特許異議申立
2019-700903
研磨用組成物、研磨用組成物製造方法および研磨用組成物調製用キット
- 審判番号
- 2019-700903
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-038586
- 登録番号
- 6513591
- 請求日
- 2019年11月14日
- 審決日
- 2021年12月02日
- 公報発行日
- 2022年03月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社フジミインコーポレーテッド
- 【権利者代理人】安部 誠
- 【権利者代理人】大井 道子
- 【権利者代理人】谷 征史
- 【異議申立人】岡 ヤエ子
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 木村 敏康
- 審判官 蔵野 雅昭
- 分類
- P1651.113-YAA(C09K) / P1651.121-YAA(C09K) / P1651.16 -YAA(C09K) / P1651.536-YAA(C09K) / P1651.537-YAA(C09K) / P1651.55 -YAA(C09K) / P1651.851-YAA(C09K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条の2、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6513591号発明「研磨用組成物、研磨用組成物製造方法および研磨用組成物調製用キット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6513591号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6513591号の請求項1~3及び6に係る特許を維持する。
特許第6513591号の請求項4~5に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6513591号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、
2014年3月14日〔優先権主張 平成25年3月19日(JP)日本国4件〕を国際出願日とする特願2015-506749号の一部を、平成28年3月1日に特願2016-38586号として新たに特許出願とされたものであって、平成31年4月19日に特許権の設定登録がされ、令和元年5月15日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~6に係る発明の特許に対し、令和元年11月14日に岡ヤエ子(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。
令和2年 1月28日付け 取消理由通知
同年 3月23日 面接
同年 3月30日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 4月 2日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 5月 2日 意見書(特許異議申立人)
同年 7月15日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 9月24日差出 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年10月 6日 上申書(特許権者)
同年10月14日付け 却下理由通知
同年10月20日 弁明書(特許権者)
同年11月 4日付け 手続却下の決定
同年11月18日 上申書(特許権者)
同年12月 1日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年12月15日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年12月23日 上申書(特許異議申立人)
令和3年 1月 6日付け 手続補正指令
同年 2月 9日 手続補正書(特許権者)
同年 2月17日付け 訂正拒絶理由
同年 3月 9日差出 上申書(特許権者)
同年 3月10日付け 通知書
同年 3月26日 意見書(特許権者)
同年 3月31日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 4月28日 意見書(特許異議申立人)
同年 6月 9日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 8月 3日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 8月16日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 9月 8日 上申書(特許異議申立人)
同年 9月 8日付け 通知書
同年10月12日 意見書(特許異議申立人)
なお、令和2年3月30日付け、及び同年12月15日付けの訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、令和2年9月24日に差し出された訂正請求書は、特許法第120条の5第2項に規定する指定された期間の経過後に提出されたため、同法第120条の8第1項において準用する同法第133条の2第1項の規定により却下した。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和3年8月3日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6513591号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~10からなるものである(訂正箇所に下線を付す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物」と記載されているのを、「シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる研磨用組成物」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む」と記載されているのを、「水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bを含む」と記載されているのを、「水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「水酸基量が4mmol/g以上21mmol/g以下である」と記載されているのを、「水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「重量平均分子量が1×104以上である」と記載されているのを、「重量平均分子量が1×104以上5×104以下である」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に「全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は10%以上である」と記載されているのを、「全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項1に「水溶性ポリマーと、水と、を含有する、研磨用組成物」と記載されているのを、「水溶性ポリマーと、砥粒と、塩基性化合物としてのアンモニアと、水と、を含有し、前記砥粒はシリカ粒子のみからなる、研磨用組成物」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨用組成物」と記載されているのを、「請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨用組成物」に訂正する。
2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の「シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物」について、本件特許明細書の段落0107の「なかでも、シリコンからなる表面を備えた研磨対象物の研磨に好適である。」等の記載に基づき、その研磨対象物を限定して「シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる研磨用組成物」としたものである。
したがって、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の「水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む」について、本件特許明細書の段落0320の実施例A1~A3の具体例が「水酸基を有する繰返し単位」として「ビニルアルコール単位」のみを含んでいること等に基づき、水酸基を有する繰返し単位として「ビニルアルコール単位のみを含む」ものに限定したものである。
したがって、訂正事項2は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の「水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bを含む」について、本件特許明細書の段落0320の実施例A1~A3の具体例が「繰返し単位B」として「酢酸ビニル単位」のみを含んでいること等に基づき、繰返し単位Bとして「酢酸ビニル単位のみを含む」ものに限定したものである。
したがって、訂正事項3は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の「水酸基量が4mmol/g以上21mmol/g以下である」について、本件特許明細書の段落0320の実施例A1~A2の具体例が、ビニルアルコール単位73モル%と酢酸ビニル単位27モル%で含むことから、その水酸基量は13.2mmol/g〔=(0.73*1000)/(44*0.73+86*0.27)〕と計算され、同実施例A3の具体例が、ビニルアルコール単位78モル%と酢酸ビニル単位22モル%で含むことから、その水酸基量は14.7mmol/g〔=(0.78*1000)/(44*0.78+86*0.22)〕と計算されることに基づき、その下限値と上限値を限定して「水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である」としたものである。
したがって、訂正事項4は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の「重量平均分子量が1×104以上である」について、本件特許明細書の段落0069の「例えば5×104以下)の水溶性ポリマーを好ましく使用し得る。」等の記載に基づき、その上限値の設定により限定して「重量平均分子量が1×104以上5×104以下である」としたものである。
したがって、訂正事項5は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の「全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は10%以上である」について、本件特許明細書の段落0320の実施例A1~A3の具体例が「繰返し単位B」としての「酢酸ビニル単位」を、「22」のモル比(%)、及び「27」のモル比(%)で含んでいることに基づき、繰返し単位Bのモル数を「22%以上27%以下である」に限定したものである。
したがって、訂正事項6は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の「水溶性ポリマーと、水と、を含有する、研磨用組成物」について、本件特許明細書の段落0076の「砥粒としてシリカ粒子のみを含有する研磨用組成物が例示される。」等の記載、及び同段落0088の「特に好ましい塩基性化合物としてアンモニアが挙げられる。」等の記載に基づき、その研磨用組成物の組成を限定して「水溶性ポリマーと、砥粒と、塩基性化合物としてのアンモニアと、水と、を含有し、前記砥粒はシリカ粒子のみからなる、研磨用組成物」としたものである。
したがって、訂正事項7は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(8)訂正事項8~10について
訂正事項8は、訂正前の請求項4を削除するものであり、訂正事項9は、訂正前の請求項5を削除するものであり、訂正事項10は、訂正事項8及び9に伴い、訂正前の請求項6が引用する請求項1~5のうち、削除された請求項4~5を削除して、引用する請求項を請求項1~3に限定するものである。
したがって、訂正事項8~10は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(9)一群の請求項について
訂正事項1~10に係る訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、上記訂正事項1~7によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~3及び6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1~10による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6号までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正を認める。
第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正による訂正後の請求項1~6に係る発明(以下「本1発明」~「本6発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
以下の条件:
水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;
水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;
水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;
重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;
全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;および
ノニオン性である;
を満たす水溶性ポリマーと、砥粒と、塩基性化合物としてのアンモニアと、水と、を含有し、前記砥粒はシリカ粒子のみからなる、研磨用組成物。
【請求項2】
pHが9.0以上12.0以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性ポリマーが部分けん化ポリビニルアルコールである、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨用組成物を含む研磨液を用意すること;
前記研磨液を、研磨対象物としてのシリコンウエハに供給すること;および、
前記研磨対象物の、シリコンからなる表面を、前記研磨液で研磨すること;
を包含する、シリコンウエハの研磨方法。」
第4 取消理由通知の概要
令和3年6月9日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知された訂正前の請求項1~6に係る発明に対する取消理由の概要は、次の〔理由A〕のとおりである。なお、同旨の取消理由を、令和2年7月15日付けの取消理由通知(決定の予告)及び同年12月1日付けの取消理由通知(決定の予告)でも通知している。
〔理由A〕本件特許は、その特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。よって、本件特許の請求項1~6に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
本件特許の請求項1に係る発明に含まれている態様のうち、
『シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
以下の条件:
水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;
水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;
水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;
重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;
全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;および
ノニオン性である;
を満たす水溶性ポリマーと、砥粒と、塩基性化合物としてのアンモニアと、水と、を含有し、前記砥粒はシリカ粒子のみからなる、研磨用組成物。』という発明(以下「示唆発明」という。)以外の発明が、明細書のサポート要件を満たす範囲にあると認めることができない。
第5 当審の判断
1.理由A(サポート要件)について
(1)訂正後の請求項1のサポート要件について
上記「第3」に示したように、本件訂正による訂正後の請求項1は、上記「第4」に示した「示唆発明」と合致する内容に訂正されたので、上記〔理由A〕で指摘した取消理由は解消している。
また、改めて検討しても、本件訂正による訂正後の請求項1の記載が、サポート要件違反であるとすべき理由を発見しない。
したがって、本件特許の請求項1及びその従属項に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは明らかなので、本件特許の請求項1及びその従属項の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合する。
(2)特許異議申立人の主張について
令和3年10月12日付けの意見書において、特許異議申立人は、サポート要件の取消理由に関して、訂正発明では、水溶性ポリマーについて、依然としてオープン形式ですので、ビニルアルコール単位及び酢酸ビニル単位に加えて、「水酸基を含まずSP値が14.5以上の繰返し単位」たる第3の繰返し単位が含まれうることになり、そのモノマー単位の種類(SP値)やその割合によっては、「平均SP値17.5以下」を充足しないケースすら含まれうる。本件発明においてSP値という概念・技術的思想は完全に破綻しており、実施例A1(=A2)及びA3の結果を見ても、これらの実施例において課題を解決できたとする理由は全く不明であり、たった2つの結果では、上限値と下限値の間の値において、課題の解決を認める事情がないという旨の主張をしている。
しかしながら、本1発明の「水溶性ポリマー」は、以下のA~Fの条件(以下「条件A」~「条件F」ともいう。)の全てを満たすことが必須とされるものである。
条件A:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む
条件B:水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む
条件C:水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である
条件D:重量平均分子量が1×104以上5×104以下である
条件E:全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である
条件F:ノニオン性である
そして、ビニルアルコール単位73モル%と酢酸ビニル単位27モル%からなる水溶性ポリマーの水酸基量は13.2mmol/g〔=(0.73*1000)/(44*0.73+86*0.27)〕と計算されるところ、条件Bの繰り返し単位B(酢酸ビニル単位のみ)を、条件Eの上限値の27%のモル数で含む場合、条件Aのビニルアルコール単位の含有割合は0~73モル%のモル数であり、仮に73%のモル数で含ませると、その水酸基量は条件Cの下限値の13.2mmol/gになるので、酢酸ビニル単位27%とビニルアルコール単位73%以外の繰り返し単位が更に含まれる余地はないものとなる。また、上記によれば、条件Cを満足するためにビニルアルコール単位が73%のモル数以上でないと、水酸基量が条件Cの下限値の13.2mmol/g未満になることを踏まえれば、酢酸ビニル単位の含有量を条件Eの下限値の22%まで減らしたとしても、特許異議申立人が主張する上記「水酸基を含まずSP値が14.5以上の繰返し単位たる第3の繰返し単位」が含有される割合は、せいぜい5%のモル数であるから、本1発明の課題の解決を害するほどの含有量ではないと認められる。
さらに、特許異議申立人の「平均SP値17.5以下」を充足しないケースすら含まれうるとの主張について、甲第6号証のSP値(溶解度パラメータ)に関する記載を俯瞰しても、その個々のSP値の値が17.5を超えるモノマーの存在自体が見当たらないので、特許異議申立人が主張する「平均SP値17.5以下」を充足しないケースが実際に存在し得ると直ちに認めることはできないし、そもそも「平均SP値」それ自体は、本件特許の特許請求の範囲の記載に発明特定事項として記載されていないので、当該「平均SP値」の大小が本1発明の課題解決の可否を左右するとは認められない。
また、実施例A1(=A2)及びA3の「試験結果」により、その上限値と下限値で課題を解決できることが具体的に裏付けられているのだから、その間の値においても課題を解決できると認識できる。
以上のことから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
2.令和3年6月9日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(新規事項)について
ア 申立理由1の概要
特許異議申立人が主張する申立理由1(新規事項)は、本件特許においてなされた手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本1~本6発明の特許は、同法第113条第1号の規定により取り消されるべきものであるというものであり、その具体的な理由として、本件発明が、次の(A)~(D)の事項を発明特定事項として含むところ、当該発明が願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載されていないというものである。
(A)「水酸基量が4mmol/g以上21mmol/g以下」
(B)「全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は10%以上」
(C)「平均SP値17.5以下」の規定がなされていないこと
(D)「水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む」
〔なお、申立理由1は、令和2年1月28日付け取消理由通知、同年7月15日付け取消理由通知(決定の予告)、及び同年12月1日付け取消理由通知(決定の予告)で採用している。〕
イ 「水酸基量が4mmol/g以上21mmol/g以下」について
上記(A)の事項に係る構成要件に関し、特許異議申立人は、当該構成要件は、平成29年3月13日付けの手続補正(以下「第1補正」ともいう。)で導入され、この点について、特許権者は、本件特許の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下「当初明細書等」ともいう。)の段落0102を根拠としているが、当該0102の記載は「任意ポリマー」に関するものであるから、新規事項が追加されたことは明らかであると主張する。
しかしながら、本件訂正の訂正事項4により、上記(A)の事項に係る構成要件は「水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である」に改められた。
そして、当初明細書等の段落0320には、実施例A1~A3の具体例が記載されており、その実施例A1~A2の具体例が、ビニルアルコール単位73モル%と酢酸ビニル単位27モル%で含むことから、その水酸基量は13.2mmol/g〔=(0.73*1000)/(44*0.73+86*0.27)〕と計算され、同実施例A3の具体例が、ビニルアルコール単位78モル%と酢酸ビニル単位22モル%で含むことから、その水酸基量は14.7mmol/g〔=(0.78*1000)/(44*0.78+86*0.22)〕と計算される。
してみると、訂正前の上記(A)の事項に係る「水酸基量」の下限値と上限値が、上記のとおり「任意ポリマー」に関する記載を根拠としていた旨の説明の当否とは関係なく、訂正後の「水酸基量」の下限値と上限値は、当初明細書等の実施例A1~A3の具体例の記載を根拠としているので、訂正後の本1発明の記載に新規事項が導入されているとはいえない。
したがって、上記(A)の事項に関して、理由があるとはいえない。
ウ 「全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は10%以上」について
上記(B)の事項に係る構成要件は、平成30年9月13日付けの手続補正(以下「第2補正」ともいう。)で導入され、特許異議申立人は、この点について、特許権者は当初明細書等の段落0065及び0066を根拠としているが、当該記載は酢酸ビニル及びヘキサンビニル単位についての記載であり、繰返し単位Bとして「10%」以上であることは一切記載されていないから、新規事項が追加されたことは明らかであると主張する。
しかしながら、本件訂正の訂正事項3により、繰返し単位Bは「酢酸ビニル単位のみを含む」ものに限定された。
そして、当初明細書等の実施例A1~A3の具体例が「繰返し単位B」としての「酢酸ビニル単位」を、下限値で「22」のモル比で、上限値で「27」のモル比で含んでいることに基づき、同訂正事項6により、上記(B)の構成要件は「全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である」に改められた。
してみると、訂正前の上記(B)の事項に係る「繰返し単位Bのモル数」が「酢酸ビニル及びヘキサンビニル単位」以外の場合のものをも含んでいた旨の説明の当否とは関係なく、訂正後の「繰返し単位Bのモル数」の下限値と上限値は、当初明細書等の実施例A1~A3の具体例の記載を根拠としているので、訂正後の本1発明の記載に新規事項が導入されているとはいえない。
したがって、上記(B)の事項に関して、理由があるとはいえない。
エ 「平均SP値17.5以下」の規定がなされていないことについて
上記(C)の事項に係る構成要件は、第1補正で「平均SP値17.5以下」の条件が請求項1の記載から削除され、特許異議申立人は、この点について『特許権者は、ビニルアルコール単位を含み、繰返し単位Bのモル数10%以上、という規定によれば、必然的に平均SP値が「17.5以下」を充足するから、当該規定がなくても新規事項を追加することにならない旨を主張しているが、この主張は誤りである』と主張する。
しかしながら、本件訂正の訂正事項4により、上記(1A)の事項に係る構成要件は「水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である」に改められた。
そして、訂正前の「水酸基量が4mmol/g以上21mmol/g以下である」という構成においては、その水酸基量の「21mmol/g以下」という上限値の場合に、水溶性ポリマーの平均SP値が17.8になり得たが、訂正後の水酸基量は上限が「14.7mmol/g以下」に設定されたので、平均SP値が17.5を超えないものとなっている。
してみると、本1発明の発明特定事項として、上記(C)の「平均SP値17.5以下」の規定がなくとも、訂正後の本1発明の水溶性ポリマーの範囲に「平均SP値17.5以下」以外のものが含まれなくなっているので、訂正後の本1発明の記載に新規事項が導入されているとはいえない。
したがって、上記(C)の事項に関して、理由があるとはいえない。
オ 「水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む」について
上記(D)の事項に係る構成要件は、第1補正で「SP値が14.5以上の繰返し単位A」の条件が請求項1の記載から削除されるとともに、新たに「ビニルアルコール単位」という条件が追加されたものであるところ、特許異議申立人は、この点について、当初明細書等の段落0053に言及される文献(甲第6号証)には、ビニルアルコールのSP値は「10.2-10.6」と記載され、当初明細書等の表1に記載の「18.5」と全く一致せず、誤記であると認定されるべきものであり、本1発明において「ビニルアルコール単位」を必須としても、「SP値が14.5以上の繰返し単位A」を規定したことにはならず、新規事項が追加されたことは明らかであると主張する。
しかしながら、当初明細書等の段落0320には、水溶性ポリマーを構成する繰返し単位の一つとして「ビニルアルコール単位」を用いたものが、実施例A1~A5の具体例として記載されているから、「ビニルアルコール単位」は「SP値が14.5以上の繰返し単位A」の具体例と認められる。
そうすると、第1補正で「SP値が14.5以上の繰返し単位A」の条件を削除し、「ビニルアルコール単位」に変更する第1補正は、「SP値が14.5以上の繰返し単位A」の範囲を減縮して、その唯一の具体例である「ビニルアルコール単位」に変更するものであって、新規事項の導入に該当するとはいえない。
したがって、上記(D)の事項に関して、理由があるとはいえない。
カ 新規事項のまとめ
以上総括するに、上記(A)~(D)の事項に関して、本件特許の特許請求の範囲又は明細書の記載に新規事項が導入されているとはいえない。
したがって、本件特許は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでない補正箇所がないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものではない。
(2)申立理由2(新規性)及び申立理由3(進歩性)について
ア 申立理由2及び3の概要
特許異議申立人が主張する申立理由2(新規性)は、本1~本6発明は、甲第1~5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第113条第2号の規定により取り消されるできものであるというものであり、
申立理由3(進歩性)は、本1~本6発明は、甲第1~6号証に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるできものであるというものである。
また、申立理由2及び3に係る証拠として、次の甲第1~6号証を提示している。
甲第1号証:国際公開第2010/143579号
甲第2号証:特開2004-128070号公報
甲第3号証:特開平11-116942号公報
甲第4号証:特許第4772156号公報
甲第5号証:特開2011-171689号公報
甲第6号証:Michael M. Coleman et al., Specific Interactions and the Miscibility of Polymer Blends, Technomic Publishing Co. Inc (1991), pp. 54-69
〔なお、申立理由2及び3のうち、甲第1号証を主たる証拠とするものについては、令和2年1月28日付け取消理由通知、令和2年7月15日付け取消理由通知(決定の予告)、及び同年12月1日付け取消理由通知(決定の予告)で採用している。また、これらの取消理由通知(決定の予告)では、主たる証拠を刊行物2(特開2006-186356号公報)とするものも通知している。〕
イ 甲号証の記載事項
(ア)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1及び9
「[請求項1]水、砥粒及び添加剤を含有する研磨剤であって、前記砥粒は、4価の金属水酸化物粒子を含有してなり、前記添加剤のうちの少なくとも1成分が、ケン化度95モル%以下のポリビニルアルコールである研磨剤。…
[請求項9]被研磨膜を形成した基板を研磨定盤の研磨パッドに押しあて加圧し、請求項1~8のいずれかに記載の研磨剤を被研磨膜と研磨パッドとの間に供給しながら、基板と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨膜を研磨する基板の研磨方法。」
摘記1b:段落0032
「[0032](砥粒)本発明の研磨剤の具体的態様の一つは、前記砥粒として4価の金属水酸化物粒子を含むものである。前記4価の金属水酸化物粒子は、シリカ、酸化セリウム等の従来の砥粒と比較して、酸化珪素との反応性が高く、高研磨速度である点で好ましい。本発明の研磨剤において用いることのできる他の砥粒としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化セリウム等を挙げることができる。」
摘記1c:段落0047~0048
「[0047](ポリビニルアルコール)本発明の研磨剤の具体的態様の一つは、前記添加剤として、ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする。ポリビニルアルコールは、研磨剤の安定性を向上させる効果がある。ポリビニルアルコールの水酸基が砥粒と相互作用することにより、凝集を抑制し、研磨剤の粒径変化を抑制して安定性を向上できる。
[0048]これまで述べたように、ビニルアルコールのモノマーは理論的に合成することができないため、ポリビニルアルコールは、一般的に、酢酸ビニルモノマー等のカルボン酸ビニルモノマーを重合してポリカルボン酸ビニルを得た後、これをケン化(加水分解)して得られている。」
摘記1d:段落0053
「[0053](ケン化度)これまで述べたように、一般的に、ポリビニルアルコールは、分子中に官能基として-OCOCH3と加水分解された-OHとを有しており、-OHとなっている割合をケン化度として定義される。ケン化度が所定の値以下となることで、-OHよりも疎水性の-OCOCH3が効果的に疎水性のポリシリコン膜に吸着し、保護膜となって研磨を阻害するため、結果として研磨速度に差が生じるものと推測される。これにより、酸化珪素膜のポリシリコン膜に対する研磨速度比(以下、選択性ともいう)が高められる傾向がある。この観点で、ポリビニルアルコールのケン化度としては、上限値は、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、88モル%以下が更に好ましく、85モル%以下が特に好ましく、83モル%以下が非常に好ましく、80モル%以下が極めて好ましい。」
摘記1e:段落0070
「[0070](研磨剤の特性)(pH)本発明の研磨剤のpHは、研磨剤の保存安定性や研磨速度に優れる点で3.0以上、12.0以下の範囲にあることが好ましい。」
摘記1f:段落0103
「[0103]また、本発明の研磨剤及び研磨方法は、膜状の材料だけでなく、ガラス、シリコン、SiC、SiGe、Ge、GaN、GaP、GaAs、サファイヤ、プラスチック等の各種基板材料にも適用できる。」
摘記1g:段落0110及び0114
「[0110](実施例1)ポリビニルアルコール〔株式会社クラレ製PVA-203、平均重合度300、ケン化度88モル%〕5質量%、酢酸0.4質量%、イミダゾール0.66質量%及び水93.94質量%を含有する濃縮添加液100g、前記で得た濃縮水酸化セリウムスラリ100g並びに水800gを混合し、水酸化セリウム濃度0.1質量%及びポリビニルアルコール濃度0.5質量%を含む研磨剤を調製した。研磨剤のpHは6.6、平均粒径は140nm、ゼータ電位は+6mVであった。なお、平均粒径及びゼータ電位は、前記と同様に測定した。…
[0114](実施例5)濃縮添加液に用いるポリビニルアルコールとして株式会社クラレ製PVA-505、平均重合度500、ケン化度73モル%を5質量%用いた以外は実施例1と同様にして、水酸化セリウム濃度0.1質量%及びポリビニルアルコール濃度0.5質量%を含む研磨剤を調製した。」
(イ)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、次の記載がある。
摘記2a:請求項1
「【請求項1】半導体ウエハの表面を精密研磨する際に使用される研磨用組成物であって、二酸化ケイ素、アルカリ化合物、水溶性高分子化合物及び水を含有し、前記二酸化ケイ素は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が5~30nmであるとともにレーザー散乱法で測定される平均二次粒子径が5~120nmであるコロイダルシリカ、あるいは前記平均一次粒子径が5~30nmであるとともに前記平均二次粒子径が5~200nmであるヒュームドシリカであることを特徴とする研磨用組成物。」
摘記2b:段落0015~0016
「【0015】次に、水溶性高分子化合物について説明する。
水溶性高分子化合物としては、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール又はポリエチレンオキサイドが好ましく、その中でもヒドロキシエチルセルロースがより好ましい。なお、本実施形態の研磨用組成物は、水溶性高分子化合物を一種類のみ含有するものであっても、二種類以上含有するものであってもよい。
【0016】ヒドロキシエチルセルロースの平均分子量は、300,000~3,000,000が好ましく、600,000~2,000,000がより好ましく、900,000~1,500,000が最も好ましい。ポリビニルアルコールの平均分子量は、1,000~1,000,000が好ましく、5,000~500,000がより好ましく、10,000~300,000が最も好ましい。ポリビニルアルコールは、平均分子量が上記範囲内であって、なおかつ、平均重合度が200~3,000、ケン化度が70~100%であることが好ましい。ポリエチレンオキサイドの平均分子量は、20,000~50,000,000が好ましく、20,000~30,000,000がより好ましく、20,000~10,000,000が最も好ましい。」
摘記2c:段落0040
「【0040】【表1】
[図:0001382338000001.jpg]
なお、上記表1の「被研磨物」欄に示した「P++」は抵抗率が0.01Ω・cm未満のシリコンウエハ、「P+」は抵抗率が0.01Ω・cm以上0.1Ω・cm未満のシリコンウエハ、「P-」は抵抗率が0.1Ω・cm以上のシリコンウエハをそれぞれ表わす。「二酸化ケイ素」欄に示した「A1」はDSAが7nmでDN4が15nmのコロイダルシリカ、「A2」はDSAが13nmでDN4が32nmのコロイダルシリカ、「A3」はDSAが26nmでDN4が90nmのコロイダルシリカ、「A4」はDSAが14nmでDN4が35nmのコロイダルシリカ、「A5」はDSAが35nmでDN4が70nmのコロイダルシリカ、「A6」はDSAが90nmでDN4が200nmのコロイダルシリカ、「B1」はDSAが20nmでDN4が100nmのヒュームドシリカ、「B2」はDSAが40nmでDN4が250nmのヒュームドシリカを表わす。「アルカリ化合物」欄に示した「A」はアンモニア(29重量%水溶液)、「PHA」は水酸化カリウム、「TMAH」は水酸化テトラメチルアンモニウム(25重量%水溶液)、「PIZ」は無水ピペラジンの略である。「水溶性高分子化合物」欄に示した「HEC」は平均分子量1,200,000のヒドロキシエチルセルロース、「PVA」は平均分子量62,000、平均重合度1400、ケン化度95%のポリビニルアルコール、「PEO」は平均分子量150,000~400,000のポリエチレンオキサイドを表わす。」
(ウ)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、次の記載がある。
摘記3a:請求項1~7
「【請求項1】下記の(a)~(e)を含んでなることを特徴とするシリコン半導体ウェーハの研磨用組成物。
(a)二酸化ケイ素、(b)水、(c)水溶性高分子化合物、(d)塩基性化合物、および(e)アルコール性水酸基を1~10個有する化合物。
【請求項2】二酸化ケイ素が、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、および沈澱法シリカからなる群から選ばれるものの少なくとも1種類である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】塩基性化合物が、含窒素塩基性化合物から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項1~2のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項4】含窒素塩基性化合物が、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、および水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項3に記載の研磨用組成物
【請求項5】塩基性化合物が、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩、および炭酸水素塩からなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項1~2のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】塩基性化合物が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項5に記載の研磨用組成物
【請求項7】水溶性高分子化合物が、セルロース誘導体およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。」
摘記3b:段落0025
「【0025】用いる水溶性高分子化合物は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されないが、一般に、分子量が100,000以上、好ましくは1,000,000以上、の水溶性基を有する高分子化合物である。」
摘記3c:段落0042
「【0042】【発明の実施の形態】
<研磨用組成物の内容および調製>まず、研磨材として高純度コロイダルシリカ(一次粒子径0.035μm、二次粒子径0.07μm)を撹拌機を用いて水に分散させて、研磨材濃度5重量%の研磨材分散液を調製した。次いで、予め水で膨潤させておいた、前記研磨材分散液の重量を基準にして0.5重量%のヒドロキシエチルセルロースを添加し、スラリーを調製した。そして、前記スラリーに、表1に記載した量の塩基性化合物および/またはアルコール性水酸基を1~10個有する化合物を添加して、実施例1~10および比較例1~3の試料を調製した。」
(エ)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、次の記載がある。
摘記4a:請求項1
「【請求項1】下記一般式(1)で表される構成単位(a1)、下記一般式(2)で表される構成単位(a2)、及び下記一般式(3)で表される構成単位(a3)を有し、構成単位(a3)の合計が高分子化合物の構成単位中0.001~1.5モル%である高分子化合物、研磨材及び水系媒体を含有するシリコンウエハ用研磨液組成物。
【化1】
[図:0001382338000002.jpg]
〔式中、Rは炭素数1~3のアルキル基であり、Xは分子中にカチオン基を有し且つビニルアルコール低級脂肪酸エステルと共重合可能な不飽和化合物に由来する構成単位である。〕」
(オ)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、次の記載がある。
摘記5a:請求項1
「【請求項1】下記一般式(1)で表される構成単位(a1)、下記一般式(2)で表される構成単位(a2)、及び下記一般式(3)で表される構成単位(a3)を有し、構成単位(a3)の合計が高分子化合物中0.001~1.5モル%である高分子化合物、研磨材及び水系媒体を含有するシリコンウエハ用研磨液組成物。
【化1】
[図:0001382338000003.jpg]
〔式中、Rは炭素数1~3のアルキル基であり、Xは分子中にカチオン基を有し且つビニルアルコール低級脂肪酸エステルと共重合可能な不飽和化合物に由来する構成単位である。〕」
(カ)甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、和訳にして、次の記載がある。
摘記6a:第65頁の表2.3
「
[図:0001382338000004.jpg]
」
摘記6b:第69頁の表2.6
「
[図:0001382338000005.jpg]
」
ウ 甲各号証に記載された発明
(ア)甲1発明
摘記1fの「本発明の研磨剤及び研磨方法は…シリコン…等の各種基板材料にも適用できる。」との記載、及び
摘記1gの「(実施例1)ポリビニルアルコール〔株式会社クラレ製PVA-203、平均重合度300、ケン化度88モル%〕5質量%、酢酸0.4質量%、イミダゾール0.66質量%及び水93.94質量%を含有する濃縮添加液100g、前記で得た濃縮水酸化セリウムスラリ100g並びに水800gを混合し、水酸化セリウム濃度0.1質量%及びポリビニルアルコール濃度0.5質量%を含む研磨剤を調製した。…(実施例5)濃縮添加液に用いるポリビニルアルコールとして株式会社クラレ製PVA-505、平均重合度500、ケン化度73モル%を5質量%用いた以外は実施例1と同様にして、水酸化セリウム濃度0.1質量%及びポリビニルアルコール濃度0.5質量%を含む研磨剤を調製した。」との記載からみて、甲第1号証には、
『ポリビニルアルコールとして株式会社クラレ製PVA-505、平均重合度500、ケン化度73モル%を5質量%、酢酸0.4質量%、イミダゾール0.66質量%及び水93.94質量%を含有する濃縮添加液100g、濃縮水酸化セリウムスラリ100g並びに水800gを混合し、水酸化セリウム濃度0.1質量%及びポリビニルアルコール濃度0.5質量%とした、シリコン等の各種基板材料に適用できる研磨剤。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(イ)甲2発明
摘記2aの「半導体ウエハの表面を精密研磨する際に使用される研磨用組成物であって、二酸化ケイ素、アルカリ化合物、水溶性高分子化合物及び水を含有し、前記二酸化ケイ素は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が5~30nmであるとともにレーザー散乱法で測定される平均二次粒子径が5~120nmであるコロイダルシリカ、あるいは前記平均一次粒子径が5~30nmであるとともに前記平均二次粒子径が5~200nmであるヒュームドシリカであることを特徴とする研磨用組成物。」との記載、及び
摘記2cの「表1…実施例12…P++…A2…A…PVA…なお、上記表1の「被研磨物」欄に示した「P++」は抵抗率が0.01Ω・cm未満のシリコンウエハ、…「二酸化ケイ素」欄に示した…「A2」はDSAが13nmでDN4が32nmのコロイダルシリカ、…「アルカリ化合物」欄に示した「A」はアンモニア(29重量%水溶液)、…「水溶性高分子化合物」欄に示した…「PVA」は平均分子量62,000、平均重合度1400、ケン化度95%のポリビニルアルコール、…を表わす。」との記載からみて、甲第2号証には、
『半導体ウエハ(抵抗率が0.01Ω・cm未満のシリコンウエハ)の表面を精密研磨する際に使用される研磨用組成物であって、二酸化ケイ素、アルカリ化合物、水溶性高分子化合物及び水を含有し、
前記二酸化ケイ素は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が13nmであるとともにレーザー散乱法で測定される平均二次粒子径が32nmであるコロイダルシリカ(A2)であり、
前記アルカリ化合物は、アンモニア(29重量%水溶液)であり、
前記水溶性高分子化合物は、平均分子量62,000、平均重合度1400、ケン化度95%のポリビニルアルコール(PVA)である
研磨用組成物。』についての発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(ウ)甲3発明
摘記3a(請求項1、3~4及び7)の「下記の(a)~(e)を含んでなることを特徴とするシリコン半導体ウェーハの研磨用組成物。(a)二酸化ケイ素、(b)水、(c)水溶性高分子化合物、(d)塩基性化合物、および(e)アルコール性水酸基を1~10個有する化合物。…塩基性化合物が、含窒素塩基性化合物から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、…含窒素塩基性化合物が、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、および水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種類である、…水溶性高分子化合物が、セルロース誘導体およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。」との記載、及び
摘記3bの「用いる水溶性高分子化合物は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されないが、一般に、分子量が100,000以上、好ましくは1,000,000以上、の水溶性基を有する高分子化合物である。」との記載からみて、甲第3号証には、
『(a)二酸化ケイ素、(b)水、(c)水溶性高分子化合物、(d)塩基性化合物、および(e)アルコール性水酸基を1~10個有する化合物を含んでなるシリコン半導体ウェーハの研磨用組成物であって、
塩基性化合物が、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、および水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種類であり、
水溶性高分子化合物が、セルロース誘導体およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類であり、分子量が100,000以上、好ましくは1,000,000以上、の水溶性基を有する高分子化合物である、研磨用組成物。』についての発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
(エ)甲4発明
摘記4aの記載からみて、甲第4号証には、その請求項1に記載されるとおりの発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
(オ)甲5発明
摘記5aの記載からみて、甲第5号証には、その請求項1に記載されるとおりの発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
エ 甲第1号証を主引用例とした場合の検討
(ア)対比
本1発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「水酸化セリウム濃度0.1質量%及びポリビニルアルコール濃度0.5質量%とした、シリコン等の各種基板材料に適用できる研磨剤」は、その「水酸化セリウム」が、摘記1aの「水、砥粒及び添加剤を含有する研磨剤」との記載にある「砥粒」に相当し、その「ポリビニルアルコール」が「水溶性ポリマー」であることが明らかであるから、本1発明の「水溶性ポリマーと、砥粒と、…水と、を含有」する「研磨用組成物」に相当する。
してみると、本1発明と甲1発明は『水溶性ポリマーと、砥粒と、水と、を含有する研磨用組成物。』という点において一致し、次の(1A)~(1D)の相違点を有する。
(1A)研磨用組成物が、本1発明は「シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる」ものであるのに対して、甲1発明は「シリコン等の各種基板材料に適用できる」ものである点。
(1B)水溶性ポリマーが、本1発明は「以下の条件:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;およびノニオン性である;を満たす」のに対して、甲1発明は「株式会社クラレ製PVA-505、平均重合度500、ケン化度73モル%」という「ポリビニルアルコール」である点。
(1C)研磨用組成物が、本1発明は「塩基性化合物としてのアンモニア」を含むものであるのに対して、甲1発明は「塩基性化合物としてのアンモニア」を含むものではない点。
(1D)砥粒が、本1発明は「シリカ粒子のみからなる」のに対して、甲1発明は「水酸化セリウム」からなる点。
(イ)判断
事案に鑑み、まず、上記(1D)の相違点について検討する。
甲第1号証の請求項1(摘記1a)の「水、砥粒及び添加剤を含有する研磨剤であって、前記砥粒は、4価の金属水酸化物粒子を含有してなり、前記添加剤のうちの少なくとも1成分が、ケン化度95モル%以下のポリビニルアルコールである研磨剤。」との記載、及び同段落0032(摘記1b)の「(砥粒)本発明の研磨剤の具体的態様の一つは、前記砥粒として4価の金属水酸化物粒子を含むものである。前記4価の金属水酸化物粒子は、シリカ、酸化セリウム等の従来の砥粒と比較して、酸化珪素との反応性が高く、高研磨速度である点で好ましい。本発明の研磨剤において用いることのできる他の砥粒としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化セリウム等を挙げることができる。」との記載にあるように、甲第1号証に記載の発明は、他の砥粒として「シリカ」等を併用できる旨の記載はあるものの、その請求項1の記載にあるように「4価の金属水酸化物粒子」を必須の砥粒として含む必要があるものである。
してみると、甲1発明の砥粒の種類を「水酸化セリウム」という「4価の金属水酸化物粒子」から、本1発明の「シリカ粒子のみからなる」に変更することには、阻害事由があるといえる。
そして、本件特許明細書の段落0076には「ここに開示される技術をシリコンウエハの研磨に使用され得る研磨用組成物に適用する場合、砥粒としてシリカ粒子を用いることが特に好ましい。その理由は、研磨対象物がシリコンウエハである場合、研磨対象物と同じ元素と酸素原子とからなるシリカ粒子を砥粒として使用すれば研磨後にシリコンとは異なる金属または半金属の残留物が発生せず、シリコンウエハ表面の汚染や研磨対象物内部にシリコンとは異なる金属または半金属が拡散することによるシリコンウエハとしての電気特性の劣化などの虞がなくなるからである。さらに、シリコンとシリカの硬度が近いため、シリコンウエハ表面に過度なダメージを与えることなく研磨加工を行うことができる。かかる観点から好ましい研磨用組成物の一形態として、砥粒としてシリカ粒子のみを含有する研磨用組成物が例示される。また、シリカは高純度のものが得られやすいという性質を有する。このことも砥粒としてシリカ粒子が好ましい理由として挙げられる。」との記載がなされているところ、このような「砥粒としてシリカ粒子を用いること」の格別の効果は、甲第1~6号証の記載から当業者が予測し得るものではない。
以上総括するに、本1発明と甲1発明は、上記(1D)の実質的な相違点を有するものであり、この相違点は、甲第1~6号証に記載の技術事項をどのように組み合わせても導き出し得るものではないから、上記(1A)~(1C)の相違点について検討するまでもなく、上記(1D)の相違点に係る構成を想到することが当業者にとって容易であるとはいえないし、当該構成を有することにより格別の効果を奏するものである。
したがって、本1発明は、甲第1号証に記載された発明ではないので、特許法第29条第1項第3号に該当しない。また、本1発明は、甲第1~6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。
オ 甲第2号証を主引用例とした場合の検討
(ア)対比
本1発明と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「半導体ウエハ(抵抗率が0.01Ω・cm未満のシリコンウエハ)の表面を精密研磨する際に使用される研磨用組成物」は、シリコンウエハの表面がシリコンから形成されていることが明らかなので、本1発明の「シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる研磨用組成物」に相当する。
甲2発明の「研磨用組成物であって、二酸化ケイ素、アルカリ化合物、水溶性高分子化合物及び水を含有し、前記二酸化ケイ素は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が13nmであるとともにレーザー散乱法で測定される平均二次粒子径が32nmであるコロイダルシリカ(A2)であり、前記アルカリ化合物は、アンモニア(29重量%水溶液)であり」は、
甲2発明の「二酸化ケイ素」及び「前記二酸化ケイ素は、BET法で測定される比表面積から求められる平均一次粒子径が13nmであるとともにレーザー散乱法で測定される平均二次粒子径が32nmであるコロイダルシリカ(A2)であり」が、本1発明の「砥粒」及び「前記砥粒はシリカ粒子のみからなる」に相当し、
甲2発明の「アルカリ化合物」及び「前記アルカリ化合物は、アンモニア(29重量%水溶液)」が、本1発明の「塩基性化合物としてのアンモニア」に相当し、
甲2発明の「水溶性高分子化合物」が本1発明の「水溶性ポリマー」に相当するから、
本1発明の「水溶性ポリマーと、砥粒と、塩基性化合物としてのアンモニアと、水と、を含有し、前記砥粒はシリカ粒子のみからなる、研磨用組成物」に相当する。
してみると、本1発明と甲2発明は『シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる研磨に用いられる研磨用組成物であって、水溶性ポリマーと、砥粒と、塩基性化合物としてのアンモニアと、水と、を含有し、前記砥粒はシリカ粒子のみからなる、研磨用組成物。』という点において一致し、次の(2A)の相違点を有する。
(2A)水溶性ポリマーが、本1発明は「以下の条件:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;およびノニオン性である;を満たす」のに対して、甲2発明は「平均分子量62,000、平均重合度1400、ケン化度95%のポリビニルアルコール(PVA)」である点。
(イ)判断
甲2発明の「平均分子量62,000、平均重合度1400、ケン化度95%のポリビニルアルコール(PVA)」は、当該ポリマーを構成する繰返し単位の具体的な内容が不明であって、必ずしも「酢酸ビニル単位」のみを「水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位B」として含むとは断定できないが、
その「平均分子量62,000」という物性は、本1発明の「重量平均分子量が1×104以上5×104以下である」という構成要件を満たしておらず、
その「ケン化度95%」という物性は、甲2発明の水溶性高分子化合物における水酸基を含まない繰返し単位(酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニル単位)のモル数が5%であることを意味するので、本1発明の「全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;」という構成要件を満たしておらず、
その「平均分子量62,000、平均重合度1400、ケン化度95%」という物性からみて、その水酸基量は、1400×0.95÷62000×1000=21.451mmol/gと計算されるので、本1発明の「水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である」という構成要件を満たしていない。
また、上記(2A)の相違点に関して、甲第2号証の段落0015~0016(摘記2b)には、水溶性高分子化合物としての「ポリビニルアルコール」は、平均分子量が10,000~300,000が最も好ましく、なおかつ、平均重合度が200~3,000、ケン化度が70~100%であることが好ましいとの記載があるものの、ポリビニルアルコールよりも「ヒドロキシエチルセルロース」がより好ましいとされているので、甲2発明の「平均分子量62,000、平均重合度1400、ケン化度95%のポリビニルアルコール(PVA)」という「水溶性高分子化合物」の平均分子量やケン化度など物性の数値範囲を好適化する積極的な動機付けがあるとは言い難い。
このため、甲第2号証の「実施例12」で具体的に用いられている「平均分子量62,000、平均重合度1400、ケン化度95%のポリビニルアルコール(PVA)」の具体的な内容を好適化して、本1発明の「以下の条件:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;およびノニオン性である;を満たす」という構成のものにすることが、当業者にとって容易想到であるとは認められない。
そして、本件特許明細書の段落0320には、本1発明の「条件」を満たさない比較例A1~A5の「ヒドロキシエチルセルロース」等の水溶性ポリマーに比して、本1発明の「条件」を満たす実施例A1~A3のものが、微小パーティクル(LPD)数評価や、ヘイズ測定の性能の点で、優れた効果を奏することが記載されているところ、このような「条件」を満たすことの格別の効果は、甲第1~6号証の記載から当業者が予測し得るものではない。
以上総括するに、本1発明と甲2発明は、上記(2A)の実質的な相違点を有するものであり、この相違点は、甲第1~6号証に記載の技術事項をどのように組み合わせても導き出し得るものではないから、上記(2A)の相違点に係る構成を想到することが当業者にとって容易であるとはいえないし、当該構成を有することにより格別の効果を奏するものである。
したがって、本1発明は、甲第2号証に記載された発明ではないので、特許法第29条第1項第3号に該当しない。また、本1発明は、甲第1~6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。
カ 甲第3号証を主引用例とした場合の検討
(ア)対比
本1発明と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「シリコン半導体ウェーハの研磨用組成物」は、シリコン半導体ウェーハの表面がシリコンから形成されていることが明らかなので、本1発明の「シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる研磨用組成物」に相当する。
甲3発明の「(a)二酸化ケイ素、(b)水、(c)水溶性高分子化合物、(d)塩基性化合物、および(e)アルコール性水酸基を1~10個有する化合物を含んでなる」は、
甲3発明の「(a)二酸化ケイ素」が、本1発明の「砥粒」及び「前記砥粒はシリカ粒子のみからなる」に相当し、
甲3発明の「(d)塩基性化合物」が「アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、および水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種類」であることから、本1発明の「塩基性化合物としてのアンモニア」に相当し、
甲3発明の「(c)水溶性高分子化合物」が本1発明の「水溶性ポリマー」に相当するから、
本1発明の「水溶性ポリマーと、砥粒と、塩基性化合物としてのアンモニアと、水と、を含有し、前記砥粒はシリカ粒子のみからなる」に相当する。
してみると、本1発明と甲3発明は『シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる研磨に用いられる研磨用組成物であって、水溶性ポリマーと、砥粒と、塩基性化合物としてのアンモニアと、水と、を含有し、前記砥粒はシリカ粒子のみからなる、研磨用組成物。』という点において一致し、次の(3A)の相違点を有する。
(3A)水溶性ポリマーが、本1発明は「以下の条件:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;およびノニオン性である;を満たす」のに対して、甲3発明は「セルロース誘導体およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類であり、分子量が100,000以上、好ましくは1,000,000以上、の水溶性基を有する高分子化合物」である点。
(イ)判断
甲3発明は、(c)の水溶性高分子化合物の分子量が「100,000以上、好ましくは1,000,000以上」とされるものであるから、本1発明の「重量平均分子量が1×104以上5×104以下である」という構成に変更することには、阻害事由があるといえる。
また、甲第3号証の段落0042(摘記3c)には、(c)の水溶性高分子化合物として「ヒドロキシエチルセルロース」という「セルロース誘導体」を用いたものが実施例として記載されているのに対して、当該(c)成分として「ポリビニルアルコール」を用いた実施例の記載がないので、甲3発明の「セルロース誘導体およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類」として、敢えて「ポリビニルアルコール」を選択することに、積極的な動機付けがあるとは言い難い。
してみると、甲3発明の「セルロース誘導体およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類であり、分子量が100,000以上、好ましくは1,000,000以上、の水溶性基を有する高分子化合物である」という「水溶性高分子化合物」の具体的な内容を好適化して、本1発明の「以下の条件:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;およびノニオン性である;を満たす」という構成のものにすることが、当業者にとって容易想到であるとは認められない。
そして、本件特許明細書の段落0320には、本1発明の「条件」を満たさない比較例A1~A5の「ヒドロキシエチルセルロース」等の水溶性ポリマーに比して、本1発明の「条件」を満たす実施例A1~A3のものが、微小パーティクル(LPD)数評価や、ヘイズ測定の性能の点で、優れた効果を奏することが記載されているところ、このような「条件」を満たすことの格別の効果は、甲第1~6号証の記載から当業者が予測し得るものではない。
以上総括するに、本1発明と甲3発明は、上記(3A)の実質的な相違点を有するものであり、この相違点は、甲第1~6号証に記載の技術事項をどのように組み合わせても導き出し得るものではないから、上記(3A)の相違点に係る構成を想到することが当業者にとって容易であるとはいえないし、当該構成を有することにより格別の効果を奏するものである。
したがって、本1発明は、甲第3号証に記載された発明ではないので、特許法第29条第1項第3号に該当しない。また、本1発明は、甲第1~6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。
キ 甲第4号証を主引用例とした場合の検討
(ア)対比
本1発明と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「高分子化合物、研磨材及び水系媒体を含有するシリコンウエハ用研磨液組成物」は、その「高分子化合物」が本1発明の「水溶性ポリマー」に相当し、その「水系媒体」が本1発明の「水」に相当するといえるから、本1発明の「水溶性ポリマーと、砥粒と、…水と、を含有」する「研磨用組成物」に相当する。
してみると、本1発明と甲4発明は『水溶性ポリマーと、砥粒と、水と、を含有する研磨用組成物。』という点において一致し、次の(4A)~(4D)の相違点を有する。
(4A)研磨用組成物が、本1発明は「シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる」ものであるのに対して、甲4発明は「シリコンウエハ用」である点。
(4B)水溶性ポリマーが、本1発明は「以下の条件:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;およびノニオン性である;を満たす」のに対して、甲4発明は「一般式(1)で表される構成単位(a1)、下記一般式(2)で表される構成単位(a2)、及び下記一般式(3)で表される構成単位(a3)を有し、構成単位(a3)の合計が高分子化合物の構成単位中0.001~1.5モル%である高分子化合物」であって「式中、Rは炭素数1~3のアルキル基であり、Xは分子中にカチオン基を有し且つビニルアルコール低級脂肪酸エステルと共重合可能な不飽和化合物に由来する構成単位である。」である点。
(4C)研磨用組成物が、本1発明は「塩基性化合物としてのアンモニア」を含むものであるのに対して、甲4発明は「塩基性化合物としてのアンモニア」を含むものではない点。
(4D)砥粒が、本1発明は「シリカ粒子のみからなる」のに対して、甲4発明は「研磨材」の内容が具体的に特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、まず、上記(4B)の相違点について検討する。
甲4発明の「高分子化合物」は「分子中にカチオン基を有」するものであるから、本1発明の「ノニオン性である」という条件を満たさない。
してみると、甲4発明の分子中に「カチオン基」を有することを必須とする「高分子化合物」の構成を、本1発明の「ノニオン性である」という条件を満たす構成に変更することには、阻害事由があるといえる。
そして、本件特許明細書の段落0320には、本1発明の「条件」を満たさない比較例A1~A5の「ヒドロキシエチルセルロース」等の水溶性ポリマーに比して、本1発明の「条件」を満たす実施例A1~A3のものが、微小パーティクル(LPD)数評価や、ヘイズ測定の性能の点で、優れた効果を奏することが記載されているところ、このような「条件」を満たすことの格別の効果は、甲第1~6号証の記載から当業者が予測し得るものではない。
以上総括するに、本1発明と甲4発明は、上記(4B)の実質的な相違点を有するものであり、この相違点は、甲第1~6号証に記載の技術事項をどのように組み合わせても導き出し得るものではないから、上記(4A)及び(4C)~(4D)の相違点について検討するまでもなく、上記(4B)の相違点に係る構成を想到することが当業者にとって容易であるとはいえないし、当該構成を有することにより格別の効果を奏するものである。
したがって、本1発明は、甲第4号証に記載された発明ではないので、特許法第29条第1項第3号に該当しない。また、本1発明は、甲第1~6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。
ク 甲第5号証を主引用例とした場合の検討
甲5発明は、甲4発明の「高分子化合物の構成単位中0.001~1.5モル%である高分子化合物」との記載部分が「高分子化合物中0.001~1.5モル%である高分子化合物」との記載に置き換わった(下線部の「の構成単位」の語が削除された)以外は、同じ内容のものである。
してみると、上記「キ」に示した理由と同様の理由により、本1発明と甲5発明は、実質的な相違点を有するものであり、この相違点は、甲第1~6号証に記載の技術事項をどのように組み合わせても導き出し得るものではないから、本1発明の構成を想到することが当業者にとって容易であるとはいえないし、当該構成を有することにより格別の効果を奏するものである。
したがって、本1発明は、甲第5号証に記載された発明ではないので、特許法第29条第1項第3号に該当しない。また、本1発明は、甲第1~6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。
ケ 本件特許の請求項2~3及び6に係る発明について
本2~3及び本6発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものである。
してみると、本1発明の新規性が甲第1~5号証によって否定できない以上、本2~3及び本6発明が、甲第1~5号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、本1発明の進歩性が甲第1~6号証によって否定できない以上、本2~3及び本6発明が、甲第1~6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。
(3)申立理由4(拡大先願)について
ア 申立理由4について
特許異議申立人が主張する申立理由4(拡大先願)は、本1~本6発明は、甲第7~8号証に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定に違反しており、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであるというものであって、証拠として、次の甲第7~8号証を提示している。
甲第7号証:特許第6028942号公報
甲第8号証:特許第5897200号公報
しかしながら、甲第7~8号証は、いずれも「特許掲載公報」のみを証拠とし、優先権主張の基礎明細書等の必要な証拠を含まないので、甲第7~8号証を提示しての申立理由4は、採用できない。
なお、仮に、甲第7号証に記載されている事項と、甲第7号証に対応する優先権の主張を伴う特許出願であって、千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約第二十一条に規定する国際公開(国際公開第2013/176122号)がされた特願2014-516802号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願である特願2012-120037号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項が一致するものとして、以下に検討をする。甲第8号証についても同様である。
イ 甲号証の記載事項
(ア)甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、次の記載がある。
摘記7a:請求項1
「【請求項1】水、シリカ粒子、アルカリ化合物、ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール及び界面活性剤を含み、且つポリビニルアルコールに対するアニオン変性ポリビニルアルコールの質量比が0.6乃至5.5であるウェーハ用研磨液組成物。」
摘記7b:段落0039
「【0039】〔実施例1〕
重量平均分子量14万のカルボキシル基変性ポリビニルアルコール(カルボキシル基変性量2.0モル%、ケン化度96.3)の0.75質量%水溶液と重量平均分子量20万のポリビニルアルコール(ケン化度87.5)の0.25質量%水溶液とをポリビニルアルコールに対するカルボキシル基変性ポリビニルアルコールの質量比3.0となるように混合して、0.50質量%のPVA水溶液を調製し、これをPVA混合液(A)とした。シリカ濃度30質量%、pH7.4、窒素吸着法から求められる平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカが分散された水性シリカゾル333.0gに水345.5g、28質量%アンモニア水20.5g、PVA混合液(A)550.0gを添加し、更に数平均分子量1,000のポリエチレングリコールの50質量%水溶液1.25gを加えて、シリカ濃度8.0質量%、アンモニア0.46質量%、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール0.17質量%、ポリビニルアルコール0.055質量%、ポリエチレングリコール0.05質量%の研磨液組成物を調製した。得られた研磨液組成物のpHは10.6、25℃におけるオストワルド粘度は2.0mPa・sであった。」
(イ)甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、次の記載がある。
摘記8a:請求項1
「【請求項1】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物であって:
砥粒;
オキシアルキレン単位を含むポリマー、N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー、イミン誘導体、N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー、ビニルアルコール系ポリマーおよびプルランから選択される水溶性ポリマー;および
水;
を含み、
前記研磨用組成物のpHは9.0~12.0であり、
前記砥粒の平均一次粒子径DP1は20nm以上であり、
前記砥粒の平均二次粒子径DP2は55nm以下であり、かつ
前記研磨用組成物は、前記砥粒の含有量が0.2質量%となる濃度において動的光散乱法により測定される前記研磨用組成物中に含まれる粒子の体積平均粒子径DAが20nm~60nmである、研磨用組成物。」
摘記8b:段落0118
「【0118】(実施例5)
実施例2において、HEC-Aに代えてポリビニルアルコール(Mw1.3×104、けん化度95モル%以上;以下「PVA-1」と表記することがある。)を2%の濃度で含むポリマー水溶液を使用した。その他の点は実施例2と同様にして、表1に示す組成の研磨液を調製した。実施例1と同様にして測定した粒子の体積平均粒子径DAは46nmであった。」
ウ 甲第7号証について
(ア)甲7発明
甲第7号証には、甲第7号証の請求項1(摘記7a)に記載のとおりの発明(以下「甲7発明」という。)が記載されている。
(イ)対比
本1発明と甲7発明とを対比すると、甲7発明の「水、シリカ粒子、アルカリ化合物、ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール及び界面活性剤を含み、且つポリビニルアルコールに対するアニオン変性ポリビニルアルコールの質量比が0.6乃至5.5であるウェーハ用研磨液組成物。」の「シリカ粒子」と「アルカリ化合物」と「ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール」と「ウェーハ用研磨液組成物」の各々は、本1発明の「砥粒」と「塩基性化合物」と「水溶性ポリマー」と「ウエハの…研磨に用いられる研磨用組成物」に相当する。
してみると、本1発明と甲7発明は『ウエハの研磨に用いられる研磨用組成物であって、水溶性ポリマーと、砥粒と、塩基性化合物と、水と、を含有する、研磨用組成物。』という点において一致し、次の(7A)~(7D)の相違点を有する。
(7A)研磨用組成物が、本1発明は「シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる」ものであるのに対して、甲7発明は「ウェーハ用」である点。
(7B)水溶性ポリマーが、本1発明は「以下の条件:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;およびノニオン性である;を満たす」のに対して、甲7発明は「ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール」である点。
(7C)研磨用組成物が、本1発明は「塩基性化合物としてのアンモニア」を含むものであるのに対して、甲7発明は「アルカリ化合物」の種類を特定するものではない点。
(7D)砥粒が、本7発明は「シリカ粒子のみからなる」のに対して、甲7発明は「シリカ粒子」以外の砥粒が含まれる場合を除外しない点。
(ウ)判断
事案に鑑み、まず、上記(7B)の相違点について検討する。
甲第7号証の段落0039(摘記7b)には、甲7発明の実施例1として「重量平均分子量14万のカルボキシル基変性ポリビニルアルコール(カルボキシル基変性量2.0モル%、ケン化度96.3)」というアニオン変性ポリビニルアルコールと「重量平均分子量20万のポリビニルアルコール(ケン化度87.5)」というポリビニルアルコールとを併用したものが記載されている。
そして、当該「重量平均分子量14万のカルボキシル基変性ポリビニルアルコール(カルボキシル基変性量2.0モル%、ケン化度96.3)」というアニオン変性ポリビニルアルコールは、アニオン変性されているという点において、本1発明の「ノニオン性である」という条件を満たすものではなく、当該「重量平均分子量20万のポリビニルアルコール(ケン化度87.5)」というポリビニルアルコールは、重量平均分子量が20万であるという点において、本1発明の「重量平均分子量が1×104以上5×104以下である」という条件を満たすものではない。
また、甲第7号証の全ての記載を精査しても、本1発明の「以下の条件:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;およびノニオン性である;を満たす」という「水溶性ポリマー」についての記載が存在しない。
したがって、本1発明と甲7発明は、上記(7B)の実質的な相違点を有するものであるから、上記(7A)及び(7C)~(7D)の相違点について検討するまでもなく、本1発明並びにこれを引用する本2~3及び本6発明が、甲第7号証の「特許掲載公報」に対応する優先権主張の基礎明細書等に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものに該当しない。
エ 甲第8号証について
(ア)甲8発明
甲第8号証には、甲第8号証の請求項1(摘記8a)に記載のとおりの発明(以下「甲8発明」という。)が記載されている。
(イ)対比
本1発明と甲8発明とを対比すると、甲8発明の「シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物であって:砥粒;オキシアルキレン単位を含むポリマー、N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー、イミン誘導体、N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー、ビニルアルコール系ポリマーおよびプルランから選択される水溶性ポリマー;および水;を含み、前記研磨用組成物のpHは9.0~12.0であり、前記砥粒の平均一次粒子径DP1は20nm以上であり、前記砥粒の平均二次粒子径DP2は55nm以下であり、かつ前記研磨用組成物は、前記砥粒の含有量が0.2質量%となる濃度において動的光散乱法により測定される前記研磨用組成物中に含まれる粒子の体積平均粒子径DAが20nm~60nmである、研磨用組成物。」の「砥粒」と「オキシアルキレン単位を含むポリマー、N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー、イミン誘導体、N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー、ビニルアルコール系ポリマーおよびプルランから選択される水溶性ポリマー」と「シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物」の各々は、本1発明の「砥粒」と「水溶性ポリマー」と「シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる研磨用組成物」に相当する。
してみると、本1発明と甲7発明は『シリコンウエハのシリコンからなる表面の研磨に用いられる研磨用組成物であって、水溶性ポリマーと、砥粒と、水と、を含有する、研磨用組成物。』という点において一致し、次の(8A)~(8C)の相違点を有する。
(8A)水溶性ポリマーが、本1発明は「以下の条件:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;およびノニオン性である;を満たす」のに対して、甲8発明は「オキシアルキレン単位を含むポリマー、N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー、イミン誘導体、N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー、ビニルアルコール系ポリマーおよびプルランから選択される水溶性ポリマー」である点。
(8B)研磨用組成物が、本1発明は「塩基性化合物としてのアンモニア」を含むものであるのに対して、甲8発明は「塩基性化合物としてのアンモニア」を含むものではない点。
(8C)砥粒が、本1発明は「シリカ粒子のみからなる」のに対して、甲7発明は「シリカ粒子のみからなる」ものとして特定されていない点。
(ウ)判断
上記(8A)の相違点について、甲第8号証の段落0118(摘記8b)には、甲8発明の実施例5として「ポリビニルアルコール(Mw1.3×104、けん化度95モル%以上」という水溶性ポリマーを用いたものが記載されている。
そして、当該「ポリビニルアルコール(Mw1.3×104、けん化度95モル%以上」というポリビニルアルコールは、ケン化度が95モル%であるという点において、その95モル%以上がビニルアルコール単位になっていることが明らかなので、少なくとも本1発明の「全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である」という条件を満たすものではない。
また、甲第8号証の全ての記載を精査しても、本1発明の「以下の条件:水酸基を有する繰返し単位としてビニルアルコール単位のみを含む;水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む;水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である;重量平均分子量が1×104以上5×104以下である;全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である;およびノニオン性である;を満たす」という「水溶性ポリマー」についての記載が存在しない。
したがって、本1発明と甲8発明は、上記(8A)の実質的な相違点を有するものであるから、上記(8B)~(8C)の相違点について検討するまでもなく、本1発明並びにこれを引用する本2~3及び本6発明が、甲第8号証の「特許掲載公報」に対応する優先権主張の基礎明細書等に記載された発明と同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものに該当しない。
(4)申立理由5(明確性要件)について
特許異議申立人が主張する申立理由5(明確性要件)は、本1発明は、構成要件として「SP値14.5未満の繰返し単位B」を規定するが、当該構成要件を充足する繰返し単位Bにどのようなものが含まれるか明確ではなく、甲第6号証によれば、酢酸ビニル単位のSP値は「9.6」であるが、本件明細書では「11.1」となっており、本件発明の範囲・外縁を確定できない、というものである。
〔なお、申立理由5は、令和2年1月28日付け取消理由通知、同年7月15日付け取消理由通知(決定の予告)、及び同年12月1日付け取消理由通知(決定の予告)で採用している。〕
しかしながら、本件訂正の訂正事項3により、訂正前の請求項1の「水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bを含む」と記載部分が「水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む」に訂正された。
してみると、本1発明の「繰返し単位B」は「酢酸ビニル単位」のみに特定されているので、当該「繰返し単位B」の範囲が「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である」とはいえなくなった。
また、令和2年7月15日付け取消理由通知(決定の予告))、及び、同年12月1日付け取消理由通知(決定の予告)においては、請求項1が「とからなり」という記載を含むので明確ではない旨指摘したが、本件訂正により当該記載を含まないものとなった。
したがって、本件特許の請求項1及びその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法第36条第6項第2号に適合する。
(5)申立理由6(サポート要件)について
ア 申立理由6の概要
特許異議申立人が主張する申立理由6(サポート要件)は、次の(6-1)~(6-4)の点で、本1発明は段落0006に記載の「LDP数やヘイズの低減効果に優れた研磨用組成物を提供する」という課題を解決できるものとは認められないというものである。
(6-1)あらゆる繰返し単位B(SP値「14.5未満」の全範囲)において課題を解決できるものとは到底認められない。
(6-2)本件発明は、元来、平均SP値17.5以下を充足することにより、その課題を解決したものであり、平均SP値17.5以下を充足しない態様を包含する本件発明が、課題を解決しない態様を含むことは明らかである。
(6-3)本件明細書の実施例において具体的に開示されているけん化度は73モル%と78モル%のもののみであり、領域としても課題を解決できるものとは認められない。
(6-4)研磨用組成物の性状として、塩基性(条件)であることが規定されていない本件発明1の全範囲において、課題を解決できるものとは認められない。
〔なお、申立理由6の(6-1)の点は、令和2年1月28日付け取消理由通知、同年7月15日付け取消理由通知(決定の予告)、及び同年12月1日付け取消理由通知(決定の予告)で採用している。〕
イ 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、次の記載がある。
「【0320】【表3】
[図:0001382338000006.jpg]
」
ウ (6-1)繰返し単位Bの範囲について
本1発明の「繰返し単位B」は「酢酸ビニル単位」のみに特定された。
したがって、(6-1)の「あらゆる繰返し単位B(SP値「14.5未満」の全範囲)において課題を解決できるものとは到底認められない。」という特許異議申立人の主張する申立て理由によっては、本1発明がサポート要件に違反するとはいえない。
エ (6-2)平均SP値17.5以下について
本件特許明細書の段落0320の表3には、本1発明の発明特定事項を満たす実施例A1~A3のものが、本1発明の「LDP数やヘイズの低減効果に優れた研磨用組成物を提供する」という課題を解決できたことを裏付ける試験結果が示されている。
そして、この表3の試験結果を普通に解釈すれば、本1発明の特許請求の範囲に記載された発明特定事項の全て(なかんずく、上記1.(2)に示したA~Fの6つの条件)を満たせば、本1発明の課題を解決できると認識できる。
そうすると、特許異議申立人の主張する「平均SP値17.5以下」という条件を充足しない態様を包含するか否かにかかわりなく、本1発明は、その課題を解決できるものであると認識できる。
したがって、(6-2)の「平均SP値17.5以下を充足しない態様を包含する本件発明が、課題を解決しない態様を含むことは明らかである。」という特許異議申立人の主張する申立て理由によっては、本1発明がサポート要件に違反するとはいえない。
オ (6-3)けん化度について
本件訂正の訂正事項4により訂正前の「水酸基量が4mmol/g以上21mmol/g以下である」との条件は、訂正後の「水酸基量が13.2mmol/g以上14.7mmol/g以下である」との条件に減縮され、訂正事項6により訂正前の「全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は10%以上である」との条件は、訂正後の「全繰返し単位のモル数に占める前記繰返し単位Bのモル数は22%以上27%以下である」との条件に減縮されているところ、これは水溶性ポリマーのけん化度が73%以上78%以下に限定したことと技術的に同義であり、当該減縮後の条件の範囲は、本件特許明細書の段落0320の表3の実施例A1~A3にある範囲と等しいものである。
してみれば、本1発明は、本件特許明細書の実施例において具体的に開示されている73モル%と78モル%のけん化度を、その下限値と上限値とした範囲のものに限定されているといえるものであり、具体的な試験結果で裏付けられた下限値と上限値の間の数値範囲のものにおいても、本1発明の課題解決が可能であると推認することに不合理な点があるとはいえない。
したがって、(6-3)の「本件明細書の実施例において具体的に開示されているけん化度は73モル%と78モル%のもののみであり、領域としても課題を解決できるものとは認められない。」という特許異議申立人の主張する申立て理由によっては、本1発明がサポート要件に違反するとはいえない。
カ (6-4)塩基性(条件)の規定について
塩基性条件が、研磨用組成物のヘイズやLPDの性能を大きく左右するものであるとしても、本1発明は、上記1.(2)に示したA~Fの条件に着目して、これらの条件A~Fを満たすことで、塩基性条件などの諸条件が等しい場合に、より優れた効果(性能)が発揮され、所望の課題を解決できると認識できるに至ったといえるものである。
すなわち、塩基性条件は、課題を解決するための手段として位置づけられておらず、その範囲が広すぎるか否かの問題にならないので、塩基性条件の規定の有無はサポート要件違反の適否に関係がない。
したがって、(6-4)の「研磨用組成物の性状として、塩基性(条件)であることが規定されていない本件発明1の全範囲において、課題を解決できるものとは認められない。」という特許異議申立人の主張する申立て理由によっては、本1発明がサポート要件に違反するとはいえない。
キ サポート要件のまとめ
以上総括するに、上記(6-1)~(6-4)の点に関して、本1発明並びに本2~3及び本6発明が、発明の詳細な説明に記載されていないとは認められず、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できない範囲のものであるとも認められないので、本件特許の特許請求の範囲の記載が、サポート要件に違反するとは認められない。
したがって、本件特許の請求項1~3及び6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合する。
(6)申立理由7(実施可能要件)について
ア 申立理由7の概要
特許異議申立人が主張する申立理由7(実施可能要件)は、SP値14.5以上の繰返し単位Bとしてどのようなものが含まれるか不明であり、どのように繰返し単位Bを決定すればよいか、本件明細書を見てもわからないので、当業者が本件発明を実施できない、というものである。
〔なお、申立理由7は、令和2年1月28日付け取消理由通知、同年7月15日付け取消理由通知(決定の予告)、及び同年12月1日付け取消理由通知(決定の予告)で採用している。〕
しかしながら、本件訂正の訂正事項3により、訂正前の請求項1の「水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bを含む」と記載部分が「水酸基を含まずSP値が14.5未満の繰返し単位Bとして酢酸ビニル単位のみを含む」に訂正された。
してみると、本1発明の「繰返し単位B」は「酢酸ビニル単位」のみに特定されているので、当該「繰返し単位B」としてどのようなものが含まれるのかが不明であるとはいえない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本1~3及び本6発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえない。
第6 まとめ
以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1~3及び本6発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本1~3及び本6発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項4及び5は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項4及び5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700903