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特許異議申立

2017-700874

高調波電流補償装置及び空気調和システム

審判番号
2017-700874
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-511225外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年09月14日
審決日
2018年08月22日
公報発行日
2018年11月30日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1652.537-YAA(H02K) / P1652.113-YAA(H02K) / P1652.121-YAA(H02K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6095849号発明「高調波電流補償装置及び空気調和システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6095849号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6095849号の請求項1及び8に係る特許を維持する。 特許第6095849号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1.手続の経緯 特許第6095849号の請求項1~8に係る特許についての出願は、2014年3月31日を国際出願日とする出願であって、平成29年2月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年9月14日付けで特許異議申立人小寺吉衛により請求項1、2及び8に対して特許異議の申立てがされ、平成30年1月30日付けで取消理由が通知され、平成30年4月6日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、特許異議申立人小寺吉衛から平成30年7月6日付けで意見書が提出されたものである。 第2.訂正の適否 1.訂正の内容 平成30年4月6日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項1~6のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「系統電源に接続された負荷に並列に接続され、補償電流を供給することで、前記系統電源から前記負荷に入力される負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波電流補償装置であって、前記負荷電流を検出する負荷電流検出手段と、供給された前記補償電流を検出する補償電流検出手段と、前記負荷電流検出手段で検出された前記負荷電流に含まれる前記高調波成分と、前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流と、に基づいて、前記補償電流の制御量を演算する制御量演算手段と、前記制御量演算手段で演算した制御量を抑制するリミッタと、を備えた高調波電流補償装置。」と記載されているのを、「系統電源に接続された負荷に並列に接続され、補償電流を供給することで、前記系統電源から前記負荷に入力される負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波電流補償装置であって、前記負荷は、供給される前記補償電流の値が予め定められた値を超えた場合、運転を停止し、前記負荷電流を検出する負荷電流検出手段と、供給された前記補償電流を検出する補償電流検出手段と、前記負荷電流検出手段で検出された前記負荷電流に含まれる前記高調波成分と、前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流と、に基づいて、前記補償電流の制御量を演算する制御量演算手段と、前記制御量演算手段で演算した制御量を抑制するリミッタと、を備え、前記リミッタは、前記制御量演算手段で演算した制御量を予め設定された設定値以下に抑制し、前記設定値は、前記設定値に抑制された制御量によって生成された制御信号に基づく補償電流の値が、前記負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定されている高調波電流補償装置。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に、「前記補償電流と、当該補償電流に対応する位相と、を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている前記補償電流に基づいて、前記補償電流が予め設定された設定値を超えるときの位相を予測する予測手段と、をさらに備え、前記リミッタは、前記予測手段で予測された位相を基準として予め設定された範囲内にある位相に対応する前記補償電流の制御量を抑制する請求項1又は2に記載の高調波電流補償装置。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「系統電源に接続された負荷に並列に接続され、補償電流を供給することで、前記系統電源から前記負荷に入力される負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波電流補償装置であって、前記負荷電流を検出する負荷電流検出手段と、供給された前記補償電流を検出する補償電流検出手段と、前記負荷電流検出手段で検出された前記負荷電流に含まれる前記高調波成分と、前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流と、に基づいて、前記補償電流の制御量を演算する制御量演算手段と、前記制御量演算手段で演算した制御量を抑制するリミッタと、前記補償電流と、当該補償電流に対応する位相と、を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている前記補償電流に基づいて、前記補償電流が予め設定された設定値を超えるときの位相を予測する予測手段と、を備え、前記リミッタは、前記予測手段で予測された位相を基準として予め設定された範囲内にある位相に対応する前記補償電流の制御量を抑制する高調波電流補償装置。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に、「前記負荷電流に含まれる前記高調波成分の振幅を抑制する抑制演算手段をさらに備え、前記補償電流を抑制させるか否かが判定される抑制判定値が、前記負荷の運転を停止させるか否かが判定される電流閾値未満に設定されてあって、前記系統電源は、三相交流電源であって、前記抑制演算手段は、前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流のうち、少なくとも一相の前記補償電流が予め設定された抑制判定値に達している場合、前記負荷電流の前記高調波成分の指令値を抑制する請求項1又は2に記載の高調波電流補償装置。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「系統電源に接続された負荷に並列に接続され、補償電流を供給することで、前記系統電源から前記負荷に入力される負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波電流補償装置であって、前記負荷電流を検出する負荷電流検出手段と、供給された前記補償電流を検出する補償電流検出手段と、前記負荷電流検出手段で検出された前記負荷電流に含まれる前記高調波成分と、前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流と、に基づいて、前記補償電流の制御量を演算する制御量演算手段と、前記制御量演算手段で演算した制御量を抑制するリミッタと、前記負荷電流に含まれる前記高調波成分の振幅を抑制する抑制演算手段と、を備え、前記補償電流を抑制させるか否かが判定される抑制判定値が、前記負荷の運転を停止させるか否かが判定される電流閾値未満に設定されてあって、前記系統電源は、三相交流電源であって、前記抑制演算手段は、前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流のうち、少なくとも一相の前記補償電流が予め設定された抑制判定値に達している場合、前記負荷電流の前記高調波成分の指令値を抑制する高調波電流補償装置。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7の何れか一項に記載の高調波電流補償装置」と記載されているのを、「請求項1、3~7の何れか一項に記載の高調波電流補償装置」に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落[0010]に「本発明に係る高調波電流補償装置は、系統電源に接続された負荷に並列に接続され、補償電流を供給することで、系統電源から負荷に入力される負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波電流補償装置であって、負荷電流を検出する負荷電流検出手段と、供給された補償電流を検出する補償電流検出手段と、負荷電流検出手段で検出された負荷電流に含まれる高調波成分と、補償電流検出手段で検出された補償電流と、に基づいて、補償電流の制御量を演算する制御量演算手段と、制御量演算手段で演算した制御量を抑制するリミッタと、備えたものである。」と記載されているのを、「本発明に係る高調波電流補償装置は、系統電源に接続された負荷に並列に接続され、補償電流を供給することで、系統電源から負荷に入力される負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波電流補償装置であって、負荷は、供給される補償電流の値が予め定められた値を超えた場合、運転を停止し、負荷電流を検出する負荷電流検出手段と、供給された補償電流を検出する補償電流検出手段と、負荷電流検出手段で検出された負荷電流に含まれる高調波成分と、補償電流検出手段で検出された補償電流と、に基づいて、補償電流の制御量を演算する制御量演算手段と、制御量演算手段で演算した制御量を抑制するリミッタと、備え、前記リミッタは、制御量演算手段で演算した制御量を予め設定された設定値以下に抑制し、設定値は、設定値に抑制された制御量によって生成された制御信号に基づく補償電流の値が、負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定されている。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 請求項1に「前記負荷は、供給される前記補償電流の値が予め定められた値を超えた場合、運転を停止し」という事項を付加することにより、訂正前の請求項1に記載された「負荷」を限定し、更に、請求項1に、訂正前の請求項2に記載された「前記リミッタは、前記制御量演算手段で演算した制御量を予め設定された設定値以下に抑制し、前記設定値は、前記設定値に抑制された制御量によって生成された制御信号に基づく補償電流の値が前記負荷の運転を停止する電流の値を超えないように設定されている」における「前記負荷の運転を停止する電流の値」との事項を「前記負荷が運転を停止する値である過電流レベル」に訂正した上で付加することにより、訂正前の請求項1に記載された「リミッタ」の構成を限定していることから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の「仮に、補償電流Iaが過電流レベルを超えた場合、絶縁破壊等の電気回路の損傷を回避するため、高調波発生負荷13は運転を停止する。」(段落【0032】)との記載からみて、過電流レベルは補償電流Iaと比較されるため予め定められていることが明らかであることから、過電流レベルは予め定められた値であるといえるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、負荷は、補償電流の値が予め定められた値(過電流レベル)を超えた場合、運転を停止することが記載されているといえる。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の「リミッタ49は、補償電流Iaが補償電流Iaの過電流レベルを超えないように制御量を抑制する。」(段落【0032】)及び「なお、リミッタ49は、制御量を予め設定された設定値、例えば、上記で説明したリミット値に抑制する。」(段落【0035】)との記載から、リミッタ49の設定値は、補償電流が過電流レベル(予め定められた値)を超えないように設定されていることが記載されている。したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないことから、新規事項の追加にも該当しない。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は請求項2の記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項4 訂正事項4は、訂正前の請求項5が請求項1又は請求項2の記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)訂正事項5 訂正事項5は、訂正前の請求項8が請求項1~7の記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとする訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (6)訂正事項6 訂正事項6は、訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (7)一群の請求項について 訂正前の請求項1~8は、請求項2~8のそれぞれが請求項1を引用している。訂正事項1~5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に規定する一群の請求項に対して請求されたものであり、訂正事項6は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。 3.小括 したがって、訂正請求による訂正事項1ないし6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件特許発明 特許第6095849号の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」~「本件特許発明8」という)は、前記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1~8に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 系統電源に接続された負荷に並列に接続され、補償電流を供給することで、前記系統電源から前記負荷に入力される負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波電流補償装置であって、 前記負荷は、供給される前記補償電流の値が予め定められた値を超えた場合、運転を停止し、 前記負荷電流を検出する負荷電流検出手段と、 供給された前記補償電流を検出する補償電流検出手段と、 前記負荷電流検出手段で検出された前記負荷電流に含まれる前記高調波成分と、前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流と、に基づいて、前記補償電流の制御量を演算する制御量演算手段と、 前記制御量演算手段で演算した制御量を抑制するリミッタと、 を備え、 前記リミッタは、 前記制御量演算手段で演算した制御量を予め設定された設定値以下に抑制し、 前記設定値は、 前記設定値に抑制された制御量によって生成された制御信号に基づく補償電流の値が、前記負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定されている 高調波電流補償装置。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 系統電源に接続された負荷に並列に接続され、補償電流を供給することで、前記系統電源から前記負荷に入力される負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波電流補償装置であって、 前記負荷電流を検出する負荷電流検出手段と、 供給された前記補償電流を検出する補償電流検出手段と、 前記負荷電流検出手段で検出された前記負荷電流に含まれる前記高調波成分と、前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流と、に基づいて、前記補償電流の制御量を演算する制御量演算手段と、 前記制御量演算手段で演算した制御量を抑制するリミッタと、 前記補償電流と、当該補償電流に対応する位相と、を記憶する記憶手段と、 前記記憶手段に記憶されている前記補償電流に基づいて、前記補償電流が予め設定された設定値を超えるときの位相を予測する予測手段と、 を備え、 前記リミッタは、 前記予測手段で予測された位相を基準として予め設定された範囲内にある位相に対応する前記補償電流の制御量を抑制する 高調波電流補償装置。 【請求項4】 前記予測手段は、 前記系統電源の1周期分の前記補償電流の制御量に基づいて、前記補償電流の制御量が予め設定された設定値を超えるときの位相を予測する 請求項3に記載の高調波電流補償装置。 【請求項5】 系統電源に接続された負荷に並列に接続され、補償電流を供給することで、前記系統電源から前記負荷に入力される負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波電流補償装置であって、 前記負荷電流を検出する負荷電流検出手段と、 供給された前記補償電流を検出する補償電流検出手段と、 前記負荷電流検出手段で検出された前記負荷電流に含まれる前記高調波成分と、前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流と、に基づいて、前記補償電流の制御量を演算する制御量演算手段と、 前記制御量演算手段で演算した制御量を抑制するリミッタと、 前記負荷電流に含まれる前記高調波成分の振幅を抑制する抑制演算手段と、 を備え、 前記補償電流を抑制させるか否かが判定される抑制判定値が、前記負荷の運転を停止させるか否かが判定される電流閾値未満に設定されてあって、 前記系統電源は、 三相交流電源であって、 前記抑制演算手段は、 前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流のうち、少なくとも一相の前記補償電流が予め設定された抑制判定値に達している場合、前記負荷電流の前記高調波成分の指令値を抑制する 高調波電流補償装置。 【請求項6】 前記系統電源の電源周期と、 前記系統電源の電源周期に含まれる前記補償電流の制御量を演算する制御周期と、を有し、 前記抑制演算手段は、 前記制御周期ごとに、前記補償電流と、前記抑制判定値と、に基づいて、前記負荷電流の前記高調波成分の指令値を抑制する 請求項5に記載の高調波電流補償装置。 【請求項7】 前記抑制判定値を設定する抑制判定レベル設定手段をさらに備え、 前記抑制演算手段は、 前記抑制判定レベル設定手段で設定された前記抑制判定値に基づいて、前記負荷電流の前記高調波成分の指令値を抑制する 請求項5又は6に記載の高調波電流補償装置。 【請求項8】 請求項1、3~7の何れか一項に記載の高調波電流補償装置と、 前記系統電源と、 前記系統電源に接続され、前記系統電源から供給される電流で駆動する冷媒回路と、 を備えた空気調和システム。」 2.取消理由の概要 当審において、訂正前の請求項1、2及び8に係る特許に対して平成30年1月30日付けの取消理由通知により特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア.請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 イ.請求項8に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び以下の引用文献2~4に記載されている技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、取り消されるべきものである。 ウ.請求項2に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 <引用文献等一覧> 1.篠原 勝次,ほか5名,”風力発電システムへのPWMインバータ付加による高調波電流・無効電流補償”,pp.1173-1181,[online],2005年3月1日公開,電気学会発行,JST掲載,<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejias/124/12/124_12_1173/_article/-char/ja/>(甲第1号証) 2.特許第5058314号公報(甲第2号証) 3.特許第5438037号公報(甲第3号証) 4.特許第5253523号公報(甲第4号証) 3.引用文献の記載 (1)引用文献1(甲第1号証) 取消理由で通知した、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。 ア.「そこで,交流電力調整器を用いた風力発電システムにおいてPWMインバータを並列に付加して系統投入時の高調波電流・無効電力補償および定常時の無効電力補償を行うことを提案し,シミュレーションおよび実験によってその有効性を示したので報告する(2)(3)。」(1173頁右欄第5~10行) イ.「<2・1> 主回路構成 図1に風力発電システムの実験回路構成を示す。主回路は電源,交流電力調整器,誘導発電機,静止レオナード,直流機および,PWMインバータからなる。」(1174頁左欄第6~9行) ウ.「<2・2> PWMインバータ制御回路構成(4) 実験におけるPWMインバータ制御回路は全てアナログで構成している。補償切替SWは高調波電流補償時にはiq0側に,高調波電流・無効電力補償時にはi*q側に接続する。本節では高調波電流補償時のiq0側に接続している場合について説明する。補償電流指令i*CU(一相分のみ示す)を得るためには高調波を含む電流iLUの基本波電流信号としての系統電流指令i*GUを作成する必要がある。負荷電流を(1)式を用いて有効分電流ipおよび無効分電流iqに変換する。・・・(中略)・・・高調波成分をカットするために,座標変換したip,iqをカットオフ周波数19.2Hz,2次のローパスフィルタ(LPF)に通す。得られたip0,iq0を(2)式を用いて再び三相座標に変換することにより系統電流指令i*GUを得る。・・・(中略)・・・このi*GUからiLUを差し引くことにより補償電流指令i*CUが得られる。さらに,この指令値i*CUと実際値iCUの差を比例制御し,その出力を三角波と比較することでPWMゲート信号が得られる。」(1174頁右欄第3行~1175頁左欄第5行) エ.「図3において,t1=25msから交流電力調整器によるソフトスタートが開始され,誘導機電圧vLUVは緩やかに上昇し,t2=390msでソフトスタートが完了している。これによって誘導機電流iLUは最大値約7Aと突入電流が抑制されているが高調波電流を含む。PWMインバータから出力される補償電流iCUは指令値i*CUに対して電源からフィルタに流れる交流電流(振幅約1A)を含むがほぼ追従しており,このiCUがiLUに加わることにより系統電流iGUは突入電流が抑制されると共に高調波電流が補償されていることが分かる。」(1177頁左欄第4~13行) オ.上記記載事項ア~ウ及び図1から、引用文献1に記載された発明は、系統投入時の高調波電流・無効電力補償を行うための装置を備えており、前記装置は、電源に接続された交流電力調整器に並列に接続されていることが理解できる。 カ.記載事項エ、オ及び図1から、系統投入時の高調波電流・無効電力補償を行うための装置は、補償電流iCUが誘導機電流iLUに加わることで、誘導機電流iLUに含まれる高調波電流が補償されることが理解できる。 キ.記載事項ウ~オ及び図1から、系統投入時の高調波電流・無効電力補償を行うための装置は、誘導機電流iLUを検出するload current detectorと、PWMインバータから出力される補償電流iCUを検出するcompensate current detectorと、誘導機電流iLUの基本波電流信号としての系統電流指令i*GUから 前記load current detectorで検出された誘導機電流iLUを差し引くことにより得られた補償電流指令i*CUと、前記compensate current detectorで検出された実際値i*CUとの差を比例制御するための演算を行うKiと、を備えていることが理解できる。 ク.図1から、系統投入時の高調波電流・無効電力補償を行うための装置は、Kiからの出力を抑制するリミッタ、を備えることが理解できる。 そうすると、これらの記載からみて、引用文献1には、本件特許の請求項1の記載に倣って整理すれば、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「電源に接続された交流電力調整器に並列に接続され、補償電流iCUを加えることで、誘導機電流iLUに含まれる高調波電流を補償する系統投入時の高調波電流・無効電力補償を行うための装置であって、 前記誘導機電流iLUを検出するload current detectorと、 PWMインバータから出力される補償電流iCUを検出するcompensate current detectorと、 誘導機電流iLUの基本波電流信号としての系統電流指令i*GUから 前記load current detectorで検出された誘導機電流iLUを差し引くことにより得られた補償電流指令i*CUと、前記compensate current detectorで検出された実際値i*CUとの差を比例制御するための演算を行うKiと、 前記Kiの出力を抑制するリミッタと、 を備えた系統投入時の高調波電流・無効電力補償を行うための装置。」 (2)引用文献2(甲第2号証) 取消理由で通知した、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献2には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。 ア.「【0013】 実施の形態1. (高調波抑制装置7の構成) 図1は、本発明の実施の形態1に係る高調波抑制装置7及び電力変換装置6の回路ブロック図である。 図1で示されるように、三相交流電源1から3本の出力線が延びており、交流電圧を直流電圧に整流する整流器2に接続されている。整流器2の出力側は、リアクター3を介して、整流器2が出力する直流電圧を平滑する平滑コンデンサー4が並列接続されている。その平滑コンデンサー4の両端には、負荷5が並列接続されている。上記の整流器2、リアクター3及び平滑コンデンサー4によって電力変換装置6が構成されている。 【0014】 この電力変換装置6は、三相交流電源1に対して高調波電流を流すため、その高調波電流を抑制するための高調波抑制装置7が、三相交流電源1と電力変換装置6とを接続する3本の出力線に接続されている。以下、高調波抑制装置7の構成について詳述する。前述の三相交流電源1から延びている3本の出力線のうちの第1の出力線(R相)は、リアクターであるACL11aを介して、スイッチング素子12rとスイッチング素子12xとの直列回路におけるその接続線に接続されている(この場合に接続点を以下、中点15aという)。また、上記の3本の出力線のうちの第2の出力線(S相)は、リアクターであるACL11bを介して、スイッチング素子12sとスイッチング素子12yとの直列回路におけるその接続線に接続されている(この場合に接続点を以下、中点15bという)。そして、上記の3本の出力線のうちの最後の出力線(T相)は、リアクターであるACL11cを介して、スイッチング素子12tとスイッチング素子12zとの直列回路におけるその接続線に接続されている(この場合に接続点を以下、中点15cという)。上記のスイッチング素子12rとスイッチング素子12xとの直列回路、スイッチング素子12sとスイッチング素子12yとの直列回路、及び、スイッチング素子12tとスイッチング素子12zとの直列回路(以下、単にアームという)は、互いに並列に接続されており、さらに、これらのアームにはコンデンサー13が並列接続されている。 なお、上記のACL11a~11cは、本発明の「リアクター」に相当する。」 イ.「【0017】 また、ACL11aと中点15aとの間には、その流れる電流を検出する電流検出器16aが設置され、また、ACL11cと中点15cとの間には、その流れる電流を検出する電流検出器16cが設置されている。この電流検出器16a及び16cは、制御装置20に接続されており、検出した電流の電流情報を制御装置20に送信する。 【0018】 以上のように、高調波抑制装置7は、ACL11a~11c、スイッチング素子12r~12t及び12x~12z、コンデンサー13、駆動回路14r~14t及び14x~14z、電流検出器16a及び16c、並びに、制御装置20によって構成されている。」 ウ.「【0021】 (高調波抑制装置7の高調波抑制動作中におけるブートストラップコンデンサー22への充電動作) 図3は、図1で示される回路の各部電流波形を示す図である。このうち、図3(a)は、図1で示されるような電力変換装置6に接続された負荷5に流れる負荷電流の波形を示す図であり、図3(b)は、図1で示される高調波抑制装置7から流れ、三相交流電源1に流れる系統電流の高調波を抑制するためのAF(Active Filter、アクティブフィルター)電流の波形を示す図であり、そして、図3(c)は、高調波抑制装置7から流れ出たAF電流によって高調波が抑制された後の三相交流電源1の系統電流の波形を示す図である。 図3(c)で示されるように、高調波抑制装置7によるAF電流によって高調波が抑制された系統電流は、歪みのない正弦波電流となる。この高調波抑制装置7によって、図3(b)で示されるAF電流を流す制御動作については公知技術である。」 エ.「【0047】 実施の形態3. 本実施の形態においては、実施の形態1又は実施の形態2に係る高調波抑制装置7及び電力変換装置6を備えた空気調和機について説明する。 【0048】 (空気調和機36の構成) 図5は、本発明の実施の形態3に係る空気調和機36の全体構成図であり、図6は、同空気調和機36の外観斜視図である。 図5で示されるように、図1で示される負荷5として、インバーター30、及び、そのインバーター30の高周波電流によって駆動する圧縮機31が接続されている。この圧縮機31から、冷媒配管によって、凝縮器32、膨張装置33及び蒸発器34の順に接続され、冷凍サイクル部35を構成している。 【0049】 本実施の形態に係る空気調和機36は、少なくとも、実施の形態1又は実施の形態2に係る電力変換装置6及び高調波抑制装置7、インバーター30、並びに冷凍サイクル部35によって構成されている。 【0050】 冷凍サイクル部35において、圧縮機31によって圧縮された高温高圧となったガス冷媒は、凝縮器32において熱交換が実施され放熱し凝縮する。凝縮された冷媒は、膨張装置33によって減圧及び膨張され、蒸発器34によって熱交換が実施され吸熱し気化する。気化したガス冷媒は、再び圧縮機31において圧縮される。」 オ.記載事項ア及び図1より、高調波抑制装置7は、三相交流電源1に接続された電力変換装置6に並列に接続されていることが理解できる。 カ.記載事項ウ及び図3より、高調波抑制装置7は、高調波抑制装置7から流れ出たAF電流によって、三相交流電源1に流れる系統電流の高調波を抑制することが理解できる。 キ.記載事項ア~ウ及び図1より、高調波抑制装置7から流れ出たAF電流を検出する電流検出器16a及び電流検出器16bを備えることが理解できる。 ク.記載事項エ及び図5より、空気調和機36が、高調波抑制装置7と、三相交流電源1と、三相交流電源1に接続されたインバーター30の高周波電流によって駆動する冷凍サイクル部35とを備えることが理解できる。 そうすると、これらの記載からみて、引用文献2には、本件特許の請求項1の記載に倣って整理すれば、次の発明が記載されているといえる。 「三相交流電源1に接続された電力変換装置6に並列に接続され、AF電流を流すことで、三相交流電源1に流れる系統電流の高調波を抑制する高調波抑制装置7であって、 高調波抑制装置7から流れ出たAF電流を検出する電流検出器16a及び電流検出器16bと、 を備えた高調波抑制装置7。」 また、引用文献2からは、以下の事項を把握することができる。 「高調波抑制装置7と、 三相交流電源1と、 三相交流電源1に接続されたインバーター30の高周波電流によって駆動する冷凍サイクル部35と、 を備えた空気調和機36。」 (3)引用文献3(甲第3号証) 引用文献3からは、以下の事項を把握することができる(特に、段落【0001】、段落【0009】、段落【0011】、段落【0025】、図1等参照。)。 「負荷が発生する電源高調波を抑制するためのアクティブフィルタ装置において、 交流電源としての系統電源1に電源高調波発生負荷である負荷2が接続され、アクティブフィルタ装置3は、系統電源1と負荷2との間で負荷2と並列に接続され、負荷2に入力される負荷電流Ifを電流検出器4にて検出し、負荷電流Ifに含まれる高調波成分を相殺する補償出力としての高調波補償電流Ia(以下、単に補償電流Iaと称す)を発生し、 アクティブフィルタ装置3は、検出された負荷電流Ifから高調波成分を抽出し該高調波成分を相殺する補償電流の指令値Ia*を演算する補償出力指令演算手段14と、補償電流指令値Ia*と補償電流検出器8にて検出された補償電流Iaとの誤差量ΔIaを演算する誤差量演算手段15と、誤差量ΔIaを入力して誤差量積分値ΔIaiを出力する誤差量積分手段16と、誤差量積分値ΔIaiと誤差量ΔIaとに基づいて制御量Icnを演算して制御信号生成手段12に出力する制御量演算手段20とを備え、 前記負荷2をインバータを搭載した空気調和機とすること。」 (3)引用文献4(甲第4号証) 引用文献4からは、以下の事項を把握することができる(特に、段落【0001】、段落【0014】、段落【0067】及び図1等参照。)。 「交流電源に流れる電流の高調波成分を抑制する高調波電流補償装置において、 高調波電流補償システムは、交流電源1、交流電源1に電力線を介して接続され、交流電源1から供給される交流電力を直流電力に変換した後、負荷5に直流電力を供給する電力変換装置6、および電力変換装置6と並列に交流電源1に接続され、電力変換装置6にて発生する高調波電流を補償するアクティブフィルタである高調波電流補償装置7を備え、 高調波電流補償装置は、空気調和機や冷凍機、ヒートポンプ式給湯機、ショーケースなど圧縮器搭載インバータ製品全般に適用可能であること。」 4.判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について ア 特許法第29条第1項第3号について 取消理由通知において、訂正前の請求項1にのみ特許法第29条第1項第3号に関する拒絶理由が通知されており、本件特許発明1は、訂正前の請求項2に記載された事項に実質的に対応する「前記リミッタは、前記制御量演算手段で演算した制御量を予め設定された設定値以下に抑制し、前記設定値は、前記設定値に抑制された制御量によって生成された制御信号に基づく補償電流の値が、前記負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定されている」という事項を有していて、引用発明1は当該事項を有していないことから、本件特許発明1は引用文献1に記載された発明ではない。 イ 特許法第29条第2項について (ア)請求項1について 本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1は「前記負荷は、供給される前記補償電流の値が予め定められた値を超えた場合、運転を停止し」及び「前記リミッタは、前記制御量演算手段で演算した制御量を予め設定された設定値以下に抑制し、前記設定値は、前記設定値に抑制された制御量によって生成された制御信号に基づく補償電流の値が、前記負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定されている」という事項を有しておらず、また、当該事項は、引用文献2~4のいずれにも記載されていないから、本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものでも ない。 (イ)請求項8について a.訂正後の請求項1に記載の高調波電流補償装置を備えた本件特許発明8について 本件特許発明8は、本件発明1を特定するための事項を全て含むものであり、本件発明1と同様の理由により、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものでもない。 b.訂正後の請求項3~4の何れか一項に記載の高調波電流補償装置を備えた本件特許発明8について 本件特許発明3と引用発明1とを対比すると、引用発明1は「前記補償電流と、当該補償電流に対応する位相と、を記憶する記憶手段」、「前記記憶手段に記憶されている前記補償電流に基づいて、前記補償電流が予め設定された設定値を超えるときの位相を予測する予測手段」及び「前記リミッタは、前記予測手段で予測された位相を基準として予め設定された範囲内にある位相に対応する前記補償電流の制御量を抑制する」という事項を有しておらず、また、当該事項は、引用文献2~4のいずれにも記載されていないから、本件特許発明3は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものでもない。そして、本件特許発明8は、本件特許発明3を特定するための事項を全て含むものであることから、本件特許発明3と同様の理由により、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものでもない。 c.訂正後の請求項5~7の何れか一項に記載の高調波電流補償装置を備えた本件特許発明8について 本件特許発明5と引用発明1とを対比すると、引用発明1は「前記負荷電流に含まれる前記高調波成分の振幅を抑制する抑制演算手段をさらに備え、前記補償電流を抑制させるか否かが判定される抑制判定値が、前記負荷の運転を停止させるか否かが判定される電流閾値未満に設定されてあって」及び「前記抑制演算手段は、前記補償電流検出手段で検出された前記補償電流のうち、少なくとも一相の前記補償電流が予め設定された抑制判定値に達している場合、前記負荷電流の前記高調波成分の指令値を抑制する」という事項を有しておらず、また、当該事項は、引用文献2~4のいずれにも記載されていないから、本件特許発明5は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものでもない。そして、本件特許発明8は、本件特許発明5を特定するための事項を全て含むものであることから、本件特許発明5と同様の理由により、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものでもない。 ウ 特許法第36条第6項第2号について 本件特許発明1の「前記設定値は、前記設定値に抑制された制御量によって生成された制御信号に基づく補償電流の値が、前記負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定されている」との事項に関し、本件特許発明1は「前記負荷は、供給される前記補償電流の値が予め定められた値を超えた場合、運転を停止し」との事項を特定することにより、「設定値」は、補償電流の値が負荷が運転を停止する値である過電流レベル(予め定められた値)を超えないように設定されることが明確となった。 したがって、本件特許発明1は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。 エ 特許異議申立人の意見について (ア)訂正後の請求項1が明確でないことについて 特許異議申立人は、平成30年7月6日付けの意見書において、「・・・補償電流の値が、前記負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定」では、補償電流の値を具体的にどのように設定すればよいか依然として不明であると主張し、その理由として、特に、負荷が運転を停止する補償電流の上限及び下限(絶対値上限を意味し、以降、閾値Cと表す)を決定することが本件発明の特徴であるところ、この「閾値C」をどのように求めるかは自明ではなく、明細書を参酌しても不明である点を指摘している。 しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明の「ここで、過電流レベルとは、例えば、図2に示すように、補償電流Iaの上限及び下限である。つまり、過電流レベルとは、補償電流Iaの振幅の絶対値の上限が設定される。仮に、補償電流Iaが過電流レベルを超えた場合、絶縁破壊等の電気回路の損傷を回避するため、高調波発生負荷13は運転を停止する。」(段落【0032】)との記載から、当業者であれば、絶縁破壊等の電気回路の損傷に関連する種々のパラメータを考慮し、過電流レベル(「閾値C」)を設定可能であると解されることから、かかる主張は理由がない。 (イ)訂正後の請求項1が、発明の詳細な説明に記載したものでないこと、及び、訂正後の請求項1は、新たな技術的事項を含むものであることについて 特許異議申立人は、平成30年7月6日付けの意見書において、「予め定められた値を超えた場合、運転を停止し」「補償電流の値が、前記負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定」は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、また、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内でされたものでない旨の主張をしている。 しかしながら、特許異議申立人が指摘した「補償電流の値が、前記負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定」との記載に関し、この記載のみでは、「設定」の主語が「補償電流の値」であるかのように解されるが、訂正後の請求項1には「前記設定値は、前記設定値に抑制された制御量によって生成された制御信号に基づく補償電流の値が、前記負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定されている」と記載されており、「設定」の主語は「設定値」である。そして、上記「第2.2.(1)訂正事項1」において記載したように、当初明細書の発明の詳細な説明には、負荷は、補償電流の値が予め定められた値(過電流レベル)を超えた場合、運転を停止すること、及び、リミッタ49の設定値は、補償電流が過電流レベル(予め定められた値)を超えないように設定されていることが記載されているといえるから、かかる主張は理由がない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1について、甲第2号証(引用文献2)の発明に甲第3号証(引用文献3)~甲第4号証(引用文献4)の周知技術を適用すること、又は、甲第1号証(引用文献1)の記載事項に甲第2号証の発明及び甲第3号証~甲第4号証の周知技術を適用することにより、訂正前の請求項1に想到することは当業者であれば容易になし得るものであると主張している。 また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項2について、高調波電流電流補償装置が過電流状態か否かの値を設定し、過電流状態となったときに負荷を停止することはよく行われる事項であり、甲第1号証の記載事項、甲第2号証の発明に甲第3号証~甲第4号証の周知技術を適用したもの、又は、甲第1号証の記載事項に甲第2号証の発明及び甲第3号証~甲第4号証の周知技術を適用したもの、のいずれかに上記事項を適用して、訂正前の請求項2に想到することは当業者であれば容易になし得るものであると主張している。 しかしながら、訂正後の請求項1に係る発明は、「前記負荷は、供給される前記補償電流の値が予め定められた値を超えた場合、運転を停止し」という事項、及び、訂正前の請求項2に実質的に対応する「前記リミッタは、前記制御量演算手段で演算した制御量を予め設定された設定値以下に抑制し、前記設定値は、前記設定値に抑制された制御量によって生成された制御信号に基づく補償電流の値が、前記負荷が運転を停止する値である過電流レベルを超えないように設定されている」という事項を有しており、これらの事項は、引用発明1及び引用文献2~4のいずれにも記載されていないことから、かかる主張は理由がない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項2に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項2に対して特許異議申立人小寺吉衛がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700874

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