特許異議申立
2017-700021
船舶の液化ガス処理システム
- 審判番号
- 2017-700021
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-543441
- 登録番号
- 特許第5951790号(P5951790)
- 請求日
- 2017年01月12日
- 審決日
- 2017年04月04日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デウ シップビルディング アンド マリーン エンジニアリング カンパニー リミテッド
- 【権利者代理人】特許業務法人青莪
- 【異議申立人】遠藤 雅子
- 審判長/審判官
- 審判長 平岩 正一
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 刈間 宏信
- 分類
- P1651.121-Y (F17C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5951790号発明「船舶の液化ガス処理システム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5951790号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5951790号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は,平成25年10月24日を国際出願日とする出願であって,平成28年6月17日にその特許権の設定登録がなされ(特許公報の発行日は平成28年7月13日),その後,その特許に対し,特許異議申立人 遠藤雅子(以下,単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
2.本件発明
特許第5951790号の請求項1ないし10の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものである。
3.申立理由の概要
特許異議申立人は,証拠として,甲第1号証ないし甲第9号証を提出し,請求項1ないし10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:Sejer Laursen,”LNG as fuel for 2-stroke propulsion of Merchant ships. Sept. 2012”,Japanese Shipyards' Technical Seminar from 2nd September to 8th September 2012 in Copenhagen,(デンマーク),MAN Diesel & Turbo,2012年9月,p. 1-41
甲第2号証:米国特許第3919852号明細書
甲第3号証:特表2009-504838号公報
甲第4号証:特表2010-537151号公報
甲第5号証:特表2002-508054号公報
甲第6号証:Roberto Chellini,”LABY-GI COMPRESSOR DEVELOPED FOR LNG CARRIER SERVICE”,COMPRESSORTech Two,(米),Diesel & Gas Turbine Publications,2008,Vol. 13,No. 7,p. 58, 60-63
甲第7号証:永田良典,田ノ上聖,木田隆之,川合崇,「LNG燃料船用IHI-SPBタンク」,IHI技報,株式会社IHI技術開発本部管理部,平成24年9月1日,第52巻,第3号,p. 36-41
甲第8号証:韓国公開特許第10-2012-0049731号公報
甲第9号証:国際公開第2012/128447号
4.甲号証の記載及び引用発明
(1)甲第1号証(第17,19,21ページ)には,「液化天然ガス(LNG)を貯蔵する貯蔵タンク(LNG Cargo Tanks)と,前記貯蔵タンクに貯蔵されている液化天然ガスを燃料として使用するエンジン(ME-GI)とを備えた船舶の液化ガス処理システムであって,
前記貯蔵タンク内で液化天然ガスから発生した後,前記貯蔵タンクから排出されるボイルオフガス(BOG)の第1ストリームと,
前記第1ストリームのうち燃料として前記エンジンに供給されるボイルオフガスの第2ストリームと,
前記第1ストリームのうち前記エンジンに供給されないボイルオフガスの第3ストリームとを含み,
前記第1ストリームは,圧縮装置(5段のピストンからなるBCA Laby-GI Compressorのうちの第1ないし3段)で39barに圧縮された後,前記第2ストリームと前記第3ストリームとに分岐し,
前記第3ストリームを熱交換器(Heat Exchanger)で前記第1ストリームと熱交換させて液化させることによって,別途の冷媒を用いた再液化装置を使用することなくボイルオフガスを処理でき,
前記熱交換器で液化された前記第3ストリームは,減圧手段(Expansion Valve)によって圧力が下げられ,
減圧されて気液混合状態(Liquid and Flash Gas)になった前記第3ストリームを前記貯蔵タンクに戻す船舶の液化ガス処理システム」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
(2)甲第2号証の主に図1には,船舶の積み荷としての液化ガスから気化するガスの再液化を行うという技術的事項が記載されている。
(3)甲第3号証の主に段落【0030】及び図4には,メタンガスが豊富なガス流を液化するにあたり,液化処理前にガス流の圧力を圧縮ユニット(25)で上昇させるものであって,その圧力の下限値として,約1200psia,約1300psia,約1400psia,約1500psia,約1600psia,約1700psia,約1800psia,約1900psia,約2000psia,約2500psia,約3000psiaのいずれかにするという技術的事項が記載されている。
(4)甲第4号証の主に表1及び図1には,天然ガスを液化するにあたり,熱交換器(50)の上流に配置された圧縮装置(25)によって熱交換器の入り口の圧力を1000psi(6895kPa)から3000psi(20684kPa)に増加させることで,熱交換器(50)での冷却負荷の一部を圧縮機(25)の前後に配置された冷却ユニット(35,37)という技術的事項が記載されている。
(5)甲第5号証には,天然ガスを液化するという技術的事項が記載されている。
(6)甲第6号証には,ボイルオフガス消費システムにおいて”LABY-GI COMPRESSOR”を用いるという技術的事項が記載されている。
(7)甲第7号証には,LNG燃料供給システムにおいてLNG燃料船用IHI-SPBタンクを用いるという技術的事項が記載されている。
(8)甲第8号証には,燃料ガス供給システムについての技術的事項が記載されている。
(9)甲第9号証には,高圧天然ガス噴射エンジン用燃料供給システムについての技術的事項が記載されている。
5.判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると,請求項1に係る発明は「前記圧縮装置により前記第1ストリームは150乃至400baraに圧縮され」るものであるのに対し,甲第1号証に記載された発明は「前記第1ストリームは圧縮装置で39barに圧縮され」るものである点(以下,「相違点1」という。)及び請求項1に係る発明は「減圧されて気液混合状態になった前記第3ストリームのうち,気体成分は前記貯蔵タンクから排出されるボイルオフガスの前記第1ストリームに合流される」ものであるのに対し,甲第1号証に記載された発明は「減圧されて気液混合状態になった前記第3ストリームを前記貯蔵タンクに戻す」ものである点(以下,「相違点2」という。)で相違する。
上記相違点1は,甲第2号証又は甲第5ないし9号証のいずれにも記載されていない。また,甲第3号証は,液化処理前に行うガス流の圧力値の下限値として複数の値が示されているところ,この複数の下限値の選択肢のなかから150bara(約2175psia)より大きい下限値である2500psia又は3000psiaを選択した上で,それをボイルオフガスを有効活用するという船舶の液化ガス処理システムのボイルオフガスの液化部分に適用する事項は記載されていない。甲第4号証は,天然ガスを液化するにあたり,圧縮機及び冷却ユニットを設けることで熱交換器での冷媒の負担を軽減するものであるものであるから,ボイルオフガスを再液化するのみならず,ボイルオフガスをエンジンでの燃料としても用いるものである船舶の液化ガス処理システムに適用する事項は記載されていない。
そうすると,引用発明において甲第3又は4号証に記載された技術的事項を適用する動機があるとは認められない。
したがって,引用発明において上記相違点1に係る事項を備えるものとすることは,上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし9号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
特許異議申立人は,上記相違点1は,供給ガス流の圧力を増大することにより,冷却性能が高まり,熱交換区域内の熱伝達係数が改善し,冷却負荷の更なる低減,膨張機の冷却機能の改良,最適な冷却性能が得られることは周知技術であり,その際に最適な圧力の範囲を試行錯誤によって見出して150ないし400baraの範囲とすることは設計事項であるから,引用発明において上記相違点1に係る事項を備えることは容易である旨主張している(申立書第24ページ第2行ないし第30ページ第2行)。
しかしながら,引用発明はボイルオフガスをエンジン用の燃料として用い,その余剰分を再液化するものであるから,ボイルオフガスをエンジン用の燃料として用いることが主目的であり,そのために貯蔵タンクから発生するボイルオフガス(第1ストリーム)の量,エンジン用の燃料に用いられるボイルオフガス(第2ストリーム)の量,圧力及び温度を想定した上でシステムの設計がなされるものであると認められることから,第1ストリーム,第2ストリーム,第3ストリームのバランスも重要なものであって,そのバランスをもたらすように第1ストリームの圧力として39barが設定されているといえる。一方,甲第3及び4号証の技術は,供給ガスの液化を主目的とした技術である。
そして,ボイルオフガスをエンジンの燃料として用いることを主目的としている引用発明に,供給ガスの液化を主目的とした甲第3ないし4号証の技術を単純に適用しようとすると,圧縮装置においてさらなる動力が必要になるほか,第3ストリームと熱交換がなされる第1ストリームも影響を受け,エンジンに燃料として供給される第2ストリームの量や圧力,温度も変化してしまい,バランスを崩すことになるから,ボイルオフガスをエンジンの燃料として有効活用するにあたって支障が生じ得る。そうすると,引用発明において,甲第3及び4号証の技術を適用することで上記相違点1に係る事項を備えたものとするには,妨げとなる要因が存在するといえる。
したがって,引用発明において上記相違点1に係る事項を備えるものとすることは,当業者にとって容易になし得た事項とはいえず,特許異議申立人のかかる主張は採用できない。
よって,上記相違点2について検討するまでもなく,請求項1に係る発明は,上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし9号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
(2)請求項2ないし10に係る発明について
請求項2ないし10に係る発明は,請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから,上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により,上記甲1号証に記載された発明及び甲第2ないし9号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
以上のとおり,請求項1ないし10に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし9号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6.むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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