特許異議申立
2019-700288
動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法、動植物又はその部分の冷蔵剤、被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法、被解凍物又はその加工物、及び生鮮動植物又はその部分の凍結剤
- 審判番号
- 2019-700288
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-551958
- 登録番号
- 特許第6487572号(P6487572)
- 請求日
- 2019年04月12日
- 審決日
- 2021年03月30日
- 公報発行日
- 2021年09月24日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】ブランテックインターナショナル株式会社
- 【権利者代理人】伊藤 温
- 【異議申立人】アイスマン 株式会社
- 【異議申立人代理人】中前 富士男
- 【異議申立人代理人】来田 義弘
- 審判長/審判官
- 審判長 中島 庸子
- 審判官 佐々木 秀次
- 審判官 冨永 保
- 分類
- P1651.113-ZDA(A23B) / P1651.121-ZDA(A23B) / P1651.537-ZDA(A23B) / P1651.536-ZDA(A23B) / P1651.4 -ZDA(A23B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法39条1項特許法113条2号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第39条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6487572号発明「動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法、動植物又はその部分の冷蔵剤、被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法、被解凍物又はその加工物、及び生鮮動植物又はその部分の凍結剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6487572号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔13~20〕について訂正することを認める。
特許第6487572号の請求項20に係る特許を取り消す。
特許第6487572号の請求項1~12、14~19、21~23に係る特許を維持する。
特許第6487572号の請求項13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6487572号の請求項1~23に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年11月18日(優先権主張 平成27年11月19日、平成28年3月3日、平成28年5月24日(7件)、平成28年7月4日)を国際出願日とする特許出願であって、平成31年3月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行されたものである。その後、本件特許について、平成31年4月12日に、特許異議申立人アイスマン株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)により全請求項について特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 1月 6日付け:取消理由通知
同年 3月10日 :意見書の提出(特許権者)
同年 8月11日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年10月13日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年10月30日付け:訂正請求があった旨の通知
同年11月20日 :意見書の提出(特許異議申立人)
第2 訂正の適否についての判断
令和2年10月13日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
1 訂正の内容
本件訂正の内容は以下の訂正事項1~7のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項14の「前記氷は、以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷である請求項13に記載の方法。
(a)融解完了時の温度が-5℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である」との記載を訂正後に「塩分濃度が13.6~23.1%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が13.6~23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程と、
前記氷スラリーに生鮮動植物又はその部分を浸漬し、該生鮮動植物又はその部分を瞬間凍結させる工程と、
を含む被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法であり、前記氷は、以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷である、被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法。
(a)融解完了時の温度が-5℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である」と訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項13を削除する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項16の「請求項13~15のいずれか」との記載を訂正後に「請求項14又は15」と訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項17の「請求項13~16のいずれか」との記載を訂正後に「請求項14~16のいずれか」と訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の請求項18の「請求項13~17のいずれか」との記載を訂正後に「請求項14~17のいずれか」と訂正する。
(6)訂正事項6
訂正前の請求項19の「請求項13~18のいずれか」との記載を訂正後に「請求項14~18のいずれか」と訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の請求項20の「請求項13~19のいずれか」との記載を訂正後に「請求項14~19のいずれか」と訂正する。
なお、訂正前の請求項13~20について、請求項14~20は請求項13を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項13に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項13~20に対応する訂正後の請求項13~20は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項14が訂正前の請求項13を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項13を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項13を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2は、訂正前の請求項13を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3~7について
ア 訂正の目的について
訂正事項3~7は、いずれも訂正前の請求項13を引用している訂正前の請求項16~20から、引用している訂正前の請求項13を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項3~7は、いずれも訂正前の請求項16~20から、その引用している訂正前の請求項13を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、上記これらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項3~7は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
3 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は同項第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、訂正後の請求項〔13~20〕について訂正することを認める。
第3 本件特許に係る発明
本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1~12、14~23に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12、14~23に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明12」、「本件発明14~「本件発明23」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法であって、
以下の(a)~(c)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を用いて、前記動植物又はその部分を冷蔵する工程を有する方法。
(a)融解完了時の温度が0℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
(c)前記氷の温度が前記動植物又はその部分の凍結点~前記凍結点+0.5℃である
【請求項2】
前記水溶液は、動植物又はその部分と等張である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷蔵は、前記動植物又はその部分と前記氷とを直接接触させて行う請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記動植物は食用である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記動植物は海水魚であり、前記溶質はNaClであり、前記NaClの濃度は0%超2%未満である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記動植物の部分は、動物の臓器である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記氷は、海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水、が凍った氷である請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記冷蔵する工程において、前記氷と前記動植物又はその部分との間に、前記氷より高い熱伝導率を有する固体が介在する、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記溶質は、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
以下の(a)~(c)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を含む、動植物又はその部分の冷蔵剤。
(a)融解完了時の温度が0℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
(c)前記氷の温度が、前記動植物又はその部分の凍結点~前記凍結点+0.5℃である
【請求項11】
さらに、前記氷より高い熱伝導率を有する固体を含有する、請求項10に記載の冷蔵剤。
【請求項12】
前記溶質は、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を含む、請求項10又は11に記載の冷蔵剤。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
塩分濃度が13.6~23.1%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が13.6~23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程と、
前記氷スラリーに生鮮動植物又はその部分を浸漬し、該生鮮動植物又はその部分を瞬間凍結させる工程と、
を含む被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法であり、
前記氷は、以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷である、被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法。
(a)融解完了時の温度が-5℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
【請求項15】
前記溶質は、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
混合する前記氷と前記塩水の塩分濃度が同程度である請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
混合する前記氷と前記塩水の質量比が氷:塩水=75:25~20:80である請求項14~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
瞬間凍結させた前記生鮮動植物又はその部分を前記氷スラリーから取り出して、該生鮮動植物又はその部分を瞬間凍結時の温度以下で冷凍保存する請求項14~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記瞬間凍結させる工程において、前記氷と前記生鮮動植物又はその部分との間に、前記氷より高い熱伝導率を有する固体が介在する、請求項14~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
請求項14~19のいずれかに記載の方法で製造される被冷凍生鮮動植物又はその部分を解凍してなる被解凍物またはその加工物。
【請求項21】
以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を含む、生鮮動植物又はその部分の凍結剤。
(a)融解完了時の温度が-5℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
【請求項22】
さらに、前記氷より高い熱伝導率を有する固体を含有する、請求項21に記載の凍結剤。
【請求項23】
前記溶質は、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を含む、請求項21又は22に記載の凍結剤。」
第4 特許異議申立人が申し立てた理由、当審が通知した、令和2年1月6日付け取消理由及び令和2年8月11日付け取消理由(決定の予告)の概要
1 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
理由1(進歩性):本件特許の請求項1~12、21~23に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1~6号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
理由2(サポート要件):この出願は、特許請求の範囲の請求項1~12、21~23の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3(先願)この出願の下記の請求項13~19に係る発明は、その出願日前の甲第7号証の出願に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない。
理由4(明確性):この出願は、特許請求の範囲の請求項20の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
甲第1号証:特開平9-229525号公報
甲第2号証:特開平2015-164417号公報
甲第3号証:特開2002-115945号公報
甲第4号証:特開2007-278667号公報
甲第5号証:特開2006-258334号公報
甲第6号証:特開昭54-84045号公報
甲第7号証:特許第6234529号公報
甲第8号証:特願2016-103014号
2 当審が通知した令和2年1月6日付け取消理由の概要
理由1(新規性):本件特許の請求項1~7、9、10、12~14、16、17、21に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1~4のいずれかに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
理由2(進歩性):本件特許の請求項1~19、21~23に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1~5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
理由3(委任省令要件):この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由4(サポート要件):この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由5(明確性):この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
引用例1:特開平9-229525号公報(甲第1号証)
引用例2:特開2002-115945号公報(甲第3号証)
引用例3:特開2007-278667号公報(甲第4号証)
引用例4:特開昭53-91154号公報(当審にて追加)
引用例5:特開2006-258334号公報(甲第5号証)
3 当審が通知した令和2年8月11日付け取消理由(決定の予告)の概要
理由1(新規性):本件特許の請求項1、3、4、6、7、10、20に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例1、2又は3に記載された発明、本件特許の請求項2、5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例2に記載された発明、本件特許の請求項9、12に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例2又は3に記載された発明、本件特許の請求項13~14、16、17に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例4に記載された発明、本件特許の請求項21に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例1又は4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
理由2(進歩性):本件特許の請求項1、3、4、6、7、10、20に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例1、2又は3に記載された発明に、本件特許の請求項2、5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例2に記載された発明に、本件特許の請求項8、11に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例1、2又は3に記載された発明と引用例5に記載された発明に、本件特許の請求項9、12に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例2又は3に記載された発明に、本件特許の請求項13~18、23に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例4に記載された発明に、本件特許の請求項19に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例4及び引用例5に記載された発明に、本件特許の請求項21に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例1又は4に記載された発明に、本件特許の請求項22に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例1又は4に記載された発明と引用例5に記載された発明に、それぞれ基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
理由3(委任省令要件):この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由4(サポート要件):この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由5(明確性):この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
上記の取消理由(決定の予告)の理由1~2で提示した引用例1~5は、いずれも上記2の取消理由の理由1~2で提示した引用例1~5と同じであり、引用例の提示を省略した。
なお、上記2の取消理由の理由1~4と上記3の取消理由(決定の予告)の理由1~4は、いずれも同趣旨のものである。
また、上記1の特許異議申立人が申し立てた理由の理由4、上記2の取消理由の理由5及び上記3の取消理由(決定の予告)の理由5は、いずれも同趣旨のものである。
第5 当審の判断
当審は、本件発明20は、下記1(1)ウ(ケ)の理由(新規性及び進歩性)及び下記1(4)の理由(明確性)により、取り消されるべきものであると判断する。
また、本件発明1~12、14~19、21~23は、下記1(1)ウ(ア)~(ク)、下記1(2)~(3)及び下記2の理由により、取り消されるべきものではないと判断する。
以下、それぞれについて述べる。
1 当審が通知した取消理由について
(1)理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
ア 各引用例の記載
(ア)引用例1の記載(下線は、当審による。以下同様である。)
(ア-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、海産性の魚介類をその鮮度を落とさずに低温状態で保存するために使用される塩水氷を製造する方法及び塩水氷製造装置に関するものである。」
(ア-2)「【0014】攪拌槽16において作る濃塩水の濃度は適宜調整可能であるが、ここでは濃度25%の濃塩水を作り、水と食塩が分離しないように攪拌翼17aにより絶えず攪拌するようにしている。この濃塩水の濃度25%は一例であり、少なくともこの25%を中心に±7%の濃度範囲にあればよい。なお、攪拌槽16の内部壁面,攪拌翼17a等の濃塩水に直に接触する接液部は耐蝕性の高い部材を使用しており、例えば、チタン材や耐蝕性の高いフッソ樹脂,ケイ素樹脂等の合成樹脂を使用しており、また、接液部に耐蝕性の高い塗料を塗布するようにしてもよい。
【0015】而して、本発明塩水氷製造装置においては、上記攪拌槽16において作った濃度25%の濃塩水を定量ポンプ19により貯留槽1の塩水濃度調節槽1Bに所定量送った後、この塩水濃度調節槽1B内にある高酸素含有量の水と攪拌用循環ポンプ15により攪拌混合して濃度2~3.5%になるように調節している。
【0016】この濃度2~3.5%に調節された塩水は、ポンプ20により製氷機21に送られ、フレ-ク状乃至は粒状の塩水氷にされる。この製氷機21に送られた塩水のうち、氷にならない塩水は、ここでは戻り管Pを経由して塩水濃度調節槽1Bに戻すようにしているが、分岐させて攪拌槽16にも戻すようにすることもできる。因に、氷にならない塩水は製氷機21内で冷却されているため、塩水濃度調節槽1B内の水の温度は夏場でも4~10℃に維持され、従って、製氷機21に送られる塩水を低い温度で送ることができ、製氷機20による製氷能力を高めることができる。」
(ア-3)「【0018】次に、図2により、図1により説明した本発明の一例の塩水氷製造装置の具体的な構成について説明する。
【0019】図2において、Aは図1の1から20までの符号により説明した貯留槽乃至はポンプのすべてを組込んで成る活性水による塩水の製造供給装置、Bは図1において符号21として説明した製氷機、Cは図1において符号22として説明した貯氷庫、D及びEは図1において冷凍機23として説明したもので、Dは貯氷庫Cの庫内を冷却するための貯氷用冷凍機、Eは製氷機Bに冷媒を供給するための製氷用冷凍機である。
【0020】製氷機Bは、冷媒を循環させて冷却された内部金属壁面に塩水を回転し乍ら吹付けて供給すると共に、内部金属壁面に形成された塩水氷を掻取り装置により掻落とし貯氷庫C内に収納するためのものである。31はこの製氷機Bの外周に設けられた保冷材、32はこの保冷材31の内側に、冷媒供給管33を介在させて設けた金属板、34は塩水製造供給装置Aから供給された塩水を金属壁面に吹付けるための中空の回転軸、35はこの回転軸34の上部に設けられた塩水吹付管、36は回転軸34に枝状に取付けられたスクレ-パである。
【0021】製氷機B内においては、製氷用冷凍機Eから供給された冷媒が冷媒供給管33内を循環しおよそマイナス30℃からマイナス50℃に冷却された金属板32の内面に活性冷水による塩水の製造供給装置Aから供給された塩水を回転軸34の回転による遠心力によって塩水吹付管35から吹付けると、この金属板32の内面に塩水氷37が薄い層を形成するように生成するので、この塩水氷37をスクレ-パ36の先端によって金属板32の内面から掻取る。なお、回転軸34の回転速度はおよそ10秒に1回転する程度であるが、この回転速度は適宜変更可能である。
【0022】スクレ-パ36の先端によって掻取られた塩水氷37はフレ-ク状乃至粒状をなし、そのまま落下して貯氷庫C内に破線Sで示すように集積し貯蔵されることとなる。塩水氷37は温度としてはマイナス4℃程度であるが、含有する酸素が放出されるときに熱を奪うためマイナス6℃程度に保持される。なお、貯氷庫C内は、塩水氷37の溶解を防ぐため、貯氷用冷凍機Dによってマイナス20℃位の温度に維持されている。また、塩水氷とならなかった塩水は、塩水の製造供給装置Aに戻されるが、この塩水は製氷機B内において冷却されているので、塩水の製造供給装置Aを低温(約4℃位)に保持できる。38は貯氷庫Cの扉で、この貯氷庫Cの塩水氷37の取出し口となる。
【0023】
【発明の効果】本発明は以上の通りであって、本発明塩水氷製造装置は、従来の塩水氷製造方法とは全く異なる方法で塩水氷を作ることができるので、従来の淡水氷を核としてその外部に塩水が付着したような塩水氷ではなく、芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状の塩水氷を製造することができる。
【0024】また、本発明により作られた塩水氷は、その芯部と外部との塩分の濃度差が少なく、例えば、塩分濃度を海水の塩濃度に近い状態に調節した塩水氷は、融け出しても海水に近い状態を維持することができるので、海産性の魚介類を高鮮度に維持することができる。
【0025】更に、塩水氷の塩分濃度,使用環境にもよるが、本発明により作られた塩水氷を使用すればマイナス4℃からマイナス6℃の状態を長時間維持することができ、通常の淡水氷よりもその使用量は1/3から1/2ですむという効果もある。 なお、この塩水氷の温度が低いのは、氷点温度が通常の淡水氷よりも低いことや塩水氷の中から酸素が外に出ていくとき潜熱を奪うために氷の表面温度が低下するためであると思われる。
【0026】更には、本発明により作られた塩水氷は、鯛やヒラメなどの色物,鯖,鰺,鰯,イカ等などに直接接触しても氷やけを起こすことがないので、保存に際し特別な氷やけによる変色防止策を講じる必要もない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明塩水氷製造方法を実施した装置のブロック図。
【図2】 図1により説明した本発明塩水氷製造装置の一例の側面図。
【符号の説明】
1 水貯留槽
1A 水貯留部
1B 塩水濃度調節槽
2 内部仕切壁
3 給水バルブ
3A 水位調節フロ-ト
4,14 排水バルブ
5,13 水位レベル計
6 オゾン混合器
7 オゾン発生器
8 ポンプ
9 セラミック充填器
10,11 バルブ
12 流量計
15 攪拌用循環ポンプ
16 攪拌槽
17 攪拌翼用モ-タ
18 フロ-トスイッチ
19 定量ポンプ
20 製氷機
21 ポンプ
22 貯氷庫
23 冷凍庫
A 塩水の製造供給装置
B 製氷機
C 貯氷庫
D 貯氷用冷凍機
E 製氷用冷凍機」
(ア-4)「【図1】
」
(ア-5)「【図2】
」
(イ)引用例2の記載
(イ-1)「【請求項1】 生鮮食品の生産/収穫/漁獲より出荷までの出荷段階と、出荷拠点における貯蔵段階と、出荷拠点より消費地までの輸送、配送の流通段階の少なくとも一の過程を、氷蔵状態に置く生鮮食品の鮮度保持方法において、
少なくとも海水以下の略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成して氷蔵状態の維持を図ったことを特徴とする生鮮食品の鮮度保持方法。
・・・・・・
【請求項5】 生鮮食品の鮮度保持に用いる為に、少なくとも海水以下の略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成してなる塩含有水の製氷方法において、
ろ過殺菌をした海水等の原水を塩分調整して約1.0~1.5%前後の塩分濃度の塩含有水となし、該塩含有水に急速冷却を行なうことにより前記塩分濃度に対応する-5~-1℃の氷点温度を持つスラリー状塩含有氷を生成したことを特徴とする塩含有氷の製造方法。」
(イ-2)「【0022】次に、前記請求項1記載の塩含有氷の製氷方法は、生鮮食品の鮮度保持に用いる為に、少なくとも海水以下の略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成してなる塩含有水の製氷方法において、ろ過殺菌をした海水等の原水を塩分調整して約1.0~1.5%前後の塩分濃度の塩含有水となし、該塩含有水に急速冷却を行なうことにより前記塩分濃度に対応する-5~-1℃の氷点温度を持つスラリー状塩含有氷を生成したことを特徴とする。
【0023】前記請求項5記載の発明は、塩分濃度が海水以下の略0.5~略2.5%の塩含有水の凍結によるスラリー状塩含有氷の製造方法に係わるもので、緩慢凍結による凍結濃縮を避け急速冷却により塩含有氷を生成させたもので、且つスラリー状塩含有氷の生成により、下記メリットが期待出来る。則ち、
a、固液混相体を形成するため、均一温度分布が得られ、全魚体を均一且つ迅速冷却を可能にしている。
b、氷結晶は小さい固液混相体で形成されるため、魚体の損傷や凍結がなされ難く、且つ搬送は容易である。
c、急激な温度変化、例えば漁獲の増減に応じて氷の融解が緩衝となり、急激な温度変化や温度上昇を抑えることができる。
【0024】なお、前記原水に塩分調整して得られた塩含有水の塩分濃度の上限は、魚体の場合好ましくは1.5%塩分濃度が最適と考えられ、該塩分濃度のスラリー状氷を使用して計測された氷中の魚体温度は-0.8~-2.2℃を示し、文献値として知られている魚体の凍結温度に整合している。また、本願発明者等が行なったマイワシの浸漬試験によれば、蛋白質等の流出の点からも塩分濃度は1.5%未満に保持する必要性があり、また、その下限は目の白濁化や水の吸収による重量増加の点より魚体と等張の1%塩分濃度が必要であることが示されている。」
(イ-3)「【0034】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。図1は、鮮魚の保管に真水プレート氷、及び本発明の塩含有氷を使用した場合の各魚体温度の経時変化を示す図である。図2は、保管する塩含有水の塩分濃度の違いによる鰯の鮮度(K値)の経時変化を示す図である。図3は、本発明の生鮮食品の鮮度保持システムの一実施例の概略の構成を示す図である。
・・・・・・・
【0035】図1に示すように、魚体温度は、
真水プレート氷使用の場合 ; -0.1~-1.9℃
1.5%塩分濃度のスラリー氷使用の場合;-0.8~-2.2℃
3.0%塩分濃度のスラリー氷使用の場合;-1.8~-3.3℃
1.5%塩分濃度のプレート氷使用の場合;-2.6~-4.5℃(不図示)
3.0%塩分濃度のプレート氷使用の場合;-3.5~-5.4℃
の各魚体温度帯で変化する状況が示されている。なお、1.5%、3.0%塩分濃度のプレート氷の場合は魚体の凍結が認められ、その結果より、文献値として知られている魚体の凍結温度が-2.2℃前後にあることを示している。
【0036】図2には、塩分濃度の異なる塩含有水中に浸漬保管した鰯の鮮度(K値)の経時変化を示してあるが、図に見るように、塩分濃度の上限値は1.5%未満が必要で、また、下限は魚体と等張の1.0%の塩分濃度が必要で、それらの範囲を持つ塩含有水ないし塩分調整した海水による保管が必要になる。なお、最も好ましい保管は、浸透圧の影響を受ける例えば眼等の部位は、1.0%前後の塩含有水または該含有水に触れない状態で保管し、魚体温度を低温に保持するためには、魚体の凍結温度の手前の凍結しない1.5%前後の塩分濃度を持つ塩含有氷ないし希釈海水氷による保管が適切である。
【0037】前記図1、図2の結果から見ても、生鮮食品の鮮魚の鮮度保持には、1.5%~1.0%前後の塩分濃度を持つスラリー状氷による氷蔵が最適であることを示している。
【0038】図3に示す、本発明の生鮮食品の鮮度保持システムは、海水供給部10と、塩分濃度調整部12と、淡水添加部13と、製氷機14と、貯氷庫15と、生鮮食品収納部16とより構成する。前記海水供給部10は、海水取水部10aと、ろ過部10bと、殺菌部10cとよりなり、例えば前記海水取水部10aでは海面下約200m以下の深さHの光の殆ど届かない深層冷海水(約-2~0℃)または湧昇流により形成された水深域の深層冷海水を汲み揚げ、清浄な海水の確保により衛生面での安全性の確保と製氷効率の向上を図っている。そして汲み揚げた海水はフィルタによるろ過部10bと、殺菌部10cを経由して、濃度約3.5%の海水氷用原水11aを得る。
【0039】前記塩分濃度調整部12は、前記濃度約3.5%の海水氷用原水11aに適量の淡水13aを添加して所用の濃度(例えば約0.5%~2.5%)の塩含有水12aを得るようにしたもので、前記淡水13aは、ろ過部13b、殺菌部13cよりなる淡水添加部13により、適量の淡水を前記塩分濃度調整部12へ導入されるようにしてある。
【0040】前記製氷機14は、前記塩含有水12aを冷凍サイクルを介して急速冷凍させて塩含有氷のスラリー状14aを生成するようにしたもので、例えば密閉アンモニア冷凍機によりブライン(エチレングリコール)冷却器を作動させ、得られた低温ブラインによりプレート式熱交換器を介して伝熱面上に吹き付けた前記塩含有水12aを急速冷却をさせ、フレーク状海水氷を生成させ、塩含有氷のスラリー状氷14aを得るようにしてある。なお、塩含有水より海水氷を製氷する別の実施例としては、過冷却塩含有水の過冷却解除による粒状海水氷の生成方法もあるが、いずれの場合も伝熱面を介しての塩含有水への熱伝達は高速熱流束による急速冷却により行なうようにしてある。
【0041】前記貯氷庫15では、前記製氷機14で生成された塩含有氷のスラリー状氷14aを貯氷をし、生鮮食品の収穫/生産/漁獲後の出荷段階と、出荷段階での貯蔵段階と、出荷拠点より消費地への輸送、配送の流通段階の少なくとも一過程におけるチルド冷蔵に使用させるため、当該食品の収納部16へ適宜搬送するようにしたものである。
【0042】なお、前記塩分濃度調整部12での塩分濃度の調整は、海水氷用原水濃度(約3.5%)よりは小さく調整し、得られた海水氷の氷結点が当該氷蔵食品のチルド温度帯近くの値を得て氷結晶の析出が全く無いチルド冷蔵を可能にするとともに、淡水氷に比較し浸透圧の影響を抑制して、食品に応じた高品質の保持ができる最適の塩分濃度を設定するようにしてある。
【0043】また、前記チルド冷蔵に塩含有氷のスラリー状氷14aの使用を可能にしたため、 固液混相体を形成するため、均一温度分布が得られ、チルド冷蔵を受ける当該食品の全面にわたり均一且つ迅速冷却を可能にし、スラリー状氷の結晶は小さく固液混相体で形成されるため、食品が傷つきにくく、且つ搬送は容易である。
・・・・・・・
【0046】
【発明の効果】前記構成により、生鮮食品の生産、収穫、漁獲より流通段階までの間の少なくとも一の過程にて行なう氷蔵において、海水以下の略0.5~略2.5%の塩分濃度を持つスラリー状氷を使用したため、浸透圧の影響を抑制するとともに、好適なチルド冷蔵ができ、早期、急速冷却が可能となり、生鮮食品の鮮度保持をより効率的に行なうことができる。また、セミクローズド式の生鮮保持システムにより塩含有氷の冷熱の有効利用を可能とする塩含有氷の循環利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 魚の保管に真水プレート氷、及び本発明の塩含有氷を使用した場合の各魚体温度の経時変化を示す図である。
【図2】 保管する塩含有水の塩分濃度の違いによる鰯の鮮度(K値)の経時変化を示す図である。
【図3】 本発明の生鮮食品の鮮度保持システムの一実施例の概略の構成を示す図である。」
(イ-4)「【図1】
」
(イ-5)「【図2】
」
(イ-6)「【図3】
」
(ウ)引用例3の記載
(ウ-1)「【請求項1】
運搬中の活魚の冷却に使用される海水氷であって、運搬される活魚の冬眠時の呼吸量に応じた量の酸素気泡を含有し、シャーベット状に製氷された後に海水と撹拌混合されてスラリー状を呈することを特徴とする海水氷。」(特許請求の範囲)
(ウ-2)「【0020】
図1は、この発明の実施形態に係る海水氷の販売装置10のブロック図である。販売装置10は、海水貯留槽1、気泡発生装置2、製氷機3、海水氷貯留槽4、排出装置5、操作装置6、殺菌装置7を備えている。海水貯留槽1は、海から採取した海水を貯留する。気泡発生装置2は、この発明の気泡発生部であり、酸素を発生して海水貯留槽1内に貯留された海水に導入する。
【0021】
殺菌装置7は、海水貯留槽1からポンプ11を介して製氷機3に供給される海水を、一例として紫外線の照射によって殺菌する。製氷機3は、この発明の製氷部であり、一例として海水を冷却したシリンダの内面に薄膜状に凍らせた後に掻き落とし、シャーベット状の海水氷を作る。製氷機3は、他の方法でシャーベット状の海水氷を作るものであってもよい。」
(ウ-3)「【0037】
販売装置10が販売する海水氷は、活魚の運搬時の冷却に好適である。販売装置10が販売する海水氷は、スラリー状であるため、活魚に直接接触しても活魚の表面に損傷を与えることがない。漁船上で捕獲した活魚に直ちに海水氷を接触させ、冬眠状態にすることができる。活魚は、冬眠状態となるときに旨味成分を分泌することが知られている。また、冬眠状態の活魚は、運搬時に作用する揺れや収納密度によっても過度のストレスを受けることがなく、活魚の旨味が運搬中に損なわれることがない。
【0038】
また、販売装置10が販売する海水氷は、適度の酸素気泡を含有しているため、活魚の運搬中に環境温度によって溶解する際に冬眠状態の活魚の呼吸量に応じた量の酸素を放出する。運搬中の活魚には、適量の酸素が過不足なく供給され続ける。これによっても、運搬中に活魚の旨味成分が確実に保たれる。」
(ウ-4)「【図1】
」
(エ)引用例4の記載
(エ-1)「2.特許請求の範囲
(1)被冷凍体又は被冷却体が浸漬される凍結点まで冷却した塩水中に塩水氷を介在させるようにしたことを特徴とする凍結又は冷却方法。」(1頁左欄4~7行)
(エ-2)「次に本発明の実施例について説明する。
比重1.17(290g/1kg・水,22.4%)、ボーメ度21.1の食塩ブラインを-20℃に冷却し、更に冷却してその一部でブライン重量の20%の塩水氷が生成されるようにし、この塩水氷を含む食塩ブライン中にブラインと同容量の魚獲直後の魚(かつお)を投入し、凍結槽に冷凍器を連結してブライン温度を常時-20℃に保ち魚体を凍結させる。・・・・・・蒸発温度の低温化をさけ、冷凍機の熱仕事量を増大させるには、予冷ブライン中に塩水氷を生成させることである。これには、凍結槽内の予冷ブラインをポンプで汲み出し、このブラインを塩水氷製造機を通してブライン中に塩水氷を生成させこれを再び凍結槽に戻すようなブラインの循環路を形成することである。例えば第13図に示すような装置を用いる。図において(1)は魚倉、(2)はブライン又は海水ポンプ、(3)ブライン水氷又は海水水氷の製氷機であり、ブライン又は海水が導入されるドラム(4)とこのドラム(4)内に懸架された氷削取用の回転板(5)と、ドラム(4)の外周を回繞した冷却器(6)とより成り、冷却器(6)には冷媒導入管(7)と冷媒導出管(8)が接続されている。又(9)は回転板(5)の駆動軸、(10)は駆動輪である。更に(11)はブライン又は海水の冷却器でありブライン又は海水の冷却管(12)が挿入され、冷媒導入管(13)と冷媒導出管(14)が連通されている。
次にこの装置を用いた冷却方法を説明する。
(a) 先づ魚倉(1)内の塩水ブライン又は海水をポンプ(2)で介してブライン又海水の冷却器(11)を通し、再び魚倉(1)に戻る循環路とし、ブライン又は海水を氷結点温度近くまで冷却する。
(b) 次に魚倉(1)、ポンプ(2)、製氷機(3)、魚倉(1)の循環路に切換えてブライン又は海水の一部を氷にする。製氷機(3)内ではドラム(4)内に導入されたブライン又は海水が、外周の冷却器(6)で冷却され外周面より結氷し、この結氷が内接した回転板(4)によって削り取られこの氷がブライン又は海水に混つてみぞれ状氷となつて魚倉(1)に供給される。尚(a)工程のブラインの予冷なしに(b)工程より運転を開始することもある。
(c) 次に魚倉(1)に魚を投入する。
(d)-1 鮮魚冷却保冷の場合は、魚倉(1)、ポンプ(2)、製氷機(3)、魚倉(1)の循環路で運転して海水を循環させ魚倉(1)内の海水中に氷が残つている状態を保つ。
(d)-2 魚体凍結の場合は、魚倉(1)内に氷を保つた状態で魚倉(1)、ポンプ(2)、製氷機(3)、魚倉(1)とブラインを循環させ魚倉(1)内の氷が0となり、又魚体の表面凍結後ブライン温度が上昇したときは、循環路を魚倉(1)、ポンプ(2)、冷却器(11)、魚倉(1)と切換えて運転する場合もある。(本発明は凍結初期に必要な多大な冷熱容量を塩水氷として蓄熱することを目的とするので表面凍結後氷分を使い果した後はブライン温度の上昇も起り得るのである。)
又漁船の水氷漬け式鮮魚の冷却保冷には、主として陸上基地から氷を準備搭載して用いているが漁場の遠隔化によって準備氷量では不足してきている。又この氷を般内冷凍装置を用いて固形の海水氷を作ると冷凍機の所要蒸発温の低温化に伴い、単位製氷能力当りの冷凍装置が大型化する。これを海水水氷製造にして、海水中で海水氷を生成させて蓄熱することにより単位熱容量蓄熱当りの冷凍装置を大巾に軽減することが出来る。」(2頁右下欄8行~4頁左上欄12行)
(エ-3)「更に冷凍能力の異る種々の冷凍機を用いて実施例の方法を実施し併せて塩水氷0の場合及び冷凍機なしの場合実施し比較対照すると第1表の如くである。
A;塩水ブライン(比重1.17,ボーメ度21.1)中塩水氷の重量%
B;魚体の全冷却負荷を冷凍機の能力で割つた値を時間で表わしたもの。”0”は冷凍機なしの場合である。
C;凍結開始後魚肉の表面の凍結が始まるまでの時間。
D;上記Cの時点における塩水ブラインの温度。
E;魚肉表面からの経時凍結深さとその時点でのブライン温度。」(5頁右上欄12行~同頁右下欄10行)
(エ-4)「
」(9頁)
(オ)引用例5の記載
(オ-1)「【請求項4】
冷媒が流れる冷却部と接する蓄熱槽内の水に炭素繊維を混合しておき、その冷媒によって、炭素繊維を混合した水を氷らせることを特徴とする製氷方法。」(特許請求の範囲)
(オ-2)「【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、冷媒が流れる冷却部と、冷却部と接する蓄熱槽と、蓄熱槽内にあって、冷媒により冷やされて氷となる水とを有し、水の中に炭素繊維を含む製氷装置としている。このように、炭素繊維を混合した水に、冷媒を流す冷却部を接すると、炭素繊維の高熱伝導性が効果を発揮して、製氷効率が著しく向上する。したがって、冷凍機の運転時間の短縮によりランニングコストの低減を図ることができる。」
(オ-3)「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製氷速度を向上させ、氷蓄熱を利用した冷房システムの効率を向上させることができる。」
イ 各引用例に記載された発明
(ア)引用例1に記載された発明
引用例1には、上記(ア-1)より、海産性の魚介類をその鮮度を落とさずに低温状態で保存するために使用される塩水氷を製造する方法、上記(ア-2)より、塩水氷は、濃度25%の濃塩水(少なくともこの25%を中心に±7%の濃度範囲)を作り、水と食塩が分離しないように攪拌翼17aにより絶えず攪拌するようにし、上記攪拌槽16において作った濃度25%の濃塩水を定量ポンプ19により貯留槽1の塩水濃度調節槽1Bに所定量送った後、この塩水濃度調節槽1B内にある高酸素含有量の水と攪拌用循環ポンプ15により攪拌混合して濃度2~3.5%になるように調節された塩水がポンプ20により製氷機21に送られ、フレ-ク状乃至は粒状の塩水氷にされること、上記(ア-3)より、得られた塩水氷37はフレ-ク状乃至粒状であること、当該塩水氷が芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状の塩水氷であること、その芯部と外部との塩分の濃度差が少なく、海産性の魚介類を高鮮度に維持することができること、当該塩水氷を使用すればマイナス4℃からマイナス6℃の状態を長時間維持することができること、鯛やヒラメなどの色物,鯖,鰺,鰯,イカ等などに直接接触しても氷やけを起こすことがなく、保存に際し特別な氷やけによる変色防止策を講じる必要もないことなどが、それぞれ記載されている。
そうすると、これらの記載から、引用例1には、「濃度25%の濃塩水(少なくともこの25%を中心に±7%の濃度範囲)を作り、塩水濃度調節槽内で高酸素含有量の水と攪拌混合して濃度2~3.5%になるように調節された塩水を製氷機でフレ-ク状乃至は粒状にした塩水氷であって、当該塩水氷は、芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状であり、その芯部と外部との塩分の濃度差が少なく、マイナス4℃からマイナス6℃の状態を長時間維持することができること、保存に際し特別な氷やけによる変色防止策を講じることなく、海産性の魚介類を高鮮度に維持することができる塩水氷」の発明(以下、「引用例1発明1」という。)が記載されていると認められる。
また、「濃度25%の濃塩水(少なくともこの25%を中心に±7%の濃度範囲)を作り、塩水濃度調節槽内で高酸素含有量の水と攪拌混合して濃度2~3.5%になるように調節された塩水を製氷機でフレ-ク状乃至は粒状にした塩水氷であって、当該塩水氷は、芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状であり、その芯部と外部との塩分の濃度差が少なく、マイナス4℃からマイナス6℃の状態を長時間維持することができること、保存に際し特別な氷やけによる変色防止策を講じることなく、海産性の魚介類を高鮮度に維持することができる塩水氷を用いて、海産性の魚介類を低温状態で保存するための方法」の発明(以下、「引用例1発明2」という。)が記載されているとも認められる。
(イ)引用例2に記載された発明
引用例2には、上記(イ-1)より、生鮮食品の生産/収穫/漁獲より出荷までの出荷段階と、出荷拠点における貯蔵段階と、出荷拠点より消費地までの輸送、配送の流通段階の少なくとも一の過程を、氷蔵状態に置く生鮮食品の鮮度保持方法において、少なくとも海水以下の略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成して氷蔵状態の維持を図ったことを特徴とする生鮮食品の鮮度保持方法、及び、生鮮食品の鮮度保持に用いる為に、少なくとも海水以下の略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成してなる塩含有水の製氷方法において、ろ過殺菌をした海水等の原水を塩分調整して約1.0~1.5%前後の塩分濃度の塩含有水となし、該塩含有水に急速冷却を行なうことにより前記塩分濃度に対応する-5~-1℃の氷点温度を持つスラリー状塩含有氷を生成したことを特徴とする塩含有氷の製造方法、上記(イ-2)より、原水に塩分調整して得られた塩含有水の塩分濃度の上限は、魚体の場合好ましくは1.5%塩分濃度が最適と考えられ、該塩分濃度のスラリー状氷を使用して計測された氷中の魚体温度は-0.8~-2.2℃を示し、文献値として知られている魚体の凍結温度に整合しており、マイワシの浸漬試験によれば、蛋白質等の流出の点からも塩分濃度は1.5%未満に保持する必要性があり、また、その下限は目の白濁化や水の吸収による重量増加の点より魚体と等張の1%塩分濃度が必要であること、上記(イ-3)より、塩分濃度の上限値は1.5%未満が必要で、また、下限は魚体と等張の1.0%の塩分濃度が必要で、それらの範囲を持つ塩含有水ないし塩分調整した海水による保管が必要になること、塩分濃度調整は、前記濃度約3.5%の海水氷用原水11aに適量の淡水13aを添加して所用の濃度(例えば約0.5%~2.5%)の塩含有水12aを得るようにしたものであること、前記塩含有水12aを急速冷却させ、フレーク状海水氷を生成させ、塩含有氷のスラリー状氷14aを得るようにしてあること、などが、それぞれ記載されている。
そうすると、これらの記載から、引用例2には、「生鮮食品の鮮度保持に用いる為に、少なくとも海水以下の略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成してなる塩含有水において、ろ過殺菌をした海水等の原水を塩分調整して約1.0~1.5%前後の塩分濃度の塩含有水となし、該塩含有水に急速冷却を行なうことにより前記塩分濃度に対応する-5~-1℃の氷点温度を持つスラリー状塩含有氷を生成したことを特徴とする塩含有氷」の発明(以下、「引用例2発明1」という。)が記載されていると認められる。
また、「生鮮食品の生産/収穫/漁獲より出荷までの出荷段階と、出荷拠点における貯蔵段階と、出荷拠点より消費地までの輸送、配送の流通段階の少なくとも一の過程を、氷蔵状態に置く生鮮食品の鮮度保持方法において、 少なくとも海水以下の略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成して氷蔵状態の維持を図ったことを特徴とする生鮮食品の鮮度保持方法」の発明(以下、「引用例2発明2」という。)が記載されているとも認められる。
(ウ)引用例3に記載された発明
引用例3には、上記(ウ-1)より、運搬中の活魚の冷却に使用される海水氷であって、運搬される活魚の冬眠時の呼吸量に応じた量の酸素気泡を含有し、シャーベット状に製氷された後に海水と撹拌混合されてスラリー状を呈する海水氷、上記(ウ-2)より、海水氷が図1の製氷機3で、一例として海水を冷却したシリンダの内面に薄膜状に凍らせた後に掻き落とし、シャーベット状の海水氷を作ること、及び、他の方法でシャーベット状の海水氷を作るものであってもよいこと、上記(ウ-3)より、当該海水氷は、活魚の運搬時の冷却に好適であり、スラリー状であるため、活魚に直接接触しても活魚の表面に損傷を与えることがないこと、漁船上で捕獲した活魚に直ちに海水氷を接触させ、冬眠状態にすることができ、冬眠状態の活魚は、運搬時に作用する揺れや収納密度によっても過度のストレスを受けることがなく、活魚の旨味が運搬中に損なわれることがないこと、などが記載されている。
そうすると、これらの記載から、引用例3には、「運搬中の活魚の冷却に使用される海水氷であって、運搬される活魚の冬眠時の呼吸量に応じた量の酸素気泡を含有し、シャーベット状に製氷された後に海水と撹拌混合されてスラリー状を呈する海水氷」の発明(以下、「引用例3発明1」という。)が記載されていると認められる。
また、「運搬中の活魚の冷却に使用される海水氷であって、運搬される活魚の冬眠時の呼吸量に応じた量の酸素気泡を含有し、海水をシャーベット状に製氷した後に海水と撹拌混合されてスラリー状を呈する海水氷を用いて、活魚を冬眠状態で運搬するための方法」の発明(以下、「引用例3発明2」という。)が記載されているとも認められる。
(エ)引用例4に記載された発明
引用例4には、上記(エ-1)より、被冷凍体又は被冷却体が浸漬される凍結点まで冷却した塩水中に塩水氷を介在させるようにしたことを特徴とする凍結又は冷却方法、上記(エ-2)より、比重1.17(290g/1kg・水,22.4%)、ボーメ度21.1の食塩ブラインを-20℃に冷却し、その一部でブライン重量の20%の塩水氷が生成されるようにし、この塩水氷を含む食塩ブライン中にブラインと同容量の魚獲直後の魚(かつお)を投入し、凍結槽に冷凍器を連結してブライン温度を常時-20℃に保ち魚体を凍結させること、第13図に示すような装置を用い、
(a) 先づ魚倉(1)内の塩水ブライン又は海水をポンプ(2)で介してブライン又海水の冷却器(11)を通し、再び魚倉(1)に戻る循環路とし、ブライン又は海水を氷結点温度近くまで冷却し、
(b) 次に魚倉(1)、ポンプ(2)、製氷機(3)、魚倉(1)の循環路に切換えてブライン又は海水の一部を氷にする。製氷機(3)内ではドラム(4)内に導入されたブライン又は海水が、外周の冷却器(6)で冷却され外周面より結氷し、この結氷が内接した回転板(4)によって削り取られこの氷がブライン又は海水に混つてみぞれ状氷となつて魚倉(1)に供給される。尚(a)工程のブラインの予冷なしに(b)工程より運転を開始することもある。
(c) 次に魚倉(1)に魚を投入する。
(d)-1 鮮魚冷却保冷の場合は、魚倉(1)、ポンプ(2)、製氷機(3)、魚倉(1)の循環路で運転して海水を循環させ魚倉(1)内の海水中に氷が残つている状態を保つこと、上記(エ-3)より、第1表のNo.1~4、No.13~18は比較例で、No.5~8が塩水ブライン中の塩水氷の重量%が20重量%の場合で、No.9~12が塩水ブライン中の塩水氷の重量%が50重量%の場合で実施例の方法を実施したことが、それぞれ記載されている。
そうすると、これらの記載から、引用例4には、「被冷凍体又は被冷却体が浸漬される凍結点まで冷却した塩水中に塩水氷を介在させるようにしたことを特徴とする凍結又は冷却方法において、比重1.17(290g/1kg・水,22.4%)、ボーメ度21.1の食塩ブラインを-20℃に冷却し、その一部でブライン重量の20%、及び50%の塩水氷が生成されるようにし、この塩水氷を含む食塩ブライン中にブラインと同容量の魚獲直後の魚(かつお)を投入し、凍結槽に冷凍器を連結してブライン温度を常時-20℃に保ち魚体を凍結させる方法」の発明(以下、「引用例4発明1」という。)が記載されていると認められる。
また、引用例4には、「比重1.17(290g/1kg・水,22.4%)、ボーメ度21.1の食塩ブラインを-20℃に冷却し、その一部でブライン重量の20%、及び50%の塩水氷が生成されるようにした塩水氷を含む食塩ブライン」の発明(以下、「引用例4発明2」という。)が記載されていると認められる。
ウ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と引用例1発明2との対比・判断
(a)本件発明1と引用例1発明2との対比
引用例1発明2の「海産性の魚介類を低温状態で保存するための方法」は、海産性の魚介類を低温状態にして、魚介類の冷蔵物を製造し、その冷蔵物を保存するための方法を含むものであるから、本件発明1の「動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法」及び「前記動植物又はその部分を冷蔵する工程」に相当する。
引用例1発明2の「濃度25%の濃塩水(少なくともこの25%を中心に±7%の濃度範囲)を作り、塩水濃度調節槽内で高酸素含有量の水と攪拌混合して濃度2~3.5%になるように調節された塩水を製氷機でフレ-ク状乃至は粒状にした塩水氷であって、当該塩水氷は、芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状であり、その芯部と外部との塩分の濃度差が少なく、マイナス4℃からマイナス6℃の状態を長時間維持することができること、保存に際し特別な氷やけによる変色防止策を講じることなく、海産性の魚介類を高鮮度に維持することができる塩水氷」は、塩を含有する水溶液である塩水を凍らせた氷であることから、本件発明1の「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用例1発明2とは、「動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法であって、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を用いて、前記動植物又はその部分を冷蔵する工程を有する方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1-1
溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷について、本件発明1は、「以下の(a)~(c)の条件を満たす」として「(a)融解完了時の温度が0℃未満である (b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である (c)前記氷の温度が前記動植物又はその部分の凍結点~前記凍結点+0.5℃である」ことを特定しているのに対して、引用例1発明2では、「(a)~(c)の条件」を満たすことについて特定していない点。
(b)判断
相違点1-1について検討する。
事案に鑑み、上記(a)~(c)の条件のうち、(b)の条件について検討する。
引用例1発明2の塩水氷は、芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状であり、その芯部と外部との塩分の濃度差が少ないものであるから、(b)の条件を満たす蓋然性が高い可能性があると考えられる。
しかしながら、特許権者は、令和2年10月13日付け意見書の第4頁~第7頁において、引用例1に記載された方法に基づいて製造された氷が、本件発明1の(b)の条件を満たさないことを確認するために、本件発明と製造条件が共通(使用した水溶液が塩分濃度10%の塩水、氷の製造方法として本件特許図面の図1、2等に記載された装置を用い、パイプ13からの塩水の噴射速度(噴射口噴射圧)を0.005MPa)で、ブレード軸回転速度のみが異なる(本件発明に係る氷は4rpmであるのに対し、引用例1に係る氷は6rpm)製造条件で氷を製造した場合(以下、「比較実験」という。)、融解過程で発生する水溶液の溶質濃度の経時変化について、その水溶液の溶質濃度の変化率が、本件発明1に係る氷5.00%に対し、引用例1に係る氷52.00%であることを表で提示し、引用例1の氷は、上記(b)の条件を満たさないことを示した。
なお、特許権者が示した引用例1に係る氷を製造する際のブレード軸回転速度は、引用例1の上記(ア-3)の【0021】の「なお、回転軸34の回転速度はおよそ10秒に1回転する程度である」(6rpmに相当)に基づくものである。
上記の比較実験は、引用例1に記載された塩水の塩分濃度、ブレード軸回転速度以外の具体的に記載されていない製造条件を、本件発明1と同じ条件としたものであり、引用例1発明2における塩水の塩分濃度2~3.5%とは「塩分濃度10%」である点で一致してはいないが、少なくとも、本件発明1に係る氷と引用例1に係る氷を同じ「塩分濃度10%」の塩水を用いた場合、ブレード軸回転速度の差、すなわち、引用例1に記載された6rpm相当のブレード軸回転速度では、本件発明1の(b)の条件を満たさないことが示されたものとなっている。
また、引用例1には、融解過程で発生する水溶液の溶質濃度の経時変化に関する具体的な濃度変化の範囲について何ら記載がない。
そうすると、前記した引用例1発明2の塩水氷が、芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状であり、その芯部と外部との塩分の濃度差が少ないものであるから、当該(b)の条件を満たす蓋然性が高い可能性があるとした点は、この特許権者の比較実験から、必ずしも蓋然性が高い可能性があるとまではいえないといわざるを得ない。
したがって、この相違点1-1の(b)の条件の点は、上記「比較実験」の結果から、実質的な相違点であり、相違点1-1は、(a)及び(c)の条件について検討するまでもなく、実質的な相違点を有しているといえる。
上記のとおりであるから、本件発明1は、引用例1に記載された発明であるとはいえない。
また、上記のとおり、引用例1には、融解過程で発生する水溶液の溶質濃度の経時変化に関する具体的な濃度変化の範囲についての記載が何らなく、少なくとも本件発明1の(b)の条件の範囲に特定することは困難であり、本件発明1は、引用例1の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(c)特許異議申立人の令和2年11月20日付け意見書について
特許異議申立人は、上記意見書において、上記比較実験は作為が認められるとして、水溶液の溶質濃度の変化率、塩水の噴射圧及びブレード軸の回転速度、竪型ドラムの内周面の温度、塩分濃度について意見を延べ、特許権者の主張は根拠がない旨主張している。
しかしながら、特許異議申立人の主張は、上記比較実験の作為について立証するとしているが、いずれも、作為といえる客観的な証拠等の提示はなく、少なくとも比較実験の条件設定において、その結果を否定できるものでもないから、上記特許異議申立人の主張は採用することができない。
b 本件発明1と引用例2発明2との対比・判断
(a)本件発明1と引用例2発明2との対比
引用例2発明2の「生鮮食品の生産/収穫/漁獲より出荷までの出荷段階と、出荷拠点における貯蔵段階と、出荷拠点より消費地までの輸送、配送の流通段階の少なくとも一の過程を、氷蔵状態に置く生鮮食品の鮮度保持方法」は、生鮮食品の出荷段階と、貯蔵段階と、流通段階の少なくとも一の過程で、氷蔵状態、すなわち、魚等の生鮮食品を氷で冷蔵することを含むものであるから、本件発明1の「動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法」及び「前記動植物又はその部分を冷蔵する工程」に相当する。
引用例2発明2の「少なくとも海水以下の略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成して氷蔵状態の維持を図ったこと」は、0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩を含有する水溶液である塩水を凍らせた氷であることから、本件発明1の「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用例2発明2とは、「動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法であって、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を用いて、前記動植物又はその部分を冷蔵する工程を有する方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点2-1
溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷について、本件発明1は、「以下の(a)~(c)の条件を満たす」として「(a)融解完了時の温度が0℃未満である (b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である (c)前記氷の温度が前記動植物又はその部分の凍結点~前記凍結点+0.5℃である」ことを特定しているのに対して、引用例2発明2では、「(a)~(c)の条件」を満たすことについて特定していない点。
(b)判断
相違点2-1について検討する。
事案に鑑み、上記(a)~(c)の条件のうち、(b)の条件について検討する。
引用例2発明2の塩水氷は、略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成したものであることから、氷蔵状態において、塩含有氷と外部との塩分の濃度差が少ないことが示されており、(b)の条件を満たす蓋然性が高い可能性があると考えられる。
しかしながら、特許権者は、令和2年10月13日付け意見書の第4頁~第7頁において上記a(b)で指摘した点を踏まえ、さらに、同意見書第7~第8頁において、例え氷の製造原理が本件発明と同様であったとしても、その製造条件が相違すると得られる氷が異なる物性のものとなることから、引用例2に記載された方法で得られた海水氷が本件発明1の(b)の条件を満たさない旨も述べている。
確かに、引用例2には、海水氷の製造について、上記(イー3)の【0040】に「密閉アンモニア冷凍機によりブライン(エチレングリコール)冷却器を作動させ、得られた低温ブラインによりプレート式熱交換器を介して伝熱面上に吹き付けた前記塩含有水12aを急速冷却をさせ、フレーク状海水氷を生成させ、塩含有氷のスラリー状氷14aを得るようにしてある」との記載はあるが、海水氷の製造のための具体的な製造条件は何ら開示されていないことは、特許権者が指摘するとおりである。
そうすると、前記した引用例2発明2の海水氷についても、本件発明1の(b)の条件を満たす蓋然性が高い可能性があるとした点は、引用例1発明2の場合と同様に、必ずしも蓋然性が高い可能性があるとまではいえないといわざるを得ない。
したがって、この相違点2-1の(b)の条件の点は、相違点1-1の場合と同様に、実質的な相違点であり、相違点2-1は、(a)及び(c)の条件について検討するまでもなく、実質的な相違点を有しているといえる。
上記のとおりであるから、本件発明1は、引用例2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1は、引用例1と同様に、引用例2の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
c 本件発明1と引用例3発明2との対比・判断
(a)本件発明1と引用例3発明2との対比
引用例3発明2の「活魚を冬眠状態で運搬するための方法」は、活魚を塩水氷で冷却することにより冬眠状態にして、活魚の冷蔵物を製造し、その冷蔵物を運搬するための方法を含むものであるから、本件発明1の「動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法」及び「前記動植物又はその部分を冷蔵する工程」に相当する。
引用例3発明2の「海水をシャーベット状に製氷した後に海水と撹拌混合されてスラリー状を呈する海水氷」は、塩を含有する水溶液である塩水を凍らせた氷であることから、本件発明1の「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用例3発明2とは、「動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法であって、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を用いて、前記動植物又はその部分を冷蔵する工程を有する方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点3-1
溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷について、本件発明1は、「以下の(a)~(c)の条件を満たす」として「(a)融解完了時の温度が0℃未満である (b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である (c)前記氷の温度が前記動植物又はその部分の凍結点~前記凍結点+0.5℃である」ことを特定しているのに対して、引用例3発明2では、「(a)~(c)の条件」を満たすことについて特定していない点。
(b)判断
事案に鑑み、上記(a)~(c)の条件のうち、(b)の条件について検討する。
引用例3発明2の塩水氷は、海水をシャーベット状に製氷した後、海水と撹拌混合されてスラリー状の海水としており、海水氷と海水部との塩分の濃度差が少ないと認められるから、(b)の条件を満たす蓋然性が高い可能性があると考えられる。
しかしながら、特許権者は、令和2年10月13日付け意見書の第4頁~第7頁において上記a(b)で指摘した点を踏まえ、さらに、同意見書第7~第8頁において、例え氷の製造原理が本件発明と同様であったとしても、その製造条件が相違すると得られる氷が異なる物性のものとなることから、引用例3に記載された方法で得られた海水氷が本件発明1の(b)の条件を満たさない旨も述べている。
確かに、引用例3には、海水氷の製造について、上記(ウ-2)の【0021】に「殺菌装置7は、海水貯留槽1からポンプ11を介して製氷機3に供給される海水を、一例として紫外線の照射によって殺菌する。製氷機3は、この発明の製氷部であり、一例として海水を冷却したシリンダの内面に薄膜状に凍らせた後に掻き落とし、シャーベット状の海水氷を作る。製氷機3は、他の方法でシャーベット状の海水氷を作るものであってもよい」との記載はあるが、海水氷の製造のための具体的な製造条件は何ら開示されていないことは特許権者が指摘するとおりである。
そうすると、前記した引用例3発明2の海水氷についても、本件発明1の(b)の条件を満たす蓋然性が高い可能性があるとした点は、引用例1発明2の場合と同様に、必ずしも蓋然性が高い可能性があるとまではいえないといわざるを得ない。
したがって、この相違点3-1の(b)の条件の点は、相違点1-1の場合と同様に、実質的な相違点であり、相違点3-1は、(a)及び(c)の条件について検討するまでもなく、実質的な相違点を有しているといえる。
上記のとおりであるから、本件発明1は、引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1は、引用例1と同様に、引用例3の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
d 小括
したがって、本件発明1は、引用例1、引用例2又は引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1は、引用例1、引用例2又は引用例3の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(イ)本件発明2~9について
a 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに、「前記水溶液は、動植物又はその部分と等張である」ことを特定している。
しかしながら、本件発明2は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであるから、上記(ア)と同様に、引用例2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明2は、引用例2の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
b 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用し、さらに、「前記冷蔵は、前記動植物又はその部分と前記氷とを直接接触させて行う」ことを特定している。
しかしながら、本件発明3は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであるから、上記(ア)と同様に、引用例1、引用例2又は引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明3は、引用例1、引用例2又は引用例3の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
c 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用し、さらに、「前記動植物は食用である」ことを特定している。
しかしながら、本件発明4は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであるから、上記(ア)と同様に、引用例1、引用例2又は引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明4は、引用例1、引用例2又は引用例3の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
d 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1を引用し、さらに、「前記動植物は海水魚であり、前記溶質はNaClであり、前記NaClの濃度は0%超2%未満である」ことを特定している。
しかしながら、本件発明5は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであるから、上記(ア)と同様に、引用例2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明5は、引用例2の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
e 本件発明6について
本件発明6は、本件発明1を引用し、さらに、「前記動植物の部分は、動物の臓器である」ことを特定している。
しかしながら、本件発明6は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであるから、上記(ア)と同様に、引用例1、引用例2又は引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明6は、引用例1、引用例2又は引用例3の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
f 本件発明7について
本件発明7は、本件発明1を引用し、さらに、「前記氷が、海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水、が凍った氷である」ことを特定している。
しかしながら、本件発明7は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであるから、上記(ア)と同様に、引用例1、引用例2又は引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明7は、引用例1、引用例2又は引用例3の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
g 本件発明8について
本件発明8は、本件発明1を引用し、さらに、「前記冷蔵する工程において、前記氷と前記動植物又はその部分との間に、前記氷より高い熱伝導率を有する固体が介在する」ことを特定している。
確かに、引用例5には、上記(オ-1)~(オ-3)より、炭素繊維などの高熱伝導性物質を水の中に混合しておくと、製氷速度が向上することが記載されている。
しかしながら、本件発明8は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであるから、例え、引用例5の記載があったとしても、上記(ア)と同様に、本件発明8は、引用例1、引用例2又は引用例3のいずれかと、引用例5の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
h 本件発明9について
本件発明9は、本件発明1を引用し、さらに、「前記溶質は、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を含む」ことを特定している。
確かに、この点は、引用例2発明1または引用例3発明1が海水を用いており、海水に塩(塩化ナトリウム)以外に、塩化マグネシウム。塩化カリウム等の成分が含まれていることは技術常識である。
しかしながら、本件発明9は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであるから、例え、上記技術常識があったとしても、上記(ア)と同様に、引用例2又は引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明9は、引用例2又は引用例3の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(ウ)本件発明10について
a 本件発明10と引用例1発明1との対比・判断
(a)本件発明10と引用例1発明1との対比
引用例1発明1の「海産性の魚介類を高鮮度に維持することができる塩水氷」は、海産性の魚介類の冷蔵に用いるものであるから、本件発明10の「動植物又はその部分の冷蔵剤」に相当する。
引用例1発明1の「濃度25%の濃塩水(少なくともこの25%を中心に±7%の濃度範囲)を作り、塩水濃度調節槽内で高酸素含有量の水と攪拌混合して濃度2~3.5%になるように調節された塩水を製氷機でフレ-ク状乃至は粒状にした塩水氷であって、当該塩水氷は、芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状であり、その芯部と外部との塩分の濃度差が少なく、マイナス4℃からマイナス6℃の状態を長時間維持することができること、保存に際し特別な氷やけによる変色防止策を講じることなく、海産性の魚介類を高鮮度に維持することができる塩水氷」は、塩を含有する水溶液である塩水を凍らせた氷であることから、本件発明10の「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」に相当する。
そうすると、本件発明10と引用例1発明1とは、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を含む、動植物又はその部分の冷蔵剤」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1-2
溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷について、本件発明10は、「以下の(a)~(c)の条件を満たす」として「(a)融解完了時の温度が0℃未満である (b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である (c)前記氷の温度が前記動植物又はその部分の凍結点~前記凍結点+0.5℃である」ことを特定しているのに対して、引用例1発明1では、「(a)~(c)の条件」を満たすことについて特定していない点。
(b)判断
相違点1-2について検討する。
相違点1-2は、上記(ア)a(a)の相違点1-1と同じであり、この点については、上記(ア)a(b)ですでに検討したとおりである。
したがって、本件発明10は、引用例1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明10は、引用例1の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
b 本件発明10と引用例2発明1との対比・判断
(a)本件発明10と引用例2発明1との対比
引用例2発明1の「生鮮食品の鮮度保持に用いる為に、少なくとも海水以下の略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷」は、生鮮食品の鮮度を保持するための冷蔵に用いるものであるから、本件発明10の「動植物又はその部分の冷蔵剤」に相当する。
引用例2発明1の「生鮮食品の鮮度保持に用いる為に、少なくとも海水以下の略0.5~2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成してなる塩含有水において、 ろ過殺菌をした海水等の原水を塩分調整して約1.0~1.5%前後の塩分濃度の塩含有水となし、該塩含有水に急速冷却を行なうことにより前記塩分濃度に対応する-5~-1℃の氷点温度を持つスラリー状塩含有氷を生成したことを特徴とする塩含有氷」は、塩分濃度を調整して訳1.0~1.5%前後の塩分濃度を有する塩を含有する水溶液である塩水を凍らせた氷であることから、本件発明10の「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」に相当する。
そうすると、本件発明10と引用例2発明1とは、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を含む、動植物又はその部分の冷蔵剤」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点2-2
溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷について、本件発明10は、「以下の(a)~(c)の条件を満たす」として「(a)融解完了時の温度が0℃未満である (b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である (c)前記氷の温度が前記動植物又はその部分の凍結点~前記凍結点+0.5℃である」ことを特定しているのに対して、引用例2発明1では、「(a)~(c)の条件」を満たすことについて特定していない点。
(b)判断
相違点2-2について検討する。
相違点2-2は、上記(ア)b(a)の相違点2-1と同じであり、この点については、上記(ア)b(b)ですでに検討したとおりである。
したがって、本件発明10は、引用例2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明10は、引用例2の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
c 本件発明10と引用例3発明1との対比・判断
(a)本件発明10と引用例3発明1との対比
引用例3発明1の「運搬中の活魚の冷却に使用される海水氷」は、活魚を塩水氷で冷却することにより冬眠状態にして、魚を冷蔵して運搬するために使用される海水氷であるから、本件発明10の「動植物又はその部分の冷蔵剤」に相当する。
引用例3発明1の「運搬中の活魚の冷却に使用される海水氷であって、運搬される活魚の冬眠時の呼吸量に応じた量の酸素気泡を含有し、シャーベット状に製氷された後に海水と撹拌混合されてスラリー状を呈する海水氷」は、塩を含有する水溶液である塩水を凍らせた氷であることから、本件発明10の「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」に相当する。
そうすると、本件発明10と引用例3発明1とは、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を含む、動植物又はその部分の冷蔵剤」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点3-2
溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷について、本件発明10は、「以下の(a)~(c)の条件を満たす」として「(a)融解完了時の温度が0℃未満である (b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である (c)前記氷の温度が前記動植物又はその部分の凍結点~前記凍結点+0.5℃である」ことを特定しているのに対して、引用例3発明1では、「(a)~(c)の条件」を満たすことについて特定していない点。
(b)判断
相違点3-2について検討する。
相違点3-2は、上記(ア)c(a)の相違点3-1と同じであり、この点については、上記(ア)c(b)ですでに検討したとおりである。
したがって、本件発明10は、引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明10は、引用例3の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
d 小括
したがって、本件発明10は、引用例1、引用例2又は引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明10は、引用例1、引用例2又は引用例3の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(エ)本件発明11~12について
a 本件発明11について
本件発明11は、本件発明10を引用し、さらに、「前記氷より高い熱伝導率を有する固体を含有する」ことを特定している。
確かに、引用例5には、上記(オ-1)~(オ-3)より、炭素繊維などの高熱伝導性物質を水の中に混合しておくと、製氷速度が向上することが記載されている。
しかしながら、本件発明11は、本件発明10の特定事項をすべて含み、さらに限定したものであり、例え、引用例5の記載があったとしても、上記(ウ)と同様に、本件発明11は、引用例1、引用例2又は引用例3のいずれかと、引用例5の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
b 本件発明12について
本件発明12は、本件発明10を引用し、さらに、「前記溶質は、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を含む」ことを特定している。
確かに、この点は、引用例2発明1または引用例3発明1が海水を用いており、海水に塩(塩化ナトリウム)以外に、塩化マグネシウム。塩化カリウム等の成分が含まれていることは技術常識である。
しかしながら、本件発明12は、本件発明10の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであり、例え、上記技術常識があったとしても、上記(ウ)と同様に、引用例2又は引用例3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明12は、引用例2又は引用例3の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(オ)本件発明14について
a 本件発明14と引用例4発明1との対比
本件発明14と引用例4発明1とを対比する。
引用例4発明1の「比重1.17(290g/1kg・水,22.4%)、ボーメ度21.1の食塩ブラインを-20℃に冷却し、その一部でブライン重量の20%、及び50%の塩水氷が生成される」は、塩水ブラインが290gの食塩と1kgの水を含有することからその塩分濃度が22.4%であり、当該塩水ブラインにおける塩水氷の割合は、20%及び50%であるから、氷スラリーを含む状態といえ、これらを製造する工程を示しているので、本件発明14の「塩分濃度が13.6~23.1%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が13.6~23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程」に相当する。
引用例4発明1の「この塩水氷を含む食塩ブライン中にブラインと同容量の魚獲直後の魚(かつお)を投入し、凍結槽に冷凍器を連結してブライン温度を常時-20℃に保ち魚体を凍結させる」は、本件発明14の「前記氷スラリーに生鮮動植物又はその部分を浸漬し、該生鮮動植物又はその部分を瞬間凍結させる工程」に相当する。
引用例4発明1の「被冷凍体又は被冷却体が浸漬される凍結点まで冷却した塩水中に塩水氷を介在させるようにしたことを特徴とする凍結又は冷却方法」は、被冷凍体又は被冷却体を凍結又は冷却するための方法であるから、本件発明14の「被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法」に相当する。
引用例4発明1における「塩水氷」は、溶質である塩を含有する水溶液である塩水が凍った氷であることから、本件発明14の「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」に相当する。
そうすると、本件発明14と引用例4発明1とは、「塩分濃度が22.4%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が22.4%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程と、
前記氷スラリーに生鮮動植物又はその部分を浸漬し、該生鮮動植物又はその部分を瞬間凍結させる工程と、を含む被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法であり、前記氷は、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷である、被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点4-1
溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷について、本件発明14は、「以下の(a)及び(b)の条件を満たす」として「(a)融解完了時の温度が-5℃未満である (b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である」ことを特定しているのに対して、引用例4発明1では、「(a)及び(b)の条件」を満たすことについて特定していない点。
b 判断
事案に鑑み、上記(a)及び(b)の条件のうち、(b)の条件について検討する。
引用例4発明1の塩水氷及び塩水はいずれも22.4%の塩分濃度のものであることから、(b)の条件を満たす蓋然性が高い可能性があると考えられる。
しかしながら、特許権者は、令和2年10月13日付け意見書の第4頁~第7頁において上記(ア)a(b)で指摘した点を踏まえ、さらに、同意見書第7頁~第8頁において、例え氷の製造原理が本件発明と同様であったとしても、その製造条件が相違すると得られる氷が異なる物性のものとなることから、引用例4に記載された方法で得られた海水氷が本件発明1の(b)の条件を満たさない旨も述べている。
確かに、引用例4には、塩水氷の製造について、上記(エ-2)に「図において(1)は魚倉、(2)はブライン又は海水ポンプ、(3)ブライン水氷又は海水水氷の製氷機であり、ブライン又は海水が導入されるドラム(4)とこのドラム(4)内に懸架された氷削取用の回転板(5)と、ドラム(4)の外周を回続した冷却器(6)とより成り、冷却器(6)には冷媒導入管(7)と冷媒導出管(8)が接続されている。又(9)は回転板(5)の駆動軸、(10)は駆動輪である。更に(11)はブライン又は海水の冷却器でありブライン又は海水の冷却管(12)が挿入され、冷媒導入管(13)と冷媒導出管(14)が連通されている」こと、「(a) 先づ魚倉(1)内の塩水ブライン又は海水をポンプ(2)で介してブライン又海水の冷却器(11)を通し、再び魚倉(1)に戻る循環路とし、ブライン又は海水を氷結点温度近くまで冷却する。
(b) 次に魚倉(1)、ポンプ(2)、製氷機(3)、魚倉(1)の循環路に切換えてブライン又は海水の一部を氷にする。製氷機(3)内ではドラム(4)内に導入されたブライン又は海水が、外周の冷却器(6)で冷却され外周面より結氷し、この結氷が内接した回転板(4)によって削り取られこの氷がブライン又は海水に混つてみぞれ状氷となつて魚倉(1)に供給される。尚(a)工程のブラインの予冷なしに(b)工程より運転を開始することもある」との記載はあるが、塩水氷の製造のための具体的な製造条件は何ら開示されていないことは特許権者が指摘するとおりである。
そうすると、前記した引用例4発明1の塩水氷は、特許権者が前記意見書において示した塩水氷よりも2倍以上塩水の濃度が高いものであるが、10%の塩水濃度でさえ従来技術である引用例1における氷が52%の濃度変化率であることを考慮すると、なおさら、引用例4発明1の塩水氷は、本件発明14で特定されている(b)の条件を満たす蓋然性が高い可能性があるとまではいえないといわざるを得ない。
したがって、この相違点4-1の(b)の条件の点は、実質的な相違点であり、相違点4-1は、(a)の条件について検討するまでもなく、実質的な相違点を有しているといえる。
上記のとおりであるから、本件発明1は、引用例4に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1は、引用例1と同様に、引用例4の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
c 特許異議申立人の令和2年11月20日付け意見書について
特許異議申立人は、上記意見書において、上記比較実験は作為が認められるとして、水溶液の溶質濃度の変化率、塩水の噴射圧及びブレード軸の回転速度、竪型ドラムの内周面の温度、塩分濃度について意見を延べ、特許権者の主張は根拠がない旨主張している。
しかしながら、特許異議申立人の主張は、上記比較実験の作為について立証するとしているが、いずれも、作為といえる客観的な証拠等の提示はなく、少なくとも比較実験の条件設定において、その結果を否定できるものでもないから、上記特許異議申立人の主張は採用することができない。
d 小括
したがって、本件発明14は、引用例4に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明14は、引用例4の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(カ)本件発明15~19について
a 本件発明15について
本件発明15は、本件発明14を引用し、さらに、「前記溶質は、凝固点降下の異なる2種以上の溶質を含む」ことを特定している。
引用例4には、塩水氷を製造するものとして上記(エ-2)に「ブライン又は海水の一部を氷にする」との記載があり、海水を原料とすることも記載されている。そして、海水に塩(塩化ナトリウム)以外に、塩化マグネシウム。塩化カリウム等の成分が含まれていることは技術常識である。
しかしながら、本件発明15は、本件発明14の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであり、例え、上記技術常識があったとしても、上記(オ)と同様に、本件発明15は、引用例4と、技術常識に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
b 本件発明16及び本件発明17について
本件発明16及び本件発明17は、本件発明14を引用し、さらに、本件発明16は「混合する前記氷と前記塩水の塩分濃度が同程度である」ことを、本件発明17は「混合する前記氷と前記塩水の質量比が氷:塩水=75:25~20:80である」ことを、それぞれ特定している。
しかしながら、本件発明16及び17は、本件発明14の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであるから、上記(オ)と同様に、引用例4に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明16及び17は、引用例4の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
c 本件発明18について
本件発明18は、本件発明14を引用し、さらに、「瞬間凍結させた前記生鮮動植物又はその部分を前記氷スラリーから取り出して、該生鮮動植物又はその部分を瞬間凍結時の温度以下で冷凍保存する」ことを特定している。
しかしながら、本件発明18は、本件発明14の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであるから、本件発明18は、引用例4の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
d 本件発明19について
本件発明19は、本件発明14を引用し、さらに、「瞬間凍結させる工程において、前記氷と前記生鮮動植物又はその部分との間に、前記氷より高い熱伝導率を有する固体が介在する」ことを特定している。
確かに、引用例5には、上記(オ-1)~(オ-3)より、炭素繊維などの高熱伝導性物質を水の中に混合しておくと、製氷速度が向上することが記載されている。
しかしながら、本件発明19は、本件発明14の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであり、例え、引用例5の記載があったとしても、上記(オ)と同様に、本件発明19は、引用例4と引用例5の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
(キ)本件発明21について
a 本件発明21と引用例1発明1との対比・判断
(a)本件発明21と引用例1発明1との対比
引用例1発明1の「海産性の魚介類を高鮮度に維持することができる塩水氷」は、海産性の魚介類の冷蔵に用いるものであるから、本件発明21の「生鮮動植物又はその部分の凍結剤」に相当する。
引用例1発明1の「濃度25%の濃塩水(少なくともこの25%を中心に±7%の濃度範囲)を作り、塩水濃度調節槽内で高酸素含有量の水と攪拌混合して濃度2~3.5%になるように調節された塩水を製氷機でフレ-ク状乃至は粒状にした塩水氷であって、当該塩水氷は、芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状であり、その芯部と外部との塩分の濃度差が少なく、マイナス4℃からマイナス6℃の状態を長時間維持することができること、保存に際し特別な氷やけによる変色防止策を講じることなく、海産性の魚介類を高鮮度に維持することができる塩水氷」は、塩を含有する水溶液である塩水を凍らせた氷であることから、本件発明21の「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」に相当する。
そうすると、本件発明21と引用例1発明1とは、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を含む、生鮮動植物又はその部分の凍結剤」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1-3
溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷について、本件発明21は、「以下の(a)及び(b)の条件を満たす」として「(a)融解完了時の温度が-5℃未満である (b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である」ことを特定しているのに対して、引用例1発明1では、「(a)及び(b)の条件」を満たすことについて特定していない点。
(b)判断
事案に鑑み、上記(a)及び(b)の条件のうち、(b)の条件について検討する。
引用例1発明1の塩水氷は、芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状であり、その芯部と外部との塩分の濃度差が少ないことが示されていることから、(b)の条件を満たす蓋然性が高い可能性があると考えられる。
しかしながら、上記(ア)a(b)で検討したとおり、引用例1に記載の塩水氷は、上記「比較実験」の結果から、上記(b)の条件を満たさないことが示されている。
また、引用例1には、融解過程で発生する水溶液の溶質濃度の経時変化に関する具体的な濃度変化の範囲について何ら記載がない。
そうすると、前記した引用例1発明1の塩水氷が、芯部にまで塩分を含んだフレ-ク状乃至は粒状であり、その芯部と外部との塩分の濃度差が少ないものであるから、当該(b)の条件を満たす蓋然性が高い可能性があるとした点は、必ずしも蓋然性が高い可能性があるとまではいえないといわざるを得ない。
したがって、この相違点1-3の(b)の条件の点は、上記「比較実験」の結果から、実質的な相違点であり、相違点1-3は、(a)の条件について検討するまでもなく、実質的な相違点を有しているといえる。
上記のとおりであるから、本件発明21は、引用例1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明21は、引用例1の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(c)特許異議申立人の令和2年11月20日付け意見書について
特許異議申立人は、上記意見書において、上記比較実験は作為が認められるとして、水溶液の溶質濃度の変化率、塩水の噴射圧及びブレード軸の回転速度、竪型ドラムの内周面の温度、塩分濃度について意見を延べ、特許権者の主張は根拠がない旨主張している。
しかしながら、特許異議申立人の主張は、上記比較実験の作為について立証するとしているが、いずれも、作為といえる客観的な証拠等の提示はなく、少なくとも比較実験の条件設定において、その結果を否定できるものでもないから、上記特許異議申立人の主張は採用することができない。
b 本件発明21と引用例4発明2との対比・判断
(a)本件発明21と引用例4発明2との対比
引用例4発明2の「比重1.17(290g/1kg・水,22.4%)、ボーメ度21.1の食塩ブラインを-20℃に冷却し、その一部でブライン重量の20%、及び50%の塩水氷」は、塩水ブラインが290gの食塩と1kgの水を含有する塩分濃度が22.4%である塩水氷であるから、本件発明21の「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」に相当する。
引用例4発明2の「塩水氷を含む食塩ブライン」は、引用例4の記載から明らかなとおり、「被冷凍体又は被冷却体が浸漬される凍結点まで冷却した塩水中に塩水氷を介在させるようにしたことを特徴とする凍結又は冷却方法」に用いる食塩ブラインであるから、本件発明21の「生鮮動植物又はその部分の凍結剤」に相当する。
そうすると、本件発明21と引用例4発明2とは、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を含む、生鮮動植物又はその部分の凍結剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点4-2
溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷について、本件発明21は、「以下の(a)及び(b)の条件を満たす」として「(a)融解完了時の温度が-5℃未満である (b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である」ことを特定しているのに対して、引用例4発明2では、「(a)及び(b)の条件」を満たすことについて特定していない点。
(b)判断
相違点4-2は、上記(オ)aの相違点4-1と同じであり、この点については、上記(オ)b及びcですでに検討したとおりである。
したがって、本件発明21は、引用例4に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明21は、引用例4の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
c 小括
したがって、本件発明21は、引用例1又は引用例4に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明21は、引用例1又は引用例4の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(ク)本件発明22~23について
a 本件発明22について
本件発明22は、本件発明21を引用し、さらに、「前記氷より高い熱伝導率を有する固体を含有する」ことを特定している。
確かに、引用例5には、上記(オ-1)~(オ-3)より、炭素繊維などの高熱伝導性物質を水の中に混合しておくと、製氷速度が向上することが記載されている。
しかしながら、本件発明22は、本件発明21の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであり、例え、引用例5の記載があったとしても、上記(キ)と同様に、本件発明22は、引用例1又は引用例4のいずれかと、引用例5の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
b 本件発明23について
本件発明23は、本件発明21を引用し、さらに、「前記溶質は、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を含む」ことを特定している。
引用例4には、塩水氷を製造するものとして上記(エ-2)に「ブライン又は海水の一部を氷にする」との記載があることから、海水を原料とすることも記載されている。
しかしながら、本件発明23は、本件発明21の特定事項をすべて含み、さらに、限定したものであり、例え、引用例4の記載があったとしても、上記(キ)と同様に、本件発明23は、引用例1と引用例4の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるともいえない。
(ケ)本件発明20について
a 本件発明20は、本件発明14~19を引用し、本件発明14~19に記載の方法で製造される被冷凍生鮮動植物又はその部分を解凍してなる被解凍物またはその加工物であることを特定する、物の発明に関するものである。そして、本件特許明細書の段落【0044】~【0046】及び実施例の記載から、本件発明20のうち「解凍してなる被解凍物」は、生鮮動植物の細胞組織の損傷が少なく、鮮度、味が保持されたものであると認められる。
これに対して、引用例1発明2、引用例2発明2、引用例3発明2の方法は、魚介類のような生鮮食品の保存方法に関するものであり、また、保存された生鮮食品を加工することは常套手段であるから、引用例1、2、3には、引用例1発明2、引用例2発明2、引用例3発明2の方法で保存された生鮮食品及びその加工品が記載されていると認められる。
そこで、本件発明20と、引用例1、引用例2又は引用例3に記載された発明、すなわち、引用例1発明2、引用例2発明2、引用例3発明2の方法で保存された生鮮食品及びその加工品との同一性について検討する。
まず、冷蔵や凍結・解凍のような保存を経ていない収穫したままの生鮮動植物が消費者に好まれること、輸送や長期保存における鮮度維持のために生鮮動植物を冷蔵したり凍結したりして保存するが、保存後の生鮮動植物がほとんど損傷を受けていないものであれば、保存を経ていない生鮮動植物と同様に消費者に好まれることが明らかであるから、細胞組織がほとんど損傷を受けていない鮮度の高い生鮮動植物を得ようとすることは当業者の自明の課題であるといえ、引用例1発明2、引用例2発明2、引用例3発明2の方法がそのような課題を解決するために用いられることも当業者であれば明らかである。
そうすると、引用例1発明2、引用例2発明2、引用例3発明2の方法で保存された生鮮食品は、細胞組織がほとんど損傷を受けていないものであるといえ、本件発明20の「解凍してなる被解凍物」は、引用例1発明2、引用例2発明2、引用例3発明2の方法で保存された生鮮食品と物自体として区別できない。
また、本件発明20には「解凍してなる被解凍物」だけでなく「その加工物」が特定されており、「その加工物」とは解凍した生鮮動植物を調理したものなどが該当すると認められる。ここで、生鮮動植物の細胞組織に損傷を与える原因には、冷蔵や冷凍のような保存以外に、熱や圧力のような物理的な刺激や、加塩のような化学的な刺激などが考えられるところ、生鮮動植物が有している損傷がどのような原因によりもたらされたものかを正確に判別することは困難であると考えられる。
そうすると、生鮮動植物を加熱したり、味付けしたり、ジュースに加工したりすると、生鮮動植物の細胞組織が大きく損傷を受けることが技術的に明らかであるから、本件発明20の「その加工物」は、引用例1発明2、引用例2発明2、引用例3発明2の方法で保存された生鮮食品の加工物と物自体として区別できない。
したがって、本件発明20は、引用例1発明2、引用例2発明2、引用例3発明2の方法で保存された生鮮食品やその加工物と、物として区別することができず、引用例1、引用例2又は引用例3に記載された発明と同一であるといえる。
また、上述のとおり、細胞組織がほとんど損傷を受けていない生鮮動植物を得ようとすることは当業者が当然に行うことであって、保存期間をなるべく短くするなど工夫して損傷をより低減することは当業者が容易に行うことであるから、本件発明20は、引用例1、引用例2又は引用例3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。
b 特許権者が令和2年10月13日に提出した意見書について
特許権者は、令和2年10月13日に提出した意見書の第4頁~第8頁において、本件発明は、引用例1~4に対して新規性及び進歩性を有する旨を主張している。
しかしながら、本件発明20は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームであり、クレームされているのは凍結し解凍された生鮮動植物またはその加工品、すなわち、魚や野菜自体やそれらを用いて調理した料理などである。
本件発明20が新規性を有するというためには、そのような魚や野菜自体やそれらを用いて調理した料理などが、物自体として引用例1発明2、引用例2発明2、引用例3発明2のような公知の方法で保存した物やその加工品と区別できることが必要となる。
しかしながら、引用例1、2、3には、引用例1発明2、引用例2発明2、引用例3発明2の方法で保存した物が記載されているといえ、そのような物の加工品も記載されているに等しいといえるところ、引用例1発明2などの方法で保存した物は、上記aで指摘したとおり、細胞組織がほとんど損傷を受けていないものであるから、本件発明20の「解凍してなる被解凍物またはその加工物」と引用例1発明2などの方法で得られた保存した物と物自体として区別することができないといわざるを得ない。
なお、仮に本件発明20の「解凍してなる被解凍物」が細胞組織に全く損傷を受けていないものであるというなら、そのような物は凍結・解凍などを経ていない収穫したままの生鮮動植物と物として区別がつかないのであるから、新規性があるとはいえないことは勿論である。
また、本件発明20の「解凍してなる被冷凍物」が凍結に伴う何らかの損傷を有しているというなら、生鮮食品の凍結方法に関する引用例4に記載されているような公知の凍結方法により凍結し、解凍した生鮮食品と物として区別がつかないことになる。
したがって、上記特許権者の主張は、採用することができない。
(2)理由3(委任省令要件)について
ア 本件発明1~12について
(ア)本件発明1について
a 本件特許明細書には、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」の(a)~(c)の条件について、段落【0131】~【0137】に融解完了時の温度、溶質濃度の変化率、前記氷の温度範囲についての説明が、段落【0153】~【0171】に前記(a)~(c)の条件を満たす氷の製造方法についての説明が、段落【0172】~【0178】に前記(a)~(c)の条件を満たす冷蔵剤についての説明が、段落【0180】~【0184】に前記(a)~(c)の条件を満たす実施例として実施例4が、それぞれ記載されている。
そうすると、これらの記載に接した当業者は、前記(a)~(c)の条件を満たす氷が、本件特許明細書に記載された(a)~(c)の条件を満たす氷、その製造方法、実施例等の記載によれば、当業者が本件発明1が解決しようとする課題及びその解決する手段その他の技術上の意義を当然に理解できると認められるから、技術上の意義が明示的に記載されていなくとも、本件発明1は委任省令要件を満たしているといえる。
c 特許異議申立人の令和2年11月20日付け意見書について
特許異議申立人は、上記意見書において、(a)~(c)において数値を限定した技術上の意義について記載されておらず、本件特許明細書及び図面の記載ならびに出願時の技術常識に基づいて発明の課題とその数値による特定との実質的な関係を理解することができない旨主張している。
しかしながら、本件特許明細書は、上記aのとおり、技術上の意義が明示的に記載されていなくとも、当業者が技術上の意義を当然に理解できると認められることから、上記特許異議申立人の主張は採用することができない。
(イ)本件発明2~12について
本件発明2~9は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明10~12も、本件発明1における上記(a)~(c)と同じ条件を特定しているから、本件発明1と同様である。
イ 本件発明14~20について
(ア)本件発明14について
本件特許明細書には、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」の(a)及び(b)の条件について、段落【0072】~【0078】に融解完了時の温度、溶質濃度の変化率についての説明が、段落【0097】~【0115】に前記(a)及び(b)の条件を満たす氷の製造方法についての説明が、段落【0120】~【0124】に前記(a)及び(b)の条件を満たす実施例として実施例1及び2が、それぞれ記載されている。
そうすると、これらの記載に接した当業者は、前記(a)及び(b)の条件を満たす氷が、本件特許明細書に記載された(a)及び(b)の条件を満たす氷、その製造方法、実施例等の記載によれば、当業者が本件発明14が解決しようとする課題及びその解決する手段その他の技術上の意義を当然に理解できると認められるから、技術上の意義が明示的に記載されていなくとも、本件発明14は委任省令要件を満たしているといえる。
(イ)本件発明15~20について
本件発明15~20は、本件発明14を直接又は間接的に引用しており、本件発明14と同様である。
ウ 本件発明21~23について
(ア)本件発明21について
本件特許明細書には、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」の(a)及び(b)の条件について、段落【0072】~【0078】に融解完了時の温度、溶質濃度の変化率についての説明が、段落【0097】~【0115】に前記(a)及び(b)の条件を満たす氷の製造方法についての説明が、段落【0212】~【0217】に前記(a)及び(b)の条件を満たす凍結剤についての説明が、【0219】~【0223】に前記(a)及び(b)の条件を満たす実施例として実施例5及び6が、それぞれ記載されている。
そうすると、これらの記載に接した当業者は、前記(a)及び(b)の条件を満たす氷を含む凍結剤が、本件特許明細書に記載された(a)及び(b)の条件を満たす氷を含む凍結剤、その製造方法、実施例等の記載によれば、当業者が本件発明21が解決しようとする課題及びその解決する手段その他の技術上の意義を当然に理解できると認められるから、技術上の意義が明示的に記載されていなくとも、本件発明21は委任省令要件を満たしているといえる。
(イ)本件発明22~23について
本件発明22~23は、本件発明21を直接又は間接的に引用しており、本件発明21と同様である。
エ 小括
上記のとおり、本件発明1~12、14~24は、委任省令要件を満たしている。
(3)理由4(サポート要件)について
ア 請求項1~12について
本件発明1~12の課題は、動植物又はその部分が凍結しないが十分に低温な状態で維持することができる、動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法、および動植物又はその部分の冷蔵剤を提供することであると認められる。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」の(a)~(c)の条件について、段落【0131】~【0137】に融解完了時の温度、溶質濃度の変化率、前記氷の温度範囲についての説明が、段落【0153】~【0171】に前記(a)~(c)の条件を満たす氷の製造方法についての説明が、段落【0172】~【0178】に前記(a)~(c)の条件を満たす冷蔵剤についての説明が、段落【0180】~【0184】に前記(a)~(c)の条件を満たす実施例として実施例4が、それぞれ記載されている。
そうすると、これらの記載に接した当業者は、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」の(a)~(c)の条件を満たす氷の製造方法や、この氷を含む冷蔵剤について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、本件発明1~12の課題を解決できると当業者が認識することができるといえる。
したがって、本件発明1~12は、サポート要件を満たしている。
イ 特許異議申立人の令和2年11月20日付け意見書について
特許異議申立人は、上記意見書において、本件発明の場合、明細書及び図面の記載ならびに出願時の技術常識に基づいて、発明の課題とその数値による特定との実質的な関係を理解することができないため、サポート要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、本件発明1~12は、上記アで検討したとおり、サポート要件を満たしているから、異議申立人の主張は採用することができない。
ウ 小括
上記のとおり、本件発明1~12は、サポート要件を満たしている。
(4)理由5(明確性)について
・請求項20について
ア 請求項20は、「請求項14~19のいずれかに記載の方法で製造される」「被冷凍生鮮動植物又はその部分を解凍してなる被解凍物またはその加工物」という物の発明であり、製造方法により「被冷凍生鮮動植物又はその部分を解凍してなる被解凍物またはその加工物」を特定している、いわゆる、プロダクト・バイ・プロセス・クレームといわれるものである。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本件明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
イ 特許権者が令和2年3月10日に提出した意見書について
特許権者は、令和2年3月10日に提出した意見書の第14頁において、本件発明によれば、従来技術に関する被解凍物に比して、細胞組織がより破壊されていない等の特性を有する被解凍物が得られ、このような細胞組織の破壊が少ない状態等を構造又は特性により直接特定する方法は一般的でなく、さらには、被冷凍物の種類に応じても細胞の形態が変化するところ、あらゆる被冷凍物について包括的にその構造又は特定を規定することもできないと主張している。
しかしながら、単に「構造又は特性により直接特定する方法は一般的でなく」や「あらゆる被冷凍物について包括的にその構造又は特定を規定することもできない」というだけでは、一般的でなくても、今回の場合に限り、構造又は物性で特定すればよいだけのことであり、また、包括的に規定することができないのであれば、種類ごとに構造又は物性で特定すればよいのであり、さらに、例えば、細胞組織の破壊の程度を数値化することも可能であると認められること(特開2007-289157号公報参照)から、この主張が出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在する場合に相当するとは認められない。
したがって、特許権者の上記主張は採用することができない。
ウ 特許権者が令和2年10月13日に提出した意見書について
特許権者は、令和2年10月13日に提出した意見書の第9頁~第10頁において、上記イのように判断されたが、本件発明の特長をその構造又は特定により直接特定することは、例え上記特開2007-289157号公報等を考慮したとしても、およそ実際的ではない旨主張している。
確かに、特許権者が令和2年10月13日に提出した意見書で主張するように、出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど、特許権者にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合といえなくもない。
しかしながら、そもそも、本件発明20は、本件発明14~19のいずれかに記載の製造方法で製造される被冷凍生鮮動植物又はその部分を解凍した被解凍物またはその加工物、すなわち、天然の動植物を本件発明14~19の製造方法で冷凍し、解凍したそのものを含むものであり、特許権者がどの範囲の物において独占権を有するのかについて、その範囲が不明確であることに変わりはなく、第三者の利益を不当に害するものであるといわざるを得ない。
したがって、特許権者の上記主張は採用することができない。
エ 小括
上記のとおり、本件発明20は明確であるとはいえない。
2 当審の取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人が申し立てた理由について
(1)理由1(進歩性)について
ア 特許異議申立人は、上記「1 当審が通知した取消理由について」の「(1)理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について」で検討した甲第1号証(引用例1)、甲第3号証(引用例2)、甲第4号証(引用例3)及び甲第5号証(引用例5)に加え、甲第2号証、甲第6号証を示して本件発明が容易想到であることを主張している。
イ 甲第2号証の記載
(甲2-1)「【請求項1】
食品の保存方法であって、ゼラチン水溶液に対して当該ゼラチンのゲル化温度よりも低温の状態にある当該食品を接触させて当該食品の表面全体を覆うゼラチン膜を形成する工程を含んでいることを特徴とする食品保存方法。
・・・・・・・
【請求項4】
請求項1、2または3記載の食品保存方法において、塩水でもある前記ゼラチン水溶液として、前記食品を構成する生物の細胞内の溶液の等張液、または当該細胞内の溶液の浸透圧との差が前記食品に固有の所定値以下である高張液を用いることを特徴とする方法。」(特許請求の範囲)
(甲2-2)「【0046】
ウニの細胞内溶液の浸透圧は約960~1,000[mosm/L](食塩濃度約30[g/L]相当)であるため、食塩-ゼラチン混合水溶液は、当該細胞内溶液の等張液付近および所定値である約640[mosm/L](食塩濃度20[g/L]相当)以下の浸透圧を等張液浸透圧に加えた高張液(浸透圧1,600[mosm/L]以下)であることが好ましい。鰤の細胞内溶液の浸透圧は約320[mosm/L](食塩濃度10[g/L]相当)であるため、食塩-ゼラチン混合水溶液は、当該細胞内溶液の等張液および所定値である約640[mosm/L](食塩濃度20[g/L]相当)以下の浸透圧を等張液浸透圧に加えた高張液(浸透圧960[mosm/L]以下)であることが好ましい。」
ウ 甲第6号証の記載
(甲6-1)「本発明は、氷結点を降下させて食品をブライン凍結する方法に関する。詳しくは、食塩などの無機塩類の水溶液に、醋酸ナトリウムなどの有機酸塩類や蛋白質加水分解物などの難晶性有機物質若くはプロピレングリコールなどの非晶性有機物質を溶解し、相乗的に作用せしめて効果的に氷結点を0℃~-70℃に降下させ、好ましくは-20℃~-60℃に降下させて、食品をブライン凍結する方法に関する。
従来から、食品の冷凍加工に於てはブライン液で凍結することが行われてきた。この場合被凍結物が食品であるために食品衛生上主として食塩水が使われてきた。また、近時、無害であるポリプロピレングリコールの水溶液を用いることも行われている。」(1頁左欄13行~同頁右欄8行)
エ 本件発明1~12、21~23について
そうすると、甲第2号証には、上記(甲2-1)~(甲2-2)より食品を構成する生物の細胞内の溶液の等張液によって当該食品を覆う食品保存方法に関して記載され、また、甲第6号証には、上記(甲6-1)より食塩などの無機塩類の水溶液に、醋酸ナトリウムなどの有機酸塩類や蛋白質加水分解物などの難晶性有機物質若くはプロピレングリコールなどの非晶性有機物質を溶解し、相乗的に作用せしめて効果的に氷結点を0℃~-70℃に降下させることが記載されていると認められるが、上記1(1)ウ(ア)a(b)での検討と同様に、これらの記載を考慮しても、本件発明1の(b)の条件を特定することは困難であるといえ、本件発明1は、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
また、本件発明2~12、21~23についても同様である。
オ したがって、本件発明1~12、21~23は、甲第1号証~甲第6号証の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
(2)理由2(サポート要件)について
ア 請求項1~12について
本件発明1~12は、上記1(3)で検討したとおりであり、サポート要件を満たしている。
イ 請求項21~23について
本件発明21~23の課題は、生鮮動植物又はその部分が凍結させても鮮度、味覚が落ちることがなく、遠隔地まで長時間輸送することが可能な生鮮動物又はその部分の凍結剤を提供することであると認められる。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」の(a)及び(b)の条件について、段落【0072】~【0078】に融解完了時の温度、溶質濃度の変化率についての説明が、段落【0097】~【0115】に前記(a)及び(b)の条件を満たす氷の製造方法についての説明が、段落【0212】~【0217】に前記(a)及び(b)の条件を満たす凍結剤についての説明が、【0219】~【0223】に前記(a)及び(b)の条件を満たす実施例として実施例5及び6が、それぞれ記載されている。
そうすると、これらの記載に接した当業者は、「溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷」の(a)及び(b)の条件を満たす氷の製造方法や、この氷を含む冷蔵剤について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、本件発明21~23の課題を解決できると当業者が認識することができるといえる。
したがって、本件発明21~23は、サポート要件を満たしている。
(3)理由3(先願)について
ア 甲第7号証の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
塩分濃度が13.6~23.1%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が13.6~23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程と、
前記氷スラリーに生鮮海産物を浸漬し、該生鮮海産物を瞬間凍結させる工程と、を備えることを特徴とする生鮮海産物の鮮度保持方法。
【請求項2】
請求項1記載の生鮮海産物の鮮度保持方法において、混合する前記氷と前記塩水の塩分濃度が同程度であることを特徴とする生鮮海産物の鮮度保持方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の生鮮海産物の鮮度保持方法において、混合する前記氷と前記塩水の質量比が氷:塩水=75:25~20:80であることを特徴とする生鮮海産物の鮮度保持方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の生鮮海産物の鮮度保持方法において、瞬間凍結させた前記生鮮海産物を前記氷スラリーから取り出して、該生鮮海産物を瞬間凍結時の温度以下で冷凍保存することを特徴とする生鮮海産物の鮮度保持方法。」
(以下、請求項1から請求項4に記載された発明をそれぞれ「甲7発明1」~「甲7発明4」という。)。
なお、甲第8号証は、本件特許の優先権の基礎出願(出願日平成28年5月24日)である。
イ 本件発明14~19と甲第7号証に記載された発明との対比・判断
本件発明14~19は、上記第3に記載されたとおりである。
なお、本件発明13は、上記第2で検討したとおり本件訂正により削除された。
本件発明14と甲7発明1とを対比する。
本件発明14は、「塩分濃度が13.6~23.1%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が13.6~23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程と、
前記氷スラリーに生鮮動植物又はその部分を浸漬し、該生鮮動植物又はその部分を瞬間凍結させる工程と、
を含む被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法」であり、さらに当該製造方法に用いる氷について「以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷である」こと、及び「(a)融解完了時の温度が-5℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である」ことをそれぞれ特定している。
しかしながら、甲7発明1~甲7発明4は、「生鮮海産物の鮮度保持方法」として、「塩分濃度が13.6~23.1%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が13.6~23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程」と「前記氷スラリーに生鮮海産物を浸漬し、該生鮮海産物を瞬間凍結させる工程」を備えることが記載されているが、本件発明14の製造方法で、さらに、特定されている(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体が凍った氷を用いることが何ら記載されておらず、この(a)及び(b)の条件を満たす氷を用いる点は、実質的な相違点となる。
そして、この(a)及び(b)の条件を満たす氷を用いる点は、課題解決のための具体化手段における微差であるとも、先願発明の発明特定事項を本件発明において上位概念として表現したことによる差異であるとも、さらに、単なるカテゴリー表現上の差異であるとも認められないから、本件発明14は、甲7発明1~甲7発明4と実質同一であるとはいえない。
また、本件発明15~19は、本件発明14のすべてを引用し、さらに、製造方法を特定しているものであるから、本件発明14と同様に、甲7発明1~甲7発明4と同一であるとはいえない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件発明20に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
また、本件発明20に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。
したがって、本件発明20に係る特許は、特許法第113条第2号又は4号に該当し、取り消されるべきものである。
上記第5のとおり、本件発明1~7、9、10、12、14、16、17、21に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に規定に違反して特許されたものではなく、本件発明1~12、14~19、21~23に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
また、本件発明1~12、14~23に係る特許について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、本件発明1~12、21~23に係る特許について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
本件発明14~19に係る特許は、特許法第39条第1項の規定に該当しないから、本件発明14~19に係る特許は、特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものではない。
したがって、本件発明1~12、14~19、21~23に係る特許は、特許法第113条第2号又は4号に該当せず、取り消されるべきものではない。
他に本件発明1~12、14~19、21~23に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件発明13に係る特許は、訂正により削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700288