特許異議申立
2018-700130
土留壁を構成する部材の打設方法
- 審判番号
- 2018-700130
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-020630外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年02月16日
- 審決日
- 2018年12月04日
- 公報発行日
- 2019年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社大林組
- 【権利者代理人】一色国際特許業務法人
- 【異議申立人】市東 勇
- 分類
- P1651.121-YAA(E02D) / P1651.537-YAA(E02D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6179115号発明「土留壁を構成する部材の打設方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6179115号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、3、4について訂正することを認める。
特許第6179115号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。
特許第6179115号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6179115号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成25年2月5日に出願され、平成29年7月28日にその特許権の設定登録がされ、平成29年8月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年2月16日に特許異議申立人市東勇(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年6月29日付け(7月4日発送)で取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成30年8月30日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、平成30年11月5日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)~(8)のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「受光側から発光側へ順次進行させることを特徴とする」とあるのを、「受光側から発光側へ順次進行させるものであり、前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張のうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置されることを特徴とする」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0007】に、「受光側から発光側へ順次進行させるものである」とあるのを、「受光側から発光側へ順次進行させるものであり、前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張のうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置される。」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0008】の記載を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に、「横方向に並ぶと共に下方に向って掘削領域側に傾斜するように打設する方法であって、前記部材は、」とあるのを、「横方向に並ぶと共に下方に向って掘削領域側に傾斜するように打設する方法であって、複数本の光線又は線状の光線を、発光器から前記複数の部材の並び方向へ、当該方向に見て前記複数本の光線を結ぶ直線又は前記線状の光線が下方に向って掘削領域側に所定角度だけ傾斜するように照射させるものであり、前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張のうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置され、前記部材は、」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0009】に、「横方向に並ぶと共に下方に向って掘削領域側に傾斜するように打設する方法であって、前記部材は、」とあるのを、「横方向に並ぶと共に下方に向って掘削領域側に傾斜するように打設する方法であって、複数本の光線又は線状の光線を、発光器から前記複数の部材の並び方向へ、当該方向に見て前記複数本の光線を結ぶ直線又は前記線状の光線が下方に向って掘削領域側に所定角度だけ傾斜するように照射させるものであり、前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張のうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置され、前記部材は、」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に、「前記複数本の光線又は線状の光線を基準に姿勢を調整して打設することを特徴とする」とあるのを、「前記複数本の光線又は線状の光線を基準に姿勢を調整して打設するものであり、前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張のうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置されることを特徴とする」に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0010】に、「前記複数本の光線又は線状の光線を基準に姿勢を調整して打設してもよい」とあるのを、「前記複数本の光線又は線状の光線を基準に姿勢を調整して打設するものであり、前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張のうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置されるものでもよい」に訂正する。
2 訂正の適否の判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「発光器」について、その設置箇所及び照射対象を限定し、さらに該設置個所及び照射対象である斜材を備えた丁張の構造についても限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
訂正事項1は、上記(ア)で説示したように、「発光器」と「斜材を備えた丁張」の構成を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
発明の詳細な説明には、「【0014】・・・この工程では、一対の発光器20、21と、一対の丁張30、40とを施工ヤードに設置する。」、「【0016】・・・丁張30の斜材36と丁張40の斜材46とは、複数の鋼矢板12が並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置され・・・斜材36、46が、打設される鋼矢板12の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ、鉛直軸に対して傾斜するように配置される。」、「【0018】・・・斜材36上の発光器20、21の発光点の位置に印を付し、斜材46上の照射点22、23に印を付す。」、「【0019】一対の発光器20、21は、丁張30の斜材36の後側から丁張40の斜材46の照射点22、23に向けてレーザー光線L1、L2が照射されるように設置される。・・・」と記載されていることからみて、訂正事項1は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
イ 訂正事項2
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
ウ 訂正事項3
訂正事項3は、上記訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るために、発明の詳細な説明の段落【0007】の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
エ 訂正事項4
訂正事項4は、上記訂正事項2に係る請求項2の削除の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るために、発明の詳細な説明の段落【0008】の記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
オ 訂正事項5
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項5は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3に記載された「複数本の光線又は線状の光線」について、その下方に向かって傾斜する角度を限定し、また、「発光器」について、その設置箇所と照射対象を限定し、さらに該設置箇所及び照射対象である斜材を備えた丁張の構造についても限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
訂正事項1は、上記(ア)で説示したように、「複数本の光線又は線状の光線」について、その下方に向かって傾斜する角度を限定し、また、「発光器」について、その設置箇所及び照射対象を限定し、さらに該設置個所及び照射対象である斜材を備えた丁張の構造についても限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
本件訂正前の特許請求の範囲に、「【請求項1】・・・複数本の光線又は線状の光線を、発光器から前記複数の部材の並び方向へ、当該方向に見て前記複数本の光線を結ぶ直線又は前記線状の光線が下方に向って掘削領域側に所定角度だけ傾斜するように照射させ・・・」、「【請求項4】・・・複数本の光線又は線状の光線を、発光器から前記複数の部材の並び方向へ、当該方向に見て前記複数本の光線を結ぶ直線又は前記線状の光線が下方に向って掘削領域側に所定角度だけ傾斜するように照射させ・・・」と記載され、また発明の詳細な説明に、「【0024】・・・一対のレーザー光線L1、L2を、発光器20、21から複数の鋼矢板12の並び方向へ、当該方向に見て一対の光線L1、L2を結ぶ直線が下方に向って掘削領域1側に所定角度だけ傾斜するように照射させ・・・」、「【0014】・・・この工程では、一対の発光器20、21と、一対の丁張30、40とを施工ヤードに設置する。」、「【0016】・・・丁張30の斜材36と丁張40の斜材46とは、複数の鋼矢板12が並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置され・・・斜材36、46が、打設される鋼矢板12の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ、鉛直軸に対して傾斜するように配置される。」、「【0018】・・・斜材36上の発光器20、21の発光点の位置に印を付し、斜材46上の照射点22、23に印を付す。」、「【0019】一対の発光器20、21は、丁張30の斜材36の後側から丁張40の斜材46の照射点22、23に向けてレーザー光線L1、L2が照射されるように設置される。・・・」と記載されていることからみて、訂正事項5は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
カ 訂正事項6
訂正事項6は、上記訂正事項5に係る請求項3の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るために、発明の詳細な説明の段落【0009】の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
キ 訂正事項7
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項7は、訂正前の特許請求の範囲の請求項4に記載された「発光器」について、その設置箇所と照射対象を限定し、さらに該設置箇所及び照射対象である斜材を備えた丁張の構造についても限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
訂正事項7は、上記(ア)で説示したように、「発光器」と「斜材を備えた丁張」の構成を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
発明の詳細な説明には、「【0014】・・・この工程では、一対の発光器20、21と、一対の丁張30、40とを施工ヤードに設置する。」、「【0016】・・・丁張30の斜材36と丁張40の斜材46とは、複数の鋼矢板12が並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置され・・・斜材36、46が、打設される鋼矢板12の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ、鉛直軸に対して傾斜するように配置される。」、「【0018】・・・斜材36上の発光器20、21の発光点の位置に印を付し、斜材46上の照射点22、23に印を付す。」、「【0019】一対の発光器20、21は、丁張30の斜材36の後側から丁張40の斜材46の照射点22、23に向けてレーザー光線L1、L2が照射されるように設置される。・・・」と記載されていることからみて、訂正事項7は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
ク 訂正事項8
訂正事項8は、上記訂正事項7に係る請求項4の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るために、発明の詳細な説明の段落【0010】の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2について、請求項2は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(3)明細書の訂正と関係する(一群の)請求項について
明細書についての訂正である訂正事項3、4は、一群の請求項である請求項1及び2についての訂正である訂正事項1、2と整合性を図るための訂正である。よって、訂正事項3、4は、一群の請求項である請求項1及び2に関連する訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する126条第4項に適合するものである。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号または第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕、3、4について訂正することを認める。
第3 訂正後の請求項1ないし4に係る発明
上記訂正請求により訂正された請求項1、3、4に係る発明(以下「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、3、4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
下方に向って掘削領域側に傾斜する土留壁を構成する複数の部材を、横方向に直線的に並ぶと共に下方に向って掘削領域側に傾斜するように打設する方法であって、
複数本の光線又は線状の光線を、発光器から前記複数の部材の並び方向へ、当該方向に見て前記複数本の光線を結ぶ直線又は前記線状の光線が下方に向って掘削領域側に所定角度だけ傾斜するように照射させ、複数の前記部材の各々を、前記複数本の光線又は線状の光線を基準に姿勢を調整して打設する作業を、受光側から発光側へ順次進行させるものであり、
前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張のうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置されることを特徴とする土留壁を構成する部材の打設方法。
【請求項3】
下方に向って掘削領域側に傾斜する土留壁を構成する複数の部材を、横方向に並ぶと共に下方に向って掘削領域側に傾斜するように打設する方法であって、
複数本の光線又は線状の光線を、発光器から前記複数の部材の並び方向へ、当該方向に見て前記複数本の光線を結ぶ直線又は前記線状の光線が下方に向って掘削領域側に所定角度だけ傾斜するように照射させるものであり、
前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張のうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置され、
前記部材は、鋼矢板又は鋼管矢板であり、前記土留壁は、複数の前記鋼矢板又は鋼管矢板がジョイントを介して連結されて構築され、
支持層に達しない長さの前記鋼矢板又は鋼管矢板を、前記ジョイントに照射させた前記複数本の光線又は線状の光線を基準に姿勢を調整して支持層よりも上位の層まで打設する工程と、
支持層まで達する長さの前記鋼矢板又は鋼管矢板を、打設済の前記支持層に達しない長さの前記鋼矢板又は鋼管矢板と前記ジョイントを介して連結されるように、前記ジョイントに照射させた前記複数本の光線又は線状の光線を基準に姿勢を調整して支持層まで打設する工程と、を備えることを特徴とする土留壁を構成する部材の打設方法。
【請求項4】
下方に向って掘削領域側に傾斜する土留壁を構成する複数の部材を、横方向に並ぶと共に下方に向って掘削領域側に傾斜するように打設する方法であって、
複数本の光線又は線状の光線を、発光器から前記複数の部材の並び方向へ、当該方向に見て前記複数本の光線を結ぶ直線又は前記線状の光線が下方に向って掘削領域側に所定角度だけ傾斜するように照射させるとともに、前記複数本の光線の最上位の光線又は前記線状の光線の上端の高さを、前記部材の上端の高さの設計値に設定し、
前記部材を、前記複数本の光線又は線状の光線を基準に姿勢を調整して打設するものであり、
前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張のうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置されることを特徴とする土留壁を構成する部材の打設方法。」
第4 特許異議の申立てについて
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して、平成30年6月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
(理由1)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項3の記載が不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許の請求項3に係る特許は取り消すべきものである。
(理由2)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
〔証拠〕
甲第1号証:貫井孝治 外3名、「火力発電所取水管路設置における鋼矢板自立斜め土留め工法の適用事例」、土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)
甲第2号証:PILE LASER 2 取扱説明書、株式会社技研製作所、平成6年10月、1-6頁
甲第3号証:特許第2610403号公報
甲第4号証:特開2012-26134号公報
甲第5号証:杭圧入引抜機の運転者教本 広域認定職業訓練用、全国圧入協会、平成14年3月、56-67頁
甲第6号証:実願平5-23217号(実開平6-74638号)のCD-ROM(平成30年11月5日付け意見書に添付。)
2 各甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(下線は、本決定で付した。以下同様。)
ア 「1.はじめに
本工事は,火力発電所増設工事のうち,復水器冷却用水路の築造工事である.除塵フィルター取付け部の管路掘削には,現地の制約条件から,鋼矢板を斜めに打設し自立土留めとする「鋼矢板斜め土留め工法」を採用した.本稿では,「鋼矢板斜め自立土留め工法」の具体的施工事例について報告する.」(9頁4~7行)
イ 「2.鋼矢板斜め自立土留め工法採用経緯
当工事は,増設工事であるため,発電所が供用している中での作業であり,発電所本体工事と工事用地を競合している.このことから,取水管路鋼管および放水管路鋼管を各2条(いずれもφ2800mm)設置するための掘削工事を,幅30mの直接工事区域内で施工する必要があった(図-1,2).また,2号機発電所本体工事進捗との調整により,配管工事を含めた当該部分の施工期間を6ヶ月に限定する必要があった.
上記制約条件を満足するため,土留め壁を傾斜させることで背面土圧を低減し,掘削深度が深い場合でも支保工を必要としない「斜め自立土留め工法」を採用した.」(9頁8~14行)
ウ 9頁の図1は、以下のとおり。
図1
エ 「4.斜め鋼矢板打設方法
鋼矢板に傾斜角をつけて打設する方法は,通常の鉛直打設をするのと同様に,サイレントパイラー(圧入抵抗を減らすためウォータージェット併用)を使用した.しかし,パイラーは打設する鋼矢板の傾斜なりに傾くため,パイラー本体に補助シリンダーを取り付け,姿勢を制御した(写真-2).パイラーを鋼矢板に載せるまでの初期圧入でも,通常の鉛直打設方法と同様に反力架台(11tf)を使用した.このとき反力架台の天端板を10度に傾斜させることで鋼矢板の傾斜打設に対応した(写真-3).傾斜角度の管理は,斜めの丁張のほかに,赤外線レーザーを2箇所設置することにより対応した.」(10頁9~15行)
オ 上記アないしエからみて、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「管路掘削において、土留め壁を傾斜させることで背面土圧を低減する、鋼矢板を斜めに打設し自立土留めとする鋼矢板斜め自立工法であって、
打設する鋼矢板の傾斜なりに傾くサイレントパイラーを使用し、パイラー本体に補助シリンダーを取り付け、姿勢を制御し、傾斜角度の管理は、斜め丁張のほかに、赤外線レーザーを2箇所設置することにより対応した、鋼矢板斜め自立工法。」
(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「1.概要
この2軸出射型半導体レーザーは 2ケの半導体レーザーからレーザー光線を出射し、基準点と任意の点2点を指す事により基準点を観ると同時に、基準点と任意の点を結ぶラインに対して、被写体の傾きを観る事が出来る芯出し装置です。」(1頁4~8行)
イ 3頁には、以下の図が記載されている。
ウ 4頁には、以下の図が記載されている。
エ 「使用方法
・・・
4.基準光の設定
ヘッド部下側より出射されるレーザー光を、丁張りの測点1と被写体の測点2をかすめるように設置し、アームのロックノブを締め込み固定します。
この時ヘッド部がほぼ水平になるように設置して下さい。
5.微調整は、ヘッド部背面の微調整ノブ1、2によって行って下さい。
6.任意の点(角度光)の設定
測点1~測点2の直線上の任意の位置に下げ振りを垂らします。
(下げ振りの糸に、先に設定した基準光が当たる事。)
この下げ振りの糸に角度光が当たるように、ヘッド上面の角度光用微調整ノブ3,4によってヘッド部上部のレーザーを合わせます。角度は施工しやすい角度に設定して下さい。
7.再度、水平光の位置を確認し、施工をはじめて下さい。」(5頁1~末行)
(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、レーザーの直進性を利用して、部材の位置合わせに使用される位置合わせ用レーザー装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、レーザーの直進性を利用した芯出し装置(位置合わせ用レーザー装置)が知られている。また、上記レーザー装置においては、複数のレーザーを同時に出力することにより垂直及び水平出しを行うことができる多方出力型のものが知られている。
【0003】多方出力型のレーザー装置としては、例えば、水平方向に出力される第一のレーザーと、該第一のレーザーと略同一な垂直平面内において、斜め上方に出力される第二のレーザーとを出力可能なヘッド部を有するものが知られている。
【0004】そして、上記レーザー装置においては、上記第一のレーザーにより、水平出しを行うことができるようになっている。また、例えば、打ち込み中の杭に上記第一のレーザーと第二のレーザーとを照射した場合に、二つのレーザーを同時に杭の中心軸に向かって照射できれば、該杭が一つの垂直平面内に存在することを証明でき、上記レーザー装置により二カ所から上記杭の中心軸に向かって上記二つのレーザーを照射できるようにすれば杭の垂直出しができるようになっている。」
イ 「【0058】また、第一実施例のレーザー装置は、上述のように脆弱な部材にも容易に設置できるので、住宅の基礎工事の際などに用いられ、柱心、壁の中心、内外面などの水平位置を表示するための仮設物となる丁張りや水貫(水平材)に上記レーザー装置を設置することが可能であり、レーザー装置から照射されるレーザー1、1を水糸の代わりに用いることができる。」
(4)甲第4号証
甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、土木、建築用の基礎部材である杭を地盤に埋設する際に適用する杭の角度計測装置、およびこれによる杭の角度計測方法に関する
イ 「【0027】
検知装置14は、検知器が具備される装置であり、垂下部材15、第一検知器16、第二検知器17を有している。
垂下部材15は棒状の部材であり、軸部材13にその一端側が固定されている。
第一検知器16、第二検知器17は、被測定物までの距離を測定できる機器であり、本実施形態ではレーザー測定器が適用されている。レーザー測定器のような非接触式の測定器であれば、被測定物(すなわち鋼管杭)の表面性状の影響を受けにくく、より精度のよい測定をおこなうことができる。ただし、必ずしもレーザー測定器である必要はなく、被測定物までの距離を測定することができればよく、機器の種類は特に限定されるものではない。」
ウ 「【0041】
ここで、鋼管杭1の傾斜角は次のように得ることができる。すなわち、図3からわかるように、第一検知器16と鋼管杭1との距離D1(m)が第一検知器16により測定される。・・・」
(5)甲第5号証
甲第5号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(丸囲み数字は、「○数字」と表記する。)
ア 「○3 反力ウエイト不足の処理
(注:図は省略)
反力ウエイトが載せられない、あるいは地盤が硬質で一度に長い鋼矢板を圧入できないなどで十分な反力がとれない場合は、短尺鋼矢板から圧入を開始し、その反力を利用しながら順次長い鋼矢板を圧入していく。正規の鋼矢板を数枚圧入し、十分に反力が得られるようになったら、機械を反転させ、短尺鋼矢板を正規の長さのものに差し替える。」(60頁1~8行)
(6)甲第6号証
甲第6号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「 【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、各種の作業を行うための法線をレーザー光線の照射によって定める杭打設用照準装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
杭の打設工事等では、正確な法線をだすため、水糸を張りその水糸に従って各種の作業を行っている。この水糸によって法線をだす場合は、その誤差を少なくするため、基本となる点と点の距離(有効基線長)が十分に必要である。
また杭Pを地中に連続して圧入する場合には図10及び図11に示すように、レーザー光線を照射することによって法線を出すことも行われている。この場合まず法線X上に、基準杆A、Bを適宜間隔に設置し、この基準杆A、Bの上端に照準となる照準釘23、24等をそれぞれ取付ける。次いで、レーザー照準機25を基準杆Bの前方に配置し、レーザー光線が基準杆A、Bの照準釘23、24を通過するように、照射角度を調整して据付け、照射されたレーザー光線に従って杭Pの圧入作業を行っている。」
3 当審の判断
(1)特許法第36条第6項第2号について
本件訂正前の請求項3には、「前記複数本の光線又は線状の光線」と記載されているものの、当該記載前に「複数本の光線又は線状の光線」は記載されておらず不明確であるとともに、複数本の光線又は線状の光線がどのような態様で照射されているか記載されておらず(例えば請求項1に記載されるような方向、角度は特定されない)、これを基準に鋼矢板等の姿勢を調整する技術内容が欠如するために、訂正前の請求項3に係る発明は不明確であった。
しかしながら、本件訂正により、請求項3の「前記複数本の光線又は線状の光線」の前に、該光線について、請求項1と同様の「複数本の光線又は線状の光線を、発光器から前記複数の部材の並び方向へ、当該方向に見て前記複数本の光線を結ぶ直線又は前記線状の光線が下方に向って掘削領域側に所定角度だけ傾斜するように照射させるものであり、」が加えられ、該光線の照射態様が特定され、鋼矢板の姿勢を調整する技術内容が明確となった。
よって、本件訂正後の本件発明3に不明確な点はない。
(2)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「管路掘削において、土留め壁を傾斜させることで背面土圧を低減する、鋼矢板を斜めに打設し自立土留めとする鋼矢板斜め自立工法」は、本件発明1の「下方に向かって掘削領域側に傾斜する土留壁を構成する複数の部材を、横方向に直線的に並ぶと共に下方に向かって掘削領域側に傾斜するように打設する方法」に相当するから、本件発明1と甲1発明は、当該方法に関する発明である点で一致し、少なくとも、本件発明1が、「前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張りのうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置される」のに対し、甲1発明は、斜めの丁張及び2箇所の赤外線レーザー(発光器)をどのように配置するのか不明である点(以下「相違点1」という。)、で相違している。
(イ)判断
申立人が提示した他の証拠について確認する。
甲第2号証及び甲第3号証には、丁張と2本のレーザー光で鋼矢板の位置合わせを行うことが記載されているが、該2本のレーザー光は、斜めに打設する鋼矢板の位置合わせに用いるものではなく、また、丁張は斜材を備えていない。
甲第4号証に記載のレーザー測定機は、被測定物までの距離を測定できる機器であって、鋼管杭1の傾斜角を得るものではあるが、光線を複数の鋼矢板の並び方向へ照射するものではないから、甲1発明に適用する動機付けがなく、また、甲第4号証には、丁張についての記載もない。
甲第5号証には、そもそも鋼矢板の位置合わせに関する記載はない。
甲第6号証には、2つの基準杆と、1本のレーザー光線に従って杭Pの圧入作業を行うことが記載されているが、杭Pを斜めに打設するものではなく、基準杆も斜材ではない。なお、甲第6号証の図6等には、斜めに傾いたアーム部6が記載されているが、該傾きは、本件発明1でいうところの複数の部材の鉛直面に対する傾斜とは、傾斜方向が90°相違している。
よって、上記相違点1に係る発光器の設置個所及び照射対象、並びに斜材を備えた丁張については、申立人が提示する甲第2号証ないし甲第6号証にも記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2
上記第2のとおり、本件訂正請求により請求項2は削除された。
その結果、請求項2に係る特許についての特許異議申立ては、その対象を欠くこととなったので、不適法な申立てであり、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
ウ 本件発明3及び4について
本件発明3及び4と甲1発明を対比すると、少なくとも、本件発明3及び4は、「前記発光器は、打設される前記複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度と同一の角度だけ鉛直軸に対して傾斜する斜材を備え、該斜材が前記複数の部材の並ぶ方向に見て互いに重なり合うように設置された一対の丁張のうち、一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置され」るのに対し、甲1発明は、丁張りの斜材及び発光器をどのように配置するのか不明である点(以下「相違点2」という。)、で相違している。
そして、上記相違点2は、上記アで挙げた相違点1と同じであるから、本件発明3及び4は、上記アで説示した理由と同じ理由により、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は意見書において、「甲第2号証又は甲第6号証の記載に基づき、本件発明のように複数本の光線のそれぞれについて、近距離側の測点1と、遠距離側の測点2とを設けて、光線をかすめるように設置することは容易であり、複数の近距離側の測点を繋ぐような斜材と、複数の遠距離側の測点を繋ぐような斜材とを適用することは当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。」、「斜材を用いることや、手前側の斜材に発光器を設置することは、特段の作用効果を発揮させるものではない。」と主張する。
しかしながら、申立人が提示した証拠には、本件発明1の複数の部材の鉛直面に対する傾斜角度に対して傾斜する斜材や、該斜材と発光器との関係は記載されておらず、示唆する記載もないから、申立人が主張するように、適宜なし得る設計事項とはいえない。
(イ)同じく「訂正発明にあっては、『丁張30と丁張40とは、複数の鋼矢板12の打設領域を挟むように設置される。』及び『さらに、丁張30、40が、柱材32、42が鉛直になるように設置される』が記載されておらず、発明の詳細な説明に記載のものではない。」とも主張する。
しかしながら、訂正後の本件発明は、「前記発光器は、・・・一方の前記丁張の前記斜材に対して、他方の前記丁張の前記斜材に付した照射点に向けて照射するように設置される」ものであるから、一方の丁張側から照射された光は、他方の丁張の照射点に照射され、他方の丁張を超えて照射されるものではないから、複数の鋼矢板の打設領域は、一方の丁張と他方の丁張の間であることは明らかである。
また、本件発明において、光線を所定角度傾斜させるために、丁張に斜材が備えられているところ、該斜材の設置に際し、鉛直となる柱材は必須の構成ではない。
よって、申立人が主張する上記構成を備えていないとしても、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。
第5 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件発明1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件発明1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件発明2に係る特許についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700130