特許異議申立
2018-700042
塗料用変性塩素化ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法
- 審判番号
- 2018-700042
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-129941外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年01月18日
- 審決日
- 2018年07月18日
- 公報発行日
- 2018年10月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東レ・ファインケミカル株式会社
- 【権利者代理人】清流国際特許業務法人
- 【異議申立人】大野 芙美
- 分類
- P1651.121-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6166962号発明「塗料用変性塩素化ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6166962号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第6166962号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6166962号の請求項1~3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年6月30日にその特許権の設定登録がされ、平成29年7月19日にその特許公報が発行され、その後、平成30年1月18日に特許異議申立人大野芙美(以下「申立人」という。)より請求項1~3に対して特許異議の申立てがされ、平成30年3月8日付けで取消理由が通知され、同年5月8日に特許権者から意見書及び訂正請求書が提出されたものである(申立人は、特許法120条の5第5項の規定により審判長が指定した期間内に意見書を提出しなかった。)。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
上記平成30年5月8日提出の訂正請求書は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項を構成する請求項1~3について訂正するものであって(以下「本件訂正」という。)、その具体的訂正事項は次のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「酸無水物基を側鎖に有する酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)をヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)及びアルコール(C)で変性することによりエステル化塩素化ポリオレフィン樹脂(D)を調製し、」と記載されているのを、「酸無水物基を側鎖に有する酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)をヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)で変性した後、アルコール(C)で変性することによりエステル化塩素化ポリオレフィン樹脂(D)を調製し、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「該酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)1分子に対し、前記ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)を0.3~2.0mol反応させると共に、」と記載されているのを、「該酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)1モルに対し、前記ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)を0.3~2.0モル反応させた後、」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許明細書の【0010】の「本発明の変性塩素化ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法によれば、酸無水物基を側鎖に有する酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)に、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)を酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)1分子あたり0.3~2.0molを付加変性し、さらに残りの酸無水物基をアルコール(C)を付加変性することにより、未反応の酸無水物基が残存しないようにした」との記載、及び、【0011】の「酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)の酸無水物基にヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)を反応させた後、未反応の酸無水物残基がすべて開環するようにアルコール(C)を添加する」との記載をもとに、酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)に対し、最初にヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)で変性した後に、アルコール(C)で変性するという順番を特定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、又は、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、又は、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
(2)訂正事項2について
訂正事項2のうち、「1分子」を「1モル」に訂正した部分については、本件特許明細書の【0080】~【0083】(表1~表3)の「樹脂(A)1molあたりのエステル(B)のmol数」との記載をもとに、訂正前の請求項1の「1分子」を「1モル」(1mol)に訂正するものであり、訂正前の「1分子」の本来の意味が「1モル」と解釈することが技術的に合理的であることはあきらかといえるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書等の範囲内である。そして、「1分子」を「1モル」にする訂正は、本来意図する内容のものに訂正するものであるから、拡張・変更にあたらない。
また、訂正事項2のうち、「反応させると共に」を「反応させた後」に訂正した部分については、訂正事項1によって順序が特定されたことに伴う訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、その順序は【0011】に記載されているので、願書に添付した明細書等の範囲内である。
よって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書、又は、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、又は、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
(3)訂正事項1、2は、一群の請求項に対してなされたものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~3について求めるものであり、その訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号または第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
酸無水物基を側鎖に有する酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)をヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)で変性した後、アルコール(C)で変性することによりエステル化塩素化ポリオレフィン樹脂(D)を調製し、このエステル化塩素化ポリオレフィン樹脂(D)の存在下、重合性ビニル系単量体(E)を有機溶剤(F)中で共重合する塗料用変性塩素化ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法であって、前記酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)の酸変性率が0.1~10重量%であり、該酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)1モルに対し、前記ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)を0.3~2.0モル反応させた後、前記アルコール(C)を下記の式(i)に基づいて使用することを特徴とする塗料用変性塩素化ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法。
アルコール(C)のモル数=(a-b)×r (i)
a:酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)の酸変性部分のモル数
b:酸変性部分に付加したヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)のモル数
r:2~50の範囲の係数
【請求項2】
前記酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)の酸無水物基にヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)を反応させた後、未反応の酸無水物残基がすべて開環するようにアルコール(C)を添加することを特徴とする請求項1に記載の塗料用変性塩素化ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記重合性ビニル系単量体(E)が、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸ターシャリブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシルから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1または2に記載の塗料用変性塩素化ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法。」
(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1~3に係る特許に対して平成30年3月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1~3に係る特許は、アルコール(C)の添加順序が規定されていない点、及び、「1モル」と「1分子」が整合していない点において、記載に不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願になされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)取消理由についての判断
取消理由において指摘した、請求項1における「1分子に対し、・・・0.3~2.0mol反応させる」との記載が不明瞭である点については、本件訂正(訂正事項2)により、「1分子」が本来の意味である「1モル」に訂正されたので明確となった。
また、取消理由において指摘した、請求項1における「アルコール(C)」を反応させる順序やタイミングが不明瞭である点については、本件訂正(訂正事項1)により、その順序が特定されたので明確となった。
したがって、本件発明1~3は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものとなった。
(4)取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、次のア、イのとおりである。
ア 本件発明1~3は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。
イ 本件発明1~3は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(5)上記特許異議申立理由についての判断
ア 特許法第29条第2項についての判断
(ア) 甲第1号証(特開平5-105841号公報)
甲第1号証には、以下の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、各種プラスチックの保護、美粧および接着を目的として用いられるバインダー樹脂組成物に関し、更に詳しくは、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、各種合成樹脂のフィルム、シートまたは成形物に対し優れた諸物性を示す塗料、印刷インキ、あるいは接着剤用のバインダー樹脂組成物に関する。」
「【0015】即ち、本発明はプロピレン-α-オレフィン共重合体に、α,β-不飽和カルボン酸および/またはその無水物を 1.0ないし10重量%グラフト共重合した後、少なくとも1個の水酸基、グリシジル基、アミノ基またはアミド基を有する反応性不飽和物 0.5ないし10重量%をα,β-不飽和カルボン酸および/またはその無水物に部分的に反応させ、更にモノアルコールの存在下でラジカル重合性不飽和物をグラフト共重合して得られるバインダー樹脂組成物である。」
「【0040】該バインダー樹脂溶液が均一で保存安定性に優れる理由としては、本来プロピレン-α-オレフィン共重合体は非極性であるが、上記した方法であれば極性のあるアクリルやスチレン等をプロピレン-α-オレフィン共重合体に確実にグラフト共重合することが可能であり、その結果極性が付与され溶剤に対する溶解性や顔料分散性が改良されるもの思われる。また、モノアルコールの存在下でラジカル重合性不飽和物をグラフト共重合した場合、幹ポリマーに含まれる遊離のカルボキシル基または酸無水物基がモノアルコールによりマスクされ副反応が停止されることにより保存安定性が改善されるものと思われる。」
「【0041】
【実施例】次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】(試作例-1)攪拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコ中で、プロピレン-α-オレフィン共重合体(プロピレン成分75モル%、エチレン成分20モル%、1-ブテン成分5モル%、重量平均分子量25,000) 300gをトルエン700gに加熱溶解させた後、系の温度を 140℃に保って攪拌しながら無水マレイン酸30gとラジカル発生剤としてジ-tert-ブチルパーオキシド12gをそれぞれ2時間かけて滴下させその後3時間熟成を行った。反応後室温まで冷却した後反応物を20リットルのアセトン中に投入して精製し、グラフト量 6.5重量%の無水マレイン酸グラフト共重合体を得た。」
「【0044】(実施例-1)試作例-1と同様な4つ口フラスコ中で、試作例-1で得た無水マレイン酸グラフト共重合体 100gをトルエン 200gに溶解させた後、濃硫酸0.07g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート 2.5gを添加し 100℃で2時間かけてエステル化反応を行った。次に系の温度を85℃まで冷却し、イソプロピルアルコール20gを投入した後、メチルメタクリレート45g及びイソブチルメタクリレート5gから成るラジカル重合性不飽和物と、10gのトルエンに 1.5gのベンゾイルパーオキシドを溶解させた溶液を3時間かけて滴下させ、更に8時間に亘って共重合反応を行い、プロピレン-α-オレフィン共重合体にラジカル重合性不飽和物をグラフト共重合したバインダー樹脂溶液を得た。バインダー樹脂溶液の固形分濃度をトルエンで40wt%に調整し、完全に密閉した容器に入れ、40℃の雰囲気に貯蔵して経時的な粘度変化を見た。その結果を表1に示した。」
(イ)甲発明
甲第1号証の【0001】には、利用分野として、塗料等に用いられるバインダー樹脂組成物に関するとの記載がある。そして、上記【0042】、【0044】の実施例からすると、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲発明」という。)。
「塗料用バインダー樹脂組成物の製造方法であって、グラフト量 6.5重量%の無水マレイン酸グラフト共重合体 100gをトルエン 200gに溶解させた後、濃硫酸0.07g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート 2.5gを添加し 100℃で2時間かけてエステル化反応を行い、次に系の温度を85℃まで冷却し、イソプロピルアルコール20gを投入した後、メチルメタクリレート45g及びイソブチルメタクリレート5gから成るラジカル重合性不飽和物と、10gのトルエンに 1.5gのベンゾイルパーオキシドを溶解させた溶液を3時間かけて滴下させ、更に8時間に亘って共重合反応を行い、プロピレン-α-オレフィン共重合体にラジカル重合性不飽和物をグラフト共重合したバインダー樹脂溶液(組成物)を得る方法。」
(ウ)本件発明1と甲発明との対比
ここで、甲発明における「グラフト量 6.5重量%の無水マレイン酸グラフト共重合体」は、甲第1号証の【0042】に記載された製造方法からみて、酸変性率6.5%の酸無水物基を側鎖に有する酸変性ポリオレフィン樹脂のことであるといえる(「グラフト量」と「酸変性率」は同義であると判断した。)。
甲発明における「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」、「イソプロピルアルコール」、「ラジカル重合性不飽和物」、及び、「トルエン」はそれぞれ、本件発明1における「ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)」、「アルコール(C)」、「重合性ビニル系単量体(E)」、及び、「有機溶剤(F)」に相当している。
以上を踏まえ、甲発明と本件発明1とを対比すると、少なくとも以下の点で相違しているといえる。
<相違点1>
酸変性ポリオレフィン樹脂をエステル化する際の「ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)」(甲発明における「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」に相当)の配合量、及び、「アルコール(C)」(甲発明における「イソプロピルアルコール」に相当)の配合量に関し、本件発明1は、「・・・該酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)1モルに対し、前記ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)を0.3~2.0モル反応させた後、前記アルコール(C)を下記の式(i)に基づいて使用することを特徴とする塗料用変性塩素化ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法。
アルコール(C)のモル数=(a-b)×r (i)
a:酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A)の酸変性部分のモル数
b:酸変性部分に付加したヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル(B)のモル数
r:2~50の範囲の係数」と特定されているのに対し、甲発明においては、このように特定されていない点。
<相違点2>
酸変性ポリオレフィン樹脂に関し、本件発明1は、塩素化された「酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂」であるのに対し、甲発明は塩素化されていない点。
相違点1について検討する。甲第1号証の【0015】には、「更にモノアルコールの存在下でラジカル重合性不飽和物をグラフト共重合して」バインダー樹脂組成物を得る旨が記載されており、具体的には、【0044】(実施例)に、「イソプロピルアルコール20gを投入した後、メチルメタクリレート45g及びイソブチルメタクリレート5gから成るラジカル重合性不飽和物と、10gのトルエンに 1.5gのベンゾイルパーオキシドを溶解させた溶液を3時間かけて滴下させ、更に8時間に亘って共重合反応を行い、プロピレン-α-オレフィン共重合体にラジカル重合性不飽和物をグラフト共重合したバインダー樹脂溶液を得た。」と記載されている。
すなわち、甲第1号証には、アルコールの存在下でラジカル重合性不飽和物をグラフト共重合することは開示されているが、α,β-不飽和カルボン酸および/またはその酸無水物をグラフト共重合したプロピレン-α-オレフィン共重合体に、水酸基を有する反応性不飽和物を、部分的に反応させた反応生成物に、モノアルコールをエステル化させることは具体的に記載されていない。
確かに、甲第1号証の【0040】には、「モノアルコールの存在下でラジカル重合性不飽和物をグラフト共重合した場合、幹ポリマーに含まれる遊離のカルボキシル基または酸無水物基がモノアルコールによりマスクされ副反応が停止されることにより保存安定性が改善されるものと思われる。」と記載され、酸無水物がモノアルコールによりマスクされること、すなわち、エステル化されることが示唆されている。
しかしながら、該記載には具体性がなく、水酸基を有する反応性不飽和物を部分的にエステル化させた反応生成物において、未反応の酸無水物基が残存しないように特定量のモノアルコールを配合するという技術思想が記載されているとまではいえないから、この記載をもとに、本件発明1で特定されるように、水酸基を有する反応性不飽和物、及び、モノアルコールの配合量を具体的に特定することは、当業者にとって容易とはいえない。
また、甲第2号証~甲第4号証には、相違点1に関する記載はない。
したがって、相違点2については検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び、甲第1号証~甲第4号証をもとに、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
そして、本件発明2、3は、本件発明1を引用しているから、本件発明1と同様な理由により、甲1発明、及び、甲第1号証~甲第4号証の記載に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
イ 特許法第36条第6項第1号についての判断
訂正前の請求項1において、一見すると表現上、アルコール(C)の添加順序が規定されていないといえるが、本件明細書の【0010】の「さらに残りの酸無水物基をアルコール(C)を付加変性することにより、未反応の酸無水物基が残存しないようにした」との記載、及び、【0011】の「未反応の酸無水物残基がすべて開環するようにアルコール(C)を添加する」との記載に照らせば、訂正前の請求項1と本件明細書との実質的な対応関係としては、請求項1に記載された事項が本件明細書に記載されていないとはいえず、サポート要件を満たしていないとはいえない。
また、「1モル」と「1分子」が整合していない点についても、本件明細書の【0080】~【0083】(表1~表3)の「樹脂(A)1molあたりのエステル(B)のmol数」との記載に照らせば、訂正前の請求項1と本件明細書との実質的な対応関係としては、「1分子」ではなく、「1モル」であると当業者が理解することができるものと認められるから、訂正前の請求項1に記載された事項が本件明細書に記載されていないとまではいえず、サポート要件を満たしていないとはいえない。
なお、訂正前の請求項1について、本件訂正(訂正事項1、2)により、アルコール(C)の添加順序が規定されていない点、及び、「1モル」と「1分子」が整合していない点が、明確となったことは、前記(3)のとおりである。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700042