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特許異議申立

2018-700822

合わせガラス用中間膜及び合わせガラス

審判番号
2018-700822
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-547187
登録番号
特許第6313781号(P6313781)
請求日
2018年10月10日
審決日
2020年03月25日
公報発行日
2020年06月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】積水化学工業株式会社
  • 【権利者代理人】田口 昌浩
  • 【権利者代理人】虎山 滋郎
  • 【異議申立人】打揚 洋次
審判長/審判官
  • 審判長 服部 智
  • 審判官 菊地 則義
  • 審判官 後藤 政博
分類
P1651.121-YAA(C03C) / P1651.537-YAA(C03C) / P1651.536-YAA(C03C) / P1651.851-YAA(C03C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6313781号発明「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6313781号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。 特許第6313781号の請求項1~5、7~17に係る特許を維持する。 特許第6313781号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本件特許第6313781号(以下、「本件特許」という。)は、2015年(平成27年)9月11日(優先権主張(7件) 平成26年9月12日 日本国)を国際出願日とする特願2015-547187号の特許請求の範囲の請求項1~17に係る発明について、平成30年3月30日に特許権の設定登録がされ、同年4月18日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、その特許に対して、同年10月10日付けで特許異議申立人打揚洋次(以下、「申立人」という。)により、甲第1~3号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、同年12月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成31年2月12日付けで特許権者より意見書の提出がされ、同年3月20日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和元年5月14日に特許権者代理人との面接が行われた後、指定期間内である同年5月24日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年6月27日付けで申立人より意見書の提出がされ、同年9月11日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年10月25日に特許権者代理人との面接が行われた後、指定期間内である同年11月15日付けで特許権者より乙第1号証を添付した意見書の提出がされ、同年12月26日付けで申立人に対する審尋をしたところ、令和2年1月22日付けで回答書の提出がされたものである。 (証拠方法) 甲第1号証:特開2013-6728号公報 甲第2号証:特開2003-192402号公報 甲第3号証:国際公開2014/126251号 乙第1号証:植松市太郎「高分子物の結晶化とガラス転移(二次転移)」、日本ゴム協会誌、第30巻第12号(1957)、58~68頁 (取消理由通知で追加された証拠) 引用文献A:特開2006-248826号公報 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に記載された 「第1の層のガラス転移温度が10℃以下」を、 「第1の層のガラス転移温度が0℃以下」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項7に記載された 「請求項1~6」を、 「請求項1~5」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項9に記載された 「請求項1~8」を、 「請求項1~5、7、8」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項11に記載された 「請求項1~10」を、 「請求項1~5、7~10」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項13に記載された 「請求項1~12」を、 「請求項1~5、7~12」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項14に記載された 「請求項1~13」を、 「請求項1~5、7~13」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項15に記載された 「請求項1~14」を、 「請求項1~5、7~14」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項16に記載された 「請求項1~15」を、 「請求項1~5、7~15」に訂正する。 (10)一群の請求項について 訂正前の請求項2~17が、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正事項1~9の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1~17について請求されたものである。 2.訂正要件の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された発明について、本件明細書の【0141】に「合わせガラスの遮音性をより一層高める観点からは、第1の層のガラス転移温度は好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下、特に好ましくは0℃以下である。」と記載されていることに基づき、「第1の層のガラス転移温度が0℃以下」であるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2~9について 訂正事項2は請求項を削除するものであり、訂正事項3~9はそれに伴い選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、何れも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)独立特許要件について 本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正を認める。 第3 本件特許発明 本件訂正が認められることは上記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1~17に係る発明は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。 (以下、請求項1~17に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明17」まとめて「本件発明」という。) 「 【請求項1】 3層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であり、 熱可塑性樹脂を含む第1の層と、熱可塑性樹脂を含む第2の層と、熱可塑性樹脂を含む第3の層とを備え、 前記第2の層が、前記第1の層の第1の表面側に配置されており、 前記第3の層が、前記第1の層の前記第1の表面とは反対の第2の表面側に配置されており、 前記第1の層のガラス転移温度が0℃以下であり、 合わせガラス用中間膜の25℃での等価剛性が2.4MPa以上であり、 合わせガラス用中間膜の厚みをTとしたときに、前記第1の層の厚みが、0.4T以下であり、 前記第1の層の25℃でのヤング率が、前記第2の層及び前記第3の層の25℃でのヤング率よりも小さい、合わせガラス用中間膜。 【請求項2】 前記第1の層の25℃でのヤング率が0.4MPa以上、6MPa以下である、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項3】 前記第2の層の25℃でのヤング率が3MPa以上、700MPa以下である、請求項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項4】 前記第1の層の25℃でのヤング率が0.4MPa以上、6MPa以下であり、 前記第2の層及び前記第3の層の25℃でのヤング率が10MPa以上である、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項5】 前記第2の層の25℃でのヤング率が700MPa以下である、請求項1、2又は4に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 前記第1の層が、シリカ粒子を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項8】 前記第1の層中の前記熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記第1の層中の前記シリカ粒子の含有量が5重量部以上、64重量部以下である、請求項7に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項9】 前記第1の層中の前記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂であり、 前記第2の層中の前記熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂である、請求項1~5、7、8のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項10】 前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも低い、請求項9に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項11】 前記第1の層のガラス転移温度が、前記第2の層のガラス転移温度よりも低い、請求項1~5、7~10のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項12】 前記第1の層のガラス転移温度と、前記第2の層のガラス転移温度との差の絶対値が30℃以上である、請求項11に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項13】 前記第1の層が可塑剤を含み、 前記第2の層が可塑剤を含み、 前記第3の層が可塑剤を含む、請求項1~5、7~12のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項14】 JIS R3208に準拠した、厚み2mmの2枚のグリーンガラスの間に合わせガラス用中間膜を挟み込むことにより合わせガラスを得たときに、得られる合わせガラスの可視光線透過率が70%以上である、請求項1~ 5、7~13のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項15】 厚みが1mm以下である第1のガラス板を用いて、前記第1のガラス板と第2のガラス板との間に配置されて、合わせガラスを得るために用いられる、請求項1~5、7~14のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項16】 第1の合わせガラス部材と、 第2の合わせガラス部材と、 請求項1~5、7~15のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜とを備え、 前記第1の合わせガラス部材と前記第2の合わせガラス部材との間に、前記合わせガラス用中間膜が配置されている、合わせガラス。 【請求項17】 前記第1の合わせガラス部材が第1のガラス板であり、 前記第1のガラス板の厚みが1mm以下である、請求項16に記載の合わせガラス。」 第4 取消理由について 1.令和元年9月11日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由について (1)取消理由の概要 本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が以下のとおり不備のため、特許法第36条第4項第1号(以下、「取消理由1」という。)及び同条第6項第1号(以下、「取消理由2」という。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 取消理由1: 本件明細書には、「第1の層」の「ガラス転移温度が0℃以下」のものとして、ポリビニルアセタール樹脂を用い、且つシリカ粒子を含む実施例(1、2、5、6、7、12、21)しか示されておらず、熱可塑性樹脂として、シリカ粒子を含むポリビニルアセタール樹脂を用いない場合に、本件発明1~5、7~17を当業者が実施するための手法が不明である。 取消理由2: 本件発明の解決すべき課題は、本件明細書の【0014】より、「合わせガラスの曲げ剛性を高めることができ、かつ合わせガラスの遮音性を高めることができる合わせガラス用中間膜」と、前記「合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラス」とが求められていることにあり、本件発明は、「合わせガラス用中間膜」に関し、「ガラス転移温度が0℃以下」、「合わせガラス用中間膜の25℃での等価剛性が2.4MPa以上」等の物性要件を満たすようにした「熱可塑性樹脂を含む第1の層」を発明特定事項として含むものである。 これに対し、本件明細書においては、シリカ粒子を含むポリビニルアセタール樹脂を含むもの以外の「熱可塑性樹脂を含む第1の層」として、最終的に本件発明の上記要件をすべて満たすものが開示されていないから、本件発明1~5、7~17は発明の詳細な説明に実質的に記載のない発明を含む。 (2)本件発明に係る取消理由1についての判断 本件発明1については、合わせガラス用中間膜を構成する、「熱可塑性樹脂を含む」「第1の層」が特定されており(本件発明1を引用する本件発明2~5、7~17も同様。なお、本件発明9、10については、熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂である)、本件明細書の【0054】【0055】には、第1の層の熱可塑性樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂を含むことが好ましい旨記載されている他、「熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。これら以外の熱可塑性樹脂を用いてもよい。」と記載されている。 ここで、本件発明1は、「合わせガラス用中間膜」が満たすべき物性に係る要件として、「第1の層のガラス転移温度が0℃以下であり」、「合わせガラス用中間膜の25℃での等価剛性が2.4MPa以上であり」、「合わせガラス用中間膜の厚みをTとしたときに、前記第1の層の厚みが、0.4T以下であり」、「前記第1の層の25℃でのヤング率が、前記第2の層及び前記第3の層の25℃でのヤング率よりも小さい」ことを発明特定事項として含むものである。 これらの要件の内、例えば「等価剛性」については、本件明細書【0039】【0139】等より、本件発明の目的とする合わせガラスの曲げ剛性を十分に高くすることに対応した発明特定事項であると理解できるところ、曲げ剛性を高くするために選択しうる手段として、ポリビニルアセタール樹脂については、水酸基の含有率調整による手段(【0061】等)、シリカ粒子を用いる調整による手段(【0063】【0094】等)が具体的に記載されている。 そして、本件明細書の記載からみて、本件発明の実施に際しては、ポリビニルアセタール樹脂PVAの平均重合度、アセチル化度、アセタール化度に加え、用いる可塑剤、ガラス転移温度等の影響を総合的にみていき、第1の層のポリビニルアセタール樹脂がシリカ粒子を含むことで、実施例1、2、5~7等において、「第1の層のガラス転移温度が0℃以下」であっても、「等価剛性」の要件を満たす調整が可能となり、最終的に本件発明の要件をすべて満たすようにすることが可能となっていると理解されるものである。 これに対して、本件明細書においては、上記した実施例に係るシリカ粒子を含むポリビニルアセタール樹脂以外の熱可塑性樹脂については、特に、第1の層のガラス転移温度を0℃以下とした場合において、このような具体的な手段が開示されていない。 しかし、特許権者が平成31年2月12日付け意見書(6~7頁(オ))において主張するように、ポリビニルアセタール樹脂以外の「その他の樹脂」について、ガラス転移温度は、分子量、共重合体の存在、共重合の割合、可塑剤の添加物などによって変化することが技術常識であり、ヤング率についても同様に、分子量、共重合体の存在、共重合の割合、架橋度、可塑剤や無機物質等の添加物などによって変化することが技術常識であるから、ガラス転移温度、ヤング率に影響を及ぼすこれらの技術事項について、ガラス転移温度等への影響を総合的に見ていくことにより、ガラス転移温度、ヤング率を本件発明で特定する範囲内となるように調整を試みることが可能であることに加え、特許権者が令和元年11月15日付けで提出した意見書(10~11頁(ケ))及び乙第1号証によれば、架橋によってもガラス転移温度が上昇しない現象が公知である等、ガラス転移温度を0℃以下に低下させようとした場合であっても、様々な手段を組み合わせて、ヤング率をそれほど低下させずに維持することの可能性も技術常識からみて窺える。 そして、特許権者が令和元年11月15日付けで提出した意見書に記載された参考例1及び2においては、実際に、第1の層として、シリカ粒子を含まないポリビニルアセタール樹脂としたり、ポリウレタン樹脂としたりしても、「ガラス転移温度が0℃以下」でかつ「等価剛性」、「厚み」、「ヤング率」を所望の値に保つことが普通に達成できていることからすれば、当業者であれば、シリカ粒子を含むポリビニルアセタール樹脂でなくとも、本件発明1の上記した発明特定事項を満たすものは容易に実施でき、本件発明2~5、7~17についても同様に容易に実施できるものといえる。 よって、取消理由1は理由がない。 (3)本件発明に係る取消理由2についての判断 本件発明の課題である、「合わせガラスの曲げ剛性を高めることができ、かつ合わせガラスの遮音性を高めることができる合わせガラス用中間膜」と、前記「合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラス」とが求められていることについては、本件発明1の発明特定事項であるところの「合わせガラス用中間膜」おいて、「第1の層のガラス転移温度が0℃以下」、「合わせガラス用中間膜の25℃での等価剛性が2.4MPa以上」、「合わせガラス用中間膜の厚みをTとしたときに、第1の層の厚みが、0.4T以下」、「第1の層の25℃でのヤング率が、第2の層及び第3の層の25℃でのヤング率よりも小さい」というすべての物性要件を満たすように第1の層、第2の層及び第3の層に含まれる「熱可塑性樹脂」を選択することにより、その解決がなされるものであるといえる。 そして、上記(2)で検討したとおり、シリカ粒子を含まないポリビニルアセタール樹脂や、ポリビニルアセタール樹脂以外の熱可塑性樹脂を選択した場合でも、ガラス転移温度やヤング率等の調整を試みて、上記の本件発明1に係るすべての物性要件を満たす所望の合わせガラス用中間膜を得るための手段を当業者が認識でき、その実施も容易にできるものといえるから、当業者は本件明細書の発明の詳細な説明及び技術常識から本件発明の課題が解決できることを認識できるものである。 よって、取消理由2も理由がない。 (4)申立人の主張について 申立人は、令和2年1月22日付け回答書(3頁(2))において、特許権者が令和元年11月15日付けで提出した意見書に記載された参考例1及び2、実施例1、2、5、6、7、12、21では、すべての例で可塑剤が用いられているから、可塑剤を必須成分にしないと本件発明は実施できない旨主張する。しかし、本件発明においては、熱可塑性樹脂の物性、特にガラス転移温度及び剛性に対し、可塑剤の有無、その量が影響することは明らかであり、好ましくは可塑剤を含むことについて、本件明細書【0080】~【0093】に説明はなされているが、それが必須成分であると記載するものではなく、他方、ガラス転移温度や剛性は、例えば、分子量、共重合体の存在、共重合の割合、架橋度、無機物質の添加等によっても調整が可能なものであって、可塑剤を必須成分にしないと調整が不可能である物性は見当たらないから、この主張は採用できない。 また、申立人は、上記回答書(4頁)において、ポリウレタン樹脂を用いた参考例2からみて、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリビニルアルコール樹脂について本件発明が実施できたとしても、これら以外の熱可塑性樹脂にまで適用できるとはいえない旨主張もするが、特定の熱可塑性樹脂においては実施できないことについての具体的な理由、技術常識が共に示されての主張ではないから、これも採用できない。 さらに、申立人は、上記回答書(4頁(3))において、特許権者の「ガラス転移温度」を「低下させる」一方で「ヤング率」が「低下しない」こととすることについての主張における矛盾を指摘する。しかし、特許権者の主張は、全体として『合わせガラス中間膜において、「ガラス転移温度を(0℃以下に)低下させる一方でヤング率を低下させない」こととする技術思想が公知でなく、熱可塑性樹脂において、「ガラス転移温度を低下させる一方でヤング率を低下させない」手法は明細書の記載及び技術常識から認識できる』ことに係るものであると理解できるから、この指摘も当たらない。 (5)小括 以上のとおりであるから、令和元年9月11日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由は、何れも理由がない。 2.平成31年3月20日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由(以下、取消理由3」という。)について (1)取消理由3の概要 取消理由3: 本件特許の訂正前の請求項1~6、9~17に係る発明は、甲第3号証、甲第1号証及び引用文献Aに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6、9~17に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)本件発明に係る取消理由3についての判断 ア:甲第3号証の記載事項 (ア)「[0001] 本発明は、自動車のウインドシールドなどに用いられる合わせガラス及びこれが取り付けられた取付構造体に関する。 背景技術 [0002] 近年、自動車の燃費性向上の観点から、装着されるウインドシールドなどのガラスの軽量化が求められ、それに伴い厚みの小さいガラスの開発が進められている。しかしながら、厚みを小さくすると、遮音性能が低下するため、車外の音が車内に流入し、車内環境が悪化するという問題がある。これを解決するため、例えば、特許文献1には、面密度を低下させつつ所定の周波数における遮音性能を維持する自動車用の合せガラスが記載されている。この合わせガラスは、一対のガラス板の間に、樹脂製の中間膜を配置したものである。 ・・・(略)・・・ [0007] 本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、軽量化と遮音性を両立する、異なる厚みのガラス板で構成された合せガラス、及びこれが取り付けられた取付構造体を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0008] 本発明に係る合わせガラスは、外側ガラス板と、前記外側ガラス板と対向配置され、前記外側ガラス板よりも厚みが小さい内側ガラス板と、前記外側ガラス板及び内側ガラス板の間に挟持された中間膜と、を備え、前記内側ガラス板の厚みが0.6~1.8mmであり、前記中間膜は、少なくともコア層を含む複数の層で構成されており、前記コア層のヤング率は、100Hz,20℃において、1~20MPaであり、他の前記層のヤング率よりも低い。」 (イ)「[0030] <2.中間膜> 中間膜3は、複数の層で形成されており、一例として、図1に示すように、軟質のコア層31を、これよりも硬質のアウター層32で挟持した3層で構成することができる。但し、この構成に限定されるものではなく、軟質のコア層31を有する複数層で形成されていればよい。例えば、コア層31を含む2層(コア層が1層と、アウター層が1層)、またはコア層31を中心に配置した5層以上の奇数の層(コア層が1層と、アウター層が4層)、あるいはコア層31を内側に含む偶数の層(コア層が1層と、他の層がアウター層)で形成することもできる。 [0031] コア層31はアウター層32よりも軟質であるが、この点については、ヤング率を基準として材料を選択することができる。具体的には、周波数100Hz,温度20度において、1~20MPaであることが好ましく、1~16MPaであることがさらに好ましい。更には、1~10MPaであることが好ましい。測定方法としては、例えば、Metravib社製固体粘弾性測定装置DMA 50を用い、ひずみ量0.05%にて周波数分散測定を行うことができる。以下、本明細書においては、特に断りのない限り、ヤング率は上記方法での測定値とする。但し、周波数が200Hz以下の場合の測定は実測値を用いるが、200Hzより大きい場合には実測値に基づく算出値を用いる。この算出値とは、実測値からWLF法を用いることで算出されるマスターカーブに基づくものである。 [0032] 一方、アウター層32のヤング率は、特には限定されず、コア層より大きければよい。例えば、周波数100Hz,温度20度において560MPa以上、650MPa以上、1300MPa以上、1764MPa以上の順で好ましい。一方、アウター層32のヤング率の上限は特には限定されないが、例えば、加工性の観点から設定することができる。例えば、1750MPa以上となると、加工性、特に切断が困難になることが経験的に知られている。また、コア層31を挟む一対のアウター層32を設ける場合、外側ガラス板1側のアウター層32のヤング率を、内側ガラス板2側のアウター層32のヤング率よりも大きくすることが好ましい。これにより、車外や屋外からの外力に対する耐破損性能が向上する。」 (ウ)「[0033] 中間膜3のコア層31のtanδは、周波数100Hz,温度20度において、0.5~3.0であることが好ましく、0.7~2.0であることがさらに好ましく、1.0~1.5であることが特に好ましい。tanδが上記範囲にあると、音を吸収しやすくなり、遮音性能が向上する。しかし、3.0よりも大きくなると、中間膜3が柔らかくなりすぎ、取り扱いが困難になるため、好ましくない。また、0.5より小さくなると耐衝撃性能が低下して好ましくない。 [0034] 一方、アウター層のtanδは、コア層31よりも小さい値であればよく、例えば、周波数100Hz,温度20度において、0.1から3.0の間で定めることができる。」 (エ)「[0035] また、各層31,32を構成する材料は、特には限定されないが、少なくともヤング率が上記のような範囲とすることができる材料であることが必要である。例えば、アウター層32は、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)によって構成することができる。ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板との接着性や耐貫通性に優れるので好ましい。一方、コア層31は、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、またはアウター層を構成するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質なポリビニルアセタール樹脂によって構成することができる。軟質なコア層を間に挟むことにより、単層の樹脂中間膜と同等の接着性や耐貫通性を保持しながら、遮音性能を大きく向上させることができる。 [0036] 一般に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。したがって、それらの条件から選ばれる少なくとも1つを適切に調整することにより、同じポリビニルブチラール樹脂であっても、アウター層に用いる硬質なポリビニルブチラール樹脂と、コア層に用いる軟質なポリビニルブチラール樹脂との作り分けが可能である。さらに、アセタール化に用いるアルデヒドの種類、複数種類のアルデヒドによる共アセタール化か単種のアルデヒドによる純アセタール化かによっても、ポリビニルアセタール樹脂の硬度を制御することができる。一概には言えないが、炭素数の多いアルデヒドを用いて得られるポリビニルアセタール樹脂ほど、軟質となる傾向がある。したがって、例えば、アウター層がポリビニルブチラール樹脂で構成されている場合、コア層には、炭素数が5以上のアルデヒド(例えばn-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-へプチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド)、をポリビニルアルコールでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。なお、所定のヤング率が得られる場合は、上記樹脂等に限定されることはい。」 (オ)「[0037] また、中間膜3の総厚は、特に規定されないが、0.3~6.0mmであることが好ましく、0.5~4.0mmであることがさらに好ましく、0.6~2.0mmであることが特に好ましい。一方、コア層31の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがさらに好ましい。0.1mmよりも小さくなると、軟質なコア層31の影響が及びにくくなり、また、2.0mmや0.6mmより大きくなると総厚があがりコストアップとなるからである。一方、アウター層32の厚みは特に限定されないが、例えば、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがさらに好ましい。その他、中間膜3の総厚を一定とし、この中でコア層31の厚みを調整することもできる。 [0038] コア層31の厚みは、例えば、以下のように測定することができる。まず、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VH-5500)によって合わせガラスの断面を175倍に拡大して表示する。そして、コア層31の厚みを目視により特定し、これを測定する。このとき、目視によるばらつきを排除するため、測定回数を5回とし、その平均値をコア層31の厚みとする。例えば、図5に示すような合わせガラスの拡大写真を撮影し、このなかでコア層を特定して厚みを測定する。 [0039] なお、中間膜3の厚みは全面に亘って一定である必要はなく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に楔形にすることもできる。この場合、中間膜3の厚みは、最も厚みの小さい箇所、つまり合わせガラスの最下辺部を測定する。中間膜3が楔形の場合、外側ガラス板1及び内側ガラス板2は、平行に配置されないが、このような配置も本発明における外側ガラス板と内側ガラス板との「対向配置」に含まれるものとする。すなわち、本発明の「対向配置」は、例えば、1m当たり3mm以下の変化率で厚みが大きくなる中間膜3を使用した時の外側ガラス板1と内側ガラス板2の配置を含む。」 (カ)「[0051] <1.外側ガラス板の厚みの評価> まず、外側ガラス板の厚みの評価を行った。ここでは、以下に示す7つの合わせガラスを準備した。各合わせガラスは、外側ガラス板、内側ガラス板、及びこれらに挟持される中間膜で構成されている。中間膜は、コア層、アウター層の厚みがそれぞれ0.1mm、0.33mm、ヤング率がそれぞれ10MPa、441MPa(20℃、100Hz)とした。」 (キ)「[0053] <2.コア層のヤング率に関する評価> 以下の通り、実施例及び比較例に係る合わせガラスを準備した。 [0054] 各ガラス板は、上述したクリアガラスで形成した。また、中間膜はコア層とこれを挟持する一対のアウター層で構成した。中間膜の厚みは0.76mm、コア層の厚みは0.1mm、両アウター層の厚みは0.33mmとした。両アウター層のヤング率は441MPa(20℃、100Hz)に調整した。 [0055] 上記実施例及び比較例について、音響透過損失をシミュレーションにより、評価した。」 (ク)「[0060] 結果は、図10のグラフに示すとおりである。この結果によれば、実施例1~4のように、コア層のヤング率を20MPa(20℃、100Hz)以下とすることで、異厚によるSTL値を抑えることができる。また、実施例2~4のように、コア層のヤング率を16MPa(20℃、100Hz)以下とすることで、両ガラスが同厚である比較例1と比べ、2000~5000Hzの周波数領域で音響透過損失が高くなっている。更に、実施例3,4のように、コア層のヤング率を10MPa(20℃、100Hz)以下とすることで、両ガラスが同厚である比較例1と比べ、2000~5000Hzの周波数領域で音響透過損失が明らかに高くなっている。したがって、内側ガラス板を外側ガラス板よりも薄くし、且つコア層のヤング率を20MPa以下とすることで、人間に聞き取りやすい2000~5000Hzの周波数領域での遮音性能が高くなることが分かった。 [0061] <3.コア層の厚みに関する評価> 以下の通り、実施例及び比較例に係る合わせガラスを準備した。ここでは、コア層の厚みを変化させ、音響透過損失を上記シミュレーション方法により算出した。中間膜は3層で構成し、総厚を変化させず、コア層とアウター層の厚みを変化させた。コア層のヤング率は10MPa(20℃、100Hz),アウター層のヤング率は441Mpa(20℃、100Hz)とした。また、外側ガラス板及び内側ガラス板の厚みはそれぞれ2.0mm、1.0mmとした。 [0062] 上記実施例及び比較例について、音響透過損失をシミュレーションにより評価した。結果は、図11に示すとおりである。同図によれば、コア層の厚みが0.1mmより小さくなると、2000~5000Hzの周波数領域で、音響透過損失が低下していることが分かる。したがって、人間に聞き取りやすい2000~5000Hzの周波数領域での遮音性能を高くするためには、コア層の厚みを0.1mm以上とすることが好ましい。」 イ:甲第1号証の記載事項 (ケ)「【請求項1】 ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層と、 前記第1の層の一方の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2の層とを備え、 前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも低く、 前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率と前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率との差が、9.2モル%以下であり、 前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率と前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率との差が、8.5モル%を超え、9.2モル%以下である場合には、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以下であり、 両側の2つの表面の内の少なくとも一方の表面に凹凸形状を有する、合わせガラス用中間膜。 ・・・(略)・・・ 【請求項16】 前記第1の層の他方の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第3の層をさらに備え、 前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも低く、 前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率と前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率との差が、9.2モル%以下であり、 前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率と前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率との差が、8.5モル%を超え、9.2モル%以下である場合には、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以下である、請求項1~15のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。」 (コ)「【0100】 合わせガラスの遮音性をより一層高める観点からは、上記第1の層のガラス転移温度は30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることが更に好ましい。また、合わせガラスの耐貫通性をより一層高める観点からは、上記第2の層のガラス転移温度は、上記第1の層のガラス転移温度よりも高いことが好ましい。さらに、上記第2,第3の層の内の少なくとも一方のガラス転移温度は、上記第1の層のガラス転移温度よりも高いことが好ましく、上記第2,第3の層の双方のガラス転移温度が上記第1の層のガラス転移温度よりも高いことがより好ましい。。また、合わせガラスの遮音性を広い温度領域にて高める観点からは、例えば、上記第1の層のガラス転移温度が30℃以下であり、上記第2の層のガラス転移温度が30℃を超え、かつ上記第3の層のガラス転移温度が上記第1の層のガラス転移温度より高く、上記第2の層のガラス転移温度より低いことが好ましい。 ・・・(略)・・・ 【0120】 また、上記第1の層の厚みの中間膜の厚みに対する比((上記第1の層の厚み)/(上記中間膜の厚み))が小さく、上記第1の層に含まれる可塑剤の含有量が多いほど、合わせガラスにおける発泡が発生し、発泡が成長する傾向にある。特に、中間膜における上記比が0.05~0.35であり、上記第1の層中の上記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する上記可塑剤の含有量が55重量部以上である場合に、本発明に係る合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスにおける発泡の発生及び発泡の成長を十分に抑制し、かつ合わせガラスの遮音性をより一層高めることができる。上記比((上記第1の層の厚み)/(中間膜の厚み))の好ましい下限は0.06、より好ましい下限は0.07、更に好ましい下限は0.08、特に好ましい下限は0.1、好ましい上限は0.3、より好ましい上限は0.25、更に好ましい上限は0.2、特に好ましい上限は0.15である。なお、上記第1の層の厚みの中間膜の厚みに対する比において、上記中間膜の厚みとは、上記第1の層の厚みの部位における中間膜の厚みを意味する。」 ウ:引用文献Aの記載事項 (サ)「【0012】 本発明に係る熱可塑性樹脂シ-トは、測定周波数10Hzで測定した損失正接の最大値が20~40℃の温度範囲内にありかつ該最大値を示す温度から±5℃の温度範囲内にある損失正接が0.3以上であるポリビニルアセタール樹脂膜(A)からなる第1,第2の外層の間に、損失正接の最大値が-10~20℃の温度範囲内にありかつ該最大値を示す温度から±5℃の温度範囲内にある損失正接が0.3以上であるポリビニルアセタール樹脂膜(B)からなる内側の第3の層と、損失正接の最大値が40~100℃の温度範囲内にありかつ該最大値を示す温度から±5℃の温度範囲内にある損失正接が0.3以上であるポリビニルアセタール樹脂膜(C)からなる内側の第4の層とを含む多層樹脂シートから構成されていることを特徴とする。」 (シ)「【0042】 (第2のポリビニルアセタ-ル樹脂膜(B)) 本発明においては、内側の第3の層として、ポリビニルアセタ-ル樹脂膜(B)が用いられている。ポリビニルアセタ-ル樹脂膜(B)は、本発明の熱可塑性樹脂シ-トを合わせガラスとして用いた場合に広い温度範囲にわたり十分な遮音性能を発揮させる層として機能する。 【0043】 従って、上記ポリビニルアセタ-ル樹脂膜(B)は、損失正接の最大値が-10~20℃の温度範囲内にありかつ該最大値を示す温度から±5℃の温度範囲にある損失正接が0.3以上であるポリビニルアセタ-ル樹脂膜であり、そのため本発明に係る熱可塑性樹脂シ-トの損失正接を0℃~40℃の広い範囲にわたり十分な大きさとできる。 【0044】 上記ポリビニルアセタ-ル樹脂膜(B)の損失正接の最大値が-10~20℃の温度範囲になかったり、該最大値を示す温度から±5℃の温度範囲にある損失正接が0.3未満である場合には、十分広い温度範囲にわたり良好な遮音性能を得ることができなくなる。 【0045】 このような損失正接の値を示す限り、ポリビニルアセタ-ル樹脂膜(B)は、適宜のポリビニルアセタ-ル樹脂により構成され得る。特に限定されるわけではないが、このようなポリビニルアセタ-ル樹脂膜(B)は、たとえば、前述の特許文献2に記載のように遮音性合わせガラス用中間膜を用いることができる。すなわち、ポリビニルアルコ-ルを炭素数6~10のアルデヒドによりアセタ-ル化したポリビニルアセタ-ルと可塑剤とを含むポリビニルアセタ-ル樹脂膜と、炭素数1~4のアルデヒドによりポリビニルアルコ-ルをアセタ-ル化してなるポリビニルアセタ-ルと可塑剤とを含む第2のポリビニルアセタ-ル樹脂膜との積層膜、あるいは上記2種のポリビニルアセタ-ル樹脂の混合物と可塑剤とからなるポリビニルアセタ-ル樹脂系組成物からなるポリビニルアセタ-ル樹脂膜を好適に用いることができる。」 (ス)「 【0112】 【表2】 【0113】 【表3】 【0114】 【表4】 」 エ.引用発明 上記(ア)、(イ)、(エ)、(オ)より、甲第3号証には、 「3層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であり、 ポリビニルブチラール樹脂を含むアウター層と、アウター層を構成するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質なポリビニルアセタール樹脂を含むコア層とを備え、 前記コア層が前記アウター層で挟持されて構成されており、 前記合わせガラス用中間膜の総厚は0.3~6.0mmであり、一方、前記コア層の厚みは、0.1~2.0mmであり、 前記コア層の周波数100Hz,温度20℃でのヤング率が1~20MPaであり、前記アウター層のヤング率がコア層より大きい、合わせガラス用中間膜。」 の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 オ.本件発明1と引用発明3との対比・判断 本件発明1と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「コア層」、「アウター層」、「前記コア層が前記アウター層で挟持されて構成」は、それぞれ本件発明1の「第1の層」、「第2及び第3の層」、「前記第2の層が、前記第1の層の第1の表面側に配置されており、前記第3の層が、前記第1の層の前記第1の表面とは反対の第2の表面側に配置」されていることに相当し、引用発明3のポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂は熱可塑性樹脂であるから、両者は、 「3層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であり、 熱可塑性樹脂を含む第1の層と、熱可塑性樹脂を含む第2の層と、熱可塑性樹脂を含む第3の層とを備え、 前記第2の層が、前記第1の層の第1の表面側に配置されており、 前記第3の層が、前記第1の層の前記第1の表面とは反対の第2の表面側に配置されており、 前記第1の層のヤング率が、前記第2の層及び前記第3の層のヤング率よりも小さい、合わせガラス用中間膜」 である点で一致し、以下の相違点1、2で相違する。 相違点1: 本件発明1は、第1の層のガラス転移温度が0℃以下であり、合わせガラス用中間膜の25℃での等価剛性が2.4MPa以上であるのに対し、引用発明3では、コア層のガラス転移温度及び合わせガラス用中間膜の等価剛性について特定されていない点 相違点2: 本件発明1は、合わせガラス用中間膜の厚みをTとしたときに、第1の層の厚みが、0.4T以下であるのに対し、引用発明3では、合わせガラス用中間膜の総厚は0.3~6.0mmであり、一方、コア層の厚みは、0.1~2.0mmである点 先に相違点2について検討するに、甲第3号証の上記摘示(カ)(キ)では、引用発明3の具体例において、いずれも中間膜の厚みは0.76mm、コア層の厚みは0.1mm、両アウター層の厚みは0.33mmとされており、厚みTが0.76mmであるから、0.4T=0.304mm≧0.1mmとなる。してみれば、相違点2は実質的なものとはいえない。 次に、相違点1に関し、甲第3号証の上記摘示(ウ)より、遮音性能の向上を図るため、コア層のtanδ(損失係数)を調整して音を吸収しやすくすることが、引用発明3において示唆されているとともに、甲第1号証の上記摘示(ケ)、(コ)より、合わせガラス用中間膜の3層構造のコア層に相当する第1の層のガラス転移温度を10℃以下とすることが好ましく、合わせガラスの遮音性を一層高めることができる旨示唆されている。 ここで、甲第3号証の上記摘示(イ)より、コア層のヤング率の好ましい値が1~20MPaとされているところ、引用文献Aの上記摘示(サ)~(ス)より、遮音性能を発揮する内側のポリビニルアセタ-ル樹脂膜(B)の例としてガラス転移温度(Tg)4℃において引っ張り弾性率2.8MPaの層(B)が示されており、引用発明3において、この例示された層(B)のポリビニルアセタ-ル樹脂膜(B)に相当するものをコア層として用いることは当業者であれば容易なことである。 しかし、Tgを4℃からさらに下げることでガラスの遮音性を高める効果の向上が期待できたとしても、引用文献Aの上記摘示(ス)におけるTgと引っ張り弾性率の両物性値が、層(C)>層(A)>層(B)という傾向となっている関係でもみられるように、ポリビニルアセタール樹脂においてTgを下げるとヤング率(引っ張り弾性率)も低下する相関が通常であることからすれば、引用発明3において、コア層の好ましいヤング率の下限値は1MPa程度であって、ガラス転移温度(Tg)4℃における引っ張り弾性率2.8MPaからさらに下げる余地は少ないことからして、コア層のポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度を0℃以下とすることについては、当業者が適宜なしうる程度のことであるとはいえない。 してみれば、引用発明3において相違点1を解消することは当業者であっても容易なことではない。 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第3号証、甲第1号証及び引用文献Aに記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 カ.本件発明2~5、9~17について 本件発明2~5、9~17は、何れも本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えたものであるから、本件発明1と同様、甲第3号証、甲第1号証及び引用文献Aに記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)小括 よって、取消理由3は理由がない。 3.平成30年12月13日付け取消理由通知書で通知した取消理由について 本件特許に係る訂正前に通知されたものであり、上記取消理由1~3と同趣旨のものであるから、同様に理由はない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1.申立人の主張について 申立人の主張する申立理由は以下のとおりである。 (1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号) 訂正前の本件請求項1~6、9~11、13、15~17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。 (2)申立理由2(特許法第29条第2項) 訂正前の本件請求項1~6、9~17に係る発明は、甲第1~3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)申立理由3(特許法第36条第4項第1号) 本件明細書には、本件特許に係る発明の実施例として、熱可塑性樹脂の内のポリビニルアセタール樹脂の例しか示されていないから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない(上記取消理由1において採用)。 (4)申立理由4(特許法第36条第6項第1号) 本件明細書には、本件特許に係る発明の実施例として、熱可塑性樹脂の内のポリビニルアセタール樹脂の例しか示されていないから、本件特許に係る発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではない(上記取消理由2において採用)。 2.申立理由1及び2についての判断 (1)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、上記第4の2.(2)(ケ)の【請求項1】を引用した【請求項16】に係る合わせガラス用中間膜の発明が記載されており、同じく(コ)より、遮音性をより一層高める観点で、第1の層のガラス転移温度が10℃以下であることが好ましく、第1の層の厚みの中間膜の厚みに対する比が0.05~0.35であり、第1の層中のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量が55重量部以上であるとされているから、 「ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層と、 上記第1の層の一方の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2の層と、 上記第1の層の他方の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第3の層とを備え、 上記第1の層のガラス転移温度が10℃以下であり、 上記第1の層の厚みの中間膜の厚みに対する比が0.05~0.35であり、 上記第1の層中の上記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する上記可塑剤の含有量が55重量部以上であり、 上記第1の層中の上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、上記第2及び第3の層中の上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも低く、上記第1の層中の上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率と上記第2及び第3の層中の上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率との差が、何れも9.2モル%以下であり、上記第1の層中の上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率と上記第2及び第3の層中の上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率との差が、何れも8.5モル%を超え、9.2モル%以下である場合には、上記第1の層中の上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以下であり、両側の2つの表面の内の少なくとも一方の表面に凹凸形状を有する、合わせガラス用中間膜」 の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (2)本件発明1と引用発明1との対比・判断 本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「ポリビニルアセタール樹脂」、「第1の層」、「第2及び第3の層」、「第1の層の厚みの中間膜の厚みに対する比が0.05~0.35」は、それぞれ本件発明1の「熱可塑性樹脂」、「第1の層」、「第2及び第3の層」、「合わせガラス用中間膜の厚みをTとしたときに、前記第1の層の厚みが、0.4T以下」に相当するから、両者は、 「3層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であり、 熱可塑性樹脂を含む第1の層と、熱可塑性樹脂を含む第2の層と、熱可塑性樹脂を含む第3の層とを備え、 前記第2の層が、前記第1の層の第1の表面側に配置されており、 前記第3の層が、前記第1の層の前記第1の表面とは反対の第2の表面側に配置されており、 前記第1の層のガラス転移温度が10℃以下であり、 合わせガラス用中間膜の厚みをTとしたときに、前記第1の層の厚みが、0.4T以下である、合わせガラス用中間膜」 である点で一致し、以下の相違点3、4で相違する。 相違点3: 本件発明1は、第1の層のガラス転移温度が0℃以下であり、合わせガラス用中間膜の25℃での等価剛性が2.4MPa以上であるのに対し、引用発明1は、第1の層のガラス転移温度は10℃以下であり、合わせガラス用中間膜の等価剛性については特定されていない点 相違点4: 本件発明1は、第1の層の25℃でのヤング率が、第2及び第3の層のヤング率よりも小さいのに対し、引用発明1は、ヤング率に関し特定されていない点。 相違点3について検討するに、等価剛性については、本件明細書【0199】~【0202】に説明されている定義式からして、第1~3層の各厚みとヤング率とから求められるものであって、本件明細書【0014】の記載から把握される本件発明の目的からして、曲げ剛性を高めることにほぼ対応した指標になっているものと認められる。 これに対し、甲第1号証には、曲げ剛性を高めることについては記載も示唆もなく、ヤング率についても記載はない。 そして、上記第4で取消理由1~3について検討したように、本件発明1の第1の層の熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度を0℃以下としつつ、ヤング率を低下させない工夫をして等価剛性に係る特性を満たすものとしていると認められるものであるから、少なくとも同じ目的で物性を調整しない限り、通常の態様のものでは得られない物性を有しているといえる。 してみれば、相違点3は実質的なものであり、当業者であっても甲第1号証の記載から容易に解消できるものではない。 また、甲第2号証には、高ヤング率の中間膜の表裏両面に低ヤング率の中間膜を重ね合わせたものが記載されているだけであり、甲第3号証については上記第4で取消理由3について検討したとおり相違点3と同様の相違点1を解消できるものではないから、これらを参酌しても引用発明1において相違点3は解消できない。 よって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1~3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明2~5、9~17について 本件発明2~5、9~17は、何れも本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えたものであるから、本件発明1と同様、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1~3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)申立人の主張について 申立人は、引用発明1のポリビニルアセタール樹脂の重合度、アセタール化度、可塑剤の種類、可塑剤の添加割合、アセタール化に用いるアルデヒドの種類が、ポリビニルアセタール樹脂の層の硬度に影響を与えるファクターであり、本件発明1で用いられているものと対比して、ヤング率はほぼ同じで、相違点は存在しないか、あるいは容易であると主張している。 しかし、仮に、硬度に影響を与える前記のファクターにおいてヤング率を本件発明1と同じ程度に設計できていたとしても、それはガラス転移温度を10℃以下とした場合のいわば緩い条件での設定であって、例えば、ガラス転移温度4℃とした引用文献Aに記載された公知技術のレベルであると推認されるものであり、引用発明1において、ガラス転移温度0℃以下とした場合には変動(低下)するといえるヤング率や厚みについても併せて本件発明1の等価剛性と同じ程度に設計できるとまではいえない。 よって、主張は採用できない。 (5)小括 よって、申立理由1、2は何れも理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1~5、7~17に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に上記請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件請求項6は、訂正により削除されたため、同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700822

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