特許異議申立
2022-701264
ノボラック型フェノール樹脂の探索方法、情報処理装置、及びプログラム
- 審判番号
- 2022-701264
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-205590
- 登録番号
- 7088399
- 請求日
- 2022年12月19日
- 審決日
- 2023年03月22日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】DIC株式会社
- 【権利者代理人】粟野 晴夫
- 【権利者代理人】貴志 浩充
- 【権利者代理人】岡野 大和
- 【異議申立人】山下 桂
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼田 耕一
- 審判官 野崎 大進
- 審判官 富澤 哲生
- 分類
- P1651.536-Y (G06N) / P1651.537-Y (G06N) / P1651.121-Y (G06N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7088399号発明「ノボラック型フェノール樹脂の探索方法、情報処理装置、及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7088399号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7088399号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は,令和3年12月17日を出願日とする特許出願であって,令和4年6月13日に特許権の設定登録がされ,令和4年6月21日に特許掲載公報が発行された。その後,令和4年12月19日に特許異議申立人 山下 桂(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがなされた。
第2 本件特許発明
特許第7088399号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし8の特許に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)は,それぞれ,特許請求の範囲に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
情報処理装置が実行するノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって,
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成するステップと,
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索するステップと,
を含み,
前記実績データは,ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,構造式と,反応溶媒と,反応パラメータとを含み,
前記目的変数は,現像性と,耐熱性と,分子量とを含む,ノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項2】
請求項1に記載の探索方法であって,
前記複数の予測モデルを生成するステップにおいて,前記実績データに基づき特徴量を算出し,該特徴量を前記複数の予測モデルの説明変数として用いる,ノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項3】
前記特徴量は,分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含む,請求項2に記載のノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項4】
請求項3に記載のノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって,
前記特徴量はさらに,溶媒のSP値に係る情報を含む,ノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載のノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって,
前記実績データは所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データと,前記所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データとを含み,
前記複数の予測モデルを生成するステップにおいて,
前記所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて前記複数の予測モデルを生成した後に,前記所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて前記複数の予測モデルを再学習させる,ノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項6】
請求項5に記載のノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって,
前記所定用途は半導体製造用である,請求項5に記載のノボラック型フェノール樹脂の探索方法。
【請求項7】
制御部を備えるノボラック型フェノール樹脂の探索をする情報処理装置であって,
前記制御部は,
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成し,
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索し,
前記実績データは,前記ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,反応溶媒と,反応パラメータとを含み,
前記目的変数は,現像性と,耐熱性と,分子量とを含む,情報処理装置。
【請求項8】
コンピュータに,
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成することと,
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索することと,を実行させ,
前記実績データは,ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,反応溶媒と,反応パラメータとを含み,
前記目的変数は,現像性と,耐熱性と,分子量とを含む,ノボラック型フェノール樹脂を探索するプログラム。」
第3 申立理由の概要
申立人は,特許異議申立書(以下,「申立書」という。)において,以下の理由1ないし4により,本件特許発明1ないし8についての特許を,取り消すべきである旨主張している。
1 理由1(実施可能要件:特許法第36条第4項第1号)
申立人は,以下のように述べて,請求項1ないし8に係る特許は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた旨主張している。
「(理由1-1)逆解析の方法が記載されていない。
本件特許明細書の発明の詳細な説明において,「前記複数の予測モデルを用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索」する具体的な方法が何ら記載されておらず,かつ,周知のものでもないから,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,いわゆる当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」(申立書2頁4~10行,24頁下から4行~30頁12行にも同旨)
「(理由1-2)SP値を算出する方法が記載されていない。
本件特許明細書の発明の詳細な説明において,「溶媒のSP値に係る情報」を「算出する」方法について具体的な方法が何ら記載されておらず,かつ,周知のものでもないから,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,いわゆる当業者が本件特許の請求項4に記載の特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」(申立書2頁17~23行,30頁13行~31頁7行にも同旨)
2 理由2(サポート要件:特許法第36条第6項第1号)
申立人は,以下のように述べて,請求項1ないし8に係る特許は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた旨主張している。
「(理由2-1)課題を解決できることが示されていない
本件特許発明が,課題を解決できることを示す評価結果がまったく記載されていない。また,実績データに含まれる反応溶媒と反応パラメータが目的変数にどのように影響するのか不明である。したがって,本件特許発明は,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。」(申立書3頁2~8行,31頁11行~34頁15行にも同旨)
「(理由2-2)所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて複数の予測モデルを生成した後に,所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて複数の予測モデルを再学習させることについて,記載されていない
本件特許請求の範囲の請求項5に記載された発明は,本件特許明細書の詳細な説明に記載されていない。」(申立書3頁行14~20行,34頁16行~35頁20行にも同旨)
「(理由2-3)実績データが「構造式」を含まない場合について本件特許明細書の詳細な説明に記載されていない
本件特許請求の範囲の請求項7および8に記載された発明は,本件特許明細書の詳細な説明に記載されていない。」(申立書3頁下から4行~最終行,35頁21行~36頁6行にも同旨)
3 理由3(明確性要件:特許法第36条第6項第2号)
申立人は,以下のように述べて,請求項1ないし8に係る特許は特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない旨主張している。
「本件特許発明は,「反応溶媒と,反応パラメータ」が以下の理由で不明確である。
ポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータに基づきどのように特徴量を算出できるのか具体的に記載されておらず,実績データがポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータを含むことの技術的意味を,当業者が理解できない。その結果,反応溶媒,及び反応パラメータとしてどのような情報まで含まれるのか不明確である。」(申立書4頁7~14行,36頁7行~37頁18行にも同旨)
4 理由4(進歩性:特許法第29条第2項)
申立人は,主たる証拠として下記の,甲1号証または甲2号証を提出し,従たる証拠として下記の,甲2号証および甲3号証,または,甲1号証および甲3号証を提出し,請求項1ないし8に係る発明は,主たる証拠のいずれかに記載された発明及び従たる証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許査定されたものである旨主張している。(申立書4頁17行~10頁35行)
記
甲1号証:吉田 亮 外2名,「機械学習による機能性分子の自動設計:高熱伝導高分子材料の探索」,統計数理,統計数理研究所,2021年6月,Vol.69,No.1,PP.35-47.
甲2号証:今井 和之 外1名,「データ駆動型科学による高機能フェノール樹脂の開発」第68回ネットワークポリマー講演討論会 講演要旨集,合成樹脂工業協会,2018年11月7日,No.ポ-13,P.101.
甲3号証:国際公開第2020/090805号
第4 甲号証
1 甲1号証
甲1号証には,図面とともに以下の記載がある(下線は当審付与。以下同様。)。
ア 「要 旨
ベイズ推論や機械学習の解析技術を適用し,所望の特性を持つ化学構造を設計する.実験やシミュレーションから得られたデータを用いて,構造から特性の順方向の予測モデルを構築する.これに条件付き確率のベイズ則を適用し,特性から構造の逆方向の予測モデルを導く.さらに,このモデルから仮説分子を発生させることで,所望の特性を有する有望な候補を同定する.我々は,このようなアプローチを実践し,熱伝導率が0.41W/mKに達する可塑性プラスチックポリマーを発見した.これは典型的な無配向のポリアミド系高分子と比較して約80%の性能向上に相当する.本稿では,データ科学の非専門家を対象にベイズ推論に基づく分子設計アルゴリズムの技術解説を行い,高分子熱物性の研究への適用例を解説する.」(35頁5~13行)
イ 「3. 高熱伝導率を持つ高分子の探索
Wu et al.(2019)では,iQSPR-Xを適用して新規の高熱伝導性高分子材料を発見した.解析のワークフローを図2に示す.一般に,高い熱伝導率を持つ高分子材料は,軟化温度(ガラス転移温度 Tg)や溶融温度(融点 Tm)が十分に高く,高温まで軟化あるいは溶融しない.具体的には,融解しても取り得る配座構造の変化の少ない剛直な高分子ほど,融解のエントロピーが小さくなり,融点が高くなる.高分子のガラス転移点は,高分子の分子間力や屈曲性,対称性によって支配される.環構造の割合の多い主鎖構造を持つ高分子材料は,融解熱に関わる分子間相互作用ないしは凝集力が大きく,Tgが高くなる.」(41頁下から4行~42頁4行)
ウ 図2(42頁)
[図:0001396327000001.jpg]
エ 「 仮想ライブラリの作製では,高いTgとTmを持つ芳香族ポリアミドをターゲットとした.PoLyInfoデータベース(Otsuka et al., 2011)からホモポリマーのTgとTmのデータを抽出し,5,917および3,234件のデータからランダム80%を選択して,ベイズ線形回帰で順方向のモデルを構築した.モノマー構造の記述子にはECFP(Rogers and Hahn, 2010)などの複数のフィンガープリントを合わせて使用した.さらに,PoLyInfoの14,423個のホモポリマーを用いて言語モデルを訓練し,TgとTmの範囲200-500℃,300-600℃をターゲットに1,000種類の仮想ライブラリを作製した.ただし,溶融成形が可能な熱可塑性樹脂の設計では,耐熱性を若干犠牲する必要がある.このことから,事後選択のステップでは,Tgの温度の上限を300とした.
次に,機械学習モデルを用いて1,000個の候補分子の熱伝導率を推算した.熱伝導率の予測モデルの学習には,高分子物性データベースPoLyInfoに収録されている2 種類のアモルファスポリマーの熱伝導率のデータを使用した(データの選定と前処理の方法については,Wu et al.,2019を参照).データ数が極端に少ないため,通常の教師あり学習では物性予測のモデルを構築できなかった.そこで,転移学習を導入して問題の解決を図った.高分子のガラス転移温度,融点,密度,粘度に加え,低分子化合物の定容比熱容量を元ドメインとした.高分子の物性データはPoLyInfo,低分子化合物の比熱はQM9という第一原理計算の物性データベースから抽出した(Ramakrishnan et al.,2014).サンプル数は表 2 に示した通りである.後述の手順で各々の元ドメインに対して 100 個の異なるモデルを構築した.28個のデータを用いて,これらのモデルを熱伝導率の予測モデルに転移した.10分割交差検証で転移モデルの汎化性能を評価し,平均絶対誤差(mean absolute error,MAE)が最小のモデルを抽出した.」
2 甲2号証
(1)甲2号証の記載
甲2号証には,図面とともに以下の記載がある。
ア
[図:0001396327000002.jpg]
イ
[図:0001396327000003.jpg]
(2)甲2号証記載発明
上記(1)の記載から,特に下線部および枠線内の記載に着目すると,甲2号証には以下の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「マテリアルインフォマティクス(MI)的手法を用いた,厚膜塗布時もクラックレス(柔軟)でありながら,高耐熱(Tg),高アルカリ溶解性(ADR)を有するフェノール樹脂の開発方法であって,
目的化合物RZ-230-Xは剛直なフェノールトリマー構造と数種の従骨格から為るノボラック樹脂であり,
目標特性は,Tg(DSC)>150℃,ADR>1,500Å/s,50μm塗膜クラックレスであり,
過去のデータ群の相関から最適解を求める,MI的手法であって,
トリマー構造と柔軟骨格の組成を基に説明変数を決定し,
Tg,クラック数,ADRを目的変数に設定し,
ランダムフォレストや多層パーセプトロン等の回帰計算を実施し,相関の良いアルゴリズムを使用モデルとし,実測値と予測値で高い相関が得られたものを予測モデルとして使用し,組成を決定し,
実証事件を実施して得られた樹脂は膜厚100μmでもクラックレスであり,Tg>160℃,ADR>1,500Å/sであった
マテリアルインフォマティクス(MI)的手法を用いたフェノール樹脂の開発方法。」
3 甲3号証
甲3号証には,以下の記載がある。
ア 「[0045]<特性予測学習フェーズの具体例>
図5は,本発明の一実施形態に係る材料探索の処理の特性予測学習フェーズ 20を説明するための図である。特性予測学習フェーズ 20では,所定の組成および製造条件と,その所定の組成および製造条件により製造される材料の特性との対応関係が生成される。材料探索装置101は,入力データが組成(例えば,組成(A1,B1,C1),組成(A2,B2,C2),組成(A3,B3,C3)・・・など)および製造条件(例えば,(製造条件11,製造条件12),(製造条件21,製造条件22),(製造条件31,製造条件32)・・・など)であり,出力データが特性(例えば,特性α,特性β,特性γ・・・など)である教師データを用いて機械学習を行い,特性予測学習済みモデルS23を生成する。あるいは,材料探索装置101は,機械学習ではなく,ルールベース(例えば,統計解析に基づくルール)を用いることもできる。つまり,材料探索装置101は,機械学習によって生成された特性予測学習済みモデルS23に基づいて特性を予測することもできるし,あるいは,ルールベースに基づいて特性を予測することもできる。」
イ 図5
[図:0001396327000004.jpg]
第5 当審の判断
1 実施可能要件
申立人は,理由1において,本件特許発明1ないし8に係る特許の実施可能要件違反を主張しているので,以下検討する。
(1)実施可能要件の判断枠組み
特許法第36条第4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と記載され,その第1号において,「経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,明確かつ十分に記載しなければならない。」と規定している。同号は,明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであって,方法の発明では,その方法を使用するための具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか,そのような記載がない場合には,明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その方法を使用することができる程度に記載されていなければならないと解され,物の発明では,その物を生産し,使用するための具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか,そのような記載がない場合には,明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その物を生産し,使用することができる程度に記載されていなければならないと解される。
以下,この観点に立って,判断する。
(2)本件特許発明1ないし8の「逆解析」について
ア 明細書等の記載
請求項1,7,8の「前記複数の予測モデルを用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索」するという記載に関し,本件特許明細書等には以下の記載がある。
(ア) 「【0024】
(中略)このようにして学習された第1予測モデル~第N予測モデルを用いた逆解析により,情報処理装置10は,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索する。」
(イ) 図4
[図:0001396327000005.jpg]
(ウ) 「【0047】
次に図4を参照して,情報処理装置10が実行するノボラック型フェノール樹脂の探索処理の一例を示す。概略として情報処理装置10は,複数の予測モデル400を用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索する。
【0048】
ステップS201:情報処理装置10の制御部11は,所望のノボラック型フェノール樹脂に係る物性(以下,目標特性という)を取得し,各予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)に入力する。例えば制御部11は,ユーザからの目標特性の入力を入力部13により受け付けることで,目標特性を取得する。
【0049】
ステップS202:制御部11は,ステップS201にて取得した目標特性を得られるノボラック型フェノール樹脂の特徴量を各予測モデル400により予測する。
【0050】
ステップS203:制御部11は,ステップS202により得られた予測結果に対して,最適化処理を実行し,探索結果を出力部14により出力する。例えば制御部11は,探索結果として,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂に係る組成及び合成方法を出力部14により出力する。あるいは制御部11は,探索結果として,所望の物性バランスを有する少なくとも1つのノボラック型フェノール樹脂に係る特徴量を,出力部14により出力してもよい。」
イ 技術常識
(ア) 本件特許出願時の技術常識として,本件特許明細書には,以下の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同様。)
「【0003】
他方,物質モデルをモデリングして当該物質モデルを機械学習により学習した後,学習された物質モデルを用いて,目標物性情報から新規物質の構造を探索する技術が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特許第6832678号」
(イ) 上記特許文献1(特許第6832678号公報)には,以下の記載がある。
「【0079】
上記で説明されたように,物質モデルに対する学習が終了すると,物質の探索装置は,学習された物質モデルに目標物性を代入することによって,少なくとも1つの候補物質を決定する(S202)。
【0080】
一実施形態によれば,目標物性yに対する,下記数式16による条件付き確率が計算される。
【0081】
[図:0001396327000006.jpg]
【0082】
そして,数式16の条件付き確率関数を通して潜在変数hをランダムに生成する。以降,生成された潜在変数hを用いて,数式17のように新規物質の候補物質の構造に関する確率関数を計算する。
【0083】
[図:0001396327000007.jpg]
【0084】
以降,数式17のような,候補物質の構造に関する確率関数に基づいて少なくとも1つの候補物質が決定される。この時,一実施形態に係る物質の探索装置は,少なくとも1つの候補物質の物理的妥当性,化学的安定性,および合成容易性などを検証することができる(S203)。最後に,一実施形態に係る物質の探索装置は,少なくとも1つの候補物質の中から検証が完了した候補物質を新規物質として決定する(S204)。
【0085】
一方,他の実施形態において,物質の探索装置は,特定物質の構造情報を知っている場合,特定物質の既知の構造情報を学習された物質モデルに代入することによって,特定物質の物性を知ることができる。」
(ウ) ここで,ある事象をモデル化した数式があるとき,その定義域に含まれる値をランダムにたくさん生成して,モデル化した数式で計算を行い,得られた結果を統計的に処理することで,モデル化した数式の逆変換を解析的に解くことが困難な場合でも,数値的に近似解を求めることができる手法として,モンテカルロ法と呼ばれる手法が本件特許出願前に周知であり,上記(イ)の記載の下線部(【0082】)は,このモンテカルロ法に他ならない。
(エ) また,申立人が提出した甲1号証にも,40~41頁に,逐次的モンテカルロ法(SMC)による化学構造の生成が記載されている。
(オ) 以上から,本件特許出願前に,物質モデルをモデリングして当該物質モデルを機械学習により学習した後,学習された物質モデルを用いて,モンテカルロ法を適用して,目標物性情報から新規物質の構造を探索することは,技術常識であったと認められる。
ウ 小括
以上から,本件特許発明1,7,8の「前記複数の予測モデルを用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索」することについては,「逆解析」の具体的な記載が発明の詳細な説明に見当たらないものの,明細書の記載(本件特許発明の先行技術文献(特許文献1))及び出願時の技術常識(上記(イ)のモンテカルロ法など)を踏まえると,発明の詳細な説明に,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その方法を使用し,あるいは,その物を生産し使用することができる程度に記載されているといえる。
また,請求項1を引用する請求項に係る発明である本件特許発明2ないし6は,本件特許発明1の特定事項である「逆解析」を含んでいるから,本件特許発明1と同様に,「逆解析」の具体的な記載は,発明の詳細な説明に見当たらないものの,明細書の記載(本件特許発明の先行技術文献(特許文献1))及び出願時の技術常識(上記(イ)のモンテカルロ法など)を踏まえると,発明の詳細な説明に,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その方法を実施することができる程度に記載されているといえる。
エ 申立人の主張
申立人は,予測モデルの説明変数(入力値)は,「特徴量」であり,目的変数(出力値)は「物性」であり,「所望のノボラック型フェノール樹脂に係る物性(目標特性)」を予測モデルに入力できないから,目的変数(出力値)から説明変数(入力値)を導き出せない旨主張している。
しかし,上記イ(オ)で述べたように,本件特許出願前に,物質モデルをモデリングして当該物質モデルを機械学習により学習した後,学習された物質モデルを用いて,モンテカルロ法を適用して,目標物性情報から新規物質の構造を探索することは技術常識であり,本件特許明細書に例示された先行技術文献(特許文献1)にも記載されていたと認められるから,本件特許明細書等の記載に接した当業者は,予測モデルに,モンテカルロ法を用いて,目的変数(出力値)から説明変数(入力値)を近似的に導き出すことが可能であったといえ,目的変数(出力値)から説明変数(入力値)を導き出せない旨の上記申立人主張は採用できない。
(3)本件特許発明4ないし6の「SP値」の算出方法について
ア 明細書等の記載
請求項4の「前記特徴量はさらに,溶媒のSP値に係る情報を含む」という記載,および,引用する請求項2の「前記実績データに基づき特徴量を算出し」という記載,ならびに,引用する請求項1の「前記実績データは,ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,構造式と,反応溶媒と,反応パラメータとを含み」に関し,本件特許明細書等には以下の記載がある。
(ア)図3
[図:0001396327000008.jpg]
(イ)「【0039】
(情報処理装置の動作)
図3及び図4を参照して,本実施形態に係る情報処理装置10の動作について説明する。図3は本実施形態に係る情報処理装置10が実行する学習処理及び再学習処理の一例を示すフローチャートである。図4は本実施形態に係る情報処理装置10が実行する探索処理を示すフローチャートである。はじめに図3を参照して,情報処理装置10が実行する学習処理及び再学習処理の一例を示す。
【0040】
ステップS101:情報処理装置10の制御部11は,他用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データ110を取得する。実績データ110の取得には,任意の手法が採用可能である。例えば制御部11は,ユーザからの実績データの入力を入力部13により受け付けることで,実績データ110を取得してもよい。また例えば制御部11は,実績データ110を記憶した外部装置から通信用インタフェースを介して,当該実績データ110を取得してもよい。
【0041】
ステップS102:制御部11は,入力された実績データ110に基づき特徴量210を算出する。具体的には制御部11は,実績データ110に含まれるポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータに基づき特徴量210を算出する。特徴量210の算出のために,制御部11は,適宜データベース等を参照してもよい。この場合,かかるデータベースは,記憶部12に記憶されていてもよい。
【0042】
ステップS103:制御部11は,算出した特徴量210を説明変数,各物性を目的変数とする複数の予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)を生成する。予測モデルは,例えばサポートベクターマシン,線形モデル,非線形モデル等の予測モデルであるがこれに限られない。例えば予測モデル400は,入力層,隠れ層,及び出力層からなる多層パーセプトロンに基づき生成されるモデルであってもよい。あるいは予測モデル400は,Convolutional Neural Network(CNN),Recurrent Neural Network(RNN),その他のディープラーニング等の機械学習アルゴリズムに基づき生成されるモデルであってもよい。
【0043】
ステップS104:制御部11は,本用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データ120を取得する。実績データ120の取得には,任意の手法が採用可能である。例えば制御部11は,ユーザからの実績データの入力を入力部13により受け付けることで,実績データ120を取得してもよい。また例えば制御部11は,実績データ120を記憶した外部装置から通信用インタフェースを介して,当該実績データ120を取得してもよい。なお当該実績データ120は,実績データ110より少量であってよい。
【0044】
ステップS105:制御部11は,入力された実績データ120に基づき特徴量220を算出する。具体的には制御部11は,実績データ120に含まれるポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータに基づき特徴量220を算出する。特徴量210の算出のために,制御部11は,適宜データベース等を参照してもよい。この場合,かかるデータベースは,記憶部12に記憶されていてもよい。
【0045】
ステップS106:制御部11は,算出した特徴量220を説明変数,各物性を目的変数として,ステップS103にて生成した複数の予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)を再学習する。このようにして本実施形態にかかる予測モデル400が構築される。なお,ステップS103にて生成した複数の予測モデル400,及びステップS104にて生成した複数の予測モデル400とを区別するために,本実施形態においてそれぞれ「汎用予測モデル」,及び「本予測モデル」とも呼ぶ。」
(ウ)「【0056】
また本実施形態では,特徴量に反応溶媒のSP値に係る情報を含んでもよい。反応溶媒のSP値に係る情報は,合成反応における溶媒の特徴を示すことができるため,当該特徴量を説明変数として用いることで,予測モデル400の精度を向上させることができる。
なお,本明細書におけるSP値((J/cm3)1/2)は,(凝集エネルギー密度(いわゆる蒸発エネルギー))の平方根で表され,物性値から算出しても,あるいは分子構造から算出してもよい。本実施形態に使用可能なSP値の例としては,HildebrandのSP値(Hildebrand Ruleにより算出),又は蒸発潜熱,表面張力若しくは溶解度の値,屈折率の値などの物性値から算出する方法,HansenのHSP(Hansenの計算方法により算出),又はSmallの計算方法,Rheineck及びLinの計算方法,Krevelen及びHoftyzerの計算方法,Fedorsの計算方法若しくはHoyの計算方法などの分子構造から算出する方法が挙げられる。
本実施形態における溶媒(反応溶媒及び最終溶媒を包含する)のSP値は,上記各方法に算出されたSP値を1又は2以上併用して使用することができる。また,2種以上の溶媒を混合した混合溶媒を使用する場合,SP値の相互作用項の算出は,例えば,各溶媒のSP値を上記方法により算出した後,基準となる1つの基準溶媒を選択し,他の溶媒と前記基準溶媒との差分をそれぞれ算出することにより求められる。さらには,ノボラック型フェノール樹脂又はその原料成分と溶媒とのSP値の相互作用項を算出する場合は,それぞれのSP値を上記方法により算出した後,基準となる1つの基準物質を樹脂,原料成分又は溶媒から選択し,前記基準物質と各成分との差分をそれぞれ算出することにより求められる。」
イ 技術常識
上記ア(ウ)の「本実施形態に使用可能なSP値の例としては,HildebrandのSP値(Hildebrand Ruleにより算出),又は蒸発潜熱,表面張力若しくは溶解度の値,屈折率の値などの物性値から算出する方法,HansenのHSP(Hansenの計算方法により算出),又はSmallの計算方法,Rheineck及びLinの計算方法,Krevelen及びHoftyzerの計算方法,Fedorsの計算方法若しくはHoyの計算方法などの分子構造から算出する方法が挙げられる。」(【0056】)という記載は,本件特許発明4に利用可能な,反応溶媒のSP値算出における技術常識を列挙したものであると認められる。
ウ 小括
例えば,上記ア(ウ)の「Hoyの計算方法などの分子構造から算出する方法」という記載からは,反応溶媒のSP値が,分子構造から算出可能であるといえ,分子構造は,「ポリマー組成」や「構造式」に該当するといえるから,本件特許発明4の方法を実施するため,「ポリマー組成」や「構造式」といった「実績データ」から,「Hoyの計算方法」を用いれば,反応溶媒のSP値が算出できるといえる。
したがって,本件特許発明4の「(反応)溶媒のSP値」の具体的な算出方法は,発明の詳細な説明に見当たらないものの,明細書の段落0056に列挙された技術常識(「Hoyの計算方法」など)を踏まえると,発明の詳細な説明に,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その方法を使用することができる程度に記載されているといえる。
また,請求項5および6は,請求項4を引用するものも含まれているから,本件特許発明4と同様に,「(反応)溶媒のSP値」の具体的な算出方法は,発明の詳細な説明に見当たらないものの,明細書の段落0056に列挙された技術常識(「Hoyの計算方法」など)を踏まえると,発明の詳細な説明に,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その方法を使用することができる程度に記載されているといえる。
エ 申立人の主張
申立人は,ポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータには,様々なデータ含まれ得るところ,具体的にどのようなデータから,SP値を算出できるのか記載されていない旨主張している。
しかし,上記ウで述べたように,本件特許明細書の段落0056に列挙された技術常識(「Hoyの計算方法」など)に基づき,「ポリマー組成」や「構造式」といった「実績データ」から,反応溶媒のSP値を算出可能であったといえるから,ポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータには,様々なデータ含まれ得るところ,具体的にどのようなデータから,SP値を算出できるのか記載されていない旨の上記申立人主張は採用できない。
(4)実施可能要件のまとめ
以上から,本件特許発明1ないし8の「逆解析」,および,本件特許発明4ないし6の「SP値」については,いずれも,技術常識に基づき,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その方法を使用,あるいは,その物を生産し使用することができる程度に記載されているといえるから,申立人の理由1(実施可能要件違反)によって,本特許発明1ないし8を取り消すことはできない。
2 サポート要件
申立人は,理由2において,本件特許発明1ないし8に係る特許のサポート要件違反を主張しているので,以下検討する。
(1)サポート要件の判断枠組み
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下,上記観点に立って,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。
(2)請求項1ないし8の記載
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は,上記第2に記載のとおりである。
(3)発明が解決しようとする課題
本件特許明細書には,発明が解決しようとする課題に関して,以下の記載がある。(下線は当審が付加した。以下同様。)
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の物質の探索技術は一般的な物質モデルを対象としたものであるところ,半導体製造用に用いられるクレゾールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂を探索することについては従来技術では特段考慮されていなかった。
【0006】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は,ノボラック型フェノール樹脂の探索技術を改善することにある。」
(4)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許の請求項1ないし8に対応して,以下のような記載がある。なお,引用請求項については,差分となる発明特定事項に対応する記載のみを示す。
ア 請求項1に対応する記載
(ア)「【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係る物質探索方法は,
情報処理装置が実行するノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって,
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成するステップと,
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索するステップと,
を含み,
前記実績データは,ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,構造式と,反応溶媒と,反応パラメータとを含み,
前記目的変数は,現像性と,耐熱性と,分子量とを含む。」
(イ) 図2
[図:0001396327000009.jpg]
(ウ) 「【0026】
(情報処理装置の構成)
次に,情報処理装置10の各構成について詳細に説明する。情報処理装置10は,ユーザによって使用される任意の装置である。例えばパーソナルコンピュータ,サーバコンピュータ,汎用の電子機器,又は専用の電子機器が,情報処理装置10として採用可能である。
【0027】
図2に示されるように,情報処理装置10は,制御部11と,記憶部12と,入力部13と,出力部14とを備える。
【0028】
制御部11には,少なくとも1つのプロセッサ,少なくとも1つの専用回路,又はこれらの組み合わせが含まれる。プロセッサは,CPU(central processing unit)若しくはGPU(graphics processing unit)などの汎用プロセッサ,又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。専用回路は,例えば,FPGA(field-programmable gate array)又はASIC(application specific integrated circuit)である。制御部11は,情報処理装置10の各部を制御しながら,情報処理装置10の動作に関わる処理を実行する。
【0029】
記憶部12には,少なくとも1つの半導体メモリ,少なくとも1つの磁気メモリ,少なくとも1つの光メモリ,又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせが含まれる。半導体メモリは,例えば,RAM(random access memory)又はROM(read only memory)である。RAMは,例えば,SRAM(static random access memory)又はDRAM(dynamic random access memory)である。ROMは,例えば,EEPROM(electrically erasable programmable read only memory)である。記憶部12は,例えば,主記憶装置,補助記憶装置,又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部12には,情報処理装置10の動作に用いられるデータと,情報処理装置10の動作によって得られたデータとが記憶される。
【0030】
入力部13には,少なくとも1つの入力用インタフェースが含まれる。入力用インタフェースは,例えば,物理キー,静電容量キー,ポインティングデバイス,ディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーンである。また入力用インタフェースは,例えば,音声入力を受け付けるマイクロフォン,又はジェスチャー入力を受け付けるカメラ等であってもよい。入力部13は,情報処理装置10の動作に用いられるデータを入力する操作を受け付ける。入力部13は,情報処理装置10に備えられる代わりに,外部の入力機器として情報処理装置10に接続されてもよい。接続方式としては,例えば,USB(Universal Serial Bus),HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface),又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0031】
出力部14には,少なくとも1つの出力用インタフェースが含まれる。出力用インタフェースは,例えば,情報を映像で出力するディスプレイ等である。ディスプレイは,例えば,LCD(liquid crystal display)又は有機EL(electro luminescence)ディスプレイである。出力部14は,情報処理装置10の動作によって得られるデータを表示出力する。出力部14は,情報処理装置10に備えられる代わりに,外部の出力機器として情報処理装置10に接続されてもよい。接続方式としては,例えば,USB,HDMI(登録商標),又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0032】
情報処理装置10の機能は,本実施形態に係るプログラムを,情報処理装置10に相当するプロセッサで実行することにより実現される。すなわち,情報処理装置10の機能は,ソフトウェアにより実現される。プログラムは,情報処理装置10の動作をコンピュータに実行させることで,コンピュータを情報処理装置10として機能させる。すなわち,コンピュータは,プログラムに従って情報処理装置10の動作を実行することにより情報処理装置10として機能する。
【0033】
本実施形態においてプログラムは,コンピュータで読取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読取り可能な記録媒体は,非一時的なコンピュータ読取可能な媒体を含み,例えば,磁気記録装置,光ディスク,光磁気記録媒体,又は半導体メモリである。プログラムの流通は,例えば,プログラムを記録したDVD(digital versatile disc)又はCD-ROM(compact disc read only memory)などの可搬型記録媒体を販売,譲渡,又は貸与することによって行う。またプログラムの流通は,プログラムを外部サーバのストレージに格納しておき,外部サーバから他のコンピュータにプログラムを送信することにより行ってもよい。またプログラムはプログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0034】
情報処理装置10の一部又は全ての機能が,制御部11に相当する専用回路により実現されてもよい。すなわち,情報処理装置10の一部又は全ての機能が,ハードウェアにより実現されてもよい。
【0035】
本実施形態において記憶部12は,実績データ100,特徴量210,220,及び予測モデル400を記憶する。特徴量210,220は実績データ100のうちポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータに基づき算出される。
【0036】
特徴量210は,ノボラック型フェノール樹脂の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量210は,分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含んでもよい。また特徴量210は,溶媒の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量210は,反応溶媒のSP値に係る情報を含んでもよい。反応溶媒のSP値に係る情報は,例えば反応溶媒のSP値,最終溶媒のSP値,SP値の相互作用項の少なくともいずれか1つを含んでもよい。
【0037】
特徴量220は,ノボラック型フェノール樹脂の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量220は,分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含んでもよい。また特徴量220は,溶媒の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量220は,反応溶媒のSP値に係る情報を含んでもよい。反応溶媒のSP値に係る情報は,例えば反応溶媒のSP値,最終溶媒のSP値,SP値の相互作用項の少なくともいずれか1つを含んでもよい。
【0038】
なお実績データ100,特徴量210,220,及び予測モデル400は,情報処理装置10とは別の外部装置に記憶されていてもよい。その場合,情報処理装置10は,外部通信用インタフェースを備えていてもよい。通信用インタフェースは,有線通信又は無線通信のいずれのインタフェースであってよい。有線通信の場合,通信用インタフェースは例えばLANインタフェース,USBである。無線通信の場合,通信用インタフェースは例えば,LTE,4G,若しくは5Gなどの移動通信規格に対応したインタフェース,Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信に対応したインタフェースである。通信用インタフェースは,情報処理装置10の動作に用いられるデータを受信し,また情報処理装置10の動作によって得られるデータを送信可能である。」
(エ) 図3
[図:0001396327000010.jpg]
(オ) 「【0039】
(情報処理装置の動作)
図3及び図4を参照して,本実施形態に係る情報処理装置10の動作について説明する。図3は本実施形態に係る情報処理装置10が実行する学習処理及び再学習処理の一例を示すフローチャートである。図4は本実施形態に係る情報処理装置10が実行する探索処理を示すフローチャートである。はじめに図3を参照して,情報処理装置10が実行する学習処理及び再学習処理の一例を示す。
【0040】
ステップS101:情報処理装置10の制御部11は,他用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データ110を取得する。実績データ110の取得には,任意の手法が採用可能である。例えば制御部11は,ユーザからの実績データの入力を入力部13により受け付けることで,実績データ110を取得してもよい。また例えば制御部11は,実績データ110を記憶した外部装置から通信用インタフェースを介して,当該実績データ110を取得してもよい。
【0041】
ステップS102:制御部11は,入力された実績データ110に基づき特徴量210を算出する。具体的には制御部11は,実績データ110に含まれるポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータに基づき特徴量210を算出する。特徴量210の算出のために,制御部11は,適宜データベース等を参照してもよい。この場合,かかるデータベースは,記憶部12に記憶されていてもよい。
【0042】
ステップS103:制御部11は,算出した特徴量210を説明変数,各物性を目的変数とする複数の予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)を生成する。予測モデルは,例えばサポートベクターマシン,線形モデル,非線形モデル等の予測モデルであるがこれに限られない。例えば予測モデル400は,入力層,隠れ層,及び出力層からなる多層パーセプトロンに基づき生成されるモデルであってもよい。あるいは予測モデル400は,Convolutional Neural Network(CNN),Recurrent Neural Network(RNN),その他のディープラーニング等の機械学習アルゴリズムに基づき生成されるモデルであってもよい。
【0043】
ステップS104:制御部11は,本用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データ120を取得する。実績データ120の取得には,任意の手法が採用可能である。例えば制御部11は,ユーザからの実績データの入力を入力部13により受け付けることで,実績データ120を取得してもよい。また例えば制御部11は,実績データ120を記憶した外部装置から通信用インタフェースを介して,当該実績データ120を取得してもよい。なお当該実績データ120は,実績データ110より少量であってよい。
【0044】
ステップS105:制御部11は,入力された実績データ120に基づき特徴量220を算出する。具体的には制御部11は,実績データ120に含まれるポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータに基づき特徴量220を算出する。特徴量210の算出のために,制御部11は,適宜データベース等を参照してもよい。この場合,かかるデータベースは,記憶部12に記憶されていてもよい。
【0045】
ステップS106:制御部11は,算出した特徴量220を説明変数,各物性を目的変数として,ステップS103にて生成した複数の予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)を再学習する。このようにして本実施形態にかかる予測モデル400が構築される。なお,ステップS103にて生成した複数の予測モデル400,及びステップS104にて生成した複数の予測モデル400とを区別するために,本実施形態においてそれぞれ「汎用予測モデル」,及び「本予測モデル」とも呼ぶ。
【0046】
なお,上記の処理により構築された予測モデル400について,既知データに基づき精度検証を行ってもよい。検証の結果,精度が実用範囲内である場合には当該予測モデル400を用いたノボラック型フェノール樹脂の探索処理を行うようにしてもよい。」
(カ)図4
[図:0001396327000011.jpg]
(キ)「【0047】
次に図4を参照して,情報処理装置10が実行するノボラック型フェノール樹脂の探索処理の一例を示す。概略として情報処理装置10は,複数の予測モデル400を用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索する。
【0048】
ステップS201:情報処理装置10の制御部11は,所望のノボラック型フェノール樹脂に係る物性(以下,目標特性という)を取得し,各予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)に入力する。例えば制御部11は,ユーザからの目標特性の入力を入力部13により受け付けることで,目標特性を取得する。
【0049】
ステップS202:制御部11は,ステップS201にて取得した目標特性を得られるノボラック型フェノール樹脂の特徴量を各予測モデル400により予測する。
【0050】
ステップS203:制御部11は,ステップS202により得られた予測結果に対して,最適化処理を実行し,探索結果を出力部14により出力する。例えば制御部11は,探索結果として,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂に係る組成及び合成方法を出力部14により出力する。あるいは制御部11は,探索結果として,所望の物性バランスを有する少なくとも1つのノボラック型フェノール樹脂に係る特徴量を,出力部14により出力してもよい。
【0051】
ここで最適化処理と再急降下法,ベイズ最適化やガウシアン過程最適化,その機構を利用したGPyOpt,Optuna,HyperOptなどのPythonライブラリ,遺伝的アルゴリズムにより,評価関数の最大化あるいは最小化を実施できるが,これらの手法に限定されるものではなく,最適化する対象に適した手法を一つ乃至は複数選択することができる。
【0052】
このように,本実施形態によれば,ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データ100に基づき複数の予測モデル400を生成する。そしてこれらの複数の予測モデル400を用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索することができる。例えば,所望の耐熱性,及び所望の現像性を有するノボラック型フェノール樹脂を容易に探索することができる。」
イ 請求項2に対応する記載
(ア)「【0008】
また本開示の一実施形態に係る物質探索方法は,
前記複数の予測モデルを生成するステップにおいて,前記実績データに基づき特徴量を算出し,該特徴量を前記複数の予測モデルの説明変数として用いる。」
(イ)「【0035】
本実施形態において記憶部12は,実績データ100,特徴量210,220,及び予測モデル400を記憶する。特徴量210,220は実績データ100のうちポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータに基づき算出される。」
(ウ)「【0039】
(情報処理装置の動作)
図3及び図4を参照して,本実施形態に係る情報処理装置10の動作について説明する。図3は本実施形態に係る情報処理装置10が実行する学習処理及び再学習処理の一例を示すフローチャートである。
(中略)
【0041】
ステップS102:制御部11は,入力された実績データ110に基づき特徴量210を算出する。具体的には制御部11は,実績データ110に含まれるポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータに基づき特徴量210を算出する。特徴量210の算出のために,制御部11は,適宜データベース等を参照してもよい。この場合,かかるデータベースは,記憶部12に記憶されていてもよい。
【0042】
ステップS103:制御部11は,算出した特徴量210を説明変数,各物性を目的変数とする複数の予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)を生成する。予測モデルは,例えばサポートベクターマシン,線形モデル,非線形モデル等の予測モデルであるがこれに限られない。例えば予測モデル400は,入力層,隠れ層,及び出力層からなる多層パーセプトロンに基づき生成されるモデルであってもよい。あるいは予測モデル400は,Convolutional Neural Network(CNN),Recurrent Neural Network(RNN),その他のディープラーニング等の機械学習アルゴリズムに基づき生成されるモデルであってもよい。
(中略)
【0044】
ステップS105:制御部11は,入力された実績データ120に基づき特徴量220を算出する。具体的には制御部11は,実績データ120に含まれるポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータに基づき特徴量220を算出する。特徴量210の算出のために,制御部11は,適宜データベース等を参照してもよい。この場合,かかるデータベースは,記憶部12に記憶されていてもよい。
【0045】
ステップS106:制御部11は,算出した特徴量220を説明変数,各物性を目的変数として,ステップS103にて生成した複数の予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)を再学習する。このようにして本実施形態にかかる予測モデル400が構築される。なお,ステップS103にて生成した複数の予測モデル400,及びステップS104にて生成した複数の予測モデル400とを区別するために,本実施形態においてそれぞれ「汎用予測モデル」,及び「本予測モデル」とも呼ぶ。」
ウ 請求項3に対応する記載
(ア)「【0009】
また本開示の一実施形態に係る物質探索方法において,
前記特徴量は,分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含む。」
(イ)「【0036】
特徴量210は,ノボラック型フェノール樹脂の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量210は,分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含んでもよい。また特徴量210は,溶媒の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量210は,反応溶媒のSP値に係る情報を含んでもよい。反応溶媒のSP値に係る情報は,例えば反応溶媒のSP値,最終溶媒のSP値,SP値の相互作用項の少なくともいずれか1つを含んでもよい。」
エ 請求項4に対応する記載
(ア)「【0010】
また本開示の一実施形態に係る物質探索方法において,
前記特徴量はさらに,溶媒のSP値に係る情報を含む。」
(イ)「【0036】
特徴量210は,ノボラック型フェノール樹脂の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量210は,分子指紋又は記述子の少なくとも一方を含んでもよい。また特徴量210は,溶媒の特徴を表す任意のデータを含んでよい。例えば特徴量210は,反応溶媒のSP値に係る情報を含んでもよい。反応溶媒のSP値に係る情報は,例えば反応溶媒のSP値,最終溶媒のSP値,SP値の相互作用項の少なくともいずれか1つを含んでもよい。」
オ 請求項5に対応する記載
(ア)「【0011】
また本開示の一実施形態に係る物質探索方法は,
前記実績データは所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データと,前記所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データとを含み
前記複数の予測モデルを生成するステップにおいて,
前記所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて前記複数の予測モデルを生成した後に,前記所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて前記複数の予測モデルを再学習させる。」
(イ)「【0039】
(情報処理装置の動作)
図3及び図4を参照して,本実施形態に係る情報処理装置10の動作について説明する。図3は本実施形態に係る情報処理装置10が実行する学習処理及び再学習処理の一例を示すフローチャートである。
(中略)
【0040】
ステップS101:情報処理装置10の制御部11は,他用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データ110を取得する。
(中略)
【0042】
ステップS103:制御部11は,算出した特徴量210を説明変数,各物性を目的変数とする複数の予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)を生成する。
(中略)
【0043】
ステップS104:制御部11は,本用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データ120を取得する。
(中略)
【0045】
ステップS106:制御部11は,算出した特徴量220を説明変数,各物性を目的変数として,ステップS103にて生成した複数の予測モデル400(第1予測モデル~第N予測モデル)を再学習する。」
カ 請求項6に対応する記載
(ア)「【0012】
また本開示の一実施形態に係る物質探索方法において,
前記所定用途は,半導体製造用である。」
(イ)「【0021】
実績データ100は,所定用途の実績データ110と他用途の実績データ120とを含む。所定用途の実績データ110は,例えば半導体製造用のノボラック型フェノール樹脂に係る実績データである。」
キ 請求項7に対応する記載
「【0013】
また本開示の一実施形態に係る情報処理装置は,
制御部を備えるノボラック型フェノール樹脂の探索をする情報処理装置であって,
前記制御部は,
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成し,
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索し,
前記実績データは,前記ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,反応溶媒と,反応パラメータとを含み,
前記目的変数は,現像性と,耐熱性と,分子量とを含む。」
ク 請求項8に対応する記載
「【0014】
また本開示の一実施形態に係るプログラムは,
コンピュータに,
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成することと,
前記複数の予測モデルを用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索することと,を実行させ,
前記実績データは,ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,反応溶媒と,反応パラメータとを含み,
前記目的変数は,現像性と,耐熱性と,分子量とを含む。」
ケ 小括
以上から,本件特許発明1ないし8は,いずれも,発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
(5) 課題の解決について
上記(3)で述べたように,本件特許明細書の段落0006には,「発明が解決しようとする課題」として,「ノボラック型フェノール樹脂の探索技術を改善すること」が記載されている。
背景技術(段落0002)においては,物質モデルをモデリングして当該物質モデルを機械学習により学習した後,学習された物質モデルを用いて,目標物性情報から新規物質の構造を探索する技術が知られていた(例えば特許文献1)ものの,特許文献1に記載の物質の探索技術は一般的な物質モデルを対象としたものであるところ,半導体製造用に用いられるクレゾールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂を探索することについては従来技術では特段考慮されていなかった(段落0005)ことを踏まえて,本件特許発明1ないし8は,いずれも,ノボラック型フェノール樹脂の探索を情報処理装置(コンピュータ)が実行する方法(装置,プログラム)として,ボラック型フェノール樹脂の探索技術を改善した(段落0006)ものであり,具体的には,「ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成するステップ」と「前記複数の予測モデルを用いた逆解析により,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索するステップ」との2つのステップを情報処理装置が実行することにより,ボラック型フェノール樹脂の探索技術を改善しているといえるから,上記課題を解決しているといえる。
(6)サポート要件のまとめ
以上から,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明であり,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであり,サポート要件を満たしているといえるから,申立人の理由2(サポート要件違反)によって,本件特許発明1ないし8についての特許を取り消すことはできない。
(7)申立人の主張について
ア (理由2-1)課題を解決できること
(ア)申立人は,本件特許発明1ないし8が,課題を解決できることを示す評価結果が記載されていない旨主張しているところ,本件特許発明1ないし8が解決しようとする課題は,ボラック型フェノール樹脂の探索技術を改善すること(段落0006)であり,改善されたボラック型フェノール樹脂を探索することではないから,探索されたボラック型フェノール樹脂が改善されたものであることを示す評価結果が記載されていない旨の申立人主張は,本件特許発明1ないし8の解決しようとする課題の理解を誤ったものであるから,採用できない。
なお,本件特許明細書の段落0084に表1として,比較例1と対比して,実施例1ないし5の探索されたボラック型フェノール樹脂の評価結果が記載されており,評価結果が記載されていない旨の申立人の主張も採用できない。
(イ)申立人は,実績データに含まれる反応溶媒と反応パラメータが目的変数にどのように影響するのか不明であるから,本件特許発明1が課題を解決できることを当業者が認識できるよう記載された範囲を超えている旨主張しているところ,実績データに含まれる反応溶媒と反応パラメータが目的変数にどのように影響するのか不明であるか否かは,上記(1)で示したサポート要件の判断枠組みに照らして,検討が必要な事項ではない。
したがって,当該申立人の主張は,サポート要件の判断枠組みに基づかない独自の主張であるから採用できない。
ウ (理由2-2)所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて複数の予測モデルを生成した後に,所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて複数の予測モデルを再学習させることについて
申立人は,所定用途以外で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて複数の予測モデルを生成した後に,所定用途で使用されるノボラック型フェノール樹脂の実績データを用いて複数の予測モデルを再学習させることについて,記載されていないから,本件特許発明5は,発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張しているが,上記(4)オに示したように,発明の詳細な説明に記載されているから,申立人の当該主張は採用できない。
エ (理由2-3)実績データが「構造式」を含まない場合について
申立人は,実績データが「構造式」を含まない場合について本件特許明細書の詳細な説明に記載されていないから,本件特許発明7および8は,発明の詳細な説明に記載されたものではいない旨主張しているが,上記(4)キおよびクに示したように,発明の詳細な説明に記載されているから,申立人の当該主張は採用できない。
3 明確性要件
申立人は,理由3において,本件特許発明1ないし8に係る特許の明確性要件違反を主張しているので,以下検討する。
(1) 明確性要件の判断枠組み
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下,上記観点に立って,本件特許発明1ないし8が明確であるか否かについて検討する。
(2) 「反応溶媒と,反応パラメータ」の明確性
申立人は,「反応溶媒と,反応パラメータ」の明確性について主張しているので,「反応溶媒と,反応パラメータ」の明確性について検討する。
ア 本件特許発明1の「ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データ」という記載,および,「前記実績データは,ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,構造式と,反応溶媒と,反応パラメータとを含み」という記載から,「実績データ」が「ノボラック型フェノール樹脂に係る」ものであり,「実績データ」は「ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,構造式と,反応溶媒と,反応パラメータとを含」んでいるという意味で明確であるといえる。
イ また,「実績データ」が「ノボラック型フェノール樹脂に係る」ものであり,「実績データ」は「ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,構造式と,反応溶媒と,反応パラメータとを含」んでいることから,当業者にとって,「反応溶媒と,反応パラメータ」が,「ノボラック型フェノール樹脂」を生成する際に必要となる「反応溶媒」であり,その生成の際に制御対象となる「反応パラメータ」であることは,「ノボラック型フェノール樹脂」生成の技術常識を基礎とすれば明らかであるといえる。
ウ 以上から,当業者の出願当時における技術常識を基礎とすれば,特許請求の範囲の請求項1の記載は,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないから,本件特許発明1は,明確性要件を満たしているといえる。
エ 請求項2ないし6は,請求項1を引用しているから,本件特許発明2ないし6は,いずれも,本件特許発明1の発明特定事項をすべて含んでおり,本件特許発明2ないし6は,本件特許発明1と同様に,明確性要件を満たしているといえる。
オ 本件特許発明7および8は,いずれも,本件特許発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項をすべて含んでおり,本件特許発明7および8は,本件特許発明1と同様に,明確性要件を満たしているといえる。
(3)明確性要件のまとめ
以上から,本件特許発明1ないし8は,いずれも,当業者の出願当時における技術常識を基礎とすれば,特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえず,本件特許発明1は,明確性要件を満たしているといえるから,申立人の理由3(明確性要件違反)によって,本件特許発明1ないし8についての特許を取り消すことはできない。
(4) 申立人の主張について
申立人は,ポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータに基づきどのように特徴量を算出できるのか具体的に記載されておらず,実績データがポリマー組成,構造式,反応溶媒,及び反応パラメータを含むことの技術的意味を,当業者が理解できない結果,反応溶媒,及び反応パラメータとしてどのような情報まで含まれるのか不明確である旨主張しているところ,上記(3)で述べたように,「反応溶媒と,反応パラメータ」が,「ノボラック型フェノール樹脂」を生成する際に必要となる「反応溶媒」であり,その生成の際に制御対象となる「反応パラメータ」であることは,本件特許発明1ないし8に対応する願書に添付した明細書の記載及び図面の記載を考慮し,当業者の出願当時における技術常識を基礎とすれば,明確であるから,上記申立人の主張は採用できない。
4 甲2発明に基づく進歩性
申立人は,理由4において,甲1号証,または,甲2号証を主たる証拠とする進歩性欠如を主張しているので,まず,甲2号証を主たる証拠とする進歩性について,以下検討する。
(1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)甲2発明において,「マテリアルインフォマティクス(MI)的手法を用いた,厚膜塗布時もクラックレス(柔軟)でありながら,高耐熱(Tg),高アルカリ溶解性(ADR)を有するフェノール樹脂の開発方法であって,目的化合物RZ-230-Xは剛直なフェノールトリマー構造と数種の従骨格から為るノボラック樹脂であり,」「過去のデータ群の相関から最適解を求める,MI的手法であ」るとされている。
ここで,甲2発明の「過去のデータ群の相関から最適解を求める」「マテリアルインフォマティクス(MI)的手法」が,コンピュータのような情報処理装置に探索プログラムを実行させる方法であることは,技術常識から明らかであるから,甲2発明の「剛直なフェノールトリマー構造と数種の従骨格から為るノボラック樹脂であ」る「RZ-230-X」を「目的化合物」として「マテリアルインフォマティクス(MI)的手法を用いた(中略)フェノール樹脂の開発方法」は,本件特許発明1の「情報処理装置が実行するノボラック型フェノール樹脂の探索方法」に対応するといえる。
(イ)甲2発明において,「過去のデータ群の相関から最適解を求める,MI的手法であって,
トリマー構造と柔軟骨格の組成を基に説明変数を決定し,
Tg,クラック数,ADRを目的変数に設定し,
ランダムフォレストや多層パーセプトロン等の回帰計算を実施し,相関の良いアルゴリズムを使用モデルとし,実測値と予測値で高い相関が得られたものを予測モデルとして使用」するとされている。
ここで,甲2発明の「過去のデータ群」,「Tg,クラック数,ADR」といった「目的変数」は,それぞれ,本件特許発明1の「ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データ」,「複数の目的変数」に相当するといえる。
また,甲2発明において,「ランダムフォレストや多層パーセプトロン等の回帰計算を実施し,相関の良いアルゴリズムを使用モデルとし,実測値と予測値で高い相関が得られたものを予測モデルとして使用」しており,複数の予測モデルを生成した上で,相関の高い予測モデルを選択しているといえるから,甲2発明も,本件特許発明1と同様に,「複数の予測モデルを生成」しているといえる。
したがって,本件特許発明1と,甲2発明とは,「ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて,複数の目的変数に」「対応した複数の予測モデルを生成するステップ」「を含」んだ「ノボラック型フェノール樹脂の探索方法」である点で共通している。
しかし,本件特許発明1は,複数の予測モデルを生成する際に,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成しているのに対し,甲2発明は,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成しているのか否か明らかでない点で相違している。
(ウ)甲2発明において,「厚膜塗布時もクラックレス(柔軟)でありながら,高耐熱(Tg),高アルカリ溶解性(ADR)を有するフェノール樹脂の開発方法であって,」「ランダムフォレストや多層パーセプトロン等の回帰計算を実施し,相関の良いアルゴリズムを使用モデルとし,実測値と予測値で高い相関が得られたものを予測モデルとして使用し,組成を決定し」ているとされている。
ここで,甲2発明の「厚膜塗布時もクラックレス(柔軟)でありながら,高耐熱(Tg),高アルカリ溶解性(ADR)を有するフェノール樹脂」の「組成を決定」することは,本件特許発明1の「所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索する」ことに対応する。
したがって,本件特許発明1と,甲2発明とは,「前記複数の予測モデルを用い」て,「所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索するステップ」「を含」んだ「ノボラック型フェノール樹脂の探索方法」である点で共通している。
しかし,本件特許発明1の「ノボラック型フェノール樹脂を探索するステップ」は,「複数の予測モデルを用いた逆解析により,」探索しているのに対し,甲2発明のノボラック型フェノール樹脂を探索するステップは,複数の予測モデルを用いた逆解析により,探索しているのか否か明らかでない点で相違している。
(エ)甲2発明において,「過去のデータ群の相関から最適解を求める,MI的手法であって,トリマー構造と柔軟骨格の組成を基に説明変数を決定」するとているとされている。
ここで,甲2発明の「過去のデータ群」,「トリマー構造と柔軟骨格の組成」は,それぞれ,本件特許発明1の「実績データ」,「ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,構造式」に対応する。
したがって,本件特許発明1と,甲2発明とは,「前記実績データは,ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,構造式」「とを含」んでいる点で共通している。
しかし,本件特許発明1の「実績データ」には,「反応溶媒と,反応パラメータ」も含まれているのに対し,甲2発明の実績データには,反応溶媒と,反応パラメータが含まれていない点で相違している。
(オ)甲2発明において,「Tg,クラック数,ADRを目的変数に設定」するとているとされている。
ここで,甲2発明の「Tg」は,「高耐熱(Tg)」特性であるから,本件特許発明1の「耐熱性」に相当し,甲2発明の「ADR」は,「高アルカリ溶解性(ADR)」特性であって,現像性を示す特性であるから,本件特許発明1の「現像性」に相当する。
したがって,本件特許発明1と,甲2発明とは,「前記目的変数は,現像性と,耐熱性」「とを含」んでいる点で共通している。
しかし,本件特許発明1の「目的変数」には,「分子量」も含まれているのに対し,甲2発明の目的変数には,分子量が含まれていない点で相違している。
イ 一致点・相違点
上記アより,本件特許発明1と甲2発明とは,以下(ア)の点で一致し,また,以下(イ)の点で相違しているといえる。
(ア)一致点
「情報処理装置が実行するノボラック型フェノール樹脂の探索方法であって,
ノボラック型フェノール樹脂に係る実績データを用いて,複数の目的変数に対応した複数の予測モデルを生成するステップと,
前記複数の予測モデルを用いて,所望の物性バランスを有するノボラック型フェノール樹脂を探索するステップと,
を含み,
前記実績データは,ノボラック型フェノール樹脂に係るポリマー組成と,構造式とを含み,
前記目的変数は,現像性と,耐熱性とを含む,ノボラック型フェノール樹脂の探索方法。」
(イ)相違点
a <相違点1>
本件特許発明1は,複数の予測モデルを生成する際に,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成しているのに対し,甲2発明は,複数の目的変数に各々対応した複数の予測モデルを生成していない点。
b <相違点2>
本件特許発明1の「ノボラック型フェノール樹脂を探索するステップ」は,「複数の予測モデルを用いた逆解析により,」探索しているのに対し,甲2発明のノボラック型フェノール樹脂を探索するステップは,複数の予測モデルを用いた逆解析により,探索しているのか否か明らかでない点。
c <相違点3>
本件特許発明1の「実績データ」には,「反応溶媒と,反応パラメータ」も含まれているのに対し,甲2発明の実績データには,反応溶媒と,反応パラメータが含まれていない点
d <相違点4>
本件特許発明1の「目的変数」には,「分子量」も含まれているのに対し,甲2発明の目的変数には,分子量が含まれていない点。
ウ 相違点の判断
事案に鑑みて,まず<相違点3>について検討する。
(ア)<相違点3>について
「実績データ」に,「ノボラック型フェノール樹脂に係る」「反応溶媒と,反応パラメータ」も含まれている上記<相違点3>に係る構成が,甲1号証ないし甲3号証のいずれにも,記載も示唆もされておらず,当該構成が本件特許出願前に周知であったとも認められないから,上記<相違点3>に係る構成は,甲2発明および甲1号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない。
(イ)<相違点4>について
「目的変数」に,「ノボラック型フェノール樹脂に係る」「分子量」も含まれている上記<相違点4>に係る構成が,甲1号証ないし甲3号証のいずれにも,記載も示唆もされておらず,当該構成が本件特許出願前に周知であったとも認められないから,上記<相違点4>に係る構成は,甲2発明および甲1号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)小括
したがって,本件特許発明1は,<相違点1>および<相違点2>について検討するまでもなく,甲2発明および甲1号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人は,申立書において,<相違点3>に係る構成について,甲3号証に,特性を予測する予測モデルの生成において,組成に加えて製造条件を用いる周知技術が記載されており,「反応溶媒と,反応パラメータ」も製造条件であるから,「実績データ」に,「反応溶媒と,反応パラメータ」も含まれているようにすることは,当業者が容易になし得たことである旨主張している。(申立書44頁下から1行~45頁7行)
しかし,ノボラック型フェノール樹脂の製造の際の製造条件としては,多数のものが存在しうるところ,多数の製造条件の中から,「反応溶媒と,反応パラメータ」を用いる動機づけが甲1号証ないし甲3号証のいずれにも記載も示唆もないから,「反応溶媒と,反応パラメータ」も製造条件であることから,「実績データ」に,「反応溶媒と,反応パラメータ」も含まれているようにすることが容易であったということはできず,申立人の上記主張は採用できない。
b 申立人は,申立書において,<相違点4>に係る構成について,分子量は現像性と相関が強いことが技術常識であるから,「実績データ」に,「目的変数」に,「分子量」も含まれているようにすることは,当業者が容易になし得たことである旨主張している。(申立書45頁8~12行)
しかし,ノボラック型フェノール樹脂の望ましい物理特性として,多数の物理特性が存在しうるところ,多数の物理特性の中から,「分子量」を望ましい物理特性として「目的変数」とする動機づけが甲1号証ないし甲3号証のいずれにも記載も示唆もないから,分子量は現像性と相関が強いことが技術常識であるからといって,「実績データ」に,「目的変数」に,「分子量」も含まれているようにすることが容易であったということはできず,申立人の上記主張は採用できない。
(2)本件特許発明2ないし6について
本件特許の請求項2ないし6は,いずれも,請求項1の記載を直接あるいは間接的に引用する形式で記載されたものであって,本件特許発明2ないし6は,本件特許発明1の全発明特定事項を具備し,これにさらに限定を加えたものに該当するところ,上記(1)で述べたとおり,本件特許発明1が,甲2発明および甲1号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件特許発明2ないし6についても,同様の理由で,甲2発明および甲1号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明7および8について
本件特許発明7および8は,本件特許発明1の発明のカテゴリを,それぞれ,単に,ノボラック型フェノール樹脂の探索方法の発明から,ノボラック型フェノール樹脂の探索をする情報処理装置の発明,および,ノボラック型フェノール樹脂を探索するプログラムに変更したものであって,本件特許発明7および8は,本件特許発明1と同様の発明特定事項を具備したものに該当するところ,上記(1)で述べたとおり,本件特許発明1が,甲2発明および甲1号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件特許発明7および8についても,同様の理由で,甲2発明および甲1号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)甲2発明に基づく進歩性のまとめ
以上から,本件特許発明1ないし8は,いずれも,甲2発明および甲1号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,申立人の申立ての理由4(甲2発明に基づく進歩性)によって,本件特許発明1ないし8についての特許を取り消すことはできない。
5 甲1発明に基づく進歩性
申立人は,理由4において,甲1号証を主たる証拠とする進歩性欠如を主張しているので,以下検討する。
(1)本件特許発明1について
上記4(1)ウ(ア)および(イ)で述べたように,「実績データ」に,「反応溶媒と,反応パラメータ」も含まれている上記<相違点3>に係る構成,および,「目的変数」に,「分子量」も含まれている上記<相違点4>に係る構成が,甲1号証ないし甲3号証のいずれにも,記載も示唆もされておらず,これらの構成が本件特許出願前に周知であったとも認められない。
したがって,本件特許発明1の上記<相違点3>および<相違点4>に係る構成は,甲1発明および甲2号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない。
(2)本件特許発明2ないし6について
本件特許の請求項2ないし6は,いずれも,請求項1の記載を直接あるいは間接的に引用する形式で記載されたものであって,本件特許発明2ないし6は,本件特許発明1の全発明特定事項を具備し,これにさらに限定を加えたものに該当するところ,上記(1)で述べたとおり,本件特許発明1が,甲1発明および甲2号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件特許発明2ないし6についても,同様の理由で,甲1発明および甲2号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない。
(3)本件特許発明7および8について
本件特許発明7および8は,本件特許発明1の発明のカテゴリを,それぞれ,単に,ノボラック型フェノール樹脂の探索方法の発明から,ノボラック型フェノール樹脂の探索をする情報処理装置の発明,および,ノボラック型フェノール樹脂を探索するプログラムに変更したものであって,本件特許発明7および8は,本件特許発明1と同様の発明特定事項を具備したものに該当するところ,上記(1)で述べたとおり,本件特許発明1が,甲1発明および甲2号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件特許発明7および8についても,同様の理由で,甲1発明および甲2号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない。
(4)甲1発明に基づく進歩性のまとめ
以上から,本件特許発明1ないし8は,いずれも,甲1発明および甲2号証および甲3号証に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,申立人の申立ての理由4(甲1発明に基づく進歩性)によって,本件特許発明1ないし8についての特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり,特許異議の申立ての理由1ないし理由4によっては,特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された本件特許発明1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2022-701264