特許異議申立
2018-700138
回路基板と、その製造方法
- 審判番号
- 2018-700138
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-201732
- 登録番号
- 特許第6185353号(P6185353)
- 請求日
- 2018年02月20日
- 審決日
- 2018年05月18日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】京セラ株式会社
- 【異議申立人】関 豊美子
- 審判長/審判官
- 審判長 國分 直樹
- 審判官 鈴木 圭一郎
- 審判官 井上 信一
- 分類
- P1651.113-Y (H01L) / P1651.537-Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6185353号発明「回路基板と、その製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6185353号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6185353号の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、平成25年9月27日に特許出願され、平成29年8月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年2月20日に特許異議申立人 関 豊美子により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第6185353号の請求項1ないし2の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明2」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
絶縁基体と、
該絶縁基体の主面に、銀成分を含有するろう材を介して接合されている、銅粒子が焼結されて成る金属板と、を有しており、
前記金属板において、前記銅粒子の粒界に、前記ろう材中から拡散した前記銀成分が充填されており、前記ろう材側の前記銅粒子の粒径は、前記金属板の表層側の前記銅粒子の粒径より小さい回路基板。
【請求項2】
前記銅粒子の表面と、前記銅粒子の粒界に充填された前記銀成分との間に、銀-銅合金層が設けられている請求項1記載の回路基板。」
第3 申立理由の概要
1.申立理由1(新規性)
特許異議申立人は、証拠として、下記の甲第1号証を提出し、請求項1ないし2に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は同法113条第2号に該当し、請求項1ないし2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
記(証拠一覧)
甲第1号証:特開平11-121889号公報
2.申立理由2(サポート要件)
特許異議申立人は、請求項1ないし2に係る発明は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき旨主張している。
3.申立理由3(明確性)
特許異議申立人は、請求項1ないし2に係る発明は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき旨主張している。
第4 当審の判断
1.申立理由1(新規性)
(1)甲第1号証の記載
ア.甲第1号証(特開平11-121889号公報)
甲第1号証(以下、「甲1」という。)には、「回路基板」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
(ア)「【0007】特開平8-139420号公報には、セラミックス基板に銅回路又は銅回路と放熱銅板が形成されてなる回路基板において、SEM写真を用いインターセプト法(コード法)により測定された、銅回路又は放熱銅板の平均結晶粒子径が400μm以上で平均サブ粒界密度が20mm/mm2以下とすることによって、反り、強度等を改善し、熱衝撃、熱履歴に対する信頼性の高い回路基板とすることが記載されている。しかしながら、この発明においては、銅回路又は放熱銅板の表面とセラミックス基板近傍とにおける銅の結晶粒子の状態が著しく異なることがあり、更なる信頼性を向上させる際に障害であった。」
(イ)「【0014】本発明のように、活性金属ろう付け法により製造された回路基板においては、銅回路又は放熱銅板中に最も拡散・侵入しやすい物質は、その性質、量から考えてろう材のAg成分である。その拡散・侵入のメカニズムは、先ずろう材が銅板と接触している部分から溶融し、次いでAgリッチの組成から共晶組成に移行し、更に温度が高められエネルギーが加わってAgの拡散が開始する、と考えられている。
【0015】したがって、銅板とセラミックス基板を活性金属ろう付け法により接合する場合、過度のエネルギーが与えられると銅板中へのAgの拡散が容易に起こり、セラミックス基板近傍の銅板には表面よりも多くのAgが拡散する。その結果、その銅板部分の銅結晶の粒成長が妨げられ、銅板は硬化し、回路基板の信頼性の向上に悪影響を与える。
【0016】本発明では、このようなAg拡散による悪影響を極力回避して銅板とセラミックス基板を接合し、セラミックス基板近傍における銅板の銅の結晶粒径を大きくし、回路基板の信頼性を更に向上させたものである。具体的には、圧延された銅板を非酸化雰囲気中、高熱処理好ましくは800℃以上の温度で数時間熱処理した銅板を用いることである。あるいは、ろう材ペーストを介在させた銅板とセラミックス基板との積層体の複数個を、枠体と押し板と該押し板の押圧手段とから構成されてなるカーボン製加熱部材に収納し(特願平9-216219号の図1参照)、これを赤外線加熱式炉により加熱して短時間で接合を行い、銅の結晶粒子の成長を促すことである。」
(ウ)「【0020】セラミックス基板の一方の面に銅回路、他方の面に放熱銅板を形成する方法としては、セラミックス基板と銅板との接合体をエッチングする方法、銅板から打ち抜かれた銅回路及び/又は放熱銅板のパターンをセラミックス基板に接合する方法等によって行うことができ、これらの際における銅板又はパターンとセラミックス基板との接合には、活性金属ろう付け法が採用される。」
そして、
・上記(ア)~(ウ)によれば、セラミックス基板と、セラミック基板の一方の面の銅回路、他方の面の放熱銅板、とで回路基板を形成していること、そして、銅回路、放熱銅板として銅板を用いていること、
・上記(イ)によれば、セラミックス基板に、Ag成分を含有するろう材を介して銅板を接合していること、
・上記(イ)によれば、ろう材のAg成分が銅板に拡散していること、
・上記(ア)、(イ)によれば、銅板における、セラミックス基板近傍の銅粒子の粒径の成長が妨げられていること、そのことにより、銅回路の表面と銅回路のセラミックス基板近傍とにおける銅の結晶粒子の状態が著しく異なること、
を踏まえると、甲1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「セラミックス基板と、
該セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、銀成分を含有するろう材を介してそれぞれ接合されている銅板からなる銅回路及び放熱銅板と、を有しており、
前記銅板にろう材中から銀成分が拡散し、前記銅板のセラミックス基板近傍における銅粒子の粒径の成長が妨げられ、銅板のセラミックス基板近傍における銅の結晶粒子の状態と銅板の表面における銅の結晶粒子の状態とが異なる回路基板。」
(2)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「セラミックス基板」が絶縁体であることは明らかであるので、引用発明の「セラミックス基板」は、本件発明1の「絶縁基体」に相当する。
(イ)引用発明の「銅板」が金属の板であることは明らかであるので、本件発明1の「金属板」と、引用発明の「銅板」は金属板である点で共通する。
(ウ)引用発明の「該セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、銀成分を含有するろう材を介してそれぞれ接合されている銅板からなる銅回路及び放熱銅板」と、本件発明1の「該絶縁基体の主面に、銀成分を含有するろう材を介して接合されている、銅粒子が焼結されて成る金属板」は、「絶縁基体の主面に、銀成分を含有するろう材を介して接合されている」金属板である点で共通する。
ただし、本件発明1は、「銅粒子が焼結されて成る」金属板であるのに対し、引用発明は、「圧延された銅板を非酸化雰囲気中、高熱処理好ましくは800℃以上の温度で数時間熱処理した」銅板である点で相違する。
(エ)引用発明において、銅板のセラミックス基板近傍における銅粒子の粒径の成長が妨げられているのは、銅板中への、ろう材中の銀成分の拡散によるものであるので、少なくとも銅板のセラミックス基板近傍においては、銅粒子と銅粒子の間に、拡散した銀成分が存在することは明らかであり、銅粒子の粒界に、銀成分が充填されているといえる。
してみれば、本件発明1の「金属板」と引用発明の「銅板」は、上記(ウ)において示した相違を除き、「銅粒子の粒界に、ろう材中から拡散した銀成分が充填され」ている点で共通する。
(オ)引用発明において、銅板のセラミックス基板近傍における銅の結晶粒子の状態と、銅板の表面における銅の結晶粒子の状態とが異なるのは、銅板のセラミックス基板近傍の銅粒子の粒径の成長が妨げられているためであるから、銅の結晶粒子の状態としては、銅板のセラミックス基板近傍における銅粒子の粒径が、銅板の表面における銅粒子の粒径より小さいのは明らかである。また、銅板のセラミックス基板近傍とは、銅板のろう材側の部分であり、銅板の表面とは、銅板の表層側に含まれるものである。
してみれば、本件発明1の「金属板」と引用発明の「銅板」は、上記(ウ)において示した相違を除き、ろう材側の前記銅粒子の粒径が、前記金属板の表層側の前記銅粒子の粒径より小さい点で、本件発明1の「金属板」と共通する。
以上のことから、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
「絶縁基体と、
該絶縁基体の主面に、銀成分を含有するろう材を介して接合されている金属板と、を有しており、
前記金属板において、前記銅粒子の粒界に、前記ろう材中から拡散した前記銀成分が充填されており、前記ろう材側の前記銅粒子の粒径は、前記金属板の表層側の前記銅粒子の粒径より小さい回路基板。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
金属板について、本件発明1は、「銅粒子が焼結されてなる」ものであると特定するのに対し、引用発明1は、「圧延された銅板を非酸化雰囲気中、高熱処理好ましくは800℃以上の温度で数時間熱処理した」ものである点。
したがって、実質的な相違点が存在するから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記ア.で述べたのと同様の理由で、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
2.申立理由2(サポート要件)
(1)本件発明1ないし2について
ア.特許異議申立人は、「『前記銅粒子の粒界に、前記ろう材中から拡散した前記銀成分が充填』し、且つ、『前記ろう材側の前記銅粒子の粒径は、前記金属板の表層側の前記銅粒子の粒径より小さい』との構成を得るためには、ろう材1となるペースト中の銀含有量などを所定の値に調整する必要がある」が「本件特許発明1では、ろう材における銀含有量は記載されてい」ないので、「従って、本件特許発明1は、ろう材における銀含有量が、ろう材中から拡散した銀成分が拡散し、且つ、ろう材側の銅粒子の粒径が、金属板の表層側の銅粒子の粒径より小さくするために必要な値とは異なる値である場合も含む」から、「本件特許発明1及びそれを引用する本件特許発明2は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるもの」であり、したがって、本件発明1ないし2は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張している。
しかしながら、発明の詳細な説明には、「絶縁基体の主面に接合された金属板との熱膨張係数の差に起因した熱応力によって、絶縁基体から金属板が剥離したり絶縁基体にクラックが生じる」(段落【0004】)という課題を解決するために、金属板2において、ろう材1側の銅粒子3の粒径を、金属板2の表層側の銅粒子3の粒径より小さくして、粒界4の空間に充填される銀成分5の量を大きくし、「金属板2において、熱応力が最も大きくかかるろう材1側でヤング率を小さくすること」(段落【0041】)が記載されている。他方、本件発明1は、「前記金属板において、前記銅粒子の粒界に、前記ろう材中から拡散した前記銀成分が充填されており、前記ろう材側の前記銅粒子の粒径は、前記金属板の表層側の前記銅粒子の粒径より小さい」としているので、本件発明1には、ろう材における銀含有量の記載がなくとも、熱応力を低減する金属板に関する内容が反映されているといえる。
してみれば、本件発明1及びそれを引用する本件発明2は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるということができない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
イ.特許異議申立人は、「本件特許発明1に記載された、『前記ろう材中から拡散した前記銀成分が充填されており』且つ『前記ろう材側の前記銅粒子の粒径は、前記金属板の表層側の前記銅粒子の粒径より小さい』という構成は、『ろう材1となるろう材ペースト、金属板2となる銅ペーストを順次スクリーン印刷をした後、焼成することにより得られる』と解され」、また「本件特許発明1における金属板は、ろう材ペーストの上に銅ペーストを印刷し、焼成して成るものだけでなく、予め焼成された金属板をろう材ペーストの上に設けたものを含む」から、「本件特許発明1及びそれを引用する本件特許発明2は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるもの」であり、したがって、本件発明1ないし2は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張している。
しかしながら、金属板がどの段階で焼成されたかにかかわらず、上記ア.で説示したとおり、本件発明1には、課題を解決するために必要な、熱応力を低減する金属板に関する内容が反映されているといえる。
してみれば、本件発明1及びそれを引用する本件発明2は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるということができない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
3.申立理由3(明確性)
(1)本件発明1ないし2について
特許異議申立人は、「ろう材中から銀成分が拡散して銅粒子の粒界に充填された金属板は、構造的にどのようなものかを決定することが極めて困難」であり、したがって、本件発明1ないし2は、明確でない旨を主張している。
しかしながら、本件発明1には、金属板が「銅粒子が焼結されて成る」ものであり、「銅粒子の粒界に、前記ろう材中から拡散した前記銀成分が充填されて」いるものであり、さらには、「ろう材側の前記銅粒子の粒径は、前記金属板の表層側の前記銅粒子の粒径より小さい」ものであることが特定されているから、金属板が「構造的にどのようなものかを決定することが困難」とまで、いうことはできない。
よって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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