特許異議申立
2026-700371
白金または白金合金担持カーボン触媒およびその製造方法、白金または白金合金担持カーボン触媒を用いた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体および固体高分子形燃料電池
- 審判番号
- 2026-700371
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-171974
- 登録番号
- 7762439
- 請求日
- 2026年04月27日
- 審決日
- 2026年07月15日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】石福金属興業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人小田島特許事務所
- 【異議申立人】長尾 陽子
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 市川 篤
- 分類
- P1652.113-Y (B01J) / P1652.121-Y (B01J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7762439号発明「白金または白金合金担持カーボン触媒およびその製造方法、白金または白金合金担持カーボン触媒を用いた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体および固体高分子形燃料電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7762439号の請求項1、2、7、8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7762439号の請求項1~8に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」ともいう。)についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、令和5年10月3日に出願され、令和7年10月22日にその特許権の設定登録がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1、2、7、8に対して、令和8年4月27日に特許異議申立人長尾陽子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年6月5日に特許異議申立書に対する手続補正書(方式)が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、「本件発明1」などという。)は、その願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許異議の申立てがされた本件特許1、2、7、8に係る本件発明1、2、7、8は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
メソポーラスカーボンに白金粒子または白金合金粒子が担持された白金または白金合金担持カーボン触媒であって、
前記触媒における白金または白金合金担持率は重量基準で前記触媒の総重量当たり30%以上70%以下であり、
前記白金粒子または白金合金粒子の総重量に対する前記メソポーラスカーボンの細孔外に担持された白金粒子または白金合金粒子の総重量が60~90%であり、
前記メソポーラスカーボンの細孔内に担持された白金粒子または白金合金粒子の平均粒径D1が、前記メソポーラスカーボンの細孔外に担持された白金粒子または白金合金粒子の平均粒径D2と同一であるかまたはそれより大きく、ここで、D1/D2は、1.0~2.1であり、
前記平均粒径D1および前記平均粒径D2は、独立して、それぞれ2nm以上8nm以下である、
ことを特徴とする白金または白金合金担持カーボン触媒。
【請求項2】
前記平均粒径D1は、2.5nm以上8nm以下であり、
前記平均粒径D2は、2.3nm以上7.3nm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の白金または白金合金担持カーボン触媒。」
「【請求項7】
請求項1に記載の白金または白金合金担持カーボン触媒が電極に含有されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項8】
請求項1に記載の白金または白金合金担持カーボン触媒が膜電極接合体の電極に含有されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。」
第3 特許異議の申立てについて
1 申立ての理由の概要
申立人が主張する申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 申立理由(新規性、進歩性欠如)
本件発明1、2、7、8は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、又は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証~甲第4号証に記載された周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1、2、7、8は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 証拠方法
甲第1号証 特開2020-202056号公報
甲第2号証 特開2020-57526号公報
甲第3号証 特開2018-160464号公報
甲第4号証 特開2019-61863号公報
2 甲各号証の記載事項について
(1) 甲第1号証の記載
甲第1号証には、「電極触媒」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、下線は当審が付した(以下、同様)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた電極触媒。
(1)前記電極触媒は、
多孔質の担体と、
前記担体の細孔内に担持された第1触媒粒子と、
前記担体の外表面に担持された第2触媒粒子と
を備えている。
(2)前記第1触媒粒子の平均粒径(粒度分布の中央値)D1は、前記第2触媒粒子の平均粒径D2より大きい。
【請求項2】
前記担体の細孔径は、5nm以上7nm以下である請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
前記D1は、5nm以上7nm以下であり、
前記D2は、1nm以上3nm以下である
請求項1又は2に記載の電極触媒。
【請求項4】
前記第1触媒粒子は、Pt、又は、Pt-M合金(M=Co、Ni、及び/又は、Fe)からなり、
前記第2触媒粒子は、Pt、又は、Pt-M'合金(M'=Co、Ni、及び/又は、Fe)からなる
請求項1から3までのいずれか1項に記載の電極触媒。
【請求項5】
前記第1触媒粒子と前記第2触媒粒子は、同一組成を持つ請求項1から4までのいずれか1項に記載の電極触媒。
【請求項6】
次の式(1)で表される第1触媒粒子の重量比率が50%以上90%以下である請求項1から5までのいずれか1項に記載の電極触媒。
第1触媒粒子の重量比率(%)=W1×100/(W1+W2) …(1)
但し、
W1は、前記電極触媒に含まれる前記第1触媒粒子の重量、
W2は、前記電極触媒に含まれる前記第2触媒粒子の重量。
【請求項7】
固体高分子形燃料電池の空気極に用いられる請求項1から6までのいずれか1項に記載の電極触媒。」
イ 「【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電極触媒]
本発明に係る電極触媒は、以下の構成を備えている。
(1)前記電極触媒は、
多孔質の担体と、
前記担体の細孔内に担持された第1触媒粒子と、
前記担体の外表面に担持された第2触媒粒子と
を備えている。
(2)前記第1触媒粒子の平均粒径(粒度分布の中央値)D1は、前記第2触媒粒子の平均粒径D2より小さい(当審注:【請求項1】、【0026】等の記載からみて「大きい」の誤記であると認める。)。
【0018】
[1.1. 第1触媒粒子]
・・・
【0019】
第1触媒粒子は、特に、Pt、又は、Ptと1種若しくは2種以上の卑金属元素Mとの合金(以下、これを単に「Pt-M合金」ともいう)が好ましい。これは、Pt及びPt-M合金のいずれも燃料電池の電極反応に対して高い活性を示すためである。
・・・
【0026】
担体の細孔内に第1触媒粒子が担持され、担体の外表面に第2触媒粒子が担持されている場合において、第1触媒粒子の平均粒径D1が第2触媒粒子の平均粒径D2より小さい時には、触媒成分が細孔内から細孔外に向かって溶出する。細孔内から細孔外への触媒成分の溶出は、触媒性能を劣化させる原因となる。
一方、D1がD2より大きい時には、細孔内から細孔外への触媒成分の溶出を抑制することができる。従って、D1は、少なくとも、D2より大きいことが必要である。
【0027】
D1>D2の条件を満たす限りにおいて、D1の大きさは、特に限定されない。一般に、D1が小さくなりすぎると、第1触媒粒子が溶解しやすくなる。従って、D1は、5nm以上が好ましい。D1は、好ましくは、5.5nm以上、さらに好ましくは、6.0nm以上である。
一方、D1が大きくなりすぎると、第1触媒粒子の比表面積が減少し、効率点性能が低下する。従って、D1は、7nm以下が好ましい。D1は、好ましくは、6.5nm以下である。
・・・
【0029】
[1.2. 第2触媒粒子]
・・・
【0030】
第2触媒粒子は、特に、Pt、又は、Ptと1種若しくは2種以上の卑金属元素M'との合金(以下、これを単に「Pt-M'合金」ともいう)が好ましい。また、Pt-M'合金は、特に、元素M'がCo、Ni、及び/又は、Feであるものが好ましい。
・・・
【0033】
D1>D2の条件を満たす限りにおいて、D2の大きさは、特に限定されない。一般に、D2が小さくなるほど、触媒成分の溶解・再析出が起きやすくなる。しかし、D2が小さくなりすぎると、触媒粒子の面積活性が顕著に低下することが知られている。その結果、効率点性能を向上させる効果に欠ける。従って、D2は、1nm以上が好ましい。D2は、好ましくは、1.5nm以上、さらに好ましくは、2.0nm以上である。
一方、D2が大きくなりすぎると、電極触媒全体の反応面積が低下し、かつ、触媒成分の溶解・再析出速度も低下する。その結果、初期性能を向上させ、あるいは、耐久性を向上させる効果が不十分となる。従って、D2は、3nm以下が好ましい。D2は、好ましくは、2.5nm以下である。
・・・
【0035】
[1.3. 第1触媒粒子の重量比率]
「第1触媒粒子の重量比率」とは、次の式(1)で表される値をいう。
第1触媒粒子の重量比率(%)=W1×100/(W1+W2) …(1)
但し、
W1は、前記電極触媒に含まれる前記第1触媒粒子の重量、
W2は、前記電極触媒に含まれる前記第2触媒粒子の重量。
【0036】
第1触媒粒子の重量比率は、電極触媒のORR活性及び耐久性、並びに、湿度による性能変化に影響を与える。第1触媒粒子の重量比率が小さくなりすぎると、ORR活性が高い第1触媒粒子の反応面積が低下するため、初期及び耐久後の出力点・効率点のいずれの性能も低下する。従って、第1触媒粒子の重量比率は、50%以上が好ましい。重量比率は、好ましくは、60%以上、さらに好ましくは、70%以上である。
一方、第1触媒粒子の重量比率が大きくなりすぎると、低湿での初期及び耐久後の性能が著しく低下し、広い湿度範囲でロバストな性能が求められる車両用途には使用できなくなる。従って、第1触媒粒子の重量比率は、90%以下が好ましい。重量比率は、好ましくは、87.5%以下、さらに好ましくは、85%以下である。
【0037】
[1.4. 担体]
[1.4.1. 担体の材料]
本発明において、担体は、多孔質体からなる。また、第1触媒粒子は、担体の細孔内に担持され、第2触媒粒子は担体の外表面に担持される。この点が、従来とは異なる。
本発明において、担体の材料は、所定の細孔径を持つ多孔質体である限りにおいて、特に限定されない。担体の材料としては、例えば、カーボンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、メソポーラスカーボン、電子伝導性セラミックス(TiOx、Sb-SnO2)などがある。」
(2) 甲第2号証の記載
甲第2号証には、「固体高分子形燃料電池の電極触媒層形成用の触媒インク」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0026】
(触媒インクの製造)
白金を50wt%担持した触媒担持炭素粒子(商品名:TEC10E50E、田中貴金属社製)及び、炭素繊維(商品名:VGCF-H、昭和電工製)に、水を加え、プラネタリーミキサーで混合し、触媒粒子スラリーを作製した。・・・」
(3) 甲第3号証の記載
甲第3号証には、「空気極及び金属空気電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【実施例】
【0064】
・・・
(実施例1)
(実施形態1の空気極C等の作製手順)
(1)空気極触媒層の作製
電極触媒と、電子伝導性物質と、フッ素樹脂とを混合撹拌し、得られた混合物を延圧ローラーに通して厚み1mmのシートを得て、空気極触媒層とした。
具体的には、白金50wt%担持カーボン(電極触媒、田中貴金属社製、TEC10E50E)0.1g、カーボンブラック(電子伝導性物質キャボット社製、VULCAN XC72-R)1.5g、及び、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(アルドリッチ社製)0.7gを乳鉢で混練し混合物を得た。得られた混合物を圧延ローラーに通して厚み1mmのシートとして形成した。」
(4) 甲第4号証の記載
甲第4号証には、「触媒層付き電解質膜、中間層インク、中間層デカールおよび固体高分子形燃料電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0085】
〔触媒層デカールの作製〕
田中貴金属工業株式会社製白金触媒担持炭素粒子TEC10E50E(白金担持率50wt%)と、デュポン(DuPont)社製ナフィオン(登録商標)”(”Nafion(登録商標)”)を2:1の重量比となるように調整した触媒インクを、市販のポリテトラフルオロエチレン製フィルムに白金量が0.3mg/cm2となるように塗布し、触媒層デカール(触媒層厚み:8μm)を作製した。
【0086】
〔中間層インクの作製〕
田中貴金属工業株式会社製白金触媒担持炭素粒子TEC10E50E(白金担持率50wt%)0.60g、ソルベイ社製フッ素系高分子電解質アクイヴィオン(登録商標)D79-25BS(25wt%濃度の水分散液、イオン交換容量:1.3meq/g)9.6g、1-プロパノール19.8gを加えて混合し、遊星型ボールミルで分散処理を行い、インクに含まれる固形分の濃度は10%に調整して、中間層インクを作製した。」
3 当審の判断
(1) 甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、前記2(1)アによれば、「電極触媒」に関して次の事項が記載されている。
(ア) 「前記電極触媒は、
多孔質の担体と、
前記担体の細孔内に担持された第1触媒粒子と、
前記担体の外表面に担持された第2触媒粒子と
を備えている」こと(【請求項1】)。
(イ) 「前記第1触媒粒子の平均粒径(粒度分布の中央値)D1は、前記第2触媒粒子の平均粒径D2より大きい」こと(【請求項1】。
(ウ) 「前記D1は、5nm以上7nm以下であり、
前記D2は、1nm以上3nm以下である」こと(【請求項3】)。
(エ) 「前記第1触媒粒子は、Pt、又は、Pt-M合金(M=Co、Ni、及び/又は、Fe)からなり、
前記第2触媒粒子は、Pt、又は、Pt-M'合金(M'=Co、Ni、及び/又は、Fe)からなる」こと(【請求項4】)。
(オ) 「次の式(1)で表される第1触媒粒子の重量比率が50%以上90%以下である」こと、
「第1触媒粒子の重量比率(%)=W1×100/(W1+W2) …(1)
但し、
W1は、前記電極触媒に含まれる前記第1触媒粒子の重量、
W2は、前記電極触媒に含まれる前記第2触媒粒子の重量」(【請求項6】)。
イ 前記アの記載事項を「電極触媒」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「多孔質の担体と、
前記担体の細孔内に担持された第1触媒粒子と、
前記担体の外表面に担持された第2触媒粒子と
を備えている電極触媒であって、
前記第1触媒粒子の平均粒径(粒度分布の中央値)D1は、前記第2触媒粒子の平均粒径D2より大きく、
前記D1は、5nm以上7nm以下であり、
前記D2は、1nm以上3nm以下であり、
前記第1触媒粒子は、Pt、又は、Pt-M合金(M=Co、Ni、及び/又は、Fe)からなり、
前記第2触媒粒子は、Pt、又は、Pt-M'合金(M'=Co、Ni、及び/又は、Fe)からなり、
次の式(1)で表される第1触媒粒子の重量比率が50%以上90%以下である、電極触媒。
第1触媒粒子の重量比率(%)=W1×100/(W1+W2) …(1)
但し、
W1は、前記電極触媒に含まれる前記第1触媒粒子の重量、
W2は、前記電極触媒に含まれる前記第2触媒粒子の重量。」
(2) 本件発明1について
ア 対比
(ア) 本件発明1と甲1発明との対応関係は次のとおりである。
a 甲1発明の「Pt、又は、Pt-M合金(M=Co、Ni、及び/又は、Fe)からな」る「第1触媒粒子」、及び「Pt、又は、Pt-M'合金(M'=Co、Ni、及び/又は、Fe)からな」る「第2触媒粒子」は、本件発明1の「白金粒子または白金合金粒子」に相当する。
b 甲1発明の「多孔質の担体」は、本件発明1の「メソポーラスカーボン」と「多孔質担体」という点で共通している。
c 甲1発明の「前記担体の細孔内に担持された第1触媒粒子と、前記担体の外表面に担持された第2触媒粒子とを備えている電極触媒」は、前記a、bの対応関係を踏まえると、本件発明1の「白金粒子または白金合金粒子が担持された白金または白金合金担持」「触媒」に相当する。
d 甲1発明の「前記担体の細孔内に担持された第1触媒粒子と、前記担体の外表面に担持された第2触媒粒子とを備え」、「前記第1触媒粒子の平均粒径(粒度分布の中央値)D1は、前記第2触媒粒子の平均粒径D2より大きく」は、前記a、bの対応関係を踏まえると、本件発明1の「細孔内に担持された白金粒子または白金合金粒子の平均粒径D1が」、「細孔外に担持された白金粒子または白金合金粒子の平均粒径D2と同一であるかまたはそれより大きく」に相当する。
(イ) 前記(ア)の対応関係を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、
「多孔質担体に白金粒子または白金合金粒子が担持された白金または白金合金担持触媒であって、
前記多孔質担体の細孔内に担持された白金粒子または白金合金粒子の平均粒径D1が、前記多孔質担体の細孔外に担持された白金粒子または白金合金粒子の平均粒径D2と同一であるかまたはそれより大きい、
ことを特徴とする白金または白金合金担持触媒。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1は、多孔質担体が「メソポーラスカーボン」であって、白金または白金合金担持触媒が「白金または白金合金担持カーボン触媒」であるのに対して、甲1発明は、「多孔質の担体」、「電極触媒」であり、担体の材質が特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記触媒における白金または白金合金担持率は重量基準で前記触媒の総重量当たり30%以上70%以下」であるのに対して、甲1発明は、そのような特定がない点。
<相違点3>
本件発明1は、「前記白金粒子または白金合金粒子の総重量に対する前記メソポーラスカーボンの細孔外に担持された白金粒子または白金合金粒子の総重量が60~90%」であるのに対して、甲1発明は、「次の式(1)で表される第1触媒粒子の重量比率が50%以上90%以下である」点。
「第1触媒粒子の重量比率(%)=W1×100/(W1+W2) …(1)
但し、
W1は、前記電極触媒に含まれる前記第1触媒粒子の重量、
W2は、前記電極触媒に含まれる前記第2触媒粒子の重量。」
<相違点4>
本件発明1は、「D1/D2は、1.0~2.1であり」、「前記平均粒径D1および前記平均粒径D2は、独立して、それぞれ2nm以上8nm以下である」のに対して、甲1発明は、「前記D1は、5nm以上7nm以下であり」、「前記D2は、1nm以上3nm以下であり」、また、「D1/D2」は特定されていない点。
イ 判断
(ア) 事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1発明の「次の式(1)で表される第1触媒粒子の重量比率が50%以上90%以下である」ことは、式(1)が「第1触媒粒子の重量比率(%)=W1×100/(W1+W2) …(1)
但し、
W1は、前記電極触媒に含まれる前記第1触媒粒子の重量、
W2は、前記電極触媒に含まれる前記第2触媒粒子の重量。」であるから、「担体の細孔内に担持された第1触媒粒子」と「担体の外表面に担持された第2触媒粒子」との合計重量に対する「担体の細孔内に担持された第1触媒粒子」の重量比率を示している。
そこで、本件発明1の「前記白金粒子または白金合金粒子の総重量に対する前記メソポーラスカーボンの細孔外に担持された白金粒子または白金合金粒子の総重量」に相当する、「担体の細孔内に担持された第1触媒粒子」と「担体の外表面に担持された第2触媒粒子」との合計重量に対する「担体の外表面に担持された第2触媒粒子」の重量比率に換算すると、当該「担体の外表面に担持された第2触媒粒子」の重量比率は10%(=100%-90%)超~50%(=100%-50%)未満となるから、相違点3は実質的な相違点である。
(イ) 次に、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることの容易想到性について検討する。
甲第1号証には、前記2(1)イの【0036】に「第1触媒粒子の重量比率は、電極触媒のORR活性及び耐久性、並びに、湿度による性能変化に影響を与える。第1触媒粒子の重量比率が小さくなりすぎると、ORR活性が高い第1触媒粒子の反応面積が低下するため、初期及び耐久後の出力点・効率点のいずれの性能も低下する。従って、第1触媒粒子の重量比率は、50%以上が好ましい。重量比率は、好ましくは、60%以上、さらに好ましくは、70%以上である。」と記載されているから、甲1発明において、「担体の細孔内に担持された第1触媒粒子」の重量比率を50%未満とし、「担体の外表面に担持された第2触媒粒子」の重量比率を50%超とすることは、当業者が想起し得ることといえない。
また、甲第2号証~甲第4号証には、前記2(2)~(4)によれば、白金担持カーボン触媒は記載されているが、「前記白金粒子または白金合金粒子の総重量に対する前記メソポーラスカーボンの細孔外に担持された白金粒子または白金合金粒子の総重量が60~90%」であることは記載も示唆もされていないし、このことが周知慣用技術ともいえない。
したがって、甲1発明において、「担体の外表面に担持された第2触媒粒子」の重量比率を60~90%とすること、すなわち、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえない。
(ウ) 以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証~甲第4号証に記載された周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和8年6月5日提出の手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書において、甲第1号証の【0036】の「第1触媒粒子の重量比率は、50%以上が好ましい。重量比率は、好ましくは、60%以上、さらに好ましくは、70%以上である。」及び「第1触媒粒子の重量比率は、90%以下が好ましい。重量比率は、好ましくは、87.5%以下、さらに好ましくは、85%以下である。」との記載からすると、甲第1号証において、細孔外に担持された第2触媒粒子の重量比率は、50%未満、60%未満、若しくは70%未満、又は、10%超、又は15%超であるということになるから、甲第1号証には、細孔外に担持された第2触媒粒子の重量比率は、10%超70%未満であってよいことが記載されており、甲第1号証には、本件発明1の「前記白金粒子または白金合金粒子の総重量に対する前記メソポーラスカーボンの細孔外に担持された白金粒子または白金合金粒子の総重量が60~90%であり」との発明特定事項Cと同一又は実質的な同一の発明特定事項が記載されている旨を主張している(令和8年6月5日提出の手続補正書(方式)の第6ページ下から第9行~第7ページ第9行、第8ページ下から第2行~第9ページ第2行)。
しかしながら、細孔内に担持された第1触媒粒子の重量比率が70%以上である場合には、細孔外に担持された第2触媒粒子の重量比率は30%(=100%-70%)未満となるから、細孔外に担持された第2触媒粒子の重量比率が70%未満であってよいことは甲第1号証に記載されていない。
そして、甲第1号証の【0036】に記載された第1触媒粒子の重量比率が取り得る範囲の下限(50%以上)及び上限(90%以下)を踏まえると、細孔外に担持された第2触媒粒子の重量比率は、10%(=100%-90%)超~50%(=100%-50%)未満である。
したがって、甲第1号証には、本件発明1の前記発明特定事項Cに相当する記載はないから、申立人の上記主張は採用できない。
(3) 本件発明2、7、8について
本件発明2、7、8は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記(2)で検討したのと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証~甲第4号証に記載された周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4) 結論
以上の検討のとおり、前記1(1)の申立理由(新規性、進歩性欠如)に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1、2、7、8を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、2、7、8を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700371