特許異議申立
2017-700406
燃料の圧力脈動低減機構、及びそれを備えた内燃機関の高圧燃料供給ポンプ
- 審判番号
- 2017-700406
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-016282
- 登録番号
- 特許第6012785号(P6012785)
- 請求日
- 2017年04月24日
- 審決日
- 2018年08月31日
- 公報発行日
- 2018年11月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日立オートモティブシステムズ株式会社
- 【権利者代理人】戸田 裕二
- 【異議申立人】河原田 隆
- 審判長/審判官
- 審判長 冨岡 和人
- 審判官 金澤 俊郎
- 審判官 松下 聡
- 分類
- P1652.121-YAA(F02M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6012785号発明「燃料の圧力脈動低減機構、及びそれを備えた内燃機関の高圧燃料供給ポンプ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6012785号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第6012785号の請求項1、8ないし9に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6012785号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成28年9月30日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年4月24日に特許異議申立人河原田隆(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1、8及び9に対して特許異議の申立てがされ、平成29年8月29日付けで取消理由が通知され、平成29年11月6日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年12月20日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、平成30年1月19日に特許異議申立人から意見書が提出され、平成30年3月7日付けで訂正拒絶理由通知がされ、平成30年4月11日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年5月9日付けで取消理由(決定の予告)(以下、単に「取消理由」という。)が通知され、平成30年7月13日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正することを請求する。(なお、下線部は訂正箇所を示す。以下同様。)
「【請求項1】
ポンプ本体と、当該ポンプ本体により形成されるダンパ室と、当該ダンパ室を通って前記ポンプ本体に形成された加圧室へ燃料を導入する低圧燃料通路と、前記ポンプ本体と別体に構成され、前記ポンプ本体の凹部に取り付けられたシリンダと、前記加圧室の容積を変化させるプランジャと、当該プランジャの外周に設けられたシール部と、を備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記ダンパ室に収納され、2枚の円盤状金属ダイアフラムが全周にわたって接合され、接合部の内側に形成された密閉空間にガスが封入された金属ダンパを備え、
前記ポンプ本体に設けられた吸入ジョイントから吸入される燃料が導かれる吸入通路が前記ポンプ本体に形成され、
前記吸入通路は、前記ダンパ室に連通する第1分岐通路と、前記シール部によりシールされるとともに、前記シリンダの下端面と前記シール部の上端面との間に形成されたシール室に連通する第2分岐通路と、に分岐され、
前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路は前記シリンダに対し、外径側において前記プランジャの軸方向と同じ方向に形成され、
前記プランジャは、前記シール部と摺動する小径部と、前記シリンダの内周で上下に往復運動することで前記シリンダの前記下端面と前記シール部の前記上端面との間に形成された前記シール室の容積を増減させる大径部とを有し、
前記第2分岐通路は前記シリンダの外周面により形成された通路を介して前記シール室に連通するように構成された高圧燃料供給ポンプ。」
(請求項1の記載を引用する請求項8及び9も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を以下の事項により特定されるとおりの請求項2として訂正することを請求する。
「【請求項2】
ポンプ本体と、当該ポンプ本体により形成されるダンパ室と、当該ダンパ室を通って前記ポンプ本体に形成された加圧室へ燃料を導入する低圧燃料通路と、前記加圧室の容積を変化させるプランジャと、当該プランジャの外周に設けられたシール部と、を備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記ダンパ室に収納され、2枚の円盤状金属ダイアフラムが全周にわたって接合され、接合部の内側に形成された密閉空間にガスが封入された金属ダンパを備え、
前記ポンプ本体に設けられた吸入ジョイントから吸入される燃料が導かれる吸入通路が前記ポンプ本体に形成され、
前記吸入通路は、前記ダンパ室に連通する第1分岐通路と、前記シール部によりシールされたシール室に連通する第2分岐通路と、とに分岐され、
前記2枚の円盤状金属ダイアフラムの両表面は、前記ダンパ室に取付けられた状態で、前記吸入ジョイント部から、前記ダンパ室を流れて前記加圧室に流れる燃料に晒されるよう構成される高圧燃料供給ポンプ。」
(3)訂正事項3
特許権者は、特許請求の範囲の請求項3を以下の事項により特定されるとおりの請求項3として訂正することを請求する。
「【請求項3】
ポンプ本体と、当該ポンプ本体により形成されるダンパ室と、当該ダンパ室を通って前記ポンプ本体に形成された加圧室へ燃料を導入する低圧燃料通路と、前記加圧室の容積を変化させるプランジャと、当該プランジャの外周に設けられたシール部と、を備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記ダンパ室に収納され、2枚の円盤状金属ダイアフラムが全周にわたって接合され、接合部の内側に形成された密閉空間にガスが封入された金属ダンパを備え、
前記ポンプ本体に設けられた吸入ジョイントから吸入される燃料が導かれる吸入通路が前記ポンプ本体に形成され、
前記吸入通路は、前記ダンパ室に連通する第1分岐通路と、前記シール部によりシールされたシール室に連通する第2分岐通路と、に分岐され、
前記金属ダンパの周囲を挟持する一対の押付け部材は、前記金属ダンパの両外表面に当接する環状面部を有し、前記一対の押付け部材は前記環状面部に引き続く湾曲部を有し、さらに当該湾曲部に引き続いて互いに平行な円筒部が形成されており、当該円筒部の対面する内周面と外周面とが接合されてユニット化されている高圧燃料供給ポンプ。」
(請求項3の記載を引用する請求項4、5も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許権者は、特許請求の範囲の請求項6を以下の事項により特定されるとおりの請求項6として訂正することを請求する。
「【請求項6】
ポンプ本体と、当該ポンプ本体により形成されるダンパ室と、当該ダンパ室を通って前記ポンプ本体に形成された加圧室へ燃料を導入する低圧燃料通路と、前記加圧室の容積を変化させるプランジャと、当該プランジャの外周に設けられたシール部と、を備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記ダンパ室に収納され、2枚の円盤状金属ダイアフラムが全周にわたって接合され、接合部の内側に形成された密閉空間にガスが封入された金属ダンパを備え、
前記ポンプ本体に設けられた吸入ジョイントから吸入される燃料が導かれる吸入通路が前記ポンプ本体に形成され、
前記吸入通路は、前記ダンパ室に連通する第1分岐通路と、前記シール部によりシールされたシール室に連通する第2分岐通路と、に分岐され、
前記低圧燃料通路が形成された前記ポンプ本体とともに前記ダンパ室を形成するカバー部材を有し、
前記カバー部材の内壁面が前記金属ダンパを保持する一方の押し付け部材に圧接され、前記一方の押し付け部材若しくは他方の押し付け部材のどちらか一方が前記カバー部材とは反対側で前記ポンプ本体の前記ダンパ室の内壁面に押し付けられることで、金属ダンパユニットが前記ダンパ室に取付けられている高圧燃料供給ポンプ。」
(5)訂正事項5
特許権者は、特許請求の範囲の請求項7を以下の事項により特定されるとおりの請求項7として訂正することを請求する。
「【請求項7】
ポンプ本体と、当該ポンプ本体により形成されるダンパ室と、当該ダンパ室を通って前記ポンプ本体に形成された加圧室へ燃料を導入する低圧燃料通路と、前記加圧室の容積を変化させるプランジャと、当該プランジャの外周に設けられたシール部と、を備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記ダンパ室に収納され、2枚の円盤状金属ダイアフラムが全周にわたって接合され、接合部の内側に形成された密閉空間にガスが封入された金属ダンパを備え、
前記ポンプ本体に設けられた吸入ジョイントから吸入される燃料が導かれる吸入通路が前記ポンプ本体に形成され、
前記吸入通路は、前記ダンパ室に連通する第1分岐通路と、前記シール部によりシールされたシール室に連通する第2分岐通路と、に分岐され、
前記カバー部材の内壁面と、前記一方の押し付け部材とは部分的に圧接しており、両者の圧接していない部分に、前記一方の押し付け部材の内外を連通し、燃料を流通する間隙が形成されている高圧燃料供給ポンプ。」
(6)訂正事項6
特許権者は、特許請求の範囲の請求項8を以下の事項により特定されるとおりの請求項8として訂正することを請求する。
「【請求項8】
請求項1に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、
内周下端部において前記シール部を保持する保持部材を備え、
前記第1分岐通路と、前記第2分岐通路と、が直線形状に連通するとともに、前記第2分岐通路は前記シリンダの外周面と前記保持部材の内周面との間に形成された前記通路を介して前記シール室に連通するように構成された高圧燃料供給ポンプ。」
(7)訂正事項7
特許権者は、特許請求の範囲の請求項9を以下の事項により特定されるとおりの請求項9として訂正することを請求する。
「【請求項9】
請求項1に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記第1分岐通路と、前記第2分岐通路と、が直線形状に連通し、
前記吸入通路は前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路と直交するように形成され、
前記シリンダは、前記ポンプ本体の前記凹部に挿入される挿入部と、前記挿入部よりも径が大きく上面が前記ポンプ本体の下面と接触する接触部と、を有し、
前記通路は前記シリンダの前記接触部に形成された高圧燃料供給ポンプ。」
(8)訂正事項8
特許権者は、特許請求の範囲の請求項10を以下の事項により特定されるとおりの請求項10として訂正することを請求する。
「【請求項10】
ポンプ本体と、当該ポンプ本体により形成されるダンパ室と、当該ダンパ室を通って前記ポンプ本体に形成された加圧室へ燃料を導入する低圧燃料通路と、前記加圧室の容積を変化させるプランジャと、当該プランジャの外周に設けられたシール部と、を備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記ダンパ室に収納され、2枚の円盤状金属ダイアフラムが全周にわたって接合され、接合部の内側に形成された密閉空間にガスが封入された金属ダンパを備え、
前記ポンプ本体に設けられた吸入ジョイントから吸入される燃料が導かれる吸入通路が前記ポンプ本体に形成され、
前記吸入通路は、前記ダンパ室に連通する第1分岐通路と、前記シール部によりシールされたシール室に連通する第2分岐通路と、に分岐され、
前記加圧室の吐出側と前記ダンパ室とを連通するリリーフ通路と、前記リリーフ通路を開閉するリリーフ弁と、前記リリーフ弁を前記加圧室の吐出側から前記ダンパ室の側に向かって付勢するリリーフバネと、を備え、前記加圧室の吐出側と前記ダンパ室との圧力差が設定値を超えると前記リリーフ弁が開弁し、前記加圧室の吐出側の燃料を前記ダンパ室に戻すリリーフ弁機構を備えた高圧燃料供給ポンプ。」
(9)訂正事項9
特許権者は、明細書の段落【0010】を以下のとおり訂正することを請求する。
「【0010】
ポンプ本体と、当該ポンプ本体により形成されるダンパ室と、当該ダンパ室を通って前記ポンプ本体に形成された加圧室へ燃料を導入する低圧燃料通路と、前記ポンプ本体と別体に構成され、前記ポンプ本体の凹部に取り付けられたシリンダと、前記加圧室の容積を変化させるプランジャと、当該プランジャの外周に設けられたシール部と、を備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、前記ダンパ室に収納され、2枚の円盤状金属ダイアフラムが全周にわたって接合され、接合部の内側に形成された密閉空間にガスが封入された金属ダンパを備え、前記ポンプ本体に設けられた吸入ジョイントから吸入される燃料が導かれる吸入通路が前記ポンプ本体に形成され、前記吸入通路は、前記ダンパ室に連通する第1分岐通路と、前記シール部によりシールされるとともに、前記シリンダの下端面と前記シール部の上端面との間に形成されたシール室に連通する第2分岐通路と、に分岐され、前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路は前記シリンダに対し、外径側において前記プランジャの軸方向と同じ方向に形成され、前記プランジャは、前記シール部と摺動する小径部と、前記シリンダの内周で上下に往復運動することで前記シリンダの前記下端面と前記シール部の前記上端面との間に形成された前記シール室の容積を増減させる大径部とを有し、前記第2分岐通路は前記シリンダの外周面により形成された通路を介して前記シール室に連通するように構成された。」
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1の、請求項1、8及び9に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2の、請求項2に係る訂正は、引用関係の解消を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項3の、請求項3ないし5に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び引用関係の解消を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
訂正事項4の、請求項6に係る訂正は、引用関係の解消を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項5の、請求項7に係る訂正は、引用関係の解消を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項6の、請求項8に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項7の、請求項9に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項8の、請求項10に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び引用関係の解消を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
訂正事項9の、明細書に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正前の請求項1ないし10は、請求項2ないし10が、請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正の請求は、一群の請求項に対してされたものである。
3 小括
本件訂正の請求による訂正事項1ないし9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1~10〕及び明細書について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1、8及び9に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明8」及び「本件訂正発明9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、8及び9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
(1)本件訂正発明1
「ポンプ本体と、当該ポンプ本体により形成されるダンパ室と、当該ダンパ室を通って前記ポンプ本体に形成された加圧室へ燃料を導入する低圧燃料通路と、前記ポンプ本体と別体に構成され、前記ポンプ本体の凹部に取り付けられたシリンダと、前記加圧室の容積を変化させるプランジャと、当該プランジャの外周に設けられたシール部と、を備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記ダンパ室に収納され、2枚の円盤状金属ダイアフラムが全周にわたって接合され、接合部の内側に形成された密閉空間にガスが封入された金属ダンパを備え、
前記ポンプ本体に設けられた吸入ジョイントから吸入される燃料が導かれる吸入通路が前記ポンプ本体に形成され、
前記吸入通路は、前記ダンパ室に連通する第1分岐通路と、前記シール部によりシールされるとともに、前記シリンダの下端面と前記シール部の上端面との間に形成されたシール室に連通する第2分岐通路と、に分岐され、
前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路は前記シリンダに対し、外径側において前記プランジャの軸方向と同じ方向に形成され、
前記プランジャは、前記シール部と摺動する小径部と、前記シリンダの内周で上下に往復運動することで前記シリンダの前記下端面と前記シール部の前記上端面との間に形成された前記シール室の容積を増減させる大径部とを有し、
前記第2分岐通路は前記シリンダの外周面により形成された通路を介して前記シール室に連通するように構成された高圧燃料供給ポンプ。」
(2)本件訂正発明8
「請求項1に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、
内周下端部において前記シール部を保持する保持部材を備え、
前記第1分岐通路と、前記第2分岐通路と、が直線形状に連通するとともに、前記第2分岐通路は前記シリンダの外周面と前記保持部材の内周面との間に形成された前記通路を介して前記シール室に連通するように構成された高圧燃料供給ポンプ。」
(3)本件訂正発明9
「請求項1に記載の高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記第1分岐通路と、前記第2分岐通路と、が直線形状に連通し、
前記吸入通路は前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路と直交するように形成され、
前記シリンダは、前記ポンプ本体の前記凹部に挿入される挿入部と、前記挿入部よりも径が大きく上面が前記ポンプ本体の下面と接触する接触部と、を有し、
前記通路は前記シリンダの前記接触部に形成された高圧燃料供給ポンプ。」
2 取消理由の概要
本件訂正前の、平成30年4月11日付け手続補正書により補正された平成29年11月6日付け訂正請求書により訂正された請求項1、8及び9に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明8」及び「本件発明9」という。)に対して平成30年5月9日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)本件発明8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項8に係る特許は、取り消されるべきものである。
(3)本件発明9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項9に係る特許は、取り消されるべきものである。
3 甲号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
取消理由通知において引用した刊行物である甲第1号証(特開2006-307829号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0016】
高圧燃料ポンプ10は、低圧燃料ポンプ1から燃料を供給される吸入室210と加圧室220との連通を電磁駆動式の調量弁60で断続する。プランジャ40はカム2の回転にともない往復移動し、加圧室220に吸入した燃料を加圧する。加圧室220で加圧された燃料は、吐出弁80から高圧燃料ポンプ10の下流側の燃料配管4を通りデリバリパイプ6に供給される。デリバリパイプ6には燃料噴射弁7が取り付けられており、デリバリパイプ6に蓄圧された燃料をエンジンの燃焼室に噴射する。リリーフ弁8は、高圧燃料ポンプ10の下流側の燃料圧力の異常昇圧を防止するものであり、高圧燃料ポンプ10の下流側の燃料配管4に取り付けられている。
【0017】
次に、高圧燃料ポンプ10の構成を図1~図3に基づいて詳細に説明する。高圧燃料ポンプ10は、シリンダ12、ハウジングカバー30、プランジャ40、配管継手50、調量弁60、および吐出弁80等を備えている。
シリンダ12およびハウジングカバー30はポンプハウジングを構成している。シリンダ12は磁性材であるマルテンサイト系ステンレス等で形成されている。シリンダ12は、プランジャ40を往復移動自在に支持しており、プランジャ40と摺動するシリンダ12の摺動部14は高周波焼き入れ等により硬化して形成されている。そして、シリンダ12には、燃料入口である配管継手50、調量弁60および燃料出口である吐出弁80等の高圧燃料ポンプ10の機能部品が直接取り付けられている。つまりシリンダ12は、高圧燃料ポンプ10のハウジング本体をなしている。
【0018】
また、シリンダ12には、導入通路202、吸入通路212、加圧室220、逃がし通路222、吐出通路230、リターン通路244等が形成されている。吸入室210は、シリンダ12とハウジングカバー30との間に形成されている。
プランジャ40は、シリンダ12の摺動部14に往復移動自在に支持されている。加圧室220は、プランジャ40の往復移動方向の一端側に形成されている。プランジャ40の他端側に形成されたヘッド42は、スプリング座44と結合している。スプリング座44とシリンダ12との間にスプリング46が介装されている。スプリング座44はスプリング46の付勢力によりタペット3(図4参照)の底部内壁に押し付けられている。このタペット3の底部外壁がカム2(図4参照)の回転によりカム2と摺動することにより、プランジャ40は往復移動する。プランジャ40のヘッド42側の外周面と、プランジャ40を収容するシリンダ12の内周面との間は、オイルシール48によりシールされている。オイルシール48は、エンジン内から加圧室220へのオイルの侵入を防止し、かつ加圧室220からエンジン内への燃料漏れを防止する。プランジャ40とシリンダ12との摺動箇所からオイルシール48側に漏れた燃料は、逃がし通路222から低圧側の導入通路202に戻される。これにより、オイルシール48に高圧の燃料圧力が加わることを防止する。
【0019】
図2に示すように、配管継手50は、配管継手50のボディ52とシリンダ12とがねじ結合することにより、シリンダ12に形成した取付穴16に取り付けられている。配管継手50のボディ52内に導入通路202と連通する燃料通路200が形成されており、この燃料通路200に燃料フィルタ54が設置されている。」
(イ)「【0024】
次に、高圧燃料ポンプ10の作動について説明する。
(1)吸入行程
プランジャ40が下降し、加圧室220の圧力が低下すると、弁部材62の上流側である吸入室210と下流側である加圧室220とから弁部材62が受ける差圧が変化する。そして、加圧室220の燃料圧力により弁部材62が弁座部材68に着座する方向に受ける力とスプリング66の付勢力との和が、吸入室210側の燃料圧力により弁部材62が弁座部材68から離座する方向に受ける力よりも小さくなると、弁部材62は弁座部材68から離座し、弁部材62に対し弁座部材68と反対側のシリンダ12の吸引部20に係止される。これにより、吸入室210から吸入通路212を通り加圧室220に燃料が吸入される。」
(ウ)「【0045】
プランジャ40と摺動部14との摺動箇所とオイルシール48との間には、低圧室294が形成されている。低圧室294は、排出通路296により吸入室210と連通している。ボール164の下流側の燃料通路232の燃料、つまり燃料噴射弁の上流側の燃料は、燃料通路232から摺動クリアランス292を通って低圧室294に漏れ出し、排出通路296を通って吸入室210にリターンする。このように、摺動クリアランス292を通って吐出弁160の下流側の燃料が低圧側にリターンするので、燃料噴射弁の停止時に吐出弁160の下流側、つまり燃料噴射弁の上流側の燃料圧力が低下する。第5実施形態では、連通路290、低圧室294、および排出通路296がリターン通路を構成している。」
(エ)図1ないし4及び図12において、プランジャ40(大径部)とオイルシール48との間には空間が設けられている。以下、この空間を「シール室」という。また、図2において、導入通路202と逃がし通路222との間には空間が設けられている。以下、この空間を、「燃料通路200の先端空間」という。
イ 甲1発明
上記ア(ア)ないし(エ)並びに図1ないし4及び図12によれば、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリンダ12及びハウジングカバー30と、当該シリンダ12及びハウジングカバー30により形成される吸入室210と、当該吸入室210を通って前記シリンダ12及びハウジングカバー30に形成された加圧室220へ燃料を導入する吸入通路212と、前記シリンダ12と、前記加圧室220の容積を変化させるプランジャ40と、当該プランジャ40の外周に設けられたオイルシール48と、を備えた高圧燃料ポンプ10において、
前記シリンダ12及びハウジングカバー30に設けられた配管継手50から吸入される燃料が導かれる燃料通路200の先端空間が前記シリンダ12及びハウジングカバー30に形成され、
前記燃料通路200の先端空間は、前記吸入室210に連通する導入通路202と、前記オイルシール48によりシールされるシール室に連通する逃がし通路222と、に分岐され、
前記導入通路202及び前記逃がし通路222は前記シリンダ12の内部において形成され、
前記プランジャ40は、前記オイルシール48と摺動する小径部と、前記シリンダ12の内周で上下に往復運動することで前記シール室の容積を増減させる大径部とを有し、
前記逃がし通路222は前記シリンダ12の内部に形成された通路を介して前記シール室に連通するように構成された高圧燃料ポンプ10。」
(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
取消理由通知において引用した刊行物である甲第2号証(特開2005-42554号公報)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0009】
ポンプ本体(ポンプボディとも称す)1には、燃料吸入口を形成する吸入ジョイント10,燃料吐出口を形成する吐出ジョイント11が螺合により固定され、吸入ジョイント10から吐出ジョイント11に至る燃料通路の途中に燃料を加圧する加圧室12が形成されている。
【0010】
加圧室12の入口には吸入弁5が設けられ、吐出ジョイント11には吐出弁6が設けられている。吸入弁5と吐出弁6はそれぞればね5a,6aにて加圧室12の吸入口,吐出口をそれぞれ閉じる方向に付勢され、所謂燃料の流通方向を制限する逆止弁を構成している。
【0011】
加圧室12は、加圧部材であるプランジャ2の先端が出入りするポンプ室12a,吸入弁5に連通する吸入孔5b,吐出弁6に連通する吐出孔6bを含んで形成されている。加圧室はポンプボディ1にダイカスト成形及び切削加工によって形成される。」
(イ)「【0013】
プランジャ2の下端に設けられたリフタ3は、ばね4にてカム7に圧接されている。プランジャ2は、シリンダ20に摺動可能に保持されており、エンジンカムシャフト等により回転されるカム100により、往復運動して加圧室12内の容積変化させる。
【0014】
シリンダ20はその外周がホルダ21で保持され、ホルダ21の外周に螺刻されたねじを、ポンプボディ1に螺刻されたねじにねじ込むことによってポンプボディ1に固定される。」
(ウ)「【0016】
また、シリンダ20の図中下端はプランジャシール30でシールされ、ガソリン(燃料)のブローバイが外部(カム7側)に洩れることが防止される。同時に摺動部を潤滑する潤滑油(エンジンオイルであっても良い)が加圧室へ洩れるのを防止する。
【0017】
プランジャシール30の外周はホルダ21の下端内周部に保持されている。」
(エ)「【0023】
したがって、プランジャ2の往復運動に伴い、燃料は燃料吸入ジョイント10から加圧室12への吸入,加圧室12からコモンレール53への吐出,加圧室12から燃料吸入通路への戻し、の3つの工程を繰り返すことになり、低圧側に燃料圧力脈動が発生する。
【0024】
つぎに、図3により、燃料圧力脈動を低減する機構について説明する。図3は燃料圧力脈動を低減する機構の拡大図を示す。
【0025】
二枚式金属ダイヤフラムダンパ80は、二枚のダイヤフラム80a,80bを張り合わせ、内部に気体80cを封入し構成している。この二枚式金属ダイヤフラムダンパ80は、外部からの圧力変化に応じて体積変化をすることによって、脈動減衰機能を発揮する受圧素子である。薄板の円形で洗面器型のダイヤフラムを二枚用い、二枚のダイヤフラムを同軸にかつ、凹んだ側を向かい合わせる方向に結合し、二枚のダイヤフラムの間に形成される内部空間に気体80cを封入し構成している。ダイヤフラム80a,80bは圧力変化に対して弾性変形し易いように、同心円状のひだを形成しており、断面が波形の形状としている。この二枚のダイヤフラム80a,80bは、外周を全周にわたり溶接することによって結合し、かつ前記溶接によって内部の気体80cが漏れないようにしている。
【0026】
内部の空間には大気圧以上の圧力の気体80cを封入している。内部の気体80cの圧力は、対象流体の圧力に応じて製造時に任意に設定することができる。封入する気体は、例えばアルゴンガスとヘリウムガスの混合気体とする。へリウムは溶接部からの漏れに敏感であり、アルゴンは漏れにくい。したがって、溶接部に漏れがあれば容易に検出でき、かつ気体80cが全て漏れてしまうことはない。混合配分は漏れにくく、かつ漏れが検出し易くするように配分している。
【0027】
ダイヤフラム80a,80bの材質は燃料中での耐食性に優れ、かつ強度の優れる析出硬化系のステンレス材を用いている。燃料圧力脈動を低減する機構として、この二枚式金属ダイヤフラム式ダンパ80を燃料通路10と低圧室10aの間に設ける。
【0028】
二枚式金属ダイヤフラムダンパ80は、波板バネとしての波ワッシャ101とワッシャガイド102により、外周を全周にわたって挟持されている。押さえ部材としてのワッシャ(環状リング)103は裏表両面の外周側に同じ切欠を設ける。ワッシャ103の外周は、二枚式金属ダイヤフラムダンパ80の外周と同じ寸法に加工されている。ワッシャガイド102は二枚式金属ダイヤフラムダンパ80を挟持する部位の外周に溝102aを設ける。
【0029】
これにより、二枚式金属ダイヤフラムダンパ、およびワッシャ103はワッシャガイド102の同じ壁面でガイドされることになり、外周溶接部80dは挟持されることはないので、応力集中による二枚式金属ダイヤフラムダンパの破損を防ぐことができる。」
(オ)「【0033】
また、金属ダイアフラム組体(ダンパ)80を収納する収納容器部としての燃料室10b,10cを加圧室の入口部に至る燃料室10aと連通する。燃料はOリング93によって外部に対してシールされている。
【0034】
これにより、燃料はばねワッシャ101の隙間を通って燃料室10cにも自由に往復可能なので、二枚式金属ダイヤフラムダンパの両面に燃料を行き渡らせることができ、燃料圧力脈動を効率的に吸収することができる。」
イ 甲2発明
上記ア(ア)ないし(オ)並びに図1ないし13によれば、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポンプ本体1と、ポンプ本体1により形成される燃料室10b,10cと、燃料室10b,10cを通ってポンプ本体1に形成された加圧室12へ燃料を導入する燃料室10aと、加圧室12の容積を変化させるプランジャ2と、プランジャ2の外周に設けられたプランジャシール30と、を備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、
燃料室10b,10cに収納され、2枚のダイヤフラム80a,80bが全周にわたって溶接され、外周溶接部80dの内部の空間に気体80cが封入された二枚式金属ダイヤフラムダンパ80を備え、
前記ポンプ本体1に設けられた吸入ジョイント10から吸入される燃料が導かれる燃料室10aがポンプ本体1に形成された、高圧燃料供給ポンプ。」
(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載事項
取消理由通知において引用した刊行物である甲第3号証(国際公開第2007/009828号)には、次の事項が記載されている。
(ア)「Der ・・・ ist.」(第5ページ第21行ないし第26行)
(仮訳:低圧接続管片56に供給された燃料は、孔74を通してフィルタ76に、ひいては圧力緩衝室78に供給されることができ、この圧力緩衝室78はポンプカバー48によって画成されている。圧力緩衝室78内には圧力ダンパ80が設けられており、これによって圧力変動を減衰することができ、内燃機関10の高回転数時や駆動カムの数が多い場合でも、高圧ポンプの高い供給率を保証することができる。)
(イ)「Im ・・・ gelangt.」(第5ページ第28ないし31行)
(仮訳:ポンプハウジング46には別の孔82が設けられており、この孔82はシール保持体70と低圧接続管片56との間に配置されている。孔82によって、ポンプピストン62とシリンダエレメント66との間における作業室64から、シールエレメント68のところを通過してシール保持体70に達した燃料漏れ量を排出することができる。)
イ 上記ア及び図面(特にFig.3)によれば、甲第3号証には、次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されていると認める。
「高圧燃料供給ポンプにおいて、低圧接続管片56と圧力緩衝室78との間に配置される孔74と、低圧接続管片56とシール保持体70との間に配置される孔82と、が直線形状に連通する高圧燃料供給ポンプ。」
(4)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載事項
取消理由通知において引用した刊行物である甲第4号証(独国特許出願公開第102004002489号明細書)には、次の事項が記載されている。なお、aウムラウトはaeと表記した。
(ア)「[0028]Das ・・・ angeordnet.
[0029]Mittels ・・・ geglaettet.
[0030]Wie ・・・ bildet.」
(仮訳:[0028]図1に示した高圧ピストンポンプ20の油圧回路図は、その主要コンポーネントのいくつかを示す。例えば、図示されていない駆動シャフトにより往復動させることのできる圧送ピストン30がその1つである。これが圧送室32との境界を作る。圧送室は、入口弁装置34及び出口弁36とを連通する。低圧ポート18と入口弁装置34の間で、流路38の中に圧力ダンパ40が配置されている。
[0029]入口弁装置34を使って、高圧ピストンポンプ20の吐出量を調整することができる。そのため、圧送ピストン30の吐出行程の間に入口弁装置34は強制的に開放される。この場合、圧送ピストン30の吐出行程の間に燃料は燃料集合ライン24に送られるのではなく、流路38を介して低圧ライン16に突き戻されることになる。とりわけこれによって流路38と低圧ライン16において生じる圧力脈動は、圧力ダンパ40により鎮められる。
[0030]図2から明らかな通り、高圧ピストンポンプ20は、円筒形のハウジング本体42とこのハウジング本体42の正面側に配置されたハウジングカバー44を備えたハウジングを包含する。ハウジング本体42が回転部品であるのに対し、ハウジングカバー44の方は、例えば高級鋼板から非切削加工で作られた板成形部品である。ハウジング本体42の中にピストンブシュ46が受容されており、その中を圧送ピストン30が軸方向に摺動できるように通っている。圧送室32は、図2の中で目視できないチャンネルを介して、流路38に属する入口孔と結合している。これに、低圧ポート18を形作る入口管が嵌め込まれている。パスチャンネル50を介して、入口孔38は、ハウジング本体42とハウジングカバー44の間に作られた受容室52と結合しており、この中に圧力ダンパ40が受容されている。これには下で更になお詳細に言及する。圧送室32は、出口弁36を介して出口孔56とも結合でき、また、出口孔56の中に、高圧ポート22を形作る出口管が配置されている。)
イ 上記ア及び図面(特にFig.1及びFig.2)によれば、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されていると認める。
「高圧ピストンポンプ20において、低圧ポート18内の流路38と受容室52との間に配置されるパスチャンネル50と、低圧ポート18内の流路38と圧送ピストン30の軸方向に沿って受容室52の反対側へ直線形状に設けられた通路と、が直線形状に連通する高圧ピストンポンプ。」
4 判断
ア 本件訂正発明1について
(ア)本件訂正発明1
本件訂正発明1は、上記第3の1の(1)において示したとおりのものである。
(イ)対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「シリンダ12及びハウジングカバー30」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件発明1における「ポンプ本体」に相当し、以下同様に、「加圧室220」は「加圧室」に、「シリンダ12」は「シリンダ」に、「吸入通路212」は「低圧燃料通路」に、「プランジャ40」は「プランジャ」に、「オイルシール48」は「シール部」に、「配管継手50」は「吸入ジョイント」に、「燃料通路200の先端空間」は「吸入通路」に、「導入通路202」は「第1分岐通路」に、「シール室」は「シール室」に、「逃がし通路222」は「第2分岐通路」に、「高圧燃料ポンプ10」は「高圧燃料供給ポンプ」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明における「吸入室210」は、本件発明1における「ダンパ室」と、「吸入室」という点で共通する。
また、甲1発明における「前記オイルシール48によりシールされるシール室」は、本件訂正発明1における「前記シール部によりシールされるとともに、前記シリンダの下端面と前記シール部の上端面との間に形成されたシール室」と、「前記シール部によりシールされるシール室」という点で共通する。
また、甲1発明における「前記導入通路202及び前記逃がし通路222は前記シリンダ12の内部において形成され」は、本件訂正発明1における「前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路は前記シリンダに対し、外径側において前記プランジャの軸方向と同じ方向に形成され」と、「前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路は前記シリンダに形成され」という点で共通する。
また、甲1発明における「前記逃がし通路222は前記シリンダ12の内部に形成された通路を介して前記シール室に連通する」は、本件訂正発明1における「前記第2分岐通路は前記シリンダの外周面により形成された通路を介して前記シール室に連通する」は、「前記第2分岐通路は前記シリンダに形成された通路を介して前記シール室に連通する」という点で共通する。
したがって、本件訂正発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致する。
<一致点>
「ポンプ本体と、当該ポンプ本体により形成される吸入室と、当該吸入室を通って前記ポンプ本体に形成された加圧室へ燃料を導入する低圧燃料通路と、前記シリンダと、前記加圧室の容積を変化させるプランジャと、当該プランジャの外周に設けられたシール部と、を備えた高圧燃料供給ポンプにおいて、
前記ポンプ本体に設けられた吸入ジョイントから吸入される燃料が導かれる吸入通路が前記ポンプ本体に形成され、
前記吸入通路は、前記吸入室に連通する第1分岐通路と、前記シール部によりシールされるシール室に連通する第2分岐通路と、に分岐され、
前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路は前記シリンダに形成され、
前記プランジャは、前記シール部と摺動する小径部と、前記シリンダの内周で上下に往復運動することで前記シール室の容積を増減させる大径部とを有し、
前記第2分岐通路は前記シリンダに形成された通路を介して前記シール室に連通するように構成された高圧燃料供給ポンプ。」
そして、両者は、次の相違点で相違する。
<相違点>
a 「吸入室」に関して、
本件訂正発明1においては、「ダンパ室」であって、「ダンパ室に収納され、2枚の円盤状金属ダイアフラムが全周にわたって接合され、接合部の内側に形成された密閉空間にガスが封入された金属ダンパを備え」るのに対し、
甲1発明においては、「吸入室210」であって、「ダンパ室に収納され、2枚の円盤状金属ダイアフラムが全周にわたって接合され、接合部の内側に形成された密閉空間にガスが封入された金属ダンパを備え」ていない点(以下、「相違点1」という。)。
b 「シリンダ」、「シール室」及び「第2分岐通路」に関して、
本件訂正発明1においては、シリンダは「前記ポンプ本体と別体に構成され、前記ポンプ本体の凹部に取り付けられたシリンダ」であり、シール室は「前記シリンダの下端面と前記シール部の上端面との間に形成されたシール室」であり、前記第2分岐通路は「前記シリンダの外周面により形成された通路を介して」前記シール室に連通するように構成されたものであるのに対し、
甲1発明においては、シリンダ12は「前記ポンプ本体と別体に構成され、前記ポンプ本体の凹部に取り付けられたシリンダ」でなく、シール室は「前記シリンダの下端面と前記シール部の上端面との間に形成されたシール室」でなく、前記逃がし通路222は「前記シリンダの内部に形成された通路を介して」前記シール室に連通するように構成されたものである点(以下、「相違点2」という。)。
c 「第1分岐通路」及び「第2分岐通路」に関して、
本件訂正発明1においては、「前記第1分岐通路及び前記第2分岐通路は前記シリンダに対し、外径側において前記プランジャの軸方向と同じ方向に形成され」るのに対し、
甲1発明においては、「前記導入通路202及び前記逃がし通路222は前記シリンダの内部において形成され」る点(以下、「相違点3」という。)。
(ウ)判断
上記相違点2について検討する。
上記相違点2に係る本件訂正発明1の発明特定事項である「前記ポンプ本体と別体に構成され、前記ポンプ本体の凹部に取り付けられたシリンダ」及び「前記シリンダの下端面と前記シール部の上端面との間に形成されたシール室」を備え、前記第2分岐通路は「前記シリンダの外周面により形成された通路を介して」前記シール室に連通する構成は、甲第1号証ないし甲第4号証のいずれの刊行物にも記載されていない。
そして、本件訂正発明1は、上記相違点2に係る本件訂正発明1の発明特定事項を有することにより、本件特許明細書に記載された顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件訂正発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件訂正発明8及び9について
本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明8及び9は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1、8及び9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。
第4 結語
上記第3のとおりであるから、平成30年5月9日付け取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件訂正後の請求項1、8及び9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、8及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700406