特許異議申立
2018-700912
コンクリート組成物及びコンクリート組成物の製造方法
- 審判番号
- 2018-700912
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-146775
- 登録番号
- 特許第6323601号(P6323601)
- 請求日
- 2018年11月12日
- 審決日
- 2019年12月16日
- 公報発行日
- 2020年05月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】住友大阪セメント株式会社
- 【権利者代理人】大谷 保
- 【異議申立人】林 愛子
- 【異議申立人】浜 俊彦
- 審判長/審判官
- 審判長 服部 智
- 審判官 菊地 則義
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.537-ZDA(C04B) / P1651.113-ZDA(C04B) / P1651.121-ZDA(C04B) / P1651.4 -ZDA(C04B) / P1651.851-ZDA(C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第39条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6323601号発明「コンクリート組成物及びコンクリート組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6323601号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8について訂正することを認める。
特許第6323601号の請求項8に係る特許を取り消す。
同請求項1、2、4~7に係る特許を維持する。
同請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6323601号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年7月28日(優先権主張 平成29年2月2日)の出願であって、平成30年4月20日にその特許権の設定登録がされ、同年5月16日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、その特許について、同年11月12日付けで特許異議申立人林愛子(以下、「申立人1」という。)により甲第1号証~甲第7号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、同年11月16日付けで特許異議申立人浜俊彦(以下、「申立人2」という。)により甲第1号証~甲第5号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、平成31年2月8日付けで取消理由が通知され、同年4月12日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、令和元年6月4日付けで申立人2より甲第8号証~甲第15号証を添付した意見書の提出がされ、同年7月3日付けで取消理由(決定の予告)が通知されたものである。
なお、平成31年4月12日付けの訂正請求について、期間を指定して申立人1に意見を求めたが応答はなかった。
また、令和元年7月3日付け取消理由通知書(決定の予告)に対する特許権者からの応答はなかった。
(証拠方法)
(申立人1より)
甲第1号証:特開2010-30885号公報
甲第2号証:特開2001-9417号公報
甲第3号証:特開2009-274937号公報
甲第4号証:細野宏巳他、「PCグラウトの流動性評価と品質管理方法に関する研究」、土木学会論文集E2、Vol.71、No.1、p.72-85、2015
甲第5号証:矢ヶ部洋志、「無機粉体スラリーの流動性向上効果に関する研究」、p.56-1-56-4、九州大学大学院人間環境学府、2008 ホームページ公開URL http://www.hues.kyushu-u.ac.jp/education/student
甲第6号証:山本晃他、「フライアッシュの品質変動がコンクリートに及ぼす影響について」、土木学会第56回年次学術講演会(平成13年10月)、p.256-257
甲第7号証:山田有一他、「フライアッシュ」、コンクリート工学、Vol.26、No.4、April 1988、p.14-18
(申立人2より)
甲第1号証:「セメント規格がわかる本 -JIS 解説書-」、社団法人セメント協会発行、1993年3月、p.1-5
甲第2号証:特開平11-278908号公報
甲第3号証:特開平11-139859号公報
甲第4号証:「44.各種フライアッシュの品質とコンクリートの流動性」、セメント技術年報39、社団法人セメント協会発行、昭和60年(1985)、p.201-204
甲第5号証:「37 フライアッシュの作用」、C&Cエンサイクロペディア[セメント・コンクリート化学の基礎解説]、社団法人セメント協会発行、1996年7月、p.92-93
甲第8号証:特開2015-124133号公報
甲第9号証:特開2008-302507号公報
甲第10号証:特開2000-247715号公報
甲第11号証:特開平9-194241号公報
甲第12号証:「コンクリート用フライアッシュ A6201(1999)」、JISハンドブック[10]生コンクリート、財団法人日本規格協会発行、2001年1月31日、p.137-139
甲第13号証:特開2016-88778号公報
甲第14号証:特開2015-10009号公報
甲第15号証:特開2015-221734号公報
第2.訂正請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は当審で付した)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された、
「17~27秒の範囲のものである、コンクリート組成物」を、
「17~27秒の範囲のものである、吹付けコンクリート用のコンクリート組成物」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に記載された、
「23~27%のものである、コンクリート組成物」を、
「23~27%のものである、吹付けコンクリート用のコンクリート組成物」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に記載された、
「請求項1~3のいずれか1項に記載の」を、
「請求項1または2に記載の」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に記載された、
「請求項1~4のいずれか1項に記載の」を、
「請求項1~2、4のいずれか1項に記載の」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に記載された、
「請求項1~5のいずれか1項に記載の」を、
「請求項1~2、4~5のいずれか1項に記載の」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に記載された、
「請求項1~6のいずれか1項に記載の」を、
「請求項1~2、4~6のいずれか1項に記載の」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に記載された、
「粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が」を、
「みつかさ比重が1.087g/cm3以上1.113g/cm3以下である粉砕前のフライアッシュ原粉のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8に記載された、
「配合する工程とを含むコンクリート組成物の製造方法」を、
「配合する工程とを含む、吹付けコンクリート用のコンクリート組成物の製造方法」に訂正する。
(10)一群の請求項について
訂正前の請求項3~7が、訂正前の請求項1及び2を引用するものであるから、訂正事項1~7の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1~7について請求されたものである。また、訂正前の請求項8は独立項であり、訂正事項8、9の特許請求の範囲の訂正は、単独の請求項8について請求されたものである。
2.訂正要件の判断
(1)訂正事項1、2、9について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されたコンクリート組成物の発明について、本件明細書の【0030】、【0053】、【0055】等の記載から、当該組成物の新たな属性として見出されたリバウンド効果を利用する「吹付けコンクリート用」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2、9についても、訂正事項1と同様であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項3~7について
訂正事項3は請求項を削除するものであり、訂正事項4~7はそれに伴い選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、何れも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項8に記載された発明について、粉砕前のみつかさ比重の値が特定されていなかったところに数値限定を加えるものであり、本件明細書の【0022】に記載された粉砕フライアッシュのみつかさ比重として好ましい数値に基づき特定されたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)独立特許要件について
本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~7〕、8について訂正を認める。
第3.本件発明について
本件訂正が認められることは上記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1、2、4~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、4~8に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「 【請求項1】
セメントと、強熱減量が3質量%以上10質量%以下であるフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュが、粉砕フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間が17~27秒の範囲のものである、吹付けコンクリート用のコンクリート組成物。
【請求項2】
セメントと、強熱減量が3質量%以上10質量%以下であるフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有し、
前記粉砕フライアッシュが、前記粉砕フライアッシュと水との混合物をJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により撹拌した際に前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流が最大となるときの前記混合物の水粉体質量比が23~27%のものである、吹付けコンクリート用のコンクリート組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記粉砕フライアッシュの強熱減量が、3質量%以上10質量%以下である、請求項1または2のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項5】
前記粉砕フライアッシュの配合量が、コンクリート組成物の容積1m3当り、20kg以上150kg以下である、請求項1~2、4のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項6】
混和材及び特殊混和剤から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、請求項1~2、4~5のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項7】
前記セメントが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~2、4~6のいずれか1項に記載のコンクリート組成物。
【請求項8】
セメントと、強熱減量が3質量%以上10質量%以下であるフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュとを含有するコンクリート組成物の製造方法であって、みつかさ比重が1.087g/cm3以上1.113g/cm3以下である粉砕前のフライアッシュ原粉のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものとなるように、前記フライアッシュ原粉を粉砕して前記粉砕フライアッシュとする工程と、
前記セメントと前記粉砕フライアッシュとを配合する工程とを含む、吹付けコンクリート用のコンクリート組成物の製造方法。」
第4.取消理由について
1.令和元年7月3日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由について
(1)取消理由の概要
本件請求項8の記載は、下記の点で不備があり、本件請求項8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである(サポート要件違反)。
記
本件明細書【0055】及び【表4】に記載された実施例及び比較例で用いられたフライアッシュ原粉は、本件明細書【0037】に記載された「国内火力発電所産、強熱減量6.21質量%、みつかさ比重1.10g/cm3」のものであるところ、フライアッシュ原粉は、一般に微粉炭の種類や火力発電所の運転状態等に依存して、みつかさ比重以外の性状も異なることが当業者における技術常識であることを踏まえると、上記の実施例及び比較例で用いられたフライアッシュ原粉の場合には、みつかさ比重の増加量を「1.5%以上3.0%以下」とすることが適切な範囲であったとしても、みつかさ比重以外の性状が異なる他のフライアッシュ原粉においてまで、その範囲が適切であると一般化することは技術常識から判断できない。
してみれば、本件発明8については、「吹付けコンクリート用」として「対費用効果及び環境負荷低減に優れ、高いレベルでの材料分離抵抗性及び/又衝撃変形抵抗性を確保し、施工性に優れたコンクリート組成物を提供すること」という課題解決ができないものを含み、特定されていることになるから、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
(2)取消理由についての判断
取消理由は妥当なものと認められるので、本件請求項8に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。
2.平成31年2月8日付け取消理由通知書で通知した取消理由について
(1)取消理由の概要
取消理由1(サポート要件):訂正前の本件請求項3の「粉砕フライアッシュは、粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものである」との発明特定事項、及び、訂正前の本件請求項8に係る「粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したものとなるように、前記フライアッシュ原粉を粉砕」との発明特定事項については、本件明細書【0006】等から把握される「対費用効果及び環境負荷低減に優れ、高いレベルでの材料分離抵抗性及び/又衝撃変形抵抗性を確保し、施工性に優れたコンクリート組成物を提供すること」という課題解決がなされる手段として、十分な特定であるとは当業者が認識できないものであるという点で、訂正前の特許請求の範囲の請求項3、8の記載は不備があるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
取消理由2(明確性要件):訂正前の本件請求項3に係る発明は、「コンクリート組成物」という物の発明であるところ、「粉砕前のみつかさ比重」という特定事項は、この組成物に含まれる粉砕後の粉砕フライアッシュから測定可能な物理的性質ではなく、その技術的な意味が不明であるという点で、訂正前の特許請求の範囲の請求項3の記載は不備があるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
取消理由3(新規性):訂正前の本件請求項1、2、4に係る発明は、申立人1の提出した甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。
取消理由4(進歩性):訂正前の本件請求項1、2、4-7に係る発明は、申立人1の提出した甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
取消理由5(先願):訂正前の本件請求項1-8に係る発明は、本件と同日に出願された特願2018-16549号(特許第6414350号)に係る発明と同一と認められ、かつ、協議を行うことができないから、特許法第39条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2)取消理由1についての判断
訂正により、請求項3は削除された。また、訂正後の請求項8の記載については、上記1.のとおりである。
よって、取消理由1は理由がない。
(3)取消理由2についての判断
訂正により、請求項3は削除された。
よって、取消理由2は理由がない。
(4)取消理由3及び4についての判断
ア.本件発明1について
(ア)引用文献に記載された発明
申立人1の提出した甲第2号証(特開2001-9417号公報。以下、「甲2」という。)には、フライアッシュを含む石炭火力発電所の石炭灰を、ボールミル又は振動ミルによって球状粉砕し、改質された石炭灰の全量をコンクリート用フライアッシュとして用いることについての記載がある(【0004】)。そして、ミルの調整により、JIS A 6201-1999に規定された粉末度のフライアッシュI種からIV種までの何れのフライアッシュも製造できることが記載されており(【0005】)、これらの流動性はフロー値比により評価されることが記載されている(【0009】【0010】表2)。
そうすると、甲2には、
「フライアッシュ原粉を粉砕し、JIS A 6201-1999に規定するフライアッシュIII、IV種のフライアッシュに適合するように粉末度及びフロー値比が調整されたフライアッシュを含むコンクリート」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
(イ)本件発明1と引用発明との対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、両者は、粉砕フライアッシュを含むコンクリートの発明であって、粉砕フライアッシュが流動性に係る特性値を有している点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明1は、「セメントと、」「粉砕フライアッシュとを含有し」た「吹付けコンクリート用のコンクリート組成物」であるのに対し、引用発明は、粉砕されたフライアッシュを含むコンクリートがどのような組成物であるのか明示されていない点。
相違点2:本件発明1は、粉砕フライアッシュが、強熱減量が3質量%以上10質量%以下であるフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュであるのに対し、引用発明は、フライアッシュの強熱減量が不明な点。
相違点3:本件発明1は、粉砕フライアッシュが、粉砕フライアッシュ100質量部に対して水50質量部を含むフライアッシュペーストのJAロート流下時間が17~27秒の範囲のものであるのに対し、引用発明は、粉砕されたフライアッシュがJIS A 6201-1999に規定するフロー値比の調整されたものである点。
(ウ)相違点1~3について
まず、相違点1について検討する。
本件明細書の【0030】には、「吹付けコンクリートは、コンクリート組成物と水とを含むコンクリートを圧送し圧縮空気を用いてノズル先端から所定箇所に吹付けて硬化させる工法に用いるコンクリートをいう。コンクリートの吹付け工法において、吹付けられたコンクリートがその衝撃で骨材が跳ね返ってしまい、計画量のコンクリートが吹き付けられず、コンクリート量にロスが生じる現象をリバウンドといい、リバウンド低減効果とは、吹き付けられたコンクリートが衝撃に耐えて、骨材が跳ね返らず、計画量に近いコンクリートを吹き付けることができ、コンクリートのロスが少ない効果をいう。リバウンド低減効果を有するコンクリート組成物は、骨材と、骨材以外の成分(セメント、フライアッシュなど)との分離が少なく、すなわち、材料分離抵抗性が高い。また、リバウンド低減効果を有するコンクリート組成物は、骨材が跳ね返らず、衝撃変形抵抗性が高い。吹付けコンクリートのリバウンド低減効果の優劣を確認することで、間接的に材料分離抵抗性又は衝撃変形抵抗性の優劣を評価することができる。」と記載されている。
また、同じく【0053】には、「(拡がり回数)
表3に示す配合で製造したコンクリート組成物につき、材料分離抵抗性の評価試験として、ドイツ工業規格であるDIN1048に準拠した試験を行った。この試験は、吹付コンクリートに要求される高いレベルでの材料分離抵抗性を評価するものであり、この試験値によって吹付コンクリートのリバウンド低減を間接的に評価できる。また、この試験によってリバウンド低減に必要とされる衝撃変形抵抗性も評価できる。
この試験方法について概説すると、JIS A 1101:2014 コンクリートのスランプ試験方法によるスランプ(cm)を測定した後、スランプ板の片側を4cm持ち上げて落下させる操作を繰り返す。この落下操作の繰り返しにより、コンクリートのフローが60cmに到達した際の回数(拡がり回数)を測定した。この拡がり回数が多いほど、吹付コンクリートとしての材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性に優れ、リバウンド低減に効果があるという評価となる。」と記載されており、さらに【0055】に「表4に示す結果により、実施例1~6のコンクリート組成物は、フライアッシュペーストのJA流下時間が17~27秒であり、流動性に優れるとともに適度な粘性を有し、施工性を向上することが可能になるとともに、比較例1~9のコンクリート組成物に比べて拡がり回数が増加した。」と記載されている。
以上の本件明細書の記載事項からすれば、本件発明1の「吹付けコンクリート用のコンクリート組成物」は、コンクリートの吹付け工法において求められるリバウンド低減効果を奏するために、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性に優れたものであって、吹付けコンクリートに特に適したものということができ、具体的には本件明細書に記載の拡がり回数試験においてその効果が裏付けられたものであるといえる。
これに対し、引用発明について、甲2には、コンクリート組成物が吹付けコンクリートに特に適したものであることは記載も示唆もない。よって、相違点1は実質的なものである。
そして、申立人1及び申立人2の提出した証拠について検討しても、引用発明のコンクリート組成物を特に吹付け用とすることについては導き出すことができない。
よって、相違点2、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(エ)申立人2の主張について
(エ-1)周知技術の点
申立人2は、その提出した甲第8号証(以下、「甲8」という。)~甲第11号証には、フライアッシュを含むコンクリートを吹付け用とすることについて記載されていて、その用途は周知であるから、相違点は格別のものではないことを主張する。
しかし、本件発明1は、上記したように、特定されたコンクリート組成物について、拡がり回数を測定する試験によって、吹付けコンクリートとしての材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性に優れ、リバウンド低減に効果があることを見出したことに基づく発明である。そして、フライアッシュを含むコンクリートが吹付け用として仮に周知であったとしても、引用発明が吹付けコンクリートとしての材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性に優れたものであってリバウンド低減に効果があることを導き出すことはできないし、コンクリートは吹付用以外にも様々な用途が考えられることが技術常識であるから、引用発明が吹付用とされるに等しいものであるともいえず、上記の主張は採用できない。
(エ-2)甲8に記載された発明との対比の点
申立人2は、本件発明1は、甲8に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであることも主張する。
しかし、本件発明1と甲8に記載された発明とを対比すると、両者は、フライアッシュを含むコンクリート組成物を吹付け用コンクリートとする点において一致するものの、少なくとも上記相違点3と同様の相違点があり、その解消が当業者にとって容易なことであるとはいえない。
申立人2は、甲8に記載されている粉砕フライアッシュのブレーン比表面積が1500~4300cm2/gであってJISに規定するフライアッシュIII種(ブレーン比表面積が2500cm2/g以上)あるいはIV種(ブレーン比表面積が1500cm2/g以上)に相当するものを含む旨主張するが、甲8には使用する粉砕フライアッシュとJIS規格との関係について記載も示唆もないし、甲第12~15号証を参酌しても、ブレーン比表面積が1500~4300cm2/gであることとJAロート流下時間が17~27秒であることとの相関は不明であるから、本件発明1は甲8に記載された発明であるとも、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、上記主張は採用できない。
イ.本件発明2について
本件発明2と引用発明とを対比すると、両者は、粉砕フライアッシュを含むコンクリートの発明であって、粉砕フライアッシュが流動性に係る特性値を有している点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1’:本件発明2は、「セメントと、」「粉砕フライアッシュとを含有し」た「吹付けコンクリート用のコンクリート組成物」であるのに対し、引用発明は、粉砕されたフライアッシュを含むコンクリートがどのような組成物であるのか明示されていない点。
相違点2’:本件発明2は、粉砕フライアッシュが、強熱減量が3質量%以上10質量%以下であるフライアッシュ原粉を粉砕した粉砕フライアッシュであるのに対し、引用発明は、フライアッシュの強熱減量が不明な点。
相違点4:本件発明2は、粉砕フライアッシュが、該粉砕フライアッシュと水との混合物をJIS R5201の「9.2.3 機械練り用練混ぜ機」により撹拌した際に前記機械練り用練混ぜ機に流れる電流が最大となるときの前記混合物の水粉体質量比が23~27%のものであるのに対し、引用発明は、粉砕されたフライアッシュがJIS A 6201-1999に規定するフロー値比の調整されたものである点。
まず、相違点1’について検討するに、上記ア.で本件発明1と引用発明との対比で検討した相違点1と同様であり、本件発明2の「吹付けコンクリート用のコンクリート組成物」も、コンクリートの吹付け工法において求められるリバウンド低減効果を奏するために、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性に優れたものであって、吹付けコンクリートに特に適したものということができ、具体的には本件明細書に記載の拡がり回数試験においてその効果が裏付けられたものであるといえるのに対し、引用発明について、甲2には、コンクリート組成物が吹付けコンクリートに特に適したものであることは記載も示唆もない。
よって、相違点1’は相違点1と同様に実質的なものである。
そして、申立人1及び申立人2の提出した証拠について検討しても、引用発明のコンクリート組成物を特に吹付け用とすることについては導き出すことができない。
よって、相違点2’、4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明ではなく、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ.本件発明4~7について
本件発明4~7については、本件発明1又は2の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記ア.又はイ.と同様、甲第2号証に記載された発明ではなく、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ.小括
以上のとおりであるから、取消理由3及び4は何れも理由がない。
(5)取消理由5についての判断
訂正により、本件発明1、2、4~7は、何れも「吹付けコンクリート用のコンクリート組成物」に係る発明となり、同日出願に係る発明とは同一ではないものとなった。
よって、取消理由5は理由がない。
(6)まとめ
以上のとおりであるから、平成31年2月8日付け取消理由通知書で通知した理由は何れも理由がない。
第5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.申立人1の主張する申立理由について
申立人1は、甲第1号証~甲第7号証(以下、それぞれ「甲1-1」~「甲7-1」という。)を証拠方法として、以下の申立理由1~4により、訂正前の本件請求項1~8に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。
申立理由1:訂正前の本件請求項1~5、7、8に係る発明は、甲1-1に記載された発明であるから、本件請求項1~5、7、8に係る特許は、特許法第29条第1項に違反してされたものである。
申立理由2(取消理由通知で採用):訂正前の本件請求項1~8に係る発明は、甲2-1~7-1に記載された発明及び技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものである。
申立理由3:訂正前の本件請求項1~8に係る発明は、「減水剤」を含むものと解されるが明細書には記載がなく、減水剤を含む場合にはコンクリート組成物の性状が大きく異なることが当業者の技術常識であるから、課題を解決しうる発明であると認識できず、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。よって、訂正前の本件請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
申立理由4:訂正前の本件請求項1~8に係る発明は、用途が特定されていないが、本件明細書の発明の詳細な説明にはコンクリート組成物の用途は吹付けコンクリートのみが記載されているものである。よって、訂正前の本件請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2.申立人2の主張する申立理由について
申立人2は、甲第1号証(以下、「甲1-2」という。)~甲第5号証を証拠方法として、以下の申立理由5~8により、訂正前の本件請求項1~8に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。
申立理由5:訂正前の本件請求項1、3~8に係る発明は、甲1-2に記載された発明及び技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1、3~8に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものである。
申立理由6:訂正前の本件請求項1~8に係る発明に係るフライアッシュ粉砕物を得るための条件が本件明細書には十分に記載されておらず、フライアッシュ粉砕物を特定する要件が一般的ではないため、技術常識を考慮しても当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある。よって、訂正前の本件請求項1~8に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
申立理由7(取消理由通知で部分的に採用):訂正前の本件請求項1~8に係る発明は、請求項1の「粉砕フライアッシュ」が「JAロート流下時間が17~27秒の範囲のもの」であれば発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないし、請求項2の「粉砕フライアッシュ」が「水粉体質量比が23~27%のもの」であれば発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないし、請求項3、8の「粉砕フライアッシュ」が「粉砕前のみつかさ比重に対して粉砕後のみつかさ比重が1.5%以上3.0%以下増加したもの」であれば発明の課題を解決できるとは当業者が認識できないし、請求項4~7も同様で課題を解決しうる発明であると認識できないから、何れも本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。よって、訂正前の本件請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
申立理由8(取消理由通知で採用):訂正前の本件請求項3に係る発明は、コンクリート組成物に含有されていない「粉砕前のフライアッシュ」に基づいて算出されるみつかさ密度の増加率を特定していて明確でない。よって、訂正前の本件請求項3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3.当審の判断
(1)申立理由1について
甲1-1には、ミル等を用いて粉砕したフライアッシュを含むコンクリートの発明について記載されている。しかし、甲1-1には、粉砕フライアッシュを吹付けコンクリート用とすることやそのJAロート流下時間、最大電流時の水粉体質量比についての記載がなく、加えてフライアッシュのJIS規格でI種又はII種のものを指向する旨の記載があることからして、粉砕の程度が本件発明と比べて相対的に大き過ぎると推認されるものである。
そうすると、甲1-1に記載された発明は、本件発明1又は2と対比したときに、少なくとも、上記第4で検討した相違点1、1’、3、4を有するものであるから、取消理由3及び4についての判断と同様であり、しかも粉砕の程度も異なるとすれば、申立理由1は理由がない。
(2)申立理由3について
減水剤の含有によってコンクリート組成物の性状が大きく異なることが技術常識であったとしても、本件発明の発明特定事項と、拡がり回数に基づくリバウンド低減効果、即ち、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性との因果関係に対し、減水剤の含有が有意な影響を及ぼすとは直ちにはいえないから、申立理由3は理由がない。
(3)申立理由4について
本件発明は、リバウンド低減効果による進歩性の主張がなされ、訂正により、吹付けコンクリート用となったから、申立理由4は理由がない。
(4)申立理由5について
甲1-2には、JIS A 6201に規定するフライアッシュ又は粉砕したフライアッシュを含むコンクリートの発明について記載されている。しかし、甲1-2には、粉砕フライアッシュを吹付けコンクリート用とすることやそのJAロート流下時間、最大電流時の水粉体質量比についての記載がないから、甲1-2に記載された発明は、本件発明1又は2と対比したときに、少なくとも、上記第4で検討した相違点1、1’、3、4を有するものである。
よって、取消理由3及び4についての判断と同様であり、申立理由5は理由がない。
(5)申立理由6について
本件発明は、訂正後の発明特定事項により、拡がり回数に基づくリバウンド低減効果、即ち、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性を有し、吹付けコンクリート用に適した発明であることが、発明の詳細な説明、特に【0030】の吹付けコンクリート用途についての説明、【0036】~【0057】の実施例等の記載から十分に理解できる。そして、原料フライアッシュについては特別のものではないことが【0029】に記載され、フライアッシュの粉砕については、その方法が【0039】に示され、その程度についてはJIS A 6201のII種灰との比較が示されていて、本件発明の発明特定事項となっている物性値についてもその測定法が【0043】、【0044】等に示されていることから、当業者であれば、過度な試行錯誤や複雑高度な実験等を要することなく発明を実施することができるものと認められる。
よって、申立理由6は理由がない。
(6)申立理由7について
本件明細書において、吹付けコンクリート用途に適した粉砕フライアッシュを含むコンクリート組成物とするという課題に対し、実施例に示されたフライアッシュ原粉は実質的に一種類のみではあるものの、フライアッシュの粉砕の程度が本件発明1に係る「JAロート流下時間が17~27秒の範囲のもの」又は本件発明2に係る「水粉体質量比が23~27%のもの」により複数示され、それらの数値と拡がり回数に基づくリバウンド低減効果、即ち、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性との相関を考察することができる記載となっているから、当業者であれば請求項に特定された要件によって上記課題の解決されることが認識できるといえる。本件発明1又は2を引用した本件発明4~7についても同様である。
よって、申立理由7は理由がない。
申立人2は、コンクリート組成物の施工性、材料分離抵抗性及び衝撃変形抵抗性は、水、セメント、粉砕フライアッシュ、細骨材及び粗骨材の配合量に大きく依存することを主張するが、本件明細書では、コンクリート組成物における粉砕フライアッシュのみの条件を変化させ比較しているから、水、セメント、細骨材及び粗骨材に依存した影響は考慮する必要がないし、本件発明1、2に係る上記発明特定事項と、拡がり回数に基づくリバウンド低減効果、即ち、材料分離抵抗性及び/又は衝撃変形抵抗性との因果関係に対し、粉砕フライアッシュ以外の要素の配合量が有意な影響を及ぼすと直ちにはいえないから、上記主張は採用できない。
第6.むすび
以上のとおり、請求項8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
請求項1、2、4~7に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1、2、4~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項3は、訂正により削除されたため、同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700912