むように設けられた被覆層とを備え,該被覆層は,前記積層体の積層方向に垂直な断面で見て境界が円環状であるシリコーン樹脂またはエポキシ樹脂からなる内側の第1の層とシリコーン樹脂またはナイロン樹脂からなる外側の第2の層とからなる2層構造を有するとともに前記両端部の不活性部間に連続して設けられ,かつ,前記不活性部の側方に位置する円環状の前記境界に複数の空隙を有しており前記複数の空隙が周方向に分散している積層型圧電素子。
【請求項2】
前記積層体の積層方向に垂直な断面で見て,前記空隙は前記境界の界面の面方向に沿って扁平な形状である請求項1に記載の積層型圧電素子。
【請求項3】
圧電体層および内部電極層が交互に複数積層されてなる活性部および該活性部の積層方向の両端部に設けられた圧電体層からなる不活性部を有する積層体と,該積層体の側面を取り囲むように設けられた被覆層とを備え,該被覆層は,前記積層体の積層方向に垂直な断面で見て境界が円環状であるシリコーン樹脂またはエポキシ樹脂からなる内側の第1の層とシリコーン樹脂またはナイロン樹脂からなる外側の第2の層とからなる2層構造を有するとともに前記両端部の不活性部間に連続して設けられ,かつ,前記不活性部の側方に位置する円環状の前記境界に複数の空隙を有しており前記複数の空隙が周方向に分散しているとともに該空隙は前記境界の界面の面方向に沿って扁平な形状である積層型圧電素子。
【請求項4】
前記第1の層の内部にボイドがある請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の積層型圧電素子。
【請求項5】
前記第1の層の弾性率は,前記第2の層の弾性率よりも小さい請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の積層型圧電素子。
【請求項6】
前記第1の層がシリコーン樹脂からなり,前記第2の層がナイロン樹脂からなる請求項4または請求項5に記載の積層型圧電素子。
【請求項7】
噴射孔を有する容器と,請求項1乃至請求項6のうちのいずれかに記載の積層型圧電素子とを備え,該積層型圧電素子の駆動によって前記噴射孔が開閉される噴射装置。
【請求項8】
高圧燃料を蓄えるコモンレールと,該コモンレールに蓄えられた前記高圧燃料を噴射する請求項7に記載の噴射装置と,前記コモンレールに前記高圧燃料を供給する圧力ポンプと,前記噴射装置に駆動信号を与える噴射制御ユニットとを備える燃料噴射システム。」
第5 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【請求項1】
アクチュエータヘッド(4)とアクチュエータベース(5)との間に配置された圧電素子(6)を有する圧電アクチュエータ(3)と,
少なくとも前記の圧電素子(6)を包囲するエラストマ層と,
流体を通さない前記の圧電アクチュエータ(3)の被覆部とを備えたアクチュエータモジュールにおいて,
前記の被覆部(26;46,47)は,少なくとも部分領域にて,波によって形成される溝(28;29;30;49;50;51)を有しており,
当該の溝を用い,前記の被覆部(26;46,47)の周囲における当該溝の配置構成により,前記の圧電アクチュエータ(21;41)および/またはエラストマ層(25;45)の半径方向および/または軸方向の伸びの運動の影響を吸収することを特徴とする,
アクチュエータモジュール。」
「【請求項9】
前記の被覆部(26;46,47)は,金属,例えば薄い壁状の鋼から作製される,
請求項1から8までのいずれか1項に記載のアクチュエータモジュール。」
「【請求項11】
前記の圧電アクチュエータ(21;41)は,内燃機関の燃料に対する噴射システム用の圧電インジェクタ(1)の構成部材であり,
前記の燃料は被覆部(26;46,47)の周囲を流れる,
請求項1から10までのいずれか1項に記載のアクチュエータモジュール。」
「【技術分野】
【0001】
従来の技術
本発明は,請求項1の上位概念に記載された,被覆部を有する圧電アクチュエータを備えたアクチュエータモジュールに関し,ここでこのアクチュエータモジュールは,例えば,内燃機関において精確な時点および精確な量で燃料を調量するために圧電インジェクタに使用することができる。」
「【0003】
ディーゼル圧電インジェクタではいわゆる直接のノズルニードル制御の際に圧電アクチュエータが高圧のディーゼル燃料において直接駆動される。圧電素子を保護するため,例えばその電気絶縁性について圧電素子を保護するために公知であるのは,ディーゼルに対して耐性のあるエラストマによって圧電アクチュエータを被覆することである。この点について不利であるのは,これに使用されるエラストマが,ディーゼル燃料,水ならびに燃料内の他の媒体の拡散に対して耐性がないことである。」
「【0005】
本発明の開示内容
本発明は,冒頭に述べた形式の圧電アクチュエータを有するアクチュエータモジュールを出発点としており,ここでこの圧電アクチュエータは,アクチュエータヘッドとアクチュエータベースとの間に配置された圧電素子と,少なくともこれらの圧電素子を包囲しかつ流体を通さない圧電アクチュエータの被覆部とを有する。本発明では,エラストマ層にわたって配置される被覆部は,有利には少なくとも部分領域において,波によって形成される溝(Rille)またはテレスコープ状管(Teleskoprohr)を有しており,これらの溝またはテレスコープ状管を用い,また上記の被覆部の周囲におけるこれらの配置構成により,圧電アクチュエータおよび/またはエラストマ層の半径方向および/または軸方向の伸張運動の影響を吸収することができる。
【0006】
拡散を通さないために必要な,圧電アクチュエータの上記の被覆部に加えて,アクチュエータモジュールの本発明による上記の発展形態は,殊につぎの点で有利である。すなわち,上記の被覆部の下に設けられるエラストマ層は,加熱時に不可避的に膨張することがあり,上記の被覆部がなければ,発生した内部圧力によって機械的に,例えば裂けによって壊れてしまうことがあるのである。さらに本発明により,上記の被覆部が裂けることなく,上記のエラストマ層の気泡および空所を圧縮することができるのである。」
「【0012】
したがって例えば上記の溝の配向の軸方向成分によって簡単に保証できるのは,熱膨張する際のエラストマ層の内圧を低減できることであり,また上記のアクチュエータモジュールまたは被覆部が損傷されないのである。上記のエラストマ層と被覆部との間に気泡が残りまた空所が残存する場合,上記の長手方向溝は半径方向にたわむことができ,空気を圧縮することができ,同様に残りの被覆部を損傷させることがない。」
「【0015】
本発明のアクチュエータモジュールの波状蛇腹またはテレスコープの被覆部は,有利には例えば薄い壁状の鋼などの金属製の材料から作製することができる。上記の波状蛇腹またはテレスコープ状管は,ふつうは同様に鋼製である圧電アクチュエータのアクチュエータヘッドおよび/またはアクチュエータベースに簡単に溶接することができる。」
「【0019】
本発明の実施形態 本発明のアクチュエータモジュールを説明するために図1に示した従来技術の圧電インジェクタ1には実質的に支持体2と,支持体2に配置された圧電アクチュエータ3とが含まれており,この圧電アクチュエータはアクチュエータヘッド4およびアクチュエータベース5を有する。ここではアクチュエータヘッド4とアクチュエータベース5との間に,上下に積層された複数の圧電素子6が設けられており,これらの圧電素子はそれぞれ,圧電セラミックと,これを取り囲む内部電極7および8とから構成される圧電層からなる。
【0020】
圧電素子6の内部電極7および8は,プラグ部分9を介して外部電極10および11へ至る線路に電気的に接触接続されている。ここでは詳しく説明しない別の構成部材を有しいわゆるアクチュエータモジュールをなす圧電アクチュエータ3は,カップラ12を介してノズルニードル13に接続されている。内部電極7および8を介して圧電素子6に電圧を加え,またこれによって機械的なリアクションが発生することにより,この明細書の冒頭に述べたようにノズル開口部14が開かれる。圧電アクチュエータ3を有するアクチュエータモジュールは,図1に示した適用例では圧電インジェクタであり,空間15において,調量すべき燃料が周囲を流れる。
【0021】
図2には圧電アクチュエータ21を有する本発明のアクチュエータモジュール20が示されている。この圧電アクチュエータは,ここではアクチュエータヘッド22からアクチュエータベース23まで圧電素子24を含めて電気絶縁性のエラストマ層25によって包囲されている。エラストマ層25の周りには流体を通さない被覆部として金属製の波状蛇腹26が設けられている。波状蛇腹26の両端部はそれぞれ溶接接続部27によってアクチュエータヘッド22およびアクチュエータベース23に接続されている。ここで波状蛇腹26は,圧電インジェクタの周囲の燃料が拡散しないように圧電素子24を密閉すると共に,長手方向に大きな力を形成することなく圧電アクチュエータ21の熱および機械的な長さの膨張の影響を弾性的に吸収するため,また熱またはその他によってエラストマ層25に発生する体積変化の影響を吸収するために使用される。」
「【図1】
」
「【図2】
」
「【図4】
」
(2)上記(1)から,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「内燃機関において精確な時点および精確な量で燃料を調量するために圧電インジェクタに使用することができるアクチュエータモジュールであって,
アクチュエータヘッドとアクチュエータベースとの間に,上下に積層された複数の圧電素子が設けられており,これらの圧電素子はそれぞれ,圧電セラミックと,これを取り囲む内部電極7および8とから構成される圧電層からなり,
アクチュエータヘッドからアクチュエータベースまで圧電素子を含めて電気絶縁性のエラストマ層によって包囲されており,
エラストマ層の周りには流体を通さない被覆部として金属製の波状蛇腹が設けられている,
アクチュエータモジュール。」
2.引用文献2について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
従来,自動車等の内燃機関の燃料噴射用インジェクタに用いられる圧電アクチュエータとしては,金属等からなる収納ケース内に,電圧を印加することにより駆動(変位)する圧電素子を収納したものが知られている。この圧電アクチュエータは,圧電素子の駆動力を外部に伝達することができるよう構成されている。
【0003】
また,上記の圧電アクチュエータは,圧電素子と収納ケースとの間に電気絶縁性(以下,適宜,単に絶縁性という)を有する樹脂や部材等を介在させることによって両者の間の絶縁性を確保している。
圧電アクチュエータの絶縁構造としては,例えば,圧電素子と収納ケースとの間において,圧電素子の外周面を絶縁樹脂で覆い,その周りに絶縁樹脂等で構成された筒状のスリーブを設けた構造のものがある。上記構造の圧電アクチュエータは,圧電素子の外周面に絶縁樹脂を塗布した後,筒状のスリーブ内に絶縁樹脂を塗布した圧電素子を挿入して製造される。
【0004】
しかしながら,上記の製造方法では,圧電素子をスリーブ内に収納する際に,圧電素子の外周面に塗布した絶縁樹脂がスリーブに接触するおそれがある。また,絶縁樹脂が余分に塗布されている場合には,スリーブ内から絶縁樹脂がはみ出し,そのはみ出した絶縁樹脂を除去する作業が必要となる。そのため,絶縁樹脂の均一性を確保することが困難となると共に生産性の低下を招くおそれがある。」
「【0010】
すなわち,本発明では,上記圧電素子と上記絶縁カバーとの間の上記隙間に上記モールド樹脂を充填するに当たって,少なくとも上記モールド樹脂を上記注入開口孔から上記吸引開口孔へと上記隙間内に所定時間流通させる。上記モールド樹脂を流通させることにより,該モールド樹脂を上記隙間内に満遍無く行き渡らせることができる。そして,上記モールド樹脂を上記隙間内に行き渡らせてから充填することにより,上記モールド樹脂を上記圧電素子の外周面に空孔(ボイド)等の欠陥をほとんど生じさせることなく均一に塗布することができる。そしてまた,このような状態で上記モールド樹脂を上記隙間に充填することができる。」
「【0027】
また,上記絶縁カバーは,PPS(ポリフェニレンサルファイド),PET(ポリエチレンテレフタレート)又はNY66(66ナイロン)からなることが好ましい(請求項8)。この場合には,上記圧電素子と上記収納ケースとの間の絶縁性を充分に確保することができる。
【0028】
また,上記モールド樹脂は,シリコーン系樹脂,エポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂又はポリウレタン系樹脂を用いることが好ましい(請求項9)。この場合には,上記圧電素子と上記収納ケースとの間の絶縁性を充分に確保することができる。 なお,上記絶縁カバー及び上記モールド樹脂は,上記の材料に限定されるわけではなく,その他の材料を用いることもできる。」
「【実施例】
【0030】
(実施例1) 本発明の実施例にかかる圧電アクチュエータ及びその製造方法について,図を用いて説明する。本例において製造する圧電アクチュエータ1は,図1に示すごとく,収納ケース20に積層型の圧電素子10を収納すると共に,電力供給用の外部電極31を備えたハウジング30を収納ケース20の開口端部201に接合してなる圧電アクチュエータである。圧電アクチュエータ1は,圧電素子10に電圧を印加させることにより圧電素子10を駆動(変位)させ,その駆動力を外部に伝達することができるよう構成されている。 以下,この圧電アクチュエータ1の構成について簡単に説明する。なお,本例の圧電アクチュエータ1においては,ハウジング30を配設した側を後端側とし,その反対方向を先端側とする。
【0031】
図6に示すごとく,圧電素子10は,圧電材料よりなる圧電層12と導電性を有する内部電極層13とを交互に積層してなるセラミック積層体11を有している。セラミック積層体11は,断面樽形状を呈しており,相互に対面する一対の電極接合面118,119を形成してなる。なお,セラミック積層体11の断面形状としては,用途等によって円形,四角形,八角形等の様々な形状とすることもできる。本例の圧電層12は,ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)よりなる圧電セラミックスで構成されている。また,内部電極層13は,Ag/Pd合金により構成されている。」
「【0037】
また,図1,図2に示すごとく,圧電素子10と収納ケース20との間には,電気絶縁性を有する円筒状の絶縁カバー5が圧電素子10との間に隙間40を形成するように配設されている。また,圧電素子10と絶縁カバー5との間に形成された隙間40には,電気絶縁性を有するモールド樹脂4が充填されている。本例の絶縁カバー5は,PPS(ポリフェニレンサルファイド)により構成されている。また,モールド樹脂4は,シリコーン系樹脂である。」
(2)上記記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
自動車等の内燃機関の燃料噴射用インジェクタに用いられる圧電アクチュエータであって,積層型の圧電素子10を有し,圧電素子10と収納ケース20との間には,電気絶縁性を有する円筒状の絶縁カバー5が圧電素子10との間に隙間40を形成するように配設されており,当該隙間40には,電気絶縁性を有するモールド樹脂4が充填され,絶縁カバーは,PPS(ポリフェニレンサルファイド),PET(ポリエチレンテレフタレート),NY66(66ナイロン)のいずれかであることが好ましく,モールド樹脂は,シリコーン系樹脂,エポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,ポリウレタン系樹脂のいずれかであることが好ましい,圧電アクチュエータであること。
3.引用文献3について
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
従来,自動車等の内燃機関の燃料噴射用インジェクタに用いられる圧電アクチュエータとしては,金属ベローズ等の伸縮部を形成してなるケース内に,電圧を印加させることにより駆動する圧電素子を密閉収納したものが知られている(特許文献1参照)。
このような圧電アクチュエータは,圧電素子とケースとの間に電気絶縁性(以下,適宜,単に絶縁性という)を有する絶縁部材を介在させることにより,両者の間の絶縁性を確保している。
【0003】
絶縁性を確保する圧電アクチュエータの構造としては,圧電素子の外周面に,絶縁性を有するモールド樹脂を介して,絶縁性を有する樹脂等で構成された筒状のスリーブが設ける構造がある。このような圧電アクチュエータは,圧電素子の外周面にモールド樹脂を塗布した後,圧電素子を筒状のスリーブに挿入して製造される。しかしながら,圧電素子をスリーブに挿入する際に,圧電素子の外周面に塗布したモールド樹脂がスリーブに接触してしまうため,モールド樹脂の均一性を確保することが困難である。また,モールド樹脂が余分に塗布されていると,スリーブ内からモールド樹脂がはみ出し,それを除去する作業が必要となる。
【0004】
また,上記以外にも,圧電素子とケースとの間に,絶縁性を有する樹脂等の充填材を充填する構造がある。このような圧電アクチュエータは,圧電素子とケースとの間に充填材を注入して製造される。しかしながら,圧電素子とケースとの間の隙間が非常に狭いために,充填材を注入する作業が非常に困難であり,生産性が低い。
よって,電気絶縁性に優れた,生産性の高い圧電アクチュエータ及びその製造方法が望まれている。」
「【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は,軸方向の少なくとも一部に伸縮部を形成してなる有底円筒状のケースに積層型の圧電素子を収納すると共に,電力供給用の外部電極を備えたハウジングを上記ケースの開口端部に接合してなる圧電アクチュエータにおいて,
上記圧電素子と上記ケースとの間においては,上記圧電素子の外周面に電気絶縁性を有するモールド樹脂が設けられていると共に,該モールド樹脂上に電気絶縁性を有するスリーブが設けられており,
該スリーブは,径方向に複数に分割された分割スリーブを合わせて略円筒形状に形成されていることを特徴とする圧電アクチュエータにある(請求項1)。」
「【0033】
上記第1及び第2の発明においては,上記分割スリーブは,PPS(ポリフェニレンサルファイド),PET(ポリエチレンテレフタレート),NY66(66ナイロン)のいずれかであることが好ましい(請求項5,16)。この場合には,上記スリーブを精度よく形成することができる。また,上記圧電素子と上記ケースとの間の絶縁性を充分に確保することができる。 なお,上記分割スリーブは,上記の材料に限定されるわけではなく,その他の材料を用いることもできる。
【0034】
また,上記モールド樹脂は,シリコーン系樹脂,エポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,ポリウレタン系樹脂のいずれかであることが好ましい(請求項6,17)。この場合には,上記モールド樹脂を介在させて,上記圧電素子の外周面に上記スリーブを精度よく確実に形成することができる。また,上記圧電素子と上記ケースとの間の絶縁性を充分に確保することができる。なお,上記モールド樹脂は,上記の樹脂に限定されるわけではなく,その他の樹脂を用いることもできる。」
「【0036】
積層型の圧電素子10は,図3に示すごとく,圧電層12と内部電極層13とを交互に積層してなるセラミック積層体11を有している。セラミック積層体11は,断面樽形状を呈しており,セラミック積層体11の外周面には,相互に対面する一対の電極接合面111,112を形成してなる。
【0037】
また,同図に示すごとく,セラミック積層体11の電極接合面111,112には,それぞれ側面電極14が設けられている。各側面電極14は,セラミック積層体11の積層方向の一層おきの内部電極層13と電気的に接続しており,かつ,一方の側面電極14と電気的に接続している内部電極層13は,他方の側面電極14に対して電気的に絶縁した状態となっている。つまり,本例のセラミック積層体11は,いわゆる電極控え構造(部分電極構造)を有している。そして,各側面電極14の端部は,後述するハウジング30に貫通配置した一対の外部電極31と電気的に接続するように構成してある。」
「【0042】
また,図1,図2に示すごとく,圧電素子10とケース20との間において,圧電素子10の外周面100には,電気絶縁性を有するモールド樹脂41が設けられている。また,モールド樹脂41上には,電気絶縁性を有するスリーブ42が設けられている。このスリーブ42は,径方向に複数に分割された分割スリーブ43を合わせて略円筒形状に形成されている。本例のスリーブ42は,2つの半円筒状の分割スリーブ43を径方向に合わせて構成されている。」
「【0044】
なお,本例のモールド樹脂41としては,シリコーン系樹脂を用いた。 また,分割スリーブ43を構成する材料としては,PPS(ポリフェニレンサルファイド)を用いた。」
(2)上記記載から,引用文献3には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
自動車等の内燃機関の燃料噴射用インジェクタに用いられる圧電アクチュエータであって,積層型の圧電素子10を有し,圧電素子10の外周面100には,電気絶縁性を有するモールド樹脂41が設けられており,モールド樹脂41上には,電気絶縁性を有するスリーブ42が設けられており,分割スリーブは,PPS(ポリフェニレンサルファイド),PET(ポリエチレンテレフタレート),NY66(66ナイロン)のいずれかであることが好ましく,モールド樹脂は,シリコーン系樹脂,エポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,ポリウレタン系樹脂のいずれかであることが好ましい,圧電アクチュエータであること。
第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明の「上下に積層された複数の圧電素子」は,それぞれ,圧電セラミックとこれを取り囲む内部電極7及び8から構成される圧電層からなるので,引用発明の「圧電素子」と本願発明1の「積層体」とは,後記の点で相違するものの,「圧電体層および内部電極層が交互に複数積層されてなる活性部を有する積層体」である点で一致する。
イ 引用発明の「エラストマ層及び波状蛇腹」は,圧電素子の側面を包囲しているので,本願発明1の「被覆層」とは,後記の点で相違するものの,「該積層体の側面を取り囲むように設けられた被覆層」である点で一致する。
ウ 引用発明において,圧電素子は内側のエラストマ層及び外側の波状蛇腹の2層で包囲されているから,本願発明1の「該被覆層は,」「内側の第1の層」と「外側の第2の層とからなる2層構造を有する」に相当する。
したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「圧電体層および内部電極層が交互に複数積層されてなる活性部を有する積層体と,
該積層体の側面を取り囲むように設けられた被覆層とを備え,
該被覆層は,内側の第1の層と外側の第2の層とからなる2層構造を有する,
積層型圧電素子。」
<相違点>
(相違点1)
本願発明1は,積層体が,「活性部の積層方向の両端部に設けられた圧電体層からなる不活性部」を有するのに対し,引用発明はそのような構成が特定されていない点。
(相違点2)
本願発明1は,被覆層について,内側の第1の層と外側の第2の層の境界が「円環状」であるのに対し,引用発明は,エラストマ層と波状蛇腹の境界が円環状であると特定されていない点。
(相違点3)
本願発明1は,内側の第1の層が「シリコーン樹脂またはエポキシ樹脂からなる」のに対し,引用発明のエラストマ層は,材料について特定されていない点。
(相違点4)
本願発明1は,外側の第2の層が「シリコーン樹脂またはナイロン樹脂からなる」のに対し,引用発明の波状蛇腹は金属製である点。
(相違点5)
本願発明1は,被覆層は,「両端部の不活性部間に連続して設けられ」ているのに対し,引用発明はそもそも不活性部の有無が特定されておらず,エラストマ層と波状蛇腹が「両端部の不活性部間に連続して設けられ」ているかどうか特定されていない点。
(相違点6)
本願発明1は,「前記不活性部の側方に位置する円環状の前記境界に複数の空隙を有しており前記複数の空隙が周方向に分散している」のに対し,引用発明ではそのような構成について特定されていない点。
(2)相違点についての判断
事案にかんがみ,最初に上記相違点4について検討する。
上記第5の1.に記載したとおり,引用発明において,金属製の波状蛇腹が使われているのは,「圧電素子を保護するため,例えばその電気絶縁性について圧電素子を保護するために公知であるのは,ディーゼルに対して耐性のあるエラストマによって圧電アクチュエータを被覆することである。この点について不利であるのは,これに使用されるエラストマが,ディーゼル燃料,水ならびに燃料内の他の媒体の拡散に対して耐性がないことである。」ことから,「圧電素子を包囲しかつ流体を通さない圧電アクチュエータの被覆部」として「金属製の材料から作製」された被覆部が採用されたものであることを鑑みれば,引用文献2及び3に接した当業者といえども,NY66(66ナイロン)が「他の媒体の拡散に対して耐性」があることは引用文献2及び3に記載されておらず,当業者にとって自明なものでもないから,引用発明における波状蛇腹を金属からNY66(66ナイロン)等の樹脂材料への置き換えを採用する動機を見いだすことはできない。
さらに,引用発明において,「圧電素子を包囲しかつ流体を通さない圧電アクチュエータの被覆部」として金属製の被覆部を採用し,被覆部を金属製としたことで,内包する圧電アクチュエータやエラストマの伸縮や膨張から破壊を防ぐために「波によって形成される溝」を有する波状蛇腹としたことを鑑みれば,金属製で弾性の高いことによる破壊を防ぐために波状蛇腹とした被覆部を,弾性率が比較的低く波状蛇腹形状とする必要性が高くないNY66(66ナイロン)等に置き換えることは阻害事由が存在するものと認められる。
したがって,当業者といえども,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術的事項から,相違点4に係る「外側の第2の層」が「シリコーン樹脂またはナイロン樹脂からなる」との構成を容易に想到することはできない。
そして,本願発明1は,このような構成を備えることにより,本願明細書に記載された顕著な効果を奏するものと認められる。
(3)小括
上記(1),(2)のとおりであるから,他の相違点については検討するまでもなく,本願発明1は当業者であっても引用発明と引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
2.本願発明2-8について
本願発明2-8は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定したものであるから,本願発明1が,引用発明と引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないことから,本願発明2-8も,引用発明と引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
第7 原査定について
1.理由1(特許法第29条第1項第3号)について
上記第6で指摘したとおり,本件補正により,本願発明1-8は「シリコーン樹脂またはナイロン樹脂からなる外側の第2の層」という事項を有するものとなっており,引用文献1に記載された発明ではない。したがって,原査定の理由1を維持することはできない。
2.理由2(特許法第29条第2項)について
上記第6で指摘したとおり,本件補正により,本願発明1-8は「シリコーン樹脂またはナイロン樹脂からなる外側の第2の層」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由2を維持することはできない。
第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
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2019-008792