特許異議申立
2017-700090
プラスチック眼鏡レンズ
- 審判番号
- 2017-700090
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-099857外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年02月02日
- 審決日
- 2018年05月15日
- 公報発行日
- 2018年08月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ニコン・エシロール
- 【権利者代理人】志賀 正武
- 【権利者代理人】高橋 詔男
- 【異議申立人】山下 桂
- 分類
- P1651.537-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第5項、特許法第2条第3項第1号、特許法第126条第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5961437号発明「プラスチック眼鏡レンズ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5961437号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について、訂正することを認める。
特許第5961437号の請求項1、2、4-11に係る特許を維持する。
特許第5961437号の請求項3に係る特許についての申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5961437号の請求項1ないし11に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成24年4月25日に特許出願されたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 7月 1日:特許権の設定登録
平成28年 8月 2日:特許掲載公報発行
平成29年 2月 2日:特許異議の申立て(特許異議申立人山下桂)
平成29年 3月22日:取消理由通知書
平成29年 5月22日:訂正請求書及び意見書
平成29年 5月25日:通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成29年 6月26日:意見書(特許異議申立人)
平成29年 7月 7日:訂正拒絶理由通知書
平成29年 8月31日:取消理由通知書(決定の予告)
平成29年11月 2日:訂正請求書及び意見書
平成29年11月 8日:通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成29年12月 8日:意見書(特許異議申立人)
平成29年12月22日:取消理由通知書
平成30年 3月 6日:訂正請求書(以下この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求によりなされた訂正を「本件訂正」という。)及び意見書
平成30年 3月 9日:通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成30年 4月12日:意見書(特許異議申立人)
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の内容
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲について、以下のとおり訂正することを求めるものである。
なお、平成29年5月22日付け訂正請求書及び平成29年11月2日付け訂正請求書によりなされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許権者は、本件特許の請求項1に、
「熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から構成されるプラスチック基材と、該プラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱することにより形成された前記色素を含有する染色層と、を備えてなるプラスチック眼鏡レンズであって、
前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面およびその表面から均一な深さの範囲において、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層であり、
前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長380nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有することを特徴とするプラスチック眼鏡レンズ。」とあったものを、
「熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から構成されるプラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱することにより前記色素を含有する染色層を形成すること、を備えてなるプラスチック眼鏡レンズの製造方法であって、
前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面から均一な深さを有し、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層であり、
前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有することを特徴とするプラスチック眼鏡レンズの製造方法。」(下線は訂正箇所を示す。以下同じ。)と訂正することを請求する。
本件特許の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4ないし11についても同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許権者は、本件特許の請求項2に、
「前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面に1層または2層以上の成分層が形成された、請求項1に記載のプラスチック眼鏡レンズ。」とあったものを、
「前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面に1層または2層以上の成分層が形成された、請求項1に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。」と訂正することを請求する。
(3)訂正事項3
特許権者は、本件特許の請求項3を削除する訂正をすることを請求する。
(4)訂正事項4
特許権者は、本件特許の請求項4に、
「前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~560nmの間に、半値幅が40nm~90nmの主吸収ピークを有する、請求項1または2に記載のプラスチック眼鏡レンズ。」とあったものを、
「前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~560nmの間に、半値幅が40nm~90nmの主吸収ピークを有する、請求項1または2に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。」と訂正することを請求する。
(5)訂正事項5
特許権者は、本件特許の請求項5に、
「前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長590nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有する、請求項1または2に記載のプラスチック眼鏡レンズ。」とあったものを、
「前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長590nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有する、請求項1または2に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。」と訂正することを請求する。
(6)訂正事項6
特許権者は、本件特許の請求項6に、
「前記染色層は、染料を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズ。」とあったものを、
「前記染色層は、染料を含有する、請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。」と訂正することを請求する。
(7)訂正事項7
特許権者は、本件特許の請求項7に、
「前記成分層の少なくとも1層は、有機樹脂コート剤から形成された、請求項2~6のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズ。」とあったものを、
「前記成分層の少なくとも1層は、有機樹脂コート剤から形成された、請求項2、または請求項2を引用する請求項4~5、または請求項2を引用する請求項6、または請求項2を引用する請求項4または5を引用する請求項6のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。」と訂正することを請求する。
(8)訂正事項8
特許権者は、本件特許の請求項8に、
「前記有機樹脂コート剤は、熱可塑性有機樹脂コート剤または熱硬化性有機樹脂コート剤である、請求項7に記載のプラスチック眼鏡レンズ。」とあったものを、
「前記有機樹脂コート剤は、熱可塑性有機樹脂コート剤または熱硬化性有機樹脂コート剤である、請求項7に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。」と訂正することを請求する。
(9)訂正事項9
特許権者は、本件特許の請求項9に、
「前記成分層の少なくとも1層は、ハードコート層である、請求項2~8のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズ。」とあったものを、
「前記成分層の少なくとも1層は、ハードコート層である、請求項2、または請求項2を引用する請求項4~5、または請求項2を引用する請求項6、または請求項2を引用する請求項4または5を引用する請求項6、または請求項7~8のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。」と訂正することを請求する。
(10)訂正事項10
特許権者は、本件特許の請求項10に、
「前記成分層の少なくとも1層は、前記ハードコート層に接するプライマー層である、請求項9に記載のプラスチック眼鏡レンズ。」とあったものを、
「前記成分層の少なくとも1層は、前記ハードコート層に接するプライマー層である、請求項9に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。」と訂正することを請求する。
(11)訂正事項11
特許権者は、本件特許の請求項11に、
「前記染色層は、前記色素とは異なる有機系色素を少なくとも1種含有する、請求項1~10のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズ。」とあったものを、
「前記染色層は、前記色素とは異なる有機系色素を少なくとも1種含有する、請求項1、2、4~10のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。」と訂正することを請求する。
(12)訂正事項12
特許権者は、本件特許の明細書の段落【0007】に、
「本発明の第1の態様に従えば、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から構成されるプラスチック基材と、該プラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱することにより形成された前記色素を含有する染色層と、を備えてなるプラスチック眼鏡レンズであって、前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面およびその表面から均一な深さの範囲において、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層であり、前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長380nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有するプラスチック眼鏡レンズが提供される。」とあったものを、
「本発明の第1の態様に従えば、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から構成されるプラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱することにより前記色素を含有する染色層を形成すること、を備えてなるプラスチック眼鏡レンズの製造方法によって、前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面から均一な深さを有し、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層であり、前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有することを特徴とするプラスチック眼鏡レンズが提供される。」と訂正することを請求する。
(13)訂正事項13
特許権者は、本件特許の明細書の段落【0009】を削除する訂正をすることを請求する。
2 訂正要件についての判断
(1)訂正における一群の請求項の存否
訂正事項1に係る、訂正前の請求項1について、請求項2ないし11は請求項1の記載を引用するものであって、請求項1ないし11は一群の請求項であり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して請求項2ないし11が訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし11に対応する訂正後の請求項1ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の適否
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
a 本件訂正前の請求項1に係る発明の対象は、「プラスチック眼鏡レンズ」という「物」であるが、本件訂正前の請求項1では、「該プラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱することにより形成された前記色素を含有する染色層」と特定されていることから、プラスチックレンズ眼鏡レンズの「染色層」に関し、その「製造方法」が記載され、本件訂正前の請求項1は、物の発明において、その物の製造方法の記載を含み、発明が不明確である場合に該当する。そして、訂正事項1の「熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から構成されるプラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱することにより前記色素を含有する染色層を形成すること、を備えてなるプラスチック眼鏡レンズの製造方法」とすることで発明を明確にするもので、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
b 訂正事項1の「前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面から均一な深さを有し、」は、本件訂正前の請求項1の「前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面およびその表面から均一な深さの範囲において、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層であり」における「前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面およびその表面から均一な深さの範囲」を明確にするために、染色層の深さを明確に特定するもので、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
c 訂正事項1の「波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有する」は、本件訂正前の請求項1の「波長380nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有する」の波長範囲の下限値を限定するもので、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であるか否かについて
a 訂正事項1の「熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から構成されるプラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱することにより前記色素を含有する染色層を形成すること、を備えてなるプラスチック眼鏡レンズの製造方法」については、願書に添付した明細書の【0038】ないし【0043】に、コート法として、記載されている。
b 訂正事項1の「前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面から均一な深さを有し、」は、本件訂正前の記載を明瞭とするものであり、願書に添付した明細書の【0025】にも記載されている。
c 訂正事項1の「波長500nm~650nmの間に、・・・主吸収ピークを有する」は、願書に添付した明細書の【0026】に、「色素(b)」及び「色素(c)」の主吸収ピークとして記載されている。
d 以上のとおり、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
a 訂正事項1のうち請求項1に係る発明のカテゴリを変更する訂正について検討する。本件特許の明細書の段落【0002】ないし【0006】の記載から、本件特許の発明の課題は、「特定波長の可視光線の吸収性能に優れたプラスチック眼鏡レンズを提供する」ことであり、その解決手段は、染色層に含有される「色素」が、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、所定波長の間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有することである。本件訂正後においても、前記発明の課題及びその解決手段は同じである。
してみると、本件訂正前後で請求項1に係る発明の課題には、何ら変更はなく、対応する課題解決手段も、実質的な変更はない。
したがって、訂正事項1のうちカテゴリを変更する訂正後の請求項1に係る発明の技術上の意義は、訂正前の請求項1に係る発明の技術上の意義を実質上拡張し、又は変更するものでない。
また、「物の発明」の実施(特許法第2条第3項第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(同第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(同第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。
すると、「物の発明」の実施においては、物の生産方法を特定するものではないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法を「その方法」に特定している点で相違するが、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。
そして、本件訂正前の請求項1に係る発明は、「該プラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱する」の製造方法により製造された「プラスチック眼鏡レンズ」という物が特定された「物の発明」であるから、前記製造方法により製造された「プラスチック眼鏡レンズ」に加え、前記製造方法により製造された「プラスチック眼鏡レンズ」と同一の構造・特性を有する物も、含むものである。一方、本件訂正後の請求項1に係る発明は、前記特定の製造方法により「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法で製造された「プラスチック眼鏡レンズ」のみを特許発明の実施に含むものである。
したがって、訂正事項1のうちカテゴリを変更する訂正後の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるから、訂正事項1のうちカテゴリを変更する訂正によって第三者に不測の不利益が生じるおそれはない。よって、訂正事項1のうちカテゴリを変更する訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。
以上のとおり、訂正事項1の「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」とする訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
b 訂正事項1の「前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面から均一な深さを有し、」は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
c 訂正事項1の「波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有する」は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
d 以上のとおり、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2
訂正事項2は、請求項1に係る発明と同様に請求項2に係る発明を「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と訂正するもので、訂正事項1と同様に明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3
訂正事項3は、請求項3を削除するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項4
訂正事項4は、請求項1に係る発明と同様に請求項4に係る発明を「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と訂正するもので、訂正事項1と同様に明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項5
訂正事項5は、請求項1に係る発明と同様に請求項5に係る発明を「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と訂正するもので、訂正事項1と同様に明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ 訂正事項6
訂正事項6は、請求項1に係る発明と同様に請求項6に係る発明を「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と訂正し、かつ請求項3が削除されることに伴い、引用する請求項を「請求項1~5のいずれか1項」から「請求項1、2、4、5のいずれか1項」と訂正するもので、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
キ 訂正事項7
訂正事項7は、請求項1に係る発明と同様に請求項7に係る発明を「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と訂正し、かつ請求項7において「前記成分層」が請求項2の「成分層」であることを明瞭にするために、引用する請求項を「請求項2~6のいずれか1項」から「請求項2、または請求項2を引用する請求項4~5、または請求項2を引用する請求項6、または請求項2を引用する請求項4または5を引用する請求項6のいずれか1項」と訂正するもので、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ク 訂正事項8
訂正事項8は、請求項1に係る発明と同様に請求項8に係る発明を「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と訂正するもので、訂正事項1と同様に明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ケ 訂正事項9
訂正事項9は、請求項1に係る発明と同様に請求項9に係る発明を「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と訂正し、かつ請求項9において「前記成分層」が請求項2の「成分層」であることを明瞭にするために、引用する請求項を「請求項2~6のいずれか1項」から「請求項2、または請求項2を引用する請求項4~5、または請求項2を引用する請求項6、または請求項2を引用する請求項4または5を引用する請求項6、または請求項7~8のいずれか1項」と訂正するもので、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
コ 訂正事項10
訂正事項10は、請求項1に係る発明と同様に請求項10に係る発明を「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と訂正するもので、訂正事項1と同様に明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
サ 訂正事項11
訂正事項11は、請求項1に係る発明と同様に請求項11に係る発明を「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と訂正し、かつ請求項3が削除されることに伴い、引用する請求項を「請求項1~10のいずれか1項」から「請求項1、2、4~10のいずれか1項」と訂正するもので、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
シ 訂正事項12
訂正事項12は、訂正事項1に伴い、請求項1に関する発明の詳細な説明の記載を整合させるために、請求項1に関する記載を訂正事項1と同様に訂正するもので、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ス 訂正事項13
訂正事項13は、訂正事項3により請求項3が削除されたことに伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させるために、請求項3に関する記載を削除するもので、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
セ 小括
上記アないしスのとおり、本件訂正請求による訂正事項1ないし13は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項の規定に適合し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について本件訂正が認められるから、請求項1、2、4ないし11に係る特許は本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1、2、4ないし11に記載された事項によりそれぞれ特定される次のとおりのものである(以下、本件特許の請求項1、2、4ないし11に係る発明をそれぞれ「本件発明1」等といい、本件発明1、2、4ないし11を総称して「本件発明」という。)。
【請求項1】
熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から構成されるプラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱することにより前記色素を含有する染色層を形成すること、を備えてなるプラスチック眼鏡レンズの製造方法であって、
前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面から均一な深さを有し、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層であり、
前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有することを特徴とするプラスチック眼鏡レンズの製造方法。
【請求項2】
前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面に1層または2層以上の成分層が形成された、請求項1に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~560nmの間に、半値幅が40nm~90nmの主吸収ピークを有する、請求項1または2に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長590nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有する、請求項1または2に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。
【請求項6】
前記染色層は、染料を含有する、請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。
【請求項7】
前記成分層の少なくとも1層は、有機樹脂コート剤から形成された、請求項2、または請求項2を引用する請求項4~5、または請求項2を引用する請求項6、または請求項2を引用する請求項4または5を引用する請求項6のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。
【請求項8】
前記有機樹脂コート剤は、熱可塑性有機樹脂コート剤または熱硬化性有機樹脂コート剤である、請求項7に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。
【請求項9】
前記成分層の少なくとも1層は、ハードコート層である、請求項2、または請求項2を引用する請求項4~5、または請求項2を引用する請求項6、または請求項2を引用する請求項4または5を引用する請求項6、または請求項7~8のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。
【請求項10】
前記成分層の少なくとも1層は、前記ハードコート層に接するプライマー層である、請求項9に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。
【請求項11】
前記染色層は、前記色素とは異なる有機系色素を少なくとも1種含有する、請求項1、2、4~10のいずれか1項に記載のプラスチック眼鏡レンズの製造方法。
第4 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立て理由の概要
(1)理由1:本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
ア 理由1-1
本件訂正前の請求項1は、「プラスチック眼鏡レンズ」という物の発明であるが、請求項1の「染色液を塗布し、加熱することにより形成された」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
また、上記請求項1の記載を直接あるいは間接的に引用する請求項2ないし11も、該請求項1と同様に物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。
イ 理由1-2
本件訂正前の請求項1には「前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面およびその表面から均一な深さの範囲において、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層であり、」と記載されているが、当該記載では、「表面から均一な深さ」と「範囲」とがどのような関係にあるのか不明である。
したがって、請求項1ないし11に係る発明は明確でない。
(2)理由2:本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
ア 理由2-1
本件訂正前の請求項1において、「プラスチック基材」を構成する「熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂」が、実施例で用いられている樹脂以外の樹脂を広く含むものであるが、該樹脂の全てにおいて、本件特許の発明の課題を解決できているとはいえない。
イ 理由2-2
本件訂正前の請求項1において、「前記色素は、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有する」のように色素を特定するものであり、プラスチック基材に実際に染色層を形成してみなければ、得られるプラスチック眼鏡レンズにおいてどのような光吸収性能が得られるのか予測することができず、実施例に記載されたもの以外のすべてのプラスチック眼鏡レンズにおいて、本件特許の発明の課題を解決できているとはいえない。
ウ 理由2-3
本件特許の明細書には、実施例として、例えば段落【0060】に染色手順が記載されているのみであり、かかる染色手順で染色されたプラスチックレンズが、本件訂正前の請求項1のように「前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面およびその表面から均一な深さの範囲において、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層」を有するのか否か不明である。
エ 理由2-4
本件特許の明細書には、その段落【0028】に「染色層の厚さが0.1μm未満では、染色層において、目的とする波長域の可視光線の吸収性能が得られないことがある。」と記載されているが、本件訂正前の請求項1は、染色層の厚さを特定するものではなく、染色層が0.1μm未満である場合も含んでおり、本件特許の発明の課題を解決できているとはいえない。
(3)理由3:本件訂正前の請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ「訂正前発明1」ないし「訂正前発明11」といい、訂正前発明1ないし11を総称して「訂正前発明」という。)は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証ないし甲第8号証(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲8」という。)に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲1:特表2004-514774号公報
甲2:特開2003-215302号公報
甲3:特開昭61-228402号公報
甲4:特公昭53-39910号公報
甲5:特開2007-286189号公報
甲6:国際公開第2006/054700号
甲7:特開2011-144280号公報
甲8:特開2008-111223号公報
ア 甲1に記載された発明に基づく進歩性欠如
基材に特定の染料を含む染色液を塗布・乾燥させて得られる眼鏡レンズ用途の光学フィルターに含有される当該染料として、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長380nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有するものを用いることは周知技術(例.甲5)であり、訂正前発明は、甲1に記載された発明及び周知技術に基づけば、当業者が容易に発明することができたものである。
イ 甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如
訂正前発明は、甲2に記載された発明及び前記周知技術に基づけば、当業者が容易に発明することができたものである。
ウ 甲3に記載された発明に基づく進歩性欠如
訂正前発明は、甲2に記載された発明及び前記周知技術に基づけば、当業者が容易に発明することができたものである。
2 取消理由通知(平成29年3月22日付け、平成29年8月31日付け及び平成29年12月22日付け)の概要
(1)上記1の申立て理由のうち、理由1-1、1-2、2-1、2-3、2-4及び3を取消理由通知の取消理由とした。但し、理由3については、甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如(上記1(3)イ)の申立て理由のみを取消理由とした。
(2)平成29年11月2日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
ア 請求項1(請求項2、4ないし11)
請求項1には「該プラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液により形成されたコート層中の前記色素の加熱体が浸透して形成された、前記色素を含有する染色層」と記載されているが、当該記載では、「加熱体」が加熱作用を有する物質を示すのか、加熱処理が施されたものを示すのか、加熱された状態を示すのか、または、他のものを示すのか、特定することができない。
仮に、「加熱体」が、何らかの加熱処理が施されたものを示すものとしても、如何なる態様(加熱処理の時期や環境等)で加熱処理が施されたものであるのか不明である。
イ 請求項7、9について
請求項7及び9には「前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面に1層または2層以上の成分層が形成され、前記成分層の少なくとも1層は、・・・」と記載されているが、請求項7及び9はいずれも請求項2の記載を引用するものであるところ、請求項7及び9の「成分層」は、請求項2の「成分層」と同じであるのか否かが不明である。また、請求項7及び9の「前記成分層」は、請求項2の「成分層」を指すのか、請求項7及び9の「成分層」を指すのかも不明である。
よって、請求項1、2、4ないし11に係る発明は明確でない。
第5 当合議体の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)特許法第36条第6項第2号について
ア 理由1-1について
本件訂正前の請求項1は、「プラスチック眼鏡レンズ」という物の発明であるが、その「プラスチック眼鏡レンズ」という物の製造方法の記載を含み発明が不明確であったところ、本件訂正により、請求項1が「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と、物の製造方法の発明に訂正されることにより、発明が明確となった。
イ 理由1-2について
本件訂正前の請求項1には「前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面およびその表面から均一な深さの範囲において、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層であり、」と記載されていたが、本件訂正により、「前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面およびその表面から均一な深さとし、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層であり、」と訂正され、「範囲」の文言が削除されることにより、染色層の深さが均一であることが明瞭となった。
ウ 上記第4の2(2)アについて
上記アのとおり、本件訂正により、請求項1が「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と、物の製造方法の発明に訂正されるとともに、「加熱体」の文言が存在しないから、請求項1に係る発明が不明確とはいえない。
エ 上記第4の2(2)イについて
本件訂正により、請求項7及び9の「前記成分層」が請求項2の成分層を指すことが明瞭となり、発明が明確となった。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし11は明確である。
(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 理由2-1について
本件訂正により、請求項1が「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と、物の製造方法の発明に訂正されることにより、実施例で用いられている樹脂以外の一般的な「熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂」を用いても、そもそも染色されないような樹脂を用いたものは、本件発明に包含されず、染色しにくい樹脂を用いた場合は、染色液を塗布して加熱する工程を調整(例.染色液の濃度、加熱時間、加熱温度)すれば、十分に染色は可能である。
イ 理由2-3
本件訂正により、請求項1が「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と、物の製造方法の発明に訂正されるともに、「前記染色層は、・・・均一な深さを有し、」と訂正されることにより、色素を含む染色液を塗布・乾燥することによって得られた染色層は、常識的にみて、均一の深さで形成されると考えられるから、、本件特許の発明の課題を全く解決できないとまではいえないものである。
ウ 理由2-4
(ア)本件特許の明細書には「【0028】 染色層の厚さ、すなわち、プラスチック基材の表面からの深さは、0.1μm~200μmであることが好ましく、0.2μm~130μmであることがより好ましい。 染色層の厚さが0.1μm未満では、染色層において、目的とする波長域の可視光線の吸収性能が得られないことがある。一方、染色層の厚さが200μmを超えると、染色層における可視光線の透過率が低下し過ぎて、眼鏡レンズとしての使用に適さなくなることがある。」と記載されている。
(イ)上記(ア)からみて、染色層の厚さが0.1μm未満の場合、目的とする波長域の可視光線の吸収性能が得られない可能性があることに言及しているにすぎず、染色層の厚さが0.1μm未満の場合に必ずしも可視光線の吸収性能が得られないとまではいえない。してみると、本件発明1が、染色層が0.1μm未満であるものも含むものであるとしても、それをもって、目的とする波長域の可視光線の吸収性能が必ずしも得られないわけでもなく、特定波長の可視光線の吸収に優れたプラスチック眼鏡レンズを提供するという本件発明の課題を解決できないとまではいえない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし11は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(3)理由3(甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如)
ア 引用例1
特許異議申立人が提出した甲2であり、本件特許の出願前に頒布され、上記取消理由通知で引用例1として引用された刊行物である特開2003-215302号公報(以下同じく「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 着色された高屈折率プラスチックレンズの製造方法であって、1分子中に2個以上のエピチオ基を有する化合物を主成分とするモノマーを注型重合して得られたプラスチックレンズ基材の少なくとも一方の表面に、染料およびバインダー樹脂を溶解させたコーティング液をコートし、次いでコーティング液面を均一に加熱し、レンズ基材内部に染料を浸透、拡散させることを特徴とする着色されたプラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】 コーティング液面を均一に加熱するための加熱を、放射線熱源からの放射線の照射によって行うことを特徴とする請求項1に記載の着色されたプラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】 なだらかな濃度勾配を有する着色された高屈折率プラスチックレンズの製造方法であって、1分子中に2個以上のエピチオ基を有する化合物を主成分とするモノマーを注型重合して得られたプラスチックレンズ基材の少なくとも一方の表面に、染料およびバインダー樹脂を溶解させたコーティング液をコートし、次いでコーティング液面を加熱領域が徐々に変化するようにしながら加熱し、レンズ基材内部に染料を浸透、拡散させることを特徴とする着色されたプラスチックレンズの製造方法。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、着色されたプラスチックレンズの製造方法及び着色されたプラスチックレンズに関し、さらに詳しくは、1分子中に2個以上のエピチオ基を有する化合物を主成分とするモノマーを重合硬化して得られる高屈折率プラスチックレンズ用材料を素材とする、着色された高屈折率プラスチックレンズの製造方法、及び該高屈折率プラスチックレンズ用材料を素材とする着色された高屈折率プラスチックレンズに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、プラスチックレンズは成形が容易なこと、軽くて割れにくいこと、着色が容易であることなどの特徴を有することから、ファッション性が重視される眼鏡用レンズとして広く用いられるようになっている。この様な眼鏡プラスチックレンズ用樹脂としてはポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(以下、「CR-39」と略称する。)が最も一般的なものである。ただし、このCR-39樹脂は屈折率が1.50とガラスレンズに比べて低いために、ガラスレンズと同等の光学性を得るには、レンズのコバ厚及び曲率を大きくする必要があり、全体的に肉厚になることは避けられない。このため強度の矯正レンズでは、プラスチックの特徴である軽量性が生かせないのみならず、見かけが悪くなるため、より屈折率が高く、より軽いレンズ用樹脂が数多く開発され、実用化されている。
【0003】このような、高屈折率のプラスチックレンズも、低屈折率プラスチックレンズと同様に好みの色に着色される事が要求される。」
(ウ)「【0020】本発明におけるコーティング液の調整に使用される染料としては、分散染料、反応染料、直接染料、複合染料、酸性染料、金属錯塩染料、建染染料、硫化染料、アゾ染料、蛍光染料、樹脂着色用染料、その他機能性染料などが挙げられるが、これ以外にも染料であれば特に制限されるものではない。これらの染料は一種でも数種混合しても使用することが可能である。コーティング液に溶解する量としては、0.1wt%~99.9wt%まで可能であるが、好ましくは1wt%~50wt%である。この範囲よりも少ないと充分な着色レンズが得にくく、この範囲よりも多いと、染料によっては凝集などを生じて使用困難となる。コーティング液には必要に応じて、pH調整剤、粘度調整剤、レベリング剤、つや消し剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の各種添加剤を併用してもよい。」
(エ)「【0022】コーティング液の塗布方法としては、刷毛塗り、浸漬、スピンコート、ロール塗り、スプレー塗装、流し塗り、インクジェット型塗布など通常の塗布方法を用いることができる。塗布面に関しては、レンズ片面にコートしてもよいし、染色濃度をさらに上げるために両面にコートしてもよい。
【0023】レンズ全面に均一な染色濃度で着色加工を行う場合には、コーティング液をレンズにコートした後、染料をレンズ全面に加熱浸透させるが、その条件として加熱温度は70℃~180℃がよい。また加熱方法としては、エアオーブン加熱以外にも遠赤外照射加熱、UV照射加熱なども用いることができる。
【0024】レンズ基材になだらかな濃度勾配をもった着色加工を行う場合には、コーティング液をレンズにコートした後、コーティング液面を加熱領域が徐々に変化するようにしながら加熱(以下、「不均等加熱」と呼称することもある。)し、それによりレンズ基材内部に前記濃度勾配に対応した量の染料を浸透させることができる。」
(オ)「【0027】
【実施例】(実施例1)モノマーとして、ビス(2,3-エピチオプロピル)ジスルフィドを100gと、樹脂改質剤として、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを10gと、重合開始剤として、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、0.5gを準備し、これらを混合し、減圧下において10分間脱泡しモノマー溶液を得た。このモノマー溶液を、4μmテフロン(登録商標)フィルターによりろ過した後、ガラスモールドとガスケットからなる成形型に注入した。このモールドを30℃で10時間保持させた後、30℃から80℃まで24時間かけて徐々に昇温し、重合を行った。重合終了後、モールドを徐々に冷却した後、成形型から離型しレンズ基材を得た。このレンズ基材を120℃で3時間、アニール処理を行った。このレンズ基材の屈折率は1.74、アッベ数は33であった。次に染料及びバインダー樹脂から染料液を調製する。イエロー染料としてミケトン(登録商標)ポリエステルイエローHLSを7wt%、レッド染料としてミケトン(登録商標)ポリエステルレッドFBを8wt%、ブルー染料としてミケトン(登録商標)ポリエステルブルーFBLを15wt%、ポリビニルアルコール20wt%、メチルエチルケトン50wt%を混合し、一昼夜撹拌することにより染料液を調整した。調製した染料液を、成形した屈折率1.74のプラスチックレンズの全面にスピンコートし、それを熱風オーブンで180℃、1時間加熱を行い、レンズ表面に染料を浸透、拡散させた。その後レンズを冷却し、洗浄することによって表面の樹脂層を取り除いた。
【0028】次にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂、アルミニウムアセチルアセトネートを主成分とする耐衝撃性向上コートを形成し、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、酸化チタンと酸化ジルコニウムの複合ゾルを主成分とする耐擦傷性向上ハードコートを形成した。さらに、真空蒸着法により多層膜反射防止コートを成膜した。低屈折率膜の蒸着材料として、酸化ケイ素を用い、高屈折率の蒸着材料として酸化チタンを用いた。この様にして全面が染色されたプラスチックレンズを得た。このプラスチックレンズについて視感透過率を測定し、染色のムラの有無を観察し○×で評価した。視感度透過率は23%でり、全面にムラは見られなかった。評価結果は他の実施例及び比較例の評価結果と共に表1に記載した。なお、表1では全面に染色したものを「F」と表記した。」
(カ)上記(ア)ないし(オ)から、引用例1には、実施例1について、次の発明が記載されているものと認められる。
「モノマーとして、ビス(2,3-エピチオプロピル)ジスルフィドを100gと、樹脂改質剤として、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを10gと、重合開始剤として、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、0.5gを準備し、これらを混合し、減圧下において10分間脱泡しモノマー溶液を得、このモノマー溶液を、4μmテフロン(登録商標)フィルターによりろ過した後、ガラスモールドとガスケットからなる成形型に注入し、このモールドを30℃で10時間保持させた後、30℃から80℃まで24時間かけて徐々に昇温し、重合を行い、重合終了後、モールドを徐々に冷却した後、成形型から離型し、120℃で3時間、アニール処理を行い、屈折率を1.74、アッベ数を33のレンズ基材を得、
イエロー染料としてミケトン(登録商標)ポリエステルイエローHLSを7wt%、レッド染料としてミケトン(登録商標)ポリエステルレッドFBを8wt%、ブルー染料としてミケトン(登録商標)ポリエステルブルーFBLを15wt%、ポリビニルアルコール20wt%、メチルエチルケトン50wt%を混合し、一昼夜撹拌することにより染料液を調整し、
調製した染料液を、前記レンズ基材であるプラスチックレンズの全面にスピンコートし、それを熱風オーブンで180℃、1時間加熱を行い、レンズ表面に染料を浸透、拡散させ、その後レンズを冷却し、洗浄することによって表面の樹脂層を取り除き、
次にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂、アルミニウムアセチルアセトネートを主成分とする耐衝撃性向上コートを形成し、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、酸化チタンと酸化ジルコニウムの複合ゾルを主成分とする耐擦傷性向上ハードコートを形成し、さらに、真空蒸着法により多層膜反射防止コートを成膜する、
プラスチックレンズの製造方法。」(以下「引用発明」という。)
イ 引用例2
特許異議申立人が提出した甲5であり、本件特許の出願前に頒布され、上記取消理由通知で引用例2として引用された刊行物である特開2007-286189号公報(以下同じく「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する化合物を用いた光学フィルターに関する。該光学フィルターは、特に、画像表示装置用の光学フィルターとして有用である。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
特定の光に対して強度の大きい吸収を有する化合物は、CD-R、DVD-R、DVD+R、青色レーザ記録ディスク等の光学記録媒体の記録層や、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、陰極管表示装置(CRT)、蛍光表示管、電界放射型ディスプレイ等の画像表示装置の光学要素として用いられている。
【0003】
液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、陰極管表示装置(CRT)、蛍光表示管、電界放射型ディスプレイ等の画像表示装置用の光学フィルターにおいては、300~1100nmの波長の光を吸収する各種化合物が、光吸収剤として用いられている。
更に近年、表示素子の色純度や色分離を十分にし、画像品質を高いものにするために、特に380~500nmの波長を選択的に吸収する光吸収剤が求められている。これらの光吸収剤には、光吸収が特別に急峻であること、即ちλmaxの半値幅が小さいこと、また光や熱等により機能が失われないことが求められる。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、紫外線吸収剤を含有し、200~410nmの光を遮断する有機ELディスプレイ素子用フィルターが報告されている。しかし、この有機ELディスプレイ素子用フィルターに用いられている紫外線吸収剤は、光学フィルター用の紫外線吸収剤としては、その吸収波長特性が必ずしも適合するものではなかった。
【0005】
尚、下記特許文献2には、カラーフィルタ用光重合性組成物における増感剤として特定の構造を持つ化合物が開示されており、下記特許文献3には、特定の構造を持つ化合物を含有する光情報記録媒体が開示されているが、該化合物を光学フィルターとして用いることは何等示唆されていない。」
(ウ)「【0021】
本発明の光学フィルターにおいて、上記一般式(I)で表される本発明に係る化合物の使用量は、光学フィルターの単位面積当たり、通常1~1000mg/m2、好ましくは5~100mg/m2であり、1mg/m2未満の使用量では、光吸収効果を十分に発揮することができず、1000mg/m2を超えて使用した場合には、フィルターの色目が強くなりすぎて表示品質等を低下させるおそれがあり、さらには、明度が低下するおそれもある。
【0022】
次に、本発明の光学フィルターについて説明する。
本発明の光学フィルターは、上記一般式(I)で表される化合物を含有する。該化合物は、吸収極大波長を380~500nmの範囲内又はその付近に持ち、一部の可視光線又は紫外線を選択的に吸収して遮断することができるので、該化合物を含有する本発明の光学フィルターは、表示画像の高品質化に用いられる画像表示装置用の光学フィルターとして特に好適なものである。本発明の光学フィルターは、画像表示装置用の他に、分析装置用、半導体装置製造用、天文観測用、光通信用、眼鏡レンズ等の各種用途にも用いることができる。
【0023】
本発明の光学フィルターは、通常ディスプレイの前面に配置される。例えば、本発明の光学フィルターは、ディスプレイの表面に直接貼り付けてもよく、ディスプレイの前に前面板が設けられている場合は、前面板の表側(外側)または裏側(ディスプレイ側)に貼り付けてもよい。
【0024】
本発明の光学フィルターの形状に関しては、特に制限されるものではないが、通常、透明支持体に、必要に応じて下塗り層、反射防止層、ハードコート層、潤滑層、保護層等の各層を設けたものが挙げられる。上記一般式(I)で表される本発明に係る化合物や、本発明に係る化合物以外の色素化合物である光吸収剤、各種安定剤の任意成分を本発明の光学フィルターに含有させる方法としては、例えば、(1)透明支持体又は任意の各層に含有させる方法、(2)透明支持体又は任意の各層にコーティングする方法、(3)透明支持体及び任意の各層から選択される任意の隣合う二者間の粘着剤層に含有させる方法、(4)任意の各層とは別に、本発明に係る化合物等の光吸収剤等を含有する光吸収層を設ける方法が挙げられる。」
(エ)「【0048】
〔実施例1〕光学フィルターの作成1
下記の配合にて塗工液を調製し、易密着処理した188μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに、該塗工液をバーコーター#9により塗布した後、100℃で3分乾燥させ、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に膜厚10μmのフィルム層を有する光学フィルター(化合物No.1の含有量2.0mg/m2)を得た。この光学フィルターについて、日本分光(株)製紫外可視近赤外分光光度計V-570で吸収スペクトルを測定したところ、λmaxが430nmで半値幅が47nmであった。
【0049】
(配合)
スミペックス LG 2.5g
(住友化学(株)製アクリル系樹脂バインダー、樹脂分40質量%)
化合物No.1 2mg
メチルエチルケトン 2.5g
【0050】
〔実施例2〕光学フィルターの作成2
下記の配合にて粘着剤溶液を調製し、易密着処理した188μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに、該粘着剤溶液をバーコーター#30により塗布した後、100℃で10分間乾燥させ、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にフィルム上に厚さ約10μmの粘着剤層を有する光学フィルター(化合物No.1の含有量2.0mg/m2)を得た。この光学フィルターについて、日本分光(株)製紫外可視近赤外分光光度計V-570で測定したところ、λmaxが429nmで半値幅が48nmであった。
【0051】
(配合)
化合物No.1 2.0mg
アクリル系粘着剤(デービーボンド5541:ダイアボンド社製) 20g
メチルエチルケトン 80g
【0052】
〔実施例3〕光学フィルターの作成3
下記の配合をプラストミルで260℃にて5分間溶融混練した。混練後、直径6mmのノズルから押出し水冷却ペレタイザーで色素含有ペレットを得た。このペレットを、電気プレスを用いて250℃で0.25mm厚の薄板(化合物No.1の含有量2.0mg/m2)に成形した。この薄板について、日本分光(株)製紫外可視近赤外分光光度計V-570で吸収スペクトルを測定したところ、λmaxが429.5mで半値幅が47.5nmであった。
【0053】
(配合)
ユーピロンS-3000 100g
(三菱瓦斯化学(株)製;ポリカーボネート樹脂)
化合物No.1 0.01g
【0054】
〔実施例4〕光学フィルターの作成4
下記の配合にてUVワニスを調製し、易密着処理した188μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに、該UVワニスをバーコーター#9により塗布した後、80℃で30秒乾燥させた。その後、赤外線カットフィルムフィルター付き高圧水銀灯にて紫外線を100mJ照射し、硬化膜厚約5μmのフィルター層を有する光学フィルター(化合物No.1の含有量2.0mg/m2)を得た。この光学フィルターについて、日本分光(株)製紫外可視近赤外分光光度計V-570で吸収スペクトルを測定したところ、λmax429.5nmで半値幅が47.6nmであった。
【0055】
(配合)
アデカオプトマーKRX-571-65 100g
(旭電化工業(株)製UV硬化樹脂、樹脂分80質量%)
化合物No.1 0.5g
メチルエチルケトン 60g
【0056】
[実施例5]光学フィルターの作成5
下記の配合にて塗工液を調製し、易密着処理した188ミクロン厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに、該塗工液をバーコーター#9により塗布した後、100℃で3分間乾燥させ、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に膜厚約10μmのフィルム層を有する光学フィルター(化合物No.1の含有量2.0mg/m2)を得た。この光学フィルターについて、日本分光(株)製紫外可視近赤外分光光度計V-570で測定したところ、λmaxが430nmで半値幅が47nmであった。
【0057】
(配合)
ポリエスターTP-220 100g
(日本合成化学製ポリエステル樹脂)
化合物No.1 1.0g
メチルエチルケトン 60g
【0058】
〔実施例6~16〕光学フィルターの作成6~16
化合物No.1の2mgに替えて化合物No.3、No.4、No.7~No.11、No.13~16の2mgをそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして光学フィルターを作成し、得られた光学フィルターを日本分光(株) 製紫外可視近赤外分光光度計V-570で測定した結果を〔表1〕に示す。
【0059】
【表1】
」
ウ 甲4
本件特許の出願前に頒布された刊行物であり、特許異議申立書に甲4として添付された特公昭53-39910号公報には、次の事項が記載されている。
(ア)「本発明は防眩効果をもつ青色の合成樹脂製眼鏡レンズを特殊の染色溶液に該レンズ基体を浸漬(ディッピング)して製造する方法に関する。」(1頁左欄27行ないし29行)
(イ)「透明プラスチックとして市販されているアクリル樹脂、ポリカーボネートなどは浸漬法では着色速度が著しく遅く、実際に殆んど染色できない。」(1頁右欄32行ないし35行)
(ウ)「浸漬法においては被着色物が異なれば、同一染料で着色しても分光透過率、着色速度等が異なるので、実際に着色しなければどのような色になるのか、繊維などに染色した色からでは、厳密には予測しがたい。」(2頁左欄3行ないし8行)
(エ)「実施例1
紫外線吸収剤として2-ハイドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフエノン2%およびイソプロピルカーボネート3%を含むCR-39溶液を通常の方法で注形重合し、得られたレンズを下記の組成の水溶液に70℃で60分浸漬する。
水 1000ml
C.I.D.オレンジ13 20g
C.I.D.オレンジ13 5g
これにより刺激純度15%で590nmにおける光学濃度0.30の防眩硬化のある青色レンズが得られた。
実施例2
実施例1と同様の注形重合したCR-39のレンズを下記の組成の水溶液に90℃で10分間浸漬する。
水 1000ml
C.I.D.ブルー56 0.5g
C.I.D.オレンジ13 0.1g
これにより刺激純度14%で590nmにおける光学濃度0.28の防眩硬化のあるレンズが得られた。」(2頁左欄30行ないし同頁右欄14行)
(オ)「このようにして得られた青色眼鏡レンズはNd2O3を含有するガラス製眼鏡レンズと同様の防眩効果をもつばかりでなく、ガラス製のように度が強い場合に中心部と周辺部の色が肉厚に応じて変化するという欠点がない。また従来の青色サングラスのように単なるおしゃれ用とばかりでなく、視感度の大きい波長域の光を巾広く吸収するので、目の保護に有効であり、さらに純色に近いさえた色ではなく刺激純度が25%以下なので、演出性がよいという利点も有している。」(2頁右欄24行ないし33行)
エ 甲8
本件特許の出願前に頒布された刊行物であり、特許異議申立書に甲8として添付された特開2008-111223号公報には、次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、染色液およびそれを用いたプラスチック基材の染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックレンズは眼鏡レンズやカメラレンズを初め多方面に利用されるようになっている。特に着色が容易であることは、眼鏡レンズの最大の利点の一つである。現在、プラスチックレンズ基材(以下、単に「レンズ基材」ともいう)の着色は、分散染料を温水または有機溶剤に分散させ、そこにレンズ基材を浸漬する染色方法が一般的に行われている。例えば、CR-39等のアリル系プラスチックレンズは、染色性が良好であり、分散染料と界面活性剤を温水中に添加した染色液を用いることによって、容易に染色加工を行うことが可能である。
一方、最近ではレンズの薄型化への市場要望が強く、屈折率が1.50のCR-39から、屈折率が1.60~1.70程度に達するチオウレタン樹脂系のレンズ基材が開発され、市場でのシェアを拡大している。このようなチオウレタン樹脂系レンズ基材は、高屈折率化とともに、高耐熱性を示すものも多く、レンズの品質面では各種のメリットが得られるが、一方、染色加工を行う際には、CR-39等に比べて基材の染色速度が遅く、長時間浸漬してもごく薄い色にしか染まらないなどの問題があった。
そこで、このような難染色性基材への染色方法として、最近では、キャリア染色法がよく用いられている。キャリア染色法とは、温水染色浴中に増染作用を有するいわゆるキャリア剤を添加して染色を行う方法である。キャリア剤としては、一般に水溶性の有機溶剤が用いられる(例えば、特許文献1)。このようなキャリア染色法によれば、染色速度が向上するため、短時間で染色が完了するという利点がある。」
オ 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「レンズ基材」は、モノマーとして、ビス(2,3-エピチオプロピル)ジスルフィドを100gと、樹脂改質剤として、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンを10gと、重合開始剤として、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、0.5gを準備し、これらを混合し、減圧下において10分間脱泡しモノマー溶液を得、このモノマー溶液を、4μmテフロン(登録商標)フィルターによりろ過した後、ガラスモールドとガスケットからなる成形型に注入し、このモールドを30℃で10時間保持させた後、30℃から80℃まで24時間かけて徐々に昇温し、重合を行い、重合終了後、モールドを徐々に冷却した後、成形型から離型して得られたものであるから、熱硬化性樹脂であることは明らかであり、本件発明1の「熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から構成されるプラスチック基材」に相当する。
(イ)引用発明の「イエロー染料」、「レッド染料」又は「ブルー染料」は、本件発明1の「色素」に相当する。また、「イエロー染料」、「レッド染料」及び「ブルー染料」(本件発明1の「色素」に相当。以下、「」に続く()内の用語は対応する本件発明1の用語を表す。)、ポリビニルアルコール、メチルエチルケトンを混合し、一昼夜撹拌することにより得た、引用発明の「染料液」は、各「染料」(色素)が特定波長領域の光を吸収することが明らかであるから、本件発明1の「特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液」に相当する。
(ウ)引用発明は、調製した「染料液」(染色液)を、「レンズ基材」(プラスチック基材)であるプラスチックレンズの全面にスピンコートし、それを熱風オーブンで180℃、1時間加熱を行い、レンズ表面に「染料」(色素)を浸透、拡散させ、「染料」(色素)を特段不均一になるように浸透、拡散させてはいないのであるから、「染料」(色素)が「レンズ基材」(プラスチック基材)の表面から均一な深さに、「レンズ基材」(プラスチック基材)と、「レンズ基材」(プラスチック基材)中に分散した「染料」(色素)とから構成される層を有するものである。そうすると、引用発明は、本件発明1の「該プラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱することにより前記色素を含有する染色層を形成すること」「を備え」、「前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面から均一な深さを有し、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層」という構成を備える。
(エ)引用発明の「プラスチックレンズの製造方法」と、本件発明1の「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」とは、「プラスチックレンズの製造方法」である点で一致する。
(オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、本件発明1と引用発明とは、
「熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から構成されるプラスチック基材の少なくとも一方の表面に、特定波長域の光を吸収する色素を含む染色液を塗布し、加熱することにより前記色素を含有する染色層を形成すること、を備えてなるプラスチックレンズの製造方法であって、
前記染色層は、前記プラスチック基材の少なくとも一方の表面から均一な深さの範囲において、前記プラスチック基材と、前記プラスチック基材中に分散した前記色素とから構成される層である、
プラスチックレンズの製造方法。」である点(以下「一致点」という。)で一致し、次の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では、「クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有する」「色素」を用いているのに対し、
引用発明では、イエロー染料、レッド染料及びブルー染料を用いているが、各染料が、クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有するかどうかが明らかでない点。
・相違点2
本件発明1は、「プラスチック眼鏡レンズ」であるのに対し、
引用発明は、「プラスチックレンズ」である点。
カ 本件発明1についての判断
上記相違点1について検討する。
(ア)イエローの吸収波長が435~480nm、レッドの吸収波長が490~500nm、ブルーの吸収波長が580~595nmであることは技術常識である。そうすると、引用発明のイエロー染料、レッド染料及びブルー染料は、それぞれ435~480nm、490~500nm、580~595nmの間に主吸収ピークを有するといえる。本件発明の主吸収ピークである波長500nm~650nmと重複あるいは重複する可能性がある、引用発明のレッド染料及びブルー染料について、その半値幅を示す証拠が見当たらないことから、前記レッド染料及び前記ブルー染料が、相違点1に係る本件発明1の色素に該当すると認めることはできない。
(イ)上記3(2)のように、引用例2には、眼鏡レンズを含む光学フィルターの分野において、主吸収ピークλmaxが392.0ないし448.5nmにあり、該主吸収ピークの半値幅が46.5ないし49.5nmの分光スペクトルを有する材料は開示されているものの、波長500nm~650nmの間に半値幅が。40nm~140nmの主吸収ピークを有する材料については記載も示唆もされておらず、周知であるともいえない。そうすると、引用例2の前記材料を引用発明に適用しても、波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有するものとはならず、相違点1に係る本件発明1の構成に到らない。
(ウ)したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは当業者が引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて容易になし得たことではない。
また、他の引用例にも、相違点1に係る本件発明1の要件を満足する色素は開示されていない。
よって、相違点2の容易想到性について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例1に記載された発明、引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
キ 本件発明2ないし11についての判断
上記カのとおり、本件発明1が、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件発明2ないし11も同様に、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由について
(1)上記理由2-2(上記1(2)イ)について
本件訂正により、請求項1が「プラスチック眼鏡レンズの製造方法」と、物の製造方法の発明に訂正されることにより、染色液を塗布して加熱する工程を調整すれば、プラスチック眼鏡レンズに形成された染色層による所望の光吸収性能を得ることが可能であり、本件特許の発明の課題を全く解決できないとまではいえないものである。
(2)上記理由3について
ア 甲1に記載された発明に基づく進歩性欠如(上記1(3)ア)
(ア)甲1には、以下の発明が記載されている。なお、引用箇所の段落番号を併記した。
「熱可塑性ポリカーボネート樹脂等のポリマー有機ホスト材料の表面に(【0062】、【0074】)、400~700ナノメートルの範囲内に少なくとも1つの活性化吸収極大を有するフォトクロミック化合物(【0044】)を塗布し、加熱することで、当該フォトクロミック化合物がポリマー有機ホスト材料へと浸透し(【0062】、【0066】)、その後、ポリマー有機ホスト材料の表面の残った残余の樹脂フィルムが除去され(【0067】)、
紫外線硬化型の有機硬質コーティング材料によって表面層を形成してもよく、他のコーティング剤等による層を複数適用してもよい(【0078】)、
眼鏡レンズの製造方法(【0070】、【0075】)。」(以下「甲1発明」という。)
(イ)本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
・相違点3
染色層に含まれるのが、
本件発明1では、「クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有する」「色素」であるのに対し、
甲1発明では、400~700ナノメートルの範囲内に少なくとも1つの活性化吸収極大を有するフォトクロミック化合物である点。
(ウ)上記相違点3について検討すると、上記(1)カと同様の理由で、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の構成となすことは当業者が引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて容易になし得たことではない。
そして、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件発明2ないし11も同様に、甲1発明、引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
イ 甲3に記載された発明に基づく進歩性欠如(上記1(3)ウ)
(ア)甲3には、以下の発明が記載されている。なお、引用箇所を併記した。
「ポリウレタン、ポリカーボネート等のプラスチック物品(特許請求の範囲第(13)項)の少なくとも一面に、ホトクロミック物質を溶解させた樹脂を塗布し、ホトクロミック物質をプラスチック物品の表面下に含入させるために加熱し、その後、表面の樹脂を除去した、ホトクロミックプラスチック物品の製造方法であって(特許請求の範囲第(1)項、10頁左下欄17行ないし同頁右下欄3行)、
ホトクロミックプラスチック物品が眼用レンズである(5頁右上欄7行ないし14行)、
ホトクロミックプラスチック物品の製造方法。」(以下「甲3発明」という。)
(イ)本件発明1と甲3発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
・相違点4
染色層に含まれるのが、
本件発明1では、「クロロホルム溶液またはトルエン溶液として測定された可視光線吸収分光スペクトルにおいて、波長500nm~650nmの間に、半値幅が40nm~140nmの主吸収ピークを有する」「色素」であるのに対し、
甲1発明では、ホトクロミック物質である点。
(ウ)上記相違点4について検討すると、上記(1)カと同様の理由で、甲4発明において、相違点4に係る本件発明1の構成となすことは当業者が引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて容易になし得たことではない。
そして、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件発明2ないし11も同様に、甲3発明、引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、4ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、4ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項3に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項3に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700090