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特許拒絶査定不服審判

2018-013292

性ステロイド前駆体と選択的エストロゲン受容体モジュレーターとの組み合わせによるホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失及び痴呆症の治療

審判番号
2018-013292
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2015-223062外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年10月04日
審決日
2021年01月05日
公報発行日
2021年07月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2015-223062「性ステロイド前駆体と選択的エストロゲン受容体モジュレーターとの組み合わせによるホットフラッシュ、血管運動症状、寝汗、アルツハイマー病、認知機能の喪失、記憶喪失及び痴呆症の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月 3日出願公開、特開2016- 29101〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、2010年6月16日(パリ条約による優先権主張 2009年6月16日 (US)アメリカ合衆国、2010年6月1日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2012-515300号の一部を、2014年(平成26年)2月13日に新たな出願とした特願2014-025183号の一部を、2015年(平成27年)11月13日に新たな出願としたものであって、平成30年5月25日付けで拒絶査定がされた。その後の手続の概要は、以下のとおりである。 平成30年10月 4日提出:審判請求書及び手続補正書 平成30年12月 6日付け:前置報告書 平成30年12月19日提出:上申書 平成31年 3月 8日提出:上申書 令和 2年 3月17日付け:拒絶理由通知(当審合議体) 令和 2年 9月18日提出:手続補正書及び意見書 第2 本願発明 本願の請求項1~15に係る発明は、令和2年9月18日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、 b)デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール、及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される、少なくとも1種の性ステロイド前駆体と、 c)ラロキシフェン、LY 335124、LY 326315、アルゾキシフェン(LY 353381)、ピペンドキシフェン(ERA 923)、バゼドキシフェン(TSE 424、WAY 140424)、EM-652、EM-800、EM-652-HCl(アコルビフェン、EM-1538)及びLY 335 563からなる群から選択される、少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーターと から成る、寝汗を予防、低減又は排除しながら、閉経後女性において通常存在する乳癌、子宮癌及び子宮内膜癌のリスクを低減し、骨量減少、骨粗鬆症、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満及びアテローム性動脈硬化症を予防するための医薬組成物であって、 寝汗を予防、低減又は排除しながら、閉経後女性において通常存在する乳癌、子宮癌及び子宮内膜癌のリスクを低減し、骨量減少、骨粗鬆症、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満及びアテローム性動脈硬化症を予防するための前記組成物の使用を指示するパッケージングの形態で提供され、エストロゲンを含まない、医薬組成物。」 第3 拒絶の理由 令和2年3月17日付けで当審が通知した拒絶理由は、概略、次のとおりである。 この出願の請求項1~15に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記の引用文献15に記載された発明、並びに引用文献15、3、16~18の記載に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献> 引用文献15:国際公開第2009/021323号 引用文献3:NATURE CLINICAL PRACTICE ENDOCRINOLOGY & METABOLISM, 2007, Vol.3 No.8, p.584-593 引用文献16:特表2003-520817号公報 引用文献17:日本女性心身医学会雑誌 Journal of JSPOG, 2000, Vol.5 No.1, p.38-46 引用文献18:日本老年医学会雑誌,2003,40巻4号,p.339-340 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献15及び引用文献15に記載された発明(引用発明) (1)引用文献15(国際公開第2009/021323号)の記載 引用文献15には、以下の記載がある。引用文献15は外国語で記載された文献であるので、当審合議体による日本語訳で記載した。また、下線は当審合議体が付した。 (摘記15a) 「【請求項23】 閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患を処置する方法及び/又はその症状もしくは疾患を獲得する可能性を低下させる方法であって、前記方法は、前記処置の必要のある患者に、デヒドロエピアンドロステロン、デヒドロエピアンドロステロン-スルフェート、アンドロスト-5-エン-3β,17β-ジオール及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される性ステロイド前駆体を投与する工程を包含し、ここで、前記性ステロイド前駆体は、循環アンドロゲン代謝産物のレベルを上昇させる治療量で投与され、そして、閉経後の女性に通常存在する乳癌及び子宮癌のリスクを低下させるため、並びに骨減少、脂肪蓄積及び2型糖尿病を予防するために、併用療法の一部として、治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレータを投与する工程をさらに包含する、方法。 」(【請求項23】) (摘記15b) 「【請求項24】 選択的エストロゲン受容体モジュレータが、以下の化学構造 を有する、請求項21及び22に記載の方法。」(【請求項24】) (摘記15c) 「【請求項25】 閉経に起因する症状又は疾患が、骨粗鬆症、膣萎縮、陰門膣の乾燥、性腺機能低下症、性欲減退、皮膚萎縮、結合組織疾患、尿失禁、乳癌、子宮内膜癌、卵巣癌及び子宮癌、ホットフラッシュ、筋肉量の減少、インスリン抵抗性、疲労、エネルギーの損失、加齢、並びに閉経の身体的な症状及び徴候からなる疾患の群から選択される、請求項1及び23に記載の方法。 」(【請求項25】) (2)引用文献15に記載された発明 引用文献15の請求項23を引用する請求項25に係る発明(摘記15a及び15c)を実施する際に、当該発明で投与される有効成分である「性ステロイド前駆体」及び「選択的エストロゲン受容体モジュレータ」を組み合わせた医薬組成物を使用することは自明であるので、引用文献15には、 「閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患を処置する方法及び/又はその症状もしくは疾患を獲得する可能性を低下させるための、性ステロイド前駆体及び選択的エストロゲン受容体モジュレータを組み合わせた医薬組成物であって、 前記性ステロイド前駆体は、デヒドロエピアンドロステロン、デヒドロエピアンドロステロン-スルフェート、アンドロスト-5-エン-3β,17β-ジオール及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択され、 前記閉経に起因する症状又は疾患は、骨粗鬆症、膣萎縮、陰門膣の乾燥、性腺機能低下症、性欲減退、皮膚萎縮、結合組織疾患、尿失禁、乳癌、子宮内膜癌、卵巣癌及び子宮癌、ホットフラッシュ、筋肉量の減少、インスリン抵抗性、疲労、エネルギーの損失、加齢、並びに閉経の身体的な症状及び徴候からなる疾患の群から選択され、 前記処置の必要のある患者に、前記性ステロイド前駆体を循環アンドロゲン代謝産物のレベルを上昇させる治療量で投与し、そして、閉経後の女性に通常存在する乳癌及び子宮癌のリスクを低下させるため、並びに骨減少、脂肪蓄積及び2型糖尿病を予防するために、治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレータを投与する、医薬組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 2 引用文献3(NATURE CLINICAL PRACTICE ENDOCRINOLOGY & METABOLISM, 2007, Vol.3 No.8, p.584-593)の記載 引用文献3には、以下の記載がある。引用文献3は外国語で記載された文献であるので、当審合議体による日本語訳で記載した。ただし、図面及び表については一部のみ日本語訳を記載した。また、下線は当審合議体が付した。 (摘記3a) 「従来のホルモン補充療法の使用に関する懸念を回避するために、性ステロイド形成の組織標的前駆体であるデヒドロエピアンドロステロンは、SERMと組み合わせて乳がんと子宮がんを同時に予防する生理学的組織標的ホルモン補充の希望を提供します。」(p.584の「SUMMARY」の16~21行) (摘記3b) 「女性は現在、成人の生涯の半分を閉経後に過ごしているため、女性の健康イニシアチブ(WHI)5及びMillion Women6の研究に見られる乳がん発生のリスクの増加を欠く、従来のホルモン補充療法(HRT)の安全な代替手段が必要です。閉経期の循環エストラジオールの急速な低下は、閉経期の症状7及び骨吸収4,5に対する外因性エストロゲンの実証された有益な効果と相まって、アンドロゲンの潜在的な役割を考慮せずに、HRTの取組のほとんどにおいて、エストロゲン及びエストロゲンとプロゲスチンとの組合せ(すなわち従来のHRT)に焦点を当てています。 ・・・閉経に関しては、おそらくこれらのホルモンを必要とする組織を標的としたエストロゲンとアンドロゲンを提供するという目的を実現するための最良の希望は、適切なレベルで、非常に特異的なSERMと、一部の組織でのみアンドロゲン及び/又はエストロゲンに変換される化合物であるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)とを組み合わせることです。 このようなターゲティングは、他の組織の性ステロイドへの曝露を回避し、WHI5及びMillion Women6の研究で見られる悪影響を回避します。SERMとDHEAの組み合わせは、乳がんと子宮がんのリスクを低下させると同時に、骨、脂肪組織、ブドウ糖とインスリンの代謝、コレステロール値、筋肉、膣、皮膚に複合的な利益をもたらす可能性があります。」(p.584右欄16行~p.585左欄7行) (摘記3c) 「 」(p.587の「図2 骨粗鬆症又は乳がんにおいて現在使用中又は開発中の選択的エストロゲン受容体モジュレーターの構造。チェーン内の炭素の数は、「n = 1」又は「n = 2」で示されます。」) (摘記3d) 「従来のHRTを使用したWHI研究5で示された問題を回避するには、組織特異的抗エストロゲン又はエストロゲン(組織に応じて)化合物(SERM)を、閉経周辺期及び閉経後における組織標的アンドロゲン及びエストロゲン補充療法と組み合わせて使用することが論理的と思われます。この戦略は、各組織の各細胞でアンドロゲンとエストロゲンの生理学的バランスを維持し、同時に乳がんと子宮がんを予防するための最良の方法、又はおそらく唯一の方法である可能性があります。 このような目的は、SERMとDHEAを組み合わせることで実現可能に達成できます27,32。」 (p.590右欄34~46行) (摘記3e) 「 」(p.591の「表1 SERM又はDHEAのみ、及びそれらの組み合わせの観察又は予想される効果」、「略語:DHEA,デヒドロエピアンドロステロン; SERM,選択的エストロゲン受容体モジュレーター」)。 (摘記3f) 「SERMとDHEAの組み合わせで達成された組織標的ホルモン補充療法(図5)は、DHEAのアンドロゲン作用を通じて、ほてりの制御にも役立つ可能性があり、さらに乳がん、子宮がん、卵巣がん、骨と筋肉の喪失を防ぎ、脂肪の蓄積、2型糖尿病、血清コレステロールを減らします(表1)。目的は、WHIとMillion Womenの研究で見つかった他の組織と関連する副作用の暴露を避けながら、組織標的HRT-アコルビフェン又はDHEAと組み合わせた同等の特性を持つ別のSERMを使用-を開発して、これらのホルモンを必要とする組織に組織標的生理学的ホルモン補充を提供できる生理学的レベルのステロイド形成酵素を有する組織でのみ性ステロイド補充療法を提供することです。」 (p.592左欄12~30行) 3 引用文献16(特表2003-520817号公報)に記載された事項 引用文献16には、以下の記載がある。なお、下線は当審合議体が付した。 (摘記16a) 「【請求項9】骨粗鬆症、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧、アルツハイマー病、インシュリン抵抗性、糖尿病、筋肉量の損失、肥満、ホルモン補充療法によって起こる膣出血、およびホルモン補充療法によって起こる乳房痛から成る群より選択された症状を治療するか、または該症状に罹る危険性を低下する方法であって、治療上有効量のエストロゲンまたはそのプロドラッグを前記除去または低下を必要とする患者に投与すると共に、治療上有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレータまたはそのプロドラッグを該患者に投与する工程から成り、前記モジュレータは前記エストロゲンとは異なる化合物であり、 前記方法はさらに、 併用療法の一部として、デヒドロエピアンドロステロン、デヒドロエピアンドロステロン硫酸、アンドロスト-5-エン-3β,17β-ジオール、アンドロゲン薬、テストステロン、4-アンドロステン-3,17-ジオン、および前記追加薬剤の任意のプロドラッグから成る群より選択された治療上有効量の少なくとも1つの追加薬剤を投与する工程を含む方法。」(【請求項9】) (摘記16b) 「我々が試験すると共にSERMとして機能することを見出した非ステロイド性抗エストロゲンには、EM-800、EM-652.HCl、ラロキシフェン、タモキシフェン、4-ヒドロキシ-タモキシフェン、トレミフェン、4-ヒドロキシ-トレミフェン、ドロロキシフェン、LY 353 381、LY 335 563、GW-5638、ラソフォキシフェン、TSE 424およびイドキシフェンが含まれるが、これらの化合物に限定されるわけではない。」(【0035】の第4文) (摘記16c) 「他方で、本発明のSERM(より詳細には、EM-652.HClファミリーのもの)は、実施例9に示されるように脳関門を通過することができない。・・・。 【0050】 エストロゲンおよびSERMの併用の全体的な付加的利益 女性が閉経期に医師に相談する主な理由は、のぼせの発生であり、これはエストロゲン補充療法によって解消されることがよく知られている問題である。のぼせの原因となる部位は中枢神経系(CNS)であり、EM-652はCNSにほとんど入ることができないので(データ同封せず)、エストロゲン投与はSERMによる介入なしで、のぼせを防止すると予想される。他方で、SERMは、他の部位でのエストロゲンの負の効果(特に、乳癌および子宮癌の危険性)を全て解消する。実際に、EM-652をエストロゲンに添加すると乳腺および子宮に対するエストロゲンの刺激効果がブロックされるのに対して、他の組織においてEM-652はその有益な効果を発揮する(例えば、骨では、骨塩密度に対する卵巣摘出の影響を部分的に逆転する)。」(【0049】の第4文~【0050】) (摘記16d) 「【0102】 本発明の1つの好ましいSERMとして、・・・ラロキシフェン([2-(4-ヒドロキシフェニル)-6-ヒドロキシベンゾ[b]チエン-3-イル][4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]-メタノン塩酸塩)(Eli Lilly and Co.,米国)、LY335563(6-ヒドロキシ-3-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェノキシル]-2-(4-ヒドロキシフェニル)ベンゾ[b]チオペン塩酸塩)およびLY353381(アルゾキシフェン(Arzoxifene),6-ヒドロキシ-3-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェノキシル]-2-(4-メトキシフェニル)ベンゾ[b]チオフェン塩酸塩)(Eli Lilly and Co.,USA)、・・・Wyeth Ayers(米国)によって開発され、JP10036347(American home products corporation)に開示されているTSE424、・・・LY335124およびLY326315(Eli Lilly (米国)から入手可能)もまた含まれる。」(【0102】) (摘記16e) 「【0193】 (実施例9) 14C-EM-800(20mg/kg)の一回の経口用量後の、雌ラットの脳における放射能 実施例9は、14C-EM-800(20mg/kg)の一回の経口用量の後の、ラットの脳における放射能を示す。比較の目的で、これらの動物の各々からの全血、血漿、肝臓、および子宮に対する値を含めた。これらの結果は、LREM試験1129番からの、雄・雌のLong-Evansラットへの14C-EM-800(20mg/2ml/kg)の1回の経口用量の後の、放射能の生体内分布および排泄である。これらの数字は、雌Long-Evansラットの脳における薬物由来の総放射能の量が非常に低く(ng当量/g組織)、投与12時間後には検出されないことを示した。2時間目では、脳の放射能は肝臓の放射能より412低く、子宮の放射能より21倍低く、全血の放射能より8.4倍低く、血漿より13倍低かった。」(【0193】の第1文~第4文) 4 引用文献17(日本女性心身医学会雑誌 Journal of JSPOG, 2000, Vol.5 No.1, p.38-46)に記載された事項 引用文献17には以下の事項が記載されている。 (摘記17a) 「更年期女性の精神・心理症状の特徴-45歳から65歳までの長野・大阪女性の健康実態調査から-」(文献タイトル) (摘記17b) 「本研究では,更年期女性が体験する症状を図1ような概念枠組みで構成し,更年期女性が体験する精神症状と特徴を明らかにすること,さらには精神的症状が主にどのような因子によって影響を受けているかを明らかにすることを目的とした。」 (p.39左欄15~20行) (摘記17c) 「 ・・・ ・・・ 」(p.40の表1) 5 引用文献18(日本老年医学会雑誌,2003,40巻4号,p.339-340)には以下の事項が記載されている。 (摘記18a) 「3)副腎アンドロゲンdehydroepiandrosterone(DHEA)の抗老化作用」(文献タイトル) (摘記18b) 「 」(p.40右欄の図2) 第5 対比 本願発明と引用発明を対比する。 1 上記「第1」で説示した本願発明は、以下のとおりである。 「a)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、 b)デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール、および4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される、少なくとも1種の性ステロイド前駆体と、 c)ラロキシフェン、LY 335124、LY 326315、アルゾキシフェン(LY 353381)、ピペンドキシフェン(ERA 923)、バゼドキシフェン(TSE 424、WAY 140424)、EM-652、EM-800、EM-652-HCl(アコルビフェン、EM-1538)およびLY 335 563からなる群から選択される、少なくとも1種の選択的エストロゲン受容体モジュレーターと から成る、寝汗を予防、低減又は排除しながら、閉経後女性において通常存在する乳癌、子宮癌および子宮内膜癌のリスクを低減し、骨量減少、骨粗鬆症、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満およびアテローム性動脈硬化症を予防するための医薬組成物であって、 寝汗を予防、低減又は排除しながら、閉経後女性において通常存在する乳癌、子宮癌および子宮内膜癌のリスクを低減し、骨量減少、骨粗鬆症、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満およびアテローム性動脈硬化症を予防するための前記組成物の使用を指示するパッケージングの形態で提供され、エストロゲンを含まない、医薬組成物。」 2 また、上記「第4 1(2)」で説示した引用発明は、以下のとおりである。 「閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患を処置する方法及び/又はその症状もしくは疾患を獲得する可能性を低下させるための、性ステロイド前駆体及び選択的エストロゲン受容体モジュレータを組み合わせた医薬組成物であって、 前記性ステロイド前駆体は、デヒドロエピアンドロステロン、デヒドロエピアンドロステロン-スルフェート、アンドロスト-5-エン-3β,17β-ジオール及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択され、 前記閉経に起因する症状又は疾患は、骨粗鬆症、膣萎縮、陰門膣の乾燥、性腺機能低下症、性欲減退、皮膚萎縮、結合組織疾患、尿失禁、乳癌、子宮内膜癌、卵巣癌及び子宮癌、ホットフラッシュ、筋肉量の減少、インスリン抵抗性、疲労、エネルギーの損失、加齢、並びに閉経の身体的な症状及び徴候からなる疾患の群から選択され、 前記処置の必要のある患者に、前記性ステロイド前駆体を循環アンドロゲン代謝産物のレベルを上昇させる治療量で投与し、そして、閉経後の女性に通常存在する乳癌及び子宮癌のリスクを低下させるため、並びに骨減少、脂肪蓄積及び2型糖尿病を予防するために、治療有効量の選択的エストロゲン受容体モジュレータを投与する、医薬組成物。」 3 引用発明における「デヒドロエピアンドロステロン、デヒドロエピアンドロステロン-スルフェート、アンドロスト-5-エン-3β,17β-ジオール及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択され」る「性ステロイド前駆体」は、本願発明の「b)デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール、及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される、少なくとも1種の性ステロイド前駆体」に相当する。 引用発明における「骨粗鬆症、膣萎縮、陰門膣の乾燥、性腺機能低下症、性欲減退、皮膚萎縮、結合組織疾患、尿失禁、乳癌、子宮内膜癌、卵巣癌及び子宮癌、ホットフラッシュ、筋肉量の減少、インスリン抵抗性、疲労、エネルギーの損失、加齢、並びに閉経の身体的な症状及び徴候からなる疾患の群から選択され」る「閉経に起因する症状又は疾患」を「処置する方法及び/又はその症状もしくは疾患を獲得する可能性を低下させるため」という用途は、乳癌、子宮内膜癌、子宮癌、骨粗鬆症及びインスリン抵抗性を獲得する可能性を低下させるためという用途を含むので、本願発明における、閉経後女性において通常存在する乳癌、子宮癌及び子宮内膜癌のリスクを低減し、骨粗鬆症及びインスリン抵抗性を予防するため、という用途に相当する。 引用発明における「閉経後の女性に通常存在する乳癌及び子宮癌のリスクを低下させるため、並びに骨減少、脂肪蓄積及び2型糖尿病を予防するため」という用途は、本願発明における、閉経後の女性に通常存在する乳癌及び子宮癌のリスクを低減し、骨量減少及び糖尿病を予防するため、という用途に相当する。 そして、引用文献15の請求項23及び25の記載からみて、引用発明は、エストロゲンを含まない医薬組成物であるといえる。 4 上記1~3から、本願発明と引用発明とは、 「デヒドロエピアンドロステロン、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、アンドロスタ-5-エン-3β,17β-ジオール、及び4-アンドロステン-3,17-ジオンからなる群から選択される、少なくとも1種の性ステロイド前駆体と、 選択的エストロゲン受容体モジュレーターとを含む、閉経後女性において通常存在する乳癌、子宮癌及び子宮内膜癌のリスクを低減し、骨量減少、骨粗鬆症、インスリン抵抗性及び糖尿病を予防するための、エストロゲンを含まない医薬組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1)本願発明は、さらに、寝汗を予防、低減又は排除しながら、高血圧症、肥満及びアテローム性動脈硬化症を予防するものであることが特定されているのに対し、引用発明は上記特定がされていない点。 (相違点2)本願発明では、「選択的エストロゲン受容体モジュレーター」がラロキシフェン、LY 335124、LY 326315、アルゾキシフェン(LY 353381)、ピペンドキシフェン(ERA 923)、バゼドキシフェン(TSE 424、WAY 140424)、EM-652、EM-800、EM-652-HCl(アコルビフェン、EM-1538)及びLY 335 563からなる群から選択される、少なくとも1種であることが特定されているのに対し、引用発明は上記特定がされていない点。 (相違点3)本願発明では、医薬組成物が「薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体」を含み、「寝汗を予防、低減又は排除しながら、閉経後女性において通常存在する乳癌、子宮癌及び子宮内膜癌のリスクを低減し、骨量減少、骨粗鬆症、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満及びアテローム性動脈硬化症を予防するための前記組成物の使用を指示するパッケージングの形態で提供され」ることが特定されているのに対し、引用発明は上記特定がされていない点。 第6 判断 上記「第5 4」で説示した相違点1~3について、判断する。 1 相違点1について 引用発明における用途は、「閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患を処置する方法及び/又はその症状もしくは疾患を獲得する可能性を低下させるための」という用途を含むので、当業者は、引用発明の医薬組成物を投与することによって、上記「閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患」に相当する各種の症状又は疾患を獲得する可能性が低下することを、当然に期待するといえる。 そして、引用文献17には、上記「閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患」に相当する血管運動系不快症状のカテゴリーに「急に汗が出る、ほてりがある、寝汗をかく」が記載されており(摘記17c)、ほてり(すなわち引用発明における「ホットフラッシュ」)が上記「閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患」に含まれていることを考慮すると、引用発明の上記「閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患」として、ホットフラッシュ(すなわち摘記17cの「ほてり」)と同様に血管運動系不快症状のカテゴリーに含まれる「寝汗」を対象として、引用発明の医薬組成物をさらに「寝汗を予防、低減又は排除」するために用いることを、当業者は自然に想起し得たといえる。 また、引用文献3の記載から、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)と選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)とを組み合わせた療法は、エストロゲン及びエストロゲンとプロゲスチンの組合せである従来のホルモン補充療法(HRT)の安全な代替手段であり、HRTによる悪影響を回避しつつ、乳がんと子宮がんのリスクを低下させると同時に、骨、脂肪組織、ブドウ糖とインスリンの代謝、コレステロール値、筋肉、膣、皮膚に複合的な利益をもたらす可能性があることは本願優先日当時の周知事項である(摘記3a~3f)。 そして、引用文献16には、上記HRTと同様にエストロゲン投与を含む療法が「骨粗鬆症、・・・アテローム性動脈硬化症、高血圧、・・・糖尿病、・・・肥満、・・・・から成る群より選択された症状を治療するか、又は該症状に罹る危険性を低下するため」に用いられることが記載されており(摘記16a)、さらに、引用文献18には、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)自体が抗糖尿病、インスリン抵抗性改善作用、抗肥満作用及び抗動脈硬化作用を有することが記載されているので(摘記18b)、当業者は、エストロゲン投与を含む従来のホルモン補充療法(HRT)の安全な代替手段であるDHEAとSERMとを組み合わせた医薬組成物を上記「骨粗鬆症、・・・アテローム性動脈硬化症、高血圧、・・・糖尿病、・・・肥満、・・・・から成る群より選択された症状を治療するか、又は該症状に罹る危険性を低下するため」に用いることを、当然に試みるといえる。 そうすると、当業者は、引用発明、並びに引用文献3、16~18の記載から、引用発明の医薬組成物を、さらに「寝汗を予防、低減又は排除しながら」上記「骨粗鬆症、・・・アテローム性動脈硬化症、高血圧、・・・糖尿病、・・・肥満、・・・・から成る群より選択された症状を治療するか、又は該症状に罹る危険性を低下するため」に用いることを、容易に想到し得たといえる。 2 相違点2について 引用文献3には、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)と組み合わせて用いる選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)として、ラロキシフェン(Raloxifene)、アルソキシフェン(Arzoxifene)、ピペンドキシフェン(Pipendoxifene)、バゼドキシフェン(Bazedoxifene)及びアコルビフェン(Acolbifene)等が公知であることが記載されている(摘記3a~c)。 また、引用文献15には、アコルビフェン(EM-652.HCl;EM-1538)が選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)として公知であることが記載されており(摘記15b)、引用文献16には、EM-800、EM-652.HCl、ラロキシフェン、LY 353 381、LY 335 563、TSE 424等(摘記16b)、EM-652(摘記16c)、ラロキシフェン、LY335563、LY353381(アルゾキシフェン(Arzoxifene)、TSE424、LY335124およびLY326315等(摘記16d)が選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)として公知であることが記載されている。 そうすると、引用発明における選択的エストロゲン受容体モジュレータとして、引用文献3、15及び16に記載されている公知の化合物を、適宜選択して用いることに、当業者が格別の創意工夫を要したとは認められない。 3 相違点3について 医薬組成物を調製する際に「薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体」を用いることは自明である。また、医薬組成物を提供する際に、当該医薬組成物の使用を指示するパッケージングの形態で提供することは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。 4 以上1~3のとおり、引用発明を上記相違点1~3の発明特定事項を備えたものとすることは、引用発明、及び引用文献15、3、16~18の記載から、当業者が容易に想到し得たといえる。 5 本願発明の効果について 本願明細書における実施例に記載された事項について、検討する。 (1)実施例1(【0130】~【0148】、【図3】、【図4】及びTable 3)には、卵巣切除ヌードマウスにおいてヒト乳癌細胞株ZR-75-1によって形成される腫瘍異種移植片の成長に対して、性ステロイド前駆体であるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)単独、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)であるEM-800単独、DHEAとEM-800(SERM)との併用のいずれにおいてもエストロン(E1)刺激ZR-75-1腫瘍サイズの減少が確認されたことが記載されているが、当該結果は、DHEA及びEM-800(SERM)が乳癌を悪化させない作用を確認したものであり、引用文献15、3及び16の記載から当業者が予測し得たものにすぎない。 (2)実施例4(【0165】~【0178】、Table 5~8)には、卵巣除去雌ラットにおける骨量減少、血清脂質及び全身脂肪に対する予防効果について、DHEAとEM-652.HCl(SERM)との併用により、骨量減少予防効果(Table 5)及び総体脂肪率減少効果、血清脂質減少孤効果、及び血清アルカリホスファターゼ活性(ALP:骨形成及び骨代謝回転のマーカー)上昇効果(Table 7)が確認されたことが記載されているが、これらの効果はいずれも引用文献15、3、16及び18の記載から当業者が予測し得たものにすぎない。 (3)実施例5(【0179】~【0185】、Table 9)には、卵巣除去雌ラットにおいて、DHEAとEM-652.HCl(SERM)との併用、DHEAとTSE-424(SERM)との併用、DHEAとERA-923(SERM)との併用のいずれの場合でも骨量減少の予防効果(Table 9)が確認されたことが記載されているが、これらの効果はいずれも引用文献15、3、16及び18の記載から当業者が予測し得たものにすぎない。 (4)実施例9(【0212】~【0214】、Table 13 、Table 14)には、ラットに経口投与した後のEM-800(SERM)が脳内に移行する量が少ないことを示す実験結果が記載されている。 しかし、当該結果は、引用文献16の実施例9(摘記16e)で示された、ラットにEM-800(SERM)を経口投与した場合にEM-800(SERM)が脳内に移行する量が肝臓、子宮、全血及び血漿に移行する量よりも大幅に低かったという実験結果と同等の結果であり、当業者が予測しえない格別顕著な効果であるとはいえない。 なお、引用文献16には、EM-652(SERM)が中枢神経系(CNS)にほとんど入ることができないことも記載されている(摘記16c)。 (5)実施例10(【0215】~【0237】、Table 15~21)でDHEAを単独投与した臨床試験ERC-205では、閉経後女性の血管運動症状(ホットフラッシュ)に対するDHEAの効果が評価され、上記臨床試験では、中等度から重度のホットフラッシュ又は全ホットフラッシュの総数の有意な減少、及びホットフラッシュ週別重み付重症度スコアの有意な減少によって評価されるように、血管運動症状軽減のための50mgのDHEA治療の効力が明らかになったという結果が確認されている(【0230】)。 ここで、上記臨床試験におけるホットフラッシュの応答評価項目には「3 重度=活動停止を必要とする、発汗を伴う熱感。これは、寝汗を含む。」という項目が含まれているので(【0220】)、重度のホットフラッシュ患者の中には「寝汗」を有する患者が含まれていたといえる。しかし、上記臨床試験は、閉経後女性の血管運動症状(ホットフラッシュ)に対するDHEAの効果を評価したものであり、「寝汗」に対するDHEAの効果を評価したものではない。また、上記臨床試験では、重度のホットフラッシュ患者のうち「寝汗」を有する患者がどの程度の割合で含まれていたのかは示されていないので、上記DHEA治療により「寝汗」の症状に対してどの程度の効果が奏されたのかは不明である。 そして、引用文献3に記載のように、DHEAがホットフラッシュに対して有益な作用を有することは本願優先日当時に既に知られていたのであるから(摘記3eの「Table 1」の3行目「Hot flashes」で「Effect of DHEA」は「Beneficial55」と記載されている。)、上記臨床試験で得られた、ホットフラッシュに対するDHEA治療の効果は既に知られていた効果を確認したものにすぎず、格別顕著な効果であるとはいえない。 (6)そして、本願明細書には、本願発明の性ステロイド前駆体と選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)とを組み合わせた医薬組成物を、「寝汗を予防、低減又は排除しながら、閉経後女性において通常存在する乳癌、子宮癌及び子宮内膜癌のリスクを低減し、骨量減少、骨粗鬆症、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満及びアテローム性動脈硬化症を予防するため」という用途に有効に適用できることを実際に確認した臨床試験等は記載されていない。 以上のように、上記(1)~(5)の実施例、及びその他の実施例で示された結果は、いずれも引用発明、及び引用文献15、3、16~18の記載から当業者が予測し得た程度のものにすぎず、本願発明により、引用発明、及び引用文献15、3、16~18の記載から当業者が予測し得ない、格別顕著な効果が得られたとはいえない。 6 請求人の主張について 請求人は、令和2年9月18日付け意見書において、以下の(1)~(4)の主張をしているが、以下に説示するとおり、これらの主張を検討しても、上記1~5で説示した進歩性の判断は否定されない。なお、「参考資料」は、上記意見書と同日に提出された参考資料を意味する。 (1)当審合議体は、引用文献16に記載されているエストロゲンを性ステロイド前駆体と考えて、それ故、引用文献16は、SERM/性ステロイド前駆体の組み合わせを記載していると誤って結論付けている。エストロゲンが存在しない本願発明とは対照的に、引用文献16に記載された発明はエストロゲンが必須の要素であり、結論として、引用文献16に記載された前臨床データは、骨粗しょう症や肥満などの更年期症状の治療のためのSERM+エストロゲン+性ステロイド前駆体の組み合わせにおいて、エストロゲンが必須の成分であることを示している。 そこで、上記主張について検討する。 当審合議体が、上記「1」で「引用文献16には、上記HRTと同様にエストロゲン投与を含む療法が「骨粗鬆症、・・・アテローム性動脈硬化症、高血圧、・・・糖尿病、・・・肥満、・・・・から成る群より選択された症状を治療するか、又は該症状に罹る危険性を低下するため」に用いられることが記載されており(摘記16a)」と説示したように、当審合議体は、引用文献16に記載されている発明においてエストロゲンが必須であることを認識した上で判断している。 そして、引用発明、及び引用文献3、16~18の記載から、本願発明と同様にエストロゲンを含まない医薬組成物である引用発明を、さらに「寝汗を予防、低減又は排除しながら」「骨粗鬆症、・・・アテローム性動脈硬化症、高血圧、・・・糖尿病、・・・肥満、・・・・から成る群より選択された症状を治療するか、又は該症状に罹る危険性を低下するため」に用いることを、当業者が容易に想到し得たといえることは、上記「1」で説示したとおりである。 (2)引用文献15の請求項23は、性ステロイド前駆体がアンドロゲン代謝産物の循環レベルを増加させる治療量で投与されるように限定されているが、本願発明はこの限定を含むものではない。寝汗の治療におけるDHEAの効果的な投与量は、アンドロゲン代謝物の循環レベルを増加させるのに観察することができる投与量よりずっと低い可能性がある。 そこで、上記主張について検討する。 本願発明では、性ステロイド前駆体の治療量は特定されておらず、アンドロゲン代謝産物の循環レベルを増加させる治療量は除外されていないのであるから、性ステロイド前駆体の治療量は引用発明との相違点ではない。 また、請求人は、寝汗の治療におけるDHEAの効果的な投与量はアンドロゲン代謝物の循環レベルを増加させるのに観察することができる投与量よりずっと低い可能性がある旨を主張しているが、本願明細書にはこのような記載はなく、請求人は当該主張の根拠となる証拠を提示しておらず、このような本願優先日当時の技術常識があるともいえない。 (3)本願の審査の過程で繰り返し申し述べてきたように、ホットフラッシュと寝汗が区別可能な血管運動症状である(参考資料1~6)。 また、参考資料7には、SERMはホットフラッシュの原因となることが知られていることが記載され、参考資料8では、SERMは、そして恐らく寝汗の原因となる可能性が示唆されている。その結果、性ステロイド前駆体のホットフラッシュに対するプラス効果(本願明細書の実施例10のDHEAを投与した臨床試験、プラセボ群による最初の証明)をSERMで相殺しない唯一の方法(乳がん、子宮がん、子宮内膜がんのリスクを軽減、出願当初の請求項25)は、SERMが有意なレベルで脳に到達しないことを証明することである(本願明細書の実施例9)。本願発明では、SERMグループは、アコルビフェンに非常に近い化合物に限定されており、参考資料は、いくつかのSERMとその代謝物が、SERMが投与されたときに脳内の有意なレベルで見られることをサポートしている。 そこで、上記主張について検討する。 ア 参考資料6(Annals of Human Biology, January-February, 2006, Vol.33 No.1, p.4-16)には「ホットフラッシュを経験する女性は必ずしも寝汗を報告するわけではなく、ホットフラッシュに関連する変数は必ずしも寝汗に関連する変数と同じではなく、逆もまた同様である。」(p.12の下から3行~最下行)という記載がある。 しかし、参考資料6に「主な目的:この研究の目的は、ホットフラッシュ(hot flashes)と寝汗(night sweats)の決定要因、閉経期以降のホルモン変化に関連する2つの血管運動症状を特定することでした。」(p.4の「Abstract Primary Objective・・・the menopause transtition.」)と記載されているように、参考文献6はホットフラッシュと寝汗がいずれも血管運動症状であるという前提で記載されたものであるから、ホットフラッシュと寝汗とが区別可能な症状であることを考慮しても、上記「1」で説示した「引用発明の上記『閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患』として、ホットフラッシュ(すなわち摘記17cの「ほてり」)と同様に血管運動系不快症状のカテゴリーに含まれる『寝汗』を対象として、引用発明の医薬組成物を『寝汗を予防、低減又は排除』するために用いることを、当業者は自然に想起し得たといえる。」とした判断に、誤りはない。 また、参考資料1~5は、いずれも本願優先日後に公開された文献であって本願優先日当時の技術常識を示すものではなく、上記「引用発明の上記『閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患』として、・・・引用発明の医薬組成物を『寝汗を予防、低減又は排除』するために用いることを、当業者は自然に想起し得たといえる。」とした判断に影響しない。 イ 参考資料7(Menopause: The Journal of The North American Menopause Society, 2011, Vol.18 No.5, p.477-479)には、SERMであるバゼドキシフェン(BZA)療法は大規模な第3相臨床試験ではホットフラッシュの増加と関連していたこと(p.478右欄の最終段落)等が記載され、参考資料8(Am Fam Physician, 2003 Oct 1, Vol.68 No.7, p.1264)には、ラロキシフェンやタモキシフェン等の選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の添付文書に一般的な副作用としてホットフラッシュや寝汗が記載されていること(本文第4段落の第2文)等が記載されている。 しかし、参考資料7及び8はいずれもSERM単独投与の場合に生じる副作用について記載したものであり、参考資料7は本願優先日後に公開された文献であって本願優先日当時の技術常識を示すものではない。参考文献7及び8には、DHEAのような性ステロイド前駆体とSERMとを組み合わせて投与した場合に副作用としてホットフラッシュや寝汗が生じるという趣旨の記載や示唆はなく、このような本願優先日当時の技術常識があったともいえない。 そして、上記「1」で説示したように、引用発明における「閉経後の女性において閉経に起因する症状もしくは疾患」は「ホットフラッシュ」を含むのであるから、上記「閉経後の女性において閉経に起因する症状又は疾患」として、ホットフラッシュ(すなわち摘記17cの「ほてり」)と同様に血管運動系不快症状のカテゴリーに含まれる「寝汗」を対象として、引用発明の医薬組成物をさらに「寝汗を予防、低減又は排除」するために用いることに、特段の支障があるとはいえない。 ウ さらに、引用文献16において、ラットにEM-800(SERM)を経口投与した場合、EM-800(SERM)が脳内に移行する量が、肝臓、子宮、全血及び血漿に移行する量よりも大幅に低かったことを示す実験結果(摘記16eの実施例9)が示され、さらに「のぼせの原因となる部位は中枢神経系(CNS)であり、EM-652は中枢神経系(CNS)にほとんど入ることができないので・・・SERMによる介入なしで、のぼせを防止すると予想される。」(摘記16c)という記載(当審合議体による注釈:上記「のぼせ」は引用発明の「ホットフラッシュ」に相当し、上記「EM-652」は、本願発明における「EM-652」及び請求人の上記主張における「アコルビフェン」に相当する。)があるように、有意なレベルで脳に到達しないEM-652(SERM)がホットフラッシュに介入しないと予想されることは、本願優先日当時に既に知られていた事項である。 エ また、上記「5(4)」で説示したように、本願明細書の実施例9で示された、ラットに経口投与した後のEM-800(SERM)が脳内に移行する量が少ないことを示す実験結果は、引用文献16の実施例9(摘記16e)でラットにEM-800(SERM)を経口投与した場合に示された結果と同等の結果であって当業者が予測しえない格別顕著な効果であるとはいえない。 そして、上記「5(5)」で説示したように、DHEAがホットフラッシュに対して有益な作用を有することは本願優先日当時に既に知られていたのであるから(摘記3eの「Table 1」の3行目「Hot flashes」で「Effect of DHEA」は「Beneficial55」と記載されている。)、本願明細書の実施例10でDHEAを単独投与した臨床試験結果は、DHEAがホットフラッシュに対して有益な作用を有することを確認したものにすぎず、当業者が予測しえない格別顕著な効果であるとはいえない。 オ なお、上記「5(6)」で説示したように、本願明細書には、本願発明の性ステロイド前駆体と選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)とを組み合わせた医薬組成物を、「寝汗を予防、低減又は排除しながら、閉経後女性において通常存在する乳癌、子宮癌及び子宮内膜癌のリスクを低減し、骨量減少、骨粗鬆症、高血圧症、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満及びアテローム性動脈硬化症を予防するため」という用途に有効に適用できることを実際に確認した臨床試験等は記載されておらず、本願発明により、引用発明、及び引用文献15、3、16~18の記載から当業者が予測し得ない、格別顕著な効果が得られたとはいえない。 (4)本願発明の組み合わせによる有益な前臨床データは、出願人の特許出願で利用でき(参考資料9~11)、更に、2010年より前に発行された5つの参考資料(参考資料12~16)でも利用可能である。これらのデータは、更年期症状に関連しているが、特にホットフラッシュには関連していないが、参考資料14には、参考資料14の表1において、LH値は、DHEA/EM-800の組み合わせで最も低いものであることが記載され、(視床下部(脳内)のアンドロゲン及びエストロゲンによって阻害される黄体形成ホルモン(LH)が、EM-800(アコルビフェンのプロドラッグ)によって刺激されないことを示している。 参考資料17及び18は、体熱感と黄体形成ホルモンとの間に重要な関連があることをかなり裏付けていること、高いLH値は、閉経後の女性のホットフラッシュの発生率に関連していること、参考資料19はまた、寝汗と黄体形成ホルモンの間接的な関係もサポートしており、要約すると、本出願人は、前臨床モデルのDHEA/EM-800の組み合わせでLHの最低レベルが予期せず得られることを発見した(表2を参照。参考資料15の表1も併せて参照。)。LHの高レベルが血管運動症状(ホットフラッシュや寝汗など)に関連していることに関する知見により、本願発明の進歩性と実施可能性要件はサポートされている。 そこで、上記主張について検討する。 請求人が提示した参考資料9~11、12~16は、本願明細書の実施例で示された結果に関連するものであるが、これらの資料に記載された事項を参酌しても、上記1~5で説示した進歩性の判断は否定されない。 また、請求人が主張する、血管運動症状(ホットフラッシュや寝汗など)と黄体形成ホルモン又はLH値との関連性について(参考資料17~19)は、いずれも本願の出願当初明細書に記載された事項ではないので参酌することはできず、仮に参酌したとしても、上記1~5で説示した進歩性の判断は否定されない。 なお、請求人は、「本出願人は、前臨床モデルのDHEA/EM-800の組み合わせでLHの最低レベルが予期せず得られることを発見した(表2を参照。参考資料15の表1も併せて参照。)」と主張しているが、本願明細書に記載の表2及び参考資料15(OBESITY RESEARCH, 2003, Vol.11, No.3, p.477-490)にはLH値に関する記載はない。そして、参考資料12(Endocrinology, 1997, Vol.138, No.10, p.4435-4444)の図8(Fig.8)、及び参考資料14 (Journal of Endocrinology, 1998, Vol.157, p.433-442)の表1(Table 1)に記載されているように、DHEAとEM-800との組み合わせ投与によりLHレベルが低下することは、本願優先日当時に既に知られていた事項である。 以上のとおり、上記(1)~(4)の主張を検討しても、上記1~5で説示した進歩性の判断は否定されない。 7 以上のとおり、本願発明は、引用発明、及び引用文献15、3、16~18の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明(引用文献15に記載された発明)、及び引用文献15、3、16~18の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2018-013292

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