特許異議申立
2017-700140
低アウトガス用熱伝導性組成物
- 審判番号
- 2017-700140
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-537579外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年02月16日
- 審決日
- 2017年11月29日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 分類
- P1651.4 -ZDA(C08F) / P1651.113-ZDA(C08F) / P1651.121-ZDA(C08F) / P1651.537-ZDA(C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第39条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第29条第2項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第4号、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5970462号発明「低アウトガス用熱伝導性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5970462号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし14〕について訂正することを認める。
特許第5970462号の請求項1ないし8、11及び14に係る特許を取り消す。
特許第5970462号の請求項9、10、12及び13に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 主な手続の経緯等
特許第5970462号(設定登録時の請求項の数は14。以下、「本件特許」という。)は、2012年10月5日(優先権主張:2011年10月6日、日本)を国際出願日とする出願であって、平成28年7月15日に設定登録された。
特許異議申立人 坂田 純子(以下、単に「申立人」という。)は、平成29年2月16日、本件特許の請求項1ないし14についての特許に対して特許異議の申し立てをした。
当審において、平成29年4月7日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年6月12日付け(受理日:同年6月13日)に訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書(以下、「特許権者の意見書」という。)を提出した。
当審において、平成29年6月22日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたが、申立人は意見書を提出しなかった。
当審において、平成29年8月21日付けで取消理由(決定の予告)を通知したが、特許権者は意見書を提出しなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正における請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし14について訂正することを求める、というものであり、その内容は次のとおりである。(下線は、当審が付与。以下同様。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記(A)成分は(A-1)平均粒径0.1μm以上2μm未満のフィラー成分、(A-2)平均粒径2μm以上20μm未満のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径20μm以上100μm以下のフィラー成分を含有し、」とあるのを、「前記(A)成分は(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分を含有し、」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合(質量%)は、(A-1)<(A-2)<(A-3)の関係を満たす、」とあるのを、「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10~20質量%、(A-2)は25~35質量%、(A-3)は50~60質量%である、」に訂正する。
(3) 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0048】に「実施例7」とあるのを、「参考例7」に訂正する。また、願書に添付した明細書の段落【0076】の【表1】に「実施例7」とあるのを、「参考例7」に訂正する。
(4) 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0051】に「実施例10」とあるのを、「参考例10」に訂正する。また、願書に添付した明細書の段落【0077】の【表2】に「実施例10」とあるのを、「参考例10」に訂正する。
(5) 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0054】に「実施例13」とあるのを、「参考例13」に訂正する。また、願書に添付した明細書の段落【0077】の【表2】に「実施例13」とあるのを、「参考例13」に訂正する。
2 訂正要件の適合についての検討
(1) 訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における、(A-1)フィラー成分の「平均粒径0.1μm以上2μm未満」、(A-2)フィラー成分の「平均粒径2μm以上20μm未満」、(A-3)フィラー成分の「平均粒径20μm以上100μm以下」という数値範囲を、それぞれ、訂正後の請求項1における、(A-1)フィラー成分の「平均粒径0.2μm以上1μm以下」、(A-2)フィラー成分の「平均粒径3.5μm以上8μm以下」、(A-3)フィラー成分の「平均粒径35μm以上60μm以下」という数値範囲に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで述べたとおり、訂正事項1は、(A-1)~(A-3)フィラー成分の平均粒径の数値範囲を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の【0023】には、(A-1)~(A-3)フィラー成分について、「(A-1)成分の平均粒径は、…0.2μm以上1μm以下がより好ましく、…(A-2)成分の平均粒径は、…3.5μm以上8μm以下が最も好ましい…(A-3)成分の平均粒径は、…35μm以上60μm以下が最も好ましい」と記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2) 訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1が「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)<(A-2)<(A-3)の関係を満たす」という大小関係を特定していたが、訂正後の請求項1では、「(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10~20質量%、(A-2)は25~35質量%、(A-3)は50~60質量%である」として、(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合の数値を限定することで、混合割合の数値が限定された大小関係に限定するものである。
よって、訂正事項2は、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで述べたとおり、訂正事項2は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合の大小関係を限定するものあり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の【0024】には、(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合について、「最密充填を考慮する観点から、(A-1)成分は10~20質量%、(A-2)成分は25~35質量%、(A-3)成分は50~60質量%がより好ましい。」と記載されている。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(3) 一群の請求項についての説明
訂正前の請求項2ないし14は、訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に引用しており、訂正事項1及び2に係る訂正で訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし14は、一群の請求項である。
そして、訂正事項1及び2は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものである。
したがって、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第4項に適合する。
(4) 訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正前の明細書の【0048】の実施例7に記載された熱伝導性組成物は、「熱伝導性フィラーA-1 400g、熱伝導性フィラーA-2 480g、熱伝導性フィラーA-3 720g」が混合されたものであり、その混合割合は、【0076】の【表1】に記載されたように、当該フィラーA-1が25質量%、当該フィラーA-2が30質量%、当該フィラーA-3が45質量%に相当することから、実施例7の混合割合は、訂正事項2に係る訂正後の請求項1に記載された(A-1)成分および(A-3)成分の各混合割合の範囲外である。
よって、訂正事項3は、訂正前の【0048】および【0076】の【表1】の実施例7について、訂正後には、「実施例」ではなく「参考例」であることを明らかにするものである。
したがって、訂正事項3は、訂正事項2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明細書の【0048】に記載された「実施例7」を、「参考例7」に訂正し、また、【0076】の【表1】に記載された「実施例7」を、「参考例7」に訂正するものである。
以上のとおり、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、訂正事項2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、「実施例7」を「参考例7」に訂正するものであって、実質的に内容を変更するものではないので、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、訂正事項2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、「実施例7」を「参考例7」に訂正するものであって、実質的に内容を変更するものではないので、訂正事項3は、本件特許明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
エ 明細書又は図面の訂正に係る請求項の全てについて行われている訂正であること
訂正事項3は、一群の請求項である請求項1ないし14全ての記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために訂正するものであるので、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。
(5) 訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の明細書の【0051】および【0077】の【表2】の実施例10について、訂正後には、「実施例」ではなく「参考例」であることを明らかにするものであるから、訂正事項4は、上記(4)アで述べた理由と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、上記(4)イで述べた理由と同様の理由により、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、上記(4)ウで述べた理由と同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
エ 明細書又は図面の訂正に係る請求項の全てについて行われている訂正であること
訂正事項4は、上記(4)エで述べた理由と同様の理由により、、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。
(6) 訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の明細書の【0054】および【0077】の【表2】の実施例13について、訂正後には、「実施例」ではなく「参考例」であることを明らかにするものであるから、訂正事項5は、上記(4)アで述べた理由と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、上記(4)イで述べた理由と同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、上記(4)ウで述べた理由と同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
エ 明細書又は図面の訂正に係る請求項の全てについて行われている訂正であること
訂正事項5は、上記(4)エで述べた理由と同様の理由により、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第4項及び特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項ないし第6項に適合するものであるから、本件訂正を認める。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明14」、まとめて、「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記(A)~(D)成分、
(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー、
(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール、
(C)有機チタン系硬化触媒、
(D)シランカップリング剤、
を含有し、
前記(A)成分は(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分を含有し、
(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10~20質量%、(A-2)は25~35質量%、(A-3)は50~60質量%である、
熱伝導性組成物。
【請求項2】
(B)成分が、粘度300~3,000mPa・s、重量平均分子量3,000~25,000の加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
(B)成分が、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1~2のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
(B)成分が、(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1~2のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
(B)成分が、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール、及び(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールを含有してなる請求項1~2のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
(A)成分は熱伝導性組成物全体に対して60~95質量%の量であり、(C)成分は(B)成分に対して0.01~10質量%の量であり、(D)成分は(B)成分に対して0.01~10質量%の量である請求項1~5のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性組成物から得られる硬化体が、柔軟な物性を示す、請求項1~6のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項8】
湿気硬化型である請求項1~7のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項9】
低アウトガス用である請求項1~8のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項10】
光ピックアップモジュール用である請求項1~9のうちの1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項11】
請求項1~10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を含有してなる放熱材。
【請求項12】
請求項1~10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を含有してなる接着剤。
【請求項13】
請求項1~10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を含有してなる塗布剤。
【請求項14】
請求項1~10のうちの1項に記載の熱伝導性組成物を電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法。」
第4 取消理由(決定の予告)の概要
(理由1)本件特許発明は、その出願日前の下記甲1-2の出願に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
甲1-2:特願2012-509476号(特許第5828835号公報)(平成29年2月16日付けの特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)添付の甲第1号証の2)
第5 当審の判断
1 取消理由1(甲1-2に基づく先願同一違反)について
(1) 甲1-2に記載された事項
甲1-2である特許第5828835号は、異議事件(異議2016-700525)の平成29年4月25日付けの異議の決定において、
「特許第5828835号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1-15〕について訂正することを認める。
特許第5828835号の請求項1-15に係る特許を維持する。」とされており、訂正が認められた特許請求の範囲及び明細書には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付与。以下同様。)
ア 「【請求項1】
下記(A)~(D)成分を含有してなる組成物。
(A)(A-1)平均粒径0.1以上2μm未満のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、(A-3)平均粒径30μm以上80μm以下のフィラー成分を含有してなり、混合割合が、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10~20質量%、(A-2)は25~35質量%、(A-3)は50~60質量%であるフィラー成分
(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール
(C)硬化触媒
(D)シランカップリング剤
【請求項2】
前記混合割合が、(A-1)が10~20質量%、(A-2)が25~35質量%、(A-3)が50~60質量%である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(A)成分が絶縁性を有する熱伝導性フィラーである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
(B)成分が、粘度300~3,000mPa・s、重量平均分子量3,000~25,000の加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1から3いずれかに記載の組成物。
【請求項5】
(B)成分が、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1から3いずれかに記載の組成物。
【請求項6】
(B)成分が、(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールである請求項1から3いずれかに記載の組成物。
【請求項7】
(B)成分が、(B-1)分子鎖両末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール及び(B-2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールを含有してなる請求項1から3いずれかに記載の組成物。
【請求項8】
(A)成分は前記組成物全体に対して60~95質量%の量で、(C)成分は(B)成分に対して0.01~10質量%の量で、(D)成分は(B)成分に対して0.01~10質量%の量で含まれる請求項1から7いずれかに記載の組成物。
【請求項9】
(C)成分が、ビスマス系硬化触媒である請求項1から8いずれかに記載の組成物。
【請求項10】
(C)成分が、チタン系硬化触媒である請求項1から8いずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物の硬化体が、デュロメーターアスカー硬度計による硬度が90以下である請求項1から10いずれかに記載の組成物。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物を含有してなる熱伝導性組成物。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物を含有してなる熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物を含有してなる放熱材。
【請求項15】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の組成物を電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法。」
イ 「【0013】
本発明で使用する(A)フィラーとしては、酸化アルミニウム等のアルミナ、酸化亜鉛、窒化アルミ、窒化ホウ素等、熱伝導性が高く、絶縁性を有するフィラーが好ましい。熱伝導性フィラーは、球状、破砕状等の形状のものであってよい。
本発明で使用する(A)フィラーは、(A-1)平均粒径0.1~2μmのフィラー成分、(A-2)平均粒径2~20μmのフィラー成分、(A-3)平均粒径20~100μmのフィラー成分といった、3種類のフィラーを併用する。
(A-1)成分の平均粒径は、0.1μm以上2μm未満であり、0.2μm以上1μm以下が好ましく、0.3μm以上0.8μm以下がより好ましい。(A-2)成分の平均粒径は、2μm以上20μm未満であり、2以上10μm以下が好ましく、3.5μm以上8μm以下がより好ましい。(A-3)成分の平均粒径は、20μm以上100μm以下であり、30μm以上80μm以下が好ましく、35μm以上60μm以下がより好ましい。」
ウ 「【0017】
本発明で使用する(C)成分の硬化触媒は、特に限定されないが、前記加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコールの縮合反応を促進する化合物であることが好ましい。(C)成分の硬化触媒としては、シラノール化合物の縮合触媒が好ましい。(C)成分としては、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、オクチル酸錫、ナフテン酸錫、ジブチル錫と正ケイ酸エチルの反応物等の有機錫化合物:ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N-メチルモルホリン、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン-7(DBU)等のアミン系化合物又はこれらとカルボン酸等との塩;過剰のポリアミンと多塩基酸とから得られる低分子量ポリアミド樹脂;過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物;ビスマスカルボキシレート、アビエチン酸ビスマス、ネオアビエチン酸ビスマス、d-ピマル酸ビスマス、イソ-d-ピマル酸ビスマス、ポドカルプ酸ビスマス、安息香酸ビスマス、ケイ皮酸ビスマス、p-オキシケイ皮酸ビスマス、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス、ネオドデカン酸ビスマス等のビスマス系硬化触媒、オクチル酸鉛、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトライソプロポギシド、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド等のチタン系硬化触媒、バナジルトリエトキシド等の公知のシラノール縮合触媒が挙げられる。これらの中では、樹脂の柔軟性の観点から、ビスマス系硬化触媒が好しく、反応促進性の観点からチタン系硬化触媒が好ましい。」
(2) 甲1-2に記載された発明について
甲1-2には、上記摘示(1)アないしウからみて、請求項1、3及び10を引用する請求項12に係る発明である、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1-2請求項12発明」という。)。
「下記(A)~(D)成分を含有してなる組成物を含有してなる熱伝導性組成物。
(A)(A-1)平均粒径0.1以上2μm未満のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、(A-3)平均粒径30μm以上80μm以下のフィラー成分を含有してなり、混合割合が、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10~20質量%、(A-2)は25~35質量%、(A-3)は50~60質量%である絶縁性を有する熱伝導性フィラー成分
(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール
(C)チタン系硬化触媒
(D)シランカップリング剤」
(3) 本件特許発明1について
ア 甲1-2請求項12発明との対比・判断
甲1-2請求項12発明の「組成物を含有してなる熱伝導性組成物」、「(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー成分」、「(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール」、「(D)シランカップリング剤」は、それぞれ、本件特許発明1の「熱伝導性組成物」、「(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー」、「(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール」、「(D)シランカップリング剤」に相当する。
甲1-2請求項12発明の「(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分」は、本件特許発明1の「(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分」に相当する。
甲1-2請求項12発明の「(A-1)平均粒径0.1以上2μm未満のフィラー成分」及び「(A-3)平均粒径30μm以上80μm以下のフィラー成分」と、本件特許発明1の「(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分」及び「(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分」とは、それぞれ、平均粒径の下限値及び上限値が一応相違している。
しかしながら、甲1-2請求項12発明の(A-1)フィラー成分及び(A-3)フィラー成分の平均粒径と、本件特許発明1の(A-1)フィラー成分及び(A-3)フィラー成分の平均粒径は、それぞれ、「0.2μm以上1μm以下」及び「35μm以上60μm以下」の範囲で重複している。
そして、甲1-2の摘示(2)には、「(A-1)成分の平均粒径は、0.2μm以上1μm以下が好ましく」、「(A-3)成分の平均粒径は、35μm以上60μm以下がより好ましい」と記載されているので、甲1-2請求項12発明の(A-1)及び(A-3)フィラー成分の平均粒径は、それぞれ、「0.2μm以上1μm以下」及び「35μm以上60μm以下」の範囲を実質的に包含するものであるといえる。
そうすると、甲1-2請求項12発明の(A-1)及び(A-3)フィラー成分の平均粒径と、本件特許発明1の(A-1)及び(A-3)フィラー成分の平均粒径は、それぞれ、「0.2μm以上1μm以下」及び「35μm以上60μm以下」の範囲で重複一致する。
そして、甲1-2請求項12発明の「混合割合が、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)が10~20質量%、(A-2)が25~35質量%、(A-3)が50~60質量%」は、本件特許発明1の「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10~20質量%、(A-2)は25~35質量%、(A-3)は50~60質量%である」に一致している。
ここで、甲1-2請求項12発明の「(C)チタン系硬化触媒」として、甲1-2の摘示(3)には「ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトライソプロポギシド、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド等のチタン系硬化触媒」が記載されており、チタン系硬化触媒の選択肢は、全て、有機系であって、加水分解性シリル基を有するポリマー組成物の硬化触媒は有機系チタン系硬化触媒を使用することが出願時の技術常識といえるから(例えば、甲4の請求項1又は甲6の請求項1等)、甲1-2請求項12発明の「(C)チタン系硬化触媒」は、実質的に、有機チタン系硬化触媒であるといえるから、本件特許発明1の「C)有機チタン系硬化触媒」と実質的に一致している。
したがって、本件特許発明1と甲1-2請求項12発明とは、全ての点で一致しており、相違点は存在しないので、同一である。
イ まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4) 本件特許発明2ないし6、8、11及び14について
本件特許発明2ないし6、8、11及び14は、それぞれ、本件特許発明1において、本件特許の請求項2ないし6、8、11及び14に記載された事項で特定するものであるが、当該事項は、それぞれ、甲1-2の請求項4ないし8、13、14及び15に記載された事項と同一であるから、本件特許発明2ないし6、8、11及び14は、それぞれ、甲1-2請求項12発明において、甲1-2の請求項4ないし8、13、14及び15に記載された事項で特定するものと、全ての点で一致しており、相違点は存在しないので、同一である。
したがって、本件特許発明2ないし6、8、11及び14は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5) 本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明1の「熱伝導性組成物から得られる硬化体が、柔軟な物性を示すこと」を特定するものである。
本件特許明細書の「本実施形態の組成物は、高精度固定した部材に塗布する点で、その硬化体が柔軟な物性を示すものであることが好ましい。硬化体の柔軟性としては、デュロメーターアスカー硬度計「CSC2型」による硬度が90以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。硬度が90以下であることが、硬化物による歪みが全く発生しない観点から、好ましい。」(【0035】)を参酌すれば、当該「熱伝導性組成物から得られる硬化体が、柔軟な物性を示すこと」とは、「デュロメーターアスカー硬度計「CSC2型」による硬度が90以下」であるものを意味している。一方で、甲1-2の請求項11には「組成物の硬化体が、デュロメーターアスカー硬度計による硬度が90以下である」とされているから、甲1-2の請求項11を引用する甲1-2請求項12発明は、硬化体が柔軟な物性を示すものであるといえる。
そうすると、本件特許発明7は、甲1-2請求項12発明において、甲1-2の請求項11に記載された事項で特定するものと、全ての点で一致しており、相違点は存在しないので、同一である。
したがって、本件特許発明7は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6) 本件特許発明9について
本件特許発明9は、本件特許発明1の「熱伝導性組成物」を「低アウトガス用」と特定するものである。
甲1-2の請求項14には、甲1-2請求項12発明の「熱伝導性組成物」を含有する「放熱材」が記載されているが、「放熱材」が「低アウトガス用」、すなわち、「低アウトガス性が求められる用途」であることは、本件特許の優先権主張当時の技術常識であるとはいえないから、甲1-2請求項12発明において甲1-2の請求項14に記載された事項で特定する発明と本件特許発明9とはこの点において相違する。
したがって、本件特許発明9は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
(7) 本件特許発明10について
本件特許発明10は、本件特許発明1の「熱伝導性組成物」を「光ピックアップモジュール用」と特定するものである。
甲1-2の請求項14には、甲1-2請求項12発明の「熱伝導性組成物」を含有する「放熱材」が記載されているが、「放熱材」が「光ピックアップモジュール用」という用途であることは、本件特許の優先権主張当時の技術常識であるとはいえないから、甲1-2請求項12発明において甲1-2の請求項14に記載された事項で特定する発明と本件特許発明10とはこの点において相違する。
したがって、本件特許発明10は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
(8) 本件特許発明12について
本件特許発明12は、本件特許発明1の「熱伝導性組成物を含有してなる接着剤」と特定するものである。
甲1-2の請求項13には、甲1-2請求項12発明の「熱伝導性組成物」を含有する「熱伝導性湿気硬化型樹脂組成物」が記載されているが、「硬化型」という性質が「接着性」という性質を示すものではないし、「硬化型」という性質であれば「接着性」という性質を示すことが、本件特許の優先権主張当時の技術常識であるとはいえないから、甲1-2請求項12発明において甲1-2の請求項13に記載された事項で特定する発明と本件特許発明12とはこの点において相違する。
したがって、本件特許発明12は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
(9) 本件特許発明13について
本件特許発明13は、本件特許発明1の「熱伝導性組成物を含有してなる塗布剤」と特定するものである。
甲1-2の請求項15には、甲1-2請求項12発明の「熱伝導性組成物」を「電子部品に塗布することにより、電子部品から発生した熱を外部へ放熱させる放熱方法」が記載されているが、「塗布することによ」る「放熱方法」と、「塗布剤」とは、単なるカテゴリーの変更とはいえないから、甲1-2請求項12発明において甲1-2の請求項15に記載された事項で特定する発明と本件特許発明13とはこの点において相違する。
したがって、本件特許発明13は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
2 平成29年4月7日付け取消理由で通知し、取消理由(決定の予告)で通知しなかった取消理由について
(1) 平成29年4月7日付け取消理由で通知し、取消理由(決定の予告)で通知しなかった取消理由の概要は次のとおりである。
(理由2)本件特許発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物甲1-1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(理由3)本件特許発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物甲1-1、又は、甲3、甲4、甲6ないし16に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反しており、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
甲1-1:国際公開第2011/125636号(申立書添付の甲第1号証の1)
甲3 :特開2001-302936号公報(申立書添付の甲第3号証)
甲4 :特開2003-147220号公報(申立書添付の甲第4号証)
甲6 :特開2002-249672号公報(申立書添付の甲第6号証)
甲7 :特開2001-348488号公報(申立書添付の甲第7号証)
甲8 :特開2008-260855号公報(申立書添付の甲第8号証)
甲9 :特開2009-179771号公報(申立書添付の甲第9号証)
甲10:特開2007-246861号公報(申立書添付の甲第10号証)
甲11:特開2007-277406号公報(申立書添付の甲第11号証)
甲12:特開2007-204510号公報(申立書添付の甲第12号証)
甲13:特開2010-235953号公報(申立書添付の甲第13号証)
甲14:特開2002-363429号公報(申立書添付の甲第14号証)
甲15:特開2010-242006号公報(申立書添付の甲第15号証)
甲16:特開2006-316175号公報(申立書添付の甲第16号証)
(2) 甲1-1に基づく取消理由(理由2及び3)について
甲1-1に基づく取消理由は、平成29年4月7日付け取消理由に記載したとおり、本件特許発明の優先権主張の基礎出願である特願2011-221850号(申立書に添付された甲第2号証、以下、「甲2」という。)には、本件特許発明1の「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合(質量%)は、(A-1)<(A-2)<(A-3)の関係を満たす」ことは記載されていないし、甲2の明細書の記載事項の全てを総合しても導くことはできないから、本件特許発明は、優先権主張の利益を享受することができず、本件の出願日は実際の出願日であるとの前提のもとに、甲1-1を公知文献として、新規性及び進歩性についての取消理由を通知したものである。
しかしながら、本件訂正によって、本件特許発明1の「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合(質量%)は、(A-1)<(A-2)<(A-3)の関係を満たす」との特定事項は、「(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10~20質量%、(A-2)は25~35質量%、(A-3)は50~60質量%である」と訂正された(訂正事項2)ことによって、甲2の明細書に記載された範囲内のものとなったことから、本件特許発明は、優先権主張の利益を享受することができるものとなった。
したがって、甲1-1を公知文献として、新規性及び進歩性についての取消理由を通知したものである、甲1-1に基づく取消理由(理由2及び3)は、解消している。
(3) 甲3に基づく取消理由(理由3)について
ア 甲3発明
平成29年4月7日付け取消理由に記載したとおり、甲3には、次のとおりの発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「一分子中に2個以上の加水分解性シリル基を有する加水分解性シリル基含有化合物(A)、前記加水分解性シリル基含有化合物(A)を架橋させるための架橋性化合物(B)、及び、熱伝導性充填材(C)からなり、
加水分解性シリル基含有化合物(A)は、アルコキシシリル基が、ポリアルキレングリコール中に置換して存在する加水分解性シリル基含有ポリマーであり、
熱伝導性樹脂組成物には、必要に応じて物性調整剤として各種シランカップリング剤が添加される、
熱伝導性樹脂組成物。」
イ 本件特許発明1と甲3発明との対比・判断
甲3発明の「熱伝導性樹脂組成物」、「アルコキシシリル基が、ポリアルキレングリコール中に置換して存在する加水分解性シリル基含有ポリマー」、「各種シランカップリング剤である物性調整剤」、「からなり」は、それぞれ、本件特許発明1の「熱伝導性組成物」、「(B)加水分解性シリル基を有するポリアルキレングリコール」、「(D)シランカップリング剤」、「含有する」に相当する。
甲3の記載からみて、甲3発明の「架橋性化合物(B)」と、本件特許発明1の「(C)有機チタン系硬化触媒」とは、「硬化触媒」である限りにおいて一致している。
甲3発明の「熱伝導性充填材(C)」と、本件特許発明1の「(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー」とは、「熱伝導性フィラー」である限りにおいて一致し、甲3発明の「熱伝導性充填材(C)」が、絶縁性を有することは、甲3には記載されていない。
したがって、本件特許発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、
<一致点>
「下記(A)~(D)成分、
(A)熱伝導性フィラー、
(B)アルコキシシリル基が、ポリアルキレングリコール中に置換して存在する加水分解性シリル基含有ポリマー、
(C)硬化触媒、
(D)シランカップリング剤、
を含有する、
熱伝導性組成物。」
次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1では「(C)硬化触媒」が「(C)有機チタン系硬化触媒」に特定されているのに対して、甲3発明ではそのような特定がない点。
<相違点2>
本件特許発明1では「(A)絶縁性を有する熱伝導性フィラー」であるのに対して、甲3発明では「熱伝導性充填材(C)」が、絶縁性を有することが特定されていない点。
<相違点3>
本件特許発明1では「前記(A)成分は(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分を含有し、
(A)成分中の(A-1)、(A-2)及び(A-3)成分の混合割合は、(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10~20質量%、(A-2)は25~35質量%、(A-3)は50~60質量%である」と特定されているのに対して、甲3発明では、そのような特定がない点。
上記相違点3について検討する。
甲7ないし甲12の記載からみれば、熱伝導性充填材が高充填されて、熱伝導性に優れた成形物を得るために、熱伝導性組成物において、異なる粒径の熱伝導性充填材を組み合わせて添加すること、甲13の記載から、より大きい粒子の群の間により小さい粒子の群が存在して、充填可能なフィラー量を多くすることができることまでは理解できる。
また、甲7の実施例1及び3、甲8の実施例4、甲9の試料1~6、8、甲10の実施例4及び9、甲11の試料No.11、甲12の実施例15には、3種類の粒径の熱伝導性充填材が配合されており、その充填材の配合量の関係が、小粒径の配合量<中粒径の配合量<大粒径の配合量であることまでは示されている。
しかしながら、甲7ないし甲13に開示された平均粒径に基づく配合量の大小関係は一律に定まっているものではなく、平均粒径の大きい粒子がそれよりも小さい粒子と同量で配合された態様や、平均粒径の大きい粒子がそれよりも小さい粒子より少ない量で配合された態様など、種々の関係で配合された態様が混在するものであって、甲7ないし甲13に開示された内容は、平均粒径の大きい粒子を多く配合する態様が選択肢として可能であることを示唆するに留まるものであるといえる。
実際、平均粒径が異なる3種類の粒子の平均粒径をどの範囲で設定し、かつ、それらの配合割合をどのように選定するかは、適用される樹脂組成物の種類や必要とされる機能や用途などに応じて検討される事項であるといえる。
そうすると、甲3発明において、熱伝導性充填材が高充填されて、熱伝導性に優れた成形物を得るために、当該熱伝導性充填材(C)として、(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分という、3種類の特定粒径の熱伝導性充填材を併用し、かつ、それら充填材の配合割合を、「(A-1)、(A-2)及び(A-3)の合計100質量%中、(A-1)は10~20質量%、(A-2)は25~35質量%、(A-3)は50~60質量%」という特定の数値範囲とすることは、たとえ当業者であっても容易になし得ることではない。
そして、相違点3による効果について検討しても、本件特許発明1は、相違点3の特定事項とすることによって、作業性などに優れることは、本件の明細書の実施例と参考例とを対比すれば明らかであって、斯かる効果は、当業者が予測し得るものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明及び甲7ないし甲13に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではなく、特許を受けることができないものではないから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明2ないし14と甲3発明との対比・判断
本件特許発明2ないし14は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではなく、特許を受けることができないものではないから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであるとはいえない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由は、次のとおりである。
(サポート要件)本件特許発明1ないし14は、3種類のフィラー成分として、平均粒径2μmを境界線として(A-1)成分と(A-2)成分とを切り分け、平均粒径20μmを境界線として(A-2)成分と(A-3)成分とを切り分けるものであるところ、実施例では各成分が1種類のみであって、境界値に近い成分の併用は単独で用いた場合と実質的に区別できないことから、本件特許発明1ないし14には、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えており、それらの特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきである。
そこで、検討する。
本件訂正によって、3種類のフィラー成分の平均粒径は、(A-1)平均粒径0.2μm以上1μm以下のフィラー成分、(A-2)平均粒径3.5μm以上8μm以下のフィラー成分、及び(A-3)平均粒径35μm以上60μm以下のフィラー成分に訂正されたことから、(A-1)成分と(A-2)成分との間及び(A-2)成分と(A-3)成分との間に境界線は存在しなくなった。したがって、境界値に近い成分の併用が単独で用いた場合と実質的に区別できない場合は除外された。
また、3種類のフィラー成分の平均粒径が実施例では各成分が1種類のみであるとしても、発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時の技術常識によれば、本件特許発明1ないし14が、それらの発明の課題を解決することができることを当業者は認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし14は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえ、本件特許の明細書の記載は、いわゆるサポート要件を満たしている。
よって、申立人の主張するサポート要件の異議の申立ての理由によっては、本件特許発明1ないし14の特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし8、11及び14は、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1ないし8、11及び14に係る特許は、同法第39条第1項に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、申立人の主張する申立の理由及び証拠方法によっては、本件特許発明9、10、12及び13が特許法第113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もなく、他に取り消すべき理由を発見しないから、本件特許発明9、10、12及び13に係る特許を取り消すことはできない。
よって結論のとおり決定する。
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2017-700140