特許異議申立
2017-700171
方向性電磁平鋼製品上に絶縁コーティングを製造する方法及び該絶縁コーティングで被覆された電磁平鋼製品
- 審判番号
- 2017-700171
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-532111
- 登録番号
- 特許第5980216号(P5980216)
- 請求日
- 2017年02月23日
- 審決日
- 2017年11月16日
- 公報発行日
- 2018年02月23日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ティッセンクルップ エレクトリカル スティール ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
- 【権利者代理人】越川 隆夫
- 【異議申立人】JFEスチール 株式会社
- 【異議申立人代理人】渡辺 望稔
- 【異議申立人代理人】三和 晴子
- 【異議申立人代理人】伊東 秀明
- 【異議申立人代理人】三橋 史生
- 【異議申立人代理人】蜂谷 浩久
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 正紀
- 審判官 金 公彦
- 審判官 ▲辻▼ 弘輔
- 分類
- P1651.113-YAA(C23C) / P1651.121-YAA(C23C) / P1651.536-YAA(C23C) / P1651.537-YAA(C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5980216号発明「方向性電磁平鋼製品上に絶縁コーティングを製造する方法及び該絶縁コーティングで被覆された電磁平鋼製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5980216号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、〔12~14〕について訂正することを認める。
特許第5980216号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5980216号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2011年 9月22日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年10月 7日 (DE)ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成28年 8月 5日に特許権の設定登録がされ、同年 8月31日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許の請求項1~請求項14に係る特許について、平成29年 2月23日に特許異議申立人JFEスチール株式会社により特許異議の申立てがされ、当審から同年 5月 8日付けで取消理由が通知され、これに対して、特許権者より同年 8月 9日付けで意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、これに対して特許異議申立人より同年 9月15日付けで意見書が提出されたものである。
第2 訂正請求の適否
1 訂正の内容
平成29年 8月 9日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(下線部は訂正箇所を意味する。)。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に、
「前記リン酸塩絶縁コーティングが3μm以下の厚さDを有する場合」とあるのを、
「前記リン酸塩絶縁コーティングが2μm以上3μm以下の厚さDを有する場合」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~請求項11も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
訂正前の請求項1に、
「このリン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rは≧5g/m2であるが、3μmを超える厚さDでは前記リン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rについて」とあるのを、
「このリン酸塩絶縁コーティングの目付量rは≧5g/m2であるが、3μmを超える厚さDでは前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rについて」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~請求項11も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
訂正前の請求項11に、
「完成電磁平鋼製品上に存在する前記リン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rが」とあるのを、
「完成電磁平鋼製品上に存在する前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rが」と訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の願書に添付した明細書の【0028】、【0029】、【0035】、【0037】、【0039】~【0041】、【0044】、【0046】~【0048】、【0053】、【0055】、【0061】、【0064】、【0076】に、それぞれ「固有コーティング密度」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の願書に添付した明細書の【0045】に「固有密度値」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(6)訂正事項6
訂正前の願書に添付した明細書の【0046】に「コーティング密度」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の願書に添付した明細書の【0046】に「固有密度」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(8)訂正事項8
訂正前の願書に添付した明細書の【0047】に「固有層密度」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(9)訂正事項9
訂正前の願書に添付した明細書の【0064】に「密度」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(10)訂正事項10
訂正前の願書に添付した明細書の【0040】に、
「リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが≦3μmである場合」とあるのを、
「リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが2μm以上3μm以下である場合」と訂正する。
(11)訂正事項11
訂正前の請求項12に、
「前記リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが≦3μmである場合」とあるのを、
「前記リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが2μm以上3μm以下である場合」と訂正する。
(請求項12の記載を引用する請求項13~請求項14も同様に訂正する。)
(12)訂正事項12
訂正前の請求項12に、
「前記リン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rが≧5g/m2であるが、厚さD>3μmでは前記リン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rについて」とあるのを、
「前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rが≧5g/m2であるが、厚さD>3μmでは前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rについて」と訂正する。
(請求項12の記載を引用する請求項13~請求項14も同様に訂正する。)
(13)訂正事項13
訂正前の請求項13に、
「前記リン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rが」とあるのを、
「前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rが」と訂正する。
(14)訂正事項14
訂正前の願書に添付した明細書の【0028】、【0029】、【0035】、【0037】、【0039】~【0041】、【0044】、【0046】~【0048】、【0053】、【0055】、【0061】、【0064】、【0076】に、それぞれ「固有コーティング密度」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(15)訂正事項15
訂正前の願書に添付した明細書の【0045】に「固有密度値」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(16)訂正事項16
訂正前の願書に添付した明細書の【0046】に「コーティング密度」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(17)訂正事項17
訂正前の願書に添付した明細書の【0046】に「固有密度」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(18)訂正事項18
訂正前の願書に添付した明細書の【0047】に「固有層密度」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(19)訂正事項19
訂正前の願書に添付した明細書の【0064】に「密度」とあるのを、「目付量」と訂正する。
(20)訂正事項20
訂正前の願書に添付した明細書の【0040】に、
「リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが≦3μmである場合」とあるのを、
「リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが2μm以上3μm以下である場合」と訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
2-1 訂正事項1について
ア 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1においてリン酸塩絶縁コーティングの厚さの下限値が特定されていなかったのを「2μm以上」と訂正し、リン酸塩絶縁コーティングの厚さの範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ また、訂正前の願書に添付した明細書及び図面には、以下の記載がある(下線は当審で付与した。以下、同様である。)。
(前-1)「【0045】
図1に示すダイアグラムでは、本発明により2回被覆された試料について決定された固有密度値rを、絶縁コーティングのそれぞれの厚さDに対して黒三角で示し、従来の試料について決定された固有密度値rを、絶縁コーティングの割り当てられた厚さDに対して黒丸で示してある。
【0046】
少なくとも3μmのコーティング厚で本発明により被覆された試料は、・・・という条件を満たすコーティング密度rを規則正しく有することが分かる。3μm未満の厚さの絶縁コーティングでは、結果として生じる固有密度rは、いずれの場合も4g/m2より大きく、本発明が求める特性との関連では、3μm未満であるが、それでも本発明の要件を満たしている厚さの絶縁コーティングについて固有コーティング密度の限界は5g/m2に設定された。図1に示すように、絶縁コーティング厚Dが少なくとも2μmである試料ではこの要件が満たされる。」
(前-2)「【図1】
」
ウ 上記(前-1)、(前-2)の記載から、願書に添付した明細書及び図面には、リン酸塩絶縁コーティングが2μm以上3μm以下の厚さDを有する場合に、本件特許発明の絶縁コーティングの要件を満たすことが記載されているといえるので、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
エ そして、訂正事項1による訂正は、リン酸塩絶縁コーティングの厚さの下限値が特定されていなかったのを「2μm以上」と限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-2 訂正事項2及び訂正事項3について
ア 訂正事項2及び訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項1及び請求項11に記載される「固有コーティング密度」との物理量の単位として「g/m2」が用いられており、「密度」という物理量と単位の関係が明瞭でない記載となっていたのを、「固有コーティング密度」を「目付量」と訂正することにより明瞭な記載に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ また、訂正前の願書に添付した明細書及び図面には、更に以下の記載がある。
(前-3)「【0040】
従って、本発明により提供されるその表面の少なくとも1つに焼付けリン酸塩絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品は、リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが≦3μmである場合には、リン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rは≧5g/m2であるが、厚さD>3μmではリン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rについて下式が当てはまる。・・・
【0041】
ここで、リン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rが≧5.0g/m2である場合、絶縁コーティングにより伝達される引張応力Zは、下記条件を満たす。・・・」
(前-4)「【0044】
【図1】本発明により2回及び従来法により1回被覆した種々の試料についてそれぞれの絶縁コーティングの厚さD(μm)に対して固有コーティング密度r(g/m2)をプロットするダイアグラムである。
【図2】本発明により2回及び従来法により1回被覆した種々の試料についてそれぞれの絶縁コーティングの固有コーティング密度r(g/m2)に対して、それぞれの絶縁コーティングによって電磁平鋼製品の鋼基板上に及ぼされる引張応力(MPa)をプロットするダイアグラムである。」
(前-5)「【0048】
本発明により2回被覆された試料を用いると、絶縁コーティングは、1回の操作の従来法で同一の固有コーティング密度rの単一絶縁コーティングで被覆された試料を用いるより、それぞれの電磁平鋼製品の鋼基板上に高い引張応力Zを常に及ぼすことが分かる。これは固有コーティング密度rが少なくとも5.1g/m2である試料で特に明白である。従って実際に生じる要件は、特に下式・・・が当てはまるような本発明の電磁平鋼製品によって満たされる。」
ウ 上記(前-1)~(前-5)の記載から、願書に添付した明細書及び図面においては、「固有コーティング密度」との物理量の単位として「g/m2」が用いられているから、上記「固有コーティング密度」とは、リン酸塩絶縁コーティングの単位面積あたりの質量、すなわち「目付量」を意味していることは、当業者にとって明らかである(なお、このことは、平成29年 2月23日付け特許異議申立書第11ページ下から8行目~下から6行目の、「ここで、固有コーティング密度rは、その単位(g/m2)を考慮すると、リン酸塩絶縁コーティングの「目付量」や「塗布量」と同等の規定であると解される。」との主張とも合致する。)。
したがって、訂正事項2及び訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
エ そして、訂正事項2及び訂正事項3による訂正は、単位に基づいて、その単位を使用する物理量を適切な物理量に訂正するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-3 訂正事項4~訂正事項9について
ア 訂正事項4~訂正事項9による訂正は、訂正事項2及び訂正事項3に係る訂正に伴って、単位として「g/m2」が用いられている「固有コーティング密度」、「固有密度値」、「コーティング密度」、「固有密度」、「固有層密度」、「密度」との物理量を「目付量」に統一するとともに、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正といえるので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ また、訂正前の願書に添付した明細書及び図面には、更に以下の記載がある。
(前-6)「【0047】
図1に示すダイアグラムと同様に図2に示すダイアグラムでは、それぞれの固有コーティング密度rに対する本発明により2回被覆された試料について決定された引張力Zを黒三角で示してあり、絶縁コーティングの割り当てられた固有層密度rに対する従来の試料について決定された引張応力Zを黒丸で表している。」
(前-7)「【0064】
この試料について決定された固有コーティング密度は、普通の生産方式の密度にほぼ相当した。」
ウ 上記(前-1)~(前-7)の記載から、願書に添付した明細書及び図面においては、「固有コーティング密度」、「固有密度値」、「コーティング密度」、「固有密度」、「固有層密度」、「密度」との物理量の単位として「g/m2」が用いられているから、上記「固有コーティング密度」、「固有密度値」、「コーティング密度」、「固有密度」、「固有層密度」、「密度」とは、リン酸塩絶縁コーティングの単位面積あたりの質量、すなわち「目付量」を意味していることは、当業者にとって明らかである(なお、このことは、平成29年 2月23日付け特許異議申立書第11ページ下から8行目~下から6行目の、「ここで、固有コーティング密度rは、その単位(g/m2)を考慮すると、リン酸塩絶縁コーティングの「目付量」や「塗布量」と同等の規定であると解される。」との主張とも合致する。)。
したがって、訂正事項4~訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
エ そして、訂正事項4~訂正事項9による訂正は、単位に基づいて、その単位を使用する物理量を適切な物理量に訂正するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-4 訂正事項10について
ア 訂正事項10による訂正は、訂正事項1による訂正に伴って特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正といえるので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ そして、上記「2-1 訂正事項1について ウ」における検討と同様の理由により、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、上記「2-1 訂正事項1について エ」における検討と同様の理由により、訂正事項10は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-5 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~請求項11は、いずれも訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正後の請求項1~請求項11は一群の請求項であり、訂正事項4~訂正事項10は、訂正事項1~訂正事項3に伴って本件特許明細書の【0028】、【0029】、【0035】、【0037】、【0039】~【0041】、【0044】~【0048】、【0053】、【0055】、【0061】、【0064】、【0076】の請求項1及び請求項11に対応する部分について訂正するものであるから、訂正後の請求項1及び請求項1を引用する請求項2~請求項11を含めた一群の請求項1~請求項11の全てについて明細書を訂正するものである。
2-6 訂正事項11について
ア 訂正事項11による訂正は、訂正前の請求項12においてリン酸塩絶縁コーティングの厚さの下限値が特定されていなかったのを「2μm以上」と訂正し、リン酸塩絶縁コーティングの厚さの範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 上記(前-1)、(前-2)の記載から、願書に添付した明細書及び図面には、リン酸塩絶縁コーティングが2μm以上3μm以下の厚さDを有する場合に、本件特許発明の絶縁コーティングの要件を満たすことが記載されているといえるので、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ そして、訂正事項11による訂正は、リン酸塩絶縁コーティングの厚さの下限値が特定されていなかったのを「2μm以上」と限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-7 訂正事項12及び訂正事項13について
ア 訂正事項12及び訂正事項13による訂正は、訂正前の請求項12及び請求項13に記載される「固有コーティング密度」との物理量の単位として「g/m2」が用いられており、「密度」という物理量と単位の関係が明瞭でない記載となっていたのを、「固有コーティング密度」を「目付量」と訂正することにより明瞭な記載に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 上記(前-1)~(前-5)の記載から、願書に添付した明細書及び図面においては、「固有コーティング密度」との物理量の単位として「g/m2」が用いられているから、上記「固有コーティング密度」とは、リン酸塩絶縁コーティングの単位面積あたりの質量、すなわち「目付量」を意味していることは、当業者にとって明らかである(なお、このことは、平成29年 2月23日付け特許異議申立書第11ページ下から8行目~下から6行目の、「ここで、固有コーティング密度rは、その単位(g/m2)を考慮すると、リン酸塩絶縁コーティングの「目付量」や「塗布量」と同等の規定であると解される。」との主張とも合致する。)。
したがって、訂正事項12及び訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ そして、訂正事項12及び訂正事項13による訂正は、単位に基づいて、その単位を使用する物理量を適切な物理量に訂正するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-8 訂正事項14~訂正事項19について
ア 訂正事項14~訂正事項19による訂正は、訂正事項12及び訂正事項13に係る訂正に伴って、単位として「g/m2」が用いられている「固有コーティング密度」、「固有密度値」、「コーティング密度」、「固有密度」、「固有層密度」、「密度」との物理量を「目付量」に統一するとともに、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正といえるので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 上記(前-1)~(前-7)の記載から、願書に添付した明細書及び図面においては、「固有コーティング密度」、「固有密度値」、「コーティング密度」、「固有密度」、「固有層密度」、「密度」との物理量の単位として「g/m2」が用いられているから、上記「固有コーティング密度」、「固有密度値」、「コーティング密度」、「固有密度」、「固有層密度」、「密度」とは、リン酸塩絶縁コーティングの単位面積あたりの質量、すなわち「目付量」を意味していることは、当業者にとって明らかである(なお、このことは、平成29年 2月23日付け特許異議申立書第11ページ下から8行目~下から6行目の、「ここで、固有コーティング密度rは、その単位(g/m2)を考慮すると、リン酸塩絶縁コーティングの「目付量」や「塗布量」と同等の規定であると解される。」との主張とも合致する。)。
したがって、訂正事項14~訂正事項19は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ そして、訂正事項14~訂正事項19による訂正は、単位に基づいて、その単位を使用する物理量を適切な物理量に訂正するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-9 訂正事項20について
ア 訂正事項20による訂正は、訂正事項11による訂正に伴って特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正といえるので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ そして、上記「2-6 訂正事項11について イ」における検討と同様の理由により、訂正事項20は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、上記「2-6 訂正事項11について ウ」における検討と同様の理由により、訂正事項20は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-10 一群の請求項について
本件訂正前の請求項13~請求項14は、いずれも訂正前の請求項12を引用するものであるから、本件訂正後の請求項12~請求項14は一群の請求項であり、訂正事項14~訂正事項20は、訂正事項11~訂正事項13に伴って本件特許明細書の【0028】、【0029】、【0035】、【0037】、【0039】~【0041】、【0044】~【0048】、【0053】、【0055】、【0061】、【0064】、【0076】の請求項12及び請求項13に対応する部分について訂正するものであるから、訂正後の請求項12及び請求項12を引用する請求項13~請求項14を含めた一群の請求項12~請求項14の全てについて明細書を訂正するものである。
なお、本件訂正請求では、請求項1~請求項11の一群の請求項及び請求項12~請求項14の一群の請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の適用はない。
3 むすび
したがって、訂正事項1~訂正事項20からなる本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第3項~第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~11〕、〔12~14〕について訂正を認める。
第3 本件特許発明
上記「第2 訂正請求の適否」に記載したとおり、本件訂正は認められるから、特許5980216号の請求項1~請求項14に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明14」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~請求項14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
磁気損失値が最小化された方向性電磁平鋼製品の製造方法であって、下記作業工程
a)電磁平鋼製品を用意する工程、
b)前記電磁平鋼製品の少なくとも1つの表面にリン酸塩絶縁溶液の層を塗布し、この塗布層を焼付けする工程
を含む方法において、
作業工程b)の最初の実行後にこの作業工程b)を少なくとも1回繰り返し、その結果、次々に、順に重ねて塗布及び焼付けされたリン酸塩絶縁溶液の層から絶縁コーティングを得ると伴に、
完成電磁平鋼製品上の前記リン酸塩絶縁コーティングが2μm以上3μm以下の厚さDを有する場合には、このリン酸塩絶縁コーティングの目付量rは≧5g/m2であるが、3μmを超える厚さDでは前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rについて下式:
が当てはまること
を特徴とする方法。
【請求項2】
それぞれの作業工程b)で塗布される前記リン酸塩絶縁溶液がコロイド成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コロイド成分がコロイド状二酸化ケイ素であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記絶縁溶液がリン酸アルミニウム及び/又はリン酸マグネシウムを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記絶縁溶液が少なくとも1種の酸洗インヒビター及び少なくとも1種の湿潤剤を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記絶縁溶液が添加剤として少なくとも1種のコロイド安定剤(A)を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
作業工程b)の過程で行なわれる前記焼付け中に焼付け温度が少なくとも300℃であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
作業工程b)の最後の繰り返しの過程で行なわれる焼付け中に焼付け温度が少なくとも700℃であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
作業工程b)の過程で行なわれる焼付け中に焼付け温度がいずれの場合も最高900℃であることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
作業工程b)の前記繰り返し実行が処理ラインに従い、この処理ラインには、前記絶縁溶液を塗布及び焼付けするための、繰り返し数に対応するいくつかの装置が一列に次々に配置され、被覆すべき前記電磁平鋼製品がこれらの装置を連続プロセスで通過することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
完成電磁平鋼製品上に存在する前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rが≧5g/m2である場合に、前記絶縁コーティングによって伝達される引張応力Zについて下式:
が当てはまることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
その表面の少なくとも1つに焼付けされたリン酸塩絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品において、前記リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが2μm以上3μm以下である場合には、前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rが≧5g/m2であるが、厚さD>3μmでは前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rについて下式:
が当てはまることを特徴とする方向性電磁平鋼製品。
【請求項13】
前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rが≧5g/m2である場合に、この絶縁コーティングによって伝達される引張応力Zについて下式:
が当てはまることを特徴とする請求項12に記載の方向性電磁平鋼製品。
【請求項14】
鋼基板と前記リン酸塩絶縁コーティングとの間にフォルステライト層が存在することを特徴とする請求項12又は13のいずれか1項に記載の方向性電磁平鋼製品。」
第4 申立理由の概要
特許異議申立人は、甲第1号証~甲第7号証を提示し、以下の申立理由1~申立理由5によって、訂正前の請求項1~請求項14に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(特許法第36条第6項第2号)
訂正前の本件特許明細書に記載される「固有コーティング密度r」は「目付量」、「塗布量」と同等の規定であると解されるが、このように解釈した場合、絶縁コーティングの厚さD(3μm以下)と「固有コーティング密度r」(5g/m2以上)とをいずれも満たす範囲を規定している技術的意味を当業者が理解することができず、また、絶縁コーティング(絶縁被膜)の厚みと「目付量」とが、通常、比例関係になるという技術常識を考慮すれば、何らかの発明特定事項が不足している、あるいは、「固有コーティング密度r」の単位が「g/m3」の誤記であることは明らかであるから、訂正前の請求項1~請求項14に係る発明はいずれも不明確である。
2 申立理由2(特許法第36条第6項第1号)
訂正前の本件特許明細書には、厚さDが3μmを下回るとき(例えば1.5μmであるとき)に、「固有コーティング密度r」が5g/m2以上となる具体例が記載されておらず、リン酸塩絶縁コーティングの厚さD(3μm以下)と、「固有コーティング密度r」(5g/m2以上)とをいずれも満たす範囲を規定している技術的意義が不明であるため、厚さDが3.0μmの具体例(V3)だけでは、訂正前の請求項1~請求項14に係る発明の範囲まで、訂正前の本件特許明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、リン酸塩絶縁コーティングの厚さD(3μm以下)の下限値及び/又は「固有コーティング密度r」(5g/m2以上)の上限値が規定されていない訂正前の請求項1~請求項14に係る発明は、本件特許明細書に記載されていない発明を含むものである。
3 申立理由3(特許法第36条第4項第1号)
「作業工程b)の最初の実行後にこの作業工程b)を少なくとも1回繰り返し、その結果、次々に、順に重ねて塗布及び焼付けされたリン酸塩絶縁溶液の層から絶縁コーティングを得る」ことだけでは、塗布量や厚みによっては、甲第6号証の実施例と同様、「完成電磁平鋼製品上の前記リン酸塩絶縁コーティングが2μm以上3μm以下の厚さDを有する場合には、このリン酸塩絶縁コーティングの目付量rは≧5g/m2であるが、3μmを超える厚さDでは前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rについて下式:
が当てはまる」という発明特定事項を満たさない場合があるから、当業者が本件特許発明を実施しようとした場合に、どのように実施すれば上記発明特定事項を満たし、どのように実施すれば上記発明特定事項を満たさないのかが不明確であるので、本件特許明細書は、当業者が訂正前の請求項1~請求項14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
4 申立理由4(特許法第29条第1項第3号)
訂正前の請求項12~請求項14に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証の記載内容を考慮すれば、甲第1号証に記載される発明である。
5 申立理由5(特許法第29条第2項)
訂正前の請求項12に係る発明は、甲第1号証に記載される発明及び甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、訂正前の請求項13に係る発明は(当審注:特許異議申立書第19ページ下から2行目の「よって、本件特許発明12は、」という記載は、「よって、本件特許発明13は、」の誤記と認められる。)、甲第1号証に記載される発明及び甲第2号証~甲第4号証に記載される周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
[特許異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2009/020134号
甲第2号証:特開2010-249616号公報
甲第3号証:特開平8-239771号公報
甲第4号証:国際公開第2007/007417号
甲第5号証:平成27年 3月 6日付け拒絶理由通知書
甲第6号証:特開平5-279864号公報
甲第7号証:平成27年 9月18日付け意見書
第5 取消理由の概要
当審において、平成29年 5月 8日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)
本件特許明細書には、厚さDが2μm未満であり、かつ、「固有コーティング密度r」が5g/m2以上となるような絶縁コーティングを作製した具体例は示されておらず、コーティングの厚みと「目付量」は、コーティングの組成や作製方法が同じであれば、通常、比例関係になるという技術常識を考慮すれば、厚さDが2μm未満であるが「固有コーティング密度r」が5g/m2以上となるような絶縁コーティングは、本件特許明細書の図1に記載された上記絶縁コーティングとは異なる組成あるいは作製方法を適用しなければ得られないと解されるから、出願時の技術常識を考慮しても、厚さDが2μm未満であり「固有コーティング密度r」が5g/m2以上であるような絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品の製造方法を包含する訂正前の請求項1に係る発明の範囲まで、本件特許明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
また、同様の理由から、厚さDが2μm未満であるが「固有コーティング密度r」が5g/m2であるような絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品を包含する訂正前の請求項12に係る発明の範囲まで、本件特許明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、訂正前の請求項1及び請求項12、並びにそれらの請求項を引用する訂正前の請求項2~請求項11、請求項13及び請求項14に係る発明は、本件特許明細書に記載されていない発明を含むものである。
2 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)
訂正前の請求項1、請求項11、請求項12及び請求項13において用いられる「固有コーティング密度」という物理量が、絶縁コーティングの「目付量」や「塗布量」を意味するのか、それとも、その単位として記載された「g/m2」は「g/cm3」等の誤記であるのかが判然としないので、訂正前の請求項1、請求項11、請求項12及び請求項13、並びにそれらの請求項を引用する訂正前の請求項2~請求項10及び請求項14に係る発明は明確でない。
第6 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の記載がある。
(a)「【0001】
本発明は、磁気損失値が最小限化された方向性電磁平鋼製品の製造方法に関する。
【0002】
本発明は、絶縁コーティングを備えた方向性電磁平鋼製品にも関する。」
(b)「【0017】
この背景に対して、本発明の目的は、簡単な手段で実際に実施できる方法であって、電磁平鋼製品の表面に作用する引張応力をさらに増加させ得る方法を提示することだった。さらに、電磁平鋼製品は、最適の磁気特性及び実際に使われて同様に最適な騒音挙動を有すると指摘すべきである。」
(c)「【0024】
作業工程b)
リン酸塩絶縁溶液の層を電磁平鋼製品の少なくとも1つの表面に塗布し、この塗布層を焼付けする工程。
【0025】
塗布方法、層厚の設定、絶縁溶液の組成及び絶縁溶液により形成された絶縁コーティングの焼付け方法は同様に従来技術を反映し得る。
【0026】
今や、本発明によれば、作業工程b)の最初の実行後にこの作業工程b)を少なくとも1回繰り返し、その結果として、次々に、順に重ねて塗布及び焼付けされたリン酸塩絶縁溶液の層から絶縁コーティングが得られる。
【0027】
従って本発明によれば、少なくとも2回の別のコーティング工程を行ない、初めに第1絶縁コーティング層を仕上げ焼付けしてから、少なくとも1回のさらなる絶縁コーティング層が同様に塗布かつ焼付けされるので、層厚が増した絶縁コーティングが製造される。必要ならば、絶縁溶液のさらなる層の塗布及び焼付けを経てさらに大きなコーティング厚が製造されるように、コーティング及び焼付けプロセスをさらに何回も繰り返すことがでる。しかしながら、実用試験は、ここで作業工程b)を構成する「コーティングの塗布」及び「塗布された絶縁溶液のそれぞれの層の焼付け」というプロセス順序のたった1回の繰り返しでさえ、本発明の電磁平鋼製品の鋼基板に伝達される引張応力のかなりの増加が達成されることを示した。
【0028】
本発明によれば、絶縁コーティングは、個々に塗布及び焼付けされるリン酸塩絶縁手段の少なくとも2つの層によってこのように形成される。従って、絶縁コーティングは全体で高い目付量と大きい厚さを特徴とする絶縁コーティングを形成する。
【0029】
本発明の絶縁コーティングは、塗布及び焼付けされる絶縁溶液の各コーティングについて別々の作業工程で製造されるので、単一操作で厚い絶縁コーティングを塗布する場合に生じるコーティング厚に関する目付量の好ましくない事態が回避される。本発明では、このような高いコーティング厚を非常に高い目付量で作り出すことができる。これは、得られる引張応力、磁気損失値又は皮相電力及び磁歪値並びに放射騒音レベル(LvA値=A特性磁歪速度レベル;LaA値=A特性磁歪加速レベル)に反映される。結果として本発明により製造された電磁平鋼製品からは、特に従来の電磁鋼板製の変圧器に比べて操作中に騒音放射がかなり減少する変圧器用プレートを製造することができる。」
(d)「【0045】
図1に示すダイアグラムでは、本発明により2回被覆された試料について決定された目付量rを、絶縁コーティングのそれぞれの厚さDに対して黒三角で示し、従来の試料について決定された目付量rを、絶縁コーティングの割り当てられた厚さDに対して黒丸で示してある。
【0046】
少なくとも3μmのコーティング厚で本発明により被覆された試料は、下式:
【数1】
という条件を満たす目付量rを規則正しく有することが分かる。3μm未満の厚さの絶縁コーティングでは、結果として生じる目付量rは、いずれの場合も4g/m2より大きく、本発明が求める特性との関連では、3μm未満であるが、それでも本発明の要件を満たしている厚さの絶縁コーティングについて目付量の限界は5g/m2に設定された。図1に示すように、絶縁コーティング厚Dが少なくとも2μmである試料ではこの要件が満たされる。」
(e)「【0049】
本発明により達成される効果を実証するために10種の試験V1~V10を行なった。そのうちの試験V1、V2、V4、V7及びV9は従来技術に帰属し、試験V3、V5、V6、V8及びV10は本発明に従う。
【0050】
全ての試験でいずれの場合も出願人の従来の製造から得た方向性電磁鋼の350mm×60mmのシート及び0.30mmの公称厚の切片を高温焼鈍後の条件で使用した。ここで、鋼ストリップは、脱炭状態で鉄と不可避不純物に加えて(重量%で)、C:<0.0025%、Si:3.15%、Mn:0.08%、S:0.02%、Cu:0.07%、Sn:0.08%及びAl:0.03%を含有した。ホットストリップとして鋼ストリップは、最初の非脱炭状態では0.06重量%のCを含有した。
【0051】
試料を洗浄し、コーティングシステムで絶縁溶液を用いて両面を被覆した。コーティングシステムは、所望のコーティング厚を設定するためのツイン圧搾ローラー対を有した。
圧搾ローラーに割り当てられた試料の表面から圧搾ローラーの隙間を調整することによって、それぞれの所望厚を設定することができた。
【0052】
試験で用いた絶縁水溶液は、1リットル当たり、下記成分を含有した(ここで、グラム量は絶対値として与えてあり、“( )”内はそれぞれの濃度である)。
〔試験V1~V6〕
150gのリン酸モノアルミニウム(50%)
183gのコロイド状二酸化ケイ素(30%)
12gの三酸化クロム
〔試験V7、V8〕
150gのリン酸モノアルミニウム(50%)
183gのコロイド状二酸化ケイ素(30%)
2gの、活性物質としてジエチルチオ尿素を含む酸洗インヒビター
10gの、活性物質としてリン酸トリエチルを含むコロイド安定剤
〔試験V9、V10〕
150gのリン酸モノアルミニウム(50%)
183gのコロイド状二酸化ケイ素(30%)
2gの、活性物質としてジエチルチオ尿素を含む酸洗インヒビター
10gの、活性物質としてリン酸トリエチルを含むコロイド安定剤
36gの硝酸クロム(III)九水和物
【0053】
表1は、試験V1~V10について、いずれの場合も作製された絶縁コーティングの厚さD、絶縁コーティングの目付量r、50ヘルツの周波数及び1.7テスラの分極でのヒステリシス損失P1.7/50、50ヘルツの周波数及び1.7テスラの分極での皮相電力S1.7/50、LvA値及びLaA値並びにそれぞれの絶縁コーティングによってそれぞれの試料の鋼基板上に及ぼされた引張応力を示す。
【0054】
それぞれの試料の検鏡用薄切片をラスター電子顕微鏡下で調査することによって絶縁コーティングのそれぞれの厚さDを決定した。
【0055】
60℃で水酸化ナトリウム(25%)を用いてリン酸塩コーティングを除去することによって、絶縁コーティングの目付量rを決定した。
【0056】
いずれの場合も絶縁コーティングの片面除去の前後のそれぞれの試料の湾曲の差を決定することによって、絶縁コーティングにより及ぼされた引張応力を決定した。
【0057】
〔試験V1(本発明に従わない)〕
試料を絶縁溶液で両面被覆した。その際、圧搾ローラーの対応する調整によって、表1に示した小さい層厚を設定した。
・・・
【0088】
〔試験V10(本発明に従う)〕
圧搾ローラーを試験V5と同様に設定した。塗布直後にコーティングを窒素雰囲気下で840℃にて1分間焼付けした。
【0089】
次にコーティングプロセスを繰り返した。これを行なうため、試料を2回目も1回目と同様にコーティングシステムに通して、前に焼付けされた層に絶縁溶液の第2層を塗布した。この場合もやはり、この2回目の塗布直後にコーティングを窒素雰囲気下で840℃にて1分間焼付けした。
【0090】
このようにして得られた試料の、表1に示す特性を次に決定した。ここでも本発明に従って2回の操作で絶縁コーティングで被覆された試料の確実な優位性が明白である。」
(f)「【0091】
【表1】
」
第7 甲各号証の記載事項
特許異議申立人が証拠方法として提出した、甲第1号証~甲第7号証には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
1 甲第1号証の記載事項
(1-a)「3.方向性電磁鋼板用スラブを、圧延により最終板厚に仕上げ、ついで一次再結晶焼鈍後、二次再結晶焼鈍を施し、さらに絶縁被膜処理液を塗布したのち、焼付け処理を行う一連の工程により、絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
前記絶縁被膜処理液として、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnのリン酸塩のうちから選ばれる少なくとも1種と、該リン酸塩中のPO4:1molに対し、コロイド状シリカをSiO2換算で0.5~10molおよび水溶性のバナジウム化合物をV換算で0.1~2.0molとを、含有する絶縁被膜処理液を用いる絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板の製造方法。」(請求の範囲)
(1-b)「上記のような一連の工程を経て製作した二次再結晶後の方向性電磁鋼板に、本発明のクロムフリー絶縁被膜処理液を塗布し、その後焼付け処理を行う。
・・・
絶縁被膜の厚さは、特に限定されないが、1~5μm程度が好適である。被膜張力は被膜の厚さに比例するため、1μm未満では、目的によっては被膜張力が不足することがある。一方、5μmを超えると占積率が必要以上に低下する場合がある。絶縁被膜の厚さは、絶縁被膜処理液の濃度、塗布量、塗布条件(例えばロールコーターの押し付け条件)などにより目標値に制御することができる。」(第9ページ第21行~第10ページ第6行)
(1-c)「(実施例2)
C:0.03mass%、Si:3mass%、sol.Al:0.01mass%未満、Mn:0.04mass%、S:0.01mass%未満、Se:0.02mass%およびSb:0.03mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物である組成を有する方向性電磁鋼板用スラブを熱間圧延し、板厚:1.8mmの熱延板としたのち、1050℃×60秒の熱延板焼鈍を施した。次いで、1回の冷間圧延により最終板厚:0.40mmとした。次いで、この最終板厚の冷延板に850℃×60秒の一次再結晶焼鈍を施した。その後、焼鈍分離剤としてMgOスラリーを塗布し、880℃×50時間の二次再結晶焼鈍を施すことにより、フォルステライト被膜を有する方向性電磁鋼板を得た。
次に、表2に示す種々のリン酸塩をPO4換算で1mol(複数添加したΝo.9では0.5molずつ,あわせて1mol)含有する水溶液500mlをそれぞれ用意し、これに、SiO2換算で表2に示す量を含有するコロイド状シリカ(水性)700ml、およびV換算で硫酸バナジウムを0.7mol配合したクロムフリー絶縁被膜処理液を用意した。
これらの絶縁被膜処理液を上記の方向性電磁鋼板の表面に塗布して、800℃×60秒の焼付け処理を施した。なお、焼付け処理後の被膜厚さは、片面あたり3μmとした。
この焼付け処理後の方向性電磁鋼板について、実施例1と同様の方法で、被膜張力、耐吸湿性、防錆性および占積率を評価した。
結果を表2に示す。
表2
同表に示したとおり、本発明で規定したリン酸塩とコロイド状シリカを適量含有したものに、水溶性バナジウム化合物を適量含有させた絶縁被膜処理液を用いた場合、被膜張力、耐吸湿性、防錆性および占積率のすべてについて優れた特性を得ることができた。」(第13ページ第4行~第14ページ第3行)
ア 上記(1-a)によれば、甲第1号証には絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板の製造方法に係る発明が記載されており、当該製造方法は、方向性電磁鋼板用スラブを圧延により最終板厚に仕上げ、ついで一次再結晶焼鈍後、二次再結晶焼鈍を施し、さらに絶縁被膜処理液を塗布したのち、焼付け処理を行う一連の工程により、絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板を製造するものである。
イ 上記(1-c)によれば、上記絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板の絶縁被膜は、リン酸塩とコロイド状シリカを適量含有したものに、水溶性バナジウム化合物を適量含有させた絶縁被膜処理液を方向性電磁鋼板の表面に塗布して焼付けたものであって、焼付け処理後の被膜厚さは片面あたり3μmとしたものであり、被膜張力は、12.3~14.2MPaとなるものである。
ウ 上記ア~イによれば、甲第1号証には、
「リン酸塩とコロイド状シリカを適量含有したものに、水溶性バナジウム化合物を適量含有させた絶縁被膜処理液を方向性電磁鋼板の表面に塗布して焼付けた絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板において、焼付け処理後の被膜厚さを片面あたり3μmとし、被膜張力が12.3~14.2MPaである、方向性電磁鋼板。」(以下、「甲1発明」という)が記載されているといえる。
2 甲第2号証の記載事項
(2-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板の圧延直角方向の所定の励磁磁束密度における磁化力と、該鋼板表面に付与されている被膜張力との関係を予め求め、被測定対象物となる方向性電磁鋼板の圧延直角方向の磁化力を測定し、この測定した磁化力の実測値から前記関係に基づき前記被測定対象物の被膜張力を割り出すことを特徴とする方向性電磁鋼板の被膜張力の間接測定方法。」
(2-b)「【実施例】
【0031】
板厚0.30mmのフォルステライト下地被膜のみを有する方向性電磁鋼板(ヤング率E=132GPa)を用意し、燐酸マグネシウムにコロイダルシリカを混合させた絶縁コーティングを850℃で焼き付けて製品とした。上記において、種々の被膜張力を有する鋼板を得るために、絶縁コーティングの目付量は、0g/m2、2g/m2、4g/m2、6g/m2、8g/m2、10g/m2、14g/m2の7水準で変更し、それぞれの目付量についてサンプル(n=10)を作製した。その後、各試料について圧延直角方向の磁束密度を1.0Tに励磁するための磁化力(励磁磁束密度1.0Tでの磁化力)であるH10を測定した。続いて、各サンプルについて、片面の被膜(絶縁コーティングおよび下地被膜)を酸洗により除去した後、前記(1)式を用いてその反り量から被膜張力を求めた。これらのデータから、磁化力H10と被膜張力との相関関係を求め、その相関関係における各試料でのH10測定値に対応する被膜張力値を、当該試料の被膜張力値(本発明による被膜張力測定値)とした。
【0032】
図4に、本発明による被膜張力測定の結果を、従来例である反り量測定から直接求めた被膜測定の結果と共に示す。図4において、縦軸は鋼板圧延方向の被膜張力測定値であり、横軸はコーティング目付量である。通常、コーティング目付量の増加に伴い被膜張力は該目付量にほぼ比例して増加するが、図4より明らかであるように、反り量による被膜測定値に比べて本発明、すなわち磁化力測定による被膜張力値のほうが、コーティング目付量に対して明瞭な比例関係を示している。また、反り量による被膜測定法に比べて本発明による被膜測定法は測定誤差が低減されている。」
(2-c)「【図4】
」
3 甲第3号証の記載事項
(3-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 繊維状コロイダルシリカと燐酸塩を含有する表面絶縁被膜組成を有し、その付着量が2.5~7.0g/m2、絶縁被膜により鋼板に付与される張力が板厚0.23mmに換算して0.5kg/mm2以上の高張力絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板。」
(3-b)「【0034】(実施例2)実施例1と同一の出発材を同様に処理して、最終板厚0.225mmの仕上げ焼鈍板を得た。次に、この鋼板表面の余剰焼鈍分離剤を水洗で除去後、2%希硫酸で80℃×15秒の軽酸洗を行った。この後、表3に示すように、アスペクト比を変更した繊維状コロイダルシリカと燐酸塩を主成分とする絶縁被膜剤を焼き付け後の付着量で4.0g/m2になるよう塗布し、825℃×30秒間の焼き付け処理を行った。この時の被膜特性と磁気特性を表4に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
」
(3-c)「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の繊維状コロイダルシリカを利用した場合の絶縁被膜付着量と被膜張力向上の関係を示す図表である。」
(3-d)「【図1】
」
4 甲第4号証の記載事項
(4-a)「1.絶縁皮膜が、燐酸塩と、この燐酸塩1モル(金属イオン基準)に対しFe,Ni,Co,Cu,Sr,Moの無機化合物の中から選ばれる1種又は2種以上を、金属元素として0.06~2.10モルを含有することを特徴とする、クロムを含まない絶縁皮膜を有する方向性電磁鋼板。」(請求の範囲)
(4-b)「(実施例1)
最終仕上げ焼鈍を行った鋼板表面にグラス皮膜を有する板厚0.23mmの高磁束密度方向性電磁鋼板コイルからサンプルを切り出し、水洗後850℃X4Hrの歪み取り焼鈍を行った。その後2%、H2SO4水溶液中で85℃、15秒間の軽酸洗を行った後、表1に示すようにFe,Ni,Co,Sr化合物の添加条件を変更して添加した処理剤を、コーティングロールを用いて乾燥、焼き付け後の質量で5g/m2になるよう塗布し、850℃×30秒間の焼き付け処理を行った。この後、この製品板からサンプルを切り出し皮膜特性の調査を行った。結果を表2に示す。
なお、表2における耐焼鈍性とは、切斬したサンプルを図1(a)のように製品板を積層して、(b)のように積層体を締め付けし、その後850℃×4Hr(N2中、露点10℃)焼鈍後、図1(c)のように製品板の剥離力をバネ秤(スプリングスケール)で測定したものである。
表1
表2
この試験の結果、本発明のFe,Ni,Co,Sr,Mo化合物添加の場合、添加物を添加しない場合に比較して、焼き付け後皮膜の吸湿性、耐焼鈍性が顕著に改善され、従来のクロム化合物を含有する比較例4に比し遜色のない皮膜特性が得られた。特に、Fe化合物添加においては、より優れた改善効果が得られた。しかし、水酸化鉄の添加量が少ない場合には効果が弱く、多過ぎる場合には、液安定性や耐蝕性、皮膜張力等の面で劣る結果となった皮膜特性の面で劣る結果となった。」(第10ページ第17行~第12ページ第8行)
(4-c)「(実施例2)
実施例1と同様に最終仕上げ焼鈍を行った板厚0.23mmの高磁束密度方向性電磁鋼板コイルからサンプルを切り出し、水洗後850℃×4Hrの歪み取り焼鈍を行った。その後2%、H2SO4水溶液中で75℃×15秒間の軽酸洗を行った。この鋼板に、表3に示すように添加剤として、Fe,Niの水酸化物コロイダル物溶液の粒子径条件を変更した溶液を添加した処理剤をコーティングロールを用いて乾燥、焼き付け後の質量で5.0g/m2になるよう塗布し、850℃×30秒間の焼き付け処理を行った。この後、この製品板からサンプルを切り出し皮膜特性の調査を行った。結果を表4に示す。
表3
表4
この試験の結果、本発明のFe,Ni水酸化物をコロイダル状の溶液として調整した化合物を添加した場合には、耐蝕性と耐焼鈍性の極めて大きい改善効果が得られ、従来のクロム化合物を含有する場合に比し、より優れた皮膜性能と磁気特性が得られた。また、コロイダル物質として、SiO2表面に水酸化第二鉄を複合物質として調整した複合コロイダル物質を添加した場合においても、単独コロイダル物質添加とほぼ同様の結果が得られた。これに対し、実施例1と同様に比較例5の無機化合物コロイダル溶液を添加しない場合には、耐蝕性と耐焼鈍性が非常に劣る結果であった。また、本発明例12,15,16のようにコロイダル物質の粒子径が大きいコロイドを添加した場合、改善効果は見られるものの効果はそれほど大きいものではなかった。」(第12ページ第9行~第14ページ第6行)
5 甲第5号証の記載事項
(5-a)「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」(第1ページ第12行~第20行)
(5-b)「 <引用文献等一覧>
1.特開平05-279864号公報
2.国際公開第2009/101129号」(第2ページ第23行~第25行)
6 甲第6号証の記載事項
(6-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 方向性珪素鋼板に第1回目の塗布としてリン酸あるいはリン酸塩、無水クロム酸あるいはクロム酸塩及びコロイド状シリカを含む溶液を乾燥重量1~6g/m2塗布し、300~600℃で30秒以上焼き付け乾燥し、更に第2回目の塗布として該溶液を乾燥重量1g/m2以上塗布し、700~950℃で30秒以上焼き付け乾燥することを1回以上行うことを特徴とする方向性珪素鋼板の絶縁被膜形成方法。」
(6-b)「【0010】第1回目の焼き付け乾燥は乾燥重量が1~6g/m2になるように処理液を塗布する必要がある。図1は、0.2mm板厚のフォルステライトのない金属表面を有する方向性電磁鋼板に第1回目の焼き付け乾燥を550℃、90秒で行い、第2回目の焼き付け乾燥を800℃、90秒で行った時の被膜剥離(図では、被膜残存量を示す)状況を示す。
【0011】ここで、第1回目の処理液の塗布量を乾燥重量(塗布量)として横軸に取り縦軸に被膜剥離状況を示した。なお、第2回目の処理液の塗布量を調節して、最終被膜乾燥重量(塗布量)を6~7g/m2とした。被膜の密着性の指標としては、20mm径の丸棒に巻き付けながら180度折り曲げ、折り曲げ部分の被膜の剥離状況を観察し、被膜残存面積を%表示した。第1回目の被膜乾燥重量(塗布量)が1~6g/m2の時、被膜の密着性は優れていることが分かる。」
7 甲第7号証の記載事項
(7-a)「従って、引用文献1の実施例では、密着性確保の観点から第1回目の塗布量を4g/m2、第2回目の塗布量を2g/m2と限定し、最終塗布量を計6g/m2とした場合の2重コーティング(実施例3は3重コーティングのため除く)についての実施を行っている。すなわち、十分な密着性を確保する目的を達成するため第1回目の塗布量と第2回目の塗布量は限定され、結果として2重コーティングの最終塗布量も限定されることになる。
また、引用文献1には構成Dに係る被膜特性が直接明記されてもいなければ、実施例における塗布量の時のコーティングの被膜厚さについても何ら記載されていない。
従って、上記を踏まえると、引用文献1に記載された発明では、2重コーティングによって補正前の請求項11において明示される条件を充足する固有コーティング密度をもたらすことはできず、上記構成Dに係る被膜の特性と同程度の特性が得られないものと考えられる。」(第4ページ下から4行目~第5ページ第7行)
第8 当審の判断
1 取消理由について
1-1 取消理由1について
ア 取消理由1は、厚さDが2μm未満であり「固有コーティング密度r」が5g/m2以上であるような絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品の製造方法を包含する訂正前の請求項1~請求項11に係る発明の範囲まで、本件特許明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、厚さDが2μm未満であるが「固有コーティング密度r」が5g/m2であるような絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品を包含する訂正前の請求項12~請求項14に係る発明の範囲まで、本件特許明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない、というものである。
イ しかるに、上記「第2 訂正請求の適否」に記載したとおり、本件訂正は認められるものであって、本件特許発明1~本件特許発明11は、完成電磁平鋼製品上のリン酸塩絶縁コーティングが2μm以上3μm以下の厚さDを有する場合には、このリン酸塩絶縁コーティングの「目付量r」は≧5g/m2であるものとなり、本件特許発明12~本件特許発明14は、リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが2μm以上3μm以下である場合には、前記リン酸塩絶縁コーティングの「目付量r」が≧5g/m2であるものとなった。
ウ すると、厚さDが2μm未満であり「目付量r」が5g/m2以上であるような絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品の製造方法は、本件特許発明1~本件特許発明11には包含されないものとなり、厚さDが2μm未満であるが「目付量r」が5g/m2であるような絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品は、本件特許発明12~本件特許発明14には包含されないものとなったので、本件特許発明1~本件特許発明14の範囲まで、本件特許明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。
1-2 取消理由2について
ア 取消理由2は、訂正前の請求項1、請求項11、請求項12及び請求項13において用いられる「固有コーティング密度」との物理量が、絶縁コーティングの「目付量」や「塗布量」を意味するのか、それとも、その単位として記載された「g/m2」は「g/cm3」等の誤記であるのかが判然としないので、訂正前の請求項1~請求項14に係る発明は明確でない、というものである。
イ しかるに、上記「第2 訂正請求の適否」に記載したとおり、本件訂正は認められるものであって、「固有コーティング密度」は「目付量」に訂正された。
ウ そして、このことにより物理量とその単位とが整合するものとなったから、本件特許発明1~本件特許発明14が明確でないとはいえない。
2 申立理由について
2-1 申立理由1について
ア 申立理由1は、訂正前の本件特許明細書に記載される「固有コーティング密度r」を「目付量」、「塗布量」と同等の規定であると解釈した場合、絶縁コーティングの厚さD(3μm以下)と「固有コーティング密度r」(5g/m2以上)とをいずれも満たす範囲を規定している技術的意味を当業者が理解することができず、また、絶縁コーティング(絶縁被膜)の厚みと「目付量r」とが、通常、比例関係になるという技術常識を考慮すれば、何らかの発明特定事項が不足している、あるいは、「固有コーティング密度r」の単位が「g/m3」の誤記であることは明らかであるから、訂正前の請求項1~請求項14に係る発明はいずれも不明確である、というものである。
イ しかるに、上記「第2 訂正請求の適否」に記載したとおり、本件訂正は認められるものであって、「固有コーティング密度」は「目付量」に訂正され、物理量とその単位とが整合するものとなり、本件特許発明1~本件特許発明11は、完成電磁平鋼製品上のリン酸塩絶縁コーティングが2μm以上3μm以下の厚さDを有する場合には、このリン酸塩絶縁コーティングの「目付量r」は≧5g/m2であるものとなり、本件特許発明12~本件特許発明14は、リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが2μm以上3μm以下である場合には、前記リン酸塩絶縁コーティングの「目付量r」が≧5g/m2であるものとなった。
ウ ここで、上記「第6 本件特許明細書の記載(d)」によれば、本発明の要件を満たしている厚さの絶縁コーティングについて「目付量r」の限界は5g/m2に設定されるものであり、絶縁コーティング厚Dが少なくとも2μmである試料ではこの要件が満たされるものである。
そして、本件訂正により、絶縁コーティングの厚さDの下限値が2μmとされ、かつ、物理量とその単位とが整合するものとなったことで、当業者は、絶縁コーティングの厚さD(3μm以下)と「目付量r」(5g/m2以上)とをいずれも満たす範囲を規定している技術的意味を、上記「第6 本件特許明細書の記載(d)」に記載されるとおりに理解することができるから、絶縁コーティングの厚さDと「目付量r」とをいずれも満たす範囲を規定している技術的意味を当業者が理解できないとはいえないし、本件特許発明において何らかの発明特定事項が不足しているともいえず、用いられている単位が「g/m3」の誤記であるともいえない。
したがって、申立理由1は理由がない。
2-2 申立理由2について
ア 申立理由2は、訂正前の本件特許明細書には、厚さDが3μmを下回るとき(例えば1.5μmであるとき)に、「固有コーティング密度r」が5g/m2以上となる具体例が記載されておらず、リン酸塩絶縁コーティングの厚さD(3μm以下)と、「固有コーティング密度r」(5g/m2以上)とをいずれも満たす範囲を規定している技術的意義が不明であるため、厚さDが3.0μmの具体例(V3)だけでは、訂正前の請求項1~請求項14に係る発明の範囲まで、訂正前の本件特許明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、リン酸塩絶縁コーティングの厚さD(3μm以下)の下限値及び/又は「固有コーティング密度r」(5g/m2以上)の上限値が規定されていない訂正前の請求項1~請求項14に係る発明は、本件特許明細書に記載されていない発明を含むものである、というものである。
イ ところが、本件訂正により、絶縁コーティングの厚さDの下限値が2μmとされ、かつ、物理量とその単位とが整合するものとなったことで、当業者は、絶縁コーティングの厚さD(3μm以下)と「目付量r」(5g/m2以上)とをいずれも満たす範囲を規定している技術的意味を理解できることは、上記「2-1 申立理由1について ウ」に記載のとおりであるから、リン酸塩絶縁コーティングの厚さD(3μm以下)と、「目付量r」(5g/m2以上)とをいずれも満たす範囲を規定している技術的意義が不明であるとはいえない。
ウ 更に、本件訂正により、厚さDが2μm未満であり「目付量r」が5g/m2以上であるような絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品の製造方法は、本件特許発明1~本件特許発明11には包含されないものとなり、厚さDが2μm未満であるが「目付量r」が5g/m2であるような絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品は、本件特許発明12~本件特許発明14には包含されないものとなったので、本件特許発明1~本件特許発明14の範囲まで、本件特許明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえないことは、上記「1-1 取消理由1について ウ」に記載のとおりである。
エ このため、本件特許発明1~本件特許発明14の範囲まで、本件特許明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえないし、本件特許発明1~本件特許発明14は、本件特許明細書に記載されていない発明を含むものであるともいえないので、申立理由2は理由がない。
2-3 申立理由3について
ア 申立理由3は、「作業工程b)の最初の実行後にこの作業工程b)を少なくとも1回繰り返し、その結果、次々に、順に重ねて塗布及び焼付けされたリン酸塩絶縁溶液の層から絶縁コーティングを得る」ことだけでは、塗布量や厚みによっては、甲第6号証の実施例と同様、「完成電磁平鋼製品上の前記リン酸塩絶縁コーティングが2μm以上3μm以下の厚さDを有する場合には、このリン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rは≧5g/m2であるが、3μmを超える厚さDでは前記リン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rについて下式:
が当てはまる」という発明特定事項を満たさない場合があるから、本件特許明細書は、当業者が訂正前の請求項1~請求項14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない、というものである。
イ 上記(6-a)及び(6-b)によれば、甲第6号証には、方向性珪素鋼板の絶縁被膜形成方法において、方向性珪素鋼板に第1回目の塗布としてリン酸あるいはリン酸塩、無水クロム酸あるいはクロム酸塩及びコロイド状シリカを含む溶液を乾燥重量1~6g/m2塗布し、300~600℃で30秒以上焼き付け乾燥し、更に第2回目の塗布として該溶液を乾燥重量1g/m2以上塗布し、700~950℃で30秒以上焼き付け乾燥することを1回以上行うことが記載されており、上記(7-a)によれば、甲第6号証(当審注:甲第7号証でいう「引用文献1」は、甲第6号証に相当する。)に記載された発明では、2重コーティングによって、本件特許発明で特定される「目付量r」をもたらすことはできないものである。
ウ ところが、上記「第6 本件特許明細書の記載(e)、(f)」によれば、本件特許明細書には、本件特許発明1~本件特許発明14の発明特定事項を全て満たす方向性電磁平鋼製品の製造方法及び方向性電磁平鋼製品の具体的な実施例(試験V3、V5、V6、V8、V10)が記載されており、当該記載に接した当業者は、上記本件特許発明1~本件特許発明14を上記「第6 本件特許明細書の記載(e)、(f)」の記載に基づいて実施することができるものであり、このことは、上記「2-3 申立理由3について イ」の検討事項に左右されるものではない。
エ そうすると、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明1~本件特許発明14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえないから、申立理由3は理由がない。
2-4 申立理由4について
ア 申立理由4は、訂正前の請求項12~請求項14に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証の記載内容を考慮すれば、甲第1号証に記載される発明である、というものである。
イ ここで、甲第2号証についてみると、甲第2号証の公開日は、本件特許出願の優先日である2010年(平成22年)10月 7日より後である平成22年11月 4日である。
かつ、本件特許出願の優先権の主張が不適法であるとする理由は見いだせないから、甲第2号証は、本件特許出願に対する先行技術文献とはいえない文献であるが、以下、仮に、甲第2号証が本件特許出願に対する先行技術文献といえるとした場合も含めて検討する。
(1)本件特許発明12について
(1-1)対比
ア 本件特許発明12と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「リン酸塩とコロイド状シリカを適量含有したものに、水溶性バナジウム化合物を適量含有させた絶縁被膜処理液を方向性電磁鋼板の表面に塗布して焼付けた絶縁被膜」は、本件特許発明12の「その表面の少なくとも1つに焼付けされたリン酸塩絶縁コーティング」に相当し、甲1発明の「方向性電磁鋼板」は、本件特許発明12の「方向性電磁平鋼製品」に相当する。
イ すると、本件特許発明12と甲1発明とは、「その表面の少なくとも1つに焼付けされたリン酸塩絶縁コーティングを有する方向性電磁平鋼製品」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点:本件特許発明12は、「前記リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが2μm以上3μm以下である場合には、前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rが≧5g/m2であるが、厚さD>3μmでは前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rについて下式:
が当てはまる」のに対して、甲1発明は上記の発明特定事項を備えることが明らかでない点。
(1-2)判断
ア 上記相違点が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1発明は、絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板において、焼付け処理後の被膜厚さを片面あたり3μmとし、被膜張力が12.3~14.2MPaであるものである。
イ 一方、上記(2-a)~(2-b)によれば、甲第2号証には方向性電磁鋼板の被膜張力の間接測定方法が記載されており、更に板厚0.30mmのフォルステライト下地被膜のみを有する方向性電磁鋼板に燐酸マグネシウムにコロイダルシリカを混合させた絶縁コーティングを850℃で焼き付けて製品とし、種々の被膜張力を有する鋼板を得るために、絶縁コーティングの目付量を0g/m2、2g/m2、4g/m2、6g/m2、8g/m2、10g/m2、14g/m2の7水準で変更し、それぞれの目付量について作製したサンプルを上記測定方法により測定した結果が記載されている。
ウ そして、上記(2-c)によれば、甲第2号証においては、被膜張力が14MPaとなる例のコーティング目付量は、片面あたり5g/m2以上を満たしているものと認められる。
エ また、上記(3-a)~(3-b)によれば、甲第3号証には方向性電磁鋼板が記載されており、更に最終板厚0.225mmの仕上げ焼鈍板にアスペクト比を変更した繊維状コロイダルシリカと燐酸塩を主成分とする絶縁被膜剤を焼き付け後の付着量で4.0g/m2になるよう塗布し、825℃×30秒間の焼き付け処理を行った時の被膜特性が記載されている。
オ そして、上記(3-c)~(3-d)によれば、甲第3号証においては、被膜張力が10MPa以上であれば絶縁被膜付着量が5g/m2以上となるものと認められ、上記絶縁被膜付着量は目付量に相当するものといえる。
カ ところが、甲1発明では、リン酸塩をPO4換算で1mol含有する水溶液500mlをそれぞれ用意し、これに、コロイド状シリカ(水性)700ml、およびV換算で硫酸バナジウムを0.7mol配合したクロムフリー絶縁被膜処理液を用意し、これらの絶縁被膜処理液を上記の方向性電磁鋼板の表面に塗布して、800℃×60秒の焼付け処理を施して絶縁被膜を形成しているのに対して、甲第2号証では、燐酸マグネシウムにコロイダルシリカを混合させた絶縁コーティングを850℃で焼き付けて絶縁被膜を形成し、甲第3号証では、アスペクト比を変更した繊維状コロイダルシリカと燐酸塩を主成分とする絶縁被膜剤を塗布し、825℃×30秒間の焼き付け処理を行って絶縁被膜を形成しており、甲1発明と甲第2号証及び甲第3号証とでは、少なくとも絶縁被膜の組成が異なっている。
そして、例えば上記(3-d)の「本発明2」(アスペクト比5.5の繊維状のコロイダルシリカを含む絶縁被膜によるもの。)と「比較例1」(球面状のコロイダルシリカを含む絶縁被膜によるもの。)の線図が異なっていることからみれば、絶縁被膜の組成が異なれば被膜張力と目付量の関係も異なることは明らかであるから、甲第2号証において、被膜張力が14MPaとなる例のコーティング目付量は、片面あたり5g/m2以上を満たしていると認められ、甲第3号証において、被膜張力が10MPa以上であれば目付量が5g/m2以上となると認められるとしても、このことから直ちに、これらとは絶縁被膜の組成が異なる甲1発明において目付量が5g/m2以上となっているということはできない。
キ そうすると、上記相違点は実質的な相違点であり、本件特許発明12と甲1発明との間には実質的な相違点が存在するので、本件特許発明12が甲第1号証に記載される発明であるとはいえない。
(2)本件特許発明13及び本件特許発明14について
ア 上記相違点は実質的な相違点であり、本件特許発明12と甲1発明との間には実質的な相違点が存在するので、本件特許発明12が甲第1号証に記載される発明であるとはいえないことは、上記「2-4 申立理由4について (1)本件特許発明12について (1-2)判断 キ」に記載のとおりである。
イ そして、本件特許発明13及び本件特許発明14は、請求項12を引用するものであるから、甲1発明と本件特許発明13及び本件特許発明14との間にも、少なくとも上記実質的な相違点が存在するので、本件特許発明13及び本件特許発明14が甲第1号証に記載される発明であるとはいえない。
(3)むすび
以上のとおりであるので、申立理由4は理由がない。
2-5 申立理由5について
申立理由5は、訂正前の請求項12に係る発明は、甲第1号証に記載される発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、訂正前の請求項13に係る発明は、甲第1号証に記載される発明及び甲第2号証~甲第4号証に記載される周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものである、というものである。
(1)本件特許発明12について
ア 上記相違点は実質的な相違点であることは、上記「2-4 申立理由4について (1)本件特許発明12について (1-2)判断 キ」に記載のとおりであるから、上記相違点に係る発明特定事項が、甲第1号証の記載、あるいは甲第2号証~甲第4号証に記載される周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものであるか否かについて検討する。
イ 上記(1-b)によれば、甲第1号証には、絶縁被膜の厚さは特に限定されないが、1~5μm程度が好適であることが記載されているから、甲1発明において、絶縁被膜の厚さを1~5μmの間で選択することは、当業者が適宜なし得る範囲のことといえる。
ウ ところが、甲第1号証には絶縁被膜の目付量は記載されておらず、甲第2号証において、被膜張力が14MPaとなる例のコーティング目付量は、片面あたり5g/m2以上を満たしていると認められ、甲第3号証において、被膜張力が10MPa以上であれば目付量が5g/m2以上となると認められるとしても、このことから直ちに、甲1発明において目付量が5g/m2以上となっているということはできないことは、上記「2-4 申立理由4について (1)本件特許発明12について (1-2)判断 カ」に記載のとおりである。
また、上記甲第2号証及び甲第3号証には、そのほかに、上記相違点に係る発明特定事項について記載も示唆もされていないから、甲1発明において、絶縁被膜の厚さを1~5μmの間で選択し得るとしても、そこから進んで、絶縁被膜の厚さと目付量の関係を、上記相違点に係る発明特定事項のものに特定することを、甲第1号証~甲第3号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
エ 上記(4-a)によれば、甲第4号証にはクロムを含まない絶縁皮膜を有する方向性電磁鋼板が記載されている。
また、上記(4-b)によれば、最終仕上げ焼鈍を行った鋼板表面にグラス皮膜を有する板厚0.23mmの高磁束密度方向性電磁鋼板コイルから切り出したサンプルに、Fe,Ni,Co,Sr化合物の添加条件を変更して添加した処理剤を、コーティングロールを用いて乾燥、焼き付け後の質量で5g/m2になるよう塗布し、850℃×30秒間の焼き付け処理を行った後、この製品板からサンプルを切り出し皮膜特性の調査を行うと、被膜張力が0.75~0.85kg/mm2となることが記載され、上記(4-c)によれば、上記(4-b)と同様の鋼板に、添加剤として、Fe,Niの水酸化物コロイダル物溶液の粒子径条件を変更した溶液を添加した処理剤をコーティングロールを用いて乾燥、焼き付け後の質量で5.0g/m2になるよう塗布し、850℃×30秒間の焼き付け処理を行った後、この製品板からサンプルを切り出し皮膜特性の調査を行うと、被膜張力が0.72~0.85kg/mm2となることが記載されている。
オ してみれば、甲第4号証には、絶縁被膜を焼き付け後の質量で5g/m2になるよう塗布して被膜張力を0.72~0.85kg/mm2とすることが記載されているが、このときの絶縁被膜の厚さは記載されておらず、絶縁被膜の厚さと目付量の関係は不明であるから、甲第4号証が、上記相違点に係る発明特定事項を備えるものとはいえない。
すると、甲1発明において、絶縁被膜の厚さを1~5μmの間で選択し得るとしても、そこから進んで、絶縁被膜の厚さと目付量の関係を、上記相違点に係る発明特定事項のものに特定することを、甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
カ そして、上記「第6 本件特許明細書の記載(b)、(c)」によれば、本件特許発明12は、最適の磁気特性及び実際に使われて同様に最適な騒音挙動を有し、特に従来の電磁鋼板製の変圧器に比べて操作中に騒音放射がかなり減少する変圧器用プレートを製造することができる、といった効果を奏するものであるから、本件特許発明12は、甲1発明及び甲第1号証~甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件特許発明13について
ア 本件特許発明12は、甲1発明及び甲第1号証~甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、上記「2-5 申立理由5について (1)本件特許発明12について カ」に記載のとおりである。
イ そして、本件特許発明13は請求項12を引用するものであるから、甲1発明と本件特許発明13の間にも、少なくとも上記相違点が存在するので、上記したのと同様の理由により、本件特許発明13もまた、甲1発明及び甲第1号証~甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)むすび
以上のとおりであるので、申立理由5は理由がない。
3 特許異議申立人の平成29年 9月15日付け意見書における主張について
3-1 特許異議申立人の平成29年 9月15日付け意見書における主張の概要
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件特許発明12~本件特許発明14において、絶縁コーティングが多層(少なくとも2つの層)であることが特定されていないから、本件特許発明12~本件特許発明14は本件特許明細書に記載されていない発明を含むものである。
(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本件特許明細書の記載からは、本件特許発明12~本件特許発明14を単層の絶縁コーティングとなるように実施しようとした場合に、どのように実施すれば本件特許発明12~本件特許発明14の発明特定事項を満たすことができるのかが判然としないから、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明12~本件特許発明14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
[特許申立人が提出した参考資料]
参考資料1:特開平10-330951号公報
3-2 判断
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 上記「第6 本件特許明細書の記載(a)、(b)」によれば、本件特許発明は、絶縁コーティングを備えた方向性電磁平鋼製品に関するものであって、その目的は、電磁平鋼製品の表面に作用する引張応力をさらに増加させ得る方法を提示すること、さらに、電磁平鋼製品を、最適の磁気特性及び実際に使われて同様に最適な騒音挙動を有するものとすることである。
イ そして、上記アの検討事項と、上記「第6 本件特許明細書の記載(d)、(e)」に記載される実施例からみれば、本件特許発明に係る方向性電磁平鋼製品は、「リン酸塩絶縁コーティングの厚さDが2μm以上3μm以下である場合には、前記リン酸塩絶縁コーティングの目付量rが≧5g/m2であるが、厚さD>3μmでは前記リン酸塩絶縁コーティングの固有コーティング密度rについて下式:
が当てはまる」という発明特定事項を満たしてさえいれば、電磁平鋼製品を、最適の磁気特性及び実際に使われて同様に最適な騒音挙動を有するものとする、といった課題を解決できることは明らかであり、このことは、本件特許発明12~本件特許発明14において、絶縁コーティングが多層(少なくとも2つの層)であることが特定されていないことや、絶縁被膜の塗布を複数回に分けると被膜張力が向上するという出願時の技術常識があることに左右されるものではない。
ウ そして、請求項12には上記発明特定事項が記載されており、本件特許発明13~本件特許発明14は上記請求項12を引用するものであるから、本件特許発明12~本件特許発明14は発明の課題を解決できるものであるので、本件特許明細書に記載されていない発明を含むものであるとはいえない。
(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
ア 上記「第6 本件特許明細書の記載(e)、(f)」によれば、本件特許明細書には、絶縁コーティングを複数層とすることにより、本件特許発明12~本件特許発明14の発明特定事項を満たすことができることが記載されている。
イ そして、本件特許明細書の上記記載に接した当業者は、当該記載に基づいて本件特許発明12~本件特許発明14を実施することができるのであって、このことは、絶縁コーティングを単層とする実施例の記載がないことに左右されるものではない。
ウ してみれば、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明12~本件特許発明14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
3-3 むすび
以上のとおりであるので、特許異議申立人の上記意見書における主張はいずれも採用できない。
第9 むすび
したがって、本件特許の請求項1~請求項14に係る特許は、取消理由通知書で通知された取消理由及び特許異議申立書において申立てられた申立理由によって、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1~請求項14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700171