特許拒絶査定不服審判
2019-004302
電磁干渉軽減特性を有するポリマー複合物
- 審判番号
- 2019-004302
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-558903外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年04月03日
- 審決日
- 2020年03月30日
- 公報発行日
- 2020年10月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
- 【請求人代理人】赤澤 太朗
- 【請求人代理人】野村 和歌子
- 【請求人代理人】佃 誠玄
- 分類
- P18 .113-Z (H05K) / P18 .121-Z (H05K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-558903「電磁干渉軽減特性を有するポリマー複合物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月28日国際公開、WO2014/130431、平成28年 5月26日国内公表、特表2016-515298〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成26年2月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年2月21日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月2日付けで手続補正がなされ、同年11月22日付け拒絶理由通知に対して平成30年5月25日付けで手続補正がなされたが、同年11月27日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成31年4月3日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。
第2 本願発明について
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成30年5月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項5】
エポキシ系ポリマーマトリックスであって0.005~0.50の誘電損失正接を有する損失性ポリマーマトリックスと、
該ポリマーマトリックス内に分散した酸化銅(CuO)粒子と、を含み、
電磁干渉軽減材料である、複合物。」
第3 当審の判断
1.特許法第29条第1項第3号について
(1)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-143347号公報(以下「引用文献」という。)には、「樹脂複合体及びこれを用いた電磁波吸収体並びにこれを用いた高周波回路用パッケージ」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
平均粒径0.1μm~10μmの鉄または鉄を含む合金粉を29~52体積%、セラミックス粉を22~42体積%、合成樹脂を19~35体積%含有することを特徴とする樹脂複合体。
・・・(中略)・・・
【請求項3】
前記セラミックス粉がCuO、SiO2、Al2O3、Fe2O3のうち少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載の樹脂複合体。
・・・(中略)・・・
【0030】
また、セラミックス粉12がCuO、SiO2、Al2O3、Fe2O3のうち少なくとも1種であることが好ましい。これは、合成樹脂10の複素比誘電率、複素比透磁率の調整、さらに合成樹脂13の充填量を少なくするための増量材の役割を果たしている。」
イ.「【0031】
また、合成樹脂13は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、PBI樹脂、フラン樹脂、ポリブタジエン樹脂、アイオノマー樹脂、EEA樹脂、AAS樹脂(ASA樹脂)、AS樹脂、ACS樹脂、エチレン酢ビコポリマー、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、酢酸繊維素樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂6,66、ポリアミド樹脂11,12、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、メタクリル樹脂、メチルペンテンポリマー等の樹脂を使用することができ、これらの中でも耐熱性、寸法安定性、強度等の点からフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂が好適である。尚、必要に応じて公知の硬化剤、硬化助剤、滑剤、可塑剤、分散剤、離型剤、着色剤等を少量添加しても何ら差し支えない。」
ウ.「【0039】
例えば図2で示すように、電磁波吸収体20は、前述した樹脂複合体10を用いて作製されたものである。樹脂複合体10を用いることによって、周波数1GHz~10GHzにおいて特に優れた電磁波吸収特性が得られるため、好適に使用することができる。また、合成樹脂13が19体積%~35体積%と比較的少ないため、耐熱性に優れ、アウトガスの発生量が少ない。」
エ.「【0045】
【実施例】
図1に示す鉄粉11、セラミックス粉12、合成樹脂13の材質、充填量、平均粒径がそれぞれ異なる樹脂複合体を作製し、図4に示す高周波回路用パッケージ40内部に本発明の電波吸収体20を装着し、図5に示す測定システム50を用いて、次のような実験を行った。測定システム50は、ベクトルネットワークアナライザー51(アジレントテクノロジー社製)、同軸ケーブル52、高周波回路用パッケージ40により構成されている。
・・・(中略)・・・
【0050】
尚、本実験にあたり、電磁波吸収体20を形成する鉄粉11には、カーボニル鉄、センダスト、ステンレス(SUS316)、パーマロイ、セラミックス粉12にはCuO、SiO2、Al2O3、Fe2O3、合成樹脂13にはレゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂を用いた。これらを配合し、常温で成形圧1ton/cm2~8ton/cm2で加圧成形・離型後、80℃~250℃で加熱硬化し、試験片を作製した。
・・・(中略)・・・
【0056】
【表1】
」
オ.「
」(図1)
・上記ア.によれば、樹脂複合体は、セラミックス粉及び合成樹脂を含有するものである。また、セラミックス粉は、例えばCuOからなる。
・上記イ.によれば、合成樹脂は、例えばエポキシ樹脂が好適である。
・上記ウ.によれば、樹脂複合体は、周波数1GHz~10GHzにおいて電磁波吸収特性が得られるものである。
・上記オ.によれば、セラミックス粉12は、合成樹脂13内に分散するものである。
上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「周波数1GHz~10GHzにおいて電磁波吸収特性が得られる、樹脂複合体であって、
セラミックス粉及び合成樹脂を含有し、
前記セラミックス粉は、CuOからなり、前記合成樹脂内に分散し、
前記合成樹脂は、エポキシ樹脂が好適である、樹脂複合体。」
(2)対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「樹脂複合体」は、周波数1GHz~10GHzにおいて電磁波吸収特性が得られるものであるから、本願発明の「電磁干渉軽減材料である、複合物」に相当する。
イ.引用発明の「合成樹脂」は、エポキシ樹脂であるから、本願発明の「エポキシ系ポリマーマトリックス」に相当する。
ただし、エポキシ系ポリマーマトリックスについて、本願発明は「0.005~0.50の誘電損失正接を有する損失性ポリマーマトリックス」であるのに対し、引用発明にはその旨の特定はされていない点で相違する。
ウ.引用発明の「セラミックス粉」は、CuOからなり、合成樹脂内に分散するものであるから、本願発明の「該ポリマーマトリックス内に分散した酸化銅(CuO)粒子」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「エポキシ系ポリマーマトリックスと、
該ポリマーマトリックス内に分散した酸化銅(CuO)粒子と、を含み、
電磁干渉軽減材料である、複合物。」の点で一致し、
以下の点で相違する。
<相違点>
エポキシ系ポリマーマトリックスについて、本願発明は「0.005~0.50の誘電損失正接を有する損失性ポリマーマトリックス」であるのに対し、引用発明にはその旨の特定はされていない点。
(3)判断
上記相違点について検討する。
エポキシ樹脂は、周波数1GHz~10GHzの範囲において0.005~0.50の範囲の誘電損失正接を有するものであるから(必要であれば、アンテナ工学ハンドブック、第1版第12刷、平成16年5月15日、714頁、「エポキシEPON828」の「tanδ(8~10GHz)」の「3.5×10-2」を参照。さらに、稲垣佳那、低誘電化を目指した低分子量PPEの熱硬化性樹脂への展開、生産と技術、第64巻、第4号、2012年、51頁ないし53頁、Table1の「Epoxy」の「Dissipation Factor(Df)@1GHz」の「0.01-0.03」を参照。)、引用発明の樹脂複合体に含有するエポキシ樹脂は、0.005~0.50の誘電損失正接を有し、本願発明でいう「損失性ポリマーマトリックス」に相当するといえるものであり、上記相違点は実質的な相違ではない。
したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明である。
2.特許法第29条第2項について
(1)引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載事項は、上記「1.(1)ア.ないしオ.」に記載したとおりである。
・上記「1.(1)ウ.」によれば、樹脂複合体は、周波数1GHz~10GHzにおいて電磁波吸収特性が得られるものである。
・上記「1.(1)エ.の表1の試料15」によれば、樹脂複合体は、セラミックス粉としてAl2O3、及び合成樹脂としてエポキシ樹脂を含有するものである。
・上記「1.(1)オ.」によれば、セラミックス粉12は、合成樹脂13内に分散するものである。
特に表1に示される試料15に着目し、上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献には次の発明(以下「引用発明a」という。)が記載されている。
「周波数1GHz~10GHzにおいて電磁波吸収特性が得られる、樹脂複合体であって、
セラミックス粉としてAl2O3、及び合成樹脂としてエポキシ樹脂を含有し、
前記セラミックス粉は、前記合成樹脂内に分散するものである、樹脂複合体。」
(2)対比
そこで、本願発明と引用発明aとを対比する。
ア.引用発明aの「樹脂複合体」は、周波数1GHz~10GHzにおいて電磁波吸収特性が得られるものであるから、本願発明の「電磁干渉軽減材料である、複合物」に相当する。
イ.引用発明aの「合成樹脂」は、エポキシ樹脂であるから、本願発明の「エポキシ系ポリマーマトリックス」に相当する。
ただし、エポキシ系ポリマーマトリックスについて、本願発明は「0.005~0.50の誘電損失正接を有する損失性ポリマーマトリックス」であるのに対し、引用発明aにはその旨の特定はされていない点で相違する。
ウ.引用発明aの「前記合成樹脂内に分散する」「セラミックス粉」の「Al2O3」と本願発明の「該ポリマーマトリックス内に分散した酸化銅(CuO)粒子」とは、「該ポリマーマトリックス内に分散したセラミック粒子」である点で共通する。
ただし、セラミック粒子について、本願発明は「酸化銅(CuO)」であるのに対し、引用発明aは「Al2O3」である点で相違する。
そうすると、本願発明と引用発明aとは、
「エポキシ系ポリマーマトリックスと、
該ポリマーマトリックス内に分散したセラミック粒子と、を含み、
電磁干渉軽減材料である、複合物。」の点で一致し、
以下の点で相違する。
<相違点1>
エポキシ系ポリマーマトリックスについて、本願発明は「0.005~0.50の誘電損失正接を有する損失性ポリマーマトリックス」であるのに対し、引用発明aにはその旨の特定はされていない点。
<相違点2>
セラミック粒子について、本願発明は「酸化銅(CuO)」であるのに対し、引用発明aは「Al2O3」である点。
(3)判断
上記相違点について検討する。
ア.<相違点1> について
エポキシ樹脂は、周波数1GHz~10GHzの範囲において0.005~0.50の範囲の誘電損失正接を有するものであるから(必要であれば、アンテナ工学ハンドブック、第1版第12刷、平成16年5月15日、714頁、「エポキシEPON828」の「tanδ(8~10GHz)」の「3.5×10-2」を参照。さらに、稲垣佳那、低誘電化を目指した低分子量PPEの熱硬化性樹脂への展開、生産と技術、第64巻、第4号、2012年、51頁ないし53頁、Table1の「Epoxy」の「Dissipation Factor(Df)@1GHz」の「0.01-0.03」を参照。)、引用発明aの樹脂複合体に含有するエポキシ樹脂は、0.005~0.50の誘電損失正接を有し、本願発明でいう「損失性ポリマーマトリックス」に相当するといえるものであり、上記相違点1は実質的な相違ではない。
イ.<相違点2> について
引用文献(引用発明a)のセラミック粒子は上記「1.(1)ア.の段落【0030】」によれば、CuO、SiO2、Al2O3、Fe2O3のうち少なくとも1種であることが好ましいのだから、引用発明aの該セラミック粒子としてAl2O3に代えてCuOを選択し上記相違点2の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。
この点について、審判請求人は、審判請求書にて「特に、エポキシと、酸化銅(CuO)粒子の組み合わせについては、いずれの引用文献にも記載がない。平成30年5月25日付け意見書でも述べた通り、本願発明は、エポキシ系ポリマーマトリックスであって0.005~0.50の誘電損失正接を有する損失性ポリマーマトリックスと、該ポリマーマトリックス内に分散した酸化銅(CuO)粒子という2要素の組み合わせを含むことにより、例えばPVDFと比較して、電磁干渉(EMI)として好適な、より高い誘電率と、より高い損失正接とをもたらすという、顕著で予測不能かつ有利な作用効果をもたらすことに留意されたい。 ・・・(中略)・・・上記を対比すれば明らかな通り、エポキシ樹脂と酸化銅粒子との組み合わせを用いた複合物(実施例11、12)では、PVDFを用いた複合物(実施例1)と比較して、電磁干渉(EMI)として好適な、より高い誘電率と、より高い損失正接とをもたらし、このことは、顕著で予測不能かつ有利な作用効果である。したがって、本願発明5の新規性および進歩性を引用文献1、2、4により否定することはできない(審査基準第III部第2章第4節7.2参照)。」旨を主張している。ここで、引用文献4とは上記引用文献である。
しかしながら、引用文献にエポキシ樹脂と酸化銅粒子とを直接組み合わせた実施例の記載がないとしても、引用文献(上記「1.(1)ア.の段落【0030】及びイ.」を参照。)には、これらの組み合わせを積極的あるいは優先的に選択すべき記載があるので、エポキシ樹脂と酸化銅粒子の組み合わせは、引用文献から当業者が容易に想到し得たものである。また、請求人の主張している、エポキシ樹脂と酸化銅粒子を用いた複合物が、電磁干渉(EMI)として好適な、より高い誘電率とより高い損失正接とをもたらす点についても、より高い誘電率及び損失正接が電磁干渉軽減にどれくらいの効果があるのか明細書には何ら記載しておらず、引用文献のエポキシ樹脂とAl2O3を用いた樹脂複合体と比較して、本願発明の奏する作用効果が格別顕著なものであるということはできない。
よって、請求人の主張は採用できない。
したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明から当業者が容易になし得たものである。
そして、本願発明の作用効果も、引用文献から当業者が予測できる範囲のものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項5に係る発明は、特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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