特許異議申立
2018-700919
熱線遮蔽性粘着剤組成物および熱線遮蔽性透明粘着シートならびにその製造方法
- 審判番号
- 2018-700919
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-024520外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年11月15日
- 審決日
- 2019年11月01日
- 公報発行日
- 2020年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C09K) / P1651.121-YAA(C09K) / P1651.536-YAA(C09K) / P1651.537-YAA(C09K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6328812号発明「熱線遮蔽性粘着剤組成物および熱線遮蔽性透明粘着シートならびにその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6328812号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第6328812号の請求項1、3、4及び8~10に係る特許を維持する。
特許第6328812号の請求項2、5~7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6328812号の請求項1~10に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)9月10日(優先権主張 平成23年9月17日、日本国)を国際出願日とする特願2013-533660号の一部を、平成29年2月14日に新たな特許出願としたものであって、平成30年4月27日にその特許権の設定登録がされ、同年5月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年11月15日に特許異議申立人鳥巣実(以下、「申立人」という。)は特許異議の申立てを行い、当審は、平成31年1月23日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、同年4月19日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。その訂正の請求に対して、申立人は令和元年5月31日に意見書を提出した。そして、当審は、同年7月1日付けで取消理由(決定の予告)を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、同年7月26日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行った。その訂正の請求に対して、申立人に対して期間を指定して意見を求めたが、指定期間内に申立人から意見書は提出されなかった。そして、当審は、同年10月3日付けで訂正拒絶理由を通知し、同年10月18日に特許権者から意見書及び手続補正書の提出がなされた。
なお、平成31年4月19日付けの訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。また、令和元年10月18日付けの手続補正は、以下の第2 1において述べるように、請求項6に係る訂正事項を請求項6の削除という訂正事項に変更する補正、請求項7の削除という訂正事項を追加する補正、及び、それらに整合させるための請求項についての訂正事項の補正であって、実質的な判断に影響を与えるものではないことは明らかであるから、令和元年10月18日付けの手続補正について、申立人に意見書を提出する機会は与えなかった。
第2 訂正の可否についての判断
1 令和元年10月18日付け手続補正について
令和元年10月18日付け手続補正は、補正前の請求項6、7に係る訂正を、請求項を削除する訂正に変更するものであり、請求項8、9に係る訂正を、上記請求項を削除する訂正に整合させるためのものであるから、当該補正は、令和元年7月26日付け訂正請求書の要旨を変更するものとは取り扱わず、当該補正を認める。
2 訂正の内容
令和元年10月18日付けで手続補正された本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1~10のとおりである。なお、訂正前の請求項1~10は、請求項2~10が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~10について請求されている。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.01°以上0.80°以下である熱線遮蔽性微粒子と、分散剤とを含有する該熱線遮蔽性微粒子の分散液であって、前記熱線遮蔽性微粒子がスズ含有酸化インジウム(ITO)またはガリウム含有酸化亜鉛(GZO)であり、前記熱線遮蔽性微粒子の一次粒子の径が1~100nmであって、当該一次粒子のBET法により算出される比表面積が5~200m2/gである分散液。」と記載されているのを、
「熱線遮蔽性微粒子として、X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.1°以上0.487°以下であるスズ含有酸化インジウム(ITO)、またはX線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.405°以上0.511°以下であるガリウム含有酸化亜鉛(GZO)と、分散剤とを含有する該熱線遮蔽性微粒子の分散液であって、前記熱線遮蔽性微粒子の一次粒子の径が1~100nmであって、当該一次粒子のBET法により算出される比表面積が5~200m2/gである分散液。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記分散剤が高分子非水系分散剤である、請求項1又は2に記載の分散液。」と記載されているのを、
「前記分散剤が高分子非水系分散剤である、請求項1に記載の分散液。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「アクリル系共重合体を含有する粘着剤に、請求項1~3のいずれかに記載の分散液を混合してなる熱線遮蔽性粘着剤組成物。」と記載されているのを、
「アクリル系共重合体を含有する粘着剤に、請求項1又は3のいずれかに記載の分散液を混合してなる熱線遮蔽性粘着剤組成物。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に、
「請求項4乃至7のいずれか1項に記載の熱線遮蔽性粘着剤組成物を少なくとも溶媒中に溶解、分散してなるワニス組成物。」と記載されているのを、
「請求項4に記載の熱線遮蔽性粘着剤組成物を少なくとも溶媒中に溶解、分散してなるワニス組成物。」に訂正する。
(8)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項4乃至7の何れか1項に記載の熱線遮蔽性粘着剤組成物または請求項8に記載のワニス組成物を塗布してなる熱線遮蔽性透明粘着シート。」と記載されているのを、
「請求項4に記載の熱線遮蔽性粘着剤組成物または請求項8に記載のワニス組成物を塗布してなる熱線遮蔽性透明粘着シート。」に訂正する。
(9)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に、
「可視光透過率が50%以上、日射透過率が80%以下、ヘイズが8%以下であることを特徴とする請求項9に記載の熱線遮蔽性透明粘着シート。」と記載されているのを、
「可視光透過率が50%以上、日射熱取得率が80%以下、ヘイズが8%以下であることを特徴とする請求項9に記載の熱線遮蔽性透明粘着シート。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、熱線遮蔽性微粒子の「スズ含有酸化インジウム(ITO)」の「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅」の範囲について、上限を「0.487」とし、同「ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)」の同「範囲」について、「0.405°以上0.511°以下」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「スズ含有酸化インジウム(ITO)」の「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅」が「0.487°」のものは、本件明細書の【表1】(【0053】)の「製造例3」(【0047】)に示されている。
そして、「ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)」の「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅」が「0.405°」及び「0.511°」のものは、本件明細書の【表1】(【0053】)の「製造例6」(【0050】)及び「製造例7」(【0051】)にそれぞれ示されている。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2、5、6、7について
訂正事項2は請求項2を削除するものであり、訂正事項5は請求項5を削除するものであり、訂正事項6は請求項6を削除するものであり、訂正事項7は請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用していたところ、訂正事項2の請求項2の削除に伴って、請求項3の引用先を請求項1又は2から請求項1とする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1~3を引用していたところ、訂正事項2の請求項2の削除に伴って、請求項4の引用先を請求項1~3から請求項1又は3とする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項8が請求項4乃至7を引用していたところ、訂正事項5の請求項5の削除、訂正事項6の請求項6の削除、訂正事項7の請求項7の削除に伴って、請求項8の引用先を請求項4乃至7から請求項4とする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項9が請求項4乃至7を引用していたところ、訂正事項5の請求項5の削除、訂正事項6の請求項6の削除、訂正事項7の請求項7の削除に伴って、請求項9の引用先を請求項4乃至7から請求項4とする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)訂正事項10について
訂正事項10は、本件明細書の【0062】~【0064】に記載された「日射熱取得率」という用語に基づき、請求項10に記載された「日射透過率」という用語を、発明の詳細な説明に記載された用語である「日射熱取得率」と訂正し、請求項の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(8)小括
上記のとおり、訂正事項1~10に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、3、4及び8~10に係る発明(以下「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3、4及び8~10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
熱線遮蔽性微粒子として、X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.1°以上0.487°以下であるスズ含有酸化インジウム(ITO)、またはX線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.405°以上0.511°以下であるガリウム含有酸化亜鉛(GZO)と、分散剤とを含有する該熱線遮蔽性微粒子の分散液であって、前記熱線遮蔽性微粒子の一次粒子の径が1~100nmであって、当該一次粒子のBET法により算出される比表面積が5~200m2/gである分散液。
【請求項3】
前記分散剤が高分子非水系分散剤である、請求項1に記載の分散液。
【請求項4】
アクリル系共重合体を含有する粘着剤に、請求項1又は3のいずれかに記載の分散液を混合してなる熱線遮蔽性粘着剤組成物。
【請求項8】
請求項4に記載の熱線遮蔽性粘着剤組成物を少なくとも溶媒中に溶解、分散してなるワニス組成物。
【請求項9】
請求項4に記載の熱線遮蔽性粘着剤組成物または請求項8に記載のワニス組成物を塗布してなる熱線遮蔽性透明粘着シート。
【請求項10】
可視光透過率が50%以上、日射熱取得率が80%以下、ヘイズが8%以下であることを特徴とする請求項9に記載の熱線遮蔽性透明粘着シート。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~10に係る特許(平成31年4月19日付けの訂正の請求によって訂正された請求項1~10に係る特許)に対して、当審が令和元年7月1日付けで特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである。
「本件は、(訂正前の)特許請求の範囲の請求項1~10の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、(訂正前の)請求項1~10に係る特許は、その請求項の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
・(訂正前の)請求項1の構成A(X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.01°以上0.80°以下である熱線遮蔽性微粒子)について
発明の詳細な説明において、熱線遮蔽性微粒子の第一主ピークの半値幅として実際に測定したものは、熱遮蔽性微粒子の分散液を乾燥し、乳鉢で粉砕して得られたものだけであるところ、その半値幅は、ITO微粒子(スズ含有酸化インジウム(ITO)の熱線遮蔽性微粒子。以下、単に、「ITO微粒子」ともいう。)については、表1の製造例2~4に記載された0.441°~0.904°であり、GZO微粒子(ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)の熱線遮蔽性微粒子。以下、単に、「GZO微粒子」ともいう。)については、表1の製造例6~9に記載された0.405゜~0.878°である。
そして、分散液の透明性や遮熱性といった特性は、半値幅に依存することが本件明細書の段落【0020】に記載され、熱遮蔽性微粒子の種類にも依存することは明らかであるから、この半値幅の範囲をITO微粒子とGZO微粒子を包括した熱線遮蔽性微粒子の半値幅の範囲として、(訂正前の)本件発明1の構成Aの範囲にまで、直ちに、拡張又は変更し得るものではなく、(訂正前の)本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。
したがって、上記構成Aについて、(訂正前の)本件請求項1の記載及び(訂正前の)本件請求項1を直接的又は間接的に引用する(訂正前の)本件請求項2~10の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」(なお、ここでいう「訂正前」とは、平成31年4月19日付けの訂正前のことである。)
第5 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するかどうか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲の記載に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、以下、上記の観点に立って、本件について検討することとする。
本件発明が解決しようとする課題は、「建物の窓、乗り物の窓、あるいは冷蔵、冷凍ショーケースの窓ガラス等に貼着して用いられる熱線遮蔽性粘着剤および熱線遮蔽性透明粘着シート」において、「可視光領域における透明率、ヘイズ、熱線遮蔽性の大幅な改善を計る」(本件明細書【0010】)ことと認められる。
そして、本件明細書には、次の記載がある。
「【0018】
本発明において用いる熱線遮蔽性微粒子は、下記のようにして得られる径が1~100nmの一次粒子を有機溶媒中に分散エネルギーを加えて分散して得られる。この微粒子の製法は、1~100nmのものが得られれば特に制限はなく、気相合成法、液層合成法等の公知の方法により得ることができる。例えば酸化インジウム微粒子については、特開平6-227815に開示されている方法で良い。すなわち、特定の微粒子元素を含んだ塩の水溶液をアルカリにより中和し、得られた沈殿物をろ過、洗浄し、高温で加熱処理することにより熱線遮蔽性微粒子を得る方法である。また、酸化スズ微粒子、酸化亜鉛微粒子の製法については、それぞれ特開平2-105875、特開平6-234522に開示されている。また、前記性能を満たせば市販されているものでも構わない。なお、粒径はBET法で測定された比表面積より算出されたものである。」
「【0020】
本発明において使用する熱線遮熱性微粒子は、XRDパターンにより得られる第一主ピークの半値幅が0.01~0.8°である。半値幅が0.01°以下であると、一次粒子径が大きくなるため透明性を確保することが難しい。また、半値幅が0.8°を超えると十分な遮熱性を発現することが難しい。また、上記熱線遮熱性微粒子は、半値幅の好ましい下限が0.1°、好ましい上限が0.8°、より好ましい下限が0.2°、より好ましい上限が0.5°である。
【0021】
半値幅が0.01~0.8°である熱線遮熱性微粒子は、一次粒子を分散する時の周速、ビーズ粒径、ビーズ充填率、分散時間等の分散条件を制御する事で得られる。周速は、好ましくは1~13m/sであり、より好ましくは2~12m/sである。また、ビーズ粒径は、好ましくは1000~15μmであり、より好ましくは600~30μ/sである。また、ビーズ充填率は、好ましくは10~90%であり、より好ましくは20~85%である。分散時間は、好ましくは1~240分であり、より好ましくは5~120分である。
【0022】
本発明で用いられる熱線遮蔽微粒子の一次粒子は、BELSORP-miniII(日本ベル株式会社)を用いBET法(比表面積測定法)で測定した比表面積が5~200m2/gであると好ましく、より好ましくは10~150m2/gであり、特に好ましくは10~100m2/gである。BET法による比表面積が5m2/gより小さいものは、一次粒子径が大きいため、シートやフィルム、塗料、樹脂組成物にした場合に仕上がり表面の平滑性が発揮されない恐れがある。さらには、透明性が期待できないなどのデメリットが生じる恐れがある。一方で、BET法による比表面積が200m2/gより大きいものは、製造に特殊な技術が必要となり、また十分な結晶化度を得られず、熱線遮蔽特性が損なわれる恐れがある。なお、BET法は、粉体粒子表面に大きさのわかった分子やイオンを吸着させて、その量から試料の比表面積を測定する方法である。」
「【0053】
【表1】
」
そうすると、上記記載から、熱線遮蔽性微粒子について、一次粒子の径が1~100nm(【0018】)であって、XRDパターンにより得られる第一主ピークの半値幅が好ましくは0.1~0.8°であり(【0020】)、一次粒子のBET法により算出される比表面積が5~200m2/gであれば(【0022】)、透明性を確保し、十分な遮熱性を発現する、熱線遮蔽性粘着剤及び熱線遮蔽性透明粘着シートが得られること、すなわち、上記課題を解決するものであるとの説明が記載されている。
そして、上記課題を解決することが確認された「熱線遮蔽性粘着剤および熱線遮蔽性透明粘着シート」における熱遮蔽性微粒子について、XRDパターンによって得られる第一主ピークの半値幅(以下、単に「半値幅」ともいう。)は、本件明細書の【0053】の【表1】によれば、ITO微粒子については、0.441°及び0.487°であり、GZO微粒子については、0.405°及び0.511°である。
また、特許権者が平成31年4月19日付けの意見書とともに提出した実験成績証明書(乙第1号証)には、ITO微粒子について、上記半値幅の好適範囲内にある0.1004°のものが、上記課題を解決することが確認されているといえる。
そうすると、ITO微粒子について、その半値幅が0.1004°のものと0.1°のものについては、その差が微差であり、その透明率、ヘイズ、熱線遮蔽性といった粘着シートにおける特性に差異があるといえないことから、ITO微粒子について、その半値幅が0.1°~0.487°のものは、上記課題を解決するものであり、GZO微粒子について、その半値幅が0.405°~0.511°のものは、上記課題を解決するものであるといえる。
したがって、半値幅について、ITO微粒子については、0.1°~0.487°であることが規定され、GZO微粒子については、0.405°~0.511°であることが規定された本件請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
また、本件請求項1を直接的又は間接的に引用する本件請求項3、4及び8~10の記載についても、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
(小括)
以上のとおり、請求項1、3、4及び8~10に係る特許は、その請求項の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった、設定登録時の本件発明1~10に対して申し立てられた特許異議申立理由は次のとおりである。
(1)特許法第29条第1項第3号及び第2項について(同法第113条第2号)
設定登録時の本件発明1は、下記の甲第1号証(以下、「甲1」などという。)に記載された発明(甲1発明)により新規性がなく、下記の甲1~甲4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲第1号証:国際公開2011/052689号
甲第2号証:特許第2715859号公報
甲第3号証:特開平7-249316号公報
甲第4号証:国際公開2010/035875号公報
(2)特許法第36条第4項第1号について(同法第113条第4号)
発明の詳細な説明には、「製造した熱線遮蔽性微粒子の半値幅」は記載されずに、「分散液を乾燥して粉砕した熱線遮蔽性微粒子の半値幅」だけが記載されている。
発明の詳細な説明には、最初に「製造した熱線遮蔽性微粒子の半値幅」を記載すべきであり、この半値幅の記載がないのは、第三者に過度な実験を強いるものである。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が設定登録時の本件発明1及びこれに従属する本件発明2~10を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)特許法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
設定登録時の本件発明1~10は、次のア~エに述べるように、発明の詳細な説明に記載したものでなく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 設定登録時の本件発明1において「(熱線遮蔽性微粒子が)X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.01°以上0.80°以下である」と特定されている。
ここで、発明の詳細な説明を参酌すると、熱線遮蔽性微粒子の第一主ピークの半値幅として実証されているものは、分散液を乾燥して粉砕した熱線遮蔽性微粒子の半値幅だけであって、ITO微粒子については、表1の製造例2~4に記載された半値幅の0.441°~0.904°であり、GZO微粒子については、表1の製造例6~9に記載された半値幅の0.405゜~0.878°である。
分散液の特性が半値幅に依存することが本件明細書の【0020】の記載から重要であることを考慮すると、この半値幅の範囲をITO微粒子とGZO微粒子を包括した熱線遮蔽性微粒子の半値幅の範囲として、設定登録時の本件発明1の範囲にまで拡張又は変更し得るものではない。
イ 設定登録時の本件発明1において「熱線遮蔽性微粒子の一次粒子の径が1~100nmであって、当該一次粒子のBET法により算出される比表面積が5~200m2/gである」と特定されている。
ここで、発明の詳細な説明を参酌すると、上記一次粒子の径として実証されているものは、ITO微粒子については、製造例1の25.6nmのみであり、GZO微粒子については、製造例5の24.3nmのみである。
分散液の特性が上記一次粒子の径に依存することが技術常識であること及びITO粒子の一次粒子の径とGZO粒子の一次粒子の径とは常識として異なること及び本件明細書の【0022】の記載から一次粒子の径の範囲が重要であることを考慮すると、この一次粒子の径を、ITO粒子とGZO粒子を包括しかつ同等の一次粒子の径の範囲として、設定登録時の本件発明1の範囲にまで拡張し得るものではない。
また、発明の詳細な説明を参酌すると、上記一次粒子のBET法により算出される比表面積として実証されているものは、ITO微粒子については、製造例1の35.3m2/gのみであり、GZO微粒子については、製造例5の49.3m2/gのみである。分散液の特性が上記比表面積に依存することが技術常識であること及びITO粒子の密度とGZO粒子の密度とは常識として異なること、さらには本件明細書の【0022】の記載から比表面積の範囲が重要であることを考慮すると、この比表面積を、ITO粒子とGZO粒子を包括しかつ同等の比表面積の範囲として、設定登録時の本件発明1の範囲にまで拡張し得るものではない。
したがって、設定登録時の本件発明1及びこれに従属する設定登録時の本件発明2~10は、本件発明の詳細な説明に記載されたものではない。
ウ 設定登録時の本件発明2において「前記分散剤の前記熱線遮蔽性微粒子とのRED(Relative Energy Difference)が1.5以下である」と特定されている。また設定登録時の本件発明5において「前記熱線遮蔽性微粒子と前記粘着剤とのREDが1.5以下である」と特定されている。
ここで、発明の詳細な説明を参酌すると、上記REDとして実証されているものは、実施例及び比較例に全くない。分散液の特性が上記REDに依存することが本件明細書の【0034】~【0036】の記載から重要であることを考慮すると、このREDの範囲を本件発明2の範囲及び本件発明5の範囲として特定し得るものではない。
したがって、設定登録時の本件発明2及びこれに従属する設定登録時の本件発明3~10、並びに設定登録時の本件発明5及びこれに従属する設定登録時の本件発明6~10は、本件発明の詳細な説明に記載されたものではない。
エ 設定登録時の本件発明10において、「可視光透過率が50%以上、日射透過率が80%以下、ヘイズが8%以下であること」が特定されている。
発明の詳細な説明を参酌すると、上記可視光透過率として実証されているものは、本件明細書の表2の78.4%~82.7%であり、上記日射透過率として実証されているものは、本件明細書の表2には全くなく、上記ヘイズとして実証されているものは、本件明細書の表2の0.1~0.4である。表2には日射熱取得率が記載されているが、日射熱取得率は日射透過率とは異なる。
可視光透過率、日射透過率及びヘイズの光学特性が、本件特許の熱線遮蔽性粘着剤を塗工したフィルム、ガラスの光学性能として、本件明細書の段落[0041]~段落[0043]の記載から重要であることを考慮すると、この可視光透過率、日射透過率及びヘイズの各範囲を設定登録時の本件発明10の範囲にまで拡張し得るものではない。
(4)特許法第36条第6項第2号について(同法第113条第4号)
設定登録時の本件発明1において「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.01°以上0.80°以下である熱線遮蔽性微粒子」と特定されているが、この半値幅が「製造した熱線遮蔽性微粒子の半値幅」であるのか、「分散液を乾燥して粉砕した熱線遮蔽性微粒子の半値幅」であるのか、明確でない。
したがって、設定登録時の本件発明1及びこれに従属する設定登録時の本件発明2~10は、明確でなく、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号及び第2項について
ア 甲1の記載
甲1には、「熱線遮蔽組成物とその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「[0021] 具体的には、例えば、実施例1~2(No.1~3)に示すように、2塩化錫を用い、溶液のpH7、液温10℃~60℃において、乾燥粉末が山吹色から柿色の沈澱が生じる。一方、比較例1(No.7)に示すようにpH4.0未満(pH3.0)では淡い黄色を帯びた白色の沈澱になり、また比較例2(No.8)に示すようにpH9.3以上(pH9.5)では同様に淡い黄色を帯びた白色の沈澱になる。従って、山吹色から柿色の色調を有する共沈インジウム錫水酸化物を生成させるには、pH4.0~9.3の範囲が適当である。なお、pHが中性に近いほど柿色が強くなる傾向がある。さらに、比較例3(No.9)に示すように4塩化錫(SnCl4)を用いると、白色沈澱になり、山吹色から柿色の色調を有する結晶性の高い沈澱にならない。
[0022] 上記共沈インジウム錫水酸化物の生成後、該共沈物を純水で洗浄し、上澄み液の抵抗率が5000Ω・cm以上、好ましくは50000Ω・cm以上になるまで洗浄した後に固液分離して上記共沈物を回収する。上澄み液の抵抗率が5000Ω・cmより低いと塩素等の不純物が十分に除去されておらず、高純度のインジウム錫酸化物粉末を得ることができない。
[0023] 上記インジウム錫水酸化物は、その乾燥粉末が山吹色から柿色の色調を有しており、Lab表色系において、L=80以下、a=-10~+10、b=+26以上であり、例えば、実施例1~5(No.1~No.6)では、L=60.3~75.1、a=-2.3~+1.5、b=+21.9~+32.2である。因みに、比較例1~3(No.7~9)の沈澱はL=91~100の白色系沈澱である。
[0024] 上記インジウム錫水酸化物を乾燥焼成してITO粉末(In-Sn酸化物粉末)を得ることができる。乾燥から焼成の工程は、例えば、大気下において、100~200℃で2~24時間加熱することによって乾燥し、次いで250℃以上、好ましくは400℃~800℃で、1~6時間加熱して焼成するとよい。250℃以下では水酸化物のままであり酸化物にならない。この焼成処理によってインジウム錫水酸化物は酸化され、山吹色から柿色の色調を有するインジウム錫酸化物粉末を得ることができる。
[0025] 大気焼成処理した上記ITO粉末は山吹色から柿色の色調を有している。具体的には、Lab表色系において、L=80以下、a=-10~+10、b=+26以上であり、例えば、実施例1~5(No.1~No.6)では、L=56.6~67.1、a=-1.2~+1.1、b=+29.5~+30.8である。一方、白色系のインジウム錫水酸化物を大気焼成したものは、比較例に示すように、Lab表色系において、a値が-5以下であり、鴬色(olieve-green)の粉末になる。
[0026] 上記ITO粉末は55m 2 /g以上、好ましくは60m 2 /g以上の比表面積を有する微細粉末である。具体的には、実施例1~5のBET比表面積は60m 2 /g~85m 2 /gであり、一方、比較例1~3のITO粉末のBET比表面積は45m 2 /g~48m 2 /gであり、比較例1~3よりも格段に比表面積が大きい微細粉末である。
[0027] 山吹色から柿色の色調を有する上記ITO粉末は結晶性が高い。例えば、実施例AのNo.1のITO粉末は、図1および図2に示すように、X線回折チャートにおける(222)面のピークは相対強度が大きく(約3000cps)、その半値幅は0.6°より小さい(具体的には0.47°)。一方、比較例AのNo.9のITO粉末は、白色のインジウム錫水酸化物を焼成したものであって鴬色を有しており、図4に示すように、このX線回折チャートにおける(222)面のピークは相対強度が2500cps以下であり、その半値幅は0.6°より大きい(具体的には0.65°)。このように本実施形態に用いるITO粉末は、比較例のITO粉末よりも半値幅がかなり小さく、従って、結晶性の高い粉末である。
山吹色から柿色の色調を有する上記ITO粉末では、X線回折チャートにおける(222)面のピークの相対強度は2600~4000cps程度であり、ピークの半値幅が0.3~0.6°程度であることが好ましい。」
「実施例
[0033] 以下、本実施形態の実施例を比較例と共に示す。ITO粉末のX線回折パターン、比表面積、色調(Lab値)は以下の方法によって測定した。
〔X線回折パターン〕粉末X線回折装置、リガク社製(製品名MiniFlexII)を用いて測定した。
〔BET比表面積〕柴田科学社の迅速表面積測定装置(SA-1100)を用いて測定した。
〔色調〕Lab値をスガ試験機社のカラーコンピュータ(SM-T)を用いて測定した。
[0034] 〔ITO粉末:試料No.1〕
塩化インジウム(InCl 3 )水溶液(In金属18g含有)50mLと、二塩化錫(SnCl 2 ・2H 2 O) 3.6gとを混合し、この混合水溶液とアンモニア(NH 3 )水溶液を、水500mlに同時に滴下し、pH7に調整し、30℃の液温で30分間反応させた。生成した沈殿をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の抵抗率が50000Ω・cm以上になったところで、沈殿物(In/Sn共沈水酸化物)を濾別し、乾燥粉末の色調が柿色を有する共沈インジウム錫水酸化物を得た。
この共沈インジウム錫水酸化物のX線回折パターンを図3に示した。また、この共沈水酸化物粉末のTEM(透過型電子顕微鏡)写真を図7に示した。図7に示すように、この共沈水酸化物粉末は結晶の形状が明瞭であり、結晶性が高いことがわかる。
固液分離したインジウム錫水酸化物を110℃で一晩乾燥した後、大気中550℃で3時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、山吹色を有するITO粉末約25gを得た。 このITO粉末のLab値、比表面積を表1に示した。
[0035] 上記ITO粉25gを、無水エタノールと蒸留水を混合した表面処理液(混合比率はエタノール95重量部に対して蒸留水5重量部)に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、330℃にて2時間加熱して表面改質処理した。このITO粉末の色調(L、a、b)とBET値を表1に示した。また、このITO粉末のX線回折パターンを図1に示した。さらに(222)面のピーク付近の部分拡大図を図2に示した。図示するように、このITO粉末は相対強度が大きく(約3000cps)、その半値幅は0.47°であり、結晶性の高いことが確認された。また、X線回折パターンに示すように、このITO粉末の結晶晶系は立方晶系である。
・・・
[0045] [表1]
[0046] 〔実施例B〕 表1に示す試料No.1、No.6のITO粉20gを、蒸留水(0.020g)、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート[3G](23.8g)、無水エタノール(2.1g)、リン酸ポリエステル(1.0g)、2-エチルヘキサン酸(2.0g)、2,4-ペンタンジオン(0.5g)の混合液に入れて分散させた。」
イ 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【請求項1】 1000nm以下のある波長より長波長側の赤外線を全面的に90%以上カットオフする平均一次粒子径0.2μm以下の錫ドープ酸化インジウム粉末と、有機溶媒に可溶性または分散性の有機樹脂とを、非アルコール系有機溶媒中に含有することを特徴とする透明赤外線カットオフ膜形成材。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、赤外線カットオフ材、即ち、赤外線カットオフ膜とこれを形成するための膜形成材、ならびに赤外線カットオフ機能を持ったフィルムおよび成形体とこれを形成するための成形材料に関する。本発明の赤外線カットオフ材は、可視光には透過性で透明性を失わずに、選択的に赤外線をカットオフすることができる。」
ウ 甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【請求項1】酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜であって、該透明導電膜は、ガリウムを亜鉛に対して0.1~15原子%含有し、そのX線回折パターンにおいて(002)面による回折ピークを有し、(002)面による回折線の半値幅が1.2度以下であり、かつ、該透明導電膜の比抵抗が10-2Ω・cm以下で、膜厚が80nm~5μmの範囲にあることを特徴とする透明導電膜。」
「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術が有していた前述の欠点を解消し、直流スパッタ法により高速で大面積コートが可能で、しかも機械的・化学的な耐久性が改善されて、さらに大気雰囲気等の酸化性雰囲気での高温熱処理においても光学特性が劣化しない高品位かつ低コストの、光学的選択反射特性膜、特にLow-E膜として工業的に有用な膜の提供を目的とする。」
「【0019】本発明の透明基体においては、外観を調整する目的で、透明導電膜層と基体の間に1層以上のアンダーコート膜、あるいは透明導電膜層の上に、1層以上のオーバーコート膜を設けて、光の干渉現象や膜の吸収を利用して透過・反射色調や可視光線反射率の調整ができる。」
エ 甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「[0001]本発明は、遮熱微粒子としてガリウムドープ酸化亜鉛微粒子を含有し、透明性が高く、かつ、遮熱性に優れた合わせガラス用中間膜に関する。また、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスに関する。」
「[0056](実施例1)
(1)ガリウムドープ酸化亜鉛微粒子分散液の調製 3価の金属元素としてガリウムを含有する酸化亜鉛微粒子(亜鉛の原子数とガリウムの原子数との合計に占めるガリウムの原子数の割合が3%、BET値が60m2/g)30重量部、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート267重量部、分散剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル(阪本薬品社製、CR-ED)3重量部、及び、体積平均粒子径が0.1mmのジルコニアビーズ1125重量部を、800mlのバッチ式ビーズミル(AIMEX社製、RMB-08)の分散容器に入れた。羽の周速を8m/sとして、3時間撹拌を行って、ガリウムドープ酸化亜鉛微粒子分散液を得た。」
オ 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の「実施例B」([0046])の試料No.1の分散液について、[0043]から、表面改質された試料No.1のITO粉は熱線遮蔽材といえるから、甲1には、
「熱線遮蔽材としての試料No.1のITO粉20gを、蒸留水(0.020g)、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート[3G](23.8g)、無水エタノール(2.1g)、リン酸ポリエステル(1.0g)、2-エチルヘキサン酸(2.0g)、2,4-ペンタンジオン(0.5g)の混合液に入れて分散させた分散液。
(ただし、試料No.1のITO粉は、次のような工程で製造されたもの。
塩化インジウム(InCl 3 )水溶液(In金属18g含有)50mLと、二塩化錫(SnCl 2 ・2H 2 O)3.6gとを混合し、この混合水溶液とアンモニア(NH 3 )水溶液を、水500mlに同時に滴下し、pH7に調整し、30℃の液温で30分間反応させ、生成した沈殿をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行い、上澄み液の抵抗率が50000Ω・cm以上になったところで、沈殿物(In/Sn共沈水酸化物)を濾別し、乾燥粉末の色調が柿色を有する共沈インジウム錫水酸化物を得て、
固液分離した上記インジウム錫水酸化物を110℃で一晩乾燥した後、大気中550℃で3時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、山吹色を有するITO粉末約25gを得て、上記ITO粉25gを、無水エタノールと蒸留水を混合した表面処理液(混合比率はエタノール95重量部に対して蒸留水5重量部)に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、330℃にて2時間加熱して表面改質処理した。)」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
カ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「熱線遮蔽材」、「試料No.1のITO粉」、「蒸留水(0.020g)、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート[3G](23.8g)、無水エタノール(2.1g)、リン酸ポリエステル(1.0g)、2-エチルヘキサン酸(2.0g)、2,4-ペンタンジオン(0.5g)の混合液」及び「分散液」は、本件発明1の「熱線遮蔽性微粒子」、「スズ含有酸化インジウム(ITO)」、「分散剤」及び「分散液」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「熱線遮蔽性微粒子として、スズ含有酸化インジウム(ITO)と、分散剤とを含有する該熱線遮蔽性微粒子の分散液。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1)
「スズ含有酸化インジウム(ITO)」の「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅」について、本件発明1は、「0.1°以上0.487°以下」であるのに対し、甲1発明の「試料No.1のITO粉」の同「半値幅」は不明な点。
(相違点2)
「スズ含有酸化インジウム(ITO)」の「一次粒子の径」について、本件発明1は、「1~100nm」であるのに対し、甲1発明の「試料No.1のITO粉」の「一次粒子の径」は不明な点。
(相違点3)
「スズ含有酸化インジウム(ITO)」の「一次粒子のBET法により算出される比表面積」について、本件発明1は、「5~200m2/g」であるのに対し、甲1発明の「試料No.1のITO粉」の「一次粒子のBET法により算出される比表面積」は不明な点。
(相違点4)
本件発明1は、「熱線遮蔽性微粒子として、X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.405°以上0.511°以下であるガリウム含有酸化亜鉛(GZO)と、分散剤とを含有する該熱線遮蔽性微粒子の分散液であって、前記熱線遮蔽性微粒子の一次粒子の径が1~100nmであって、当該一次粒子のBET法により算出される比表面積が5~200m2/gである分散液。」を含むのに対し、甲1発明は、このような熱線遮蔽性微粒子として、ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)は含まない点。
キ 相違点の検討
事案に鑑み、相違点1について検討する。
甲1の「試料No.1のITO粉」は表面改質されたものであるところ、該「試料No.1のITO粉」の「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅」については、甲1には記載も示唆もない。
なお、甲1の[0027]には、「山吹色から柿色の色調を有する上記ITO粉末は結晶性が高い。例えば、実施例AのNo.1のITO粉末は、・・・その半値幅は0.6°より小さい(具体的には0.47°)。」という記載はあるものの、表面改質される前のITO粉末の半値幅についての記載であって、甲1発明の「試料No.1のITO粉」の半値幅を指すものではない。
したがって、甲1発明において、「試料No.1のITO粉」の「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅」は不明というほかない。
よって、上記相違点1は実質的な相違点であって、本件発明1は甲1に記載された発明であるということはできない。
また、本件発明1は、分散液中の熱線遮蔽性微粒子としてのITOの半値幅を規定するものであるところ、甲1の[0027]には、甲1発明のITO粉として、結晶性が高いものを用いることは示されているとしても、分散液中のITO粉の半値幅をどのような値とするかについては、甲1には記載も示唆もない。
そして、甲1発明の分散液中のITO粉の半値幅の値によって、熱線遮蔽性等の特性がどのような変わるかについては、本件特許の出願時において当業者にとって明らかではない。
さらに、甲2~4には、分散液中のITO粉の半値幅の値について、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明の「試料No.1のITO粉」の同「半値幅」を、本件発明1の上記相違点1に係る発明特定事項で規定された「0.1°以上0.487°以下」とする動機付けを見出すことはできない。
これに対し、上記第5で述べたように、本件発明1は、「ITO」の同「半値幅」を「0.1°以上0.487°以下」とすることで、透明性を確保し、十分な遮熱性を発現するものが得られるものであり、甲1発明に比較して、格別顕著な作用効果を奏するものであるといえる。
よって、相違点2~4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1~4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
(2)特許法第36条第4項第1号について(同法第113条第4号)
本件発明1は、分散液中の熱線遮蔽性微粒子の半値幅を規定するものであるところ、発明の詳細な説明には、「分散液を乾燥して粉砕した熱線遮蔽性微粒子の半値幅」が記載されている。
しかしながら、「分散液中の熱線遮蔽性微粒子」と「分散液を乾燥して粉砕した熱線遮蔽性微粒子」とは、熱線遮蔽微粒子の結晶状態が異なるものではないことから、「分散液中の熱線遮蔽性微粒子の半値幅」と、「分散液を乾燥して粉砕した熱線遮蔽性微粒子の半値幅」とが、大きく異なる値となるとはいえない。
そうすると、「分散液中の熱線遮蔽性微粒子の半値幅」の測定には、「分散液を乾燥して粉砕した熱線遮蔽性微粒子の半値幅」を測定すれば事足り、第三者に過度な実験を強いるものとはいえない。
本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4及び8~10についても同様である。
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
(3)特許法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
ア 本件発明1は、熱線遮蔽性微粒子について、訂正によって、「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.1°以上0.487°以下であるスズ含有酸化インジウム(ITO)」、又は、「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅が0.405°以上0.511°以下であるガリウム含有酸化亜鉛(GZO)」に特定された。
そして、上記第5で述べたように、ITO微粒子について、その半値幅が0.1°~0.487°のものは、本件発明1の課題を解決するものが得られ、GZO微粒子について、その半値幅が0.405°~0.511°のものは、上記課題を解決するものが得られるといえる。
そうすると、請求項1の記載は、熱線遮蔽性微粒子の半値幅の範囲を、ITO微粒子とGZO微粒子とを包括して、拡張又は変更して記載したものではなく、申立人の上記1(3)アの主張は理由がない。
イ 上記第5で述べたように、熱線遮蔽性微粒子の一次粒子の径及び一次粒子のBET法により算出される比表面積の範囲は、本件発明1において規定される範囲のものであれば、本件発明の課題を解決するものであることが理解できる。
また、本件発明1における熱線遮蔽性微粒子について、一次粒子の径及び一次粒子のBET法により算出される比表面積が本件発明1において規定される範囲内のものであっても、本件発明の課題を解決しないものであるという根拠は見当たらない。
本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、8~10についても同様である。
したがって、申立人の上記1(3)イの主張は理由がない。
ウ 請求項2、5~7は、本件訂正により削除されたので、申立人の上記1(3)ウの主張は理由がない。
エ 本件発明10における「日射透過率」という用語は、本件訂正によって「日射熱取得率」と訂正され、発明の詳細な説明の記載と対応するものとなった。
そして、本件発明10における「可視光透過率が50%以上、日射熱取得率が80%以下、ヘイズが8%以下であること」を満たすものは、発明の詳細な説明に、実施例1~4(【0063】【表2】)として示されている。
ここで、本件発明10は、本件発明1を間接的に引用するものであるところ、「可視光透過率」、「日射熱取得率」及び「ヘイズ」は、光学特性を示す数値であり、光学特性として単に望ましい数値範囲を請求項に記載したにすぎないものであって、それらの数値範囲に特徴があるものではない。
したがって、本件発明10は、本件発明の課題を解決しないものであるとはいえず、申立人の上記1(3)エの主張は理由がない。
(4)特許法第36条第6項第2号について(同法第113条第4号)
本件発明1において「X線回折パターンによって得られる第一主ピークの半値幅」の値は、分散液中の「熱線遮蔽性微粒子」の同「半値幅」を規定したものであることは明らかであって、不明確な記載とはいえない。
したがって、申立人の上記主張は理由がない。
第7 まとめ
以上のとおり、本件発明1、3、4及び8~10に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項1、3、4及び8~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2及び5~7に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2及び5~7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700919