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特許異議申立

2017-700658

鋼材およびその製造方法

審判番号
2017-700658
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2013-269488
登録番号
特許第6055400号(P6055400)
請求日
2017年06月27日
審決日
2017年12月04日
公報発行日
2018年03月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社神戸製鋼所
  • 【権利者代理人】山田 卓二
  • 【権利者代理人】山尾 憲人
  • 【権利者代理人】佐々木 正博
  • 【異議申立人】岡林 茂
審判長/審判官
  • 審判長 鈴木 正紀
  • 審判官 河本 充雄
  • 審判官 金 公彦
分類
P1651.113-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C) / P1651.537-YAA(C22C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6055400号発明「鋼材およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6055400号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 特許第6055400号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6055400号の請求項1~6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年12月26日に特許出願され、平成28年12月9日に特許権の設定登録がされ、同年12月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成29年6月27日に特許異議申立人 岡林茂により特許異議の申立てがされ、同年8月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月6日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年11月16日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1~4のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。 (1) 訂正事項1 請求項1に「Mn:0.2~2.0%」とあるのを、「Mn:1.01~2.0%」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。 (2) 訂正事項2 請求項1に「P :0.20%以下、」とあるのを、「P :0.011~0.20%、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。 (3) 訂正事項3 請求項1に「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.30 ・・・(2)」とあるのを、「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.16 ・・・(2)」に訂正する。 (4) 訂正事項4 発明の詳細な説明の【0062】に「No.3~26、28、30、37は、いずれも本発明で規定する要件を満足する例」とあるのを、「No.3、5~17、19、21~26、37は、いずれも本発明で規定する要件を満足する例」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1の訂正は、「Mn」の下限値を「0.2%」(当審注:「%」は「質量%」の意味である。以下同様である。)から「1.01%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した明細書の【0060】の【表2】のNo.21には、「Mn」の含有量が「1.01質量%」であることが記載されているから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。 (2) 訂正事項2の訂正は、「P」の含有量の下限値が特定されていなかったものを、「0.011%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正事項2に関連する記載として、願書に添付した明細書の【0059】の【表1】のNo.10には、「P」の含有量が「0.011質量%」であることが記載されているから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。 (3) 訂正事項3による訂正は、請求項1の「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]」の上限値を「0.30」から「0.16」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正事項3に関連する記載として、願書に添付した明細書の【0052】には、「上記円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数との比(円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数/短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数;硫化物系介在物比)」と記載されており、【0061】の【表3】のNo.14には、当該硫化物系介在物比が「0.16」であることが記載されている、すなわち、請求項1の「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]」が「0.16」であることが記載されているから、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。 (4) 訂正事項4は、訂正事項1~3による訂正によって、実施例ではなくなった、実施例4、18、20、28、30を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)そして、訂正事項1~4は一群の請求項に対して請求されたものである。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項~第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1~6」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 C :0.38~0.8%(質量%の意味。以下同じ。)、 Si:0.01~2.0%、 Mn:1.01~2.0%、 P :0.011~0.20%、 S :0.015~0.12%、 Al:0.002~0.1%を含有し、 更に、 Ca:0.0001~0.01%、 Mg:0.0001~0.01%、 Zr:0.01~0.5%、 Te:0.001~0.05%、および REM:0.001~0.05%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、 前記Mnおよび前記Sは下記式(1)の関係を満足し、 残部が鉄および不可避不純物からなる鋼材であり、 該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、下記式(2)の関係を満足することを特徴とする鋼材。 [Mn]/[S]≧13.0 ・・・(1) 上記式(1)において、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。 [短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.16 ・・・(2) 【請求項2】 更に他の元素として、 Cu:1%以下、 Ni:2%以下、 Cr:2%以下、および Mo:2%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載の鋼材。 【請求項3】 更に他の元素として、 V :0.5%以下、 Ti:0.5%以下、 Nb:0.5%以下、および W :2%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の鋼材。 【請求項4】 更に他の元素として、 Pb:0.3%以下、 Bi:0.3%以下、 Sn:0.02%以下、および Sb:0.02%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1~3のいずれかに記載の鋼材。 【請求項5】 更に他の元素として、 N:0.02%以下を含有する請求項1~4のいずれかに記載の鋼材。 【請求項6】 請求項1~5のいずれかに記載の鋼材を製造する方法であって、 請求項1~5のいずれかに記載の成分組成を満足する溶鋼を鋳造して鋼材を製造するにあたり、鋳造開始から凝固完了までの鋳片中央部の平均冷却速度を7℃/分以下とすることを特徴とする鋼材の製造方法。」 第4 取消理由の概要 請求項1~6に係る特許に対して平成29年8月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。 1 取消理由1(特許法第29条第1項第3号及び第2項) 請求項1、5、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また、請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、請求項1、5、6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。また、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 よって、その特許は取り消されるべきものである。 2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号) 本件特許の請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 したがって、請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 よって、その特許は取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開2004-300458号公報 甲第2号証:特開2004-107694号公報 甲第3号証:特開2005-256082号公報 甲第4号証:特開2007-162128号公報 甲第5号証:特開2005-163118号公報 甲第6号証:本件特許発明が特許される過程で、平成28年6月21日付けで審査官から通知された拒絶理由通知書 甲第7号証:本件特許発明が特許される過程で、平成28年8月19日付けで提出された意見書 なお、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、全て取消理由に採用されている。 第5 甲号証の記載事項 1 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第1号証には、「高周波焼入部の低温耐衝撃特性に優れた高周波焼入用鋼及び棒鋼」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (1a) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、ステアリングラック、歯車などの高周波焼入部品(特に歯部が高周波焼入された部品)を製造するのに有用な高周波焼入部の低温耐衝撃特性に優れた高周波焼入用鋼及び棒鋼、並びにこれら高周波焼入用鋼、棒鋼などから製造される高周波焼入部品に関するものである。」 (1b) 「【0012】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、高周波焼入部の高い焼入れ硬さを維持しながら、前記高周波焼入部の低温耐衝撃特性をも改善できる高周波焼入用鋼及び棒鋼、並びにこれら高周波焼入用鋼、棒鋼などから製造される高周波焼入部品を提供する点にある。」 (1c) 「【0014】 すなわち、本発明に係る高周波焼入部の低温耐衝撃特性に優れた高周波焼入用鋼は、C:0.30~0.5%(質量%の意、以下同じ)、Si:0.01%以上、0.40%未満、Mn:0.05~1.5%、S:0.06%以下(0%を含まない)、P:0.010%以下(0%を含まない)を含有し、残部はFe及び不可避不純物(例えば0.05%以下のAl、0.02%以下のN)からなることを要旨とするものである。この高周波焼入用鋼は、さらに、Pb:0.3%以下(0%を含まない)、Bi:0.2%以下(0%を含まない)、Te:0.1%以下(0%を含まない)、Mg:0.01%以下(0%を含まない)、Ca:0.01%以下(0%を含まない)、REM:0.01%以下(0%を含まない)、Zr:0.3%以下(0%を含まない)などを適宜含有していてもよい。好ましい高周波焼入用鋼は、長径30μm以上の硫化物系介在物が、2mm×2mmの視野当たり、平均22個以下となっているものであり、例えば棒鋼であれば、表面から直径(D)方向に深さD/8となる部分の硫化物系介在物が前記のようになっている。」 (1d) 「【0021】 P:0.010%以下(0%を含まない) Pも前記Sと同様、本発明にとって極めて重要な元素である。低温耐衝撃特性が所定のP量を境にして急激に向上することについては全くの驚きであった。P量はこの臨界性を考慮して、0.010%以下、好ましくは0.009%以下、さらに好ましくは0.008%以下とする。一方、Pを低減し過ぎても効果が飽和し、かつ脱Pコストが高くなるだけである。従ってP量は、0%超、好ましくは0.003%以上、さらに好ましくは0.005%以上、特に0.007%以上とする。 【0022】 不可避不純物 不可避不純物としては、原料(鉄鉱石など)に由来するもの、製銑・製鋼方法に由来するもの、リサイクル鋼に由来するものなどがあり、Al、N、Oなどが代表的である。特にAl及びNは重要であるため、好ましくは以下の範囲に設定する。 【0023】 Al:0.05%以下(0%を含まない) Alは脱酸のために添加される場合があり、かかる場合は必ず鋼中に残存する。しかしAlが多くなると酸化物系介在物が増大して疲労特性が低下する。また理由は明らかでないが、Alが多くなると低温靭性が低下する傾向がある。従ってAl量は、好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下、特に0.025%以下とする。」 (1e) 「【0035】 硫化物系介在物の長さは、鋳造時の冷却速度を調整することによって制御できる。硫化物系介在物の長さを上記範囲に制御する場合、冷却速度は、例えば0.3~9℃/分程度、好ましくは0.6~6℃/分程度、さらに好ましくは1.0~4℃/秒程度の範囲から選択するのが推奨される。」 (1f) 「【0039】 実験例1 表1~2に示す組成の鋼を鋳造し、熱間圧延して冷却した後、焼入れ(加熱温度:860℃、冷却条件:水冷)・焼戻し(加熱温度600℃、保持時間:1時間)することにより、直径30mmの棒鋼を得た。なお実験系C(No.8~No.12)については鋳造時の冷却速度を0.01~12.0℃/秒の間で調整することで、MnSの大きさ及び個数を調整しており、他の鋼では前記冷却速度を2.5℃/秒とした。」 (1g) 「【0046】 【表2】 」 2 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第2号証には、「浸炭用鋼材及び浸炭処理部品」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (2a) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、高いねじり疲労強度が要求される自動車などの駆動系部品、特にシャフト類に用いられる浸炭処理または浸炭浸窒処理用鋼材に関するものである。」 (2b) 「【0015】 請求項3の発明は、化学組成が、更にCr:0.1~3.0%、Ni:0.1~3.0%、Mo:0.1~1.0%、Cu:0.1~2.0%のうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の浸炭用鋼材である。 【0016】 請求項4の発明は、化学組成が、更にTi:0.005~0.1%、Nb:0.005~0.1%、V:0.1~2.0%のうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の浸炭用鋼材である。 【0017】 請求項5の発明は、化学組成が、更にCa:0.0005~0.01%、Mg:0.0005~0.01%、Zr:0.0005~0.05%、Te:0.0005~0.05%のうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の浸炭用鋼材である。 【0018】 請求項6の発明は、化学組成が、更にPb:0.01~0.3%、Bi:0.01~0.3%のうち1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の浸炭用鋼材である。」 (2c) 「【0045】 【実施例】 本発明の作用効果を確認するため、化学組成を種々変更して溶製したビレットを圧延または鍛造温度、圧下率等を種々変更して鋼材を作成し、この鋼材中の介在物の形態、量および分布状態の測定を行った。また、この鋼材を機械加工してねじり疲労試験片を作製し、これを通常の浸炭処理およびショットピーニング処理を行った後、ねじり疲労試験を実施してねじり疲労強度を測定した。以下、さらに詳細に説明を行う。 【0046】 ビレットの溶製は、転炉または高周波誘導溶解炉で製造した溶鋼を鋳造して行った。転炉で溶製されたビレットは□155mm×約10mLの角柱形である。また、高周波誘導溶解炉で溶製されたビレットは上面がφ245mm、底面がφ210mm、高さが350mmの円錐台形であり、重量が約150kgである。」 3 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第3号証には、「浸炭処理部品の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (3a) 「【0001】 本発明は、高いねじり疲労強度が要求される自動車などの駆動系部品、特にシャフト類の製造方法に関するものである。」 (3b) 「【0014】 請求項2の発明は、軸部を有し、該軸部に横穴を有する浸炭処理部品の製造方法であって、化学組成が、質量割合にてC:0.15~0.3%、Mn:0.2~1.0%、Si:0.35%以下、P:0.015%以下、S:0.01~0.03%、Cr:0.6~1.2%、Al:0.005~0.05%、N:0.002~0.05%、B:0.0005~0.005%を含むとともに残部が実質的にFeであり、かつ、圧延方向に平行な任意の断面において長径が3μm以上の介在物粒子の平均アスペクト比ARと前記介在物粒子の面積率Afと前記介在物粒子の分布指数Fが下式を満たす浸炭用鋼材を、概ね前記浸炭処理部品の形状に成形し、ついで浸炭処理又は浸炭窒化処理して、前記軸部の半径に対する、前記横穴の0.9~1mm深さの位置(前記横穴の端部の面取りを行っていない場合は当該横穴の端部から0.9~1mm深さの位置をいい、前記横穴の端部の面取りを行っている場合は当該面取りの端部から0.9~1mm深さの位置をいう。)における横穴内面の有効硬化層深さの比を0.015~0.08とすることを特徴とする浸炭処理部品の製造方法である。」 (3c) 「【0017】 請求項3の発明は、前記浸炭用鋼材の化学組成が、質量割合にて更にNi:0.1~1.5%、Mo:0.1~0.5%のうち1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の浸炭処理部品の製造方法である。 【0018】 請求項4の発明は、前記浸炭用鋼材の化学組成が、質量割合にて更にTi:0.005~0.1%、Nb:0.005~0.1%、V:0.1~0.5%のうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の浸炭処理部品の製造方法である。 【0019】 請求項5の発明は、前記浸炭用鋼材の化学組成が、質量割合にて更にCa:0.0005~0.01%、Mg:0.0005~0.01%、Zr:0.0005~0.05%、Te:0.0005~0.05%のうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の浸炭用部品の製造方法である。 【0020】 請求項6の発明は、前記浸炭用鋼材の化学組成が、質量割合にて更にPb:0.01~0.1%、Bi:0.01~0.05%のうち1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の浸炭用部品の製造方法である。」 (3d) 「【実施例】 【0031】 本発明の作用効果を確認するため、化学組成を種々変更して溶製したビレットを圧延または鍛造温度、圧下率等を種々変更して鋼材を作成し、この鋼材中の介在物の形態、量および分布状態の測定を行った。また、この鋼材を機械加工してねじり疲労試験片を作製し、これを通常の浸炭処理およびショットピーニング処理を行った後、横穴内面の有効硬化層深さを測定するとともに、ねじり疲労試験を実施してねじり疲労強度を測定した。以下、さらに詳細に説明を行う。 【0032】 ビレットの溶製は、転炉または高周波誘導溶解炉で製造した溶鋼を鋳造して行った。転炉で溶製されたビレットは□155mm×10mLの角柱形である。また、高周波誘導溶解炉で溶製されたビレットは上面がφ245mm、底面がφ210mm、高さが350mmの円錐台形であり、重量が約150kgである。」 4 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第4号証には、「鍛造性と結晶粒粗大化防止特性に優れた肌焼鋼およびその製造方法並びに浸炭部品」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (4a) 「【0001】 本発明は、自動車などの輸送機器や、建設機械その他の産業機械などにおいて、浸炭処理して使用される機械部品用の素材となる肌焼鋼およびその製造方法並びに浸炭部品に関するものであり、特に、軸受やCVT用プーリー、シャフト類、歯車、軸付き歯車などの素材として浸炭処理して使用する際に、比較的高い温度で浸炭処理を行なった場合でも結晶粒が粗大化しない様な特性(以下、「結晶粒粗大化防止特性」ということがある)に優れると共に、鍛造時に割れが発生しないような優れた鍛造性を示す肌焼鋼とその製造方法、並びにこうした肌焼鋼を浸炭処理した浸炭部品に関するものである。」 (4b) 「【0011】 上記課題を解決することのできた本発明に係る肌焼鋼は、C:0.05~0.30%(「質量%」の意味、以下同じ)、Si:2.0%以下(0%を含まない)、Mn:1.0%以下(0%を含まない)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、Cr:2.0%以下(0%を含まない)、Al:0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.05~0.30%、Ti:0.05~0.10%、N:0.0080%以下(0%を含まない)、O:0.0020%以下(0%を含む)を満たし、残部は鉄および不可避不純物からなり、且つ鋼材中のNbおよびTiを含む複合窒化物の最大粒径が20μm以下であると共に、粒径が1μm以上、20μm以下である当該窒化物が1mm2中に平均50個以下存在する点に要旨を有するものである。 【0012】 本発明の肌焼鋼には、必要によって更に、(a)Cu:1.0%以下(0%を含まない)および/またはNi:3.0%以下(0%を含まない)、(b)Mo:1.0%以下(0%を含まない)、(c)B:0.0005~0.0030%、(d)Ca:0.010%以下(0%を含まない)、(e)Pb:0.1%以下(0%を含まない)および/またはBi:0.1%以下(0%を含まない)、(f)V:0.5%以下(0%を含まない)、Zr:0.5%以下(0%を含まない)およびW:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、等を含有させることも有効であり、含有させる元素の種類に応じて肌焼鋼の特性が更に改善される。」 (4c) 「【0058】 [実施例1] 表1,2に示す化学組成の鋼材を溶製炉で溶製し、鋳造時の冷却速度を変えて鋳造し、引き続き1200℃に加熱し、径:50mmの棒鋼に熱間鍛造し、1280℃にて60分間の溶体化処理を行なった。鋳造時の冷却速度は、異なるサイズの鋳型を用いることで変化させた。その後、実機圧延を模擬して900℃で焼きならし処理を行なった後、球状化処理を施し、鍛造材の断面のD/4(Dは棒鋼の直径を示す)位置からφ8mm×12mmの円柱状の試験片を作成した。」 5 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第5号証には、「機械構造軸部品とその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (5a) 「【0001】 本発明は、高周波焼入れを施される機械構造用部品で、例えば等速ジョイント用アウターレース・ドライブシャフトなど、曲げ強度およびねじり強度が要求される機械構造軸部品とその製造方法に関する。」 (5b) 「【0009】 そして本発明の機械構造軸部品は、 鋼材組成をFe:96質量%以上、C:0.45質量%以上0.55質量%以下、Si:0.02質量%以上0.15質量%以下、Mn:0.50質量%を超え1.20質量%以下、P:0.005質量%以上0.020質量%以下、S:0.005質量%以上0.030質量%以下、Cr:0.10質量%以上0.30質量%以下、Al:0.002質量%以上0.050質量%以下、Ti:0.020質量%以上0.050質量%以下、B:0.0005質量%以上0.0030質量%以下、Nb:0.020質量%以上0.100質量%以下、 となるように原料配合し、溶解後、 1200℃以上1400℃以下の温度範囲で、鋳片中心部の冷却速度が2℃/分以上となるように凝固させ、加熱温度を950℃以上1050℃以下、加工中の温度を800℃以上1050℃以下として製品圧延または鍛造を行って、軸状に形成され、高周波焼入れ、焼戻しを行って製造され、 軸の半径をa、中心からの距離をr、中心からの距離rにおける硬さをh(r)として、平均硬さをx(Hv)を、 【数1】 として定義したとき、ねじり強度をy(MPa)とすると、 y>2.5xとなることを特徴とする。」 (5c) 「【0013】 さらに前記鋼材として、必要に応じ、Mo:0.05質量%以上0.50質量%以下を含有したものを使用することもできる。Mo添加により粒界を強化することができる。 【0014】 また前記鋼材として、Pb:0.01質量%以上0.20質量%以下、Bi:0.01質量%以上0.10質量%以下、Ca:0.0005質量%以上0.0050質量%以下の少なくともいずれかを含有したものを使用することもできる。これらを含有させることにより、快削性を向上させることができる。」 (5d) 「【実施例】 【0036】 本発明の効果を調べるために、以下の実験を行った。表1に示す組成が得られるように原料を配合し、電気炉で70tonの鋼塊を溶製した後、鋳塊のサイズが370mm×510mmとなるように連続鋳造を行った。その後、直径50mmに圧延した。鋳造時は、1200℃以上1400℃以下の温度範囲で、鋳片中心部の冷却速度が2℃/分以上となるように凝固させ、圧延は、加熱温度を950℃以上1050℃以下、加工中の温度を800℃以上1050℃以下で行った。但し、比較例7のみ、7.1ton鋼塊鋳込みを行った。表1に本発明の発明例1ないし8と比較例1ないし10の各組成を示す。」 第6 判断 1 取消理由1(特許法第29条第1項第3号及び第2項)について (1) 本件発明1と甲第1号証に記載された発明との対比・判断 ア 甲第1号証の【0046】の【表2】の実験No.19及び23には、Mnの含有量が、それぞれ0.84質量%、0.81質量%、Pの含有量が、それぞれ0.009質量%、0.0040質量%であることは記載されているものの、いずれも、本件発明1の「Mn:1.01~2.0%」、「P :0.011~0.20%」の範囲を満足していない。 また、甲第1号証に記載されている、その他の実験No.におけるMnとPの含有量を見ても、本件発明1の上記各範囲を満足しているものは記載されていない。 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 イ 本件発明1におけるPの含有量は0.011%~0.020%の範囲であるところ、甲第1号証の前記(1b)によれば、甲第1号証に記載された発明の課題は、「高周波焼入部の高い焼入れ硬さを維持しながら、前記高周波焼入部の低温耐衝撃特性をも改善できる高周波焼入用鋼及び棒鋼、並びにこれら高周波焼入用鋼、棒鋼などから製造される高周波焼入部品を提供する」ことであり、同(1d)の【0021】には、「P:0.010%以下(0%を含まない) Pも前記Sと同様、本発明にとって極めて重要な元素である。低温耐衝撃特性が所定のP量を境にして急激に向上することについては全くの驚きであった。P量はこの臨界性を考慮して、0.010%以下・・・とする。」と記載されていることから、甲第1号証に記載された発明において、Pの含有量を、0.010%よりも多い0.011%~0.20%との範囲とすると、良好な低温耐衝撃性特性が得られなくなり、その結果、上記課題を解決できなくなるため、Pの含有量を0.011%~0.20%の範囲とすることには阻害要因があるといえる。 したがって、甲第2号証~甲第5号証に、Pの含有量を0.011%~0.20%の範囲とすることが記載されているとしても、甲第1号証に記載された発明において、Pの含有量を0.011~0.20%の範囲とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものとはいえない。 よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2) 本件発明2~6に係る発明について 本件発明2~6は、請求項1の全ての発明特定事項を有しているから、前記(1)で検討したのと同様の理由により、本件発明2~6は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3) まとめ よって、本件発明1~6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に違反してされたものではない。 2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について (1) 特許異議申立人の特許異議申立書における主張について ア 特許異議申立人は、特許異議申立書の33頁下から6行~36頁6行において、以下の主張をしている。 (ア) 本件特許明細書の実施例の記載からは、「硫化物系介在物比」が「0.20~0.30」の範囲である場合でも本件発明の課題を解決できることが定かでなく、本件発明1~6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (イ) Mn量とS量をそれぞれ「Mn:0.2~2.0%」「S :0.015~0.12%」に制御し、式(2)の左辺を「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]」と補正したところで、「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]」の発生が抑制されることにはならない。 さらに、例えば、[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]が100、[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]が30である場合(以下、「例A」)、請求項1の式(2)を満たすことになるが、[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]が10、[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]が4である場合(以下、「例B」)とでは、微細な硫化物系介在物の数は例Bよりも例Aの方が多いため、例Aの方がバーニングが発生しやすいと考えられる(本件特許明細書の【0014】、【0018】、【0021】等参照)ものの、例Aは本件発明1の式(2)を満たし、本件発明の範囲内となり、例Bは同式(2)を満たさないため、本件発明の範囲外となるから、本件発明1~6は、その技術的意義が不明であり、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (当審注:本件訂正請求により、請求項1の「0.30」は、「0.16」に訂正されているから、上記例Aの「30」は、「16」と読み替えて、以下判断する。) イ 本件発明 本件発明は、前記第3に記載したとおりのものであり、本件発明1を再掲すると以下のとおりである。 「C :0.38~0.8%(質量%の意味。以下同じ。)、 Si:0.01~2.0%、 Mn:1.01~2.0%、 P :0.011~0.20%、 S :0.015~0.12%、 Al:0.002~0.1%を含有し、 更に、 Ca:0.0001~0.01%、 Mg:0.0001~0.01%、 Zr:0.01~0.5%、 Te:0.001~0.05%、および REM:0.001~0.05%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、 前記Mnおよび前記Sは下記式(1)の関係を満足し、 残部が鉄および不可避不純物からなる鋼材であり、 該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、下記式(2)の関係を満足することを特徴とする鋼材。 [Mn]/[S]≧13.0 ・・・(1) 上記式(1)において、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。 [短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.16 ・・・(2)」 (当審注:以下、上記「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]」を「硫化物系介在物比」といい、上記「短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物」を「円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物」ともいう。) ウ まず、前記ア(イ)について検討する。 (ア) 訂正後の本件特許明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)には以下の記載がある。 「【0017】 [硫化物系介在物] 本発明の鋼材は、Mnを0.2~2.0%、およびSを0.015~0.12%の範囲で含有する。 【0018】 Mnは、Sと結合してMnSなどの硫化物系介在物を形成し、FeSの生成を抑制して加熱時におけるバーニングの発生を抑制する元素である。Mnが0.2%未満ではその効果が不充分である。従って、本発明では、Mn量は0.2%以上とする。Mn量は、0.5%以上が好ましく、より好ましくは0.7%以上である。しかし、Mn量が過剰になり、2.0%を超えると、円相当径が4μmを超える粗大な硫化物系介在物の他、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が多く生成するため、加熱時にバーニングが発生する。従って、本発明では、Mn量は2.0%以下とする。Mn量は、1.8%以下が好ましく、より好ましくは1.6%以下である。 【0019】 Sは、鋼材中に不可避的に含まれる元素であるが、MnSなどの硫化物系介在物を形成すると、被削性の向上に有効に作用する元素である。S量が0.015%未満ではこうした効果は不充分である。従って、本発明では、S量は0.015%以上とする。S量は、0.017%以上が好ましく、より好ましくは0.019%以上である。しかし、過剰に含有すると、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物(例えば、MnSなど)が生成しやすくなり、バーニングの発生原因となるFeSを形成する。従って、本発明では、S量は0.12%以下とする。S量は、0.115%以下が好ましく、より好ましくは0.110%以下である。 【0020】 本発明の鋼材は、MnとSを上記の範囲で含有したうえで、Mn量およびS量が上記式(1)の関係を満足する必要がある。 【0021】 [Mn]/[S]の値が13.0を下回ると、鋼材中のMn量に比べてS量が過剰になり、SがMnによって固定されず、融点の低いFeSが多く生成する。その結果、加熱時に部分溶融が生じ、バーニングが発生する。従って、本発明では、[Mn]/[S]は13.0以上とする。[Mn]/[S]は、13.5以上とすることが好ましく、より好ましくは14.0以上である。[Mn]/[S]の値の上限は特に限定されず、後述するように、鋼材に含まれ得るMn量の上限は2.0%で、S量の下限は0.015%であるから、[Mn]/[S]の上限は、133.3である。[Mn]/[S]は、好ましくは100以下であり、より好ましくは80以下、更に好ましくは50以下である。 【0022】 本発明の鋼材は、鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、上記式(2)の関係を満足することも重要である。なお、以下では、上記式(2)の左辺の値を硫化物系介在物比ということがある。 【0023】 円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が過剰に生成すると、加熱時に分解し、SはFeと結合して、MnSよりも融点が低いFeSを生成する。低融点のFeSが過剰に生成すると、部分溶融を起こし、バーニングが発生する。従って、本発明では、上記硫化物系介在物比は、0.30以下とする。上記硫化物系介在物比は、好ましくは0.20以下であり、より好ましくは0.15以下である。上記硫化物系介在物比の下限は特に限定されないが、例えば、0.01以上であればよく、より好ましくは0.02以上である。」 (イ-1) 前記(ア)の【0017】には、Mnについて、Sと結合してMnSなどの硫化物系介在物を形成し、FeSの生成を抑制して加熱時におけるバーニングの発生を抑制する元素であるところ、Mn量が0.2%未満ではその効果が不充分であるから、Mn量は0.2%以上とするが、Mn量が過剰になり、2.0%を超えると、円相当径が4μmを超える粗大な硫化物系介在物の他、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が多く生成するため、加熱時にバーニングが発生するので、Mn量は2.0%以下とすることが記載されている。 (イ-2) 同【0019】には、Sについて、鋼材中に不可避的に含まれる元素であるが、MnSなどの硫化物系介在物を形成すると、被削性の向上に有効に作用する元素であるところ、S量が0.015%未満ではこうした効果は不充分であるから、S量は0.015%以上とするが、過剰に含有すると、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物(例えば、MnSなど)が生成しやすくなり、バーニングの発生原因となるFeSを形成するので、S量は0.12%以下とすることが記載されている。 (イ-3) 同【0020】には、MnとSを上記の範囲で含有したうえで、Mn量およびS量が上記式(1)の関係を満足する必要があるとし、同【0021】には、[Mn]/[S]の値について、13.0を下回ると、鋼材中のMn量に比べてS量が過剰になり、SがMnによって固定されず、融点の低いFeSが多く生成する結果、加熱時に部分溶融が生じ、バーニングが発生するので、[Mn]/[S]は13.0以上とすることが記載されている。 (イ-4) 同【0022】には、鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、式(2)の関係を満足することも重要であるとし、同【0023】には、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が過剰に生成すると、加熱時に分解し、SはFeと結合して、MnSよりも融点が低いFeSを生成し、そのFeSが部分溶融を起こし、バーニングが発生するので、硫化物系介在物比は、0.30以下とすることが記載されている。 (ウ) 前記(イ-1)~(イ-4)の記載によれば、鋼材において、Mn量が2.0%を超える、又は、S量が0.12%を超えると、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が多く生成して加熱時に分解し、SはFeと結合して、MnSよりも低融点のFeSが生成する。また、鋼材中のMn量に比べてS量が過剰になると、SがMnによって固定されず、融点の低いFeSが多く生成する。そして、加熱時にこれらFeSが部分溶融を起こすことにより、バーニングが発生するところ、Mn量を2.0%以下とし、S量を0.12%以下とすれば、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が生成しにくくなるため、FeSの生成を抑えられ、また、[Mn]/[S]を13.0以上とし、硫化物系介在物比を0.30以下とすれば、Mnに対して過剰なSよるFeSの生成を抑えられるため、FeSが部分溶融を起こしてバーニングが発生するのを防止できるといえる。 そうすると、本件発明には、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物の個数について具体的には特定はされていないものの、Mn量及びS量の上限値をそれぞれ特定することによって、バーニングが発生するのを防止できる個数になっているものと認められる。 (エ) そして、特許異議申立人が主張する例Aは、同例Bよりも円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物の個数が多いから、仮に、バーニングが発生するものであるとすると、前記(ウ)の検討によれば、当該例Aにおいて、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物の個数は、バーニングが発生するのを防止できる個数になっているとはいえないから、例Aは、本件発明の範囲外となる。 一方、例Bは、本件発明の範囲外であるところ、仮に、バーニングが発生しないものであるとしても、本願発明は、バーニングが発生しないものを全て含んでいる必要はないから、例Bが、本件発明の範囲外であることは、本件発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであるか否かの判断を左右するものではない。 したがって、例A及び例Bが、本件発明の技術的意義を不明にするものであるとはいえない。 エ 次に、前記ア(ア)について検討する。 (ア) 本件発明が解決しようとする課題は、「熱間加工前に加熱したり、高周波を用いて加熱したときに、バーニングを発生しない耐バーニング性に優れた鋼材、およびその製造方法を提供すること」(本件特許明細書【0008】)である。 (イ) 本件訂正請求により、請求項1の「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]」(硫化物系介在物比)の上限は、「0.16」に訂正された。 (ウ) そして、本件特許明細書の【0061】の【表3】によれば、本件発明の成分組成の特定を満足する鋼材であって、「硫化物系介在物比」が0.16以下であるもの(No.3、5~17、19、21~26、37)は、いずれも「耐バーニング性」は「合格」となっており、これらの記載から、本件発明が、前記(ア)で示した課題を解決し得るものであることは、十分に裏付けられているといえる。 オ 以上のとおりであるから、特許異議申立人の前記ア(ア)及び(イ)の主張は採用できない。 (2) 特許異議申立人の平成29年11月16日付け意見書における主張について ア 特許異議申立人は、意見書の4頁7行~6頁3行において、以下の主張をしている。 訂正後の実施例No.3、5~17、19、21~26、37の成分範囲と、訂正後の請求項1の成分範囲とを比較すると以下のとおりである(以下、「対比表1」という。)。 【対比表1】 上記対比表1に見られるように、訂正後の請求項1の各成分範囲において、特に四角で囲んだ上限値又は下限値は、実施例の最大値又は最小値に比べて大きくかけ離れた値であり、実施例でサポートされている範囲ではない、すなわち、「本件特許発明の成分範囲内では、短径が2μm以上の硫化物系介在物のみを対象に硫化物系介在物比を満足すれば、耐バーニング性に優れる鋼材となる」とはいえないことは明らかであるから、訂正後の請求項1~6に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。 しかし、訂正前の実施例No.3~26、28、30、37の成分範囲と、訂正前の請求項1の成分範囲とを比較すると以下のとおりである(以下、「対比表2」という。)。 【対比表2】 上記対比表2では、上記対比表1と同様に、四角で囲んだ上限値又は下限値は、実施例の最大値又は最小値に比べて大きくかけ離れた値となっているから、このことを根拠として、訂正前においても、請求項1~6に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとの主張ができたものと認められる。 したがって、特許異議申立人の上記主張は、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由であるとはいえず、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して、実質的に新たな内容を含むものであると認められるから、採用しない。 イ 特許異議申立人は、意見書の6頁4行~8頁17行において、本件訂正請求に付随して生じた事項として、以下の主張をしている。 訂正後の請求項1に係る発明において、式(1)は、[Mn]/[S]≧13.0と規定されており、[Mn]/[S]の上限値は規定されていないものの、Mn含有量の上限値とS含有量の下限値から[Mn]/[S]の上限値=133.3(本件特許明細書の【0021】)であり実質的に規定されているといえるところ、本件特許明細書の実施例においては、[Mn]/[S]が「13.1~25.5」のときには耐バーニング性が得られることが示されているが、「25.5超えから133.3」のときに耐バーニング性が得られることは示されていない、すなわち、本件特許明細書からでは、[Mn]/[S]が比較的高い値のときでも耐バーニング性が得られることまで一般化ないし拡張できるとはいえず、訂正後の請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。 しかし、訂正前の請求項1に係る発明においても、式(1)は、[Mn]/[S]≧13.0と規定されており、Mn含有量の上限値(2.0%)とS含有量の下限値(0.015)から[Mn]/[S]の上限値=133.3(訂正前の本件特許明細書の【0021】)であるから、同上限値は実質的に規定されていたといえる。 一方、訂正前の明細書の実施例においては、[Mn]/[S]が「13.1~44.2」のときには耐バーニング性が得られることが示されているが、「44.2超え~133.3」のときに耐バーニング性が得られることは示されていないから、このことを根拠として、訂正前においても、本件特許明細書からでは、[Mn]/[S]が比較的高い値のときでも耐バーニング性が得られることまで一般化ないし拡張できるとはいえないとの主張はできたものと認められる。 したがって、特許異議申立人の上記主張は、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由であるとはいえず、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して、実質的に新たな内容を含むものであると認められるから、採用しない。 (3) まとめ よって、本件発明1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700658

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  • 2017-700271異議申立 / 2018-04-27 / 訂正認容転動疲労特性に優れた軸受用鋼材およびその製造方法
    同じ当事者: 岡林 茂、株式会社神戸製鋼所
  • 2017-700183異議申立 / 2018-03-20 / 訂正認容生引き性に優れた高強度鋼線用線材、高強度鋼線、高強度亜鉛めっき鋼線、およびその製…
    同じ当事者: 岡林 茂、株式会社神戸製鋼所
  • 2025-700590異議申立 / 2026-06-23 / 訂正認容プレス成形品の製造方法および製造装置
    同じ当事者: 株式会社神戸製鋼所
  • 2025-700548異議申立 / 2026-05-22 / 訂正認容電気炉への還元鉄装入方法
    同じ当事者: 株式会社神戸製鋼所
  • 2024-700380異議申立 / 2025-09-12 / 請求成立(取消)鉄鉱石ペレット
    同じ当事者: 株式会社神戸製鋼所
同じ論点・分野の審決(審決分類)641件(113・C22C、121・C22C、537・C22C)
  • 2026-700181異議申立 / 2026-06-19 / 維持表面処理特性に優れた冷間工具鋼および工具
    共通の審決分類: 113・C22C、121・C22C、537・C22C
  • 2025-700986異議申立 / 2026-02-13 / 維持リサイクルされたアルミニウム合金スクラップから製造されたアルミニウム合金
    共通の審決分類: 113・C22C、121・C22C、537・C22C
  • 2024-700086異議申立 / 2025-10-20 / 訂正認容Mg合金、Mg合金の製造方法、及び、Mg合金を用いた土木材料及び生体材料
    共通の審決分類: 113・C22C、121・C22C、537・C22C
  • 2025-700343異議申立 / 2025-06-27 / 維持アルミニウム合金材およびアルミニウム合金クラッド材
    共通の審決分類: 113・C22C、121・C22C、537・C22C
  • 2024-700858異議申立 / 2025-01-31 / 維持無方向性電磁鋼板及びモータコア
    共通の審決分類: 113・C22C、121・C22C、537・C22C

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