特許異議申立
2017-700007
チタン含有粉末、排ガス処理触媒及びチタン含有粉末の製造方法
- 審判番号
- 2017-700007
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-047320外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年01月06日
- 審決日
- 2017年10月23日
- 公報発行日
- 2018年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日揮触媒化成株式会社
- 【権利者代理人】井上 俊夫
- 【権利者代理人】瀧澤 宣明
- 【異議申立人】坂田 純子
- 分類
- P1651.113-YAA(B01J) / P1651.121-YAA(B01J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5947939号発明「チタン含有粉末、排ガス処理触媒及びチタン含有粉末の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5947939号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを認める。
特許第5947939号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5947939号の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成22年12月28日に出願した特願2010-292986号の一部を、平成27年3月10日に新たな特許出願としたものであって、平成28年6月10日にその特許権の設定登録がされ、登録後の経緯は以下のとおりである。
平成29年 1月 6日付け:特許異議申立人 坂田 純子による特許
異議の申立て
同年 3月24日付け:取消理由の通知
同年 5月26日付け:意見書の提出
同年 6月13日付け:取消理由の通知(決定の予告)
同年 8月16日付け:訂正請求書及び意見書の提出
同年 9月28日付け:特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「(a)リンをP2O5として0.03~0.5質量%含むこと」とある技術的事項を、「(a)リンをP2O5として0.03~0.5質量%含むこと(リンをP2O5として0.05~0.08質量%含むものを除く)。」と訂正することを請求する。
また、特許権者は、明細書の段落【0006】に記載された「(a)リンをP2O5として0.03~0.5質量%含むこと」を、【請求項1】における訂正と同様に、「(a)リンをP2O5として0.03~0.5質量%含むこと(リンをP2O5として0.05~0.08質量%含むものを除く)。」と訂正することを請求する(訂正事項2)。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明から引用発明と重複する部分を除外するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としている。よって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
次に、訂正事項2は、上記の訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
そして、訂正前の請求項1~7は、請求項2~7が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
(小括)
上述のとおり、上記の訂正請求による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1~7について訂正を認める。
第3 本件特許発明
特許第5947939号の請求項1~7に係る発明(以下「本件特許発明1~7」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~7に記載された以下のとおりのものと認める。
【請求項1】
二酸化チタン及びチタン複合酸化物の少なくとも一方を含むハニカム状排ガス処理触媒の原料用のチタン含有粉末において、下記(a)~(c)を備えることを特徴とするチタン含有粉末(バナジウムの酸化物を含むものを除く)。
(a)リンをP2O5として0.03~0.5質量%含むこと(リンをP2O5として0.05~0.08質量%含むものを除く)。
(b)アナターゼ型結晶(101)面の結晶子径は、前記チタン含有粉末が、(1)二酸化チタンのみを含有する場合は12~40nmの範囲にあり、(2)チタン複合酸化物を含む場合には10~38nmの範囲にあること。
(c)硫酸根を0.4~4.0質量%の範囲で含有すること。
【請求項2】
活性成分を含むものを除くことを特徴とする請求項1に記載のチタン含有粉末。
【請求項3】
前記チタン複合酸化物がチタンと、ケイ素、タングステン、モリブデン、ジルコニウムから選ばれた少なくとも一種の元素との複合酸化物であることを特徴とする請求項1又は2記載のチタン含有粉末。
【請求項4】
前記チタン含有粉末は99.9質量%以上が45μm以下の粒子径であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のチタン含有粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のチタン含有粉末と、活性成分と、を含有し、当該チタン含有粉末の含有割合が60質量%以上であることを特徴とするハニカム状排ガス処理触媒。
【請求項6】
前記活性成分は、酸化バナジウムであることを特徴とする請求項5記載のハニカム状排ガス処理触媒。
【請求項7】
前記ハニカム状排ガス処理触媒が窒素酸化物除去触媒であることを特徴とする請求項5又は6記載のハニカム状排ガス処理触媒。
第4 甲各号証の記載事項
先の取消理由で引用された、本件特許の原出願日(平成22年12月28日)前に頒布された刊行物、若しくは本件特許の原出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認められる技術事項が記載された文書である甲第1~13号証のうち、特に甲第1~3、5、6、9、10号証には、以下の記載がある。
甲第1号証:特開平10-235206号公報
甲第2号証:ローヌ・プーラン社のグループ会社であるタン・エト・ミュルーズ社が発行した二酸化チタン製品(TITAFRANCE DT51)のカタログ
甲第3号証:クリスタル・グローバル社のグループ会社であるミレニアム・インオーガニック・ケミカルズ・リミテッド社が発行した二酸化チタン製品(Tiona DT51)の分析証明書
甲第4号証:米国地質調査所のホームページ、「Minerals Information」の「Titanium Statistics and Information」と題するページ;URL:https://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/titanium/)(印刷日:平成29年1月5日)
甲第5号証:米国地質調査所のホームページ、「Minerals Information」の「Titanium Statistics and Information」と題するページに掲載の「Minerals Yearbook」と題する定期刊行物の1997年版「TITANIUM」のページ;URL:https://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/titanium/670497.pdf(印刷日:平成28年12月27日)
甲第6号証:米国地質調査所のホームページ、「Minerals Information」の「Titanium Statistics and Information」と題するページに掲載の「Minerals Yearbook」と題する定期刊行物の1998年版「TITANIUM」のページ;URL:https://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/titanium/670498.pdf(印刷日:平成28年12月27日)
甲第7号証:特開2003-290656号公報
甲第8号証:特開2004-880号公報
甲第9号証:特開2010-17687号公報
甲第10号証:特開2004-943号公報
甲第11号証:特開2005-144299号公報
甲第12号証:特開2005-319422号公報
甲第13号証:特開2006-255641号公報
(1)甲第1号証
a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は脱硝触媒、すなわち窒素酸化物(NOx)除去用触媒、この触媒の調製に好適な脱硝触媒の調製方法、およびこの脱硝触媒を用いて排ガス中の窒素酸化物を還元除去する方法に関する。」
b「【0029】方法Cは、予めタングステン酸化物を担持したチタン酸化物、またはチタン酸化物とタングステン酸化物との均密混合物にバナジウム酸化物および/またはタングステン酸化物を担持する方法である。・・・
【0030】上記方法Cによって得られる脱硝触媒は脱硝性能に優れている。」
c「【0036】実施例1
市販の酸化チタン粉体(DT-51(商品名)、ローヌ・プーラン社製)20kgにメタバナジン酸アンモニウム1.4kg、シュウ酸1.7kgおよびモノエタノールアミン0.4kgを水5L(リットル)に溶解させた溶液を加え、さらにフェノール樹脂(ベルパール(商品名)、カネボウ(株)製)1kgと成形助剤としてのデンプン0.5kgとを加えて混合し、ニーダーで混練りした後、押出成形機で外形80mm角、目開き4.0mm、肉厚1.0mm、長さ500mmのハニカム状に成形した。次いで、80℃で乾燥した後、450℃で5時間空気雰囲気下で焼成して触媒Aを得た。
【0037】上記フェノール樹脂は、平均粒子径20μm、熱分解温度450℃、分解時の発熱量8kcal/gであった。
【0038】触媒Aの組成は、V2O5:TiO2=5:95(重量比)であった。触媒Aの細孔径分布を水銀圧入式ポロシメーターにより測定したところ、ピーク強度比は0.77であり、第二細孔群の孔径分布のピーク半値幅は0.13μmであった。全細孔容積は0.35cc/gであり、第一および第二細孔群の細孔容積はそれぞれ全細孔容積の44%および48%であった。また、BET表面積は68m2/gであり、バナジウム酸化物(V2O5)の、触媒の単位表面積当りの含有量は3.8×10-6mol/m2であった。触媒Aの細孔径分布を図2に示した。」
(2)甲第2号証
d「2-CHEMICAL IDENTITY, ASPECT, GENERAL PROPERTIES AND CARACTERISTICS
・・・
Crystallographical structure : anatase
Particle size (Cristallites) : 15 --- 25 nanometers
Diameter distribution (laser diffraction) : D10=0.5 D50=1.2 D90=2.5(μm)」
(当審訳:2-化学的同一性、相、一般的な性質及び特性
・・・
結晶構造:アナターゼ
粒子サイズ(結晶):15~25ナノメートル
粒径分布(レーザー回折):D10=0.5 D50=1.2 D90=2.5(μm))
(3)甲第3号証
e「
」
f「
」
(4)甲第5号証
g「France. - Millennium agreed to acquire Rhone-Poulenc's Thann et Mulhouse S.A.」(第5ページ左欄第9~10行)
(当審訳:フランス - ミレニアムは、ローヌ・プーランのタン・エト・ミュルーズS.A.を買収することに合意した。)
(5)甲第6号証
h「France. - Millennium Chemicals Inc. acquired Thann et Mullhouse S.A., a subsidiary of Rhone-Poulenc S.A.」(第79.5ページ左欄第22~23行)
(当審訳:フランス - ミレニアム・ケミカルス・インコーポレイテッドは、ローヌ・プーランS.A.の子会社であるタン・エト・ミュルーズS.A.を買収した。)
(6)甲第9号証
i「【0001】
本発明は排ガス浄化用触媒およびその製造法に係り、特に二酸化硫黄(SO2)濃度が高い排ガス中に含まれる、窒素酸化物及び金属水銀を除去するための排ガス浄化用触媒およびその方法に関する。」
j「【0019】
次に、具体的な実施例により詳細に示す。
実施例1
水72.7kg、コロイダルシリカ(日産化学社製、商品名OSゾル)37.2kg、メタバナジン酸アンモニウム2.465kg、酸化チタンとシリカの複合酸化物(SiO2含有量10重量%、TiO2結晶子径150Å)27.8kg、およびメタタングステン酸アンモニウム(WO3として92%)4.07kgを混合し脱硝触媒用コーティング液を作成した。このコーティング液中のTi/W/V比は原子比で89/5/6である。
【0020】
一方、酸化チタン(石原産業社製、商品名MC50、結晶子径250Å)、メタタングステン酸アンモニウム、コロイダルシリカ(日産化学社製、OSゾル)、シリカアルミナ無機繊維(ITM社製)及び水を、ニーダを用いて混練してペーストを得た。得られたペーストを厚さ0.2mmのSUS430製鋼板をメタルラス加工した基材の上に置き、これを二枚のポリエチレンシートに挟んで一対の加圧ローラを通して、前記メタルラス基材の網目間及び表面に塗布後乾燥し、担体Aを得た。担体AのTi/Wは原子比で96/4、コーティング層の重量は135g/m2であった。
担体A(500×500mm)をコーティング剤に含浸した後液切りし、150℃で2時間乾燥した後、500℃で2時間焼成し、本発明の触媒を得た。
・・・
【0023】
実施例6
実施例1の酸化チタン(石原産業社製、MC50、結晶子径250Å)を、酸化チタン(ミレニアム社製、商品名DT51、結晶子径150Å)に変え、また、実施例1の酸化チタンとシリカの複合酸化物を、TiO2結晶子径100Åの原料に変える以外は、実施例1と同様にして本発明の触媒を得た。コーティング層の重量は、120g/m2であった。」
k「
」
(7)甲第10号証
l「【0027】
また、本発明のハニカム状排ガス処理触媒用二酸化チタン粉末は、99.9重量%以上が45μm以下の粒子径であることが好ましい。該二酸化チタン粉末の粒子径の45μm以下が99.9重量%より少ない場合、即ち、45μmより大きい粒子径の二酸化チタン粉末が0.1重量%より多い場合には、押出成形した際に隔壁が欠落したハニカム構造体が得られることがある。」
第5 甲第1号証を主たる引用例とする取消理由
1.引用発明1、2
甲第1号証の摘示箇所a、cから、甲第1号証には、「ハニカム状に成形した、排ガス中の窒素酸化物を還元除去する触媒を得るために用いられる、
市販の酸化チタン粉体(DT-51(商品名)、ローヌ・プーラン社製)。」(引用発明1)が記載されている。
また、甲第1号証の実施例1には、「市販の酸化チタン粉体(DT-51(商品名)、ローヌ・プーラン社製)20kg、メタバナジン酸アンモニウム1.4kg、シュウ酸、モノエタノールアミン、水、フェノール樹脂、デンプンを混合し、ハニカム状に成形し、焼成して得られた、V2O5:TiO2=5:95(重量比)の組成を有する、排ガス中の窒素酸化物を還元除去する触媒。」(引用発明2)も記載されている。(摘示箇所c)
2.対比・判断
(1)本件特許発明1
ア 本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「市販の酸化チタン粉体(DT-51(商品名)、ローヌ・プーラン社製)」は、本件特許発明1の「二酸化チタン及びチタン複合酸化物の少なくとも一方を含む」「チタン含有粉末」に相当し、引用発明1が、「ハニカム状に成形した、排ガス中の窒素酸化物を還元除去する触媒を得るために用いられる」ことは、本件特許発明1の、「ハニカム状排ガス処理触媒の原料用」であることに相当する。
したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、下記の点で一致し、下記の点で一応相違する。
一致点:「二酸化チタン及びチタン複合酸化物の少なくとも一方を含むハニカム状排ガス処理触媒の原料用のチタン含有粉末。」
相違点1:本件特許発明1は、バナジウムの酸化物を含むものを除くものであるのに対し、引用発明1は、バナジウムの酸化物を含有するかどうか明らかでない点。
相違点2:本件特許発明1は、リンをP2O5として0.03~0.5質量%含む(リンをP2O5として0.05~0.08質量%含むものを除く)ものであるのに対し、引用発明1は、P2O5を含有するかどうか明らかでない点。
相違点3:本件特許発明1は、アナターゼ型結晶(101)面の結晶子径について、チタン含有粉末が、(1)二酸化チタンのみを含有する場合は12~40nmの範囲にあり、(2)チタン複合酸化物を含む場合には10~38nmの範囲にあるのに対し、引用発明1は、アナターゼ型結晶(101)面の結晶子径が明らかでない点。
相違点4:本件特許発明1は、硫酸根を0.4~4.0質量%の範囲で含有するものであるのに対し、引用発明1は、硫酸根を含有するかどうか明らかでない点。
イ 上記相違点1~4について検討するに、まず、甲第2号証には、ローヌ・プーラングループ(GROUPE RHONE-POULENC)の、タン・エト・ミュルーズ社(THANN ET MULHOUSE)による、「TITAFRANCE DT51」が、アナターゼ型の結晶構造を有し、15~25nmの「粒子サイズ(結晶)」を有し、D50=1.2μm、D90=2.5μmのレーザー回折による粒径分布を有することが記載されている。(摘示箇所d)
次に、甲第3号証には、ミレニアム・インオーガニック・ケミカルズ(MILLENNIUM INORGANIC CHEMICALS)が販売する「Tiona DT51」が、1.2~1.5%のSO3、0.05~0.08%のP2O5を含有することが記載されており、また、バナジウムについては記載がない。(摘示箇所e、f)
そして、甲第4~6号証から、少なくとも1998年には、ミレニアム社が、ローヌ・プーラングループの子会社であるタン・エト・ミュルーズ社を買収していたことが理解される。(摘示箇所g、h)
すなわち、上記甲第4~6号証の記載から、引用発明1の「市販の酸化チタン粉体(DT-51(商品名)、ローヌ・プーラン社製)」と、甲第2号証に記載されている、ローヌ・プーラングループのタン・エト・ミュルーズ社による「TITAFRANCE DT51」と、甲第3号証に記載されている、ミレニアム社による「Tiona DT51」とは、当業者に同じ物質として認識されていたものといえる。
すると、引用発明1の「市販の酸化チタン粉体(DT-51(商品名)、ローヌ・プーラン社製)」は、1.2~1.5%のSO3と、0.05~0.08%のP2O5とを含有し、かつ、有意にバナジウムを含有しないものといえる。
そして、上記「1.2~1.5%のSO3」は、SO4に換算すると「1.4~1.8%のSO4」となるから、本件特許発明1の、「硫酸根を0.4~4.0質量%の範囲で含有する」ものに相当する。
以上をまとめると、上記相違点1、4は、実質的な相違点ではないといえる。しかしながら、相違点2は、訂正により0.05~0.08質量%の範囲が本願発明から除外されている以上、実質的な相違点であるといえる。この点について、甲第2号証及び甲第3号証には、P2O5の含有量の上限値が仕様上0.4%である旨も記載されているから、市販されたDT-51に、P2O5を0.05質量%未満、又は0.08~0.4質量%含有する商品も存在していた可能性があるが、それを裏付ける証拠はない。まして、引用発明1において、P2O5が0.05~0.08質量%の範囲内にないDT-51を利用する積極的な理由は認められないし、0.05~0.08質量%の範囲外でP2O5を含有させることによる効果を予測することもできない。
ウ 相違点3について、甲第2号証の摘示箇所dには、「粒子サイズ」が「結晶」のものと明示されていること、及び、μmオーダーのレーザー回折による粒径分布が別途記載されていることからみて、当該「粒子サイズ(結晶)」は、粒子自体の大きさではなく、結晶の大きさ、すなわち本件特許発明1の「結晶子径」に相当するものといえる。
そして、ナノオーダーの結晶子径は、X線回折ピークの幅を用いてScherrerの式により算出することが当業者に周知慣用の技術事項であるところ、例えば以下に示すKheamrutai THAMAPHAT et al., "Phase Characterization of TiO2 Powder by XRD and TEM", Kasetsart J. (Nat. Sci.), vol.42, issue 5, pp.357-361の図2にも記載のとおり、アナターゼ型のTiO2において、(101)面が最も強度の強いピークを示すことは当業者の技術常識である。
してみれば、同じくアナターゼ型のTiO2に関する甲第2号証に記載された「粒子サイズ(結晶)」は、算出に用いたピークについて特段の記載がない以上、最も強度の強い回折面である「アナターゼ型結晶(101)面」のピークから算出された「結晶子径」であると考えることが合理的である。
エ なお、この点について特許権者は、平成29年5月26日付けの意見書において乙第1、2号証を提出し、乙第1号証の【0033】には、結晶子径を「X線回折法(TiO2の(100)ピークの半価幅から計算」したことが記載され、また、乙第2号証の【0008】には、「平均結晶子径は二酸化チタンの(110)面のX線回折ピークより、後記のScherrerの公式・・・を用いて算出した」ことが記載されているように、二酸化チタンのアナターゼ型結晶の特定の結晶面に着目して結晶子径を測定し、その値を特定するための種々の手法が存在し、ただ一つの手法に限定することはできない、すなわち、アナターゼ型結晶であれば必然的に(101)面という特定の結晶面に特定されることになる、とはいえない旨主張している。(意見書第7~10ページ)
しかしながら、まず、乙第2号証は、針状二酸化チタン微粒子について、【0014】に、「特にルチル型のものが生成すると推測される」と記載されているとおり、アナターゼ型の二酸化チタンに関する記載であるとはいえない。
加えて、先に示した図1に記載のとおり、ルチル型のTiO2において、(110)面が最も強度の強いピークを示すことは当業者の技術常識であり、「特にルチル型のものが生成すると推測される」乙第2号証における結晶子径の算出に関し、最も強度の強い回折面のX線回折ピークを用いることは甲第2号証と同じく合理的であり、それ故に(110)面のX線回折ピークが用いられたというべきである。
また、乙第1号証についてみたとき、乙第1号証の酸化チタンは、アナターゼ型のものであるか明らかでない。
仮に、乙第1号証の酸化チタンがアナターゼ型であったとしても、乙第1号証で結晶子径が測定された実施例20~28、比較例15~26はいずれも、酸化チタンにケイ酸エチルを添加し乾燥させた後、五酸化バナジウム、三酸化タングステン、三酸化モリブデンといった活性成分と反応させて得られた触媒を測定したものであり、純粋な二酸化チタンのアナターゼ型結晶を測定したものであるとはいえない。
上記のとおり、乙第1、2号証はいずれも二酸化チタンのアナターゼ型結晶に関するものとはいえないから、特許権者の上記主張は妥当なものとはいえず、採用できない。
オ 他に、特許権者は、平成29年8月16日付けの意見書において、甲第9号証の段落[0026]の「酸化チタン(ミレニアム社製DT51、TiO2結晶子径80Å」なる記載を参照し、80Åなる結晶子径が、甲第2号証に記載されたDT-51の製品規格(15~25nm)から外れることをもって、引用発明1で利用されたDT-51の結晶子径について疑義(本件特許発明1の酸化チタンの結晶子径の範囲から外れる蓋然性)を呈示している。この点、甲第9号証の段落【0023】には、実施例として結晶子径150ÅのDT51を利用した旨も記載されているから、引用発明1において、甲第2号証に記載された製品規格を満足するDT-51が実在し得ることも理解される。
しかしながら、甲第9号証の比較例(80Å)の記載からみて、引用発明1で利用されたDT-51の結晶子径が、甲第2号証に記載された範囲を満足しない可能性は残されている。そして、引用発明1で利用されるDT-51が、甲第2号証に記載された結晶子径を満足することを示す証拠も認められないから、相違点3については、なお実質的な相違点である可能性が残る。
カ 上記のとおり、相違点1、4は実質上相違点にならないものの、相違点2、3において、本件特許発明1は、引用発明1との間で相違するため、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
そして、上記イに記載したとおり、本件特許発明1において、訂正されたP2O5の含有量を満たすようにする動機付けがあるといえないし、さらに甲第1~13号証を参照しても、本件特許発明1の訂正されたP2O5の含有量を満たすようにする動機付けがないから、本件特許発明1は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。よって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるものでもない。
なお、下記第7で詳述するように、甲第11号証のP2O5の効果の記載を併せて考慮しても、やはり、本件特許発明1で特定された具体的なP2O5の含有量を特定するまでには至らないと認められる。
(2)本件特許発明2~7
本件特許発明2~7は、本件特許発明1を引用する発明であり、いずれも上記の相違点2、3に係る技術的事項を包含している。
そうすると、本件特許発明2~7は、本件特許発明1と同様に、上記の相違点2、3において、引用発明1又は2と相違するため、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2~7は、引用発明1又は引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえず、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるものでもない。
第6 甲第9号証を主たる引用例とする取消理由
1.引用発明3、4
甲第9号証の摘示箇所i、jから、甲第9号証には、「窒素酸化物を除去するための排ガス浄化用触媒を得るために用いられる、酸化チタン(ミレニアム社製、商品名DT51、結晶子径150Å)。」(引用発明3)が記載されている。
また、甲第9号証の実施例6には、「酸化チタン(ミレニアム社製、商品名DT51、結晶子径150Å)、メタタングステン酸アンモニウム、コロイダルシリカ(日産化学社製、OSゾル)、シリカアルミナ無機繊維(ITM社製)及び水を、ニーダを用いて混練し、得られたペーストをメタルラス基材の網目間及び表面に塗布後乾燥して得られた担体Aを、メタバナジン酸アンモニウムを含むコーティング剤に含浸した後、液切りし、乾燥、焼成して得られた、窒素酸化物を除去するための排ガス浄化用触媒。」(引用発明4)も記載されている。(摘示箇所j)
2.対比・判断
(1)本件特許発明1
ア 本件特許発明1と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「酸化チタン(ミレニアム社製、商品名DT51、結晶子径150Å)」は、本件特許発明1の「二酸化チタン及びチタン複合酸化物の少なくとも一方を含む」「チタン含有粉末」に相当し、引用発明3が、「窒素酸化物を除去するための排ガス浄化用触媒を得るために用いられる」ことは、本件特許発明1の、「排ガス処理触媒の原料用」であることに相当する。
したがって、本件特許発明1と引用発明3とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。
一致点:「二酸化チタン及びチタン複合酸化物の少なくとも一方を含む排ガス処理触媒の原料用のチタン含有粉末。」
相違点1:本件特許発明1は、バナジウムの酸化物を含むものを除くものであるのに対し、引用発明3は、バナジウムの酸化物を含有するかどうか明らかでない点。
相違点2:本件特許発明1は、リンをP2O5として0.03~0.5質量%含むもの(リンをP2O5として0.05~0.08質量%含むものを除く)であるのに対し、引用発明3は、P2O5を含有するかどうか明らかでない点。
相違点3:本件特許発明1は、アナターゼ型結晶(101)面の結晶子径について、チタン含有粉末が、(1)二酸化チタンのみを含有する場合は12~40nmの範囲にあり、(2)チタン複合酸化物を含む場合には10~38nmの範囲にあるのに対し、引用発明3は、酸化チタンの結晶子径が150Åであることは明らかであるものの、それがアナターゼ型結晶(101)面の結晶子径であるかは明らかでない点。
相違点4:本件特許発明1は、硫酸根を0.4~4.0質量%の範囲で含有するものであるのに対し、引用発明3は、硫酸根を含有するかどうか明らかでない点。
相違点5:本件特許発明1は、ハニカム状排ガス処理触媒用の原料粉末であるのに対し、引用発明3は、製造される排ガス浄化用触媒がハニカム状ではない点。
イ 上記相違点1~4について、まず、上記「第5 2.(1)イ~エ」で検討したことと同様の理由により、引用発明3の「ミレニアム社製、商品名DT51」と、甲第2号証に記載されている、ローヌ・プーラングループのタン・エト・ミュルーズ社による「TITAFRANCE DT51」と、甲第3号証に記載されている、ミレニアム社による「Tiona DT51」とは、当業者に同じ商品として認識されていたものといえる。
そうすると、上記「第5 2.(1)イ」で検討したことと同様の理由により、本件特許発明1と引用発明3との間の相違点2は、実質的な相違点であると考えられる。 また、上記「第5 2.(1)ウ~オ」で検討したことと同様の理由により同相違点3も、実質的な相違点である可能性が残る。
ウ 相違点5について、例えば甲第1号証の【0021】、甲第10号証の【0007】、甲第11号証の【0019】、甲第12号証の【請求項1】、甲第13号証の【0014】などに記載されているように、排ガス処理触媒の形状として、ハニカム状は当業者に周知慣用のものである。
してみれば、引用発明3を「排ガス処理触媒」に利用するに当たり、その形状としてハニカム状を採用することは、当業者であれば適宜なし得る設計変更の範囲である。
エ 上記のとおり、本件特許発明1は、少なくとも、引用発明3との間でP2O5の含有量が相違し、また、上記「第5 2.(1)カ」で検討したことと同様の理由により、引用発明3のP2O5の含有量を、本願発明で特定される範囲に調整する積極的な理由も認められない。
したがって、引用発明3をハニカム状の排ガス処理触媒に利用する動機付けがあってもなお、本件特許発明1は、引用発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるものではない。
(2)本件特許発明2~7
本件特許発明2~7は、本件特許発明1を引用する発明であり、いずれも上記の相違点2に係る技術的事項を包含している。
そうすると、本件特許発明2~7は、本件特許発明1と同様に、引用発明3又は4との間において、上記の相違点2について相違し、P2O5の含有量を本件特許発明1と重複する範囲に調整する積極的な理由も認められない。 よって、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2~7は、引用発明3又は4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるものではない。
第7 異議申立人の意見について
上記の論点に加えて、異議申立人は、「リンをP2O5として0.05~0.08質量%含むものを除く」との構成要件によって本件特許発明が特定される場合、当該特定の作用効果が、当該発明の範囲の全体にわたって、かつ、当該発明の範囲から外れる発明よりも優れたものとして奏されることが必要である旨を主張している。
しかしながら、本件の判断に当たっては、本件特許発明の作用効果を評価するまでもなく、本件特許発明の構成を導出し得ない点で、本件特許発明の進歩性を否定することができない。詳述すると、引用発明1~4では、いずれも商品としてのDT51を利用する旨しか記載されておらず、利用するDT51が偶然に本件特許発明で特定されるP2O5含有量を満足する可能性までは甲第2号証や甲第3号証から示唆されるとしても、商品の成分組成を積極的に調整しようとする技術思想は、引用発明1~4に認めることができない。その点、異議申立人は、甲第11号証に記載されたリン化合物の添加による効果を併せて参酌すれば、当業者が本件特許発明に容易に想到し得る旨も主張しているが、やはり、市販品であるDT51に含まれる、その含有の理由も不明なP2O5の含有量を、引用発明1~4において、本件特許発明で特定される具体的な数値範囲に調整する積極的な理由は見出せない。
よって、異議申立人の意見は、採用することができない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、上記の理由の他に、本件請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700007