特許異議申立
2022-700973
粘着テープ
- 審判番号
- 2022-700973
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-049723
- 登録番号
- 7065655
- 請求日
- 2022年10月04日
- 審決日
- 2024年03月19日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】小林 均
- 【権利者代理人】林 司
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】石田 祥子
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 関根 裕
- 分類
- P1651.131-YAA(C09J) / P1651.122-YAA(C09J) / P1651.537-YAA(C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7065655号発明「粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7065655号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第7065655号の請求項1-5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許(特許第7065655号)に係る出願は、2018年(平成30年)3月16日(優先権主張 2017年3月16日)の出願であって、令和4年4月28日に特許権の設定登録がされ、同年5月12日に特許掲載公報が発行された。その後、令和4年10月4日に特許異議申立人である石田 祥子(以下「申立人」ともいう。)によって、請求項1~5(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
その後、当審は、令和5年1月10日付けで取消理由を通知し(発送は同年同月12日)、この取消理由通知に対し、特許権者は、その指定期間内である同年3月3日に意見書を提出した。当審は、同年3月23日付けで取消理由(決定の予告)を通知し(発送は同年同月30日)、この取消理由通知に対し、特許権者は、その指定期間内である同年5月19日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。当審は、同年5月30日付けで申立人に訂正請求があった旨を通知し(発送は同年6月2日)、この通知に対し、申立人は、その指定期間内である同年6月30日に意見書を提出した。
第2 異議申立の概要及び証拠等の一覧
1 異議申立の概要
申立人が申し立てた特許異議申立の理由は、以下のとおりである。
申立理由1(新規性)本件特許発明1~5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
申立理由2 (進歩性)本件特許発明1~5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
申立理由3(サポート要件)本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
2 証拠の一覧
申立人が提示した証拠は、次のとおりである。なお、甲第1号証を甲1という。
甲1:国際公開第2016/067406号
3 参考資料の一覧
申立人は、意見書と共に以下の参考資料を提出した。なお、参考資料1を参1などという。
参1:特開2005-23143号公報
参2:国際公開第2005/000989号
参3:特開2023-43538号公報
参4:東ソー株式会社による「コロネートLの販売停止について」と題する2021年7月15日付けのNEWS RELEASEの出力物
第3 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
令和5年5月19日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」ともいう。)の請求の趣旨は、「特許第7065655号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」というものである。
2 本件訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」ともいう。)の内容は、特許請求の範囲の訂正に係る以下の訂正事項からなるものである。訂正箇所に当審が下線を付した。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「前記架橋性官能基を有するアクリル系ポリマー及び前記粘着付与樹脂は、前記架橋剤を介して結合可能であり、前記粘着剤層のゾル分について検出波長254nmのUV検出器を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により分子量分布を測定したとき、得られた分子量分布曲線の総積分値(SU)に対する重量平均分子量3万以上の領域の積分値(SUH)の比率(SUH/SU)が5%以上30%以下である」との記載を、
「前記架橋性官能基を有するアクリル系ポリマー及び前記粘着付与樹脂は、前記架橋剤を介して結合可能であり、前記粘着剤層は、ゲル分率が50重量%以下であり、前記粘着剤層のゾル分について検出波長254nmのUV検出器を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により分子量分布を測定したとき、得られた分子量分布曲線の総積分値(SU)に対する重量平均分子量3万以上の領域の積分値(SUH)の比率(SUH/SU)が5%以上30%以下である」と訂正する。
3 訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~5について、請求項2~5はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正前の請求項1~5に対応する本件訂正後の請求項1~5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求ごとに請求されたものである。
(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、粘着剤層のゲル分率を「50重量%以下」と限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
本件特許の明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の段落【0054】には、「上記粘着剤層は、ゲル分率が50重量%以下であることが好ましい。上記ゲル分率が50重量%を超えると、上記粘着剤層の架橋密度が高くなりすぎて、粘着テープが剥がれやすくなることがある。」と記載されている。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項1は、粘着剤層のゲル分率を「50重量%以下」の態様のみに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~5に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項により読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
(4)本件訂正の適否についての小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを認める。
第4 本件発明
上記第3のとおり、本件訂正請求は認められたので、本件特許の請求項1~5に係る発明は、その特許の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1~5に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
粘着剤層を有する粘着テープであって、
前記粘着剤層は、架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーと、粘着付与樹脂と、架橋剤とを含有し、
前記架橋性官能基を有するアクリル系ポリマー及び前記粘着付与樹脂は、前記架橋剤を介して結合可能であり、
前記粘着剤層は、ゲル分率が50重量%以下であり、
前記粘着剤層のゾル分について検出波長254nmのUV検出器を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により分子量分布を測定したとき、得られた分子量分布曲線の総積分値(SU)に対する重量平均分子量3万以上の領域の積分値(SUH)の比率(SUH/SU)が5%以上30%以下である、粘着テープ。
【請求項2】
前記架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーにおいて、架橋性官能基は、水酸基であり、前記粘着付与樹脂は、水酸基を有し、前記架橋剤は、イソシアネート系架橋剤である、請求項1記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂は、ロジンエステル系樹脂である、請求項1又は2記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記粘着付与樹脂は、1分子中に含まれるアルコール性水酸基が0.5個以上である、請求項2記載の粘着テープ。
【請求項5】
前記架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーは、リビングラジカル重合により得られたアクリル系ポリマーである、請求項1、2、3又は4記載の粘着テープ。」
第5 令和5年3月23日付けで通知した取消理由(決定の予告)について
1 令和5年3月23日付けで通知した取消理由
当審が、令和5年3月23日付けで通知した取消理由は、以下のとおりである。
取消理由1(サポート要件)本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
取消理由2(新規性)本件特許発明1~5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 取消理由1について
(1)取消理由1の概要
本件発明は、ゲル分率について何ら特定されていないものであるが、ゲル分率が50重量%を超える態様においてもその課題を解決することができることを当業者が理解することができる記載が本件特許明細書にはないし、そのような技術常識もみあたらない。したがって、本件発明は、課題を解決することができると認識できる範囲でないものを含むものであり、サポート要件を充足していない。
(2)当審の判断
上記第3のとおり、本件訂正請求は認められたので、本件発明は、ゲル分率が50重量%を超える態様を含まないものとなった。
したがって、本件発明に係る特許を、取消理由1によって、取り消すべきものとすることはできない。
3 取消理由2について
(1)取消理由2の概要
取消理由2は、主たる引用文献等として甲1を引用し、周知技術を示す引用文献等として特開2003-13035号公報を引用するものであって、その概要は、以下のとおりである。なお、取消理由2の対象となった発明は、本件訂正前の請求項1~5に記載された発明であり、以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明5」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。
ア 甲1の実施例6あるいは7(後記(2)ア(ア)の[0066][表2]参照。)等の記載によれば、甲1には以下の発明(以下、それぞれ、「引用発明1-1」、「引用発明1-2」ともいう。)が記載されていると認められる。
<引用発明1-1>
「粘着剤層を有する粘着テープであって、
前記粘着剤層は、水酸基を含む架橋性官能基を有する合成2のリビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマーを100重量部と、水酸基を架橋性官能基として有する粘着付与樹脂であるペンセルD135(重合ロジンエステル、荒川化学社製)を10重量部と、イソシアネート架橋剤であるコロネートL(日本ポリウレタン社製)を1重量部含有し、
前記リビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマー及び前記粘着付与樹脂は、前記架橋剤を介して架橋させることができる、粘着テープ」
<引用発明1-2>
「粘着剤層を有する粘着テープであって、
前記粘着剤層は、水酸基を含む架橋性官能基を有する合成1のリビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマーを100重量部と、水酸基を架橋性官能基として有する粘着付与樹脂であるペンセルD135(重合ロジンエステル、荒川化学社製)を10重量部と、イソシアネート架橋剤であるコロネートL(日本ポリウレタン社製)を0.8重量部含有し、
前記リビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマー及び前記粘着付与樹脂は、前記架橋剤を介して架橋させることができる、粘着テープ」
イ 本件特許発明1と引用発明1-2を対比すると相違点は、以下の相違点1である。
<相違点1>
本件特許発明1は、「粘着剤層のゾル分について検出波長254nmのUV検出器を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により分子量分布を測定したとき、得られた分子量分布曲線の総積分値(SU)に対する重量平均分子量3万以上の領域の積分値(SUH)の比率(SUH/SU)が5%以上30%以下である」のに対し、引用発明1-2ではそのような比率のものであるかを記載していない点。
ウ 相違点1について検討すると、本件特許明細書の段落【0053】には、ポリマー成分を増やすことにより比率(SUH/SU)を大きくすることができることが記載されているから、分子数で考えた場合、ポリマー成分がおおよそ2倍存在する引用発明1-2の粘着剤は、測定したならば、その比率(SUH/SU)は、本件特許明細書の比較例2(比率3%)よりも大きく、おおよそその2倍程度と推測され、「5%以上30%以下」の範囲内にある蓋然性が極めて高いといえる。したがって、相違点1は、実質的な相違点ではないと推認できる。
エ 上記イ、ウを踏まえて、本件特許発明2~5と引用発明1-2を対比すると相違点1以外に新たな相違点はないから、本件特許発明2~5も、本件特許発明1と同様の理由により、いずれも、甲1に記載された発明(引用発明1-2)である。また、本件特許発明と引用発明1-1を対比した場合についても同様である。
オ したがって、本件特許発明は、甲1に記載された発明であるから、その特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)当審の判断
ア 証拠等に記載されている事項、及び、証拠に記載された発明
(ア)甲1の記載事項
「特許請求の範囲
[請求項1]
リビングラジカル重合により得られた、重量平均分子量30万~200万、分子量分布(Mw/Mn)1.05~2.5の架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーを60重量%以上含有するポリマー成分と架橋剤とを含有する粘着剤層を含有し、前記粘着剤層のゲル分率が15重量%以下であることを特徴とする粘着テープ。
[請求項2]
架橋性官能基が水酸基を含み、架橋剤がイソシアネート系架橋剤を含むことを特徴とする請求項1記載の粘着テープ。
[請求項3]
架橋性官能基がカルボキシル基を含み、架橋剤がエポキシ系架橋剤又はアジリジン系架橋剤を含むことを特徴とする請求項1記載の粘着テープ。」
「[0037]
上記粘着剤層は、更に、粘着付与樹脂を含有することが好ましい。上記粘着剤層が粘着付与樹脂を含有することにより、粘着テープの被着体に対する定荷重剥離性が向上する。なかでも、架橋性官能基を有する粘着付与剤を用いる場合には、架橋剤を介して上記リビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマーと架橋させることができる。
[0038]
上記粘着付与樹脂は、水酸基価の好ましい下限が25、好ましい上限が55である。上記水酸基価が上記範囲を外れると、粘着テープの被着体に対する定荷重剥離性が低下することがある。上記水酸基価のより好ましい下限は30、より好ましい上限は50である。
なお、水酸基価は、JIS K1557(無水フタル酸法)により測定できる。」
「[0040]
上記粘着付与樹脂は特に限定されず、ロジンエステル系樹脂等のロジン系樹脂、テルペンフェノール樹脂等のテルペン系樹脂、石油系樹脂等が挙げられる。なかでも、ロジンエステル系樹脂、テルペンフェノール樹脂が好ましい。
上記ロジンエステル系樹脂とは、アビエチン酸を主成分とするロジン樹脂、不均化ロジン樹脂及び水添ロジン樹脂、アビエチン酸等の樹脂酸の二量体(重合ロジン樹脂)等を、アルコールによってエステル化させて得られた樹脂である。エステル化に用いたアルコールの水酸基の一部がエステル化に使用されずに樹脂内に含有されることで、水酸基価が上記範囲に調整される。アルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールが挙げられる。
なお、ロジン樹脂をエステル化した樹脂がロジンエステル樹脂、不均化ロジン樹脂をエステル化した樹脂が不均化ロジンエステル樹脂、水添ロジン樹脂をエステル化した樹脂が水添ロジンエステル樹脂、重合ロジン樹脂をエステル化した樹脂が重合ロジンエステル樹脂である。
上記テルペンフェノール樹脂とは、フェノールの存在下においてテルペンを重合させて得られた樹脂である。
[0041]
上記不均化ロジンエステル樹脂としては、例えば、荒川化学工業社製スーパーエステルA75(水酸基価23、軟化温度75℃)、同社製スーパーエステルA100(水酸基価16、軟化温度100℃)、同社製スーパーエステルA115(水酸基価19、軟化温度115℃)、同社製スーパーエステルA125(水酸基価15、軟化温度125℃)等が挙げられる。上記水添ロジンエステル樹脂としては、例えば、荒川化学工業社製パインクリスタルKE-359(水酸基価42、軟化温度100℃)、同社製エステルガムH(水酸基価29、軟化温度70℃)等が挙げられる。上記重合ロジンエステル樹脂としては、例えば、荒川化学工業社製ペンセルD135(水酸基価45、軟化温度135℃)、同社製ペンセルD125(水酸基価34、軟化温度125℃)、同社製ペンセルD160(水酸基価42、軟化温度160℃)等が挙げられる。
上記テルペン系樹脂としては、例えば、ヤスハラケミカル社製YSポリスターG150(軟化点150℃)、同社製YSポリスターT100(軟化点100℃)、同社製YSポリスターG125(軟化点125℃)、同社製YSポリスターT115(軟化点115℃)、同社製YSポリスターT130(軟化点130℃)等が挙げられる。
これらの粘着付与樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。」
「[0052]
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
[0053]
(ラジカル重合ポリマー)
(合成1)
(合成1-1)
Tellurium(40メッシュ、金属テルル、アルドリッチ社製)6.38g(50mmol)をテトラヒドロフラン(THF)50mLに懸濁させ、これに1.6mol/Lのn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(アルドリッチ社製)34.4mL(55mmol)を、室温でゆっくり滴下した。この反応溶液を金属テルルが完全に消失するまで攪拌した。この反応溶液に、エチル-2-ブロモ-イソブチレート10.7g(55mmol)を室温で加え、2時間攪拌した。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、続いて減圧蒸留して、黄色油状物の2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルを得た。
[0054]
(合成1-2)
アルゴン置換したグローブボックス内で、反応容器中に、合成例1-1で製造した2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチル38μL、V-60(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、和光純薬工業社製)2.8mg、酢酸エチル1mLを投入した後、反応容器を密閉し、反応容器をグローブボックスから取り出した。続いて、反応容器にアルゴンガスを流入しながら、反応容器内に、表1に示すモノマー(BA:ブチルアクリレート、Aac:アクリル酸、HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート)の合計100g、重合溶媒として酢酸エチル66.5gを投入し、60℃で20時間重合反応を行い、リビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマー含有溶液を得た。
得られたリビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマーをテトラヒドロフラン(THF)によって50倍希釈して得られた希釈液をフィルター(材質:ポリテトラフルオロエチレン、ポア径:0.2μm)で濾過し、得られた濾液をゲルパミエーションクロマトグラフ(Waters社製、2690 Separations Model)に供給して、サンプル流量1ミリリットル/min、カラム温度40℃の条件でGPC測定を行い、ポリマーのポリスチレン換算分子量を測定して、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。カラムとしてはGPC KF-806L(昭和電工社製)を用い、検出器としては示差屈折計を用いた。
[0055]
(合成2)
合成1-1で製造した2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルを58μL、V-60(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、和光純薬工業社製)4.2mgを変えた以外は合成1-2と同様にしてリビングラジカル重合ポリマー含有溶液を得て、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
[0056]
(合成3)
合成1-1で製造した2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルを12μL、V-60(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、和光純薬工業社製)0.9mgを変えた以外は合成1-2と同様にしてリビングラジカル重合ポリマー含有溶液を得て、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。」
「[0059]
[表1]
[図:0001411241000001.jpg]
」
「[0062]
(実施例6~8、比較例7)
上記で得られたラジカル重合架橋性ポリマー含有溶液に、その不揮発分100重量部に対して酢酸エチルを加えて攪拌し、架橋剤としてコロネートL(イソシアネート系架橋剤、日本ポリウレタン社製)、粘着付与樹脂としてペンセルD135(重合ロジンエステル、荒川化学社製)を表2に示す所定量添加して攪拌し、不揮発分30重量%の粘着剤溶液を得た。厚み50μmの離型処理したPETフィルムに、得られた粘着剤溶液を、乾燥後に表2に示すテープ厚みとなるように塗工した後、70℃で10分間乾燥させ、粘着テープを得た。なお、粘着剤層の両側の表面には、粘着剤層を保護するための離型フィルムを積層した。得られた粘着テープの粘着剤層のゲル分率を、実施例1と同様の方法により測定した。」
「[0066]
[表2]
[図:0001411241000002.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
a 甲1の実施例6~7の粘着テープ([0062]、[0066]の[表2])は、それぞれ、合成2又は合成1のラジカル重合架橋性ポリマー、架橋剤としてコロネートL(イソシアネート系架橋剤、日本ポリウレタン製)、粘着付与樹脂としてペンセルD135(重合ロジンエステル、荒川化学社製)を、[表2]に示す所定量添加して撹拌し、PETフィルム上に塗工、70℃で10分間乾燥させて得たゲル分が10.0重量%の粘着剤層を備えるものである。
b 実施例6~7の粘着テープは、[請求項1]に記載されている粘着テープの実施例であるから、合成例1~2のラジカル重合架橋性ポリマーは、[請求項1]の「リビングラジカル重合により得られた、重量平均分子量30万~200万、分子量分布(Mw/Mn)1.05~2.5の架橋性官能基を有するアクリル系ポリマー」に相当するものであり、当該アクリル系ポリマーについて、[請求項2]に「架橋性官能基が水酸基を含み」と記載されているとともに、実施例6~7で用いられている合成例1~2のラジカル重合架橋性ポリマーは、ブチルアクリレート、アクリル酸、及び2-ヒドロキシエチルアクリレートのリビングラジカル重合架橋ポリマーであって([0053]~[0055]、[0059]の[表1])水酸基を含むものである。
したがって、合成例1~2のラジカル重合架橋性ポリマーは、水酸基を含む架橋性官能基を有するリビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマーであるといえる。
c 甲1の実施例6及び7で加えられている「粘着付与樹脂」は、「ペンセルD135」であるが、これは、「水酸基価45」の「重合ロジンエステル樹脂」であり([0041])、「エステル化に用いたアルコールの水酸基の一部がエステル化に使用されずに樹脂内に含有」しているものである([0040])。また、「架橋性官能基を有する粘着付与剤を用いる場合には、架橋剤を介して上記リビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマーと架橋させることができる」ことが記載されているところ([0037])、実施例6~7ではイソシアネート系架橋剤を用いていることから、これと反応し得る水酸基を有するペンセルD135は、「架橋性官能基を有する粘着付与剤」といえる。
d そうすると、甲1の実施例6及び7の粘着テープの粘着剤層には、水酸基を含む架橋性官能基を有するアクリルポリマーである合成1~2のリビングラジカル重合架橋性ポリマーと、水酸基を架橋性官能基として有する粘着付与樹脂であるペンセルD135とが、イソシアネート架橋剤であるコロネートLを介して架橋させることができるものとして、含まれているといえる。
e したがって、甲1には、その実施例6あるいは7の記載等に基づき次の発明(以下、「引用発明1-6」、「引用発明1-7」という。)が記載されているといえる。なお、引用発明1-6、1-7は、それぞれ、上記(1)アの引用発明1-1、1-2において、さらに「ゲル分が10.0重量%であり」の点を限定したものに相当する。
<引用発明1-6>
「粘着剤層を有する粘着テープであって、
前記粘着剤層は、水酸基を含む架橋性官能基を有する合成2のリビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマーを100重量部と、水酸基を架橋性官能基として有する粘着付与樹脂であるペンセルD135(重合ロジンエステル、荒川化学社製)を10重量部と、イソシアネート架橋剤であるコロネートL(日本ポリウレタン社製)を1重量部含有し、ゲル分が10.0重量%であり、
前記リビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマー及び前記粘着付与樹脂は、前記架橋剤を介して架橋させることができる、粘着テープ」
<引用発明1-7>
「粘着剤層を有する粘着テープであって、
前記粘着剤層は、水酸基を含む架橋性官能基を有する合成1のリビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマーを100重量部と、水酸基を架橋性官能基として有する粘着付与樹脂であるペンセルD135(重合ロジンエステル、荒川化学社製)を10重量部と、イソシアネート架橋剤であるコロネートL(日本ポリウレタン社製)を0.8重量部含有し、ゲル分が10.0重量%であり、
前記リビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマー及び前記粘着付与樹脂は、前記架橋剤を介して架橋させることができる、粘着テープ」
(ウ)特開2003-13035号公報の記載事項
「【0099】配合例2~11
表2に示したように、感圧接着性ポリマーエマルションの番号と、カルボキシル基含有ロジン誘導体(B)および粘着付与剤水分散体(DE-1)の配合量を変更した以外は、配合例1と同様にして、化合物(C)の配合前のエマルションABDE-2~ABDE-11を調製した。なお、ABDE-6については、粘着付与剤として「ペンセルD160」の変わりに「ペンセル135」(酸価10~16;重合ロジンエステル;荒川化学社製;Mw=1450、Mn=1080)を用いて調製した粘着付与剤水分散体(DE-2)を配合した。」
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1-6、及び、引用発明1-7(以下、まとめて「引用発明A」ともいう。)をまとめて対比する。
引用発明Aの「粘着剤層」及び「粘着テープ」は、本件発明1の「粘着剤層」及び「粘着テープ」に相当する。
引用発明1-6の「水酸基を含む架橋性官能基を有する合成例2のリビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマー」及び引用発明1-7の「水酸基を含む架橋性官能基を有する合成例1のリビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマー」は、本件発明1の「架橋性官能基を有するアクリルポリマー」に相当する。
引用発明Aの「水酸基を架橋性官能基として有する粘着付与樹脂であるペンセルD135」は、本件発明1の「粘着付与樹脂」に相当する。
引用発明Aの「イソシアネート架橋剤であるコロネートL」は、本件発明1の「架橋剤」に相当する。
引用発明Aの「前記リビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマー及び前記粘着付与樹脂は、前記架橋剤を介して架橋させることができる」は、本件発明1の「前記架橋性官能基を有するアクリル系ポリマー及び前記粘着付与樹脂は、前記架橋剤を介して結合可能であり」に相当する。
引用発明Aの「ゲル分が10.0重量%であり」は、本件発明1の「前記粘着剤層は、ゲル分率が50重量%以下であり」を充足する。
そうすると、本件発明1と引用発明Aとは、
「粘着剤層を有する粘着テープであって、
前記粘着剤層は、架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーと、粘着付与樹脂と、架橋剤とを含有し、
前記架橋性官能基を有するアクリル系ポリマー及び前記粘着付与樹脂は、前記架橋剤を介して結合可能であり、
前記粘着剤層は、ゲル分率が50重量%以下である、粘着テープ」
である点で一致し、以下の相違点1(上記(1)イの相違点1と同じもの)で一応相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「粘着剤層のゾル分について検出波長254nmのUV検出器を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ方により分子量分布を測定したとき、得られた分子量分布曲線の総積分値(SU)に対する重量平均分子量3万以上の領域の積分値(SUH)の比率(SUH/SU)が5%以上30%以下である」ものに限定されているのに対し、引用発明Aではそのような比率のものであるかを記載していない点。
(イ)相違点1の検討
a 本件発明1の「比率(SUH/SU)」について
本件発明1と引用発明Aとの対比に資するため、本件発明1の「比率(SUH/SU)」の技術的な意味等について確認する。
(a)上記第4のとおり、請求項1には、「前記粘着剤層のゾル分について検出波長254nmのUV検出器を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により分子量分布を測定したとき、得られた分子量分布曲線の総積分値(SU)に対する重量平均分子量3万以上の領域の積分値(SUH)の比率(SUH/SU)」と記載されているから、この記載のとおりに解釈すれば、「比率(SUH/SU)」は、粘着剤層を構成する物質(混合物)をまずゾル分とゲル分に分け、更にゾル分の物質に対して、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ法による分子量分布の測定を行って得た分子量分布曲線から求めた値であり、ゾル分の物質の分子の数に対する重量平均分子量3万以上の物質の分子の数の比を意味するものである。また、「検出波長254nmのUV検出器」を用いていることから、この測定は、吸光度が分子の数(モル数)に比例することをその測定原理とするものである。
(b)ゾル分は、架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーや粘着付与樹脂、架橋剤、等の複数の物質の混合物であるが、本件特許明細書の段落【0008】には、模式図として【図1】の曲線1(原料混合物の分子量分布曲線)を参照しつつ、粘着付与樹脂及び架橋剤(主に粘着付与樹脂)が重量平均分子量1000付近に大きな吸収を示すことや、架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーは、UV吸収を示さないので検出されないことが説明されているとともに、【図1】の曲線1には、粘着付与樹脂及び架橋剤の吸収以外、吸収が何も存在しない。
以上によれば、仮にゾル分に未反応の粘着付与樹脂及び/または架橋剤が存在する場合、これらはいずれもゾル分の分子量分布曲線において吸収を示すが、仮に未反応の架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーが存在してもゾル分の分子量分布曲線において吸収を示さないことが理解できる。
(c)段落【0008】には、模式図として【図1】の曲線2(ゾル分の分子量分布曲線)を参照しつつ、架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーと粘着付与樹脂とが架橋剤を介して結合した反応物(以下「粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマー」ともいう)の吸収(吸収3)がその重量平均分子量100万付近に現れること、粘着付与樹脂が架橋剤を介して会合した会合体(以下「会合体」ともいう)の吸収(吸収4)がその重量平均分子量1万付近に現れること、及び、架橋性官能基を有するアクリル系ポリマー同士が架橋剤により(場合によっては、架橋剤と粘着付与樹脂とにより)架橋された架橋構造体(以下、「架橋構造体」ともいう。)は、粘着剤層のゲル分を構成するものであるため、検出されないことも説明されている。また、【図1】の曲線2には、粘着付与樹脂、架橋剤、会合体、及び、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーの吸収以外には吸収が何も存在しない。
上記(b)の説示と合わせると、粘着剤層には、未反応の粘着付与樹脂、架橋剤、及び、架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーに加え、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマー、会合体、及び、架橋構造体が含まれているが、そのうち、ゾル分の分子量分布曲線において吸収を示すものは、未反応の粘着付与樹脂、架橋剤、会合体、及び、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーの4者のみであると理解できる。
(d)上記4者のうち、粘着付与樹脂と架橋剤がUV吸収を示す理由は、波長254nmのUVを吸収するような化学構造、例えば、フェニル基等を備えている物質だからであり、また、ゾル分の分子量分布曲線においてそれぞれそのモル数に応じた吸光度を示す(分子量分布曲線の積分値がそのモル数を表す)と解される。
また、架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーがUV吸収を示さない理由は、波長254nmのUVを吸収するような化学構造を備えていないからであると解される。
また、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーは、その化学構造中に、粘着付与樹脂と架橋剤と架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーに由来する部分を備えている物質であり、架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーに由来する部分にはUVを吸収する部分がないものの、粘着付与樹脂と架橋剤に由来する部分にはUVを吸収する部分があるので、UVを吸収する物質であると理解できる。
(e)以上をまとめると、粘着剤層には、未反応の粘着付与樹脂、架橋剤、及び、架橋性官能基含有アクリル系ポリマーに加え、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマー、会合体、及び、架橋構造体が含まれている。また、架橋構造体は、粘着剤層のゲル分を構成するものであるため、ゾル分に含まれているものは、ゲル分(架橋構造体)を除いた残りである。
また、ゾル分に含まれている物質のうちその分子量分布曲線に吸収を示すのは、粘着付与樹脂、架橋剤、会合体、及び、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーである(上記(c))。
また、粘着付与樹脂、及び、架橋剤の吸収は、重量平均分子量1000付近に現れ、会合体の吸収は、重量平均分子量1万付近に現れ、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーの吸収は、重量平均分子量100万付近に現れる(上記(b)、(c))。
また、粘着付与樹脂、及び、架橋剤は、それぞれ、そのモル数に応じた吸光度を示し、その分子量分布曲線の積分値は、そのモル数を表す。また、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーのUVの吸収の強度(吸光度)は、当該粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーに含まれている粘着付与樹脂及び架橋剤に由来する部分と同数の粘着付与樹脂及び架橋剤による吸収の強度と等しく、その分子量分布曲線の積分値は、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーに含まれている粘着付与樹脂及び架橋剤に由来する部分のモル数を表す。また、この点は、会合体についても同様である。(上記(d))。
b 相違点1の検討
(a)上記a(e)を踏まえると、本件発明1の「SU」は、重量平均分子量1000付近に現れる粘着付与樹脂及び架橋剤の吸収と、重量平均分子量1万付近に現れる会合体の吸収と、重量平均分子量100万付近に現れる粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーの吸収からなる分子量分布曲線の積分値であって、粘着付与樹脂のモル数、架橋剤のモル数、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーに含まれている粘着付与樹脂及び架橋剤に由来する部分のモル数、及び、会合体に含まれている粘着付与樹脂及び架橋剤に由来する部分のモル数の総和に相当する。
また、重量平均分子量3万以上の領域に吸収を示すのは、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーのみであるから、本件発明1の「SUH」は、その分子量分布曲線の積分値であり、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーに含まれている粘着付与樹脂及び架橋剤に由来する部分のモル数に相当する。
(b)上記(a)を踏まえて、引用発明について「比率(SUH/SU)」の値を推測することが可能であるか検討する。
引用発明1-7の架橋剤(コロネートL)は、分子量が657でNCO基(イソシアネート基)を3つ有する化合物であり、引用発明1-7の粘着付与樹脂(ペンセルD135)は、水酸基価が45(上記1(2)アの[0041])、重量平均分子量が1450(上記1(2)イ)で、その1分子あたりOH基(ヒドロキシ基)を1.2個(=0.0045(gKOH/g)/56.1*1450(Mw))有する化合物であり、引用発明1-7の架橋性官能基を有するアクリル系ポリマー(合成1のリビングラジカル重合架橋性アクリル系ポリマー)は、重量平均分子量が60万(上記1(2)アの[0059])で、その1分子あたりOH基を略15.5個(600000×0.003(HEAの重量%)/116.1(HEAの分子量))有する化合物である。
また、引用発明1-7は、架橋剤、粘着付与樹脂、及び、架橋性官能基含有アクリル系ポリマーをそれぞれ、0.8重量部、10重量部、100重量部用いるものであるから、それぞれ、0.8g、10g、100g用いる場合のNCO基は3.7mmol(=0.8/657×3×1000)であり、粘着付与樹脂のOH基は、8.3mmol(=10/1450×1.2×1000)であり、架橋性官能基含有アクリル系ポリマーのOH基は、2.6mmol(=100/600000×15.5×1000)であり、OH基の合計は10.9mmolである。
(c)上記(b)のとおり、引用発明1-7の場合、NCO基が3.7mmolであるのに対し、OH基の合計は10.9mmolであるから、未反応で残る架橋剤は存在しないが、OH基のうち7.2mmol(66%)は未反応で残ることから、粘着付与樹脂の66%にあたる4.6mmol(=10×0.66/1450×1000)が未反応で残ると予想できる。
(d)引用発明1-7の架橋剤はNCO基を3個有する化合物であるから、架橋剤と粘着付与樹脂及び/又は架橋性官能基含有アクリル系ポリマーとの反応は、以下の4通りが存在する。
i)架橋剤1分子が粘着付与樹脂3分子と反応する場合。
ii)架橋剤1分子が粘着付与樹脂2分子及び架橋性官能基含有アクリル系ポリマー1分子と反応する場合。
iii)架橋剤1分子が粘着付与樹脂1分子及び架橋性官能基含有アクリル系ポリマー2分子と反応する場合。
iv)架橋剤1分子が架橋性官能基含有アクリル系ポリマー3分子と反応する場合。
また、上記i)の場合、架橋剤1分子が粘着付与樹脂3分子と反応した会合体が生じると認められる。しかし、上記i)の場合が起こる割合を計算する方法は不明であるといわざるをえない。
(e)架橋性官能基含有アクリル系ポリマーは、1分子中に15.5個のOH基を有しており(上記(b))、それらがそれぞれ独立に上記ii)~iv)のいずれかの反応をしうる(反応しない場合も含む)と解されるが、それぞれが架橋性官能基含有アクリル系ポリマー1分子あたり何個づつになるのか、その割合を計算する方法は不明であるといわざるをえない。
そうすると、架橋性官能基含有アクリル系ポリマーに含まれている15.5個のOH基の1つのみが上記ii)の反応をしている場合に、粘着付与樹脂グラフトアクリル系ポリマーが生じると認められるものの、その割合を計算する方法は不明であるといわざるをえない。
(f)以上のとおりであるから、引用発明1-7における「比率(SUH/SU)」の値は不明であるというほかない。また、引用発明1-6についても同様である。したがって、本件発明1は、引用発明Aであるということはできない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点であり、本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、令和5年6月30日提出の意見書(1~3頁の「3-1-1 具体的な理由」の項)において、本件特許の比較例2は、その配合比等から、粘着付与樹脂及び架橋剤の分子数が架橋性官能基含有アクリル系ポリマーの分子数以上に存在するものであり、仮に、架橋性官能基含有アクリル系ポリマーの重量平均分子量を低くし、その分、分子数が増加した場合を想定しても、依然として、粘着付与樹脂及び架橋剤の分子数が架橋性官能基含有アクリル系ポリマーの分子数以上に存在すると言えるものであるから、特許権者が主張するようにアクリル系ポリマー同士の架橋によってゲル分となる架橋構造体が生成する割合が高くなるので、粘着剤層のゾル分のSUH/SUがむしろ低下するということはない。そして、ある1つの架橋性官能基含有アクリル系ポリマーが1つの架橋剤と結合した後、さらに官能基含有アクリル系ポリマーもしくは粘着付与樹脂のどちらかが結合する場合を想定すると、豊富に存在する粘着付与樹脂が結合する確率が高いことは明らかであるから、本件特許の比較例2において、仮に、架橋性官能基含有アクリル系ポリマーの重量平均分子量を低くすると、粘着剤層のゾル分のSUH/SUが高くなると言えると主張する。
しかしながら、申立人の主張は、単に粘着剤層のゾル分のSUH/SUが高くなる方向に作用する要素があると主張するだけであるから、それだけでは、引用発明Aが本件発明1の「比率(SUH/SU)が5%以上30%以下である」を充足するとまではいえない。
したがって、主張は採用することができない。
(エ)小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明(引用発明A)であるとはいえない。
ウ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定した発明に該当するところ、上記イ(エ)のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、同様の理由により、本件発明2~5も、甲1に記載された発明であるとはいえない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、その特許を取消理由1によって取り消されるべきものとすることはできない。
第6 取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立理由について
取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立理由は、上記第2の1の申立理由2(進歩性)であるが、特許異議申立書には、その具体的な理由、例えば、本件発明と甲1に記載された発明との相違点について、どのような動機付けによって容易想到であることを主張、立証しようとしているのかを具体的に説明している記載が一切ない。
甲1には、粘着剤層の成分として、ゾル分にどのような物質が含まれるかという知見が開示されていないし、ゾル分の組成を変更する方向性についても記載や示唆がない。したがって、本件発明1の前記相違点1に係る構成は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものということはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700973