特許異議申立
2016-701209
茶飲料
- 審判番号
- 2016-701209
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-033130
- 登録番号
- 特許第5968639号(P5968639)
- 請求日
- 2016年12月28日
- 審決日
- 2018年02月19日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】小野 新次郎
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】中村 充利
- 【異議申立人】天笠 勝
- 審判長/審判官
- 審判長 紀本 孝
- 審判官 千壽 哲郎
- 審判官 窪田 治彦
- 分類
- P1651.537-ZAA(A23F) / P1651.536-ZAA(A23F) / P1651.121-ZAA(A23F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5968639号発明「茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5968639号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、〔1~4〕、5及び6について訂正することを認める。
特許第5968639号の請求項1~5に係る特許を取り消す。
特許第5968639号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第5968639号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成28年7月15日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人天笠勝(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、平成29年4月12日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年6月13日に意見書が提出された。そして、平成29年8月7日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年10月6日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成29年11月22日に申立人より意見書の提出がされた。
第2 訂正の請求
1 訂正の内容
平成29年10月6日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第5968639号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書、特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。
(1) 訂正事項1
明細書の【0002】中の「現状である」という記載を、「現状である。」に訂正する。
(2) 訂正事項2
明細書の【0035】中の「製造た」という記載を、「製造した」に訂正する。
(3) 訂正事項3
明細書の【0043】中の「サンプル8~10」という記載を、「サンプル8~9」に訂正する。
(4) 訂正事項4
明細書の【0044】の【表2】の最終行(サンプル10に関する行)を削除する。
(5) 訂正事項5
明細書の【0045】中の「サンプル1~4および8~10」という記載を、「サンプル1~4および8~9」に訂正する。
(6) 訂正事項6
明細書の【0048】中の「サンプル8~10」という記載を、「サンプル8~9」に訂正する。
(7) 訂正事項7
明細書の【0048】中の「本発明の実施例であるサンプル10は、サンプル8・9と比べて、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールの含量が多く、ジメチルピラジン含量が50ppb以下であっても、飲みやすさと飲み応えを両立することができ、高い嗜好性を獲得していた。」という記載を削除する。
(8) 訂正事項8
明細書の【0049】の【表3】の最終行(サンプル10に関する行)を削除する。
(9) 訂正事項9
明細書の【0051】の【表4】の最左列及び【0053】の【表5】の最左列の「11(実施例)」を「11(比較例)」、「12(実施例)」を「12(比較例)」に訂正する。
(10) 訂正事項10
明細書の【0054】中の「試験例4・5の結果より」という記載を、「試験例4の結果より」に訂正する。
(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項1の
「 Camellia sinensisを原料とする加熱殺菌済の容器詰茶飲料であって、
23ppb~100ppbの2-メチルブタナール及び/又は3-メチルブタナール(成分A)と5ppb~50ppbの2,5-ジメチルピラジン(成分B)とを含有し、成分Aと成分Bの重量比(A/B)が1.0~10である、上記茶飲料。」という記載を、
「 Camellia sinensisを原料とする加熱殺菌済の容器詰茶飲料であって、
23ppb~62.5ppbの2-メチルブタナール及び/又は3-メチルブタナール(成分A)と5ppb~40ppbの2,5-ジメチルピラジン(成分B)とを含有し、成分Aと成分Bの重量比(A/B)が1.0~5.88であり、カフェイン含量が200ppm以下である、上記茶飲料。」に訂正する。
(12) 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項2の「A/Bが1.0~8.0である、請求項1に記載の茶飲料。」という記載を、「成分Bの量が30ppb以下である、請求項1に記載の茶飲料。」に訂正する。
(13) 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項3の「80ppm~200ppmのカフェインをさらに含有する」という記載を、「カテキン含量が400ppm以下であり、カフェイン含量が80ppm~200ppmである」に訂正する。
(14) 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項4の「請求項1~3のいずれかに記載の」という記載を、「請求項2に記載の」に訂正する。
(15) 訂正事項15
特許請求の範囲の請求項5の「茶飲料に含まれる2-メチルブタナール及び/又は3-メチルブタナール(成分A)の量を23ppb~100ppb、2,5-ジメチルピラジン(成分B)の量を5ppb~50ppb、成分Aと成分Bの重量比(A/B)を1.0~10に調整することを含む、Camellia sinensisを原料とする加熱殺菌済の容器詰茶飲料の製造方法。」という記載を、「茶飲料に含まれる2-メチルブタナール及び/又は3-メチルブタナール(成分A)の量を23ppb~62.5ppb、2,5-ジメチルピラジン(成分B)の量を5ppb~40ppb、成分Aと成分Bの重量比(A/B)を1.0~5.88、カフェイン含量を200ppm以下に調整することを含む、Camellia sinensisを原料とする加熱殺菌済の容器詰茶飲料の製造方法。」に訂正する。
(16) 訂正事項16
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、明細書の【0002】の「現状である」という記載が、文末にもかかわらず句点がないものであって、「現状である。」の誤記であることが明らかであるところ、その訂正を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、文章の意味内容を何ら変更するものではなく、それにより訂正前の請求項1~6に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項1は、文章の意味内容を何ら変更するものではなく、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、明細書の【0035】の「製造た」という記載が、日本語として不自然であって、「製造した」の誤記であることが明らかであるところ、その訂正を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、文章の意味内容を何ら変更するものではなく、それにより訂正前の請求項1~6に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項2は、文章の意味内容を変更するものではなく、実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(3) 訂正事項3~8について
ア 訂正の目的について
訂正事項3~8は、いずれも請求項1~6に記載された発明には含まれない試験例(サンプル10)についての記載を削除することによって、当該請求項1~6に記載された発明の把握を明瞭にするための訂正事項であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3~8は、いずれも請求項1~6に記載された発明には含まれない試験例(サンプル10)に関する記載を削除するものであって、それにより請求項1~6に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項3~8は、いずれも試験例(サンプル10)に関する記載を削除する訂正であり、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(4) 訂正事項9について
ア 訂正の目的について
訂正事項9は、いずれも請求項1~6に記載された発明には含まれない試験例(サンプル11及び12)が比較例であることを明確にするための訂正事項であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項9は、いずれも請求項1~6に記載された発明には含まれない試験例(サンプル11及び12)が比較例であることを明確にするものであって、それにより請求項1~6に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項9は、いずれも請求項1~6に記載された発明には含まれない試験例(サンプル11及び12)が比較例であることを明確にする訂正であり、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(5) 訂正事項10について
ア 訂正の目的について
訂正事項10は、明細書の【0054】の「試験例4・5の結果より」という記載が、試験例5の冒頭の記述であるにもかかわらず試験例5の結果が引用されていることから、「試験例4の結果より」の誤記であることが明らかであり、その訂正を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項10は、文章の整合を図るものであり、それにより請求項1~6に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項10は、文章の意味内容を何ら変更するものではなく、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(6) 訂正事項11について
ア 訂正の目的について
訂正事項11は、請求項1の記載について、「2-メチルブタナール及び/又は3-メチルブタナール(成分A)」の含有量を「23ppb~100ppb」から「23ppb~62.5ppb」へと数値範囲を減縮し、同様に、「2,5-ジメチルピラジン(成分B)」の含有量を「5ppb~50ppb」から「5ppb~40ppb」へと数値範囲を減縮し、「成分Aと成分Bの重量比(A/B)」を「1.0~10」から「1.0~5.88」へと数値範囲を減縮し、更に、「容器詰茶飲料」が「カフェイン含量が200ppm以下である」ことに限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項1を引用する請求項2~4についても同様に減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項11は、「容器詰茶飲料」に含まれる成分A及びBの含有量やその成分比(A/B)の数値範囲を減縮するものであり、かつ、当該「容器詰茶飲料」が「カフェイン含量が200ppm以下である」ことを特定するものであって、それにより発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、請求項1を引用する請求項2~4に記載された発明についてもカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項11について、成分Aの含有量上限を62.5ppbにすることは、明細書の【0041】の【表1】中の「サンプル4」の記載に基づくものであり、成分Bの含有量の上限を40ppbにすることは、明細書の【0019】の記載に基づくものであり、成分Aと成分Bの重量比(A/B)の上限を5.88にすることは、明細書の【0041】の【表1】中の「サンプル4」の記載に基づくものであり、容器詰茶飲料のカフェイン含量を200ppm以下にすることは、明細書の【0025】の記載に基づくものであるから、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(7) 訂正事項12について
ア 訂正の目的について
訂正事項12は、訂正前の請求項2の「A/Bが1.0~8.0」という事項が、上記訂正事項11によって訂正後の請求項2が引用する訂正後の請求項1において「A/Bが1.0~5.88」に数値範囲が減縮されているところ、更に、訂正前の請求項2が引用する請求項1の成分Bの含有量の「5ppb~50ppb」について、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2において「30ppb以下」に数値範囲を減縮し、訂正後の請求項2を引用する請求項3及び4についても同様に減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項12は、成分Bの含有量の数値範囲を減縮するものであって、それにより発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、請求項2を引用する請求項3及び4に記載された発明についてもカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項12は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項12について、成分Bの含有量を30ppb以下にすることは、明細書の【0019】の記載に基づくものであるから、訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(8) 訂正事項13について
ア 訂正の目的について
訂正事項13は、請求項3において何ら特定されていなかったカテキン含量について、「カテキン含量が400ppm以下であり」という記載により、容器詰茶飲料に含まれるカテキン含量を特定するものであり、また、請求項3において「80ppm~200ppmのカフェインをさらに含有する」という記載中の「さらに含有する」との記載が、上記訂正事項11により訂正後の請求項1において「カフェイン含量が200ppm以下である」と特定されたことにより不自然な表現となることを訂正しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項13は、容器詰茶飲料の成分にカテキンが含まれることを特定するものであり、また、訂正後の請求項1の記載に対応させて日本語表現を適切にするものであって、それにより発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項13について、茶飲料がカテキンを含有することは周知であり、かつカテキン含量を400ppm以下にすることは、明細書の【0041】の【表1】中の「サンプル4」、【0051】の【表4】中の「サンプル13」及び【0056】の【表6】中の「サンプル14~16」の記載に基づくものであるから、訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(9) 訂正事項14について
ア 訂正の目的について
訂正事項14は、請求項4が、請求項1~3を択一的に引用していたものであったところ、請求項2のみを引用するようにしたものであって、引用する請求項の数を減らす訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項14は、引用する請求項を請求項2のみにするものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項14は、引用する請求項を請求項2のみにするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(10) 訂正事項15について
ア 訂正の目的について
訂正事項15は、請求項5の記載について、「2-メチルブタナール及び/又は3-メチルブタナール(成分A)」の含有量を訂正前の「23ppb~100ppb」から「23ppb~62.5ppb」へと数値範囲を減縮し、同様に、「2,5-ジメチルピラジン(成分B)」の含有量を訂正前の「5ppb~50ppb」から「5ppb~40ppb」へと数値範囲を減縮し、「成分Aと成分Bの重量比(A/B)」を訂正前の「1.0~10」から「1.0~5.88」へと数値範囲を減縮し、更に、「容器詰茶飲料」の「カフェイン含量が200ppm以下」に調整することを特定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項15は、「容器詰茶飲料」に含まれる成分A及びBの含有量やその成分比(A/B)の数値範囲を減縮するものであり、かつ、当該「容器詰茶飲料」を「カフェイン含量が200ppm以下」に調整することを特定するものであって、それにより発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項15について、成分Aの含有量上限を62.5ppbにすることは、明細書の【0041】の【表1】中の「サンプル4」の記載に基づくものであり、成分Bの含有量の上限を40ppbにすることは、明細書の【0019】の記載に基づくものであり、成分Aと成分Bの重量比(A/B)の上限を5.88にすることは、明細書の【0041】の【表1】中の「サンプル4」の記載に基づくものであり、容器詰茶飲料をカフェイン含量を200ppm以下に調整することは、明細書の【0025】の記載に基づくものであるから、訂正事項15は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(11) 訂正事項16について
ア 訂正の目的について
訂正事項16は、請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項16は、請求項6を削除するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項16は、請求項6を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(12) 一群の請求項について
上記訂正事項11に係る訂正前の請求項1~4について、請求項2~4はそれぞれ請求項1を直接的または間接的に引用しているものであって、上記訂正事項11によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕、5及び6について訂正を認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1~5」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
Camellia sinensisを原料とする加熱殺菌済の容器詰茶飲料であって、
23ppb~62.5ppbの2-メチルブタナール及び/又は3メチルブタナール(成分A)と5ppb~40ppbの2,5-ジメチルピラジン(成分B)とを含有し、成分Aと成分Bの重量比(A/B)が1.0~5.88であり、カフェイン含量が200ppm以下である、上記茶飲料。
【請求項2】
成分Bの量が30ppb以下である、請求項1に記載の茶飲料。
【請求項3】
カテキン含量が400ppm以下であり、カフェイン含量が80ppm~200ppmである、請求項1又は2に記載の茶飲料。
【請求項4】
カフェイン含量が130ppm以下である、請求項2に記載の茶飲料。
【請求項5】
茶飲料に含まれる2-メチルブタナール及び/又は3-メチルブタナール(成分A)の量を23ppb~62.5ppb、2,5-ジメチルピラジン(成分B)の量を5ppb~40ppb、成分Aと成分Bの重量比(A/B)を1.0~5.88、カフェイン含量を200ppm以下に調整することを含む、Camellia sinensisを原料とする加熱殺菌済の容器詰茶飲料の製造方法。
第4 取消理由通知の概要
[理由1] 特許法第36条第4項第1号違反
明細書に記載された各サンプルのうち、サンプル8~16については、明細書の記載からは明らかに調製できないか、調製するにあたり当業者に過度の試行錯誤を強いるものであり、明細書の記載に基づいて当業者が製造できるものとはいえない。
ここで、本件発明の要件を満たす明細書中のサンプルはサンプル4及び13~16であるところ、その大半は、明細書の記載では当業者が製造できないものである。
すなわち、当業者といえども、発明の対象となる本件発明の容器詰茶飲料を製造する以前に、その具体例であるはずの各サンプルすら製造することができないから、発明の詳細な説明は、本件発明に係る容器詰茶飲料を作れるように記載されていない。
さらに、明細書の発明の詳細な説明を参照しても、「香気成分」のみを調整するだけで、茶飲料の味を調整できることについて理解できないから、当業者といえども課題が解決された茶飲料を製造することができない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
[理由2] 特許法第36条第6項第1号違反
・請求項1~6について
発明の詳細な説明の記載からは、本件発明の課題に直結する官能評価について信頼性に疑義があり、また課題とその解決手段たる発明特定事項との関係が把握できず、さらには明らかに効果を奏さない茶飲料を包含する本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできないものであり、また、課題解決のための手段が本件発明に反映されていない。
よって、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでない。
第5 取消理由についての当審の判断
1 理由1について
(1) サンプル8~16が調製できるか否かについて
サンプル8~16のうち、本件発明1~5の要件を満たす本件特許明細書中のサンプルは、サンプル13~16であるところ、これらサンプル13~16が調製できるか否かという観点から、以下検討する。
(なお、サンプル8~16以外で本件発明1~5の要件を満たす、サンプル4については、発明の詳細な説明の【0035】~【0041】及び【表1】の記載に基づいて調製できるものと認められる。)。
ア サンプル8~13が調製できるか否かについて
まず、上記第2のとおり、本件訂正が認められることにより、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件発明に含まれない試験例(サンプル10)についての記載は削除された。
次に、サンプル8はサンプル3~5をブレンドして調製したものであり、サンプル9はサンプル2、4及び5をブレンドして調製したものであるとされるところ、発明の詳細な説明には、サンプル8及び9が、サンプル2~5をそれぞれどのような割合でブレンドして調製したかについての具体的な記載はない(【0043】~【0044】、【表2】)。しかしながら、発明の詳細な説明には、【0044】【表2】の成分A[2-メチルブタナール(以下「2MB」という。)、3-メチルブタナール(以下「3MB」という。)]及び成分B[ジメチルピラジン(以下「DM」という。)]がどのようなものであるかが記載され(【0017】、【0018】)、成分A及びBの調整については「通常の方法により合成したものを用いてもよいし、市販の化合物を用いてもよい。また、上記化合物を高含有する天然もしくは合成した溶液、或いはこれを粗精製又は精製した化合物を用いてもよい。」(【0022】)と記載されているところ、本件特許の出願時の技術常識をもとに、【0044】【表2】の各成分(カフェイン、カテキン、2MB、3MB、DM)について、必要に応じて市販の化合物等を用いるなどして、それらの含有量を調整することにより、サンプル8及び9を調製できることは、当業者であれば理解することができる。
そして、サンプル8及び9が調製できると理解することができるのであるから、サンプル9をもとにしたサンプル11~13(【0050】~【0051】【表4】)についても同様に調製できることは、当業者は理解することができる。
イ サンプル14~16が調製できるか否かについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明において、サンプル14~16は「試験例1で調製したMB茶葉及び市販の煎茶葉を用い、飲料中の各成分の含有重量が、上記範囲内となるように茶飲料を調製した(表6)。」(【0055】)と記載されている。ここで、市販の煎茶は「サンプル1(市販の煎茶)」及び「サンプル2(市販の煎茶)」と解されるから、サンプル14~16が「サンプル4(MB茶葉)」、「サンプル1(市販の煎茶)」、「サンプル2(市販の煎茶)」から調製できるものであるかについて確認すると、【0056】【表6】のサンプル14の成分B含有量(27ppb)、サンプル4の成分B含有量(11ppb)並びにサンプル1及び2の成分B含有量(0ppb)を考慮すると、サンプル14は、サンプル1又は2からはもちろん、たとえサンプル4の100%配合のものであっても調製できないサンプルとなっている。
また、サンプル15及び16については、成分B含有量が6ppbであり、サンプル1及び2の成分B含有量(0ppb)を考慮すれば、サンプル4(成分B含有量11ppb)を55%程度配合する必要があるが、サンプル4を55%配合すると、成分Aはそれだけで34.1ppb含むこととなり、サンプル1及び2由来の成分Aを考慮すると、成分Aを24.3ppb含有するサンプル15や、成分Aを27.5ppb含有するサンプル16は調製できない。
なお、【0055】に記載の「市販の煎茶葉」が【表1】に記載のサンプル1又は2ではなく、別の市販の煎茶葉を意味するものだとしても、当該別の市販の煎茶葉がどのような成分組成であるかは何ら示されておらず、むしろ、成分B(DM)は、一般的な焙じ茶の製造において、焙煎が強くなる程含有量が指数関数的に増加し、火入れ(焙煎)しない茶葉である煎茶葉の段階では成分B(DM)を含まないことが示されていることからみて(【0023】、【図1(1)】)、サンプル1及び2と同様、市販の煎茶葉の成分Bは0ppmであるといえ、よって、サンプル1又は2ではない別の市販の煎茶葉によっても、サンプル14~16は調製できないといわざるを得ない。
しかしながら、上述のとおり、発明の詳細な説明には、【0056】【表6】の成分A(2MB、3MB)及び成分B(DM)がどのようなものであるかが記載され(【0017】、【0018】)、また、成分A及びBの調整については「通常の方法により合成したものを用いてもよいし、市販の化合物を用いてもよい。また、上記化合物を高含有する天然もしくは合成した溶液、或いはこれを粗精製又は精製した化合物を用いてもよい。」(【0022】)と記載されているところ、本件特許の出願時の技術常識をもとに、【0056】【表6】の各成分について、必要に応じて市販の化合物等を用いるなどして、それらの含有量を調整することにより、サンプル14~16を調製できることは、当業者であれば理解することができる。
ウ したがって、当業者であれば、本件特許の出願時の技術常識をもとに、発明の詳細な説明の記載に基づいて本件発明1~4に係る「容器詰茶飲料」を製造すること及び当該「容器詰茶飲料」を使用すること、また、本件発明5に係る「容器詰茶飲料の製造方法」を使用することは、可能であるといえる。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~5について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものということができる。
(2) 香気成分のみを調整するだけで茶飲料の味を調整できることについて
申立人は、成分A(2MB、3MB)及び成分B(DM)は、発明の詳細な説明の【0017】及び【0018】の記載によれば、いずれも「香気成分」であるにもかかわらず、「味」には直接影響のない「香気成分」のみを調整することで、茶飲料の「持続性のある濃厚感の付与されたうま味」や「飲用時後半に知覚される厚みのある味」といった「味」を調整できることについて、一般に「香気成分」の調整だけで「味」が調整できるとは理解できないことを考慮すれば、発明の詳細な説明からは、当業者は「香気成分」のみの調整により「味」を調整できるとの効果を理解することができない旨を主張している。
しかしながら、a)味と香りは密接に関連し、両者を完全に区別して評価することは難しいことが飲料業界における技術常識といえ、また、香りに影響を与える成分を一般に香気成分と呼び、香りにだけ影響を与えて味には影響を与えない成分のみを香気成分と呼ぶわけではないこと、b)発明の詳細な説明には、成分Aが「コーヒーの香気成分としても知られ、これらを多く含むコーヒー飲料は呈味や香味が良好であることが報告されている(特許第4011097号公報参照)。」(【0017】)と記載され、成分Aは、飲料の香りのみならず、味にも影響を及ぼすことが示されていること、c)発明の詳細な説明には、成分Bが「茶飲料の香味、特に飲み応えを向上させるのに効果がある」(【0005】)、「焦げ味に似た非常に強い苦味を有する」(【0006】)と記載され、成分Bは、茶飲料の香味、飲み応えに影響を及ぼす成分であることが示されていること、を考慮すれば、申立人の主張は当を得たものとはいえない。
(3) 小括
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~5について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができ、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
2 理由2について
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0001】~【0007】の記載から、容器詰茶飲料(なかでも、カフェインが低濃度の茶飲料)に関するものであって、苦味を伴うことなく、ジメチルピラジンのコク味を効果的に付与した飲料を提供することであるところ、本件発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
(1) 本件発明の課題に直結する官能評価について信頼性に疑義があることについて
ア 本件発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるというためには、発明の詳細な説明において、本件発明が上記課題を解決したことを確認することができる適切な試験例及びその官能評価が示されることが少なくとも必要である。
そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の試験例及びその評価結果についてみると、例えば、サンプル9に着目すると、当該サンプル9は、試験例3と試験例4とで評価され、専門パネラーが同じ評価項目について、同じ4段階評価をしたもの(【0045】参照)であるにもかかわらず、その評価結果は、試験例3においては「飲みやすさ」が「3.3」、「嗜好性」が「3.1」であるのに対し、試験例4においては「飲みやすさ」が「3.8」、「嗜好性」が「2.5」とされ、同じサンプルに対する評価に齟齬が見受けられる(【表3】、【表5】参照)。そして、その齟齬により、試験例3と試験例4とでは、サンプル9は、「飲みやすさ」が0.5向上(3.3→3.8)し、飲み応えや苦渋味が同等である一方で、総合的な好ましさであるはずの「嗜好性」は0.6低下(3.1→2.5)したものとなっており、評価点数の相違のみならず、全体的な味さえも異なる飲料として評価されている。
(なお、試験例4及び5の官能評価は発明の詳細な説明中に明記はないものの、その評価項目及び評価点数、評価結果の記述からみて、【0045】記載の官能評価を行っていることは明らかである。)
そうすると、発明の詳細な説明からは、試験例3あるいは試験例4が、官能試験及びその評価が適切に行われたものであるかの信頼性を確認することができず、試験例3及び試験例4の評価結果(【表3】及び【表5】)を併せみることの妥当性や試験例3及び試験例4におけるそれぞれのサンプルの評価結果の信頼性、さらには、同じ官能評価を行った試験例5の信頼性や、試験例5を試験例3及び試験例4と併せみることの妥当性についても確認することができないといわざるを得ない。
また、そもそも試験例3~5において、各評価項目における評価結果がそれぞれ何点以上(あるいは何点以下)となることが本件発明の上記課題を解決することになるのかの基準が何ら示されておらず、試験例3~5のサンプルが本件発明の上記課題を解決したものであるか否かを明確に判断することができない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された試験例3~5及びその官能評価は適切にされたものとはいえないから、本件発明が本件発明の上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるということはできない。
イ 特許権者は、平成29年6月13日付け意見書において、「試験例3と試験例4においてサンプル9の官能評価点が異なることについては、・・・試験例3と試験例4は別系統の実験として異なるタイミングで実施したことに起因するものであり、特に問題はございません」(7頁2~5行)、「試験例3~5が別途実施された実験だとしても、それらの結果から大きな傾向を把握することは十分に可能です。」(7頁8~9行)と主張する(平成29年10月6日付け意見書においても同様。)。
しかしながら、試験例3~5は、専門パネラーが同じ評価項目について、同じ4段階評価をしたものということができるところ(【0045】参照)、試験例3と試験例4は別系統の実験であるとはいえない。また、同じ官能評価を異なるタイミングで実施したとしても、専門パネラーであれば同じサンプルに対しては同様の評価結果が得られるのが通常であるところ、試験例3と試験例4とで、同じサンプル9が全体的な味さえも異なる飲料として評価されており、大きな傾向さえ異なる評価結果となっている。
よって、特許権者の上記主張は失当であり、採用することはできない。
(2) 本件発明の課題とその解決手段たる発明特定事項との関係が把握できないことについて
ア 本件発明の上記課題解決の指標といえるコク味および苦味について検討する。
本件特許明細書において「コク味」は「飲み応え」とも表現され(【0021】、【0045】)、コク味を付与するのは成分B(DM)である(【0007】、【0016】、【0019】等)と記載されており、成分A(2MB、3MB)は成分B(DM)のコク味増強効果を相乗的に高める(【0016】、【0018】)とされている。
また、「苦味」は、発明の詳細な説明では「苦渋味」とも表現されており(【0045】)、苦味があるのは成分B(【0006】、【0020】、【0046】~【0047】)及びカフェイン(【0024】、【0046】)であって、苦味(苦渋味)に成分Aが寄与する旨の記載はない。
そして、カフェインについては、茶飲料中のカフェイン含量(重量)が80~200ppmの低カフェイン茶飲料は、苦味がないがコク味や飲み応え感が不足するものであること(【0024】)、カフェインが低濃度の茶飲料では、特にDMの苦味が顕著に知覚されること(【0006】)が記載されている。
このことを考慮して、発明の詳細な説明に記載された実施例を確認する。
まず、サンプル1及び2については、「一般的な煎茶葉を用いて調製した茶飲料(サンプル1)は、カフェインが多く、飲み応えはあるものの苦渋味が強くなり、飲みやすさに欠けたものとなった。一方で、サンプル2のようにカフェイン含量を少ないと、飲みやすさは向上するものの飲み応えが消失し、全体的な嗜好性が低下した。」(【0046】)との記載があり、【表1】中のサンプル1及び2の各成分の含有量の差異と【表3】の評価結果を参照すると、DMを含有しないサンプルにおいて、カフェインの含有量が飲み応え及び苦渋味に関係することが一応把握できる。
また、サンプル2及び3については、「サンプル2のようにカフェイン含量を少ないと、飲みやすさは向上するものの飲み応えが消失し、全体的な嗜好性が低下した。また、焙じ茶葉を用いて調製した茶飲料(サンプル3)は、カフェイン含量は少ないが、2,5-ジメチルピラジンを豊富に含み、コクが付与され、飲み応えが補われていた。しかし独特の焦げ苦味に近い風味を有し、苦渋味が知覚され、緑茶飲料としての嗜好性は低下した。」(【0046】)との記載があり、【表1】中のサンプル2及び3の各成分の含有量の差異と【表3】の評価結果を参照すると、カフェインの含有量が少ないサンプルにおいて、DM含有の有無が飲み応え及び苦渋味に関係することが一応把握できる。
また、サンプル4については、「特定のアミノ酸を浸漬して火入れ乾燥して得られるMB茶葉を用いて調製した茶飲料(サンプル4)は、2,5-ジメチルピラジンは少なくて焦げ苦味は少ないながらも、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールの含量が多く、飲み応えは充分に感じられ、高い嗜好性が得られた。」(【0047】)との記載があるところ、当該サンプル4とカフェインの含有量が同程度であるサンプル9との比較において、【表2】中の各成分の含有量の差異と【表3】の評価結果を参照すると、カフェインの含有量が少ないサンプルにおいて、DMの含有量が苦渋味に、2MB及び3MBの合計含有量が飲み応えに、それぞれ関係するようなものであることが一応把握できる。
一方、サンプル8及び9についての「サンプル8~9の結果を比較すると、カフェイン含量を低くしても、2,5-ジメチルピラジンを適度に含ませることで、茶飲料にコクが付与されていた。ジメチルピラジンは焦げ苦みの原因にもなるため、ジメチルピラジン由来の焦げ苦味を知覚させないためには、2,5-ジメチルピラジンの量を低くした方がよいが、この範囲では、ジメチルピラジンのコク増強作用だけでは十分な飲み応えが付与されないことが判明した(サンプル8・9)。」(【0048】)との記載に関して、「カフェイン含量を低くしても、2,5-ジメチルピラジンを適度に含ませることで、茶飲料にコクが付与されていた。」という点については、サンプル8及び9とサンプル2との比較によって、【表3】の評価結果から一応の把握はできる。しかしながら、「ジメチルピラジンは焦げ苦みの原因にもなるため、ジメチルピラジン由来の焦げ苦味を知覚させないためには、2,5-ジメチルピラジンの量を低くした方がよい」という点については、【表2】中のサンプル8及び9のDMの含有量はサンプル8(46ppb)のほうがサンプル9(27ppb)より相当多く、また、カフェインの含有量もサンプル8(121ppm)のほうがサンプル9(113ppm)より若干多くなっており、2MB及び3MBの合計含有量はサンプル8(21.4ppb)、サンプル9(21.6ppb)と両者同程度であるから、これら成分の含有量の差異により生じる苦渋味及び飲み応えの評価点はいずれもサンプル8のほうが高くなるものと予想されるところ、【表3】の評価結果を参照すると、サンプル8とサンプル9とはともに「飲み応え」が「2.3」、「苦渋味」が「2.0」と同じ評価点となっている。そして、DMの含有量に相当な差があるにもかかわらず、苦渋味及び飲み応えが同じ評価点となることの理由は発明の詳細な説明には示されていない。
ここで、サンプル1~9についての【表1】及び【表2】には、カフェイン、成分A及び成分Bのほか、カテキンの成分分析値が記載されており、特許権者の主張(下記イ参照)や茶飲料の技術常識を参酌すると、苦渋味に対してカテキンが影響を及ぼすものであることが当業者に明らかであるところ、サンプル8及び9の飲み応えや苦渋味についての上記評価点には、サンプル8及び9におけるカテキン含有量の差(サンプル8:199ppm、サンプル9:325ppm)が関係していることも考えられる。しかしながら、試験例3のサンプル1~9の評価結果からは、カテキンの含有量の差異が、飲み応えや苦渋味の評価点としてどの程度反映されるのかを把握することはできないし、カテキン含有量が本件発明の上記課題に対してどのような関係があるのかも発明の詳細な説明には記載されていない。そして、苦渋味の評価点が、本件発明の発明特定事項とはされていないカテキンの含有量の影響も加味されたものであるとするならば、カテキンの含有量がそれぞれ異なる上記サンプル1~4についての上記【0046】~【0047】の記載は、単純にそのとおりであると理解することはできない。
一般に、茶飲料の風味は、茶抽出物に含まれる多数の成分が複雑に影響して得られるものであり、そのうま味、渋味、苦味、甘味、こく、香り等、様々な要素のバランスにより成り立つものであるから、茶飲料の風味は、上記要素に影響を及ぼす様々な成分によって左右されることが技術常識である。
そして、茶飲料は、カフェイン、成分A(2MB、3MB)及び成分B(DM)以外にも、上記カテキンなどの様々な成分を含むことが技術常識であるところ、カフェイン、成分A及び成分B以外の成分も茶飲料の風味に影響を及ぼすであろうことは、当業者が普通に想定するところである。
よって、本件発明について、「飲みやすさ」、「飲み応え」、「苦渋味」、「嗜好性」という風味の評価試験を通じて、カフェイン、成分A及び成分Bと本件発明の上記課題解決の指標といえるコク味および苦味との関係を明らかにするためには、少なくとも、a)「飲みやすさ」、「飲み応え」、「苦渋味」、「嗜好性」という風味に影響を及ぼすのが、カフェイン、成分A及び成分Bのみである場合や、影響を及ぼす要素はあるが、その条件をそろえる必要がない場合には、そのことを技術的に説明した上で、上記カフェイン、成分A及び成分Bに係るパラメータを変化させて評価試験をするか、b)「飲みやすさ」、「飲み応え」、「苦渋味」、「嗜好性」という風味に影響を及ぼす要素が上記カフェイン、成分A及び成分B以外にも存在し、その条件をそろえる必要がないとはいえない場合には、当該他の要素を一定にした上で上記カフェイン、成分A及び成分Bに係るパラメータをそれぞれに変化させて評価試験をするという方法がとられるべきである。
本件発明については、上記のとおり、少なくとも、さらにカテキンが「苦渋味」に影響を及ぼすものであることが当業者に明らかであるところ、少なくとも上記試験例3はカテキンの含有量についての条件をそろえたものではなく、またそろえる必要がない場合であることを技術的に説明していない。また、サンプルの作製方法からみて、カフェイン、成分A及び成分B以外の要素を一定にして試験したものでもない。
試験例4については、サンプル9をベースにして、成分Aの含有量のみを変化させて試験している点では、他の要素を一定にした上での評価試験を行ったものと一応はいうことができる。しかしながら、試験例4は、サンプル9(カフェイン113ppm、カテキン325ppm、成分B27ppb)というそれぞれの成分が特定量のサンプルについてした一例に留まるところ、さらに、本件発明の範囲に含まれる低カフェイン茶飲料として一般的なカフェイン及びカテキンの含有量の範囲についても、同等の結果が得られるものであるかを確認する試験は行われておらず、十分なものとはいえない。
そのほか、カフェイン、成分A及び成分B以外の要素を一定にした上でカフェイン、成分A、成分Bそれぞれの含有量のみを変化させた試験や、A/Bが同じ値となる成分A及びBの含有量の組合せを変化させた試験などは行われていない。
よって、実施例の一部のサンプルの比較により、各成分の定性的な傾向については大まかに把握できるようなところも窺えるが、本件発明において特定された数値範囲を含む発明特定事項との関係までを正確に把握することができるように実施例が記載されているとはいえない。
そうすると、本件発明の上記課題を解決するためには、本件発明のカフェイン、成分A及び成分Bの含有量を特定範囲にすること、並びにA/Bを特定の範囲にすれば足り、その他の成分の特定は要しないことを、当業者が理解できるとはいえない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明の上記課題に対して、本件発明の発明特定事項がどのような関係があるかを把握することができないから、本件発明が本件発明の上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるということはできない。
イ 特許権者は、上記意見書において、申立人が指摘した試験例3の官能評価結果についての不備に対して、「カフェインの影響が大きいものと考えられます。」(7頁30~31行)、(カフェインの影響を考慮したとしても)「サンプル8(成分A:21.4ppb)とサンプル9(成分A:21.6ppb)については、成分Aの合有量が少なすぎたことが影響しているものと考えられます。」(8頁10~12行)、「サンプル8(カテキン含量:199ppm、苦渋味:2.0)と比較してサンプル10(カテキン含量:300ppm、苦渋味:2.5)の苦渋味が大きくなる理由としては、カテキン含量の影響が考えられます。」(8頁16~18行)旨の主張をしている。
しかし、特許権者の上記主張どおりであるならば、本件発明の上記課題に対する本件発明のカフェイン、成分A及び成分Bの関係を把握するためには、適切に設定された試験例やサンプルの数が足りないものであったか、あるいは、少なくとも、さらにカテキンの含有量等を関連づけなければ説明できないものであったということであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明における本件発明に関する開示が十分でなかったこと、本件発明の上記課題の解決には、少なくとも、さらにカテキンの含有量等も併せて特定する必要があることを示唆するものである。
そうすると、少なくともカテキンに関する発明特定事項を何ら有していない本件発明1、2、4及び5は、当然に本件発明の上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
また、本件発明3は、カテキン含有量が400ppm以下であることをさらに特定するものであるが、本件特許明細書において、カテキン含有量がカフェイン、成分A及び成分Bの含有量やA/Bの値とともに「苦渋味」にどのような影響を及ぼすものであるかが把握できるような試験例は示されておらず(例えば、成分A、成分B、カフェイン及びカテキンの含有量が全て上限値である茶飲料においても、上記課題を解決しているか等)、また、示す必要がない場合であることの技術的な説明もない。そして、官能評価されたサンプルは、ほとんどがカテキン含有量が400ppm以下のものであり、カフェイン、成分A及び成分Bの含有量やA/Bの値とともに、カテキン含有量の範囲を400ppm以下にしたことの技術的、臨界的意義も明らかにされていない(なお、官能評価されたサンプルのうち、カテキン含有量が400ppmを超える(769ppm)唯一のサンプルであるサンプル1は、カフェイン含有量(251ppm)についても本件発明の範囲を大きく超過したものであって、「苦渋味」にカテキン含有量とカフェイン含有量のどちらがどのように影響を及ぼしているのかを把握することが困難なものである。)。そうすると、カテキン含有量が400ppm以下であることをさらに特定したことをもって、本件発明3が本件発明の上記課題を解決すると当業者が十分に認識できるものになっているとはいえない。
よって、特許権者の上記主張は当を得たものとはいえず、採用することはできない。
(3) 明らかに効果を奏さない茶飲料を包含する本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできないこと、課題解決のための手段が反映されていないことについて
ア 本件発明は、「23ppb~62.5ppbの2-メチルブタナール及び/又は3-メチルブタナール(成分A)」という発明特定事項を備えることで、「ジメチルピラジンのコク味増強効果を相乗的に高める作用が十分」(【0018】)となるとされており、「5ppb~40ppbの2,5-ジメチルピラジン(成分B)」という発明特定事項を備えることで、「コク味の増強効果を十分に発揮」(【0019】)するものとされており、「成分Aと成分Bの重量比(A/B)が1.0~5.88」という発明特定事項を備えることで「ジメチルピラジンの苦味を低減したり、苦味を伴わない程度にまでジメチルピラジンの含有量を少なくしたりしても茶飲料に十分なコク味を付与することができる」(【0020】)とされている。また、「カフェイン含量が200ppm以下」という発明特定事項を備えることで、本件発明の容器詰茶飲料が「低カフェイン茶飲料」(【0024】)に相当するものであることを特定している。
イ しかしながら、本件発明のようないわゆるパラメータ発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、そのパラメータの数値範囲と得られる効果との関係の技術的意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数値範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要すると解されるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、低カフェイン茶飲料において、成分Aの含有量を特定範囲にすることで成分Bのコク味増強効果を相乗的に高める作用を果たす作用機序、成分Bの含有量を特定範囲にすることでコク味の増強効果を十分に発揮する作用機序、及び、成分Aと成分Bの重量比(A/B)を特定範囲にすることでジメチルピラジン(成分B)の苦味を低減したり、苦味を伴わない程度にまでジメチルピラジンの含有量を少なくしたりしても茶飲料に十分なコク味を付与することができるという作用機序についての記載や示唆はなく、これら成分A及び成分Bの含有量やA/Bの範囲を特定することで当然に上記の効果を奏するという技術常識もない。
そして、本件発明の範囲において、本件発明の上記課題を解決したことを一応確認できるものは、実施例のサンプル4及び13~16として示された試験条件、材料・成分、含有量のもののみであるところ(【0035】~【0058】、【表1】~【表7】参照)、実施例に記載されたこれら特定のサンプルから、本件発明の範囲まで、技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に示された内容を拡張ないし一般化できるとすることはできない。
例えば、本件発明1~5において特定されているカフェイン、成分A及びBについてみても、発明の詳細な説明においてその効果が一応確認されている範囲は、カフェインが「110~121ppm」の範囲であるものについて、成分Aが「24.3~62.5ppb」の範囲、成分Bが「6~27ppb」の範囲、A/Bが「1.02~5.88」の範囲に含まれるものであって、本件発明の全範囲を確認し得るものとはいえない。
しかも、上記2(1)で検討したように、課題を解決したとする評価結果の基準が明らかでなく、実験をするタイミングによっても評価結果が0.5~0.6も異なるとすれば、上記サンプル4及び13~16についても、常に課題を解決したと評価できるとは言い切れないから、これらのサンプルに基づいて成分A、B及びA/Bの数値範囲を定めることが妥当とはいえない。
また、上記サンプル4及び13~16は、カフェイン、成分A及びBのほか、試験例2~5において成分分析されているカテキンを特定量含むことは明らかであり(【表1】、【表4】、【表6】参照)、そのほか、試験例2~5において成分分析はされていない、原料であるMB茶葉や市販の煎茶葉や茶飲料に含まれる様々な成分を特定量含むものであるが、本件発明は、これら成分について何ら特定のないものである。そして、本件発明において特定されていないこれらの成分が、本件発明の課題に関する「飲み応え」や「苦渋味」に影響を及ぼすものでないことは、試験例などによって何ら確認されてはおらず、また、技術的な説明もない。そして、少なくともカテキンが「苦渋味」に影響を及ぼすものであることは当業者の技術常識である。
よって、本件発明が本件発明の上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
(4) 小括
よって、本件特許の請求項1~5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第6 請求項6に係る特許についての特許異議の申立てについて
上記第2のとおり、本件訂正が認められることにより、請求項6は削除され、当該請求項6に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、請求項6に係る特許についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
第7 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、当該請求項1~5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項6に係る特許についての特許異議の申立ては、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-701209