特許異議申立
2017-700460
熱伝導性複合シート及び放熱構造体
- 審判番号
- 2017-700460
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-521371
- 登録番号
- 特許第6032359号(P6032359)
- 請求日
- 2017年05月11日
- 審決日
- 2018年02月08日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人英明国際特許事務所
- 【異議申立人】柏木 里実
- 審判長/審判官
- 審判長 渡邊 豊英
- 審判官 井上 茂夫
- 審判官 蓮井 雅之
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第36条、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6032359号発明「熱伝導性複合シート及び放熱構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6032359号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
特許第6032359号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6032359号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、平成26年5月20日(優先権主張平成25年6月7日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年11月4日にその特許権の設定登録がされたものであり、その特許について、特許異議申立人柏木里実(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年8月9日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年10月12日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年11月7日に申立人より、本件訂正請求について意見書が提出されたものである。
第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6032359号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1~12について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「0.4W/mK以上」を「0.4~3W/mK」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2~12についても、同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の末尾に「硬化物である請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート」とあるのを「硬化物」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2~12についても、同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2の「0.4W/mK以上」を「0.4~3W/mK」に訂正する。
(請求項2を引用する請求項3~12についても、同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3の
「(I)(a)下記平均組成式(1)
RaSiO(4-a)/2 (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8~2.2の正数である。)
で示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)熱伝導性充填剤:200~4,000質量部、
(c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5~5.0となる量、
(d)白金族金属系触媒:白金族金属系元素量で(a)成分の0.1~1,000ppm、
(f)R13SiO1/2単位(R1は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO4/2単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5~1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:50~500質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物である」を
「上記(I)である」に訂正する。
(請求項3を引用する請求項4、7~12についても、同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の
「(II)(b)熱伝導性充填剤:100~3,000質量部、
(f)R13SiO1/2単位(R1は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO4/2単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5~1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:100質量部、
(g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1~2質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物である」を
「上記(II)である」に訂正する。
(請求項5を引用する請求項6~12についても、同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
本件特許明細書の【0009】の〔1〕に「0.4W/mK以上」とあるのを、「0.4~3W/mK」に訂正する。
(7)訂正事項7
本件特許明細書の【0009】の〔1〕の末尾に「硬化物である請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート」とあるのを、「硬化物」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件特許明細書の【0009】の〔2〕に「0.4W/mK以上」とあるのを、「0.4~3W/mK」に訂正する。
(9)訂正事項9
本件特許明細書の【0009】の〔3〕に
「(I)(a)下記平均組成式(1)
RaSiO(4-a)/2 (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8~2.2の正数である。)
で示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)熱伝導性充填剤:200~4,000質量部、
(c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5~5.0となる量、
(d)白金族金属系触媒:白金族金属系元素量で(a)成分の0.1~1,000ppm、
(f)R13SiO1/2単位(R1は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO4/2単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5~1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:50~500質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物である」とあるのを
「上記(I)である」に訂正する。
(10)訂正事項10
本件特許明細書の【0009】の〔5〕に
「(II)(b)熱伝導性充填剤:100~3,000質量部、
(f)R13SiO1/2単位(R1は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO4/2単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5~1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:100質量部、
(g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1~2質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物である」とあるのを
「上記(II)である」に訂正する。
2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1では、熱伝導性粘着層の伝導率について、「0.4W/mK以上」と上限が特定されていなかったものを、「0.4~3W/mK」と上限を「3W/mK」に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮しようとするものであり、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件特許明細書の【0017】に「本発明の熱伝導性複合シートにおいて、熱伝導性粘着層の熱伝導率は、0.4W/mK以上であり、好ましくは0.6W/mK以上である。その上限は特に制限されないが、通常5W/mK以下、特に3W/mK以下である。」とあり、上限を「3W/mK」以下とすることが記載されているから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
訂正前の請求項1は、独立形式で記載される請求項にもかかわらず、「シリコーン熱伝導性組成物の硬化物である請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート」と、他の請求項を引用して記載されており、明らかな誤記を含む記載である。
この点、願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)には、本発明の「熱伝導性複合シート」は「熱伝導層」に「熱伝導性粘着層」を積層したものであり(【0013】)、この「熱伝導性粘着層」は「シリコーン熱伝導性組成物を硬化させたものを例示することができる」(【0021】)とされ、そのような「シリコーン熱伝導性組成物」としては、「シリコーン熱伝導性組成物(I)」や「シリコーン熱伝導性組成物(II)」が挙げられている(【0022】)。また、「熱伝導性複合シート」は、「例えば上記シリコーン熱伝導性組成物を、熱伝導層上に上記厚さとなるようにコーティングし、硬化させて熱伝導性粘着層とすることにより得られる。」(【0064】)と記載され、「熱伝導性粘着層」は、「シリコーン熱伝導性組成物」の硬化物からなる。
そうすると、「熱伝導性粘着層」は、「シリコーン熱伝導性組成物の硬化物」からなるものであり、訂正事項2は、明らかな誤記を正しい記載に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2は、当初明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項2の「0.4W/mK以上」を「0.4~3W/mK」と上限を「3W/mK」に特定するものであり、上記(1)で述べた理由と同様に、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4について
訂正前の請求項3では、シリコーン熱伝導性組成物として引用する請求項1の「(I)」と同じ組成物が記載され、必ずしも明瞭な記載ではなかったものを、組成物「(I)」又は「(II)」のうち、「上記(I)である」と特定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項5について
訂正前の請求項5では、シリコーン熱伝導性組成物として引用する請求項1の「(II)」と同じ組成物が記載され、必ずしも明瞭な記載ではなかったものを、組成物「(I)」又は「(II)」のうち、「上記(II)である」と特定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項5は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(6)訂正事項6~10について
訂正事項6~10は、いずれも訂正事項1~5に係る訂正に伴い、本件特許明細書の記載を整合させるための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。そして、訂正事項6~10による訂正に係る請求項は、請求項1~12であるところ、それら全てについて訂正が請求されるものである。
よって、訂正事項6~10は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものである。
(7)一群の請求項について
訂正前の請求項2~12は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1、2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.請求項1~12に係る発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1~12に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるものであり、そのうち本件発明1は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
面方向の熱伝導率が20~2,000W/mKであり、アルミニウム箔、グラファイトシート及び銅箔から選ばれる熱伝導層の少なくとも片面に、0.4~3W/mKの熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層させてなる熱伝導性複合シートであって、熱伝導性粘着層が下記(I)又は(II)である熱伝導性複合シート。
(I)
(a)下記平均組成式(1)
RaSiO(4-a)/2 (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8~2.2の正数である。)
で示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)熱伝導性充填剤:200~4,000質量部、
(c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5~5.0となる量、
(d)白金族金属系触媒:白金族金属系元素量で(a)成分の0.1~1,000ppm、
(f)R13SiO1/2単位(R1は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO4/2単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5~1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:50~500質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物
(II)
(b)熱伝導性充填剤:100~3,000質量部、
(f)R13SiO1/2単位(R1は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO4/2単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5~1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:100質量部、
(g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1~2質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物」
2.取消理由の概要
本件発明1~12に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
理由1)本件発明1~12は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
[理由1]
《引用刊行物》
1:特公平3-51302号公報(審査段階の平成28年1月29日付け拒絶理由通知で引用された引用文献2)
2:特開2010-219290号公報(甲1)
3:特開2009-234112号公報(甲2)
4:特開2004-99842号公報(甲3)
5:特開2004-311577号公報(甲4)
6:国際公開第2006/134858号(甲5)
刊行物1には、以下の発明(「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「金、銀、銅、アルミニウムなどの金属板、酸化ベリリウム、窒化ほう素、アルミナなどの酸化物、化合物あるいは黒鉛からなる放熱シート1の片面あるいは両面に、シリコーンゴム層6を設けた、電気部品用熱伝導性シート」
本件発明1は、刊行物1発明及び刊行物2~6に記載される事項に基き、当業者が容易に発明をすることができたものである。
[理由2]
請求項1の末尾に「請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート。」と記載され、独立請求項である請求項1が、「請求項1又は2」を引用する形式となっており、何を特定しようとしているのか明確でない。
また、請求項3及び5は、請求項1の(I)、(II)と重複しており、請求項1を引用する請求項3が、また、請求項1を引用する請求項5が、それぞれ何を特定しようとしているのか明確でない。
3.当審の判断
(1)理由2(特許法第36条)に係る取消理由についての判断
まず、理由2について検討する。
本件訂正請求により、請求項1の末尾の「請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート。」との記載は削除され、請求項1は他の請求項の記載を引用しない記載となり、また、請求項3及び5についても、それぞれ、請求項1の組成物「(I)」、「(II)」であることが明確となったため、本件特許の特許請求の範囲の記載は明確である。
よって、本件発明1~12は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものではないから、本件発明1~12に係る特許は、特許法第113条第4号に該当しない。
(2)理由1(特許法第29条第2項)に係る取消理由についての判断
ア.本件発明1と上記刊行物1発明を対比すると、
本件発明1が、「面方向の熱伝導率が20~2,000W/mKであり、アルミニウム箔、グラファイトシート及び銅箔から選ばれる熱伝導層の少なくとも片面に、0.4~3W/mKの熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層」させた「熱伝導性複合シート」であるのに対し、
刊行物1発明は、「金、銀、銅、アルミニウムなどの金属板、酸化ベリリウム、窒化ほう素、アルミナなどの酸化物、化合物あるいは黒鉛からなる放熱シート1の片面あるいは両面に、シリコーンゴム層6を設けた」電気部品用熱伝導性シートではあるものの、「放熱シート1」及び「シリコーンゴム層6」の面方向の熱伝導率について特定されていない点で、少なくとも相違する。
イ.本件発明1は、特定の面方向の熱伝導率(20~2,000W/mK)を有する熱伝導層と、特定の面方向の熱伝導率(0.4~3W/mK)を有する熱伝導性粘着層を組み合わせて積層させることにより、「ICチップなどから発生する熱を熱伝導性粘着層と接触させることでスムーズに熱伝導層に伝え、熱伝導層が直ちに面内方向に熱を拡散させることができる」(本件特許明細書の【0010】)ものである。
この点、熱伝導層と熱伝導性粘着層の面方向の熱伝導率について、刊行物2には、熱伝導層の熱伝導率が20~2,000W/mK、複合シート全体の熱伝導率が7.4~9.6W/mK(実施例1~4)である熱伝導性複合シートが記載されているが、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層自体の熱伝導率については記載されておらず、しかも、刊行物2の熱伝導性複合シートは、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層が、熱伝導層と金属シートに挟まれた構造からなり、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層は、発熱源に粘着されるものではないから、刊行物2の記載は、刊行物1発明のトランジスタ等の発熱源に粘着される「シリコーンゴム層6」の面方向の熱伝導率を示唆するものではない。
また、刊行物3~6にも、熱伝導層と熱伝導性粘着層の面方向の熱伝導率の組み合わせについて、記載も示唆もない。
よって、本件発明1は、刊行物1発明及び刊行物2~6に記載される事項に基き、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明2~12は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しており、上記のように、本件発明1は、刊行物1発明及び刊行物2~6に記載される事項に基き、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2~12についても、刊行物1発明及び刊行物2~6に記載される事項に基き、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.申立人は、意見書において、刊行物2~5の熱伝導性粘着剤の熱伝導性充填剤の配合率は、本件発明1の熱伝導性充填剤の配合率と同程度であることからすると、刊行物2~5の熱伝導性粘着剤の熱伝導率も、本件発明1の熱伝導性粘着剤の「0.4~3W/mK」と同じになる旨主張する。
しかし、上記イ.で述べたように、本件発明1のように、特定の面方向の熱伝導率(20~2,000W/mK)を有する熱伝導層と、特定の面方向の熱伝導率(0.4~3W/mK)を有する熱伝導性粘着層を組み合わせて積層させることが、刊行物2~5には記載されておらず、仮に刊行物2~5の熱伝導性粘着剤の熱伝導率が、本件発明1の熱伝導性粘着剤の「0.4~3W/mK」と同じになるとしても、刊行物1発明の「放熱シート1」及び「シリコーンゴム層6」の面方向の熱伝導率について、本件発明1のような熱伝導率の組み合わせとすることが記載されていないから、申立人の上記主張は採用できない。
オ.よって、本件発明1~12は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明1~12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、本件発明1~12は、甲1(刊行物2)に記載された発明及び甲2(刊行物3)~甲5(刊行物6)に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号の規定により、本件発明1~12に係る特許を取り消すべき旨を主張する。
しかし、上記(2)イ.で述べたように、甲1(刊行物2)の熱伝導性複合シートは、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層が、熱伝導層と金属シートに挟まれた構造からなり、金属シートをリワーク性のために設けた甲1において、この金属シートを省いて、本件発明1のように熱伝導層と熱軟化性熱伝導性シート層のみからなるものとする動機があるとはいえない。
よって、申立人の上記申立理由を採用することはできない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件発明1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-700460