特許異議申立
2017-701063
少量の体液試料中のマーカーを判定する方法
- 審判番号
- 2017-701063
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-553351
- 登録番号
- 特許第6130143号(P6130143)
- 請求日
- 2017年11月10日
- 審決日
- 2018年07月09日
- 公報発行日
- 2018年10月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ベー.エル.アー.ハー.エム.エス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】石田 敬
- 【権利者代理人】福本 積
- 【権利者代理人】古賀 哲次
- 【権利者代理人】渡辺 陽一
- 【権利者代理人】武居 良太郎
- 【権利者代理人】大島 浩明
- 【異議申立人】笠井 素子
- 審判長/審判官
- 審判長 福島 浩司
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 分類
- P1651.113-YAA(G01N) / P1651.121-YAA(G01N) / P1651.536-YAA(G01N) / P1651.537-YAA(G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第4項、特許法第113条第2号、特許法第120条の2第1項、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6130143号発明「少量の体液試料中のマーカーを判定する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6130143号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1-11〕について訂正することを認める。
特許第6130143号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6130143号の請求項1~11に係る特許についての出願は、2011年(平成23年)2月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年2月23日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成29年4月21日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1~11に係る特許について、同年11月10日付けで特許異議申立人笠井素子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年1月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月1日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から同年6月18日付けで意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「前記機能領域に到達した試料の一部が体液又は体液の成分である場合に、」を、「前記機能領域に到達した試料の一部が前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4において、「流動試験要素を提供する工程を含む、」を、「流動試験要素を提供する工程を含み、前記液体試料が全血試料であり、前記橋領域(4)が、赤血球が前記試験領域(5)に移動するのを妨げるように設けられた、前記適用領域(3)及び前記試験領域(5)と流体により連結した橋膜(bridge membrane)を有する、」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の【0053】の「試験領域4」を、「試験領域5」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の【0066】の「左から右に」、「左側に、」及び「左側の緩和シグナルの増大は、」を、「右から左に」、「グラフ左側に、」及び「右側の緩和シグナルの増大は、」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の【0014】の「吸収は超は」を、「吸収波長は」に訂正する。
2 訂正の目的の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の「前記機能領域に到達した試料の一部が体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」ことにおいて、「体液又は体液の成分」が「前記流動試験要素の解析対象である」ことに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の「適用領域(3)及び試験領域(5)との間に位置し、それらと流体により連結する1つ以上の橋領域(4)、並びに試験領域(5)の下流に位置し、それと流体により連結する対照領域(6)を有する、流動試験要素を提供する工程」において、さらに「前記液体試料が全血試料であり、前記橋領域(4)が、赤血球が前記試験領域(5)に移動するのを妨げるように設けられた、前記適用領域(3)及び前記試験領域(5)と流体により連結した橋膜(bridge membrane)を有する」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(3)訂正事項3について
訂正事項3の「試験領域4」を「試験領域5」に訂正することは、その余の明細書の記載及び図面から「試験領域5」であることが明かであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものといえる。
(4)訂正事項4について
訂正事項4の「左から右に」、「左側に、」及び「左側の緩和シグナルの増大は、」を、「右から左に」、「グラフ左側に、」及び「右側の緩和シグナルの増大は、」に訂正することのうち、「左側の緩和シグナルの増大は、」を「右側の緩和シグナルの増大は、」に訂正することは、国際出願時の原文には「An increase of the remission signal on the right hand side indicates erythrocyte leakage into the testing zone 5 on the flow test element 1. 」と記載されていることから、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものといえる。
そして、その余の「左から右に」及び「左側に、」を「右から左に」及び「グラフ左側に、」に訂正することは、明細書のその余の記載及び図面との記載との関係において整合性を正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(5)訂正事項5について
訂正事項5の「吸収は超は」を「吸収波長は」に訂正することは、誤記を訂正するものであることは明かであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものといえる。
3 新規事項の有無
(1)訂正事項1について
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)には、流動試験要素の「解析対象である」体液又は体液の成分との記載そのもの自体はないものの、特許明細書等には、「例えば、適正な試験の進行を判定することにより、液体試料が、その液体試料のために設定されていない流動試験要素に適用されるのを回避する。」(【0012】)、「例えば、もし液体試料が、その液体試料のために設定されていない流動試験要素に適用されると、誤った結果がもたらされ得る。提案される方法は、液体試料中のマーカーの判定が正しく実施されることを保証する。なぜならば、使用者に適正な試験の進行が提供されているか否か、例えば正しい液体が流動試験要素にアプライされたか否か等の情報を与える、適正な試験の進行を判定する工程が存在するからである。」(【0013】)、「好ましい態様において、適正な試験の進行を判定する工程は、適用された液体試料が体液であるか若しくは体液の成分であるか、又は試験流動要素が体液若しくは体液の成分中のマーカーを判定するために設定されたものであるかを光学的に判定することにより、適正な試料の使用を判定する工程を含む。」(【0033】)、「前記適正な試験の進行を判定する工程において、不適正な試験の進行が検出された場合、解析システムの更なる解析が中断されてもよい。例えば、当該解析システムは、液体試料が適用された流動試験要素の更なる使用をブロックする。」(【0044】)、「上記非限定的態様を参照して記載される体液中のマーカーの存在を判定する方法は、適正な試料の使用を判定する工程を含む。当該工程は、(a)分光光度計を用いた測定により行われる。吸光度、蛍光、透過、反射及び緩和を含む群から選択される1つ以上のパラメーターが検出及び解析されて、適用領域3に適用され、流動試験要素上の一定の機能領域に到達した液体試料の一部が、当該流動試験要素が判定の対象とする体液の一つ及び体液の成分であるか否かを判定する。」(【0064】)と、流動試験要素の体液若しくは体液の成分として、マーカー等を判定するために流動試験要素が設定する適正な試料が使用されている場合には、試験が適切に進行されたと判定することが記載されており、流動試験要素が設定する適正な試料とは、流動試験要素の解析対象とする体液又は体液の成分のことといえることから、機能領域に到達した試料の一部が「前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」ことは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとまではいえない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
特許明細書等に、「好ましい態様において、流動試験要素を提供する工程は、適用領域及び試験領域の間に位置し、それらと流体により連結された橋領域、並びに試験領域の上流にあってこれと流体により連結された対照領域を有する、流動試験要素を提供する工程を含む。当該橋領域は、適用領域及び試験領域と流体により連結された橋膜(bridge membrane)により適用され得る。」(【0036】)、「1つの態様において、試験領域4は、全血試料中のマーカーの存在を判定するように設定されている。流動試験要素は、下記のように使用され得る。明らかなように、適用領域3の内側及び/又はこれに隣接して設けられた第一の多孔質材料と接触すると、適用された試料の赤血球細胞は、血漿から分離し始め、その流れの過程で、マーカーは検出試薬と出会う。当該検出試薬は、限定されないが、典型的には、当該マーカーのエピトープに対する標識された抗体であり、マーカー-検出試薬複合体を形成する。記載された態様において、マーカー-検出試薬複合体は、橋膜を有する橋領域4に移動し、そこで、赤血球細胞の移動は、更に、阻害/遅延させられる。」(【0053】~【0054】)と記載されており、訂正事項2の「前記液体試料が全血試料であり、前記橋領域(4)が、赤血球が前記試験領域(5)に移動するのを妨げるように設けられた、前記適用領域(3)及び前記試験領域(5)と流体により連結した橋膜(bridge membrane)を有する」ことは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3~5について
訂正事項3及び5は明かな誤記の訂正であり、訂正事項4は明かな誤訳の訂正又は特許明細書等のその余の記載との関係において整合性を正すものであるから、いずれも特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
よって、訂正事項3~5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
4 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1~5は、いずれも、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
5 一群の請求項について
訂正前の請求項1~11は、互いに引用、被引用の関係にあるから一群の請求項であり、訂正事項1及び2に係る訂正は、この一群の請求項について請求されたものと認められるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
また、訂正事項3~5は、願書に添付した明細書についての訂正であり、上記一群の請求項の全てについて行われたものであるから、特許法第126条第4項に適合するものである。
6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立について
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明11」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものであり、そのうち独立項である本件発明1を摘記すると、以下のとおりである。
「【請求項1】
流動試験要素(flow test element)における適正な試験の進行(correct test performance)を判定する方法であり:
・複数の機能領域(3、4、5、6、7)を有する流動試験要素を提供する工程であり、当該複数の機能領域(3、4、5、6、7)が、少なくとも部分的には流体により連結しており、そして適用領域(3)、及び当該適用領域(3)と流体により連結し、かつ体液及び/又は当該体液中の成分中のマーカーを検出するように設定された試験領域(5)を有する、当該工程;
・少量の液体試料を前記流動試験要素の試料適用領域(3)に適用する工程;及び
・前記流動試験要素における適正な試料の使用を判定する工程であって、1つ以上の機能領域(3、4、5、6、7)において1つ以上の光学的パラメーターを測定し、そして当該測定された1つ以上の光学的パラメーターと、前記1つ以上の機能領域(3、4、5、6、7)に割り当てられた1つ以上の所定の光学的パラメーターとを比較することにより、前記複数の機能領域(3、4、5、6、7)の1つの領域に到達した適用された液体試料の一部が、前記流動試験要素が判定の対象とする体液又は体液の成分であるか否かを光学的に判定する工程;
を含み、前記機能領域に到達した試料の一部が前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される、当該方法。」
2 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲1号証~甲3号証(以下「甲1」~「甲3」という。)を提示し、訂正前の請求項1~11に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当し取り消されるべきものであると主張している。
甲1:特開2010-19610号公報
甲2:特開2009-210505号公報
甲3:特開2003-4743号公報
具体的に申立理由をまとめると、以下のとおりである。
(1)申立理由1
訂正前の請求項1~11に係る発明は、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2)申立理由2
訂正前の請求項1~11に係る発明は、甲2に記載された発明であるか、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(3)申立理由3
訂正前の請求項1~11に係る発明は、甲3に記載された発明であるか、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
3 取消理由の概要
訂正前の請求項1~11に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)特許法第29条第2項について
訂正前の請求項1~11に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2)職権による取消理由について
申立人は申立理由として記載していないが、特許法120条の2第1項の基づく職権審理の結果、以下の点で、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 特許法第36条第6項第1号及び第2号について
訂正前の請求項1に係る発明には、「前記機能領域に到達した試料の一部が体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」との記載がある。
しかしながら、免疫クロマトグラフィ試験片の各領域に到達するものが、試料が体液又は体液の成分であることは自明であるから、これをもってして「試験が適切に進行されたと判定」することは、免疫クロマトグラフィ試験が行われていることを単に確認するにすぎないことであり、請求項1のその余の「適正な試料の使用を判定する工程であって・・・判定の対象とする体液又は体液の成分であるか否かを光学的に判定する工程」含むものとして特定されている「適正な試験の進行(correct test performance)を判定する方法」と整合せず、かつ、上記3(1)で摘記した本件特許明細書の【0012】、【0013】、【0033】、【0044】及び【0064】の記載とも整合しないものである。
よって、「前記機能領域に到達した試料の一部が体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」との記載において、本件発明1は不明確であり、かつ発明の詳細な説明に記載されたものともいえない。
したがって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~11に係る特許は、許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ 特許法第36条第4項第1号について
本件特許明細書の【0066】に「図2は、様々な時間インキュベーションした全血試料の分光的緩和シグナル(相対的単位)と、流動試験要素1上の相対的位置(相対的単位)との関連性を示す。当該流動試験要素1(図1参照)は、対照領域6、領域7及び試験領域5を少なくともカバーするように、左から右にスキャンされた。左側に、対照領域6の緩和シグナルに割り当てられたいわゆる対照バンドがあり、これは全ての時間で変化が無い。左側の緩和シグナルの増大は、流動試験要素1上の試験領域5への赤血球の浸入を示す。」と記載されているが、右、左の関係が明確でない。なお、「左側の緩和シグナルの増大」について原文では「An increase of the remission signal on the right hand side ・・・. 」と記載されており、「右側」と記載されている。
上記のとおり、本件特許明細書には不明確な記載があり、発明の詳細な説明は、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~11を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえないことから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4 甲号証等の記載
(1)甲1について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである。
(甲1ア)「【請求項8】
基材上に点着部および固定化部を備えるクロマトグラフィー試験片を免疫クロマトグラフィー測定装置に装着して検体中の分析対象の濃度を測定するに際し、
前記点着部が外部にはみ出すようにクロマトグラフィー試験片を免疫クロマトグラフィー測定装置に装着する工程と、
前記点着部に前記検体を点着する工程と、
前記点着部に照射した光の反射光の光学特性を測定して前記検体の点着を検知する工程と、
前記点着の検知からあらかじめ定めた任意の時間経過後に前記クロマトグラフィー試験片の前記固定化部より下流の終端部に照射した光の反射光の光学特性を測定して前記検体が前記終端部まで展開されたことを検知する工程と、
前記検体が前記終端部まで展開されたことを検知した場合のみ前記固定化部に照射した光の反射光の光学特性を測定して前記分析対象の濃度の測定を行う工程と
を有することを特徴とする免疫クロマトグラフィー測定方法。」
(甲1イ)「【0007】
本発明は上記問題点を解決するもので、測定の開始時期を自動的に判断し、最適なタイミングで測定することを目的とする。」
(2)甲2について
ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲2には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、下記の甲2発明の認定に関連する箇所として、当審において付与したものである
(甲2ア)「【請求項1】
被検出物質と特異的に結合する第1抗体または第1抗原が固定された膜担体、被検出物質と特異的に結合する第2抗体または第2抗原が固定された不溶性担体および細胞分離が可能な多孔性分離マトリックスからなる免疫クロマトグラフィー用試験片を用いて該被検出物質を免疫学的に測定する方法において、上記多孔性分離マトリックスに界面活性剤を予め浸潤せしめそして該被検出物質と該第2抗体または第2抗原を介して特異的に結合した該不溶性担体を、マンニトールを含有する展開溶媒で展開せしめることを特徴とする免疫学的測定方法。」
(甲2イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
・・・。免疫クロマトグラフィーの手法は公知であるが、その原理を模式的に図1に示す。
【0017】
図1の資料添加部位(1)に、検査対象となる被検出物質についての検体の試料が滴下される。
試料添加部位(1)は細胞分離が可能な多孔性分離マトリックスからなる免疫クロマトグラフィー用試験片からなる。多孔性分離マトリックスは、試料が滴下される前に予め界面活性剤で浸潤されていることが好ましい。多孔性分離マトリックスを界面活性剤で浸潤する方法は特に限定されず、例えば界面活性剤溶液に該マトリックスを浸漬した後、熱乾燥する方法等が挙げられる。
【0018】
本発明で対象とする検体としては、細胞や血球を含むものであれば良く、例えば血液、尿、髄液が挙げられる。
また、検体から検出する被検出物質としては、例えばHBs抗原等のウイルス表面抗原、PSA、CEA、AFP等の腫瘍マーカー、抗HIV抗体、抗HBV抗体、抗HCV抗体、抗ダニアレルゲン抗体、抗スギ花粉アレルゲン抗体等の免疫グロブリン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの検体は、細胞や血球を破壊しない方法で採取されることが好ましい。
試料添加部位(1)に滴下された試料は、被検出物質と特異的に結合する抗体または抗原(それぞれ第2抗体、第2抗原という)が固定された不溶性担体が保持された標識物質保持部位(2)を経てクロマトグラフィー媒体(3)を介して吸収部位(5)の方向に試料が展開される。検出部位(4)には被検出物質と特異的に結合する抗体または抗原(それぞれ、第1抗体、第1抗原という)が固定されている。被検出物質をクロマトグラフィー媒体(3)で展開するための、そして検出部位(4)を有する担体は膜担体からなる。
【0019】
本発明では、上記クロマトグラフィー媒体として、マンニトールを含有する展開溶媒が用いられる。マンニトールは好ましくは展開溶媒中に1~15重量%の割合で含有される。かかるマンニトール濃度の展開溶媒を用いることにより、溶血防止をしつつ非特異的反応を抑制して短時間で被検出物質を検出することができる。かかるマンニトール濃度の溶媒は、免疫クロマトグラフィー用展開溶媒としては知られていない。
検体中に対象とする被検出物質が混入している場合には、被検出物質と第2抗体あるいは第2抗原が反応し、これらの複合体が検出部位(4)に第1抗原または第1抗体によって補足され、着色のバンドが現れる。(4)に現れたバンドの色調等により、検体中に含まれる被検出物質の量を概略的に把握することができる。
標識物質保持部位(2)に使用する第2抗原または第2抗体、及び検出部位(4)に使用する第1抗原または第1抗体は、被検出物質の異なる部位を結合するものであれば良い。」
(甲2ウ)図1として、以下の図面が記載されている。
【図1】
(甲2エ)「【0026】
(3)免疫クロマトグラフィー用試験片の作製
上記作製した標識物質溶液300μLに300μLの10重量%トレハロース水溶液と1.8mLの蒸留水を加えたものを15mm×300mmのグラスファイバーパッド(ミリポア社製)に均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識保持部材(第2抗体が固定された不溶性担体)を作製した。
サンプルパッド(多孔性分離マトリックス)には血球分離膜(ポール社製:300mm×30mm)を用いた。このサンプルパッドを0.1重量%のTriton(登録商標) X-100(HLB=13)を含む20mMのTris-HCl緩衝液(pH8.0)を均一に3mL吸収させた後、40℃にて1時間、乾燥させた。
次に、バッキングシートから成る基材に、上記作製したクロマトグラフィー媒体、標識物質保持部材、試料を添加する部分に用いる上記サンプルパッド、展開した試料や標識物質を吸収するための吸収パッドを貼り合わせた。そして、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、免疫クロマトグラフィー用試験片とした。
【0027】
(4)展開用溶媒の作製
1重量%のBSAと150mMのNaClを含むHEPES緩衝液(pH8.0)10mLに10重量%となるようにD-マンニトール(和光純薬工業(株)製)を加えたものを調製し、展開用溶媒とした。
【0028】
(5)測定
上記作製した免疫クロマトグラフィー用試験片を用いて、以下の方法で血液中のPSAの存在の有無を測定した。
即ち、血液中のPSA濃度が0.1ng/mL未満の陰性検体と、PSA濃度が4ng/mLである陽性検体を被検体とし、被検体25μLを免疫クロマトグラフィー用試験片のサンプルパッド上に載せて、次いで100μLの展開用溶媒をサンプルパッド上に載せて展開させ、15分後に目視判定をした。テストラインの赤い線を確認できるものを「+」、赤い線は確認できるが、非常に色が薄いものを「±」、赤い線を確認できないものを「-」、溶血により測定できないものを「判定不可」とした。その結果を表1に示す。また、溶血の有無を表2に示す。」
(甲2オ)「【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
」
イ 甲2発明について
(ア)上記摘記(甲2ウ)の図1から、試料添加部位(1)に滴下された試料が、標識物質保持部位(2)を経てクロマトグラフィー媒体(3)を介して検出部位(4)に入り、そして、検出部位(4)と吸収部位(5)の間の領域を通り吸収部位(5)の方向に展開されていることが見て取れる。
(イ)摘記(甲2エ)の「試料を添加する部分に用いる上記サンプルパッド」との記載から、サンプルパッドは試料添加部位(1)のことである。
(ウ)甲2発明
上記アの摘記事項並びに(ア)及び(イ)より、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「試料添加部位(1)に滴下された試料が、標識物質保持部位(2)を経てクロマトグラフィー媒体(3)を介して検出部位(4)に入り、そして、検出部位(4)と吸収部位(5)の間の領域を通り吸収部位(5)の方向に展開される免疫クロマトグラフィー用試験片を用いて、血液中のPSAの存在の有無を測定する方法において
被検体25μLを免疫クロマトグラフィー用試験片の試料添加部位(1)上に載せて、次いで100μLの展開用溶媒を試料添加部位(1)上に載せて展開させ、15分後に目視判定により、テストラインの赤い線を確認できるものを+、赤い線は確認できるが、非常に色が薄いものを±、赤い線を確認できないものを-、溶血により測定できないものを判定不可とする方法。」
(3)甲3について
本件特許に係る出願の優先日前に頒布され甲3には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである。
(甲3ア)「【請求項15】被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定装置において、
前記被検査溶液を添加した前記クロマトグラフィー試験片上の生地部の下流側端部に、光ビームを照射して得られる検出信号から、被検査溶液の添加量不足、及び前記クロマトグラフィー試験片の展開不良を判定する、
ことを特徴とするクロマトグラフィー定量測定装置。」
(甲3イ)「【0010】本発明は、かかる問題点を解消するためになされたものであり、測定までの時間管理、及び試験片の状態の良否、定量測定の補正を自動的に行い、装置の操作性を容易にしたクロマトグラフィー定量測定装置を提供することを目的とするものである。」
(甲3ウ)「【0042】このように構成されたクロマトグラフィー定量測定装置について、その動作を図1を用いて説明する。まず、被検査溶液添加部11に被検査溶液が添加されると、展開層14に被検査溶液が展開される。この時、標識試薬保持部12に被検査溶液が達すると、標識試薬を溶出しながら、被検査溶液中に含まれる分析対象物と特異的に結合する。続いて、この結合物が試薬固定化部13において固定化され、また固定化されない残りの標識試薬は、固定化されずに展開層14の下流側に流出する。
【0043】被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度は、クロマトグラフィー試験片8の試薬固定化部13と生地部15の吸光度信号の差を検出し、既知の検量線から換算することによって求めることができる。
【0044】ここで、クロマトグラフィー試験片8を長辺方向に走査することにより、単独の光ビームによって、生地部15と試薬固定化部13の吸光度信号の差が測定可能となっている。また光ビームを楕円とすることによって、クロマトグラフィー試験片8の短辺方向の位置によるムラの影響が緩和されている。
【0045】次に吸光度測定について説明する。図2は、本発明の実施の形態1によるクロマトグラフィー試験片の吸光度測定を示す図である。図2(a)は、クロマトグラフィー試験片上における被検査溶液の展開の状態と光ビームの照射位置を示している。また、図2(b)は、測定時間に対する吸光度信号の変化を示している。」
(甲3エ)「【0059】(実施の形態3)以下、本発明の請求項12から請求項14に対応する発明の実施の形態3について、図4を用いて説明する。図4は本発明の実施の形態3によるクロマトグラフィー試験片による吸光度測定結果の、被検査溶液による相異を示す図である。図4(a)は、クロマトグラフィー試験片上における光ビームの走査の状態、また図4(b)は、光ビームの位置に対する吸光度信号の変化を示している。
【0060】光ビーム16は、クロマトグラフィー試験片8上において、上流側生地部15aから試薬固定化部13を通過して、下流側生地部15bまで走査する。この時の吸光度信号は、被検査溶液の種類によって異なる。例えば血漿サンプルと全血サンプルでは、全血サンプルの方が全体的に吸光度が高くなる。また、生地部15における吸光度の大きさは、被検査溶液に含まれる分析対象物の濃度に関わらず一定となる。」
(甲3オ)「【0068】このように、本実施の形態4によるクロマトグラフィー定量測定装置によれば、被検査溶液を添加したクロマトグラフィー試験片上の生地部の下流側端部に、光ビームを照射して得られる検出信号から、被検査溶液の添加量不足、及びクロマトグラフィー試験片の展開不良を判定したので、クロマトグラフィー試験片に添加された被検査溶液の添加量不足や、目詰まりなどで発生する、クロマトグラフィー試験片の展開不良を検知することができる。」
5 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 特許法第29条第2項について
取消理由通知に記載した取消理由においては、上記2で述べた申立理由2のうち、訂正前の請求項1~11に係る発明が、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当することについては取消理由として通知しなかったが、ここで合わせて判断することにする。
(ア)本件発明1について
a 甲2発明との対比
(a)甲2発明の「血液中のPSAの存在の有無を測定する」「検出部位(4)」は、本件発明1の「体液及び/又は当該体液中の成分中のマーカーを検出するように設定された試験領域(5)」に相当し、甲2発明の「免疫クロマトグラフィー用試験片」は、本件発明1の「流動試験要素(flow test element)」に相当する。
(b)甲2発明の「試料添加部位(1)」、「クロマトグラフィー媒体(3)」、「検出部位(4)」、「検出部位(4)と吸収部位(5)の間の領域」、「吸収部位(5)」は、順に本件発明1の「適用領域(3)」、「橋領域(4)」、「試験領域(5)」、「領域(7)」及び「対照領域(6)」に相当し、そして、甲2発明で「試料添加部位(1)に滴下された試料」がそれらを経て「吸収部位(5)の方向に展開される」ことは、それらが流体により連結しているといえる。
してみれば、甲2発明の「試料添加部位(1)に滴下された試料が、標識物質保持部位(2)を経てクロマトグラフィー媒体(3)を介して検出部位(4)に入り、そして、検出部位(4)と吸収部位(5)の間の領域を通り吸収部位(5)の方向に展開される」ことは、本件発明1の「複数の機能領域(3、4、5、6、7)を有する流動試験要素を提供する工程であり、当該複数の機能領域(3、4、5、6、7)が、少なくとも部分的には流体により連結しており、そして適用領域(3)、及び当該適用領域(3)と流体により連結し」ていることに相当する。
(c)甲2発明の「被検体25μLを免疫クロマトグラフィー用試験片の試料添加部位(1)上に載せ」ることは、本件発明1の「少量の液体試料を前記流動試験要素の試料適用領域(3)に適用する工程」に相当する。
(d)上記(a)~(c)を踏まえれば、本件発明1と甲2発明とは、
(一致点)
「流動試験要素(flow test element)における方法であり:
・複数の機能領域(3、4、5、6、7)を有する流動試験要素を提供する工程であり、当該複数の機能領域(3、4、5、6、7)が、少なくとも部分的には流体により連結しており、そして適用領域(3)、及び当該適用領域(3)と流体により連結し、かつ体液及び/又は当該体液中の成分中のマーカーを検出するように設定された試験領域(5)を有する、当該工程;
・少量の液体試料を前記流動試験要素の試料適用領域(3)に適用する工程;
を含む、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
流動試験要素(flow test element)における方法が、本件発明1は、「適正な試験の進行(correct test performance)を判定する方法であり」「前記流動試験要素における適正な試料の使用を判定する工程であって、1つ以上の機能領域(3、4、5、6、7)において1つ以上の光学的パラメーターを測定し、そして当該測定された1つ以上の光学的パラメーターと、前記1つ以上の機能領域(3、4、5、6、7)に割り当てられた1つ以上の所定の光学的パラメーターとを比較することにより、前記複数の機能領域(3、4、5、6、7)の1つの領域に到達した適用された液体試料の一部が、前記流動試験要素が判定の対象とする体液又は体液の成分であるか否かを光学的に判定する工程;を含み、前記機能領域に到達した試料の一部が前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」ものであるのに対し、甲2発明は、「展開用溶媒」により「展開させ」られた「試料」について「目視判定により、テストラインの赤い線を確認できるものを+、赤い線は確認できるが、非常に色が薄いものを±、赤い線を確認できないものを-、溶血により測定できないものを判定不可とする」ものである点。
b 相違点についての判断
(a)実質的な相違点
引用発明の「目視判定により、テストラインの赤い線を確認できるものを+、赤い線は確認できるが、非常に色が薄いものを±、赤い線を確認できないものを-、溶血により測定できないものを判定不可とする」ことについて、上記甲2の摘記(甲2オ)の表1及び表2をみると、溶血が「僅かに有」である実施例3及び4についても「陰性検体」及び「陽性検体」の判定を行っている。また、溶血とは、一般に、試料中の赤血球が破壊された状態のことをいい、試料に赤血球が入っていても破壊(溶血)されていなければ、静置することにより赤血球が沈殿し試料は透明になることは優先日前に技術常識である。してみれば、引用発明においては、試料に赤血球成分が入っていても「PSAの存在の有無を測定する」「免疫クロマトグラフィー用試験」の試料としてすべて適正な試料として目視による判定を行い、溶血(赤血球の破壊)の度合いがひどく目視判定によってはどうしても判定できない場合には「判定不可」とするだけである。
それに対し、本件発明1では、例えば、本件特許明細書に「全血試料中のマーカーを判定しようとする場合、通常、試験領域5自体への赤血球の浸入は避けるべきである。上記態様により、そのような浸入が起こったか否かをチェックすることができる。適正な試料の使用を判定する工程がそのような浸入が起こったことを示した場合、これは、そのような状況で回収された測定結果が適正ではないことを、使用者に教示する。」(【0065】)と記載されているとおり、測定できないことを判定不可等と示す技術ではなく、測定はできるが、その試料が「適正な試料」ではない、すなわち、そもそも測定すべき試料かどうかを判定する技術であり、「適正な試験の進行(correct test performance)を判定する方法であり」「前記流動試験要素における適正な試料の使用を判定する工程であって、」「前記複数の機能領域(3、4、5、6、7)の1つの領域に到達した適用された液体試料の一部が、前記流動試験要素が判定の対象とする体液又は体液の成分であるか否かを」「判定する工程;を含み、前記機能領域に到達した試料の一部が前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」ものであるという点で、甲2発明とは根本的に異なるものである。
加えて、甲2発明は、目視判定するものであるから、上記相違点の「1つ以上の機能領域(3、4、5、6、7)において1つ以上の光学的パラメーターを測定し、そして当該測定された1つ以上の光学的パラメーターと、前記1つ以上の機能領域(3、4、5、6、7)に割り当てられた1つ以上の所定の光学的パラメーターとを比較することにより」「光学的に」判定することについても記載されていない。
してみれば、上記相違点は、実質的な相違点である。
(b)容易性
上記(a)で説示したとおり、甲2発明の「目視判定により、テストラインの赤い線を確認できるものを+、赤い線は確認できるが、非常に色が薄いものを±、赤い線を確認できないものを-、溶血により測定できないものを判定不可とする」ことと、本件発明1の「適正な試験の進行(correct test performance)を判定する方法であり」「前記流動試験要素における適正な試料の使用を判定する工程であって、」「前記複数の機能領域(3、4、5、6、7)の1つの領域に到達した適用された液体試料の一部が、前記流動試験要素が判定の対象とする体液又は体液の成分であるか否かを」「判定する工程;を含み、前記機能領域に到達した試料の一部が前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」こととは、根本的に異なるものである。
この点、甲1には、上記4(1)で摘記したとおり、測定の開始時期を自動的に判断し、最適なタイミングで測定することを目的として、検体を点着する点着部に照射した光の反射光の光学特性を測定して前記検体の点着を検知する工程と、前記点着の検知からあらかじめ定めた任意の時間経過後に前記クロマトグラフィー試験片の前記固定化部より下流の終端部に照射した光の反射光の光学特性を測定して前記検体が前記終端部まで展開されたことを検知する工程と、前記検体が前記終端部まで展開されたことを検知した場合のみ前記固定化部に照射した光の反射光の光学特性を測定して前記分析対象の濃度の測定を行う工程とを有する免疫クロマトグラフィー測定方法の技術が開示されているが、これは、本件発明1の「「適正な試験の進行(correct test performance)を判定する方法であり」「前記流動試験要素における適正な試料の使用を判定する工程であって、」「前記複数の機能領域(3、4、5、6、7)の1つの領域に到達した適用された液体試料の一部が、前記流動試験要素が判定の対象とする体液又は体液の成分であるか否かを」「判定する工程;を含み、前記機能領域に到達した試料の一部が前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」ものではない。
また、甲3には、上記4(3)で摘記したとおり、測定までの時間管理、及び試験片の状態の良否、定量測定の補正を自動的に行い、装置の操作性を容易にしたクロマトグラフィー定量測定装置を提供することを目的として、被検査溶液を添加した前記クロマトグラフィー試験片上の生地部の下流側端部に、光ビームを照射して得られる検出信号から、被検査溶液の添加量不足、及び前記クロマトグラフィー試験片の展開不良を判定する、クロマトグラフィー定量測定装置の技術が開示されているが、これについても、本件発明1の「「適正な試験の進行(correct test performance)を判定する方法であり」「前記流動試験要素における適正な試料の使用を判定する工程であって、」「前記複数の機能領域(3、4、5、6、7)の1つの領域に到達した適用された液体試料の一部が、前記流動試験要素が判定の対象とする体液又は体液の成分であるか否かを」「判定する工程;を含み、前記機能領域に到達した試料の一部が前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」ものではない。
してみれば、甲2発明に、いかに甲1の技術的事項又は甲3の技術的事項を組み合わせても、上記相違点のうち「適正な試験の進行(correct test performance)を判定する方法であり」「前記流動試験要素における適正な試料の使用を判定する工程であって、」「前記複数の機能領域(3、4、5、6、7)の1つの領域に到達した適用された液体試料の一部が、前記流動試験要素が判定の対象とする体液又は体液の成分であるか否かを」「判定する工程;を含み、前記機能領域に到達した試料の一部が前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」ことが当業者が容易になし得たこととはいえないのであるから、上記相違点の「1つ以上の機能領域(3、4、5、6、7)において1つ以上の光学的パラメーターを測定し、そして当該測定された1つ以上の光学的パラメーターと、前記1つ以上の機能領域(3、4、5、6、7)に割り当てられた1つ以上の所定の光学的パラメーターとを比較することにより」「光学的に」判定することについて検討するまでもなく、上記相違点は当業者が容易になし得たこととはいえない。
c 小括
したがって、本件発明1は、甲2発明ではなく、かつ、甲2発明及び甲1又は甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得た発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえない。
(イ)本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定した発明であるから、本件発明2~11についても、甲2発明ではなく、かつ、甲2発明及び甲1又は甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得た発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえない。
イ 職権による取消理由について
(ア)特許法第36条第6項第1号及び第2号について
上記第2の1(1)で記載したように、訂正前の請求項1記載の「前記機能領域に到達した試料の一部が体液又は体液の成分である場合に、」が「前記機能領域に到達した試料の一部が前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、」に訂正されたことにより、本件発明1のその余の特定事項及び本件特許明細書の記載と整合することとなったことから、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~11に係る特許は、許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
(イ)特許法第36条第4項第1号について
上記第2の1(3)及び(4)で記載したように、本件特許明細書の【0053】の「試験領域4」が「試験領域5」に、【0066】の「左から右に」、「左側に、」及び「左側の緩和シグナルの増大は、」が「右から左に」、「グラフ左側に、」及び「右側の緩和シグナルの増大は、」に訂正されたことにより、本件特許明細書の不明確な記載がなくなり、発明の詳細な説明は、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~11を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとなり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、平成30年6月18日付けの意見書で、
「甲2は、溶血によりテストラインの赤い線を確認できない場合を目視により、「判定不可」として、適正な試験の進行を判定しているのであるから、本件発明1に示すような、適正な試験の進行を判定する独立した制御工程とみなすことができる。」、「甲第2号証の解析対象である「溶血していない血液」かどうかを判定することによる、適正な試験の進行の判定は本件発明1に含まれる。」、「本試験結果は、溶血について「無」「有」「僅かに有」の3段階の判定ができ、「有」の場合に「判定不可」という判定がされていることが示されている。いずれにしても試料が溶血しているか否かの判定をして、適正な試験の進行を判定していることは、甲第2号証に記載されている。したがって、甲第2号証における溶血の目視判定は、本件発明1に示す適正な試験の進行を判定するための独立した工程を構成していることは明らかである。そして光学的手段により試験片を分析する手段については周知であるし、甲第3号証にも記載されているから、甲第2号証と周知技術又は甲第3号証を組み合わせることにより本件特許発明1に容易に想到することができる。」(下線は当審において付与した。)と主張している。
しかしながら、甲2発明は、上記ア(ア)b(a)で説示したとおり、目視によりPSAの存在の有無について判定するものであり、それが溶血(赤血球の破壊)の度合いがひどく目視判定によってはどうしても判定できない場合には「判定不可」とするだけであり(上記甲2の摘記(甲2エ)の表1及び表2をみると、溶血が有る場合でも目視により判定できる場合には「陰性検体」及び「陽性検体」の判定を行っている)、申立人が主張するような「溶血していない血液」かどうかを判定する発明ではなく、申立人の主張は、その前提において誤りである。
よって、申立人の主張により、上記ア(ア)b(a)及び(b)の判断が変わることはない。
エ まとめ
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立理由2によっては、本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 申立理由1及び3について
(ア)本件発明1について
a 甲1発明及び甲3発明について
甲1には、上記4(1)の(甲1イ)に記載されているとおり、測定の開始時期を自動的に判断し、最適なタイミングで測定することを目的とするが発明が記載されており、(甲1ア)に記載されているように、
「基材上に点着部および固定化部を備えるクロマトグラフィー試験片を免疫クロマトグラフィー測定装置に装着して検体中の分析対象の濃度を測定するに際し、
前記点着部が外部にはみ出すようにクロマトグラフィー試験片を免疫クロマトグラフィー測定装置に装着する工程と、
前記点着部に前記検体を点着する工程と、
前記点着部に照射した光の反射光の光学特性を測定して前記検体の点着を検知する工程と、
前記点着の検知からあらかじめ定めた任意の時間経過後に前記クロマトグラフィー試験片の前記固定化部より下流の終端部に照射した光の反射光の光学特性を測定して前記検体が前記終端部まで展開されたことを検知する工程と、
前記検体が前記終端部まで展開されたことを検知した場合のみ前記固定化部に照射した光の反射光の光学特性を測定して前記分析対象の濃度の測定を行う工程と
を有することを特徴とする免疫クロマトグラフィー測定方法。」(以下「甲1発明」という。)の発明が記載されている。
また、甲3には、(甲3イ)に記載されているとおり、測定の開始時期を自動的に判断し、最適なタイミングで測定することを目的とするが発明が記載されており、(甲3ア)に記載されているように、
「被検査溶液を展開する展開層と、前記展開層の一部に前記被検査溶液中の測定対象物に対する試薬を固定化することにより形成された試薬固定化部と、前記展開層の他の一部に前記被検査溶液の展開により溶出可能な標識試薬を保持することにより形成された標識試薬保持部と、前記展開層から前記試薬固定化部、及び前記標識試薬保持部を除いた部分である生地部とを備えたクロマトグラフィー試験片に、光源から出射された光ビームを照射し、前記クロマトグラフィー試験片からの透過光もしくは反射光を利用して光学的な信号検出を行い、前記信号から定量的に前記被検査溶液中に含まれる分析対象物の濃度を測定するクロマトグラフィー定量測定装置において、
前記被検査溶液を添加した前記クロマトグラフィー試験片上の生地部の下流側端部に、光ビームを照射して得られる検出信号から、被検査溶液の添加量不足、及び前記クロマトグラフィー試験片の展開不良を判定する、
ことを特徴とするクロマトグラフィー定量測定装置。」(以下「甲3発明」という。)
b 判断
上記甲1発明及び甲3発明(特に下線部参照)も、上記(1)ア(ア)b(b)で説示したように、本件発明1の「「適正な試験の進行(correct test performance)を判定する方法であり」「前記流動試験要素における適正な試料の使用を判定する工程であって、」「前記複数の機能領域(3、4、5、6、7)の1つの領域に到達した適用された液体試料の一部が、前記流動試験要素が判定の対象とする体液又は体液の成分であるか否かを」「判定する工程;を含み、前記機能領域に到達した試料の一部が前記流動試験要素の解析対象である体液又は体液の成分である場合に、試験が適切に進行されたと判定される」ものではないことから、本件発明1は、甲1発明でも、甲3発明でもなく、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない
そして、本件発明1の上記点は、上記(1)ア(ア)b(a)で説示したとおり、甲1にも記載されていないことから、甲1発明あるいは甲3発明及び甲1~3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
(イ)本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定した発明であるから、本件発明2~11についても、甲1発明あるいは甲3発明ではなく、かつ、甲2発明あるいは甲3発明及び甲1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得た発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
イ まとめ
以上のとおり、申立理由1及び3によっては、本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-701063