特許異議申立
2017-701209
樹脂組成物及び塗工液
- 審判番号
- 2017-701209
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-507835外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年12月21日
- 審決日
- 2018年03月14日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.121-Y (C01F) / P1651.537-Y (C01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6152220号発明「樹脂組成物及び塗工液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6152220号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6152220号の請求項1~10に係る特許についての出願は、2015年3月12日(優先権主張2014年3月14日、日本国)を国際出願日とするものであって、平成29年6月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対して、平成29年12月20日に特許異議申立人土屋篤志により特許異議の申立てがされたものである。
2 本件特許発明
特許第6152220号の請求項1~10の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1~10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されるとおりのものである。
3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、以下の甲第1号証~甲第3号証を提出し、本件特許発明1~10は不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、本件特許発明1~10は、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許発明1~10に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
(証拠一覧)
甲第1号証:特開平7-126061号公報
甲第2号証:特開2012-36240号公報
甲第3号証:Perrin Walker and William H. Tarn, HANDBOOK of METAL ETCHANTS, 1991, p.1186
4 甲号証について
(1)甲第1号証の記載事項(下線は当審が付した。以下、同様である。)
ア 「【0006】本発明のマグネシア系焼結体は、・・・純度99.9%以上、平均粒径0.5μm以下のマグネシア粉末と純度99.9%以上、平均粒径0.5μm以下のアルミナ粉末をMgO/Al2O3モル比>1となるような割合で混合し、成形した後、1400~1900℃で焼結することにより製造できる。この場合には、焼結時にマグネシアとアルミナが反応してスピネルが生成し、残部のマグネシアとの複合焼結体となる。・・・」
イ 「【0010】
【実施例】・・・
実施例1~2及び比較例1~2
純度99.9%以上、平均粒径0.2μmのマグネシア粉末(宇部興産(株)製:2000A)と純度99.9%以上、平均粒径0.8μmのスピネル粉末(住友化学(株)製)を表1に示す割合で配合した粉末に、解膠剤及び濡れ剤を添加したアルコールを加え、ZrO2ボールを媒体としてボールミルで30時間解膠した。このスラリーをろ過した後、鋳込み成形用の石膏型に流し込み成形体を作製した。この成形体を5日間大気中で養生乾燥後、ケラマックス大型電気炉で大気中、昇温速度0.7℃/分で1650℃まで昇温し8時間保持した。・・・
【0011】実施例3~5
スピネル粉末に代えて、純度99.9%以上、平均粒径0.4μmのα-アルミナ粉末(住友化学(株)製:AKP-30)を用いたほかは、実施例1と同様にして焼結体を作製した。・・・
【0012】
【表1】
」
(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記4(1)アによれば、マグネシア粉末とアルミナ粉末をMgO/Al2O3モル比>1となるような割合で混合し、成形した後、焼結した焼結体であって、マグネシアとアルミナが反応してスピネルが生成し、残部がマグネシアである複合焼結体が記載されているといえ、上記4(1)イによれば、実施例5の原料仕込組成が、マグネシア粉末65モル%とアルミナ粉末35モル%であり、焼結体組成が、マグネシア(MgO)47モル%とスピネル53モル%であることが記載されている。
これら記載を実施例5に注目して整理すると、甲第1号証には、「マグネシア粉末を65モル%とアルミナ粉末を35モル%で混合した成形体を焼結した、マグネシアとアルミナから生成したスピネルが53モル%、マグネシアが47モル%である焼結体組成を有する複合焼結体。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(3)甲第2号証(特開2012-36240号公報)の記載事項
ア 「【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、無機粒子、有機チタン化合物、及びリン酸エステルを含む封止用樹脂組成物であって、
無機粒子の平均粒径が10μm以下であり、
無機粒子の量が封止用樹脂組成物全量を基準として60質量%以上であり、
有機チタン化合物の量が封止用樹脂組成物全量を基準として1質量%以上、5質量%以下であり、
リン酸エステルの量が封止用樹脂組成物全量を基準として0.5質量%以上、3質量%以下である、
封止用樹脂組成物。」
イ 「【0030】
本発明の封止用樹脂組成物には、無機粒子がほぼ均一に分散して含まれている。無機粒子は、封止用樹脂組成物に高い弾性率と低い熱膨張率を付与するために使用されるものであり、単独または複数組み合わせて、使用することができる。一般に、かかる無機粒子として、シリカ(溶融シリカ、結晶シリカ)、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、或いは、これらを球形化したビーズ、ガラス繊維等が挙げられる。これらの無機粒子は単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。」
(4)甲第3号証(Perrin Walker and William H. Tarn, HANDBOOK of METAL ETCHANTS, 1991, p.1186)の記載事項
「PHYSICAL PROPERTIES OF SPINEL, MgAl2O4 ・・・ Hardness (Mohs - scratch) 8」(第21行~35行、当審仮訳「スピネルMgAl2O4の物理的特性 ・・・ 硬度(モース-スクラッチ) 8」)
5 特許法第36条第6項第2号の申立理由について
特許異議申立人は、本件特許発明1及び6の「前記アルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)と、前記アルミニウム以外の金属の化合物を構成する前記アルミニウム以外の金属のモル数(b)との比(bモル)/(aモル)が、0.1以上1.0以下であ」るとの特定事項の「比(bモル)/(aモル)」は、熱伝導性複合酸化物中の比を意味しているのか、熱伝導性複合酸化物の原料の仕込み比(配合比)を意味するのか明らかでなく、また、「比(bモル)/(aモル)」が、熱伝導性複合酸化物の原料の仕込み比(配合比)を意味するものとすると、前記特定事項は単に熱伝導性複合酸化物の製法を意味するものに過ぎず、熱伝導性複合酸化物自体を何ら明らかにするものでないため、本件特許発明1~10は不明確であることを主張している(特許異議申立書第6頁第12行~第7頁第13行)。
そこで検討するに、前記特定事項の「前記アルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)」及び「前記アルミニウム以外の金属の化合物を構成する前記アルミニウム以外の金属のモル数(b)」は、本件特許発明1及び6の「前記熱伝導性複合酸化物が、アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物との焼成物である」との特定事項から、焼結原料である「アルミナ系化合物」のアルミニウム元素のモル数、及び、「アルミニウム以外の金属の化合物」の金属元素のモル数を示していることは明らかであり、結果として、その比が焼結原料の仕込み比(配合比)を示していることは明らかである。
しかしながら、本件特許発明1及び6の「熱伝導性複合酸化物」は「アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物との焼成物であるとともに、主成分金属としてアルミニウムと、アルミニウム以外の金属とを含有するスピネル構造を有」するところ、複合酸化物の焼結原料の金属元素の配合比とその焼成体の金属元素の比が変化しないことは技術常識であるし、また、本件特許明細書の「本発明の複合酸化物を、例えば、粉末X線回折により分析すれば、スピネル構造を有する異相のない単一化合物であることを確認することができる。」(段落【0031】)との記載、及び、「本発明の熱伝導性複合酸化物を構成する全ての金属の合計に対する各金属の含有割合」における「アルミニウムが50モル%を下回ると、アルミニウム以外の金属成分が酸化物を形成」(段落【0017】)するとの記載によれば、焼結原料中のアルミニウム元素とアルミニウム以外の金属元素の配合比(bモル)/(aモル)を0.1以上1.0以下とすることで、スピネル構造の複合酸化物になることも明らかであるから、本件特許発明1及び6の「比(bモル)/(aモル)」が、スピネル構造である導電性複合酸化物のアルミニウム元素と、アルミニウム以外の金属元素の比(成分比)を示していることも明らかである。
よって、特許異議申立人の主張は妥当でない。
したがって、本件特許発明1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。
6 特許法第29条第2項の申立理由について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「マグネシア粉末を65モル%とアルミナ粉末を35モル%で混合し焼結した複合焼結体」は、アルミナ粉末のアルミニウム元素のモル数に対する、マグネシア粉末のマグネシウム元素のモル数の比が0.93(=65モル%/(35モル%×2))であるから、本件特許発明1の「アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物との焼成物であ」って、「前記アルミニウム以外の金属が、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種であり」、「前記アルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)と、前記アルミニウム以外の金属の化合物を構成する前記アルミニウム以外の金属のモル数(b)との比(bモル)/(aモル)が、0.1以上1.0以下であ」る「焼結体」に相当する。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明と、「アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物との焼成物であり、前記アルミニウム以外の金属が、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記アルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)と、前記アルミニウム以外の金属の化合物を構成する前記アルミニウム以外の金属のモル数(b)との比(bモル)/(aモル)が、0.1以上1.0以下である焼結体」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件特許発明1の焼結体は、「主成分金属としてアルミニウムと、アルミニウム以外の金属とを含有するスピネル構造を有」する「熱伝導性複合酸化物」であるのに対して、甲1発明は、マグネシアとアルミナから生成したスピネルが53モル%、マグネシアが47モル%である焼結体組成を有する複合焼結体である点。
(相違点2)
本件特許発明1は、「熱伝導性複合酸化物」と「樹脂」を含有する「樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明は、複合焼結体は、成形体を焼結したものである点。
(相違点3)
本件特許発明1は、「熱伝導性複合酸化物」の「モース硬度が9未満」であるのに対して、甲1発明では、複合焼結体のモース硬度は記載されていない点。
イ まず、相違点2について検討すると、甲1発明の複合焼結体は、成形体を焼結したものであり、樹脂組成物に含有させることができる粒子状のものでないから、甲第2号証(上記4(3)参照)に記載されているように、エポキシ樹脂とスピネル等の無機粒子を含む封止用樹脂組成物が周知技術であったとしても、甲1発明の複合焼結体を樹脂組成物に含有させることを当業者が容易になし得たとはいえない。
また、甲第3号証(上記4(4)参照)には、スピネルのモース硬度が記載されているに過ぎないため、甲第3号証の記載を参酌しても、甲1発明の複合焼結体を樹脂組成物に含有させることを当業者が容易に想到し得ることといえない。
したがって、相違点1及び3を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
ウ 特許異議申立人は、本件特許発明1は、甲1発明の複合焼結体を周知の樹脂組成物に単に適用しただけであって、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないこと、あるいは、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された樹脂組成物の無機粒子として、甲1発明の特定のスピネルを用いることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎず、容易に想到し得ることを主張している。
しかしながら、上記イで検討したとおり、甲1発明の複合焼結体は成形体を焼結したものであるから、甲1発明の複合焼結体を樹脂組成物に適用することはできない。
また、甲1発明の複合焼結体はスピネルとマグネシアを含む焼結体であるところ、成形体を焼結した複合焼結体からスピネルのみを取り出すことができないから、甲第2号証に記載された樹脂組成物の無機粒子として甲1発明のスピネルを使用することもできない。
よって、異議申立人の主張は妥当でない。
エ 以上のとおりであるから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
(2)本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記(1)と同様の理由により、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえず、本件特許発明2~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
(3)本件特許発明6について
本件特許発明6と甲1発明を対比すると、上記(1)で検討したと同様に、本件特許発明6は、甲1発明と、「アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物との焼成物であり、前記アルミニウム以外の金属が、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記アルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)と、前記アルミニウム以外の金属の化合物を構成する前記アルミニウム以外の金属のモル数(b)との比(bモル)/(aモル)が、0.1以上1.0以下である焼結体」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点4)
本件特許発明6の焼結体は、「主成分金属としてアルミニウムと、アルミニウム以外の金属とを含有するスピネル構造を有」する「熱伝導性複合酸化物」であるのに対して、甲1発明は、マグネシアとアルミナから生成したスピネルが53モル%、マグネシアが47モル%である焼結体組成を有する複合焼結体である点。
(相違点5)
本件特許発明6は、「熱伝導性複合酸化物」を含有する「塗工液」であるのに対して、甲1発明は、複合焼結体は、成形体を焼結したものである点。
(相違点6)
本件特許発明6は、「熱伝導性複合酸化物」の「モース硬度が9未満」であるのに対して、甲1発明では、複合焼結体のモース硬度は記載されていない点。
そして、相違点5について検討すると、上記(1)の相違点2で検討したと同様に、甲第2号証及び甲第3号証の記載を参酌しても、甲1発明の成形体を焼結した複合焼結体を塗工液に利用することは、当業者が容易に想到し得ることでない。
したがって、相違点4及び6を検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえないから、本件特許発明6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
(4)本件特許発明7~10について
本件特許発明7~10は、本件特許発明6を更に減縮したものであるから、上記(3)と同様の理由により、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえず、本件特許発明7~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。
7 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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