特許異議申立
2023-700714
感光性樹脂組成物、ドライフィルムレジスト及びそれらの硬化物
- 審判番号
- 2023-700714
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-558172
- 登録番号
- 7241695
- 請求日
- 2023年07月11日
- 審決日
- 2024年08月26日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本化薬株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 【異議申立人】竹口 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 清水 康司
- 審判官 西岡 貴央
- 分類
- P1651.121-YAA(G03F) / P1651.537-YAA(G03F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7241695号発明「感光性樹脂組成物、ドライフィルムレジスト及びそれらの硬化物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7241695号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第7241695号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7241695号(請求項の数6。以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2019-558172号。以下「本件特許出願」という。)は、2018年(平成30年)11月29日(優先権主張 平成29年12月6日)を国際出願日とする出願であって、令和5年3月9日にその特許権の設定登録がされ、同月17日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許掲載公報の発行の日から六月以内である令和5年7月11日に特許異議申立人(以下「申立人」という。)より本件特許の請求項1~6に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされ、令和6年1月30日付けで取消理由が通知され、同年3月28日に特許権者から訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求により請求された訂正を「本件訂正」という。)及び意見書が提出され、同年5月9日に申立人から意見書が提出された。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第7241695号の特許請求の範囲を、本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める、というものであって、本件訂正の内容は、次の訂正事項からなる(下線は訂正箇所を表す。)。
請求項1に
「 下記式(13)
【化11】
[図:0001416452000001.jpg]
(式(13)中、qは平均繰り返し数であって0乃至5の範囲にある実数を表す。)
で表されるエポキシ化合物(b-7)、」
とあるのを、
「下記式(13)
【化11】
[図:0001416452000002.jpg]
(式(13)中、qは平均繰り返し数であって1乃至5の範囲にある実数を表す。)
で表されるエポキシ化合物(b-7)、」
に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する形式で記載された請求項2~6も同様に訂正する。)
本件訂正請求は、一群の請求項〔1-6〕に対して請求されたものである。
2 訂正の適否の判断
(1)訂正の目的について
本件訂正は、請求項1~6に係る発明の(B)エポキシ化合物の選択肢の一つである式(13)で表されるエポキシ化合物(b-7)について、本件訂正前には、式(13)中のq(平均繰り返し数)が0乃至5であったものを、qが0であるものを除外して、qが1乃至5であるものに限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
よって、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものである。
(2)新規事項の追加の有無について
ア 本件訂正は、請求項1~6に係る発明の(B)エポキシ化合物の選択肢の一つである式(13)で表されるエポキシ化合物(b-7)について、本件訂正前には、式(13)中のq(平均繰り返し数)が0乃至5であったものを、qが0であるものを除外して、qが1乃至5であるものに限定する訂正であって、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、本件訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
イ 申立人は、令和6年5月9日に提出した意見書(7ページ9~16行)において、本件特許明細書には、qの平均繰り返し数につき「「1乃至5」の範囲にある実数」という数値範囲としての発明特定事項は記載されていないから、本件訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではないと主張する。
しかしながら、本件訂正は、qの平均繰り返し数について「0乃至5の範囲にある実数」という規定により、6種類のエポキシ化合物(b-7)が特定されていたのを、「1乃至5の範囲にある実数」と訂正することにより、前記6種類のエポキシ化合物(b-7)からq=0に対応するエポキシ化合物(b-7)を除外して、5種類のエポキシ化合物(b-7)のみに限定したにすぎないのであって、当該訂正によって、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項との関係において、新たな技術的事項が導入するものでないことは明らかである。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3)特許請求の範囲の拡張・変更の有無について
本件訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであって、本件訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることはないから、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、本件訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
3 小括
前記2のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許の請求項1~6に係る発明
前記第2 3で述べたとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれを「本件訂正発明1」~「本件訂正発明6」といい、本件訂正発明1~6を総称して「本件訂正発明」ということがある。)は、本件訂正後の請求項1~6に記載されたとおりの次のものと認められる。
【請求項1】
(A)光カチオン重合開始剤および(B)エポキシ化合物を含む感光性樹脂組成物であって、
該(A)光カチオン重合開始剤(A)が、下記式(1)
【化1】
[図:0001416452000003.jpg]
(式(1)中、R1乃至R4はそれぞれ独立に炭素数1乃至18のアルキル基又は炭素数6乃至14のアリール基を表す。但し、R1乃至R4の少なくとも一つは炭素数6乃至14のアリール基を表す。)
で表されるアニオンとカチオンからなる塩を含有し、かつ
該(B)エポキシ化合物が、
下記式(4)
【化4】
[図:0001416452000004.jpg]
(式(4)中、R8はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。nは平均繰り返し数であって0乃至30の範囲にある実数を表す。)
で表されるエポキシ化合物(b-3)、
下記式(5)乃至(7)
【化5】
[図:0001416452000005.jpg]
【化6】
[図:0001416452000006.jpg]
(式(6)中、R9はそれぞれ独立に水素原子又はグリシジル基を表す。)
【化7-1】
[図:0001416452000007.jpg]
【化7-2】
[図:0001416452000008.jpg]
(式(7)中、R10はそれぞれ独立に水素原子又はグリシジル基を表す。)
で表されるエポキシ化合物の群より選択される一種以上のエポキシ化合物(b-4)、
下記式(8)及び/又は式(9)
【化8】
[図:0001416452000009.jpg]
で示される化合物と、
下記式(10)及び/又は式(11)
【化9】
[図:0001416452000010.jpg]
で示される化合物との共縮合物であるエポキシ化合物(b-5)、
下記式(13)
【化11】
[図:0001416452000011.jpg]
(式(13)中、qは平均繰り返し数であって1乃至5の範囲にある実数を表す。)
で表されるエポキシ化合物(b-7)、
下記式(15)
【化13】
[図:0001416452000012.jpg]
(式(15)中、R13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。sは平均繰り返し数であって0乃至30の範囲にある実数を表す。)
で表されるエポキシ化合物(b-9)、及び
下記式(16)
【化14】
[図:0001416452000013.jpg]
(式(16)中、t、u及びvは平均繰り返し数であって2≦t+u+v≦60の関係を満たす実数をそれぞれ表す。)
で表されるエポキシ化合物(b-10)からなる群より選択される1種類又は2種類以上のエポキシ化合物を含有する、感光性樹脂組成物。
【請求項2】
R1乃至R4がそれぞれ独立にパーフルオロアルキル基を置換基として有するフェニル基又はフッ素原子を置換基として有するフェニル基である、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
R1乃至R4がそれぞれ独立にペンタフルオロフェニル基又はビス(トリフルオロメチル)フェニル基である、請求項2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)光カチオン重合開始剤が、式(1)で表されるアニオンとヨウ素原子又は硫黄原子を有するカチオンからなる塩を含有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物を基材で挟み込んで得られるドライフィルムレジスト。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物又は請求項5に記載のドライフィルムレジストの硬化物。
第4 取消理由通知に記載された取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、令和6年1月30日付けで特許権者に通知された取消理由は、概略次のとおりである。
取消理由(進歩性欠如):本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先権主張の基礎とされた先の出願(以下「基礎出願」という。)の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、基礎出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1~6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
取消理由(進歩性欠如)に関して、引用された引用例は、次のとおりである。
甲1:国際公開第02/08309号(主引用例)
甲3:特開2014-85626号公報(主引用例)
甲4:特開2017-48325号公報
2 各引用例に記載された事項
(1)甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の記載(特に、3欄25~34行、7欄14~26行、10欄6~12行、22欄7行~25欄15行、請求項1等を参照。)から、甲1には、請求項1の方法に用いる組成物の実施例である実施例1に係る発明(以下「甲1発明」という。)として、次のとおりの発明が記載されているものと認められる。
なお、甲1発明の構成中の丸括弧内は、甲1発明の認定根拠箇所を示すものである。
「カチオン重合性又はカチオン架橋性成分と、開始剤として式GaXaRb(式中、Xはハロゲン原子又はヒドロキシ基であり、Rはアリール基又は置換アリール基であり、a、bはそれぞれ0~4の整数を表す。ただし、aとbの和は4となる。)で表されるアニオンを有するオニウム塩とを含む組成物であって、(請求項1)
前記カチオン重合性又はカチオン架橋性成分として、約340g/モルの分子量及び約170gのエポキシ当量を有し、下記[式A]で表されるビスフェノールAエポキシ樹脂(Dow Chemical社製のDER-332)を用い、(22欄24~26行、7欄14~26行)
前記オニウム塩として、下記[式B]で表されるヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガレートを用い、(22欄15~18行)
前記ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガレートの含有量が、1.0重量%である、(23欄6行の「Table 1」)
組成物。
[式A]
[図:0001416452000014.jpg]
[式B]
[図:0001416452000015.jpg]
」
(2)甲3に記載された発明(甲3発明)
甲3の記載(特に、請求項1、【0029】~【0032】、【0040】、【0061】~【0066】等を参照。)から、甲3には、請求項1に係る発明の実施例である実施例1に係る発明(以下「甲3発明」という。)として、次の発明が記載されているものと認められる。
「(A)エポキシ樹脂、(B)多価フェノール化合物、(C)光カチオン重合開始剤及び(D)エポキシ基含有シラン化合物を含有し、該(A)エポキシ樹脂が下記[式(1)]で表されるフェノール誘導体と、エピハロヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂(a)、及び下記[式(2)]で表されるエポキシ樹脂(b)を必須成分として含有し、かつ該(B)多価フェノール化合物が下記[式(3)]乃至下記[式(6)]で表されるフェノール化合物からなる群より選ばれる一種以上を必須成分として含有する感光性樹脂組成物において、(請求項1)
前記エポキシ樹脂(a)として、(A-1):NC-6300H(商品名、日本化薬社製、エポキシ樹脂(a)、エポキシ当量225g/eq.)を用い、(【0065】の表1、【0066】)
前記エポキシ樹脂(b)として、(A-2):NER-7604(商品名、日本化薬社製、エポキシ樹脂(b)、エポキシ当量330g/eq.)を用い、(【0065】の表1、【0066】)
前記(B)多価フェノール化合物として、(B-1):PN-152(商品名、明和化成社製、式(3)で表される多価フェノール化合物、軟化点50℃、水酸基当量105g/eq.)を用い、(【0065】の表1、【0066】)
前記(C)光カチオン重合開始剤として、(C-1):4-{4-(2-クロロベンゾイル)フェニルチオ}フェニルビス(4-フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(ADEKA社製、商品名 SP-172、50wt%炭酸プロピレン溶液)を用い、(【0065】の表1、【0066】)
前記(D)エポキシ基含有シラン化合物として、(D-1):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いた、
感光性樹脂組成物。(【0065】の表1、【0066】)
[式(1)]
[図:0001416452000016.jpg]
[式(2)]
[図:0001416452000017.jpg]
(式中、mは平均値であり、2~30の範囲にある実数を表す。R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基またはトリフルオロメチル基を表す。Xはそれぞれ独立に水素原子またはグリシジル基を表し、複数存在するXの少なくとも1つはグリシジル基である。)
[式(3)]
[図:0001416452000018.jpg]
(式中、nは平均値であり、1~10の範囲にある実数を表す。Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表す。)
[式(4)]
[図:0001416452000019.jpg]
(式中、nは平均値であり、1~10の範囲にある実数を表す。)
[式(5)]
[図:0001416452000020.jpg]
(式中、nは平均値であり、1~10の範囲にある実数を表す。)
[式(6)]
[図:0001416452000021.jpg]
(式中、nは平均値であり、1~10の範囲にある実数を表す。R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表す。)」
(3)甲4
甲4の記載(特に、【0002】、【0003】、【0006】、【0009】~【0013】及び【0030】等)によれば、甲4には、次の技術的知見(以下「甲4技術的知見」という。)が開示されていると認められる。
「従来、熱あるいは光、電子線などの活性エネルギー線照射によってエポキシ化合物などのカチオン重合性化合物を硬化させるカチオン重合開始剤として知られているオニウム塩は、アニオンとして、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-を含有するが、カチオン重合性化合物の硬化性能や酸触媒による架橋反応性能はアニオンの種類で異なり、BF4-<PF6-<AsF6-<SbF6-の順に良いが、重合や架橋性能の良いAsF6-、SbF6-を含有するカチオン重合開始剤(酸発生剤)は、As、Sbの毒性の問題から使用用途が限定されるため、一般的には重合や架橋性能の劣るPF6-塩が利用されるが、PF6-塩は、例えば、SbF6-塩と同程度の硬化速度を得るには、後者の10倍近い量を添加する必要があり、未反応の開始剤(酸発生剤)、開始剤(酸発生剤)を溶解するために必要に応じて使用される溶剤量または開始剤の分解物の残存量が多くなるため、硬化物の物性が損なわれること、また開始剤の分解によって副生するHF量が多くなることから、基材や設備等が腐食されやすいことなどの問題があり、
毒性金属を含まず、SbF6-塩に匹敵するカチオン重合性能や架橋反応性能を有するカチオン重合開始剤(酸発生剤)として知られているテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをアニオンとするオニウム塩については、これを使用した硬化物は特に耐熱試験後に残存する強酸のHB(C6F5)4により、樹脂等の腐食、着色を引き起こすため透明性が低下する問題があるが、
下記[一般式(1)]で表されるオニウムガレート塩を含む酸発生剤とカチオン重合性化合物とを含有してなる、熱あるいはエネルギー線硬化性組成物は、Sb等の毒性の高い元素を含まず、SbF6-塩を用いた場合に匹敵するカチオン重合性能や架橋反応性能を有しており、熱や紫外線等の活性エネルギー線照射により硬化させた硬化物の光学特性(透明性)が良好であること。
[一般式(1)]
[図:0001416452000022.jpg]
[式(1)中、R1~R4は、互いに独立して、炭素数1~18のアルキル基またはArであるが、但し、少なくとも1つが、Arであり、
Arは、炭素数6~14(以下の置換基の炭素数は含まない)のアリール基であって、アリール基中の水素原子の一部が、炭素数1~18のアルキル基、ハロゲン原子が置換した炭素数1~8のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基、炭素数2~18のアルキニル基、炭素数6~14のアリール基、ニトロ基、水酸基、シアノ基、-OR6で表されるアルコキシ基若しくはアリールオキシ基、R7CO-で表されるアシル基、R8COO-で表されるアシロキシ基、-SR9で表されるアルキルチオ基若しくはアリールチオ基、-NR10R11で表されるアミノ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよく、
R6~R9は炭素数1~8のアルキル基又は炭素数6~14のアリール基、
R10及びR11は水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数6~14のアリール基であり;
Eは15族~17族(IUPAC表記)の原子価nの元素を表し、その中でもスルホニウム、ヨードニウムがさらに好ましく、
nは1~3の整数であり、
R5はEに結合している有機基であり、R5の個数はn+1であり、(n+1)個のR5はそれぞれ互いに同一であっても異なっても良く、2個以上のR5が互いに直接または-O-、-S-、-SO-、-SO2-、-NH-、-CO-、-COO-、-CONH-、アルキレン基もしくはフェニレン基を介して元素Eを含む環構造を形成しても良い。]」
第5 合議体の判断
1 甲1を主引用例とする取消理由について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「[式A]で表されるビスフェノールAエポキシ樹脂(DowChemical社製のDER-332)」と本件訂正発明1の「(B)エポキシ化合物」は、エポキシ化合物である点で一致する。
また、本件特許明細書の【0014】の「式(1)のR1乃至R4が表す炭素数6乃至14のアリール基は置換基を有していてもよい。ここで言う『置換基を有するアリール基』とは、アリール基がその構造中に有する水素原子が置換基で置換されたアリール基を意味する。置換基の位置及び置換基の数は特に限定されない。尚、置換基が炭素原子を有する場合、R1乃至R4が表すアリール基の炭素数には置換基が有する炭素原子の数は含まれない。」という記載からみて、甲1発明の「[式B]で表されるヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガレート」のアニオン部の中心元素であるGaに結合しているペンタフルオロフェニル基は、炭素数6のアリール基と認められるから、甲1発明の「[式B]で表されるヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガレート」は、本件訂正発明1の「式(1)(式(1)中、R1乃至R4はそれぞれ独立に炭素数1乃至18のアルキル基又は炭素数6乃至14のアリール基を表す。但し、R1乃至R4の少なくとも一つは炭素数6乃至14のアリール基を表す。)で表されるアニオンとカチオンからなる塩」において、R1乃至R4として、炭素数6のアリール基を選択したものに該当する。
したがって、本件訂正発明1と甲1発明は、
「(A)光カチオン重合開始剤および(B)エポキシ化合物を含む感光性樹脂組成物であって、
該(A)光カチオン重合開始剤(A)が、下記式(1)
(以下構造式及びその説明については省略する。)
で表されるアニオンとカチオンからなる塩を含有する、感光性樹脂組成物。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1-1:
本件訂正発明1では、「(B)エポキシ化合物」が、
下記式(4)
で表されるエポキシ化合物(b-3)、
下記式(5)乃至(7)
で表されるエポキシ化合物の群より選択される一種以上のエポキシ化合物(b-4)、
下記式(8)及び/又は式(9)
で示される化合物と、
下記式(10)及び/又は式(11)
で示される化合物との共縮合物であるエポキシ化合物(b-5)、
下記式(13)
で表されるエポキシ化合物(b-7)、
下記式(15)
で表されるエポキシ化合物(b-9)、及び
下記式(16)
で表されるエポキシ化合物(b-10)からなる群より選択される1種類又は2種類以上のエポキシ化合物を含有するのに対して、
甲1発明の「[式A]で表されるビスフェノールAエポキシ樹脂(Dow Chemical社製のDER-332)」は、エポキシ化合物(b-3)、(b-4)、(b-5)、(b-7)、(b-9)、及び(b-10)のいずれにも該当しておらず、甲1発明は、本件訂正発明1における上記エポキシ化合物を含有していない点。
イ 相違点1-1について
甲1には、甲1発明の「カチオン重合性又はカチオン架橋性成分」として用いることができるエポキシ樹脂として、本件訂正発明1のエポキシ化合物(b-3)、(b-4)、(b-5)、(b-7)、(b-9)、及び(b-10)を用いることは、記載も示唆もされていない。
また、申立人が提出した他の証拠を検討しても、甲1発明において、「[式A]で表されるビスフェノールAエポキシ樹脂(Dow Chemical社製のDER-332)」に代えて、本件訂正発明1のエポキシ化合物(b-3)、(b-4)、(b-5)、(b-7)、(b-9)、及び(b-10)を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
よって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和6年5月9日に提出した意見書(8ページ5行~9ページ4行)において、式(13)でq=0の化合物とq=1の化合物は同じ一般式(13)に含まれる化合物であり、同様の効果が発揮されることが予想でき、また、甲2(特開2010-32991号公報)には式(13)の化学式が記載され、q=0の化合物とq=1の化合物を類似した化合物として扱うことは本件特許の出願前に公知であるから、甲1にあるq=0の化合物の記載から、q=1乃至5の化合物に置換することに困難性はないなどと主張する。
しかしながら、甲1において、特に好ましいカチオン重合性又は架橋性成分として、甲1発明で用いられている「[式A]で表されるビスフェノールAエポキシ樹脂(Dow Chemical社製のDER-332)」とともに例示されたエポキシ樹脂のうち、10欄6~9行で例示されているのは、あくまでも、
[図:0001416452000023.jpg]
なる構造のエポキシ樹脂(Tactix742(Ciba Specialty Chemicals Corporation の商標)として入手可能)なのであって、式(13)の化学式が開示されているわけではない。
また、たとえ甲1に、式(13)の化学式が記載されているとしても、甲1の記載からみて、甲1発明において、「[式A]で表されるビスフェノールAエポキシ樹脂(Dow Chemical社製のDER-332)」に代えて、式(13)の化学式において、q=1~5の化合物を採用することに、動機付けが存在するとは認められない。
よって、申立人の主張は、採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、甲1に記載された他の実施例を主引用発明として認定しても、結論は変わらない。
(2)本件訂正発明2~6について
本件訂正発明2~6は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し、これに限定を加えたものに該当するから、本件訂正発明1が、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明2~6も、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、甲3に記載された他の実施例を主引用発明として認定しても、結論は変わらない。
(3)甲1を主引用例とする取消理由についてのまとめ
前記(1)及び(2)のとおりであるから、甲1を主引用例とする取消理由によって、本件訂正後の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
2 甲3を主引用例とする取消理由について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明において(C)光カチオン重合開始剤として用いている「(C-1):4-{4-(2-クロロベンゾイル)フェニルチオ}フェニルビス(4-フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(ADEKA社製、商品名 SP-172、50wt%炭酸プロピレン溶液)」は、アニオンとカチオンからなる塩であるから((C-1)のアニオンはヘキサフルオロアンチモネートである。)、本件訂正発明1の「式(1)で表されるアニオンとカチオンからなる塩」と、アニオンとカチオンからなる塩である点、及び光カチオン重合開始剤である点で一致する。
また、甲3発明において、エポキシ樹脂(a)として用いている「(A-1):NC-6300H(商品名、日本化薬社製、エポキシ樹脂(a)、エポキシ当量225g/eq.)」は、本件特許明細書に記載された実施例8において「(B)エポキシ化合物」として用いている化合物であって、【0061】の「(B-4):商品名 NC-6300H(式(5)乃至(7)で表される化合物の混合物であるエポキシ化合物(b-4)、R9およびR10は水素またはグリシジル、エポキシ当量225g/eq.、日本化薬社製)」という記載からみて、本件訂正発明1の「式(5)乃至(7)」「で表されるエポキシ化合物の群より選択される一種以上のエポキシ化合物(b-4)」に該当すると認められる。(なお、甲3の【0027】ないし【0032】には、「[式(1)]で表されるフェノール誘導体と、エピハロヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂(a)」の具体例として、本件訂正発明1の式(5)ないし(7)にそれぞれ該当する式(7)ないし(9)で表されるエポキシ樹脂が記載されている。)
したがって、本件訂正発明1と甲3発明は、
「(A)光カチオン重合開始剤および(B)エポキシ化合物を含む感光性樹脂組成物であって、
該(A)光カチオン重合開始剤(A)が、アニオンとカチオンからなる塩を含有し、かつ
該(B)エポキシ化合物が、
下記式(4)
で表されるエポキシ化合物(b-3)、
下記式(5)乃至(7)
で表されるエポキシ化合物の群より選択される一種以上のエポキシ化合物(b-4)、
下記式(8)及び/又は式(9)
で示される化合物と、
下記式(10)及び/又は式(11)
で示される化合物との共縮合物であるエポキシ化合物(b-5)、
下記式(13)
で表されるエポキシ化合物(b-7)、
下記式(15)
で表されるエポキシ化合物(b-9)、及び
下記式(16)
で表されるエポキシ化合物(b-10)からなる群より選択される1種類又は2種類以上のエポキシ化合物を含有する、感光性樹脂組成物。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点2-1:
(A)光カチオン重合開始剤が含有する「アニオンとカチオンからなる塩」中の「アニオン」が、
本件訂正発明1では、「下記式(1)
で表される」アニオンであるのに対して、
甲3発明では、ヘキサフルオロアンチモネートであって、式(1)で表されるアニオンではない点。
イ 相違点2-1について
(ア)相違点2-1に係る構成の容易想到性について
甲3発明の「感光性樹脂組成物」において、「(C)光カチオン重合開始剤」として用いられている「(C-1):4-{4-(2-クロロベンゾイル)フェニルチオ}フェニルビス(4-フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(ADEKA社製、商品名 SP-172、50wt%炭酸プロピレン溶液)」は、アニオン部が「ヘキサフルオロアンチモネート」であるオニウム塩であるところ、「ヘキサフルオロアンチモネート」は、甲4技術的知見によれば、毒性の問題から使用用途が限定されるものである。
そうすると、甲4技術的知見を有する当業者は、上記「(C-1)」を用いた甲3発明の「感光性樹脂組成物」が、上記毒性の問題を有していることを十分認識しているといえるから、当該問題を解消するために、甲3発明において、(C)光カチオン重合開始剤として、「(C-1)」に代えて[一般式(1)]で表されるオニウムガレート塩」を採用する一応の動機づけがあるといえる。そして、甲4技術的知見における「[一般式(1)]で表されるオニウムガレート塩」は、本件訂正発明1の「式(1)」「で表されるアニオンとカチオンからなる塩」に該当するから、甲3発明において、上記「(C-1)」に代えて、甲4技術的知見における「[一般式(1)]で表されるオニウムガレート塩」を、「(C)光カチオン重合開始剤」として採用することは、相違点2-1に係る本件訂正発明1の構成を採用することにほかならない。
以上のとおりであるから、甲3発明において、甲4技術的知見を有する当業者が相違点2-1に係る本件訂正発明1の構成を採用する一応の動機づけがある。
(イ)効果の予測性及び非顕著性について
次に、本件訂正発明1の効果の予測性及び非顕著性について検討する。
本件特許明細書の【0008】の記載や、【0054】~【0064】に記載された各実施例及び各比較例の評価結果からみて、本件訂正発明1の効果は、以下のものと認められる。
a 解像度に優れること
b 硬化物の湿熱溶出汚染が低いこと
c 湿熱試験後の基板との接着性に優れること
ここで、甲4技術的知見によれば、[一般式(1)]で表されるオニウムガレート塩を含む酸発生剤とカチオン重合性化合物とを含有する熱あるいはエネルギー線硬化性組成物は、SbF6-塩を用いた場合に匹敵するカチオン重合性能や架橋反応性能を有していることが把握され、また、PF6-塩を用いる場合のように、十分な硬化速度を得るために、大量の酸発生剤(開始剤)を添加する必要がないことが把握されるところ、SbF6-塩を用いた場合に匹敵するカチオン重合性能や架橋反応性能を有していることからは、得られる硬化物の解像度についてもSbF6-塩を用いた場合に匹敵するような優れたものとなるであろうと当業者が予測することができる。
また、大量の酸発生剤(開始剤)を添加する必要がないことからは、SbF6-塩を用いた場合と比べて、開始剤の分解によって発生するHF量が多くなることはなく、湿熱環境下における酸性溶出物による汚染を低いものとすることができるであろうと当業者が予測することができる。
したがって、上記効果のうち、a及びbについては、基礎出願の出願当時本件訂正発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものとはいえず、また、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものともいえない。
一方、上記cの効果については、本件特許明細書における【0062】~【0064】に記載された湿熱試験後接着力評価結果からみて、本件訂正発明1が奏する効果として認めることができるものであって、当該効果は、基礎出願の出願当時本件訂正発明1の構成が奏するものとして当業者といえども予測することができない顕著なものである。
(ウ)小括
上記(ア)及び(イ)を総合すると、結局、本件訂正発明1の進歩性を否定することはできない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和6年5月9日に提出した意見書(13ページ下から3行~14ページ5行)において、本件特許発明で解決しようとする課題とは異なる課題を解決することを目的として、当該異なる課題を解決するための構成を採用した結果、本件特許発明の構成に想到することに困難性がなければ、本件訂正発明の構成に当業者が想到することは容易であるというべきであるなどと主張する。
しかしながら、進歩性の判断において、発明の構成に容易に想到し得たこと(構成の容易想到性)が一応認められたとしても、発明が当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏する場合には、当該構成の容易想到性により直ちに発明の進歩性が否定されるわけではない。
これを、本件訂正発明についてみると、本件訂正発明の効果のうち、とりわけ上記イのcの効果は、既に検討したとおり、本件訂正発明の構成が奏するものとして当業者が予測できない顕著なものであるから、申立人の上記主張をそのまま採用することはできない。
(2)本件訂正発明2~6について
本件訂正発明2~6は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し、これに限定を加えたものに該当するから、本件訂正発明1が、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明2~6も、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲3を主引用例とする取消理由についてのまとめ
前記(1)及び(2)のとおりであるから、甲3を主引用例とする取消理由によって、本件訂正後の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明は、甲2又は甲4を主引例として、当業者が容易に発明をすることができたものである(以下「申立理由1」という。)、本件特許発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく、またその記載や示唆がなくとも当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでない(以下「申立理由2」という。)、と主張している。
申立理由1については、本件訂正発明の構成が、甲2又は甲4に記載された発明を主引用発明として、当業者が容易に想到し得たのか否かはおくとして、前記第5 2(1)ウでも述べたように、湿熱試験後の基板との接着性に優れるという本件訂正発明の効果は、基礎出願の出願当時本件訂正発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができない顕著なものであるから、本件訂正発明の進歩性を否定することはできない。
また、申立理由2については、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0003】、【0004】等の記載からみて、本件訂正発明が解決しようとする主たる課題は、湿熱溶出汚染の低減であると理解される。そして、当該発明の課題は、本件訂正発明が、「(A)光カチオン重合開始剤(A)が、下記式(1)
[図:0001416452000024.jpg]
・・・(中略)・・・
で表されるアニオンとカチオンからなる塩を含有」するという発明特定事項を具備することによって、解決できると当業者は認識できる。
以上のとおりであるから、申立理由1及び申立理由2によって、本件訂正後の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700714