特許異議申立
2018-700714
セメント組成物、その製造方法、及びセメント組成物用フライアッシュの製造方法
- 審判番号
- 2018-700714
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-142304
- 登録番号
- 特許第6288355号(P6288355)
- 請求日
- 2018年09月05日
- 審決日
- 2019年04月23日
- 公報発行日
- 2019年07月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友大阪セメント株式会社
- 【権利者代理人】大谷 保
- 【異議申立人】林 愛子
- 【異議申立人】浜 俊彦
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 賢一
- 審判官 菊地 則義
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.851-YAA(C04B) / P1651.853-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6288355号発明「セメント組成物、その製造方法、及びセメント組成物用フライアッシュの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6288355号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6、〔7、8〕について訂正することを認める。
特許第6288355号の請求項1、2、4~8に係る特許を維持する。
特許第6288355号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6288355号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年7月21日(優先権主張 平成29年4月28日)の出願であって、平成30年2月16日にその特許権の設定登録がされ、同年3月7日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、その特許について、同年9月5日付けで特許異議申立人林愛子により甲第1号証~甲第7号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、同年9月6日付けで特許異議申立人浜俊彦により甲第1号証~甲第4号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、同年10月30日付けで取消理由が通知され、平成30年12月26日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成31年2月12日付けで特許異議申立人浜俊彦より意見書の提出がされ、平成31年2月15日付けで特許異議申立人林愛子より参考資料1、2と共に意見書の提出がされたものである。
(証拠方法)
(特許異議申立人林愛子より)
甲第1号証:山本武志他、「フライアッシュのポゾラン反応に伴う組織緻密化と強度発現メカニズムの実験的考察」、土木学会論文集E、Vol.63、No.1、p.52-65、2007.1
甲第2号証:特開2001-354458号公報
甲第3号証:川上晃他、「未燃カーボンを多量に含んだフライアッシュと高性能AE減水剤の作用」、コンクリート工学年次論文報告集、Vol.21、No.2、1999、p.127-132
甲第4号証:田端辰伍他、「北陸産分級フライアッシュを用いたコンクリートの実用化に向けた検証」、コンクリート工学年次論文集、Vol.35、No.1、2013、p.151-156
甲第5号証:橋本徹他、「北陸産分級フライアッシュを用いたコンクリートの配合と強度」、コンクリート工学年次論文集、Vol.35、No.1、2013、p.133-138
甲第6号証:齊藤美来他、「粗粒フライアッシュを用いた高強度セメントの流動性と水熱反応」、Cement Science and Concrete Technology、Vol.66、2012、p.9-14
甲第7号証:安部英一他、「石炭灰中の未燃炭分低減のための2,3の検討」、粉体工学会誌、Vol.24、No.10(1987)、p.640-646
参考資料1:俵道和他、「フライアッシュ原粉を多量使用したコンクリートの適用性に関する研究」、コンクリート工学年次論文集、Vol.37、No.1、2015、p.133-138
参考資料2:コンクリートライブラリー132、「環境型社会に適合したフライアッシュコンクリートの最新利用技術 -利用拡大に向けた設計施工指針試案-」、第1版第1刷 社団法人土木学会、平成21年12月21日 p.329-331
(特許異議申立人浜俊彦より)
甲第1号証:山本武志他、「フライアッシュのポゾラン反応に伴う組織緻密化と強度発現メカニズムの実験的考察」、土木学会論文集E、Vol.63、No.1、p.52-65、2007.1
甲第2号証:谷口円他、「フライアッシュの反応速度に関する研究」、コンクリート工学年次論文集、Vol.29、No.1、2007、p.189-194
甲第3号証:山本武志他、「フライアッシュのポゾラン反応性を評価するための促進化学試験法(API法)の適用性の拡張」、コンクリート工学年次論文報告集、Vol.30、No.1、2008、p.195-200
甲第4号証:JIS A6201:1999「コンクリート用フライアッシュ」、日本規格協会、p.1-5、平成11年2月22日
(なお、上記2つの甲第1号証については、特許異議申立人林愛子の提出したものと特許異議申立人浜俊彦の提出したものとが同じ論文であるため、以下、区別せず単に「甲第1号証」という。)
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された
「4500cm2/g以下であること」を、
「4500cm2/g以下であり、前記フライアッシュ中の未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下であること」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に記載された
「請求項1から3のいずれか1項に記載の」を、
「請求項1又は2に記載の」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に記載された
「請求項1から4のいずれか1項に記載の」を、
「請求項1、2又は4に記載の」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に記載された
「原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合し、」を、
「原料フライアッシュと解砕フライアッシュの全量とを混合し、」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に記載された
「原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合し、」を、
「原料フライアッシュと解砕フライアッシュの全量とを混合し、」に訂正する。
2.訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された発明について、訂正前の請求項1を引用する請求項3に記載された「前記フライアッシュ中の未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下である」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2~4について
訂正事項2は請求項を削除するものであり、訂正事項3、4はそれに伴い選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、何れも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項5、6について
訂正事項5、6は、それぞれ訂正前の請求項6、7に記載された発明について、本件明細書【0042】に「下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合して、製造例1~7の混合フライアッシュを得た。・・・製造例1~7のフライアッシュは、原料フライアッシュに対して、除去したフライアッシュはなく、原料のフライアッシュの全てを使用している」と記載されていることに基づき記載を明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2~5が、訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正事項1~4の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1~5について請求されたものである。また、訂正前の請求項8が、訂正前の請求項7を引用するものであるから、訂正事項6の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項7、8について請求されたものである。
また、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕、6、〔7、8〕について訂正を認める。
第3 特許異議申立について
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~8に係る発明(以下、「本件発明1~8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。
「 【請求項1】
セメントと、フライアッシュとを含み、該フライアッシュ含有量が30質量%以下であり、該フライアッシュが体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たし、前記フライアッシュ中の非晶質相量が、前記フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上75.1質量%以下であり、前記フライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下であり、前記フライアッシュのブレーン比表面積が3000cm2/g以上4500cm2/g以下であり、前記フライアッシュ中の未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下であることを特徴とする、セメント組成物。
0.25≦(D50-D10)/(D90-D50)≦0.47 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【請求項2】
前記フライアッシュ含有量が12質量%以上である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量が1.5質量%以下である、請求項1又は2のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
前記フライアッシュ中の未燃カーボンに対する前記フライアッシュ中の粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率が35%以下である、請求項1、2又は4のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュの全量とを混合し、混合したフライアッシュ中の非晶質相量が、前記混合したフライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上75.1質量%以下であり、前記混合したフライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下であり、前記混合したフライアッシュのブレーン比表面積が3000cm2/g以上4500cm2/g以下である、セメント組成物用フライアッシュの製造方法。
0.25≦(D50-D10)/(D90-D50)≦0.47 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【請求項7】
原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュの全量とを混合し、混合したフライアッシュ中の非晶質相量が、前記混合したフライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上75.1質量%以下であり、前記混合したフライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下であり、前記混合したフライアッシュのブレーン比表面積が3000cm2/g以上4500cm2/g以下であり、前記混合したフライアッシュをセメント組成物の全量に対して30質量%以下となるように配合する、セメント組成物の製造方法。
0.25≦(D50-D10)/(D90-D50)≦0.47 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【請求項8】
前記混合したフライアッシュをセメント組成物の全量に対して12質量%以上となるように配合する、請求項7に記載のセメント組成物の製造方法。」
2.取消理由の概要
訂正前の請求項1~8に係る特許に対して通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
理由1(新規性)本件特許の請求項1、2、4、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。
理由2(サポート要件)本件特許の請求項1、2、4~8に係る発明は、本件発明の課題を解決していない場合を含んで特定されたものとなっており、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3.取消理由に対する当審の判断
(1)取消理由1(新規性)について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、フライアッシュを混合したセメント組成物の発明について具体的な実験例が記載されており(53頁左欄1行-54頁右欄10行)、セメント置換率25%で混合するためのフライアッシュとして、原粉及び分級された後の各種のものが記載されている(54頁「(2)使用材料」)。
ここで、縦軸として体積基準の累積頻度が%で示されているレーザー回折・散乱法による粒度分布(54頁の図-2~図-4)について、各種フライアッシュの内、原粉試料の「MS(原)」に着目すると、D10が3.3~3.4μm程度、D50が20.8~21.3μm程度、D90が60.0~64.5μm程度であることが読み取れるから、このフライアッシュの(D50-D10)は17.4~18.0μm程度、(D90-D50)は38.7~43.7μm程度であり、0.39<(D50-D10)/(D90-D50)<0.47と見積もることができる。
また、「MS(原)」のフライアッシュに関し、甲第1号証の53頁の表-1には、強熱減量が1.6質量%、Fe2O3について化学組成(%)が6.05、比表面積3050cm2/g、と記載されており、61頁表-3には、ガラス化率71.5%、マグネタイト含有率1.0(質量%)、ヘマタイトが検出強度以下、と記載されている。そして、本件明細書【0020】に記載された定義式に当てはめると、フライアッシュ中の非晶質相量(質量%)は、ガラス化率と強熱減量との差で69.9質量%となり、結晶相中の鉄(Fe)は、ヘマタイト中のものはゼロと見積もるとマグネタイト含有率に基づき0.72質量%となり、化学組成(%)が6.05であるFe2O3に基づく全Fe量4.23質量%から非晶質相中のFe量は3.51質量%となり、本件明細書【0023】に記載された定義式に当てはめると、フライアッシュの非晶質相中のFe量(質量%)は、(3.51/69.9)×100=5.0質量%となる。
以上のことから、「MS(原)」のフライアッシュを混合したセメント組成物に係る発明として、甲第1号証には、
「セメントと、フライアッシュとを含み、該フライアッシュ含有量が25質量%であり、該フライアッシュが体積基準の粒度分布において下記式(A)を満たし、前記フライアッシュ中の非晶質相量が、前記フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して69.9質量%であり、前記フライアッシュの非晶質相中のFe量が5.0質量であり、前記フライアッシュのブレーン比表面積が3050cm2/gであり、前記フライアッシュの強熱減量が1.6質量%である、セメント組成物。
0.39<(D50-D10)/(D90-D50)<0.47 (A)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)」
の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
イ 本件発明1と甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明において特定されている「フライアッシュ含有量が25質量%」は本件発明1の「フライアッシュ含有量が30質量%以下」に相当し、甲1発明の「フライアッシュ中の非晶質相量69.9質量%」は本件発明1の「フライアッシュ中の非晶質相量55質量%以上75.1質量%以下」に相当し、甲1発明の「フライアッシュの非晶質相中のFe量5.0質量%」は本件発明1の「フライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下」に相当し、甲1発明の「フライアッシュのブレーン比表面積が3050cm2/g」は本件発明1の「フライアッシュのブレーン比表面積が3000cm2/g以上4500cm2/g以下」に相当し、甲1発明の「フライアッシュが体積基準の粒度分布において」式(A)「0.39<(D50-D10)/(D90-D50)<0.47」を満たすことは、本件発明1における式(I)「0.25≦(D50-D10)/(D90-D50)≦0.47」を満たすことに相当するから、両者は、
「セメントと、フライアッシュとを含み、該フライアッシュ含有量が30質量%以下であり、該フライアッシュが体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たし、前記フライアッシュ中の非晶質相量が、前記フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上75.1質量%以下であり、前記フライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下であり、前記フライアッシュのブレーン比表面積が3000cm2/g以上4500cm2/g以下である、セメント組成物。
0.25≦(D50-D10)/(D90-D50)≦0.47 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)」
である点で一致し、
本件発明1は、フライアッシュ中の未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下であるのに対し、甲1発明は、フライアッシュの強熱減量が1.6質量%である点で相違している(以下、「相違点1」という。)。
相違点1について検討するに、本件発明1の未燃カーボン量は、本件明細書【0024】により、JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」に準拠して測定した強熱減量をフライアッシュ中の未燃カーボン量(質量%)としたものであるから、強熱減量が3質量%以上15質量%以下であることに相当するので、両発明の数値の相違は物の発明として実質的なものである。
よって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明とはいえない。
ウ 本件発明2、4、5について
本件発明2、4、5は、何れも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記イで検討したと同様に、甲第1号証に記載された発明とはいえない。
エ 小括
以上のとおりであるから、取消理由1は理由がない。
(2)取消理由2(サポート要件)について
ア 本件発明の解決しようとする課題について
本件明細書の【0006】、【0007】の記載等によれば、本件発明の解決しようとする課題は、石炭火力発電所から生成されるフライアッシュの量が増大していることに伴い、フライアッシュの全てを有効に利用することが求められていることを背景として、セメント組成物に用いるためのフライアッシュに関し、分級によって粗粉を除去することなく、石炭火力発電所などから得られる原料フライアッシュの全てについて、流動性の向上、強度発現性の寄与などの特性を維持して、混和材料として使用できるようにすることにあると認められる。
イ 本件発明1について
本件発明1については、セメント組成物という物の発明に係るものであり、該セメント組成物は、「セメントと、フライアッシュとを含み、該フライアッシュ含有量が30質量%以下であり」、該フライアッシュが、「体積基準の粒度分布」、「非晶質相量」、「非晶質相中のFe量」、「ブレーン比表面積」において特定の要件を満たす発明特定事項を有していると共に、上記訂正により、「前記フライアッシュ中の未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下であること」をさらに特定したものである。
ここで、「前記フライアッシュ中の未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下であること」については、本件明細書の【0024】に「フライアッシュ中の未燃カーボン量は少ないほうが好ましいが、石炭火力発電所から得られるフライアッシュには、分級などにより一部の未燃カーボンの除去を行わない限り、通常3質量%以上の未燃カーボンが含まれる。」と記載され、同じく「フライアッシュ中の未燃カーボン量が、15質量%以下であれば、フライアッシュが、体積基準の粒度分布において前記式(I)を満たすことによって、セメント組成物の良好な流動性及び強度発現性を維持することができる。フライアッシュ中の未燃カーボン量が多すぎると、フライアッシュ中の粗大な未燃カーボンが含まれている割合が少ない場合であっても、ポーラスな形状の未燃カーボンによって、強度発現性が低下する場合がある。」と記載されていることから、石炭火力発電所などから得られる原料フライアッシュの全てを混和材料として有効にセメントに利用した場合に、流動性の向上、強度発現性の寄与などの特性を維持できるようにするための発明特定事項であると認められるものである。
そして、このフライアッシュ中の未燃カーボン量に加え、セメント組成物中のフライアッシュ含有量、フライアッシュの「体積基準の粒度分布」、「非晶質相量」、「非晶質相中のFe量」、「ブレーン比表面積」において特定の要件を満たすことについては、それぞれ本件明細書の【0018】、【0013】~【0017】、【0019】~【0020】、【0021】~【0023】、【0025】において詳細な説明がなされ、実施例においてセメント組成物についての流動性、モルタル圧縮強さ等を測定することにより、流動性の向上、強度発現性の寄与への裏付けがなされていると認められるものである。
してみれば、本件発明1は上記課題を解決できる発明として本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人林愛子は、意見書において、本件発明1は、フライアッシュについて、粒度分布、非晶質相量、非晶質相中のFe量、ブレーン比表面積、及び未燃カーボン量を規定しただけのものであるから、分級等を経て得られるフライアッシュがこれら特性を満たす場合も包含するものとなっており、「分級によって粗粉を除去することなく、石炭火力発電所などから得られる原料フライアッシュの全てについて、混和材料として使用」することに対応した特徴を有しているとは認められない旨主張する。また、特許異議申立人浜俊彦は、同様の理由で、本件発明1は、「原料フライアッシュから分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュの少なくとも一部を除去する工程を経て得られたフライアッシュ」、「二種類の原料フライアッシュをそれぞれ分級し、これらの分級フライアッシュを混合する工程を経て得られたフライアッシュ」に係るものを包含しているから、「分級によって粗粉を除去することなく、石炭火力発電所などから得られる原料フライアッシュの全てについて、混和材料として使用」することに対応した特徴を有しているとは認められない旨主張する。
しかし、上記の異議申立人による主張は、石炭火力発電所などから得られる原料フライアッシュについて、その全量を使用せずに分級等で一部を除去すること等を経て本件発明1の発明特定事項を満たす場合についての可能性を述べただけであって、何れも具体的な事実をもって主張されているものではない。
したがって、本件発明1に係るフライアッシュが、本件特許に係る出願の優先日において、上記課題を解決することなく実際に得られるものであると、当業者が認識できるとは認められない。
よって、上記主張は何れも採用できない。
ウ 本件発明2、4、5について
本件発明2、4、5については、何れも本件発明1の発明特定事項を全て含んで特定されたものであるから、本件発明1と同様に、上記課題を解決できる発明として本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
エ 本件発明6~8について
本件発明6~8については、セメント組成物用フライアッシュの製造方法又はセメント組成物の製造方法という物の製造方法の発明に係るものであり、上記訂正により、「原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュの全量とを混合し」あるいは「原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュの全量とを混合し」と特定されることとなったから、発明特定事項として、「分級によって粗粉を除去することなく、石炭火力発電所などから得られる原料フライアッシュの全てについて、混和材料として使用」することに対応した特徴を有することとなった。
よって、本件発明6~8は、上記課題を解決できる発明として本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
オ 小括
以上のとおりであるから、取消理由2は理由がない。
4.取消理由で採用しなかった異議申立理由について
(1)特許法第29条第2項(進歩性)について
ア 甲第1号証に記載された発明に基づく進歩性について
(ア)異議申立理由の概要
特許異議申立人林愛子は、訂正前の本件請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載の発明、自らの提出した甲第2、3、6、7号証の記載事項及び技術常識から当業者が容易に発明できたものである旨主張している。また、特許異議申立人浜俊彦は、訂正前の本件請求項1、2、4、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、訂正前の本件請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び技術常識(例えば、自らの提出した甲第2~4号証に記載された事項)に基づいて当業者が容易に発明できたものであることを主張している。
(イ)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証に記載された甲1発明との対比については、上記3.(1)イで検討したとおりであり、相違点1で相違する。
相違点1に関し、特許異議申立人林愛子は、訂正前の本件請求項3に係る発明に言及して(特許異議申立書25頁)、自らの提出した甲第3号証に記載されたフライアッシュB、C、D、Eは日本火力発電所由来の未処理フライアッシュであって未燃カーボン量が6~11質量%であることを述べている。しかし、甲第3号証に記載された前記フライアッシュの未燃カーボン量が6~11質量%であっても、甲1発明に係る未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下となりうることを示すものではないし、また甲1発明における未燃カーボン量(強熱減量)を1.6質量%から増加させるべき動機付けとなるものでもない。特許異議申立人林愛子の提出した甲第2、3、6、7号証にも相違点1を解消するための動機付けとなる記載事項は見当たらない。
また、特許異議申立人林愛子は、意見書において、相違点が未燃カーボン量の「3質量%以上15質量%以下」という数値限定のみであり、この範囲で格別な効果はなく、参考資料1からも強熱減量3質量%程度を臨界とした流動性や強度の改善は認められない旨主張する。しかし、そもそも甲1発明における未燃カーボン量(強熱減量)を1.6質量%から増加させるべき動機付けとなるものが見当たらないのであるから、強熱減量3質量%程度における臨界的意義を検討するまでもなく、この相違点1の解消は容易なことであるとはいえない。さらに、特許異議申立人林愛子は、意見書において、参考資料2より同一の火力発電所から産出されるフライアッシュにおいて強熱減量(未燃カーボン量)が1~3質量%程度変動することは当業者に周知である旨主張するが、甲第1号証の表-1の記載によれば、甲1発明に係るフライアッシュMS(原)においては、それを細粒に分級したMS(細)でも強熱減量2.6質量%に留まっていることから、例え変動があったとしても強熱減量が3質量%以上となるまでに至るとは認められない。
次に、特許異議申立人浜俊彦は、相違点1に関し、訂正前の本件請求項3に係る発明に言及して(特許異議申立書14~15頁)、フライアッシュ中の未燃カーボン量を3質量%以上15質量%以下であることは、極めてありふれた事項であると述べ、技術常識(例えば、自らの提出した甲第2~4号証に記載された事項)に基づき、当業者が容易に設定しうるものであると主張する。しかし、特許異議申立人浜俊彦の提出した甲第2号証に記載された北海道産の5種類のフライアッシュの内の2種類が強熱減量(Ig.Loss)の値が3%以上15%以下に相当すると認められ、同じく甲第3号証に記載された10種類のフライアッシュの内の4種類の強熱減量の値が3%以上15%以下であると認められ、同じく甲第4号証に強熱減量8.0%以下のフライアッシュがJISに規定されたものであることが記載されているものの、これらは、フライアッシュ中の未燃カーボン量を3質量%以上15質量%以下であるものが多数存在することを示すに留まり、甲1発明における未燃カーボン量(強熱減量)を1.6質量%から増加させるべき動機付けとなるものはどこにも見当たらない。
以上のことから、甲1発明において相違点1を解消することは当業者にとって容易なことであるとはいえないから、本件発明1について、甲第1号証に記載された発明に基づく進歩性欠如の理由はない。
(ウ)本件発明2、4、5について
本件発明2、4、5については、何れも本件発明1の発明特定事項を全て含んで特定されたものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明に基づく進歩性欠如の理由はない。
(エ)本件発明6~8について
本件発明6は、セメント組成物用フライアッシュの製造方法に係るものである。これに対して、甲第1号証に記載された発明のうち、甲1発明に係るフライアッシュは、上記3.(1)イで検討したとおり本件発明6の発明特定事項である式(I)を満たすものであるが、甲第1号証に記載されたとおり原粉試料の「MS(原)」であるから、少なくとも、本件発明6の発明特定事項である「原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとの全量とを混合」して製造されたものでないことは明らかである。そうすると、甲第1号証に記載された発明に基づき、本件発明6の前記した発明特定事項を導き出すことはできない。
同様のことが、本件発明7、8のセメント組成物の製造方法に係るフライアッシュについてもいえる。
してみれば、特許異議申立人林愛子の主張する甲第1号証に記載された発明に基づく本件発明6~8についての異議申立理由は、理由がない。
イ 特許異議申立人林愛子の提出した甲第4、5号証に記載された発明に基づく進歩性について
(ア)異議申立理由の概要
特許異議申立人林愛子は、訂正前の本件請求項1~8に係る発明は、自らの提出した甲第4、5号証に記載の発明、甲第2、3、6、7号証の記載事項及び技術常識から当業者が容易に発明できたものである旨主張している。
(イ)本件発明1について
特許異議申立人林愛子の提出した甲第4号証には、北陸産(石川県七尾大田火力発電所産)の分級フライアッシュを用いたコンクリートの発明について記載されており、同じく甲第5号証には、北陸産分級フライアッシュの性質等についての記載があり、136頁図-4によれば、そのフライアッシュ原粉についてのレーザー回折法による粒度分布の測定結果として、D10が3.37μm、D50が20.86μm、D90が73.84μmであることが認められる。
ここで、特許異議申立人林愛子は、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明のフライアッシュとして、甲第5号証に記載されたフライアッシュ原粉を採用したものにすぎないことを進歩性欠如の主たる理由として述べているが、甲第4号証には、コンクリートに適用するのは分級フライアッシュであると記載されているのであるから、分級フライアッシュに換えて甲第5号証に記載されたフライアッシュ原粉を採用する動機付けはない。
さらに、甲第5号証に記載されたフライアッシュ原粉については、その表-5に強熱減量に相当するIg.lossは1.8%と記載されているから、本件発明1が「フライアッシュ中の未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下である」と特定されていることとも相違し、この相違点については、上記ア(イ)で相違点1について検討したと同様に、特許異議申立人林愛子の提出した甲第2、3、6、7号証並びに参考資料1、2の記載事項を考慮しても、当業者が容易に解消できるものではない。
(ウ)本件発明2、4、5について
本件発明2、4、5については、何れも本件発明1の発明特定事項を全て含んで特定されたものであるから、本件発明1と同様に、甲第4、5号証に記載された発明に基づく進歩性欠如の理由はない。
(エ)本件発明6~8について
本件発明6は、セメント組成物用フライアッシュの製造方法に係るものである。これに対して、甲第5号証に記載されたフライアッシュ原粉は、分級や解砕を経ていないから、少なくとも、本件発明6の発明特定事項である「原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとの全量とを混合」して製造されたものでないことは明らかである。また、甲第4号証にはフライアッシュの体積基準の粒度分布等の具体的な性質についての記載はない。そうすると、甲第4、5号証に記載された発明に基づき、本件発明6の前記した発明特定事項を導き出すことはできない。
同様のことが、本件発明7、8のセメント組成物の製造方法に係るフライアッシュについてもいえる。
してみれば、特許異議申立人林愛子の主張する甲第4、5号証に記載された発明に基づく本件発明6~8についての異議申立理由は、理由がない。
(2)特許法第36条第4項(実施可能要件)について
特許異議申立人浜俊彦は、訂正前の本件請求項6に記載された「原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合」することについて、式(I)を満たす混合フライアッシュを得るために、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとをどのように混合すればよいか、本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0029】~【0031】)には具体的に記載されておらず、本件特許明細書の実施例と比較例(【0042】、【0043】)を参照しても、原料フライアッシュの粒度分布、分級された粗粉の粒度分布及び割合、粗粉をどのような粒度分布となるように解砕したか等について記載されていないから、本件特許明細書は当業者が発明を実施できるように明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
この主張に関し、火力発電所等から産出されるフライアッシュの性状は、一般に供給元によって大きく異なり、同一の火力発電所であってもある程度の変動があるのは周知であることからすれば、原料フライアッシュの性状によっては、本件発明への適用が困難となることもあり得ることが窺える。しかし、本件発明では、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合した後の体積基準の粒度分布において満たすべき式(I)については、本件特許明細書の例えば【0013】に「式(I)に表されるように、フライアッシュの体積基準の粒度分布における(D50-D10)/(D90-D50)で表される比が、0.24を超えて0.5以下であることによって、フライアッシュの体積基準の粒度分布は、粒径D50(メディアン径)を中心として左右対称な正規分布に近い分布を示し、より具体的には若干右側(粒径D50よりも大きな粒子側)がブロードな形状の分布を示す。また、フライアッシュの体積基準の粒度分布における(D50-D10)/(D90-D50)で表される比が0.24を超えて0.5以下であることによって、体積基準の粒度分布がシャープな形状の分布を示す。」と記載されていて、大まかな目標とすべきマクロな性状は明らかにされていることから、当業者であれば、原料フライアッシュの性状に応じ、ある程度の試行錯誤を通じ、本件発明が実施可能な原料フライアッシュを選別しつつ、適宜条件での解砕と混合とを技術常識を踏まえて実行することにより、本件発明の実施を十分になしうると認められるものである。
よって、この申立理由は理由がない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4~8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、2、4~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項3については、訂正により削除されたから、異議申立ての対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-700714