特許異議申立
2018-700757
ソーラーパネルをコーティングする方法
- 審判番号
- 2018-700757
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-523338外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年09月19日
- 審決日
- 2019年10月16日
- 公報発行日
- 2020年05月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 分類
- P1651.121-ZAA(H02S) / P1651.851-ZAA(H02S) / P1651.852-ZAA(H02S) / P1651.853-ZAA(H02S)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法113条2号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6297554号発明「ソーラーパネルをコーティングする方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6297554号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、11について訂正することを認める。
特許第6297554号の請求項1、3ないし5、8ないし11に係る特許を取り消す。
特許第6297554号の請求項2、6、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6297554号の請求項1~11に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)2月21日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年7月23日(以下「優先日」という。) 豪州(AU))を国際出願日とする出願であって、平成30年3月2日にその特許権の設定登録がされ、平成30年3月20日に特許掲載公報が発行された。その後の経緯は、次のとおりである。
平成30年 9月19日 : 特許異議申立人石田祥子(以下「申立人」という。)による請求項1~11に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年11月15日付け: 取消理由通知
平成31年 2月18日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年 4月 2日 : 申立人による意見書の提出
令和 元年 5月14日 : 取消理由通知(決定の予告)
令和 元年 8月14日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1~10からなる一群の請求項及び請求項11について、以下の訂正事項1~19のとおりに訂正することを請求している(下線は訂正箇所を示す。)。
[訂正事項1]
訂正前の請求項1の「コーティング組成物」との記載を「硬化可能なコーティング組成物」と訂正する。
[訂正事項2]
訂正前の請求項1の「結合剤」との記載を「膜形成結合剤」と訂正する。
[訂正事項3]
訂正前の請求項1の「十分な量の」との記載を「5重量%~20重量%の」と訂正する。
[訂正事項4]
訂正前の請求項1の記載に「黒色の」との記載を追加する。
[訂正事項5]
訂正前の請求項1の「乳白剤」との記載を「不透明化剤」と訂正する。
[訂正事項6]
訂正前の請求項1の記載に「前記ソーラーパネルの電気出力の前記所定レベルは、生理学的影響を及ぼすレベルであり、電気出力の前記所定レベルは、知覚閾直または反応の閾直でのDC電流であり、又は、前記所定レベルは、オーストラリア規格60479.1またはその同等値であり、」との記載を追加する。
[訂正事項7]
訂正前の請求項1の記載に「前記コーティングの厚みは、50~2000ミクロンであり、これにより、光透過を入射光の0.1%より小さくなるまで低減し、」との記載を追加する。
[訂正事項8]
請求項2を削除する。
[訂正事項9]
請求項3の従属先を「請求項1」と訂正する。
[訂正事項10]
請求項6を削除する。
[訂正事項11]
請求項7を削除する。
[訂正事項12]
訂正前の請求項8の記載を「前記膜形成結合剤が、水溶性ポリマー、分散液、エマルジョン、及び、ラテックスから成る群から選ばれる水性結合剤である」と訂正する。
[訂正事項13]
明細書の段落【0018】、【0028】、【0029】、【0030】、及び【0060】における「乳白剤」との記載を「不透明化剤」と訂正する。
[訂正事項14]
訂正前の請求項11の「コーティング組成物」との記載を「硬化可能なコーティング組成物」と訂正する。
[訂正事項15]
訂正前の請求項11の「結合剤」との記載を「膜形成結合剤」と訂正する。
[訂正事項16]
訂正前の請求項11の記載に「5重量%~20重量%の」と追加する。
[訂正事項17]
訂正前の請求項11の記載に「黒色の」との記載を追加する。
[訂正事項18]
訂正前の請求項11の「乳白剤」との記載を「不透明化剤」と訂正する。
[訂正事項19]
訂正前の請求項11の「前記コーティングするステップは、修理前または修理中、洪水状況前または洪水状況中、電気事故前または電気事故中、あるいは、火災状況前または火災状況中、又は火災の状況後になされる」との記載を「前記コーティングするステップは、修理前または修理中、洪水状況前または洪水状況中、電気事故前または電気事故中、あるいは、火災状況前または火災状況中、又は火災の状況後になされ、前記ソーラーパネルの電気出力の前記所定レベルは、生理学的影響を及ぼすレベルであり、電気出力の前記所定レベルは、知覚閾値または反応の閾直でのDC電流であり、又は、前記所定レベルは、オーストラリア規格60479.1またはその同等値であり、前記コーティングの厚みは、50~2000ミクロンであり、これにより、光透過を入射光の0.1%より小さくなるまで低減する」に訂正する。
そして、訂正前の請求項1~10は、請求項2~10が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接に引用している関係にあるから、訂正後の請求項1~10は、一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、明細書の段落【0037】の「ポリマーの硬化で、連続した膜を形成することができる」等の記載に基づいて、「コーティング組成物」を「硬化可能なコーティング組成物」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項1についての訂正は、明細書の段落【0037】の「膜形成ポリマー」等の記載に基づいて、「結合剤」との記載を「膜形成結合剤」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3~5について
ア 訂正事項5に係る請求項1についての訂正は、本件の願書に添付した国際出願の特許請求の範囲及び明細書に記載された「opacifier」の日本語訳について、「乳白剤」は誤訳であって、正しくは「不透明化剤」であることを根拠としているものである。
一般に、「opacifier」は、「乳白剤」、「乳濁剤」及び「不透明化剤」等に訳される場合がある。このうち、「乳白剤」の色については、通常「白色」を意味すると理解されるところ、本件明細書の段落【0061】や訂正前の請求項7の記載によれば、「乳白剤」の色は、白、黒、グレーに限らず、明るいオレンジ色等の場合があり、通常の理解と異なる。
上記のことに鑑みると、本件の特許請求の範囲及び明細書においては、「opacifier」の日本語訳として「乳白剤」は誤訳であり、正しくは「不透明化剤」であると認められる。
よって、上記訂正は、誤訳の訂正を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項3に係る請求項1についての訂正は、上記のとおり、正しくは「不透明化剤」である「乳白剤」について、平成30年11月15日付けの取消理由通知で不明瞭であると指摘した「十分な量の」との記載について、訂正前の請求項6および明細書の段落【0029】の記載に基づいて、「5重量%~20重量%の」と具体的に限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項4に係る請求項1についての訂正は、上記のとおり、正しくは「不透明化剤」である「乳白剤」について、明細書の段落【0061】等の記載に基づいて「黒色の不透明化剤」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ 上記訂正事項に対する特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成31年4月2日の意見書において、「乳白剤」はその語が意味する通り「白」色系であって、「白の不透明化剤」を「黒の不透明化剤」に訂正することは、色の範囲の限定ではなく、色の変更であり、特許請求の範囲の変更になる旨を主張している。
しかし、上記アで検討したとおりであるので、色の変更とはいえないから、上記意見は採用できない。
(4)訂正事項6について
訂正事項6に係る請求項1についての訂正は、平成30年11月15日付けの取消理由通知で不明瞭であると指摘した「所定レベル」について、明細書の段落【0034】等の記載に基づいて、「前記ソーラーパネルの電気出力の前記所定レベルは、生理学的影響を及ぼすレベルであり、電気出力の前記所定レベルは、知覚閾直または反応の閾直でのDC電流であり、又は、前記所定レベルは、オーストラリア規格60479.1またはその同等値であり、」との記載を追加して具体的に限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項7について
訂正事項7に係る請求項1についての訂正は、明細書の段落【0029】等の記載に基づいて、「前記コーティングの厚みは、50~2000ミクロンであり、これにより、光透過を入射光の0.1%より小さくなるまで低減し」との記載を追加して具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項8、10、11について
訂正事項8、10、11は、それぞれ請求項2、6、7を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)訂正事項9について
訂正事項9に係る請求項3についての訂正は、上記訂正事項8の訂正に伴って、引用する請求項を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(8)訂正事項12について
訂正事項12に係る請求項8についての訂正は、「結合剤」との記載を「膜形成結合剤」と限定するものであるから、上記(2)と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(9)訂正事項13について
訂正事項13に係る明細書の訂正は、上記訂正事項5における「乳白剤」との記載を「不透明化剤」とする訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための訂正であって、誤訳の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記(3)で検討したように、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項13に係る明細書の訂正は、訂正後の請求項[1~10]及び請求項11についてのものである。
(10)訂正事項14~19について
訂正事項14~19に係る請求項11についての訂正は、それぞれ訂正事項1~7と同様であるから、その訂正の目的は、それぞれ上記(1)~(5)で検討したとおりであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(11)小括
上記のとおり、訂正事項1~19に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲及び明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~10]及び請求項11について訂正することを認める。
第3 取消理由の概要
訂正前の請求項1~11に係る特許に対して、当審が令和元年5月14日に特許権者に通知した取消理由通知(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
理由1(進歩性)
本件特許発明1~11は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
引用例1:“Secured Solar Panel Protection for Fire Department”,[online],2011年, SE Corp,[2018年8月27日検索],インターネット<URL:http://securedsolar.com>(甲第1号証)
引用例2:特開平4-225284号公報(甲第4号証)
引用例3:特開2006-25697号公報(甲第6号証)
引用例4:特開2011-210835号公報(甲第8号証)
理由2(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由3(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由4(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 当審の判断
1 理由1(進歩性)について
(1)訂正後の請求項1、3~5、8~11に係る発明
訂正後の請求項1、3~5、8~11に係る発明は、上記訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1、3~5、8~11に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項の項番に従い「本件特許発明1」等という。下線は、特許権者が訂正箇所に付したとおりである。)。
「【請求項1】
ソーラーパネルの光電池によって受容されている光量を低減するために設置された前記ソーラーパネルをコーティングする方法であって、当該方法は、前記ソーラーパネルの受光領域を十分な厚みの硬化可能なコーティング組成物でコーティングするステップであって、前記硬化可能なコーティング組成物が、前記ソーラーパネルの受光領域を透過する光を低減させるように膜形成結合剤及び5重量~20重量%の黒色の不透明化剤を備え、結果として前記ソーラーパネルの電気出力が所定レベルより小さくなるまで低減される、コーティングするステップを備え、
前記ソーラーパネルの電気出力の前記所定レベルは、生理学的影響を及ぼすレベルであり、電気出力の前記所定レベルは、 知覚閾値または反応の閾値でのDC電流であり、又は、前記所定レベルは、オーストラリア規格60479.1またはその同等値であり、
前記コーティングの厚みは、50~2000 ミクロンであり、これにより、光透過を入射光の0.1%より小さくなるまで低減し、
前記コーティングするステップは、修理前または修理中、洪水状況前または洪水状況中、電気事故前または電気事故中、あるいは、火災状況前、火災状況中、又は火災の状況後になされる、方法。
【請求項3】
結果として生じる電気出力は、コーティングを塗布しないソーラーパネルの電気出力と比較して電気出力の1%より小さくなるまで低減されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】 、
結果として生じる電気出力は、電流で測定され、コートされていないパネルの電流の0.20%より小さくなるまで低減される;または、
結果として生じる電気出力は、電圧で測定され、コートされていないパネルの電圧の20%より小さくなるまで低減される;または、
結果として生じる電気出力は、ワット数で測定され、コートされていないパネルのワット数の0.10%より小さくなるまで低減される;
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
コーティングが硬化した場合に、コーティング組成物が塗布されたソーラーパネル及び任意の周辺の構造物から安易にコーティングが剥がされるように、前記コーティング組成物が離型剤を含む;または、
前記コーティング組成物は、難燃添加剤を含むように配合される;または、
コーティングが日光において6週間に亘って劣化しないように、前記コーティング組成物がUV安定剤を含むように配合される;
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記膜形成結合剤が、水溶性ポリマー、分散液、エマルジョン、及び、ラテックスから成る群から選ばれる水性結合剤であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティング組成物は、UV抑制剤を含まないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記コーティング組成物は、付着性シートとして前記ソーラーパネルから除去されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
設置されたソーラーパネルを電気無効化する方法であって、当該方法は、
a)前記ソーラーパネルの光電池に届く光量を低減するように硬化可能なコーティング組成物で前記ソーラーパネルの受光領域をコーティングするステップであって、前記硬化可能なコーティング組成物が膜形成結合剤及び5重量%~20重量%の黒色の不透明化剤を備え、これにより、前記コーティング組成物の膜が前記ソーラーパネルの受光領域を透過する光を低減させる、ステップ、及び、
b)前記ソーラーパネルの電気出力を測定するステップ、
を備え、
結果として生じる前記ソーラーパネルの前記電気出力が、所定レベルより小さくなるまで低減されてない場合は、次いで、a)及びb)が、前記電気出力が前記所定レベルより小さくなるまで繰り返され、
前記コーティングするステップは、修理前または修理中、洪水状況前または洪水状況中、電気事故前または電気事故中、あるいは、火災状況前または火災状況中、又は火災の状況後になされ、
前記ソーラーパネルの電気出力の前記所定レベルは、生理学的影響を及ぼすレベルであり、電気出力の前記所定レベルは、 知覚閾値または反応の閾値でのDC電流であり、又は、前記所定レベルは、オーストラリア規格60479.1またはその同等値であり、
前記コーティングの厚みは、50~2000ミクロンであり、これにより、光透渦を入射光の0.1%より小さくなるまで低減することを特徴とする方法。」
(2)引用例の記載
ア 引用例1の記載及び引用発明
引用例1の”Home”、”Why Do You Need SecuredSolarTM?”、及び、”SecuredSolarTM Starter Kit”のタグで表示されるページの末尾には、それぞれ”Copyright c SE Corp 2010-2011. All Right Reserved.”(”Copyright”のあとの”c”は○にc)の表示がある。
したがって、上記各ページの記載は、本件特許の優先日前には、公知であったと認められる。
更に、上記”SecuredSolarTM Starter Kit”のタグで表示されるページにおいて、YouTubeへのリンクとともに掲載された映像について、YouTubeのサイトに掲載された該当の映像を確認すると(https://www.youtube.com/watch?v=s8q94ZTsS-Eを参照。)、当該映像が2011年11月20日(本件特許の優先日前)に公開されたことが記載されている。
そして、引用例1には、以下の事項が記載されている。
(ア)引用例1の”Home”のタグで表示されるページには、以下の事項が記載されている。
・ソーラーパネルは、インバーターから切り離されても、太陽光によって発電していること。
・ソーラーパネルは、消防士にとって危険であること。
・SecuredSolarTMをスプレーすると、パネルが被覆されて、ソーラーパネルの電圧が数分で600ボルトから0ボルトになること。
・SecuredSolarTMの使用後は剥がすだけであること。
(イ)引用例1の”Why Do You Need SecuredSolarTM?”のタグで表示されるページには、以下の事項が記載されている。
・SecuredSolarTMの「クイックスプレー」システムを用いると、素早く確実に致死的な電圧の発生を防ぐができること。
・SecuredSolarTMは、風雨では剥がれないこと。
・再建を始めるときは、SecuredSolarTMを剥がすだけでソーラーパネルが機能するようになること。
(ウ)引用例1の”SecuredSolarTM Starter Kit”のタグで表示されるページには、SecuredSolarTMのフィルムの特徴として、以下の事項が記載されている。
・不透明であって、太陽光を完全に遮光すること。
・耐火性があり、燃えないこと。
・危険がなくなれば、簡単に剥がせること。
・再建時まで、安全な「遮光」状態に維持できること。
(エ)上記”SecuredSolarTM Starter Kit”のタグで表示されるページに、YouTubeへのリンクとともに掲載された映像(https://www.youtube.com/watch?v=s8q94ZTsS-E)からは、スプレーされる液体は、乳白色若しくは乳白色に近い灰色であることが把握できる。
(オ)したがって、上記(ア)~(エ)の記載から、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「火災時に、乳白色若しくは乳白色に近い灰色であるSecuredSolarTMをソーラーパネルにスプレーし、不透明かつ耐火性のフィルムでソーラーパネル被覆して遮光することにより、致死的な電圧の発生を防ぎ、再建時には、前記フィルムを剥がすだけで、ソーラーパネルが機能するようになる方法。」
イ 引用例2の記載
引用例2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明はこのような課題に鑑みて為されたものであって、太陽電池パネルの受光面に遮光手段を設けた状態でそのパネルを屋外に設置すると共に、該パネルにて発生した光起電力を負荷側に導く配線を行った後、上記遮光手段を排除するものである。
【0007】
【作用】太陽電池パネルを屋外に設置し、負荷側への配線を行った後に、遮光手段を排除しているので、パネルの接続作業時の感電事故を防止することができる。」
(イ)「【0012】またこの不透明塗布膜7としては、ポリビニルエーテル、ポバール、ポリエチレンオキサイド、水溶性ポリウレタンなどの水溶性樹脂に、カーボンブラック、酸化クロムなどの不透明粉末を混合して塗料としたものを用いてもよい。」
ウ 引用例3の記載
引用例3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0008】
したがって本発明は、その基本的態様としては、塩化ビニル系農業用フィルムの少なくとも一方の面に、水酸基含有モノマーを共重合したアクリル系樹脂をコーティングして塗膜を形成し、白色顔料と樹脂エマルジョンからなり、該塗膜面に塗布され遮光層を形成し、形成された遮光層がアルカリ性除去剤にて除去可能であることを特徴とする農業用遮光剤である。」
(イ)「【0012】
本発明が提供する遮光剤中に含有される、遮光性を確保するために添加される白色顔料としては、チタン白、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、マイカ、硫酸バリウム等をあげることができる。本発明にあってはそのなかでも特に、炭酸カルシウムまたは酸化チタンが効果的なものであることが判明した。なお、これらの白色顔料は、2種類を組合せ配合することもできる。」
(ウ)「【0022】
本発明の農業用遮光剤には、上記した白色顔料、特に炭酸カルシウムの他に、必要に応じて、さらに硬化剤、防腐剤、増粘剤、減粘剤、分散剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、アルコール類等を添加することができる。」
エ 引用例4の記載
引用例4には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0019】
[遮光シート]
本実施形態である遮光シートについて説明する。本実施形態の遮光シートは、基材の片面側の表面に遮光層を有する。この遮光層には、樹脂と白色顔料とが少なくとも含まれ、遮光層中、樹脂の100質量部に対して白色顔料が70質量部以上分散されている。このような遮光層は、複数の架橋性置換基を有する樹脂化合物及びポリイソシアネート化合物の100質量部に対して白色顔料を70質量部以上分散させたコーティング液を基材の表面に塗布し、塗布されたコーティング液から被膜を形成させることにより作製される。」
(イ)「【0034】
白色顔料としては、酸化チタン、タルク、シリカ、硫酸バリウム、水酸化カルシウム等が例示される。これらの中でも、白色顔料として、酸化チタンが好ましく使用される。なお、酸化チタンには、その結晶構造がルチル型のものと、アナターゼ型のものとが存在するが、アナターゼ型の酸化チタンには酸化触媒作用を呈するものもあるので、ルチル型の酸化チタンを使用することが好ましい。」
(ウ)「【0044】
次に、コーティング液に使用される添加剤について説明する。添加剤は、遮光層に対して、耐候性、耐光性、耐熱性、耐湿性、難燃性等を付与するために必要に応じて添加される。また、添加剤は、コーティング液の安定性、塗工性、乾燥性、ブロッキング性等を向上させるためにも必要に応じて添加される。
【0045】
添加剤としては、分散剤、消泡剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤等が例示される。これらは、公知のものを特に制限なく使用することができ、コーティング液や遮光層に求められる性能に応じて、適宜選択される。」
(3)本件特許発明1について
ア 対比・一致点・相違点について
本件特許発明1と引用発明とを対比する。
(ア)本件特許発明1の「ソーラーパネルの光電池によって受容されている光量を低減するために設置された前記ソーラーパネルをコーティングする方法であって、」との発明特定事項について
引用発明は、「不透明かつ耐火性のフィルムでソーラーパネル被覆して遮光することにより、致死的な電圧の発生を防」ぐ方法であるので、上記本件特許発明1の発明特定事項と一致する。
(イ)本件特許発明1の「前記ソーラーパネルの受光領域を十分な厚みの硬化可能なコーティング組成物でコーティングするステップであって、」との発明特定事項について
引用発明の「SecuredSolarTM」は、本件特許発明1の「コーティング組成物」に相当する。
また、引用発明の「SecuredSolarTM」は、スプレーされた後フィルムとなるものであるから、引用発明の「SecuredSolarTM」は、本件特許発明1の「コーティング組成物」と「硬化可能な」ものである点で共通する。
また、引用発明は、火災時に、SecuredSolarTMがソーラーパネルにスプレーされ、該ソーラーパネルを不透明かつ耐火性のフィルムで被覆することによって、致死的な電圧の発生を防ぐ方法であるから、引用発明も本件特許発明1と同様の「十分な厚み」でコーティングすることは明らかである。
したがって、引用発明は、本件特許発明1の上記発明特定事項を備える。
(ウ)本件特許発明1の「前記硬化可能なコーティング組成物が、前記ソーラーパネルの受光領域を透過する光を低減させるように膜形成結合剤及び5重量%~20重量%の黒色の不透明化剤を備え、」との発明特定事項について
上記(イ)のとおり、引用発明の「SecuredSolarTM」は、本件特許発明1の「コーティング組成物」と「硬化可能な」ものである点で共通し、また、引用発明は、火災時に、SecuredSolarTMがソーラーパネルにスプレーされ、該ソーラーパネルを不透明かつ耐火性のフィルムで被覆することによって、致死的な電圧の発生を防ぐのであるから、本件特許発明1の「前記硬化可能なコーティング組成物が、前記ソーラーパネルの受光領域を透過する光を低減させるように膜形成結合剤」を備えているといえる。
他方で、SecuredSolarTMは不透明なフィルムとなるとはいえるものの、「5重量%~20重量%の黒色の不透明化剤」を備えているか否かは不明である。
(エ)本件特許発明1の「結果として前記ソーラーパネルの電気出力が所定レベルより小さくなるまで低減される、コーティングするステップを備え、」との発明特定事項について
上記(ア)~(ウ)のとおりであるので、引用発明は、本件特許発明1の上記発明特定事項を備える。
(オ)本件特許発明1の「前記ソーラーパネルの電気出力の前記所定レベルは、生理学的影響を及ぼすレベルであり、電気出力の前記所定レベルは、知覚閾値または反応の閾値でのDC電流であり、又は、前記所定レベルは、オーストラリア規格60479.1またはその同等値であり、」との発明特定事項について
引用発明は、「致死的な電圧の発生を防」ぐので、当該「致死的な電圧」は、本件特許発明1の「生理学的影響を及ぼすレベル」、「知覚閾値または反応の閾値でのDC電流」を生じるようなレベル、又は、「オーストラリア規格60479.1またはその同等値」であるようなレベルに包含されるものであるは明らかである。
したがって、引用発明と本件特許発明1の上記発明特定事項を備える。
(カ)本件特許発明1の「前記コーティングするステップは、修理前または修理中、洪水状況前または洪水状況中、電気事故前または電気事故中、あるいは、火災状況前、火災状況中、又は火災の状況後になされる、方法。」との発明特定事項について
引用発明は、「火災時に」おける方法であるので、本件特許発明1と「前記コーティングするステップは、火災状況中になされる、方法。」である点で共通するものの、「修理前または修理中、洪水状況前または洪水状況中、電気事故前または電気事故中、あるいは、火災状況前又は火災の状況後」において用いられるものであるか否かは不明である。
(キ)したがって、本件特許発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点がある。
<一致点>
「ソーラーパネルの光電池によって受容されている光量を低減するために設置された前記ソーラーパネルをコーティングする方法であって、当該方法は、前記ソーラーパネルの受光領域を十分な厚みの硬化可能なコーティング組成物でコーティングするステップであって、前記硬化可能なコーティング組成物が、前記ソーラーパネルの受光領域を透過する光を低減させるように膜形成結合剤を備え、結果として前記ソーラーパネルの電気出力が所定レベルより小さくなるまで低減される、コーティングするステップを備え、
前記ソーラーパネルの電気出力の前記所定レベルは生理学的影響を及ぼすレベルであり、電気出力の前記所定レベルは、知覚閾値または反応の閾値でのDC電流であり、又は、前記所定レベルは、オーストラリア規格60479.1またはその同等値であり、
前記コーティングするステップは、火災状況中になされる、方法。」
<相違点1>
ソーラーパネルの受光領域を透過する光を低減させる、コーティング組成物が、本件特許発明1では、5重量%~20重量%の黒色の不透明化剤を備えるのに対し、引用発明では、そのような量の不透明化剤を備えるものであるのか否か不明である点。
<相違点2>
コーティングの厚みについて、本件特許発明1では、50~2000ミクロンであり、これにより、光透過を入射光の0.1%より小さくなるまで低減しているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。
<相違点3>
コーティングするステップが、本件特許発明1では、「火災状況中」だけでなく、「修理前または修理中、洪水状況前または洪水状況中、電気事故前または電気事故中、あるいは、火災状況前又は火災の状況後になされる」のに対し、引用発明が、そのような状況においても用いられるものであるのか否か不明である点。
イ 当審の判断
(ア)相違点1について
引用例2には、上記(2)イのとおり、太陽電池パネルの受光面を遮光するための不透明粉末として、カーボンブラックを用いる技術が記載されている。
ここで、カーボンブラックは、本件特許の発明の詳細な説明においても、不透明化剤の例として上げられているものであり(段落【0030】を参照。)、通常黒色のものであることは明らかである。
また、引用例2には、カーボンブラックを混合した不透明化膜により、太陽光を遮光することによって、太陽電池パネルの感電事故を防止するものであるから、引用発明と引用例2に記載された技術とは、不透明の膜により太陽光を遮光することによって太陽電池の感電事故を防止する点で共通する。
そうすると、引用発明において、ソーラーパネルの受光領域を透過する光を低減させるようための不透明化剤として、引用例2に記載された「カーボンブラック」を採用することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
また、その際、「ソーラーパネルの受光領域を透過する光を低減させるように」するために必要十分な「カーボンブラック」の量となる数値範囲を規定することは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎず、本件特許発明1の「5重量%~20重量%」との数値限定についても、上記「受光領域を透過する光を低減させる」こと以上の作用効果を奏するものでもない。
(イ)相違点2について
引用発明も、本件特許発明1と同様、「前記ソーラーパネルの電気出力が所定レベルより小さくなるまで低減される、コーティングするステップを備え」るから、そのために必要なコーティングの厚みをどの程度とするか、また、その結果、入射光をどの程度まで低減するかは当業者が必要に応じて適宜設定しうる設計事項にすぎない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明を参酌しても、その数値限定自体について格別の臨界的意義はなく、特段の作用効果を認めることができない。
(ウ)相違点3について
修理前または修理中、洪水状況前または洪水状況中、電気事故前または電気事故中、あるいは、火災状況前又は火災の状況後においても、引用発明の火災時と同様に、ソーラーパネルの致死的な電圧の発生を防ぐ必要があることは、当業者であれば当然に予測し得ることであるから、引用発明の方法を上記の状況においても適用しようとすることは、当業者であれば容易になし得ることである。
ウ 小括
したがって、本件特許発明1は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
また、本件特許発明1の作用効果についても、引用発明及び引用例2に記載された技術から、当業者が予測し得るものである。
(4)本件特許発明3、4について
ア 対比・一致点・相違点について
本件特許発明3、4と引用発明とを対比すると、上記(3)の一致点、相違点に加え、本件特許発明3、4が、コーティングしたソーラーパネルの電気出力(電流、電圧、ワット数)の上限値が規定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点で相違する。
イ 当審の判断
引用発明も、本件特許発明3、4と同様、「前記ソーラーパネルの電気出力が所定レベルより小さくなるまで低減される、コーティングするステップを備え」るから、そのために必要なコーティングしたソーラーパネルの電気出力(電流、電圧、ワット数)の上限値を規定することは、当業者が適宜なし得る設計事項である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明を参酌しても、その数値限定自体について特段の作用効果を認めることができない。
ウ 小括
したがって、本件特許発明3、4は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(5)本件特許発明5について
ア 対比・一致点・相違点について
本件特許発明5と引用発明とを対比すると、上記(3)の一致点、相違点に加え、本件特許発明5のコーティング組成物が離型剤、難燃添加剤、または、コーティングが日光において6週間に亘って劣化しないように、UV安定剤を含むのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点で相違する。
イ 当審の判断
引用例1には、(2)アのとおり、耐火性があり、燃えないこと、危険がなくなれば、簡単に剥がせること、及び、再建時まで、安全な「遮光」状態に維持できることが記載されている。
また、引用例3及び4に記載されているように(上記(2)ウ及びエを参照。)、結合材にさらに各種添加剤を混合して、耐候性、耐熱性、耐湿性、難燃性等の機能を付加する技術も、本願の優先日前に周知である。
そうすると、上記引用例1の記載及び上記周知技術を踏まえ、引用発明において、コーティング組成物に、離型剤、難燃添加剤またはUV安定剤を含有させることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。
ウ 小括
したがって、本件特許発明5は、引用発明、引用例2に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(6)本件特許発明8について
ア 対比・一致点・相違点について
本件特許発明8と引用発明とを対比すると、上記(3)の一致点、相違点に加え、本件特許発明8で特定される点でも相違する。
イ 当審の判断
一般的にコーティング材料として、水溶性ポリマー、分散液、エマルジョン、ラテックスなどは、広く用いられている材料であるので、引用発明において、ソーラーパネルにスプレーし膜形成するための膜形成結合剤の成分として、水溶性ポリマー、分散液、エマルジョン、及び、ラテックスから成る群から選ばれる水性結合剤を採用することは、当業者であれば適宜なし得ることである。
また、本件特許の発明の詳細な説明を参酌しても、水溶性ポリマー、分散液、エマルジョン、及び、ラテックスから成る群から選ばれる水性結合剤を採用することに、特段の作用効果を認めることができない。
ウ 小括
したがって、本件特許発明8は、引用発明、引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(7)本件特許発明9について
ア 対比・一致点・相違点について
本件特許発明9と引用発明とを対比すると、上記(3)の一致点、相違点に加え、本件特許発明9で特定される点でも相違する。
イ 当審の判断
上記(2)アのとおり、引用発明は、再建時まで安全な「遮光」状態に維持できるようにするものであるところ、そのために必要な期間は使用状況等により適宜変更されうるものであるから、コーティング組成物にUV抑制剤を含有させるか否かは、当業者が必要に応じて適宜決定し得ることである。
ウ 小括
したがって、本件特許発明9は、引用発明、引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(8)本件特許発明10について
ア 対比・一致点・相違点について
本件特許発明10と引用発明とを対比すると、上記(3)の一致点、相違点に加え、本件特許発明10で特定される点で一致する。
イ 当審の判断
したがって、上記(3)で検討したとおり、本件特許発明10は、引用発明、引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(9)本件特許発明11について
ア 対比・一致点・相違点について
上記(3)アの本件特許発明1と引用発明との対比を踏まえつつ、本件特許発明11と引用発明とを対比すると、両者の間には、以下の一致点、相違点がある。
<一致点>
「設置されたソーラーパネルを電気無効化する方法であって、当該方法は、
a)前記ソーラーパネルの光電池に届く光量を低減するように硬化可能なコーティング組成物で前記ソーラーパネルの受光領域をコーティングするステップであって、前記硬化可能なコーティング組成物が膜形成結合剤を備え、これにより、前記コーティング組成物の膜が前記ソーラーパネルの受光領域を透過する光を低減させる、ステップ、
を備え、
前記コーティングするステップは、火災状況中になされ、
前記ソーラーパネルの電気出力の前記所定レベルは、生理学的影響を及ぼすレベルであり、電気出力の前記所定レベルは、知覚閾値または反応の閾値でのDC電流であり、又は、前記所定値レベルは、オーストラリア60479.1またはその同等値である方法。」
<相違点4>
ソーラーパネルの受光領域を透過する光を低減させる、コーティング組成物が、本件特許発明11では、5重量%~20重量%の黒色の不透明化剤を備えるのに対し、引用発明では、そのような量の不透明化剤を備えるものであるのか否か不明である点。
<相違点5>
コーティングするステップが、本件特許発明11では、「火災状況中」だけでなく、「修理前または修理中、洪水状況前または洪水状況中、電気事故前または電気事故中、あるいは、火災状況前又は火災の状況後になされる」のに対し、引用発明が、そのような状況においても用いられるものであるのか否か不明である点。
<相違点6>
本件特許発明11が、「b)前記ソーラーパネルの電気出力を測定するステップ、を備え、結果として生じる前記ソーラーパネルの前記電気出力が、所定レベルより小さくなるまで低減されてない場合は、次いで、a)及びb)が、前記電気出力が前記所定レベルより小さくなるまで繰り返され」るのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。
<相違点7>
コーティングの厚みについて、本件特許発明11では、50~2000ミクロンであり、これにより、光透過を入射光の0.1%より小さくなるまで低減しているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。
イ 当審の判断
(ア)相違点4、5、7について
上記(3)イで検討した相違点1、3、2についてとそれぞれ同様である。
(イ)相違点6について
引用発明において、ソーラーパネルの致死的な電圧の発生を防ぐ必要があることを踏まえれば、十分に塗布が行われたか否か確認する必要があることは明らかであって、通常、ソーラーパネルに電圧が発生しているか否かを目視で確認することは困難であることを考慮すれば、電気出力を測定しつつ、ソーラーパネルの前記電気出力が、所定レベルより小さくなるまで、塗布の作業を継続することは、当業者であれば適宜なし得ることである。
(ウ)小括
したがって、本件特許発明11は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
また、本件特許発明11の作用効果についても、引用発明及び引用例2に記載された技術から、当業者が予測し得るものである。
(10)特許権者の意見について
ア 平成31年2月18日、令和元年8月14日の意見書において、特許権者は、概ね以下の(ア)及び(イ)のような主張をしている。
(ア)特許権者は、以下の点を挙げて、引用例1には、引用発明を実施することができるのに十分な記載がないことから、発明として引用すべきではない旨を主張している。
a 引用例1のウェブサイトに記載された写真や映像は、編集ソフト等で加工されたものであったり、ソーラーパネル以外のものにスプレーしているものであったりするため、引用発明が実施可能なものとしては確認できないこと。
b 引用発明のSecuredSolarTMは速乾性(硬化)コーティング組成物ではなく、迅速に電圧を除去させるようなコーティング組成物の開示はないこと。
c 引用例1のウェブサイトには、実際に電圧が「0V」となることを示す、実証実験のデータが提供されていないし、特許権者による試験では、白色の不透明化剤を含む薄いコーティングでは、電圧は所定のレベル以下に低下しないこと。
d SecuredSolarTMは、引用例1の6ページ目には、「One Gallon more than covers one large-size 230 Watt panel」と記載している。1ガロンは3.785リットル(3785cm3)であり、230ワットパネルは1.65×1m=1.65m2(16500cm2)である。それ故に、引用例1は、2300ミクロンのコーティング厚さ(つまり、3785cm3/16500cm2=0.23cm=2300ミクロン)を記載している。従って、本願請求項1に記載されたコーティングの厚さが、引用文献1に記載されたコーティングの厚さより小さくなっていることは明らかである。
e SecuredSolarTMが、「風雨では剥がれないこと」、「耐火性があり、燃えないこと」及び「簡単に剥がせること」等についても実施不可能な「アイデア」に過ぎないこと。
(イ)引用例2には、水溶性樹脂に、カーボンブラックなどの不透明粉末を混合した塗料が記載されており、水溶性樹脂は、膜形成結合剤を備える硬化可能なコーティング組成物とはいえないから、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することができない旨を主張している。
イ 上記主張について検討する。
(ア)上記ア(ア)の主張については、以下の(a)~(e)で検討したとおり理由がない。
(a)上記aの主張について
一般に、ウェブサイトにおいて、その掲載内容をわかり易くするために、写真や映像を用いることは広く行われていることであって、その際、当該写真や映像に加工や演出等を付加することも良くあることである。
そして、このウェブサイトにおいても、技術や施工方法をわかり易く説明するために、写真を加工したり、実際とは異なる状況で模擬的に施工するような演出がなされていると理解される。
また、ウェブサイトの掲載内容を総合的に見れば、ソーラーパネルに、映像と同様の方法により、SecuredSolarTMをスプレーすることが可能であることは、当業者であれば、容易に理解できるのであるから、引用発明は実施可能であることが理解できる。
よって、主張aは採用できない。
(b)上記bの主張について
引用例1の記載では、SecuredSolarTMはスプレーした後にフィルムとなるのであるから、「速乾性」の有無にかかわらず、引用発明は実施可能であることが理解できる。
なお、本件特許発明1~11において、コーティング組成物は硬化可能であるものの、「速乾性」については特定されていない。また、本件特許の発明の詳細な説明を参酌しても、「速乾性」に関連した記載は見当たらなし、どのような速さで硬化が進むのかについての記載もない。
よって、主張bは採用できない。
(c)上記cの主張について、
白色顔料を含む樹脂を塗布する等により被膜を形成し遮光する技術は、例えば、引用例3又は引用例4に記載されているように、本願の優先日前に周知であるから、引用発明のSecuredSolarTMが仮に白色だとしても、引用発明は実施可能なものと理解できる。
また、上記意見書で主張された、特許権者による試験では、試験で用いたコーティング組成物の内容、コーティングの厚み、具体的な試験方法は明らかではないし、また、本件特許明細書の段落【0080】に記載された「黒色色素を足したSpraylat International Protectapeel Multisurface」がどのようなものかも不明であるし、そもそも、その色が黒色であるか否かも不明であるのだから、引用発明のSecuredSolarTMの色との違いも理解できない。
したがって、特許権者の行った当該試験結果を適切に評価し、引用発明と比較することは、当業者であっても困難である。
さらに言えば、第2の2(3)エ(イ)のとおり、特許権者の上記cの主張は新たな技術的事項を導入しようとするものである。
よって、主張cは採用できない。
(d)上記dの主張について
特許権者の主張は、SecuredSolarTMを1.65m×1mのパネルに対して塗布した場合には、2300ミクロンと主張するものであるが、当該算定値は仮定に基づく理論値であり、蒸発や吸収などの要因も考慮すると、必ずしもこのような値になるとは限らないし、仮にこのような値であったとしても、引用例1は当該値に限定されるものではないから、上記(3)イ(イ)で説示した判断に影響を与えるものとはいえない。
よって、主張dは採用できない。
(e)上記eの主張について
特許権者の上記主張には、引用例1に記載された「風雨では剥がれないこと」、「耐火性があり、燃えないこと」及び「簡単に剥がせること」等がアイデアにとどまるという根拠がない。
また、仮に、上記の記載がアイデアにとどまるものだとしても、当該記載を示唆として、上記(5)で検討したとおり、引用例3及び4に記載されているような周知技術を踏まえ、引用発明において、コーティング組成物に、離型剤、難燃添加剤またはUV安定剤を含有させることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることであるのだから、引用発明が実施できないものであったとはいえない。
よって、主張eは採用できない。
(イ)上記ア(イ)の主張について
カーボンブラック自体が遮光性を持つものであって、カーボンブラックを含有する樹脂が水溶性であるか否かと直接の関係はないから、樹脂が水溶性であるか否かが、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することができないとする理由とはならない。
そして、上記(3)イ(ア)に記載したとおり、引用発明と引用例2に記載された技術とは、不透明の膜により太陽光を遮光することによって太陽電池の感電事故を防止する点で共通するのであるから、引用発明において、引用例2に記載されたカーボンブラックにより、遮光を行うようにすることは当業者であれば容易に想到できたものである。
したがって、上記主張は採用できない。
(11)請求項2、6、7に対する特許異議の申立てについて
上記第2のとおり、請求項2、6、7を削除する本件訂正が認められたので、請求項2、6、7に対する本件特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
したがって、請求項2、6、7に対する本件特許異議の申立ては、不適法な特許異議の申立てであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきである。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1、3ないし5及び8ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1、3ないし5及び8ないし11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項2、6、7に対する本件特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700757