特許異議申立
2018-700018
シフト装置
- 審判番号
- 2018-700018
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-250150外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年01月10日
- 審決日
- 2018年03月27日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社東海理化電機製作所
- 【権利者代理人】恩田 誠
- 【権利者代理人】恩田 博宣
- 【異議申立人】大野 芙美
- 分類
- P1651.121-Y (B60K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6162588号発明「シフト装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6162588号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6162588号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成25年12月3日に特許出願され、平成29年6月23日に特許の設定登録がされ、同年7月12日に特許掲載公報が発行され、その後、平成30年1月10日に請求項1~5に対して特許異議申立人大野芙美(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」~「本件発明5」という。)。
「【請求項1】
車両の変速機のシフトレンジを選択するために回転操作される位置保持型のノブと、アクチュエータと、アクチュエータに連動してノブのパーキング位置から他の位置への操作を許容する第1の位置とノブの一部に係合してノブのパーキング位置から他の位置への操作を規制する第2の位置との間を移動する押し部材と、アクチュエータを制御する制御回路と、を備え、
前記ノブの一部として、ノブが前記他の位置に保持されているとき押し部材の移動軌跡上に存在するとともに第1の位置から第2の位置へ向かう押し部材との係合を通じて押し部材の移動をノブのパーキング位置へ向けた回転に変換する受け部材を設け、
制御回路は、シフトレンジをパーキングレンジに切り替えるべきとして予め設定された特定の事象が検出される場合には押し部材を第1の位置から第2の位置へ移動させるために、また車両の走行用駆動源が始動される場合に前記規制の解除条件が成立するときには押し部材を第2の位置から第1の位置へ移動させるために、アクチュエータを駆動させるシフト装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシフト装置において、
前記受け部材はノブの回転方向に対して交わる方向へ突出しているシフト装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシフト装置において、
押し部材の位置を検出するセンサを有し、
制御回路はセンサを通じて押し部材が第1の位置または第2の位置に達した旨検出されるときアクチュエータを停止させるシフト装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のシフト装置において、
押し部材はアクチュエータに連動して直線運動するシフト装置。
【請求項5】
請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のシフト装置において、
押し部材はアクチュエータに連動してノブの回転中心軸に対して平行に延びる軸線を中心として回転するシフト装置。」
第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠として下記の甲第1~4号証を提出し、請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2~4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件請求項1~5に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
甲第1号証:欧州特許第1848903号明細書
甲第2号証:特許第5249956号公報
甲第3号証:特公平7-49823号公報
甲第4号証:特開2012-136132号公報
第4 刊行物の記載
1 甲第1号証
甲第1号証には、「ELECTRIC CIRCUIT ARRANGEMENT FOR A MOTOR VEHICLE」{自動車のための電気式の切換装置}に関して、図面とともに次の事項が記載されている({}内は、当審訳。以下同様。)。
(1)「[0002] Such switching devices ……
[0003] The shift lever …… again and again.」
{[0002]このような種類の切換装置は、自動化されたシフトレバーを装備する自動車で適用されている。その場合、本来の切換プロセスは電気油圧式または電気モータ式に行われのに対して、運転者のそのつどの切換要求は電気式または電子式に検出される。このような自動化されたトランスミッションでは、運転者は、切換レバーと、場合によりたとえばステアリングホイールに配置される追加のタンブラスイッチとを有する電気式の切換装置を、シフトアップとシフトダウンのために利用することができる。
[0003]そのような切換装置の切換レバーは多安定式あるいは単安定式に施工されていてよく、すなわち、複数の固定的な位置へと調整可能であるか、または、ジョイスティックなどと同様に、複数の不安定な調整位置から切換レバーが繰り返し復帰するただ1つの安定した静止位置だけを有している。}
(2)「[0018] Those Figure 1 shows ……
[0019] With a Verschwenkung ……
[0020] An electric motor ……
[0021] The eccentric shaft ……
[0022] The represented delimitation ……
[0023] It is favorable ……
[0024] Thereby if the ……
[0025] IF the eccentric …… shaft (10) taken up.」
{[0018]図1は、切換レバー(1)がこれを中心として旋回可能である回転軸(3)のための切欠き(2)を備える切換レバー(1)を示している。・・・(後略)
[0019]図示している回転軸(3)を中心として旋回をすると、切換レバー(1)の下側区域が操作方向で、ここではシャフト(10)に配置された偏心器(6)によって構成される制限部材に当たる。切換レバー(1)と偏心器(6)の間の機械的な連結を改善するために、これらはプラスチックからなる中間片(4)を介して相互に連結されている。
[0020]電動モータ(8)がウォームギヤ(9)を介して、偏心器(6)を備えるシャフト(10)を駆動する。別案として偏心器シャフト(10)を、クランクメカニズムを介して、直線的に作用するアクチュエータによって回転させることができる。
[0021]偏心器シャフト(10)は、ウォームギヤ(9)を介して、2つの位置へと回転させることができる。図1aに示す偏心器(6)の位置Aは解除されたロックに相当しており、偏心器(6)は切換レバー(1)と反対を向いており、切換レバー経路を制限していない。それにより切換レバー(1)は少なくとも、偏心器に向かう方向に偏向した切換レバー位置と、中央のニュートラルな切換レバー位置との間で自由に往復運動をすることができる。それに対して偏心器(6)が位置Bにあるとき、図1bに示すように、偏心器(6)に向かう方向への切換レバー(1)の偏向がブロックされる。
[0022]このように、図示している制限装置は・・・(後略)
[0023]アクチュエータ(8)により、切換レバー(1)をニュートラルな中央の位置へ自動的に復帰させる可能性を追加的に具体化することができるのが好ましい。切換レバー(1)は、その可能な切換位置を係止式に占めるように支承されているものと想定される。さらに、切換レバー(1)が図1aに示す偏向した切換レバー位置にあり、偏心器(6)はそれに応じて位置Aにあるものと想定される。偏心器シャフト(10)がウォームギヤ(9)を介してのみ、図1bに示す位置Bへと回転するとき、偏心器(6)は切換レバー(1)を中間片(4)を介してそのニュートラルな切換レバー位置へと戻るように動かす。
[0024]このとき偏心器(6)が位置Bを超えてさらに位置Aまで動くと、偏心器(6)は中間片(4)を介して切換レバー(1)を再び解放し、切換レバー(1)の自由な操作を可能とする。
[0025]それに対して偏心器(6)が位置Bでとどまっていると、偏心器(6)に向かう方向への切換レバー(1)の操作がロックされる。ロック部により受け止められる力は、偏心器(6)の横に位置する偏心器シャフト(10)の軸受箇所によって受け止められる。}
(3)Fig.1のa)及びb)を参照すると、下記「ア」~「ウ」の事項が看取される。
ア:切換レバー1は回転軸3を中心として旋回操作されるように設けられていること。
イ:切換レバー1に対して回転軸3よりも下の下側区域は、偏心器6及び中間片4の移動軌跡上に存在していること。
ウ:偏心器6及び中間片4の移動を、切換レバー1のニュートラルな切換レバー位置へ向けた旋回に変換する、切換レバー1に対して回転軸3よりも下の下側区域が設けられていること。
(4)アクチュエータ8は、電気モータであるから、アクチュエータ8を制御する制御回路により駆動されることは、当業者であれば明らかである。
上記の記載事項、認定事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には、Fig.1a)及びb)に示される実施例として、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「自動車のトランスミッションのシフトアップとシフトダウンのために旋回操作される多安定式の切換レバー1と、アクチュエータ8と、アクチュエータ8に連動して切換レバー1のニュートラルな切換レバー位置から偏心器6に向かう方向に偏向した切換レバー位置への操作を許容する位置Aと切換レバー1に対して回転軸3よりも下の下側区域に係合して切換レバー1のニュートラルな切換レバー位置から偏心器6に向かう方向に偏向した切換レバー位置への操作を規制する位置Bとの間を移動する偏心器6及び中間片4と、アクチュエータ8を制御する制御回路と、を備え、
切換レバー1が前記偏心器6に向かう方向に偏向した切換レバー位置にあるとき偏心器6及び中間片4の移動軌跡上に存在するとともに位置Aから位置Bへ向かう偏心器6及び中間片4との係合を通じて偏心器6及び中間片4の移動を切換レバー1のニュートラルな切換レバー位置へ向けた旋回に変換する、切換レバー1に対して回転軸3よりも下の下側区域を設け、
制御回路は、アクチュエータ8を駆動させる切換装置。
2 甲第2号証
甲第2号証には、「セレクトレバーアクチュエータを備えた操作装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0050】
図6および図7には、パーキングロックの自動的な作動(「オートパーキング」)時の経過が示してある。セレクトレバー1が、図6によれば、まず、(たとえば)まだ走行段位置Dに位置している。変速機アクチュエータ8と、操作ケーブル7と、旋回レバー9と、ロックバー6とが、図6によれば、図5にも示したように、まだ不変に運転位置に位置している。
【0051】
次いで、車両が停止させられ、運転者が車両から離れるとする。しかし、この場合、パーキングロックを手で入れることを怠ったとする。したがって、変速機制御装置が、図7により、パーキングロックの自動的な作動を生ぜしめる。これに相応して、パーキングロックポールの走入時に、ギヤチェンジ変速機に設けられた変速機シフトシャフトもしくは変速機アクチュエータ8の位置が変化させられる。しかし、これによって、操作ケーブル7の(引き)操作ひいては回動点10を中心とした旋回レバー9の旋回も図面で見て左方に行われる。
【0052】
この場合、旋回レバー9が、この旋回レバー9に回動点5で結合されたロックバー6を連行し、こうして、このロックバー6の第1のロック輪郭部11と、ロック突起12とを介して、セレクトレバー1がパーキングロック位置に到達するまで、セレクトレバー1も図面で見て左方に運動させる。同時に、ロックバー6の第2のロック輪郭部13が、ハウジングベース4に配置された非常係止解除フラップ14に係止する。これによって、ロックバー6と、旋回レバー9と、セレクトレバー1と、操作ケーブル7とから成るアッセンブリと、変速機アクチュエータ8とが、再び図1および図2による出発位置にも相当する図7による位置に係止される。」
3 甲第3号証
甲第3号証には、「自動変速機用シフトレバー装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「(実施例)
以下、本発明を自動車用の自動変速機に適用した一実施例について図面を参照しながら説明する。
第1図及び第2図において、シフトレバー1は、下端に円筒状のリテーナ2を一体に有し、そのリテーナ2を機枠3の下面に固定されたシャフト4の周囲に回転可能に支持させることにより、前後方向(第1図中矢印A及び反矢印A方向)へ揺動操作可能に設けられている。この場合、第1図では、シフトレバー1がニュートラルボジション『N』にある状態を示しており、シフトレバー1は、この状態から後方へ揺動されるのに応じてドライブポジション『D』,セカンドポジション『2』,ローポジション『L』に順次位置され、また、前方へ揺動されるのに応じてリバースポジション『R』,パーキングポジション『P』に順次位置される。」(3ページ左欄19行~33行)
(2)「従って、運転者がイグニッションスイッチ19をACC位置或はオン位置に放置したままの状態でシフトレバー1をパーキングポジション『P』へ揺動操作させることなく降車した場合には、ホーン24が鳴動されると共に、エンジンが駆動されたままの状態にあったときにはスイッチ装置27のオフによるイグニッション回路の遮断に応じてエンジンが駆動停止され、作動レバー10が歯車式減速装置11を介して前方へ揺動開始される。このように作動レバー10が揺動されると、その作動レバー10の押圧片12がシフトレバー1に対しパーキングポジション『P』と反対側方向から当接するようになると共に、カム部13がディテントピン5をディテントプレート7の凹凸部8aと非係合状態となる位置へ移動させ、以てシフトレバー1がパーキングポジション『P』方向へ揺動可能な状態に切換えられる。これにより、作動レバー10は、シフトレバー1を押圧片12を介して押圧しながらパーキングポジション『P』方向へ継続的に揺動され、最終的にシフトレバー1をパーキングポジション『P』に位置させた最大揺動位置まで揺動されるようになり、これに応じてリミットスイッチ16がオンされる。」(4ページ左欄42行~右欄11行)
4 甲第4号証
甲第4号証には、「自動変速機用変速操作装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0029】
本実施形態に係るシフト操作手段1は、図1に示すように、運転者が把持しつつ回転操作することにより自動変速機を任意操作可能とされるとともに、軸方向に押圧操作してパーキング準備状態を経ることにより任意変速位置(R位置)とパーキング位置(P位置)との間で移動可能とされたダイヤル式操作ノブから成るものである。ここで、本実施形態における「パーキング準備状態」とは、軸方向へ押圧操作しつつパーキング位置側に回転操作されたシフト操作手段1の状態(押圧状態が維持された状態)をいう。
【0030】
より具体的には、シフト操作手段1は、本体7に回転自在に支持される軸部材6の上端部6aと接続されており、当該シフト操作手段1の回転操作に伴って軸部材6が軸周りに回転可能とされている。軸部材6は、コイルスプリングSにより常時上方(シフト操作手段1側)に付勢されており、シフト操作手段1を押圧操作する際、当該付勢手段の付勢力に抗するよう構成されている。しかるに、パーキング位置(P位置)にあるシフト操作手段1(図8(a)参照)を軸方向に押圧操作してパーキング準備状態とし(同図(b)参照)、その押圧状態を維持しつつ任意変速位置側(R位置側)に回転操作して押圧力を緩めれば、軸部材6が付勢力によって上昇し、任意変速位置(R位置)となる(同図(c)参照)。」
(2)「【0039】
ストッパ部材4は、全体としてアーム状に成形された部品から成るもので、取付部3aを介してソレノイド3と連結されるとともに、軸部4bを中心として揺動自在に組み付けられるものである。かかるストッパ部材4は、ソレノイド3の作動軸を突出方向に付勢する図示しない付勢手段(コイルスプリング等)により、図5中符号a方向に付勢されており、当該ソレノイド3が作動して作動軸が没入方向(図5中符号c方向)へ移動すると、同図中符号b方向へ揺動し得るようになっている。
【0040】
一方、シフト操作手段1の軸部材6における所定位置(ストッパ部材4の先端部4aに対応する位置)には、図3に示すように、凸部6c及びフランジ部6dが形成されている。ここで、本実施形態においては、シフトロック機構5は、従来のものと同様、シフト操作手段1に対してパーキング位置(P位置)からの移動(押圧操作)を規制又は許容させる機能と、任意変速位置(R位置)からパーキング位置(P位置)までの操作過程におけるパーキング準備状態のシフト操作手段1に対し、当該任意変速位置(R位置)に向かう移動を規制する規制手段としての機能とを有するものである。
【0041】
先ず、シフトロック機構5が規制手段として機能する場合について説明する。シフト操作手段1が任意変速位置(R位置)にあるとき、ストッパ部材4は、図9(a)に示すように、その先端が凸部6cの突端面に当接した状態とされており、シフト操作手段1の押圧操作又は回転操作が許容されている。そして、当該シフト操作手段1を押圧操作しつつ回転操作してパーキング準備状態とすると、同図(b)に示すように、ソレノイド3の作動軸を突出方向に付勢する図示しない付勢手段(コイルスプリング等)により、凸部6cの側面に当該ストッパ部材4の先端部4aが係合する。これにより、パーキング準備状態のシフト操作手段1に対し、任意変速位置(R位置)に向かう移動を規制し得るよう構成されている。このとき、ストッパ部材4の先端部4aは、任意変速位置(R位置)に向かう方向に対する規制が行われる一方、パーキング位置に向かう移動(すなわち、上昇する側の移動)を許容するよう構成されている。
【0042】
なお、シフト操作手段1がパーキング準備状態にあるとき、パーキング位置検知手段2はオンせず、検知がなされない。しかるに、シフト操作手段1をパーキング準備状態とした後、操作力を緩めると、当該シフト操作手段1は、図9(c)に示すように、常時付与されている付勢力によって自然と上昇してパーキング位置に至り、パーキング位置検知手段2がオンすることにより、シフト操作手段1がパーキング位置にあることを把握し得るようになっている。本実施形態によれば、パーキング位置検知手段2による検知がなされないパーキング準備状態からのシフト操作手段1の任意変速位置(R位置)側への操作を規制することができるのである。
【0043】
次に、シフトロック機構5がシフト操作手段1に対してパーキング位置(P位置)からの移動を規制又は許容させる場合(本来の機能)について説明する。シフト操作手段1をパーキング準備状態とした後、操作力を緩めると、当該シフト操作手段1及び軸部材6は、コイルスプリングSの付勢力により上昇し、パーキング位置まで移動する。このとき、ストッパ部材4は、既述の如く、ソレノイド3の作動軸を突出方向に付勢する図示しない付勢手段(コイルスプリング等)により付勢されているため、図9(c)に示すように、その先端部4aがフランジ部6dの下面に至り、先端部4aの上面がフランジ部6dの下面と当接することとなる。これにより、パーキング位置にあるシフト操作手段1は、押圧方向に対して係止されることとなり、押圧操作が規制されることとなる。
【0044】
一方、車両側から所定の信号(例えば、車両のブレーキが操作されたことを示す信号等)が送信されると、ソレノイド3に電圧が印加され、ストッパ部材4を揺動させて、当該ストッパ部材4の先端部4aをフランジ部6dの下面から離間させるよう構成されている。これにより、シフト操作手段1は、押圧方向に対する係止が解かれることとなり、押圧操作が許容されることとなる。これにより、車両のブレーキが操作されたこと等を条件として、シフト操作手段1による操作を可能とし、誤操作等による不用意な車両の発進を抑制して安全性を向上させることができる。」
第5 判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「自動車のトランスミッション」は、本件発明1の「車両の変速機」に相当する。
以下同様に、「シフトアップとシフトダウン」することは、「シフトレンジを選択する」ことに、
「多安定式」は、「位置保持型」に、
「アクチュエータ8」は、「アクチュエータ」に、
「偏心器6に向かう方向に偏向した切換レバー位置」は、「他の位置」に、
「偏心器6及び中間片4」は、「押し部材」に、
「偏心器6に向かう方向に偏向した切換レバー位置にあるとき」は、「他の位置に保持されているとき」に、
「切換装置」は、「シフト装置」に、それぞれ相当する。
甲1発明の「旋回操作される」「切換レバー1」と、本件発明1の「回転操作される」「ノブ」とは、「操作される」「操作部材」という限りで共通する。
甲1発明の「ニュートラルな切換レバー位置」と、本件発明1の「パーキング位置」とは、「特定のシフト位置」という限りで共通する。
甲1発明の「切換レバー1のニュートラルな切換レバー位置から偏心器6に向かう方向に偏向した切換レバー位置への操作を許容する位置A」と、本件発明1の「ノブのパーキング位置から他の位置への操作を許容する第1の位置」とは、「操作部材の特定のシフト位置から他の位置への操作を許容する第1の位置」という限りで共通する。
甲1発明の「切換レバー1のニュートラルな切換レバー位置から偏心器6に向かう方向に偏向した切換レバー位置への操作を規制する位置B」と、本件発明1の「ノブのパーキング位置から他の位置への操作を規制する第2の位置」とは、「操作部材の特定のシフト位置から他の位置への操作を規制する第2の位置」という限りで共通する。
甲1発明の「偏心器6及び中間片4の移動を切換レバー1のニュートラルな切換レバー位置へ向けた旋回に変換する、切換レバー1に対して回転軸3よりも下の下側区域」と、本件発明1の「押し部材の移動をノブのパーキング位置へ向けた回転に変換する受け部材」とは、「押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分」という限りで共通する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明とは次の点で一致する。
[一致点]
「車両の変速機のシフトレンジを選択するために操作される位置保持型の操作部材と、アクチュエータと、アクチュエータに連動して操作部材の特定のシフト位置から他の位置への操作を許容する第1の位置と操作部材の特定のシフト位置から他の位置への操作を規制する第2の位置との間を移動する押し部材と、アクチュエータを制御する制御回路と、を備え、
操作部材が前記他の位置に保持されているとき押し部材の移動軌跡上に存在するとともに第1の位置から第2の位置へ向かう押し部材との係合を通じて押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分を設け、
制御回路は、アクチュエータを駆動させるシフト装置。」
一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1においては、操作部材は「回転操作される」「ノブ」であり、特定のシフト位置は「パーキング位置」であり、押し部材が係合するもので、押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分は「受け部材」であり「ノブの一部」であるのに対して、
甲1発明においては、操作部材は「旋回操作される」「切換レバー1」であり、特定のシフト位置は「ニュートラルな切換レバー位置」であり、押し部材が係合するもので、押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分は「切換レバー1に対して回転軸3よりも下の下側区域」である点。
[相違点2]
本件発明1においては、「制御回路は、シフトレンジをパーキングレンジに切り替えるべきとして予め設定された特定の事象が検出される場合には押し部材を第1の位置から第2の位置へ移動させるために、また車両の走行用駆動源が始動される場合に前記規制の解除条件が成立するときには押し部材を第2の位置から第1の位置へ移動させるために、アクチュエータを駆動させる」のに対して、
甲1発明においては、制御回路はアクチュエータ8を駆動するものの、かかる構成を備えていない点。
(2)判断
上記相違点1について検討する。
ア 甲第2号証について
甲第2号証には、オートパーキング時に、変速機アクチュエータ8の位置が変化させられ、操作ケーブル7の引き操作により、回動点10を中心として旋回レバー9が旋回し、旋回レバー9が回動点5で結合されたロックバー6を連行し、ロックバー6の第1のロック輪郭部11が、セレクトレバー1のロック突起12とを介して、セレクトレバー1がパーキングロック位置Pに到達するまで、セレクトレバー1を運動させることが記載されており(「第4 2」を参照。)、また、甲第2号証の図1~図8を参照すると、セレクトレバー1は、把持する部分(図1において、セレクトレバー1の上部に円状に記載された部分)を備え、セレクトレバー1及び把持する部分は、パーキングロック位置Pと走行段位置R、N及びDの間で揺動可能となっていることが看取される(以下、「甲第2号証に記載された事項」という。)。
ここで、甲第2号証に記載された事項における、セレクトレバー1の「把持する部分」は、操作部材ということができ、また、甲第2号証に記載された事項における、「第1のロック輪郭部11」は、本件発明1の「押し部材」に相当する。
また、甲第2号証に記載された事項においては、セレクトレバー1のロック突起12を介して、セレクトレバー1を運動(すなわち揺動)させるものであるから、当該セレクトレバー1のロック突起12は、押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分ということができる。
しかし、操作部材に関して、本件発明1の「ノブ」は、「回転操作される」ものであるのに対して、甲第2号証に記載された事項のセレクトレバー1の「把持する部分」は、揺動されるものである点で、両者は異なる。
更に、押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分に関して、本件発明1では、「回転操作される」「ノブの一部」であるのに対して、甲第2号証に記載された事項では、揺動されるセレクトレバー1のロック突起12である点でも、両者は異なる。
したがって、甲第2号証に記載された事項は、操作部材は「回転操作される」「ノブ」であること、及び、押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分を「ノブの一部」とすることについて、示唆するものではない。
イ 甲第3号証について
甲第3号証には、運転者がイグニッションスイッチ19をACC位置或はオン位置に放置したままの状態でシフトレバー1をパーキングポジション「P」へ揺動操作させることなく降車した場合には、エンジンが駆動停止され、作動レバー10が歯車式減速装置11を介して前方へ揺動開始され、作動レバー10は、押圧片12を介して押圧しながら、シフトレバー1をパーキングポジション「P」位置まで揺動することが記載されており(「第4 3(2)」を参照。)、また、甲第3号証の第1図を参照すると、シフトレバー1及びその把持部1bは、パーキングポジション「P」と、リバースポジション「R」、ニュートラルボジション「N」、ドライブポジション「D」、セカンドポジション「2」及びローポジション「L」の間で揺動可能となっていることが看取される(以下、「甲第3号証に記載された事項」という。)。
ここで、甲第3号証に記載された事項における、シフトレバー1の把持部1bは、操作部材ということができ、また、甲第3号証に記載された事項における、「押圧片12」は、本件発明1の「押し部材」に相当する。
また、甲第3号証に記載された事項では、作動レバー10は、押圧片12を介して押圧しながら、シフトレバー1をパーキングポジション「P」位置まで揺動するものであるから、揺動されるシフトレバー1は、押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分ということができる。
しかし、操作部材に関して、本件発明1の「ノブ」は、「回転操作される」ものであるのに対して、甲第3号証に記載された事項のシフトレバー1の把持部1bは、揺動されるものである点で、両者は異なる。
更に、押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分に関して、本件発明1では、「回転操作される」「ノブの一部」であるのに対して、甲第3号証に記載された事項では、揺動されるシフトレバー1である点でも、両者は異なる。
したがって、甲第3号証に記載された事項は、操作部材は「回転操作される」「ノブ」であること、及び、押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分を「ノブの一部」とすることについて、示唆するものではない。
ウ 甲第4号証について
甲第4号証には、運転者が把持しつつ回転操作することにより自動変速機を任意操作可能とするダイヤル式操作ノブで、パーキング位置(P位置)にあるシフト操作手段1を軸方向に押圧操作してパーキング準備状態とし、その押圧状態を維持しつつ任意変速位置側(R位置側)に回転操作して押圧力を緩めれば、軸部材6が付勢力によって上昇し、任意変速位置(R位置)となること(「第4 4(1)」を参照。)、及び、シフト操作手段1が任意変速位置(R位置)にあるとき、ストッパ部材4は、その先端が軸部材6の凸部6cの突端面に当接した状態とされており、シフト操作手段1の押圧操作又は回転操作が許容されており、押圧操作しつつ回転操作してパーキング準備状態とすると、ソレノイド3の作動軸を突出方向に付勢する付勢手段により、凸部6cの側面に当該ストッパ部材4の先端部4aが係合し、これにより、パーキング準備状態のシフト操作手段1に対し、任意変速位置(R位置)に向かう移動を規制し得るようになっており、操作力を緩めると、当該シフト操作手段1は、付勢力によって上昇してパーキング位置に至ること(「第4 4(2)」を参照。)が記載されている(以下、「甲第4号証に記載された事項」という。)。
ここで、甲第4号証に記載された事項の「シフト操作手段1」は、運転者が把持しつつ回転操作するダイヤル式操作ノブであるから、操作部材ということができ、本件発明1の「回転操作される」「ノブ」に相当する。
しかし、甲第4号証に記載された事項のストッパ部材4の先端部4aは、軸部材6の凸部6cの側面に係合することにより、任意変速位置(R位置)に向かう移動を規制し得るようになっているにすぎず、ストッパ部材4の移動を、シフト操作手段1のパーキング位置へ向けた回転に変換するものではない。
したがって、甲第4号証に記載された事項は、押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分を「ノブの一部」とすることについて、示唆するものではない。
エ 小括
以上のことから、甲第2~4号証に記載された事項は、押し部材の移動を操作部材の特定のシフト位置へ向けた回転に変換する部分を「ノブの一部」とすることについて、示唆するものではない。
そうすると、たとえ甲1発明に甲第2~4号証に記載された事項を適用したとしても、上記相違点1に係る本件発明1の構成に至るものではない。
したがって、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点2について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び甲第2~4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
2 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明、及び甲第2~4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700018