特許異議申立
2018-701072
水性エマルション用安定剤としての親水性、低酸含有量ポリマー
- 審判番号
- 2018-701072
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-514198外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年12月28日
- 審決日
- 2019年08月07日
- 公報発行日
- 2020年04月24日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
- 【権利者代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【権利者代理人】久野 琢也
- 【異議申立人】岡原 安奈
- 分類
- P1652.113-ZC (C08F) / P1652.121-ZC (C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6351578号発明「水性エマルション用安定剤としての親水性、低酸含有量ポリマー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
特許第6351578号の請求項1ないし12に係る特許を取り消す。
同請求項19ないし20に係る特許を維持する。
理由
1 手続の経緯
本件特許第6351578号(平成25年5月23日を国際出願日とする特許出願、優先権主張:2012年5月24日(米国(US))は、平成30年6月15日付けでその特許権の設定登録がされ、同年7月4日にその特許公報が発行され、その後、請求項1~12、19、20に係る特許に対して、同年12月28日に特許異議申立人 岡原安奈(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされ、平成31年3月26日付けで取消理由が通知されたものである。なお、特許権者からは、係る取消理由通知に対する意見書の提出は無かった。
2 本件請求項1~24に係る発明
本件請求項1~24に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~24に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
親水性の低酸含有量樹脂であって、
アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸プロピル及びメタクリル酸プロピルから成る群より選択される少なくとも2つの(メタ)アクリレートと、
少なくとも1つの(メタ)アクリル酸と
を含む混合物の重合生成物を含み、
前記樹脂は、塩基で中和をすると水溶性であり、かつ前記樹脂は0mgKOH/gから120mgKOH/gまでの酸価を示し、かつ34から38までのO2値を有する、樹脂。
【請求項2】
前記少なくとも1つの(メタ)アクリル酸が、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸又はそれらの無水物を含む、請求項1に記載の樹脂。
【請求項3】
前記混合物が、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸プロピル及びメタクリル酸プロピルから成る群より選択される少なくとも2つの(メタ)アクリレートと、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸又はその無水物から成る群より選択される少なくとも1つの(メタ)アクリル酸と、を含む、請求項1に記載の樹脂。
【請求項4】
前記混合物が、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル及びアクリル酸を含む、請求項1に記載の樹脂。
【請求項5】
前記酸価が、0mgKOH/gから80mgKOH/gまでである、請求項1に記載の樹脂。
【請求項6】
前記酸価が、20mgKOH/gから60mgKOH/gまでである、請求項5に記載の樹脂。
【請求項7】
前記重合生成物が、2,000g/molから30,000g/molまでの質量平均分子量を有する、請求項1に記載の樹脂。
【請求項8】
前記重合生成物が、6,000g/molから12,000g/molまでの質量平均分子量を有する、請求項7に記載の樹脂。
【請求項9】
前記混合物が、前記混合物中のモノマーの全質量に基づき、少なくとも1つの(メタ)アクリル酸を、1質量%~16質量%含む、請求項1に記載の樹脂。
【請求項10】
前記混合物が、前記混合物中のモノマーの全質量に基づき、少なくとも1つの(メタ)アクリル酸を、3質量%~12質量%含む、請求項1~9のいずれかに記載の樹脂。
【請求項11】
前記混合物が、前記混合物中のモノマーの全質量に基づき、少なくとも1つの(メタ)アクリレートを、88質量%から99質量%含む、請求項1に記載の樹脂。
【請求項12】
前記混合物が、前記混合物中のモノマーの全質量に基づき、3質量%から12質量%までの少なくとも1つの(メタ)アクリル酸、25質量%から65質量%までの第1の(メタ)アクリレート、及び30質量%から50質量%までの第2の(メタ)アクリレートを含み、第1の(メタ)アクリレート及び第2の(メタ)アクリレートとは、同じでない、請求項1に記載の樹脂。
【請求項13】
少なくとも1つの(メタ)アクリレート、少なくとも1つの(メタ)アクリル酸及び開始剤を混合して混合物を形成することと、
透明な溶液が得られるまで混合物を撹拌することと、及び
前記少なくとも1つの(メタ)アクリレート及び少なくとも1つの(メタ)アクリル酸を重合させるに十分な温度で保持されるリアクタに、前記透明な溶液を供給して、親水性の低酸含有量樹脂を形成することと、
を含み、
その際、
前記親水性の低酸含有量樹脂は、0mgKOH/gから120mgKOH/gまでの酸価を示し、かつ
前記温度が、170℃から270℃までである、方法。
【請求項14】
前記リアクタが、連続撹拌槽型反応器、管型反応器、環状反応器、押し出し反応器、又は、プロセスカスケード中のその任意の二つ以上の組み合わせである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記混合物が、溶媒を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記酸価が、0mgKOH/gから80mgKOH/gまでである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記酸価が、20mgKOH/gから60mgKOH/gまでである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記混合物が、スチレン系モノマーを含まない、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
保護コロイドとして請求項1~12のいずれかの樹脂と、少なくとも1つの乳化重合性モノマーの第2の重合生成物とを含む、エマルション。
【請求項20】
前記少なくとも1つの乳化重合性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、アクリル無水物、メタクリル酸無水物、イタコン酸無水物、無水マレイン酸、フマル無水物、クロトン酸無水物、スチレン、α-メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、第三級ブチルスチレン、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、2-エチルヘキシルアクリラート、アクリル酸エチル、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、開鎖共役ジエン、メチロールアクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ビニルエステル又は塩化ビニルを含む、請求項19に記載のエマルション。
【請求項21】
水、界面活性剤、請求項1~12のいずれか1項記載の樹脂及び塩基の存在下で、少なくとも1つの乳化重合性モノマーを重合させることを含む、エマルションの製造方法。
【請求項22】
請求項19の前記エマルション、水性媒体、及び架橋剤を含むコーティング組成物。
【請求項23】
前記架橋剤が、アジリジン、オキサゾリン、カルボジイミド、亜鉛又はジルコニウムを含む、請求項22に記載のコーティング組成物。
【請求項24】
請求項22の前記コーティング組成物及び顔料を含むインク。」
3 取消理由通知について
(1)当審は平成31年3月26日付け取消理由通知において、概要以下のとおりの取消理由を通知した。
「A (新規性)本件特許の請求項1~3、5~12に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
B (進歩性)本件特許の請求項1~12に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の引用例に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
記
引用例1:特開2005-162981号公報(甲第1号証)
引用例2:特開2000-178055号公報(甲第2号証)」
(2)この取消理由通知について、当審は、特許権者に対し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件請求項1~12に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。
4 異議申立て理由について
上記1で示したとおり、申立人は、本件請求項1~12、19、20に係る特許に対して特許異議を申立てているところ、上記3で示したとおり、本件請求項1~12に係る特許は取り消すべきものと判断された。このため、以下では、上記取消理由通知において取消理由の対象となっていない本件請求項19、20に係る特許異議の申立てについて検討する。
本件請求項19、20に係る申立ての理由は、特許異議申立書の「(4)具体的理由」のウ(ス)及び(セ)の記載を勘案すると、概要以下のとおりとなる。
・申立ての理由
本件請求項19、20に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、あるいは、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到したものであり、特許法第29条第1項あるいは第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同項に係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
なお、証拠方法は、上記3で示した甲第2号証(以下、「甲2」という。)である。
(1)甲2の記載事項
ア 「【請求項1】 アルキル(メタ)アクリレート単量体(a-1)80~100重量%、不飽和カルボン酸単量体(a-2)0~5重量%、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単量体(a-3)0~5重量%、および、その他の共重合可能な単量体(a-4)0~10重量%からなる単量体または単量体混合物を重合してなるコア重合体(A)40~70重量部、ならびに、
メチル(メタ)アクリレートおよびエチル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルキル(メタ)アクリレート単量体(b-1)80~96重量%、不飽和カルボン酸単量体(b-2)4~10重量%、および、その他の共重合可能な単量体(b-3)0~10重量%からなる単量体混合物を重合してなる、重量平均分子量が12,000以上のシェル重合体(B)30~60重量部を含んで成るコア-シェル構造を有する重合体(C)を含有することを特徴とするセメント混和剤。
【請求項2】 コア重合体(A)のガラス転移温度が-40~30℃でありシェル重合体(B)のガラス転移温度が50℃以上である請求項1記載のセメント混和剤。
【請求項3】 シェル重合体(B)の酸価が20~70mgKOH/gで、アルカリ可溶性であり、且つコア-シェル構造を有する重合体(C)をアルカリ条件下において水に再分散させた再分散液の最低造膜温度が20℃以下である請求項1記載のセメント混和剤。」
イ 「【0026】[コア重合体(A)]コア重合体(A)は、アルキル(メタ)アクリレート単量体(a-1)80~100重量%、不飽和カルボン酸単量体(a-2)0~5重量%、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート単量体(a-3)0~5重量%、および、その他の共重合可能な単量体(a-4)0~10重量%からなる単量体または単量体混合物を重合してなるものである。
…
【0032】コア重合体(A)は、乳化重合法等により形成されたアルカリ不溶性の重合体であることが好ましい。」
ウ 「【0035】[シェル重合体(B)]シェル重合体(B)は、メチル(メタ)アクリレートおよびエチル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルキル(メタ)アクリレート単量体(b-1)80~96重量%、不飽和カルボン酸単量体(b-2)4~10重量%、および、その他の共重合可能な単量体(b-3)0~10重量%からなる単量体混合物を重合してなるものである。
【0036】この単量体混合物中、アルキル(メタ)アクリレート単量体(b-1)の含有量は、80~96重量%であり、さらに好ましくは90~96重量%である。アルキル(メタ)アクリレート単量体(b-1)は、アルカリ可溶性を有するシェル重合体(B)に対して、これと相反する耐水性の性能を同時に付与する、すなわちアルカリ溶解性を発現しつつ、十分な耐水性を確保するものである。このアルキル(メタ)アクリレート単量体(b-1)としては、メチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0037】単量体混合物中、不飽和カルボン酸単量体(b-2)の含有量は、4~10重量%である。この不飽和カルボン酸単量体(b-2)は、シェル重合体(B)にアルカリ可溶性を付与するものである。この含有量を4重量%以上とすることにより、シェル重合体(B)に適度なアルカリ可溶性を付与することができ、アルカリ水再分散性を良好にし、MFTを低下させることができる。また、この含有量を10重量%以下とすることにより、シェル重合体(B)の親水性の増加を抑え、セメント硬化物の吸水性を低下させることができる。この含有量は、5~8重量%であることが好ましい。その具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸が挙げられる。これらは、一種もしくは二種以上を混合して使用することができる。
…
【0039】シェル重合体(B)はアルカリ可溶性である。これにより、セメントにセメント混和剤を混合した際、セメントミルクが加水によりアルカリ性に変化して、セメント混和剤を溶解可能とさせる。
【0040】シェル重合体(B)の重量平均分子量は、12,000以上である。これを12,000以上とすることにより、セメント混和剤の再分散液から得られるセメント硬化物の吸水性、耐候性を良好にすることができる。また、この重量平均分子量は、100,000以下であることが好ましい。これを100,000以下とすることにより、アルカリ加水時の溶解性を向上させると共に、MFTを低下させることができ、セメント混和剤の低温下での硬化性を向上できる。さらに、この重量平均分子量は、13,000~100,000が好ましく、15,000~50,000がより好ましい。
【0041】シェル重合体(B)の酸価は、20~70mgKOH/gとすることが好ましい。この酸価を70mgKOH/g以下とすることにより、親水性の増加を抑え、セメント硬化物の吸水率を低下させることができ、耐水性および耐侯性を良好とすることができる。また、この酸価を20mgKOH/g以上とすることにより、低吸水率でアルカリ可溶性に優れ、アルカリ水再分散性を良好にし、MFTを低下させることができ、20℃以下の低温下でも十分な硬化性が得られる。この酸価は、30~60mgKOH/gがより好ましい。」
エ 「【0062】[実施例1]
<セメント混和剤の製造>2リッターの4つ口フラスコに、純水925部、ポリカルボン酸乳化剤(花王(株)製、商品名ポイズ530)12.5部、過硫酸カリウム0.75部を投入して、窒素ガス置換後、窒素ガス気流下130rpmで撹拌しつつ、70℃に昇温した。
【0063】次に、成分(a-1)としてメチルメタクリレート125部およびブチルアクリレート125部、ならびに、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王(株)製、商品名エマルゲン905)5.0部からなる混合物を、前記フラスコ中に3時間で滴下し、その後70℃で1時間保持した。
【0064】次に、成分(b-1)としてメチルメタクリレート130部およびメチルアクリレート105部、成分(b-2)としてメタクリル酸15部、連鎖移動剤n-ドデシルメルカプタン15部、ならびに、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名ペレックスOTP)5.0部からなる混合物を、前記フラスコ中に2時間で滴下した。その後、70℃で1時間保持した後、80℃に昇温し、さらに1時間保持し、重合を終了させ、コア-シェル構造を有する乳白色のエマルション重合体(固形分36.2%)を得た。
【0065】得られたエマルション重合体を、噴霧乾燥装置(大河原化工機(株)製、商品名L-8型)を用いて、チャンバー入口温度130℃、チャンバー出口温度70℃、アトマイザー回転数30000rpmに設定し、噴霧乾燥を行い、乾燥したコア-シェル重合体粒子(セメント混和剤)を得た。
【0066】この時の噴霧状態は良好であり、チャンバー内壁および搬送管内にエマルション重合体または乾燥したコア-シェル重合体粒子の付着は見られなかった。
【0067】また、得られたコア-シェル重合体粒子は、コア重合体のTg(計算値)が11℃、シェル重合体のTg(計算値)が60℃、平均粒子径が25μm、水分率が1.1重量%であった。
…
【0073】[実施例2~3および比較例1~5]表1~表3に示す組成で、実施例1と同様の手法により、各種のコア-シェル重合体粒子(セメント混和剤)を得た。その評価結果を表4に示す。
【0074】
【表1】
…
表1~表3中の記号は以下の通りである。
【0077】MMA:メチルメタクリレート
nBA:n-ブチルアクリレート
MA:メチルアクリレート
EMA:エチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
2EHA:2エチルヘキシルアクリレート
AMA:アリルメタクリレート」
(2)甲2に記載された発明との対比及び判断
ア 本件発明19について
甲2の実施例(上記(1)エ)に関し、「シェル重合体」は、「メチルメタクリレート52重量%、メチルアクリレート42重量%、メタクリル酸6重量%」(実施例1及び2)あるいは「メチルメタクリレート50重量%、エチルメタクリレート8重量%、メチルアクリレート35重量%、メタクリル酸7重量%」(実施例3)を単量体として用いて重合し、重合生成物を得ている。この構成比(各成分の合計量100重量%)から、本願発明でいう「O2値」を算出すると、実施例1及び2は
32/100.12*52+32/86.09*42+32/86.09*6≒34.5、
実施例3は
32/100.12*50+32/114.14*8+32/86.09*35+32/86.09*7≒33.8となる。
また、「コア重合体」は、「メチルメタクリレート50重量%、ブチルアクリレート50重量%」(実施例1及び2)あるいは「メチルメタクリレート50重量%、2エチルヘキシルアクリレート49.5重量%、アリルメタクリレート0.5重量%」(実施例3)を単量体として用いて重合しており、この重合は上記(1)イの記載を勘案すると乳化重合性モノマーの重合生成物を得ているものと認められる。
そして、得られた重合体は、「コア-シェル構造を有する乳白色のエマルション」の形態である。
そうすると、甲2には、以下の引用発明2x及び2yが記載されていると認められる。
<引用発明2x>
「アルカリ可溶性の樹脂であって、
メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの2つのアクリレートと、
メタクリル酸と
を含む混合物の重合生成物を含み、
前記樹脂は、20,000の重量平均分子量を有し、かつ前記樹脂は39mgKOH/gの酸価を示し、かつ34.5のO2値を有する、樹脂と、
少なくとも1つの乳化重合性モノマーの第2の重合生成物とを含む、コア-シェル構造を有するエマルション。」
<引用発明2y>
「アルカリ可溶性の樹脂であって、
メタクリル酸メチルとメタクリル酸エチルとアクリル酸メチルの3つのアクリレートと、
メタクリル酸と
を含む混合物の重合生成物を含み、
前記樹脂は、30,000の重量平均分子量を有し、かつ前記樹脂は46mgKOH/gの酸価を示し、かつ33.8のO2値を有する、樹脂と、
少なくとも1つの乳化重合性モノマーの第2の重合生成物とを含む、コア-シェル構造を有するエマルション。」
そして、本件発明1を引用する本件発明19と引用発明2x及び2yとは、以下の点で相違する。
相違点a:本件発明19は「親水性の低酸含有量樹脂」が「塩基で中和をすると水溶性」であるのに対し、引用発明2x及び2yは「樹脂」が「アルカリ可溶性」である点。
相違点b:本件発明19は「低酸含有量樹脂」であるのに対し、引用発明2x及び2yはこれについて明示のない点。
相違点c:本件発明19は「(請求項1~12のいずれかの)樹脂」が「保護コロイドとして」存在するのに対し、引用発明2x及び2yはこれについて明示のない点。
相違点について検討する。
相違点a及びbに関し、引用発明2x及び2yは、「シェル重合体(B)はアルカリ可溶性である」(【0039】)(上記(1)ウ)から、「塩基で中和をすると水溶性」であり、「親水性」であるといえる。
また、引用発明2x及び2yは、本件発明1のその余の構成、特に、「20,000の重量平均分子量を有し、かつ前記樹脂は39mgKOH/gの酸価を示(す)」こと、「30,000の重量平均分子量を有し、かつ前記樹脂は46mgKOH/gの酸価を示(す)」ことに鑑みると、引用発明2x及び2yも本件発明1でいう「低酸含有量樹脂」と解するのが相当である。
以上の点から、相違点a及びbは実質的な相違点とはいえない。
相違点cに関し、引用発明2x及び2yにおける「アルカリ可溶性の樹脂であって、
メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの2つのアクリレートと、
メタクリル酸と
を含む混合物の重合生成物を含み、
前記樹脂は、20,000の重量平均分子量を有し、かつ前記樹脂は39mgKOH/gの酸価を示し、かつ34.5のO2値を有する、樹脂」や「アルカリ可溶性の樹脂であって、
メタクリル酸メチルとメタクリル酸エチルとアクリル酸メチルの3つのアクリレートと、
メタクリル酸と
を含む混合物の重合生成物を含み、
前記樹脂は、30,000の重量平均分子量を有し、かつ前記樹脂は46mgKOH/gの酸価を示し、かつ33.8のO2値を有する、樹脂」は、いずれも「シェル重合体」であって、甲2では、「保護コロイド」として存在することは記載も示唆もない。
そして、該「シェル重合体」を「保護コロイド」として解しうる本願優先日時点の技術常識は確認できない。
そうすると、本件発明19と引用発明2x及び2yとは、相違点cにおいて異なるものであり、本件発明19は、甲2に記載された発明であるとはいえない。
また、引用発明2x及び2yにおいて、「樹脂」を「保護コロイド」として用いることを当業者が容易に想到し得るということはできない。
このため、本件発明19は、甲2に記載された発明ないしはこれに基づいて当業者が容易に想到しえたものとはいえない。
イ 本件発明20について
上記のとおり、本件発明19は、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえない。
本件発明20は、本件発明19を引用し、更に限定を加えたものであるから、本件発明20も、本件発明19と同様、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえない。
ウ まとめ
以上のことから、上記申立ての理由には理由がない。
5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~12に係る特許は、特許法第113号第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、申立人が主張する異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明19、20に係る特許を取り消すことはできない。そして、他に本件発明19、20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-701072