特許異議申立
2017-701030
表面処理シリカ粉末、スラリー組成物及びそれを用いた樹脂組成物
- 審判番号
- 2017-701030
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-168327外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年10月26日
- 審決日
- 2018年05月07日
- 公報発行日
- 2018年08月31日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第126条第4項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6121845号発明「表面処理シリカ粉末、スラリー組成物及びそれを用いた樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6121845号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第6121845号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6121845号は、平成25年 8月13日に出願された特願2013-168327号について、平成29年 4月 7日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1~3に係る特許に対し、平成29年10月26日付けで特許異議申立人 大井 四郎により特許異議の申立てがされ、平成29年12月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年 3月 2日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、特許異議申立人に意見を求めたものの応答がなかったものである。
第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成30年 3月 2日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1~2よりなる。
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項2に記載のスラリー組成物」と記載されているのを、「エポキシ樹脂、ビニルトリメトキシシラン及び請求項2に記載のスラリー組成物」に訂正する。
(イ)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0031】【表2】に記載された「実施例10」を「比較例10」に訂正する。
2.訂正の適否
(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項3に記載された樹脂組成物について、「請求項2に記載のスラリー組成物を用いた」を「エポキシ樹脂、ビニルトリメトキシシラン及び請求項2に記載のスラリー組成物を用いた」に訂正するものであり、訂正前の請求項3の記載では、樹脂組成物に用いられるものが特定されていないのに対し、訂正後の請求項3の記載は、樹脂組成物に用いられるものがエポキシ樹脂及びビニルトリメトキシシランであることを明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0028】の「(3)樹脂硬化物の作製 エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON-850」(DIC株式会社製、エポキシ当量186g/eq)10.0質量部、・・・表面処理剤(SC剤)としてビニルトリメトキシシラン「KBM-1003」(信越化学工業株式会社製、分子量148.2)0.28質量部を得られたスラリー組成物100質量部に溶解し、樹脂組成物(エポキシ樹脂ワニス)を調製した。」との記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
(イ)訂正事項2について
願書に添付した明細書の段落【0031】【表2】に記載された「実施例10」は、本件発明の評価の指標である樹脂組成物の分散性、樹脂硬化物の成型性が共に×であり、さらにシリカ粉末の疎水化度も本件発明の範囲外である5.2%と記載され、さらに、かかる表2の記載の例は「実施例10」以外は全て「比較例」と記載されていること、かつ他の段落の【0030】【表1】には「実施例10」との記載があり、かかる表1に記載の例は全て「実施例」と記載され、実施例10は上記樹脂組成物の分散性、樹脂硬化物の成型性が共に○であり、さらにシリカ粉末の疎水化度も本件発明の範囲内の1.2%と記載されていることから、【0031】【表2】に記載された「実施例10」が「比較例10」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0031】【表2】に記載された明らかな誤記を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定されている誤記の訂正を目的とするものである。
そして、当該訂正事項2は、明細書の段落【0031】【表2】に記載されている「比較例」という正しい記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
3.一群の請求項について
訂正事項1は、訂正前の請求項3を訂正するものであり、また、本件特許明細書に係る訂正事項2は、明細書の誤記を訂正するものであるから、訂正前の一群の請求項1~3に関連するものである。
したがって、本件訂正は、一群の請求項1~3について請求するものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第4項~第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正を認める。
第3.特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1~3に係る発明(以下「訂正発明1」~「訂正発明3」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
体積平均粒径が0.80~1.3μm、粒度分布における累積体積10%値(D10)と累積体積50%値(D50)の比(D10/D50)=0.20~0.50、BET比表面積値が3.5~5.5m2/g、疎水化度が1.0~5.0%である球状シリカ粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の球状シリカ粉末を含有してなるスラリー組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂、ビニルトリメトキシシラン及び請求項2に記載のスラリー組成物を用いた樹脂組成物。」
2.取消理由について
(1)訂正前の請求項3に係る特許に対して、平成29年12月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許明細書の実施例には、樹脂組成物において、樹脂としてエポキシ樹脂を用い、さらにKBM-1003(ビニルトリメトキシシラン)を共存させたものしか開示されておらず、樹脂組成物において、エポキシ樹脂とビニルトリメトキシシランとを共存させるもの以外の組み合わせについてまで課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、本件特許発明3の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、また、実施例の樹脂組成物において、ビニルトリメトキシシランを表面処理剤としてエポキシ樹脂に含ませることの技術的意義が不明であり、委任省令要件違反に該当するものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)樹脂組成物において用いられる樹脂と表面処理剤について通知した取消理由に対し、本件訂正請求により、訂正発明3の樹脂組成物において、エポキシ樹脂及びビニルトリメトキシシランが用いられることが特定され、当該樹脂組成物において、球状シリカ粉末をエポキシ樹脂に高充填した際、球状シリカ粒子が良好に分散してなる樹脂組成物を得る課題を解決でき、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が課題を解決する手段を理解できるものであることが明らかとなった。
(3)取消理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求項3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。
3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
申立人は、上記取消理由の他に、
訂正前の請求項1~3に係る発明に含まれない具体例である表2の「実施例10」が実施例とされていることから、本件特許明細書の記載は、当業者がこれらの発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、発明の課題の解決手段を理解できないものであり、また、樹脂組成物において、エポキシ樹脂とビニルトリメトキシシランとを共存させるもの以外の組み合わせについてまで課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、訂正前の請求項1~2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、訂正前の請求項1~3に係る特許は特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張し(以下「申立理由1」という。)、
さらに、甲第1~4号証(以下、「甲1~4」という。)を提出し、訂正前の請求項1,3に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲1~4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張している(以下「申立理由2」という。)
甲第1号証:特開2001-81305号公報
甲第2号証:アドマテックス社製品カタログ「MIRACLE ADMAFINE」、平成22年6月発行
甲第3号証:特開2013-101411号公報
甲第4号証:特開2012-140529号公報
(2)申立理由1について
本件訂正請求により、表2の記載は「比較例10」であることが明らかとなったので、本件特許明細書の記載は、当業者が訂正発明1~3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、発明の課題の解決手段を理解できるものといえる。
また、訂正発明1,2は、球状シリカ粉末を訂正発明3に係る樹脂へ高充填した際に、硬化前の樹脂組成物の流動性を極めて高くし、硬化後の樹脂組成物の基板強度を高くできる課題を解決できるものであるから、訂正発明1,2の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるものといえる。
したがって、この申立理由には理由がない。
(3)申立理由2について
申立人は、訂正前の請求項1に係る発明について、甲1に記載された発明であるか、甲3,4に記載された発明から容易に想到し得るものである旨主張していることから、これらの点について検討する。
ア)甲1発明について
甲1の請求項1、【0002】、【0006】、【0022】、【0051】、実施例9には、プリント配線基板の材料に用いる硬化性ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に充分な分散性を有するフィラーとして、本件特許明細書の実施例9で用いられている表面処理剤と同じシランカップリング剤であるビニルトリメトキシシランを、0.8wt%用いて処理されたアドマファインSO-C3である球状シリカ(以下、甲1発明という。)が記載されているものと認められる。
そして、甲2の記載によれば、アドマファインSO-C3は、体積平均粒径が0.8-1.2μm、比表面積が3-6m2/g、D10/D50が0.39~0.51の範囲であるといえる。
しかしながら、甲1には、甲1発明の表面処理された球状シリカの疎水化度を1.0~5.0%とすることは記載も示唆もされていない。
また、訂正発明1の球状シリカ粉末は、本件特許明細書の段落【0019】、【0028】に記載されているとおり、超音波噴霧器を用いてシリカ粒子表面に予め表面処理剤を吸着させた後、オートクレーブを用いた加圧処理を行うことで、表面シラノール基と表面処理剤を均一に反応させているものであるのに対し、甲1発明は、どのような条件で表面処理を行っているのかが明らかでないことから、甲1発明が、本件特許発明の実施例と同じシランカップリング剤を用いており、シランカップリング剤の処理量が通常の表面処理で用いられる量と同じであるとしても、甲1発明の表面処理された球状シリカの疎水化度が1.0~5.0%であるとまではいえない。
イ)甲3発明について
甲3の請求項1、【0010】、【0017】には、液晶表示素子の製造において採用される液晶滴下法用シール剤である樹脂組成物に無機充填材として充填される表面が疎水化されたM値が20以上のシリカ粉末(以下、甲3発明という。)が記載されているものと認められる。
ここで、M値は疎水化の程度を示す指標であり、本件特許明細書の段落【0029】で記載された疎水化度の定義と甲3の段落【0010】で記載されたM値の定義をみると、両者は、疎水化度を測定する際の温度が明らかでない点でのみ相違するものであって、類似の疎水化の程度を示す指標であることがわかる。
一方、甲4の請求項1,2、【0015】、【0019】、【0020】、【0028】、実施例3,6,8には、水性表面と疎水性表面とを有する無機微粒子である両親媒性粒子において、M値は、両親媒性粒子の界面活性及び分散安定剤の分散安定性等の観点から、1~35が好ましく、実施例において、M値が1や5であるシリカ微粒子が記載されているものと認められる。
してみると、甲3発明は、M値を20以上とするものであるから、甲4に分散安定性の観点からシリカ微粒子のM値を1~5にする技術が記載されていたとしても、甲3発明において、疎水化度を1.0~5.0%(M値が1~5程度)とすることには、阻害要因があるといえる。
ウ)まとめ
してみれば、訂正発明1は、甲1に記載された発明でも、甲1~4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、訂正発明1を引用する訂正発明2~3についても同様である。
第4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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