特許異議申立
2017-701246
セラミックス焼結体
- 審判番号
- 2017-701246
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-504832
- 登録番号
- 特許第6160986号(P6160986)
- 請求日
- 2017年12月28日
- 審決日
- 2018年03月20日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社タンガロイ
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】大貫 敏史
- 【権利者代理人】江口 昭彦
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【異議申立人】鈴木 里美
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 賢一
- 審判官 山本 雄一
- 審判官 中澤 登
- 分類
- P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6160986号発明「セラミックス焼結体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6160986号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6160986号の請求項1~5に係る特許についての出願は、2016年11月25日(優先権主張2015年12月 7日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年 6月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人「鈴木 里美」(以下、「申立人」という。)により平成29年12月28日付けで特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下、「本件発明1~5」という。)と認められる。
【請求項1】
酸化アルミニウムと、炭化タングステンと、酸化ジルコニウムとを含むセラミックス焼結体であって、
前記酸化ジルコニウムは、ZrOおよびZrO2を含み、
前記ZrO2は、正方晶および立方晶からなる群より選ばれる1種又は2種の結晶構造を有し、
X線回折における、前記ZrOの(111)面のピーク強度をI1とし、正方晶の結晶構造を有するZrO2の、(101)面のピーク強度をI2tとし、立方晶の結晶構造を有するZrO2の(111)面のピーク強度をI2cとしたとき、I1とI2tとI2cとの合計に対するI1の比[I1/(I1+I2t+I2c)]が、0.05以上0.90以下であり、
前記セラミックス焼結体の全体量に対して、
前記酸化アルミニウムの含有量が、30体積%以上74体積%以下であり、
前記炭化タングステンの含有量が、25体積%以上69体積%以下であり、
前記酸化ジルコニウムの含有量が、1体積%以上20体積%以下である、
セラミックス焼結体。
【請求項2】
I1とI2tとI2cとの合計に対するI1の比[I1/(I1+I2t+I2c)]が、0.20以上0.80以下である、請求項1に記載のセラミックス焼結体。
【請求項3】
前記酸化アルミニウムは、α型酸化アルミニウムであり、
X線回折における前記α型酸化アルミニウムの(110)面のピーク強度をI3としたとき、I3に対するI2tとI2cとの合計の比[(I2t+I2c)/I3]が、0.30以上4.00以下である、請求項1または2に記載のセラミックス焼結体。
【請求項4】
前記酸化アルミニウムの平均粒径が0.20μm以上2.00μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項5】
前記炭化タングステンの平均粒径が0.10μm以上1.50μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証~甲第4号証(以下、「甲1」~「甲4」という。)を提出し、本件発明1~5は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許を取り消すべきものであること、本件発明1~2、4~5は、甲1に記載の発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものであること、及び、本件発明3は、甲1~4に記載の発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものであることを主張している。
甲1:特許第5519875号公報
甲2:特開平3-294101号公報
甲3:特開平8-277159号公報
甲4:特開平11-217258号公報
第4 当審の判断
本件発明1は、「前記酸化ジルコニウムは、ZrOおよびZrO2を含み」、及び、「X線回折における、前記ZrOの(111)面のピーク強度をI1とし、正方晶の結晶構造を有するZrO2の、(101)面のピーク強度をI2tとし、立方晶の結晶構造を有するZrO2の(111)面のピーク強度をI2cとしたとき、I1とI2tとI2cとの合計に対するI1の比[I1/(I1+I2t+I2c)]が、0.05以上0.90以下であり」を発明特定事項とするものであり、本件発明1のセラミックス焼結体には、X線回折のピーク強度で特定する一定割合のZrOを含むことが必須の要件となっている。
これに対し、甲1には、酸化アルミニウムと、炭化タングステンと、酸化ジルコニウムとを含むセラミックス焼結体については記載されているが、酸化ジルコニウムが、ZrOを含むことについては記載されておらず、X線回折による分析も行っていない。
ここで、申立人は、特許異議申立書において、
「ここで、本件の明細書の段落0030には、セラミックス焼結体の焼結過程において、以下の反応が起こることが記載されている。
3ZrO2+2Al→3ZrO+Al2O3 (1)
式(1)は、ジルコニア(ZrO2)がアルミニウムによって還元される反応を示している。
一方で、甲第1号証の段落0026に記載されるように、タングステンはジルコニウム元素との反応性が良好である。また、甲第1号証の段落0024には、セラミックス焼結体が、炭化タングステンとしてWCに加えて、W2Cを含むことがあることが記載されている。
これらの記載から、甲第1号証のセラミックス焼結体では、上記式(1)に代わって、又は上記式(1)と共に、下記式(2)のジルコニアの還元反応が生じていると推察される。
ZrO2+2WC→ZrO+W2C+CO (2)
そのため、甲第1号証に記載されたセラミックス焼結体には、上記式(2)によって生じたZrOが含まれ得る。」と主張している。
そこで、甲1の記載について検討する。(下線は当審で付加したものである。)
摘記1-1:「【0024】
本発明のセラミックス焼結体は、炭化タングステンとして主にWCを含むが、セラミックス焼結体の製造において炭素量の調整を行わない場合等には、W2Cをわずかに含むことがある。この場合でも、W2Cの量は通常微量であるため、セラミックス焼結体の性能を損ないにくい。」
摘記1-2:「【0026】
本発明のセラミックス焼結体において、アルミナと炭化タングステンとの粒界にジルコニウム元素が分布することが好ましい。この場合、焼結性が向上し、粒界の結合強度が向上する。これは、ジルコニウム元素が、粒界の結合強度を高めるためであると推測される。さらに詳しくは、酸化物で化学的に安定なアルミナと炭化物である炭化タングステンとは反応しにくく、通常は両者の間に十分な結合強度が得られないが、ジルコニウム元素が粒界に介在すると、そのジルコニウム元素がアルミナとの反応性が良いジルコニアを形成することや、同じ遷移金属であるタングステンとの反応性が良好であることにより、アルミナと炭化タングステンの粒界の結合強度が高められると推測される。粒界の結合強度が向上する結果、本発明のセラミックス焼結体から成る工具の耐チッピング性が向上し、工具の寿命が長くなる。」
摘記1-1は、炭素量の調整を行わない場合に、セラミックス焼結体がW2Cをわずかに含むことを記載したものであり、これは、セラミックス焼結体の製造時(焼結時)に炭素量が不足している場合にW2Cが生じることを記載しているものであって、WCから炭素が放出されてW2CとCOになることを意味したものではない。
また、申立人は、摘記1-2の記載から、式(2)のジルコニアの還元反応が生じることが推察できるとしているが、摘記1-2には、「ジルコニウム元素がアルミナとの反応性が良いジルコニアを形成すること」、及び、「同じ遷移金属であるタングステンとの反応性が良好であることにより、アルミナと炭化タングステンの粒界の結合強度が高められる」ことが記載されているが、式(2)において、ZrはAl2O3ともWCとも反応していない。
したがって、甲1のセラミックス焼結体において、申立人が主張する式(2)の反応が起きているとは認められない。
また、甲1記載の焼結体は、原料にAlを含まないから、式(1)の反応は生じ得ない。
そして、甲2~甲4は、切削工具、研磨工具等に用いられる酸化アルミニウムとして、α型酸化アルミニウムを用いることが技術常識であることを示す文献であり、酸化アルミニウムと、炭化タングステンと、ZrOを含む酸化ジルコニウムを含むセラミックス焼結体を形成することについて記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由(特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項)には理由がない。
本件発明1を引用する本件発明2~5についても同様に申立理由(特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項)には理由がない。
第5.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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