審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2018-700495

フッ素系表面処理剤及び該表面処理剤で表面処理された物品

審判番号
2018-700495
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-161004外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年06月19日
審決日
2019年02月14日
公報発行日
2019年05月31日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(C09K) / P1651.537-YAA(C09K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6248858号発明「フッ素系表面処理剤及び該表面処理剤で表面処理された物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6248858号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。 特許第6248858号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6248858号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成26年8月7日に特願2014-161004号として特許出願され、平成29年12月1日に特許権の設定登録がされ、平成29年12月20日にその特許公報が発行され、その請求項1~9に係る発明の特許に対し、平成30年6月19日に川野由希(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。 平成30年 8月31日付け 取消理由通知 同年10月29日   意見書・訂正請求書(特許権者) 同年11月 9日付け 訂正請求があった旨の通知 なお、特許異議申立人は、平成30年11月9日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。 第2 訂正の適否 1.訂正請求の趣旨及び内容 平成30年11月9日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6248858号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~3のとおりである(なお、訂正に関連する箇所に下線を付した。)。 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1に、 「Bは-J2C-〔Jは独立にアルキル基、ヒドロキシル基、-C3H5基、もしくはK3SiO-(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される2価の基、-L2Si-(Lは独立にアルキル基、アルコキシ基又はクロル基)で示される2価の基、-JC=〔Jは上記と同じ〕で示される3価の基、-LSi=(Lは上記と同じ)で示される3価の基、-C≡で示される4価の基、又は-Si≡で示される4価の基であり、」 とあるのを、 「Bは-J2C-〔Jは独立にアルキル基、ヒドロキシル基、-C3H5基、もしくはK3SiO-(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される2価の基、-L2Si-(Lは独立にアルキル基、アルコキシ基又はクロル基)で示される2価の基、-JC=〔Jは上記と同じ〕で示される3価の基、-LSi=(Lは上記と同じ)で示される3価の基であり、」 に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~9も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項1に、 「bは1~3の整数で、平均が1.5~3.0であり、cは1~10の整数である。)」 とあるのを、 「bは1~2の整数で、平均が1.5~2.0であり、cは1~10の整数である。)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~9も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 訂正前の明細書の段落0014に、 「Bは-J2C-〔Jは独立にアルキル基、ヒドロキシル基、-C3H5基、もしくはK3SiO-(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される2価の基、-L2Si-(Lは独立にアルキル基、アルコキシ基又はクロル基)で示される2価の基、-JC=〔Jは上記と同じ〕で示される3価の基、-LSi=(Lは上記と同じ)で示される3価の基、-C≡で示される4価の基、又は-Si≡で示される4価の基であり、Rは1価の有機基であり、Xは加水分解性基であり、aは1~3の整数であり、bは1~3の整数で、平均が1.5~3.0であり、cは1~10の整数である。)」 とあるのを、 「Bは-J2C-〔Jは独立にアルキル基、ヒドロキシル基、-C3H5基、もしくはK3SiO-(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される2価の基、-L2Si-(Lは独立にアルキル基、アルコキシ基又はクロル基)で示される2価の基、-JC=〔Jは上記と同じ〕で示される3価の基、-LSi=(Lは上記と同じ)で示される3価の基であり、Rは1価の有機基であり、Xは加水分解性基であり、aは1~3の整数であり、bは1~2の整数で、平均が1.5~2.0であり、cは1~10の整数である。)」 に訂正する。 2.訂正事項1~3の適否 (1)訂正事項1 ア.訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「Bは-J2C-〔Jは独立にアルキル基、ヒドロキシル基、-C3H5基、もしくはK3SiO-(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される2価の基、-L2Si-(Lは独立にアルキル基、アルコキシ基又はクロル基)で示される2価の基、-JC=〔Jは上記と同じ〕で示される3価の基、-LSi=(Lは上記と同じ)で示される3価の基、-C≡で示される4価の基、又は-Si≡で示される4価の基であり、」との記載にある「B」で表される基の選択肢のうち、下線を付した2つの「4価の基の選択肢」の全てを削除して、残りの「2価又は3価の基の選択肢」のみに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮をしようとするものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、訂正後の請求項1を直接又は間接に引用する請求項2~9についても同様に特許請求の範囲が減縮されることになるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ.拡張又は変更の存否 訂正事項1は、上記「ア.」に示したように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ.新規事項の有無 訂正事項1は、上記「ア.」に示したように、その「B」で表される基の選択肢のうちの一部を削除するものであって、複数の選択肢のうちの一部の選択肢を削除することによって新たな技術的事項が導入されないことは明らかであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 ア.訂正の目的 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「bは1~3の整数で、平均が1.5~3.0であり、cは1~10の整数である。)」との記載について、訂正事項1において「B」で表される基の選択肢から「4価の基の選択肢」の全てを削除したことに伴って、請求項1の平均組成式(1)及び(2)における「b」及びその平均の範囲に不都合が生じることから、その「b」の上限を「3」から「2」に改めるとともに、その平均の上限を「3.0」から「2.0」に改めて、請求項1の記載との整合を図るためのものである。 したがって、訂正事項2は、請求項1及びその従属項である請求項2~9の記載における不明瞭な記載を釈明するためのものといえるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。 イ.拡張又は変更の存否 訂正事項2は、訂正事項1の「特許請求の範囲の減縮」に伴い、その平均組成式(1)及び(2)の「b」及びその平均の上限を整合させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ.新規事項の有無 訂正事項2は、訂正事項1の「特許請求の範囲の減縮」に伴い、その平均組成式(1)及び(2)の「b」及びその平均の上限を整合させるものであって、上限を整合させることによって新たな技術的事項が導入されないことは明らかであるから、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。 したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正事項3 ア.訂正の目的 訂正事項3は、訂正事項1及び2に伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。 イ.拡張又は変更の存否 訂正事項3は、訂正事項1及び2に伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであって、訂正事項1及び2によって、実質上特許請求の範囲が拡張され、又は変更されないことは、上記「(1)イ.」及び「(2)イ.」に示したとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ.新規事項の有無 訂正事項3は、訂正事項1及び2に伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであって、訂正事項1及び2によって新たな技術的事項が導入されないことは、上記「(1)ウ.」及び「(2)ウ.」に示したとおりであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (4)一群の請求項及び明細書の訂正と関連する請求項について 訂正前の請求項1~9は、その請求項1を請求項2~9が直接又は間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1~9に対応する訂正後の請求項1~9は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。 また、訂正事項3による明細書の訂正に係る請求項は、訂正前の請求項1~9であるから、訂正事項3と関係する一群の請求項が請求の対象とされている。 したがって、訂正事項3による本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。 3.訂正の適否のまとめ 以上総括するに、訂正事項1~3による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正を認める。 第3 本件発明 上記「第2」のとおり本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正により訂正された請求項1~9に係る発明(以下「本1発明」~「本9発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】(A)下記平均組成式(1) 【化1】 (式中、Aは末端が-CF3基である1価のフッ素含有基であり、Rfは-(CF2)d-(OCF2)p(OCF2CF2)q(OCF2CF2CF2)r(OCF2CF2CF2CF2)s(OCF(CF3)CF2)t-O(CF2)d-であり、dはそれぞれ独立に0~5の整数、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0~200の整数であり、かつ、p+q+r+s+tは10~200であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。Qは単結合又は2価の有機基であり、Bは-J2C-〔Jは独立にアルキル基、ヒドロキシル基、-C3H5基、もしくはK3SiO-(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される2価の基、-L2Si-(Lは独立にアルキル基、アルコキシ基又はクロル基)で示される2価の基、-JC=〔Jは上記と同じ〕で示される3価の基、-LSi=(Lは上記と同じ)で示される3価の基であり、Rは1価の有機基であり、Xは加水分解性基であり、aは1~3の整数であり、bは1~2の整数で、平均が1.5~2.0であり、cは1~10の整数である。) で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、 (B)下記平均組成式(2) 【化2】 (式中、Rf、Q、B、R、X、a、b、cは上記式(1)と同じである。) で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、 (C)下記一般式(3) 【化3】 (式中、Rfは上記式(1)と同じであり、Dは独立にフッ素原子、水素原子、又は末端が-CF3基、-CF2H基もしくは-CFH2基である1価のフッ素含有基である。)で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーとを含むものであり、且つ、(B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計モル中0.1モル%以上20モル%以下であり、(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計モル中0.1モル%以上40モル%以下であることを特徴とするフッ素系表面処理剤。 【請求項2】Qが、単結合、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、ジオルガノシリレン基、-Si[OH][(CH2)gSi(CH3)3]-(gは2~4の整数)から選ばれる1種又は2種以上の構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2~12の2価の炭化水素基である、請求項1記載のフッ素系表面処理剤。 【請求項3】Xが、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数2~10のアルコキシアルコキシ基、炭素数1~10のアシロキシ基、炭素数2~10のアルケニルオキシ基、ハロゲン基及びシラザン基からなる群より選ばれる加水分解性基である、請求項1又は2記載のフッ素系表面処理剤。 【請求項4】溶剤で希釈された請求項1~3のいずれか1項に記載のフッ素系表面処理剤。 【請求項5】溶剤が、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、メトキシパーフルオロヘプテン、デカフルオロペンタン、ペンタフルオロブタン、及びパーフルオロヘキサンから選ばれるものである請求項4記載のフッ素系表面処理剤。 【請求項6】請求項1~5のいずれか1項に記載のフッ素系表面処理剤で処理された物品。 【請求項7】請求項1~5のいずれか1項に記載のフッ素系表面処理剤で処理された光学物品。 【請求項8】請求項1~5のいずれか1項に記載のフッ素系表面処理剤で処理されたガラス、化学強化されたガラス、物理強化されたガラス、SiO2処理されたガラス、サファイヤガラス、SiO2処理されたサファイヤガラス、石英基板、又は金属。 【請求項9】請求項1~5のいずれか1項に記載のフッ素系表面処理剤で処理されたタッチパネル、反射防止フイルム、ウェアラブル端末、眼鏡レンズ、又は太陽電池用パネル。」 なお、上記平均組成式(1)等について、以下、式中の規定も含め、単に「平均組成式(1)」等ということもある。 第4 特許異議申立て及び取消理由通知の概要について 1.特許異議申立人の証拠と主張の概要 特許異議申立人は、証拠として以下の甲第1号証~甲第11号証(以下「甲1」~「甲11」ともいう。)を提出し、以下の理由A及びBにより、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消す旨の決定がなされるべきものであるとの主張をしている。 甲第1号証:特開2012-72272号公報 甲第2号証:国際公開第2014/069592号 甲第3号証:特開2003-238577号公報 甲第4号証:特開2001-188102号公報 甲第5号証:特開2005-290323号公報 甲第6号証:特開2000-327772号公報 甲第7号証:特表2014-503380号公報 甲第8号証:特表2014-501804号公報 甲第9号証:特表2014-502210号公報 甲第10号証:特開2014-70164号公報 甲第11号証:特開2012-233157号公報 理由A:特許法第36条第6項第1号(全請求項) 理由B:特許法第29条第2項(全請求項) 2.取消理由通知の概要 訂正前の請求項1~9に係る特許に対して平成30年8月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 〔理由〕(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 〔記〕 本件明細書の段落【0008】~【0011】に記載される従来技術の問題点を受けた記載である同段落【0012】の記載によれば、本件発明の課題は、「耐薬品性のみでなく、更に優れた耐擦傷性を有する撥水撥油層を形成することができるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含むフッ素系表面処理剤、及び該表面処理剤で処理された物品を提供すること」であるといえる。 そして、同段落【0079】~【0083】には、本件発明に係る実施例1~7の表面処理剤の評価結果が記載され、同段落【0083】の【表2】には、耐薬品性と耐擦傷との双方が良好な硬化被膜が形成できることが示されていることから、本件明細書には、実施例1~7については、上記本件発明の課題が解決できることが示されているといえる。 ここで、本件発明に係る実施例1~7の表面処理剤の組成物1~7について、本件発明1における「B」は、実施例1~4、6、7では、「-J2C-で示される2価の基」又は「-JC=で示される3価の基」であり、実施例5では、「-LSi=で示される3価の基」である。 一方、「B」で表される基には、加水分解性基に結合したSi部分が結合し、「B」で表される基の構造によって、加水分解性基に結合したSi部分の個数が変動することになり、加水分解性基に結合したSi部分が基材と結合する作用を発揮する構造であることから、上記Si部分の個数は、フッ素表面処理剤を用いて形成される撥水撥油層の耐薬品性及び耐擦傷性に影響を与えるものであるといえる。 しかしながら、本件明細書には、上記加水分解性基に結合したSi部分の個数と、耐薬品性及び耐擦傷性との関連性に関する記載はないから、撥水撥油層における良好な耐薬品性及び耐擦傷性が得られることができる上記加水分解性基に結合したSi部分の個数は、本件明細書に記載される具体的な実施例からしか把握することができない。 そうすると、撥水撥油層における良好な耐薬品性及び耐擦傷性を得ることができるSi部分の個数に対応することになる平均組成式(1)及び平均組成式(2)の「B」で表される基として、「2価または3価の基」を有する「以外の」本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~9の表面処理剤は、上記本件発明の課題を解決できるものであるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 第5 当審の判断 1.取消理由通知の理由について 訂正後の請求項1において、「B」で表される基について、2価または3価の基を有するもののみに限定されたので、上記取消理由は解消した。 したがって、本件特許の請求項1及び当該請求項1を直接又は間接に引用する請求項2~9の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。 2.特許異議申立理由について (1)理由Aについて 特許異議申立人は、「本件明細書において、具体的に課題が達成できることが示された…『B』で表される基として『2価の基または3価の基』を有する化合物を含む表面処理剤を、本件特許発明1の範囲まで拡張ないし一般化することは妥当ではない。」(特許異議申立書28頁18~23行)と主張をしているところ、これは、上記取消理由と同じである。 したがって、上記「1.」に示したのと同様な理由により、本件特許の請求項1及び請求項1を直接又は間接に引用する請求項2~9の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。 (2)理由Bについて ア.理由Bの概要 特許異議申立人は、「本件特許発明1~9は、甲第1号証~甲第11号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」との記載にあるとおりのものであり、 本件発明1については、「本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証に記載された発明、あるいは、甲第1号証に記載された発明および周知技術(例えば、甲第2号証、甲第6号証)に基づいて、当業者にとって容易に想到し得たものである。…以上のように、本件特許発明1は、甲第1号証~甲第10号証に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。」との主張(特許異議申立書65頁6~9行及び78頁10~11行)と、「本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明および甲第1号証または甲第11号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。」との主張(特許異議申立書108頁19~21行)がなされている。 イ.甲第1号証~甲第11号証の記載事項 甲1には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1、3及び7 「【請求項1】下記式(1)【化1】 (式中、Rf基は-(CF2)d-(OC2F4)e(OCF2)f-O(CF2)d-であり、Aは末端が-CF3基である1価のフッ素含有基であり、Qは2価の有機基であり、Zはシロキサン結合を有する2~8価のオルガノポリシロキサン残基であり、Rは炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3、bは1~6の整数、cは1~5の整数であり、αは0または1であり、dはそれぞれ独立に0または1~5の整数、eは0~80の整数、fは0~80の整数であり、かつ、e+f=5~100の整数であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)で表される直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、片末端加水分解性ポリマーと称す)と、 下記式(2)【化2】 (式中、Rf、Q、Z、R、X、a、b、c、αは上記式(1)と同じである。) で表される直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、両末端加水分解性ポリマーと称す)を含むフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物であって、 片末端加水分解性ポリマーと両末端加水分解性ポリマーとの合計モルに対する両末端加水分解性ポリマーの含有量が0.1モル%以上10モル%未満であることを特徴とするフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物。 【請求項2】更に、下記式(3)【化3】 (式中、Rf及びAは前記と同じ。) で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、無官能性ポリマーと称す)を含有し、かつ、片末端加水分解性ポリマーと両末端加水分解性ポリマーと無官能性ポリマーとの合計モルに対する片末端加水分解性ポリマーの割合が80モル%以上であり、かつ両末端加水分解性ポリマーの割合が0.1モル%以上10モル%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物。 【請求項3】片末端加水分解性ポリマーと両末端加水分解性ポリマーと無官能性ポリマーとの合計に対する無官能性ポリマーの割合が1~15モル%である請求項2に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物。… 【請求項7】請求項1~6のいずれか1項に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物及び/又は該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーの部分加水分解縮合物を含有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物を含有する表面処理剤。」 甲2には、次の記載がある。 摘記2a:請求項1及び24 「[請求項1]式(1a)または式(1b): [化1] A-Rf-X-SiQkY3-k          ・・・(1a) Y3-kQkSi-X-Rf-X-SiQkY3-k ・・・(1b) (式中、Aは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16アルキル基を表し、 Rfは、-(OC4F8)a-(OC3F6)b-(OC2F4)c-(OCF2)d-を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、 Xは、2価の有機基を表し、 Yは、各出現において、それぞれ独立して、水酸基、加水分解可能な基、または炭化水素基を表し、 Qは、各出現において、それぞれ独立して、-Z-SiR1nR23-nを表し、 Zは、各出現において、それぞれ独立して、2価の有機基を表し:ただし、Zは、式(1a)または式(1b)における分子主鎖の末端のSi原子とシロキサン結合を形成するものを除く、 R1は、各出現において、それぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し、 R2は、各出現において、それぞれ独立して、C1-22アルキル基、またはQ’を表し、 Q’は、Qと同意義であり、 nは、各QおよびQ’において、それぞれ独立して、0~3から選択される整数であって、nの総和は1以上であり、 Q中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり、 kは、それぞれ独立して、1~3から選択される整数である。) で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。… [請求項24]請求項1~18のいずれかに記載の式(1a)および/または式(1b)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含有する、表面処理剤。」 摘記2b:段落0192及び0195 「[0192]・合成例4… …[0195]・合成例7… 」 甲3には、次の記載がある。 摘記3a:請求項1 「 」 摘記3b:段落0072 「【0072】【化14】 」 甲4には、次の記載がある。 摘記4a:請求項3 「 」 甲5には、次の記載がある。 摘記5a:請求項1 「 」 甲6には、次の記載がある。 摘記6a:請求項1 「 」 甲7には、次の記載がある。 摘記7a:請求項3 「 」 甲8には、次の記載がある。 摘記8a:請求項7 「 」 甲9には、次の記載がある。 摘記9a:請求項7 「 」 甲10には、次の記載がある。 摘記10a:請求項1 「 」 甲11には、次の記載がある。 摘記11a:請求項1 「 」 ウ.甲第1号証を主引用例とした場合の検討 (ア)甲1発明 甲1の請求項1、3及び7(摘記1a)の記載からみて、甲第1号証の刊行物には、 「下記式(1) (式中、Rf基は-(CF2)d-(OC2F4)e(OCF2)f-O(CF2)d-であり、Aは末端が-CF3基である1価のフッ素含有基であり、Qは2価の有機基であり、Zはシロキサン結合を有する2~8価のオルガノポリシロキサン残基であり、Rは炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3、bは1~6の整数、cは1~5の整数であり、αは0または1であり、dはそれぞれ独立に0または1~5の整数、eは0~80の整数、fは0~80の整数であり、かつ、e+f=5~100の整数であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)で表される直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、片末端加水分解性ポリマーと称す)と、 下記式(2) (式中、Rf、Q、Z、R、X、a、b、c、αは上記式(1)と同じである。) で表される直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、両末端加水分解性ポリマーと称す)と、 下記式(3) (式中、Rf及びAは前記と同じ。) で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー(以下、無官能性ポリマーと称す)を含有し、 片末端加水分解性ポリマーと両末端加水分解性ポリマーと無官能性ポリマーとの合計モルに対する片末端加水分解性ポリマーの割合が80モル%以上であり、かつ両末端加水分解性ポリマーの割合が0.1モル%以上10モル%未満であり、無官能性ポリマーの割合が1~15モル%であるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物及び/又は該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーの部分加水分解縮合物を含有する表面処理剤。」についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 なお、上記「式(1)」等において、以下、式中の規定も含め「式甲1(1)」等ということもある。 (イ)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「式甲1(1)」の化合物のZα(シロキサン結合を有する2~8価のオルガノポリシロキサン残基)の数αは、0又は1であるところ、αが0の場合、そのQ(2価の有機基)に直結できるSi含有基( R3-a | -(-CH2)c-Si-Xa)b )の数bが1のみをとることから、bの平均が1を超えることはなく、本件発明1の平均組成式(1)の「bは1~2の整数で、平均が1.5~2.0であり」という要件を満たさず、「式甲1(1)」は、本件発明1の平均組成式(1)とは異なる。 そして、そのZの数αが1の場合、Zは「シロキサン結合を有する2~8価のオルガノポリシロキサン残基」であるから、本件発明1の平均組成式(1)の「B」(J2C-〔Jは独立にアルキル基、ヒドロキシル基、-C3H5基、もしくはK3SiO-(Kは独立に水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基)で示されるシリルエーテル基〕で示される2価の基、-L2Si-(Lは独立にアルキル基、アルコキシ基又はクロル基)で示される2価の基、-JC=〔Jは上記と同じ〕で示される3価の基、-LSi=(Lは上記と同じ)で示される3価の基)とは異なる。 してみると、本件発明1の「平均組成式(1)」で表される「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」と、甲1発明の「式甲1(1)」で表される「直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー」は、両者とも「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー部分で変性された加水分解性基含有シラン」という点において共通するものの、具体的な構成は異なる。 また、同様な理由により、本件発明1の「平均組成式(2)」で表される「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」と、甲1発明の「式甲1(2)」で表される「直鎖状フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー」は、両者とも「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー部分で変性された加水分解性基含有シラン」という点において共通するものの、具体的な構成は異なる。 次に、甲1発明の「式甲1(3)」の化合物は、本件発明1の「一般式(3)」で表される「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー」に相当し、 甲1発明の「片末端加水分解性ポリマーと両末端加水分解性ポリマーと無官能性ポリマーとの合計モルに対する片末端加水分解性ポリマーの割合が80モル%以上であり、かつ両末端加水分解性ポリマーの割合が0.1モル%以上10モル%未満であり、無官能性ポリマーの割合が1~15モル%である」は、本件発明1の「(B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計モル中0.1モル%以上20モル%以下であり、(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計モル中0.1モル%以上40モル%以下である」に相当し、 甲1発明の「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物及び/又は該フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーの部分加水分解縮合物を含有する表面処理剤。」は、本件発明1の「フッ素系表面処理剤」に相当する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、 「(A)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、 (B)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、 (C)下記一般式(3) (式中、Rfは-(CF2)d-(OCF2)p(OCF2CF2)q(OCF2CF2CF2)r(OCF2CF2CF2CF2)s(OCF(CF3)CF2)t-O(CF2)d-であり、dはそれぞれ独立に0~5の整数、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0~200の整数であり、かつ、p+q+r+s+tは10~200であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよく、Dは独立にフッ素原子、水素原子、又は末端が-CF3基、-CF2H基もしくは-CFH2基である1価のフッ素含有基である。)で表されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーとを含むものであり、且つ、(B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計モル中0.1モル%以上20モル%以下であり、(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計モル中0.1モル%以上40モル%以下であることを特徴とするフッ素系表面処理剤。」という点において一致し、次の〔相違点1〕及び〔相違点2〕において相違する。 〔相違点1〕(A)のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物が、 本件発明1は、上記「平均組成式(1)」で表されるものであるのに対して、 甲1発明は、上記「式甲1(1)」で表される点。 〔相違点2〕(B)のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物が、 本件発明1は、上記「平均組成式(2)」で表されるものであるのに対して、 甲1発明は、上記「式甲1(2)」で表される点。 (ウ)判断 上記〔相違点1〕について検討する。 甲1~10の各刊行物には、本件発明1の「平均組成式(1)」の「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」についての記載がない。 してみると、甲1~10をどのように組み合わせたとしても、上記相違点1に係る本件発明1の「加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」を、当業者が容易に想到し得るとは認められない。 そして、本件発明1は、当該「平均組成式(1)」で表される「加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」を含むことにより、本件特許明細書の段落0013に記載された「フルオロオキシアルキレン基を主鎖構造とし、連結基にシロキサン結合を含まず、加水分解性基を複数有するポリマーを主成分とするフッ素系表面処理剤が、耐擦傷性、耐薬品性に優れた撥水撥油層を形成できる」という格別の効果を奏するものである。 したがって、上記〔相違点2〕について検討するまでもなく、本件発明1が、甲1~10に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 また、本件発明1を引用する本件発明2~9も、本件発明1と同様に、甲1~10に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (エ)特許異議申立人の主張及び甲第2~10号証について 甲2に関連して、特許異議申立書の48頁21行~62頁10行では「(4.3.1.1.5.1)以下に詳細を示すように、甲第2号証には、本件特許発明1の構成要件[I]の化合物および構成要件[II]の化合物に相当する化合物が記載されている。… 甲第2号証の式(1a)で表される化合物と、本件特許発明1の構成要件[I]とを比較する。 ┌────────────────┬───────────────┐ │本件特許発明1         │甲第2号証          │ │構成要件[I]         │式(1a)で表される化合物  │ ├────┬───────────┼───────────────┤ │  …  │     …     │       …       │ │構成要件│b          │k              │ │(I-5-4) │bは1~3の整数であり│kは1~3から選択される整数。│ │    │…平均が1.5~3.0│段落0192、0195…、には│ │    │である。       │k=2.2~3の化合物を記載。│ └────┴───────────┴───────────────┘ 上記のように、甲第2号証の式(1a)で表される化合物は、本件特許発明1の構成要件(I-1)~(I-5)に相当する項目を全て有する。… 従って、甲第1号証および甲第2号証を組み合わせることは、当業者にとって容易である。」との主張がなされている。 しかしながら、甲2の段落0192(摘記2b)には、甲2の式(1a)の「-SiQkY3-k」のQが「-Z-SiR1nR23-n」であって、そのZが「-CH2CH2CH2-」であり、その「R1」及び「Y」が「-OCH3」であり、その「n」が「3」であり、その「k」が「3」である場合のものとして「 」という「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(D)」が記載されているが、当該「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(D)」は、本件発明1の平均組成式(1)の「B」が「-Si≡で示される4価の基」であるものに該当し、訂正後の本件発明1の選択肢から除外されたものに相当する。 また、甲2の段落0195(摘記2b)には、甲2の式(1a)の「-SiQkY3-k」のQが「-Z-SiR1nR23-n」であって、そのZが「-CH2CH2CH2-」であり、その「R1」及び「Y」が「-OCH3」であり、その「n」が「3」であり、その「k」が「2.2」である場合のものとして「 」という「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物の混合物(G)」が記載されているが、当該「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物の混合物(G)」は、訂正前の本件発明1の平均組成式(1)の「B」が「-Si≡で示される4価の基」であるものを組成に含み、なおかつ、訂正後の本件発明1の平均組成式(1)の「bは1~2の整数で、平均が1.5~2.0であり」という要件を満たし得ないものである。 すなわち、甲2の化合物は、本件発明1の「平均組成式(1)」とは異なる。 したがって、甲2を参酌しても、上記相違点1に係る本件発明1の「加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」を、当業者が容易に想到し得るとは認められない。 次に、甲3~5に関連して、特許異議申立書の65頁17行~70頁16行では「(4.3.1.1.7.1)甲第1号証に記載された化合物は、甲第1号証の出願前にすでに公知の化合物であったことを、以下に詳細に示す。… 以上のように、甲第3号証の化合物2、および甲第4号証の【請求項3】に記載された化合物は、甲第1号証の項目[1-i]の化合物に相当し、 甲第3号証の化合物1、および甲第5号証の【請求項1】の式(1)で表される化合物は、甲第1号証の項目[1-ii]の化合物に相当する。… 従って、甲第1号証の項目[1-i」の化合物および項目[1-ii]の化合物は、表面処理剤に含まれる化合物として用いられてきた化合物である。」との主張がなされている。 しかしながら、甲1の化合物が、甲3~5に記載されているとしても、これらの化合物は本件発明1の「平均組成式(1)」とは異なるものであり、特許異議申立人が主張する甲3の化合物2(摘示3b)、甲4の請求項3の化合物(摘示4a)、及び甲5の請求項1の化合物(摘示5a)の各々も、本件発明1の「平均組成式(1)」とは異なるものである。 したがって、甲3~5を参酌しても、上記相違点1に係る本件発明1の「加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」を、当業者が容易に想到し得るとは認められない。 次に、甲6に関連して、特許異議申立書の62頁11行~65頁9行では「(4.3.1.1.5.3)さらに、甲第6号証にも、加水分解性基の結合したSi部分の数が増えると、形成される膜の摩擦耐久性が良好になることが記載されている。… 上記のように、加水分解性基の結合したSi部分を複数有するマルチタイプ化合物を用いることによって、加水分解性基の結合したSi部分を1つのみ有するモノタイプの化合物よりも、硬化膜の摩擦耐久性が良好となることは、本件出願時には周知であった。… 従って、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証に記載された発明、あるいは、甲第1号証に記載された発明および周知技術(例えば、甲第2号証、甲第6号証)に基づいて、当業者によって容易に想到し得たものである。」との主張がなされ、 同71頁24行~72頁13行では「(4.3.1.1.8.1)分子中に加水分解性基に結合したSi部分が複数存在する化合物、すなわち、マルチタイプの化合物を用いることによって、形成される膜の摩擦耐久性が良好になることは、例えば、甲第2号証(例えば段落【0210】~【0212】)あるいは甲第6号証(例えば段落【0054】)に記載されているように、本件出願時において周知技術である。… 上記のような甲第2号証のSi原子または甲第6号証の窒素原子を、別の原子、例えば炭素原子に変更し、加水分解性基に結合したSi部分が複数存在するマルチタイプの化合物とすることは当業者にとって容易に想到し得ることである。」との主張がなされている。 しかしながら、甲6の請求項1の化合物(摘記6a)は本件発明1の「平均組成式(1)」とは異なるものであり、甲2のSi原子または甲6のN原子を、別の原子、例えばC原子などに変更すべき動機付けも見当たらない。 したがって、甲6及び甲2を参酌しても、上記相違点1に係る本件発明1の「加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」を、当業者が容易に想到し得るとは認められない。 次に、甲7~10に関連して、特許異議申立書の72頁14行~78頁5行では「(4.3.1.1.8.2)そもそも、炭素原子で分岐した化合物を、基材の表面処理に用いることは、以下の甲第7号証~甲第10号証にそれぞれ記載されていることである。… 上記のように、甲第1号証の発明において、本件特許発明1における「-J2C-で示される2価の基」、「-JC=で示される3価の基」および「-C≡で示される4価の基」を有する化合物を表面処理に用いることは、甲第7号証~甲第10号証にすでに記載されている周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できることである。」との主張がなされている。 しかしながら、甲7~10の化合物が「炭素原子で分岐した化合物」であるとしても、甲7の請求項3の化合物(摘示7a)、甲8の請求項7の化合物(摘示8a)、及び甲9の請求項7の化合物(摘示9a)の各々は、本件発明1の「平均組成式(1)」とは異なるものであり、甲7~10の化合物の構造を変更して、本件発明1の「平均組成式(1)」と同じ構造のものに変更すべき動機付けも見当たらない。 したがって、甲7~10を参酌しても、上記相違点1に係る本件発明1の「加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」を、当業者が容易に想到し得るとは認められない。 エ.甲第2号証を主引用例とした場合の検討 (ア)甲2発明 甲第2号証の請求項1及び24の記載からみて、甲第2号証の刊行物には 「式(1a)または式(1b): A-Rf-X-SiQkY3-k          ・・・(1a) Y3-kQkSi-X-Rf-X-SiQkY3-k ・・・(1b) (式中、Aは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16アルキル基を表し、 Rfは、-(OC4F8)a-(OC3F6)b-(OC2F4)c-(OCF2)d-を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、 Xは、2価の有機基を表し、 Yは、各出現において、それぞれ独立して、水酸基、加水分解可能な基、または炭化水素基を表し、 Qは、各出現において、それぞれ独立して、-Z-SiR1nR23-nを表し、 Zは、各出現において、それぞれ独立して、2価の有機基を表し:ただし、Zは、式(1a)または式(1b)における分子主鎖の末端のSi原子とシロキサン結合を形成するものを除く、 R1は、各出現において、それぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し、 R2は、各出現において、それぞれ独立して、C1-22アルキル基、またはQ’を表し、 Q’は、Qと同意義であり、 nは、各QおよびQ’において、それぞれ独立して、0~3から選択される整数であって、nの総和は1以上であり、 Q中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり、 kは、それぞれ独立して、1~3から選択される整数である。) で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含有する、表面処理剤。」についての発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 なお、上記「式(1a)」等について、以下、式中の規定も含め「式甲2(1a)」等ということもある。 (イ)対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「式(1a)」の「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物」を「少なくとも1種」含有するものと、本件発明1の「平均組成式(1)」の「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」は、両者とも「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン」を含む組成にある点において共通する。 また、甲2発明の「式(1b)」の「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物」を「少なくとも1種」含有するものと、本件発明1の「平均組成式(2)」の「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」は、両者とも「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン」を含む組成にある点において共通する。 そして、甲2発明の「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含有する、表面処理剤」は、本件発明1の「フッ素系表面処理剤」に相当する。 してみると、本件発明1と甲2発明は、「(A)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、 (B)フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物とを含むものである、フッ素系表面処理剤。」という点において一致し、次の〔相違点3〕~〔相違点6〕において相違する。 〔相違点3〕(A)のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物が、 本件発明1においては「平均組成式(1)」で表されるものであるのに対して、甲2発明は、「式甲2(1a)」で表される点。 〔相違点4〕(B)のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物が、 本件発明1においては「平均組成式(2)」で表されるものであるのに対して、甲2発明は、「式甲2(1b)」で表される点。 〔相違点5〕本件発明1は「一般式(3)」の「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマー」を含有するのに対して、甲2発明は当該一般式(3)に対応する化合物を含有するものではない点。 〔相違点6〕本件発明1は「(B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計モル中0.1モル%以上20モル%以下であり、(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計モル中0.1モル%以上40モル%以下である」という含有量の比を特定するものであるのに対して、甲2発明は、当該(A)、(B)及び(C)の含有量の比を特定するものではない点。 (ウ)判断 上記〔相違点3〕について検討する。 甲第1~11号証の各刊行物には、本件発明1の「平均組成式(1)」の「フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーで変性された加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」についての記載がない。 してみると、甲第1~11号証をどのように組み合わせたとしても、本件発明1の「平均組成式(1)」を満たす「加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」を含む「フッ素系表面処理剤」の構成を、当業者が容易に想到し得るとは認められない。 そして、本件発明1は、当該「平均組成式(1)」で表される「加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」を含むことにより、本件特許明細書の段落0013に記載された「フルオロオキシアルキレン基を主鎖構造とし、連結基にシロキサン結合を含まず、加水分解性基を複数有するポリマーを主成分とするフッ素系表面処理剤が、耐擦傷性、耐薬品性に優れた撥水撥油層を形成できる」という格別の効果を奏するに至ったものと認められる。 したがって、上記〔相違点4〕~〔相違点6〕について検討するまでもなく、本件発明1が、甲第1~11号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 また、本件発明1を引用する本件発明2~9も、本件発明1と同様に、甲第1~11号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (エ)特許異議申立人の主張及び甲第11号証について 甲11に関連して、特許異議申立書の103頁3行~108頁21行では「(4.3.2.1.5.1)以下に詳細を示すように、甲第1号証および甲第11号証には、本件特許発明1の[IV]および[V]に相当する内容、すなわち、本件特許発明1の表面処理剤に含まれる化合物の含有量について記載されている。… 従って、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明および甲第1号証または甲第11号証に記載された発明に基づいて、当業者にとって容易に想到し得たものである。」との主張がなされている。 しかしながら、甲11(及び甲1~10)には、本件発明1の「平均組成式(1)」の「加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」についての記載がない。 したがって、甲11を参酌しても、上記相違点3に係る本件発明1の「加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物」を、当業者が容易に想到し得るとは認められない。 4.むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件発明1~9に係る特許を取り消すことはできない。 また、この他に、本件発明1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2018-700495

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決189件(信越化学工業株式会社、川野 由希)
  • 2026-700312異議申立 / 2026-07-13 / 維持熱伝導性シリコーンゴムシート
    同じ当事者: 信越化学工業株式会社
  • 2026-700183異議申立 / 2026-06-29 / 維持成膜装置、成膜方法、酸化ガリウム膜および積層体
    同じ当事者: 信越化学工業株式会社
  • 2026-700030異議申立 / 2026-06-04 / 維持ガーネット型透明セラミックスのレーザー損傷閾値の改善方法
    同じ当事者: 信越化学工業株式会社
  • 2025-700738異議申立 / 2026-03-12 / 訂正認容ペースト状シリコーン組成物、その製造方法及び化粧料
    同じ当事者: 信越化学工業株式会社
  • 2024-700100異議申立 / 2026-03-06 / 訂正認容プリプレグ、及びプリント配線基板
    同じ当事者: 信越化学工業株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)498件(121・C09K、537・C09K)
  • 2026-700086異議申立 / 2026-05-28 / 維持液浸冷却システム用冷却液
    共通の審決分類: 121・C09K、537・C09K
  • 2026-700087異議申立 / 2026-05-28 / 維持液浸冷却システム用冷却液
    共通の審決分類: 121・C09K、537・C09K
  • 2025-700679異議申立 / 2026-05-28 / 訂正認容冷凍サイクル装置
    共通の審決分類: 121・C09K、537・C09K
  • 2024-700488異議申立 / 2026-05-27 / 訂正認容燃料電池車用着色冷却液組成物
    共通の審決分類: 121・C09K、537・C09K
  • 2025-700676異議申立 / 2026-05-27 / 訂正認容冷凍サイクル装置
    共通の審決分類: 121・C09K、537・C09K

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存