特許異議申立
2017-700119
ショウガ加工物の製造方法
- 審判番号
- 2017-700119
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-159640
- 登録番号
- 特許第5969096号(P5969096)
- 請求日
- 2017年02月09日
- 審決日
- 2017年04月12日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社エヌ・エル・エー
- 【権利者代理人】加藤 久
- 【権利者代理人】遠坂 啓太
- 【権利者代理人】森 博
- 【権利者代理人】南瀬 透
- 【異議申立人】三▲崎▼ 岳郎
- 審判長/審判官
- 審判長 千壽 哲郎
- 審判官 結城 健太郎
- 審判官 山崎 勝司
- 分類
- P1651.121-Y (A23L) / P1651.536-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5969096号発明「ショウガ加工物の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5969096号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5969096号(以下,「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は,平成27年8月12日に出願され,平成28年7月15日にその特許権の設定登録がされ,その後,特許異議申立人三▲崎▼岳郎より特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1~4」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
【請求項1】
原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程と、
冷凍工程後のショウガを、水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で5時間以上加熱処理する蒸気加熱工程と、
を有することを特徴とするショウガ加工物の製造方法。
【請求項2】
前記冷凍工程における温度が、-10℃以下である請求項1に記載のショウガ加工物の製造方法。
【請求項3】
前記蒸気加熱工程における温度が110℃以上130℃以下であり、圧力が0.12MPa以上0.30MPa以下である請求項1または2に記載のショウガ加工物の製造方法。
【請求項4】
前記蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程を有する請求項1から3のいずれかに記載のショウガ加工物の製造方法。
第3 申立理由の概要
1 特許異議申立人は,証拠方法として以下の甲第1~10号証(以下,証拠の番号に従って「甲1」などという。)を提出し,請求項1~4に係る特許は甲1,甲2又は甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,同法第113条第2号に該当し,請求項1~4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(以下,「理由1」という。)
甲1:山崎友里ら,ショウガ中ショウガオール含有量を高めるための加工
方法,日本栄養・食糧学会第52回近畿支部大会講演要旨集,
2013年10月26日,p.26
甲2:ぽてこ,おやさい村のおいも畑通信「ウルトラ蒸しショウガを作っ
てみました♪o(%)O☆」,2013年1月24日,インターネット
<http://oyasaimura.blog84.fc2.com/blog-entry-89.html>
甲3:鹿野美弘ら,漢方エキス製剤の品質評価について(第1報)
「生姜」中の6-gingerol,生薬学雑誌,40巻,3号,1986年,
p.333-339
甲4:生化学辞典(第3版),東京化学同人,第5刷,
2002年7月1日,p.482
甲5:牧野健司,妊婦に併発したアレルギー疾患に対する食用可能な生薬
を用いた漢方治療の試み,日本東洋医学雑誌,Vol.59,No.4,
2008年,p.617-622
甲6:大切な食べものを無駄にしない読本,ベターホーム協会,
2006年6月1日,p.23
甲7:平野美那世,加熱器を生かす鍋の種類と役割,ニューフードインダ
ストリー,Vol.41,No.8,p.73-84
甲8:ミチル,だだもれアンチエイジング「ショウガオールでダイエット
!ウルトラ蒸し生姜で冷え知らず!作り方・あさイチ1/15」,
2013年1月16日,インターネット
<http://marutto50.blog.fc2.com/blog-entry-482.html>
甲9:特開2007-325515号公報
甲10:特開2011-229506号公報
2 特許異議申立人は,本件特許は,発明の詳細な説明の記載が同法第36条第4項第1号に適合しない特許出願に対してなされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである旨主張している。
(以下,「理由2」という。)
3 特許異議申立人は,本件特許は,特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号又は第2号に適合しない特許出願に対してなされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである旨主張している。
(以下,「理由3」という。)
第4 証拠について
1 甲1
(1) 甲1の記載事項
甲1には,以下の記載がある(下線部は当審にて付与。以下同様。)。
ア 「本研究では,体を温める効果を実証するための,より6-shogaol含量の高い試料を作成することを目的として,ショウガの加工方法を検討した.」(26頁10~11行)
イ 「【方法】凍結乾燥後のショウガ粉末に対し,6-gingerolの脱水反応を促進させるための要因として,様々な条件[装置(乾燥機,オートクレーブ)・温度・時間]で加熱を行った後,メタノールで2日間ショウガ中の成分を抽出した後,高速液体クロマトグラフィー法により,ショウガ中の6-gingerolと6-shogaolの含有量の変化を調べた.」(26頁12~15行)
ウ 「【結果と考察】非加熱の乾燥ショウガ粉末を比較対象とすると,一定の時間以内の加熱であれば,オートクレーブによる高温加熱の条件で,最も効率的に6-shogaol量を増加させることができた.」(26頁16~18行)
(2) 甲1発明
よって,甲1には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されている。
「凍結乾燥後のショウガ粉末を,オートクレーブによる高温加熱の条件で加熱を行った,より6-shogaol含量の高い試料を作成するショウガの加工方法。」
2 甲2
(1) 甲2の掲載事項
甲2には,以下の掲載がある。
ア 「ソロモン流の二日後、NHKのあさイチで
ウルトラ蒸しショウガなるものが紹介されていました!
ためしてガッテン!で見たことがある『ウルトラショウガ』よりも
3~4倍暖かさを感じるとか?!
作り方も意外と簡単だったので、早速作ってみました♪」(本文1~5行)
イ 「3.5キロの生姜を繊維に直角にスライスして
圧力鍋にお湯を張って、蒸し皿をセットして
スライスした生姜をほぐしながらパラパラと置いていき
蓋を閉めて蒸します!
レモンのような香りから、お芋のような香りになったら加熱を止めて
ざるに上げ、えびら(干し網)に重ならないよう広げて干します♪」(本文8~13行)
(2) 甲2発明
よって,甲2には,次の発明(以下,「甲2発明」という。)が掲載されている。
「生姜を繊維に直角にスライスして,お湯を張った圧力鍋にスライスした生姜を置いて蓋を閉めて蒸す,ウルトラ蒸しショウガの作り方。」
3 甲3
(1) 甲3の記載事項
甲3には,以下の記載がある。
ア 「昭和60年5月,厚生省から漢方エキス製剤の工程管理を主要目的とする通達がなされ,一製剤中2成分(指標物質: marker substance)以上の定量の義務づけがなされた.」(333頁本文1~2行)
イ 「今回,著者らは当厚生省通達に関連して組織された厚生科学研究『漢方エキス製剤』班の一員として,生薬の指標成分検索を行った.そのうち,生姜(および乾姜)は漢方処方での配合頻度がきわめて高く,医療用漢方製剤143処方中71処方に配合され,指標物質の解決が急務である生薬の一つと考えられる1)。『生姜』成分を漢方エキス製造工程条件に相当する各条件下で比較検討した結果,従来より主要辛味成分2)ならびに有効成分3)として報告される6-gingerol(6-G)が指標物質として満足する結果を得たので報告する.」(333頁本文11~15行)
ウ 「なお本文中にて単に生姜と記されたものは生ショウガの乾燥品,干(乾)生姜を意味する.」(333頁下から4~3行)
エ 「8. 乾姜調整時の“蒸乾”処理による6-Gと6-Sへの影響
実験材料は市場品生ショウガを用いた.塊茎の外皮を取り除き,粗切とし混ぜ合わせたものを一定量ガーゼに包み,2,4,6,8,10および12時間の蒸す処理を行った後,それぞれ室内で4日間乾燥し,引き続き40℃で強制乾燥した.また別に凍結乾燥処理だけのもの(鮮姜),ならびに蒸さずに乾姜と同様に乾燥させたもの(自家製生姜)を比較材料として調製し,“蒸乾”処理による6-Gと6-shogaol(6-S)変換への影響についてHPLCを用い検討した(Fig.8).また参考までに生ショウガより調製した鮮姜(凍結乾処理)と自家製生姜ならびに近年入手した市場品姜類生薬の6-Gと6-S含有量をTABLEIIに示す.」(337頁6~10行)
オ 「
」(337頁上)
カ 「
」(337頁中)
キ 「実験VIII:“蒸乾”処理による6-Gへの影響(Fig.8)については,鮮姜(FD)と自家製生姜(0hr)の測定値から,通常の乾燥処理においては,6-Gはほとんど影響を受けないものと考えられる.蒸気で“蒸す”処理(2~12hr)においては,処理時間に比例して6-G含量は徐々に低下し逆に6-S含量は徐々に増加するが,6-Gの半減値(50%分解)に要す時間は11時間以上であり,漢方湯液の調製工程を考慮すると6-Gは十分安定な物質といえる.」(338頁22~25行)
ク 「以上の結果から,『生姜』の辛味成分ならびに有効成分である6-gingerolが漢方製剤の製造工程管理ならびに品質評価のための指標物質の条件を満足するものと考えられた.また6-shogaolの物性,移行率,安定性等に関しては現在検討中であるが,6-shogaolは6-gingerolの脱水反応(修治)により二次的に生成され,生ショウガ(鮮姜)中には微量しか含まれない成分であることは明らかである.したがって,古来より漢方で生ショウガ(鮮姜)もしくはその代用品である『生姜(干生姜)』を用いる処方においては6-shogaolが微量であることが処方の一つの特徴となり,当然6-gingerolの定量が要求されるが,修治された乾姜を用いる処方においては逆に6-shogaol含量の高いことが特徴となり,6-shogaolは乾姜を用いた処方の品質評価の重要な成分と推察する.」(338頁33~39行)
(2) 甲3発明
よって,甲3には,次の発明(以下,「甲3発明」という。)が記載されている。
「市場品生ショウガの塊茎の外皮を取り除き,粗切とし混ぜ合わせたものを一定量ガーゼに包み,6,8,10および12時間の蒸す処理を行う実験方法。」
4 甲4
甲4には,以下の記載がある。
「高圧滅菌器[autoclave] オートクレーブともいう.水を入れた密閉容器で,100℃以上に熱して水蒸気加圧し,水溶液や器具類を滅菌するのに用いる釜.通常,常圧+1kg/cm2(120℃)で30分前後水蒸気加圧する.」(482頁右欄3~7行)
5 甲5
甲5には,以下の記載がある。
「乾姜は,生の生姜を湯通しあるいは蒸した後,乾燥させたものであり,成分的には,生の生姜(鮮姜),乾燥した生姜(乾生姜)とほぼ同一であるが,生のものより,加熱による脱水反応でジンゲロールから2次的に生じたショウガオールの含有量が多く7),辛味が強い。ショウガオールの量は,加熱時間に比例して増加する。」(621頁右欄17行~622頁左欄2行)
6 甲6
甲6には,以下の記載がある。
「冷凍 汚れた部分を除き、水気をふいてから小分けしてラップで包み、保存袋に(SOS参照)
→凍ったまま調理」(23頁しょうが(根しょうが)欄右上)
7 甲7
甲7には,以下の記載がある。
ア 「圧力鍋:鋳物製が多いが板製もある。家庭用は内部圧力が0.6~1.3気圧になるようにつくられ,沸点が普通の鍋より15~25℃も高くなるので,加熱時間が短縮できる。」(79頁3~4行)
イ 「
」(79頁左下)
8 甲8
甲8には,以下の掲載がある。
「乾姜は生姜よりも値段も高く、体を中から温めてくれる生薬として珍重されていて、これがウルトラ蒸しショウガの正体。」
9 甲9
甲9には,以下の記載がある。
「【0046】
冷凍処理は、パン生地を-10~-40℃の温度条件下に保持することにより行うことができる。温度条件は、一定であってもよいが、適宜変化させることもできる。」
10 甲10
甲10には,以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
豆腐加工食品を製造する方法であって、
(a)凍り豆腐1.0g当たり、水2.0g~7.0gを、20℃~80℃の温度で混合する工程、
(b)得られた混合物を容器に封入し、90℃~120℃、1分~100分の加熱処理を施す工程、及び、
(c)加熱処理された混合物に対して、-3℃~-40℃、0.5時間以上の低温処理を施す工程を含んでなる方法。」
イ 「【請求項5】
工程(c)の低温処理が、冷凍処理と熟成処理とを含んでなり、
冷凍処理を、-10℃~-40℃で、0.5時間~10時間実施し、
熟成処理を、-3℃~-30℃で、0日以上実施する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。」
第5 申立理由についての判断
1 理由1(進歩性)について
(1) 本件発明1について
ア 甲1発明に基づく進歩性
(ア) 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「凍結乾燥後のショウガ粉末」は本件発明1の「冷凍工程後のショウガ」と,処理後のショウガという点において共通している。そして,甲1発明においてショウガ粉末が凍結乾燥後のものであることから,原料であるショウガを凍結乾燥処理する工程が存在することは明らかである。
また,甲1発明の「オートクレーブによる高温加熱の条件で加熱」することは,本件発明1の「加熱処理する」「加熱工程」に相当する。同様に,甲1発明の「試料を作成するショウガの加工方法」は,本件発明1の「ショウガ加工物の製造方法」に相当する。
よって,本件発明1と甲1発明とは,次の点において一致し,以下の点において相違する。
(一致点)
「処理後のショウガを,加熱処理する加熱工程と,
を有するショウガ加工物の製造方法。」
(相違点1-1)
処理について,本件発明1は「原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程」であるのに対し,甲1発明は「凍結乾燥」処理する工程である点
(相違点1-2)
処理後のショウガを加熱処理する加熱工程について,本件発明1は「水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で5時間以上」であるのに対し,甲1発明は「オートクレーブによる高温加熱」である点
(イ) 判断
上記相違点について検討する。まず,相違点1-1について,「凍結乾燥」とは,食品を急速凍結し,これを真空中に入れて氷を昇華させ乾燥を行なうことで,物理的・化学的な変化を抑えて多孔質構造とし,復元性のよい乾燥食品を得ることをいう(「新・櫻井 総合食品事典」の680頁等参照)から,「冷凍」の,単に「食品中の水を氷の結晶に変える」という通常の意味(「新・櫻井 総合食品事典」の1073頁等参照)から考えて,「凍結乾燥」は「冷凍処理」や「冷凍工程」とは異なるものである。
また,「冷凍工程」について,本件特許明細書の【0023】~【0026】の記載を参照すると,好ましい温度範囲,時間,冷凍の手段,及び原料であるショウガの形態について,それぞれある程度の任意性が許容される旨の説明がされているが,いわゆる「凍結乾燥」を含み得ることの記載や示唆はない。
また,本件特許明細書の【0028】の「冷凍工程と蒸気加熱工程とは必ずしも連続に行う必要はなく、これらの工程の間に他の工程を含んでいてもよい。また、冷凍工程と、蒸気加熱工程をそれぞれ異なる場所で行ってもよい。」との記載は,「他の工程」として,減圧して水分を昇華させ乾燥させる特殊な工程までを想定しているとも認められない。凍結乾燥においては,凍結と減圧・乾燥は不可分の工程であるから,当該減圧・乾燥は「これらの工程の間に他の工程を含んでいてもよい」と任意的に扱われるものとはいえない。
そして,甲1発明における「凍結乾燥」を,「冷凍処理」や「冷凍工程」に変更することは,上述のように「凍結乾燥」と「冷凍」とは技術的に異質のものであることから,当業者にとって容易とはいえない。また,甲2~10を参照しても「凍結乾燥」を「冷凍処理」や「冷凍工程」に変更し得ることや,同視できることを示唆する証拠も提示されていない。
次に,相違点1-2について検討する。
甲4から,オートクレーブによる高温加熱は,水蒸気存在下で行なわれ,常圧+1kg/cm2,すなわち0.1Mpa程度の圧力,120℃程度の温度で行なわれると認められる。よって,甲1発明において,加熱工程を,水蒸気共存下,温度100℃以上150℃以下の条件で行なう程度のことは,当業者が容易に想到し得る。
しかし,オートクレーブによる高温加熱する時間について,甲1には「一定の時間以内」と記載されるのみである。一般に,オートクレーブによる滅菌処理では通常30分前後の加熱時間であることや(甲4),甲3のFig.8を参照すると,6-ショウガオールが6-ジンゲロールの含有量を上回るには,11時間以上の時間が必要であることを勘案すると,甲1発明において,加熱工程を5時間以上とすることで,本件特許明細書に記載されて実施例1のように6-ショウガオールの含有量が6-ジンゲロールの含有量を上回る程度の6-ショウガオールの富化が進むことは,当業者が容易に想起し得るものではない。
そして,本件発明1は,相違点1-1及び相違点1-2に係る構成を採用することにより,実施例1における6-ショウガオール/6-ジンゲロール=1.82となる程度の6-ショウガオールの富化という効果を奏するものと認められる。
(ウ) 小括
したがって,本件発明1は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
イ 甲2発明に基づく進歩性
(ア) 対比
本件発明1と甲2発明を対比すると,甲2発明の「生姜を繊維に直角にスライス」することは,本件発明1の「原料であるショウガを」「処理する」「工程」に相当する。また,甲2発明の「お湯を張った圧力鍋にスライスした生姜を置いて蓋を閉めて蒸す」ことは,本件発明1の「ショウガを,水蒸気共存下,温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理する蒸気加熱工程」に相当し,甲2発明の「ウルトラ蒸しショウガの作り方」は,本件発明1の「ショウガ加工物の製造方法」に相当する。
よって,本件発明1と甲2発明とは,次の点において一致し,以下の点において相違する。
(一致点)
「原料であるショウガを処理する工程と,
該工程後のショウガを,水蒸気共存下,温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理する蒸気加熱工程
を有するショウガ加工物の製造方法。」
(相違点2-1)
原料であるショウガを処理する工程について,本件発明1は「冷凍処理する冷凍工程」であるのに対し,甲2発明は「繊維に直角にスライス」する工程である点
(相違点2-2)
ショウガを加熱処理する蒸気加熱工程の時間が,本件発明1は「5時間以上」であるのに対し,甲2発明ではそのような特定がない点
(イ) 判断
上記相違点について検討する。まず,相違点2-1について,甲1,3~10を参照しても,甲2発明において,生姜を圧力鍋で蒸す工程の前に,冷凍工程を採用することの動機付けとなる掲載や示唆は存在しない。甲2発明においては,ショウガオールの富化という目的はなく,開示されたレシピの改善の余地についても甲2は全く触れるところがない。
甲6は,しょうがの保存方法として冷凍が一般的であることを示している(上記第4 6)が,甲2発明は冷凍保存された生姜を前提とするものではなく,甲2を参照しても,原料として冷凍保存された生姜を使用することは示唆されていない。また,冷凍処理によってショウガオールが増加する点については,甲1,3~10にも記載や示唆が見られない。
次に,相違点2-2について検討すると,相違点2-2は,蒸気加熱工程の時間に関するものである点で,上記相違点1-2と同様であるから,上記ア(イ)に示したとおり,当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
そして,本件発明1は,相違点2-1及び相違点2-2に係る構成を採用することにより,6-ショウガオールの富化という効果を奏するものと認められる。
(ウ) 小括
したがって,本件発明1は,甲2発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
ウ 甲3発明に基づく進歩性
(ア) 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると,甲3発明の「市場品生ショウガの塊茎の外皮を取り除き,粗切とし混ぜ合わせたものを一定量ガーゼに包」むことは,本件発明1の「原料であるショウガを」「処理する」「工程」に相当する。また,甲3発明の「6,8,10および12時間の蒸す処理を行う」ことは,本件発明1の「ショウガを、水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で5時間以上加熱処理する蒸気加熱工程」に相当する。また,甲3発明の「実験方法」は,本件発明1の「ショウガ加工物の製造方法」に相当する。
よって,本件発明1と甲3発明とは,次の点において一致し,以下の点において相違する。
(一致点)
「原料であるショウガを処理する工程と,
該工程後のショウガを,水蒸気共存下,温度100℃以上150℃以下の条件で5時間以上加熱処理する蒸気加熱工程と,
を有するショウガ加工物の製造方法。」
(相違点3)
原料であるショウガを処理する工程について,本件発明1は「冷凍処理する冷凍工程」であるのに対し,甲3発明は「外皮を取り除き,粗切とし混ぜ合わせたものを一定量ガーゼに包」む工程である点
(イ) 判断
上記相違点について検討する。相違点3は,原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程の有無に関するものである点で,上記相違点2-1と実質的に同じであるから,上記イ(イ)と同様の理由により,本件発明1は,甲3発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
甲3には,「鮮姜:生ショウガを凍結乾燥処理したもの」についての記載があるが,凍結乾燥処理は冷凍工程とは異なるものであるし,これを「蒸乾」することについては記載も示唆もない。また,甲3は学会誌に掲載された漢方薬の品質評価についての論文であり,その目的は,漢方製剤中の成分の定量に関する厚生省の通達を受け,製造工程管理のための指標物質を検索することであって,6-gingerol(6-G)がその条件を満たすこと,及び6-shogaol(6-S)がその条件を満たし得ることを報告したものにすぎない(上記第4 3(1)ア,イ及びク)から,蒸気加熱工程の時間に比例して6-Gが減少し6-Sが増加することが記載されている(上記第4 3(1)オ及びキ)からといって,甲3発明において,ショウガオールをさらに富化させるようにする動機付けは得られない。
(ウ) 小括
したがって,本件発明1は,甲3発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
エ まとめ
したがって,本件発明1は,甲1発明,甲2発明又は甲3発明のいずれに基いても当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
(2) 本件発明2~4について
本件発明2~4は,本件発明1の発明特定事項をすべて含み,さらに他の発明特定事項を付加したものであるから,上記(1)ア(イ),イ(イ)及びウ(イ)と同様の理由により,甲1発明,甲2発明又は甲3発明のいずれに基いても,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3) 小括
よって,請求項1~4に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえず,同法第113条第2号に該当するとはいえない。
2 理由2(実施可能要件)について
(1) 特許異議申立人は,本件特許明細書の実施例を参照しても「高知県産の大ショウガの根茎を用い」て,「温度-18℃に維持された冷凍庫に15時間保管し」,「水蒸気共存下、温度121℃、圧力0.15MPaで5時間蒸気加熱処理した」一例しか記載されていないことを理由に,「具体的にどのようなショウガを用い」て,「具体的にどのような条件の範囲で冷凍処理を行」ない,「具体的どのような条件の範囲で蒸気加熱処理を行えば、本件特許発明の効果を奏する物が製造できるか不明である」とし,「冷凍処理を行わずに、同時間、水蒸気共存下で加熱処理を行った場合」及び「水蒸気が共存しない状態で、同様に加熱を行った場合の比較例が記載されて」いないことから,「冷凍処理」及び「水蒸気共存の技術的意義が不明である」とし,「さらに、ショウガオールがどの程度の量まで増加すれば(例えば、ショウガオール○mg/g以上など)、本件特許発明の効果が奏されたといえるのかが不明である」として,「したがって、請求項1~4は、実施可能要件を満たさない。」と主張する。(意見書22頁11行~23頁17行)
(2) しかし,本件特許明細書の【0019】には,「本発明のショウガ加工物の製造方法(以下、『本発明の製造方法』と記載する場合がある。)は、原料となるショウガを冷凍処理する冷凍工程と、冷凍工程後のショウガを、水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理する蒸気加熱工程と、を有することを特徴とする。」,「本発明の製造方法では、原料となるショウガを冷凍した後に、水蒸気共存下、上記特定の温度条件で蒸気加熱処理することにより、従来の冷凍処理を行わずに蒸気加熱処理を行った場合と比較して、ジンゲロール類からのショウガオール類への変換効率が格段に向上し、生産性良くショウガオール類が富化されたショウガ加工物を製造することができる。」と記載され,【0003】~【0007】と併せて本件特許によるショウガオール富化の機序が示されている。また,【0045】以降には,実施例1のショウガ加工物の製造方法によって,6-ショウガオール/6-ジンゲロール=1.82となる程度の6-ショウガオールの富化が確認されている。そうすると,特許請求の範囲に含まれる製造方法のうち,一例しか開示されていないとしても,当業者が実施できないというものではない。
(3) したがって,特許異議申立人の上記主張には理由がなく,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず,同法第113条第4号に該当するとはいえない。
3 理由3(サポート要件,明確性)について
(1) 第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 特許異議申立人は,上記2(1)と同様の根拠を挙げて,「高知県産の大ショウガに関する知見」や「実施例に示される根茎以外の部位に関する知見をショウガ全般についてまで拡張ないし一般化することはできない。」,請求項1の「冷凍処理」や請求項2の「-10℃以下」との条件では「発明の課題を解決するための手段が十分に反映されているとはいえない」,「5時間蒸気加熱した知見を5時間を超える時間まで拡張ないし一般化できるとはいえない。」,「実施例等の記載から、発明の課題が解決されることを認識できず、請求項に、発明の課題を解決するための手段が十分に反映されているとはいえない。」として,「請求項1、及びこれを引用する請求項2~4は、サポート要件を満たさない。」と主張する。(意見書23頁18行~25頁16行)
イ 特許異議申立人は,「ショウガ全般についてまで拡張ないし一般化することはできない」ことの根拠として,「甲3号証のTABLEII.」(当審注:特許異議申立書23頁3行の「甲9号証」は「甲3号証」の誤記と認める。)を挙げ,「ショウガといっても様々な種類があり」「その成分は様々である。」としているが,甲3のTABLEII.は,ショウガそのものではなく,生ショウガに乾燥・凍結乾燥等の処理を施した姜類生薬としての生姜(ショウキョウ)や鮮姜(センキョウ),乾姜(カンキョウ)についての表である(上記第4 3(1)ウ,エ及びカ)。
ウ 冷凍処理の条件に関して,本件特許明細書の【0023】~【0026】の記載を参照すると,好ましい温度範囲,時間,冷凍の手段,及び原料であるショウガの形態について,それぞれある程度の任意性が許容される旨の説明がなされており,また,蒸気加熱の時間については,甲3及び甲5の記載(上記第4 3(1)キ及び5)から見て,長時間になるほどショウガオールの富化が進むことは周知の技術事項であったといえるから,「5時間蒸気加熱した知見を5時間を超える時間まで拡張ないし一般化」することはできるものと認められる。
エ したがって,特許異議申立人の上記主張には理由がなく,本件特許の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず,同法第113条第4号に該当するとはいえない。
(2) 第36条第6項第2号(明確性)について
ア 特許異議申立人は,「冷凍処理を行わずに、同時間、水蒸気共存下で加熱処理を行った比較例」及び「水蒸気共存しない状態で、同様に加熱を行った場合の比較例が記載されて」いないことから,「冷凍処理」及び「水蒸気処理の技術的意義が理解できず、結果として的確に進歩性等の判断ができる程度に発明が明確でない。」とし,「ショウガオールがどの程度の量(例えば、ショウガオール○mg/g以上など)になれば、本件特許発明の効果が奏されたといえるのかが不明であり、結果として、本件特許発明の範囲が不明確となっている。」と主張する。(意見書25頁22行~26頁16行)
イ しかし,請求の範囲に記載された「冷凍処理」及び「水蒸気処理」の意味は,その記載からそれぞれ,「冷凍」による「処理」,「水蒸気」による「処理」と明確に理解でき,特許を受けようとする発明は明確である。
ウ したがって,特許異議申立人の上記主張には理由がなく,本件特許の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできず,同法第113条第4号に該当するとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり,特許異議申立ての理由1~3によっては,請求項1~4に係る特許が,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから,同法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできず,請求項1~4に係る特許が,同法第36条第4項第1号若しくは第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから,同法第113条第4号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また,他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700119