特許異議申立
2025-700767
コーヒー豆焙煎装置およびコーヒー豆焙煎製造方法
- 審判番号
- 2025-700767
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-118293
- 登録番号
- 7624547
- 請求日
- 2025年07月25日
- 審決日
- 2026年04月27日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ユーシーシー上島珈琲株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
- 【異議申立人代理人】黒川 朋也
- 【異議申立人代理人】田村 明照
- 【異議申立人代理人】戸津 洋介
- 【異議申立人代理人】渡辺 欣乃
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 宮久保 博幸
- 審判官 柴田 昌弘
- 分類
- P1651.121-Y (A23F) / P1651.536-Y (A23F) / P1651.537-Y (A23F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7624547号発明「コーヒー豆焙煎装置およびコーヒー豆焙煎製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7624547号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7624547号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、令和6年7月24日を出願日とする出願であって、令和7年1月22日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月25日に特許異議申立人 ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1及び2)がされ、同年11月26日付けで取消理由が通知され、令和8年1月30日に特許権者 ユーシーシー上島珈琲株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年2月13日付けで特許異議申立人に対して審尋され、これに対し同年3月13日に特許異議申立人から回答書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
水素混焼バーナで発生した熱風でコーヒー豆の焙煎をするコーヒー豆焙煎製造方法であって、
前記水素混焼バーナの燃料として水素ガスを用い、
焙煎開始の熱風温度が少なくとも450℃となるように、前記水素混焼バーナの火力を制御する制御ステップを含む、
コーヒー豆焙煎製造方法。
【請求項2】
前記焙煎開始において焙煎豆温度が180℃超えて~240℃の間で最大値をとるようにし、焙煎開始から徐々に温度減少させて焙煎中期に下に凸の最小値を有し、焙煎中期から焙煎後期にかけて徐々に温度を高くする構成である、請求項1に記載のコーヒー豆焙煎製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等
令和7年7月25日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。なお、申立の理由は、適用条文ごとに当審にて整理して番号を付した。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(明確性)
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
以下に、申立理由2の概要を記す。
(1)混焼について
本件特許の請求項1には「水素混焼バーナの燃料として水素ガスを用い」と記載されているが、燃料として水素ガスのみを用いるのか、燃料ガスの一部として水素ガスを用いることを意味するのかが、明確でない。
よって、請求項1及び2に係る発明は、明確でない。
(2)焙煎豆温度その1
本件特許の請求項2には「焙煎開始において焙煎豆温度が180℃超えて~240℃の間で最大値をとるようにし」と記載されているが、「焙煎豆温度」が「コーヒー豆の温度」を意味するのか、「周辺雰囲気温度」を意味するのか不明である。また、「コーヒー豆の温度」及び「周辺雰囲気温度」の測定方法も不明であり、「周辺雰囲気温度」がコーヒー豆からどの程度隔離した場所での温度を意味するのかも不明である。
よって、請求項2に係る発明は、明確でない。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
以下に、申立理由3の概要を記す。
(1)焙煎条件
焙煎豆温度は、焙煎するコーヒー豆の量、焙煎するコーヒー豆の含水率、コーヒー豆のサイズ及び焙煎を行う容器のサイズにも依存するが、本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例には、5kgのコーヒー豆を焙煎した例は記載されているものの、それ以外の上記の点は一切記載も示唆もされていないので、当業者はこれらをどのように設定したらよいかを理解できないから、発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(2)焙煎豆温度その1
上記2(2)で指摘したとおり、請求項2に記載された「焙煎豆温度」という用語は、2つの異なる意味に解釈ができる上、その測定方法も不明であるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明2を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(3)焙煎温度その2
本件特許の請求項2には「焙煎開始において焙煎豆温度が180℃超えて~240℃の間で最大値をとるようにし」と記載されているが、実施例には上記のようにコーヒー豆を焙煎したことについて具体的な記載がなく、図4には縦軸に温度(℃)の記載がないので焙煎豆温度が不明であるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明2を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(4)前処理
本件特許の請求項2には「焙煎開始において焙煎豆温度が180℃超えて~240℃の間で最大値をとるようにし」と記載されているが、どのようにして「焙煎開始において焙煎豆温度が180℃超えて~240℃の間」とするのか、その方法が本件特許の発明の詳細な説明に記載されていない。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
以下に、申立理由4の概要を記す。
(1)混焼について
本件特許の請求項1には「水素混焼バーナの燃料として水素ガスを用い」と記載されているが、上記2(1)で指摘したとおり、燃料として水素ガスのみを用いるのか、燃料ガスの一部として水素ガスを用いるのかが明確でないところ、燃料ガスの一部として水素ガスを用いることを意味する場合には、本件特許の発明の詳細な説明には対応する実施例がないがないので、発明の詳細な説明の記載を超えるものである。
(2)焙煎開始の熱風温度
本件特許の実施例には焙煎開始の熱風温度が450℃である例は記載されているものの、焙煎開始の熱風温度が450℃を超えるあらゆる温度である場合においても、「従来の炭化水素系燃料バーナによる熱風温度と同等の熱風温度にてコーヒー豆を焙煎し、異なる味覚を作ることができる、コーヒー豆焙煎装置およびコーヒー豆焙煎製造方法を提供すること」(本件特許の発明の詳細な説明の【0007】)という課題を解決できるとはいえない。
(3)熱風温度を450℃以上に維持する時間
焙煎開始の熱風温度が450℃であっても直後に熱風温度を大きく向上又は低減させた場合には、課題を解決できるとはいえない。なお、本件特許の実施例においては、熱風温度を450℃に維持した時間が開示されていない。
(4)焙煎条件
焙煎豆温度は、焙煎するコーヒー豆の量、焙煎するコーヒー豆の含水率、コーヒー豆のサイズ及び焙煎を行う容器のサイズにも依存するが、本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例には、5kgのコーヒー豆を焙煎した例は記載されているものの、それ以外の上記の点は、一切記載も示唆もされておらず、これらの条件についてすべての範囲において課題を解決できるとはいえない。
(5)コーヒー豆の種類
コーヒー豆があらゆる種類のコーヒー豆である場合においても、課題を解決できるとはいえない。なお、本件特許の実施例においては、コーヒー豆の種類が開示されていない。
(6)焙煎温度その2
本件特許の請求項2には「焙煎開始において焙煎豆温度が180℃超えて~240℃の間で最大値をとるようにし」と記載されているが、実施例には上記のようにコーヒー豆を焙煎したことについて具体的な記載がなく、図4には縦軸に温度(℃)の記載がないので焙煎豆温度が不明であるから、「焙煎開始において焙煎豆温度が180℃超えて~240℃の間で最大値をとるようにし」たとしても、課題を解決できるか不明である。
5 証拠方法
甲第1号証:Development of hydrogen roasting machine for realization of hydrogen society, Youtube [online] [video], [2025年7月15日検索], <https://www.youtube.com/watch?v=WGMSB-B4fRQ&list=PLZH3AKTCrVsVLlxYhJIm6i6ISfxIZp2jt&index=19>
甲第2号証:Development of hydrogen roasting machine for realization of hydrogen society, [online], 第11回 NEDO-CDTI 合同ワークショップ, [2025年7月15日検索], インターネット<URL:https://www.nedo.go.jp/content/100956603.pdf>
甲第3号証:特開2000-217514号公報
甲第4号証:特開2005-6592号公報
甲第5号証:国際公開第2017/098002号
甲第5-1号証:特表2018-536408号公報
甲第6号証:特開2018-186736号公報
甲第7号証:Sara E. Yeager, et al., Acids in coffee: A review of sensory measurements and meta-analysis of chemical composition, Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 2023, vol. 63, NO. 8, p1010-1036, https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/10408398.2021.1957767、Taylor & Francis, 令和3年9月23日(掲載日)
甲第8号証:Andrew Cotter, et al., Consumer preferences for black coffee are spread over a wide range of brew strengths and extraction yields、The 28th ASIC Conference on Coffee Science、https://www.alphavisa.com/asic/2021/documents/eposters-presentation/S8-PO-08_4319_COTTER.pdf、Association for the Science and Information on Coffee, 令和3年6月28日(公然実施)
甲第9号証:Yvonne Roman-Maldonado, et al., Drivers of liking to predict consumers’ acceptance of local coffee from indigenous Mexican regions, European Food Research and Technology, 2022, 248, p467-475, https://link.springer.com/article/10.1007/s00217-021-03892-x、Springer Nature, 令和3年11月6日(掲載日)
甲第10号証:Ammaraporn Pinsuwan, et al., Sensory Drivers of Consumer Acceptance, Purchase Intent and Emotions toward Brewed Black Coffee, foods, 2022, 11, 180, https://www.mdpi.com/2304-8158/11/2/180、MDPI、令和4年1月11日(掲載日)
甲第11号証:「Perfecting the flavor experience with Coffee Aftertaste」https://xliiicoffee.com/en/journal/experience-with-coffee-aftertaste/、XLIII Coffee R&D and Editorial Board
甲第12号証:「Tasting Coffee The Captivating Epilogue of Aftertaste」https://www.top4.com.au/pressrelease/detail/tasting-coffee-the-captivating-epilogue-of-aftertaste、Smokin Joes Espresso Bar、令和5年9月20日(掲載日)
甲第13号証:「Coffee Basics: Aroma & Aftertaste」https://beancraft.coffee/blogs/news/coffee-basics-aroma-aftertaste、Beancraft、令和5年4月1日(掲載日)
甲第14号証:「Aftertaste Of Coffee: What It Is And How to Describe It」https://www.crazycoffeebean.com/aftertaste-of-coffee/、Crazy Coffee Bean、令和5年2月16日(掲載日)
甲第7号証ないし甲第14号証は、特許異議申立人が令和8年3月13日に提出した回答書(以下「回答書」という。)に添付して提出したものである。
なお、証拠の表記については、概ね特許異議申立書及び回答書の記載にしたがった。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 特許権者が提出した証拠方法
特許権者が、令和8年1月30日に提出した意見書(以下「意見書」という。)に添付して提出した証拠方法は次のとおりである。
乙第1号証:Morten Munchow, et al., Roasting Conditions and Coffee Flavor: A Multi-Study Empirical Investigation, Beverages, 2020, 6, 29; doi:10.3390/beverages6020029
乙第2号証:Jesper Alstrup, et al., The Effect of Roast Development Time Modulations on the Sensory Profile and Chemical Composition of the Coffee Brew as Measured by NMR and DHS-GC-MS, Beverages, 2020, 6, 70; doi:10.3390/beverages6040070
乙第3号証:荻野浩幸、トマトジュースへの塩味添加がグリーンな香りに与える影響、日本官能評価学会誌、vol.28、No.2、p89-97、2024年
乙第4号証:池田三知男ほか、異なる製造工程で製造されたミルクコーヒーの官能評価と味覚センサ分析、九州大学大学院システム情報科学紀要、第24巻、第2号、p23-28、令和元年7月
乙第5号証:本願明細書に記載された実施例及び比較例の官能評価結果
なお、証拠の表記については、概ね意見書の記載にしたがった。以下、順に「乙1」のようにいう。
第5 令和7年11月26日付けで特許権者に通知した取消理由の概要
取消理由(甲1を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審は、上記取消理由及び申立理由1ないし4には、以下のとおり理由がないと判断する。
なお、上記取消理由は申立理由1と同一の証拠に基づくものであるので、下記において一緒に判断を記す。
1 取消理由及び申立理由1(甲1を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲1により開示された事項等
ア 甲1発明の公知性について
甲1に添付して特許異議申立人が提出した『「第11回NEDO-CDTI合同ワークショップ」の開催報告』という文書には、3頁の「TECHNICAL SESSION 2」の欄の5番目に、甲1の動画と同じ講演者とタイトルが記載されており、甲1の動画は、2023年1月24日に甲府記念日ホテル(山梨県甲府市)において開催された上記合同ワークショップの該当する講演を撮影したものであるといえる。そして、同じく甲1に添付して特許異議申立人が提出した「甲第1号証の開示内容を説明する記載及び参照シーンをキャプチャした画像」という文書には、キャプチャした画像の左下に「86回視聴 2023/05/01」と記載されており、遅くとも、本願出願前である2023年5月1日には、甲1の動画が掲載されていたことがうかがえる。
そして、上記『「第11回NEDO-CDTI合同ワークショップ」の開催報告』という文書の1頁には、更新情報として「2023年5月17日 合同ワークショップ講演動画を掲載しました。」と記載されており、上記合同ワークショップの講演は、その動画が本願出願前に広く公開されていたといえること並びに本件の異議申立てを審理する際に、当審にてインターネット上で甲1の動画の内容を確認することができたことから、甲1の動画は、その掲載日から視聴者を限定することなく公開されていたものといえる。
以上のことから、甲1の動画は、遅くとも、本願出願前である2023年5月1日に公開されていたといえ、甲1の動画に開示された発明は、本願出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるといえる。
イ 甲1により開示された事項
甲1は、水素社会の実現に向けた水素焙煎機の開発について、2023年1月24日に甲府記念日ホテル(山梨県甲府市)においてYuichi KIMURAが、甲2のスライドを用いて講演した様子を撮影した動画と認められる。以下においては、甲1の画面キャプチャに代えて、対応する甲2のスライドを引用するとともに、甲1において該当するスライドが説明されている時に講演者が説明している内容を書き起こし、甲1の冒頭からの経過時刻(分、秒)を示した。なお、説明文中の下線は当審が付したものである。
・「
[図:0001436202000001.jpg]
・・・
コーヒーの製造において最も重要なのが、焙煎という工程になります。
・・・
コーヒーの焙煎機の簡単な構造になりますが、こちらがバーナーになりますが、バーナーで焚いた熱風をこちらチャンバー釜になるんですが、熱風を釜に送り込んでこのチャンバーの中でコーヒーの豆を煎ることで味覚だったり、風味が形成されるという形になります。この焙煎という反応の中で特に重要なのが焙煎の温度でございまして、繊細かつ迅速な熱風温度の調整を必要としまして、工業用レベルですね、小さな焙煎機はまだしも大きな焙煎機、我々が扱うような工業用の焙煎機という形になりますと、この焙煎の温度コントロールが電熱式では難しいというところが大きな課題でございました。
・・・」(4:43~6:42)
・「
[図:0001436202000002.jpg]
そこで開発したのがこちらの水素焙煎機となります。こちらですね2つのタイプを今回作成の方をさせていただきましたけれども、いずれもですね、水素と既存燃料ですね、こちらCNGになりますが、いずれも使用できるハイブリッドで使用できるパイロット焙煎機を2台開発させていただきました。2台である必要は、異なる仕様のバーナーを開発しながら、どちらがメリットがあるのかというところも比較したかったので、今回は2台の開発をさせていただいたということになります。もちろん、いずれの焙煎機に関しましても、100%水素での焙煎ができる仕様にもなってございます。
1台目に関しまして、こちらはシングルのバーナータイプとなります。こちらは1つのバーナーに対して上流側で水素とCNGを混ぜる形で最終的に1つのバーナーで燃焼させるという形の仕様にしました。この利点としては熱効率が非常に良いことにあったのですが反面2つの燃料を上流側で混ぜ合わせるという形になりましたので、細やかな熱制御をする必要がございましたのでこちらのバーナーの開発には多くの課題と多くの労力を費やしたというところがございます。
・・・
ただ結果としても、いずれの焙煎機も今回開発の方を成功させていただきまして、時間あたり約4万キロの熱を与える焙煎機が今回開発をすることができました。」(8:35~10:45)
・「
[図:0001436202000003.jpg]
・・・
一方でご承知のことかもしれませんが水素が低分子であるため逆火のリスクがあること、あと既存燃料よりも多くのNOXが発生すること、既存燃料と比較して発熱量が少ないこと、排ガス中の水分量が多いこと等々、水素由来の課題がいろいろとございます。
また、水素を使うことで既存の燃料であるLNGとの味覚差、皆様がいつもお飲みになっているコーヒーとのどんな違いがあるのかというところも含めた検証をしながら、我々水素焙煎機の開発に今後も引き続き着手してまいりたいというふうに考えてございます。
・・・」(10:45~12:38)
ウ 甲1により開示された発明
甲1に開示された内容を、特に、シングルのバーナータイプの水素焙煎機について整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が開示されていると認める。
<甲1発明>
「水素とCNGとを混ぜる形で燃焼させることができるバーナーで焚いた熱風でコーヒー豆の焙煎をする、焙煎されたコーヒー豆の製造方法であって、上記バーナーの燃料として水素のみを用いるか、又は水素及びCNGを用いる、製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「水素とCNGとを混ぜる形で燃焼させることができるバーナー」は、本件特許発明1の「水素混焼バーナ」に相当し、甲1発明の「焙煎されたコーヒー豆の製造方法」は、本件特許発明1の「コーヒー豆焙煎製造方法」に相当し、甲1発明は「バーナーの燃料として水素のみを用いるか、又は水素及びCNGを用いる」ものであるから、本件特許発明1の「水素混焼バーナの燃料として水素ガスを用い」という発明特定事項を満たすといえる。
そうすると、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「水素混焼バーナで発生した熱風でコーヒー豆の焙煎をするコーヒー豆焙煎製造方法であって、前記水素混焼バーナの燃料として水素ガスを用いる、コーヒー豆焙煎製造方法。」
そして、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は「焙煎開始の熱風温度が少なくとも450℃となるように、前記水素混焼バーナの火力を制御する制御ステップを含む」ものであるのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下「本件特許の発明の詳細な説明」という。)の【0047】には、「水素バーナで得られる熱風は、同じ熱量の天然ガスバーナで得られる熱風より、天然ガス比で約2倍の過熱水蒸気を含み、過熱水蒸気の影響をより強く受ける」こと、「過熱水蒸気は被加熱物との温度差で冷やされて水に戻ろうとする時に発生する「凝縮熱」が大きなエネルギーを持ち、熱伝導性にも優れた性質を持つ」こと及び「実施例では比較例よりも、焙煎初期の水抜(乾燥)工程の進行を早くでき、このことが寄与して、味覚形成時間が長くとれ、異なる味覚を作ることができたと考えられる」ことが記載されている。
また、乙1には、焙煎色と焙煎時間を変えて、コーヒーの官能品質がどのように変化するかについて、焙煎色の方が各種官能品質との相関が高いこと(乙1の8頁表4)、時間的要素の中ではデベロップメントタイムが最も強い影響を示したこと(同上)、が記載されており、乙2には、ファーストクラックに至るまでの初期焙煎段階及び焙煎度を統一し、ファーストクラックから焙煎終了までの時間(デベロップメントタイム)のみを変更した際の、コーヒーの化学組成及び官能プロファイルの変化について、短いデベロップメントタイムは果実味・甘味・酸味を増加させる一方、長いデベロップメントタイムはロースト感・ナッツ/チョコ感・苦味を増加させることが記載されている(乙2の1頁要旨、3頁図1、6頁表1)。そうすると、コーヒー豆を焙煎する際に、ファーストクラックから焙煎終了までの時間(デベロップメントタイム)が味覚形成に強い影響を与えることが、本願出願時の技術常識であったといえる。
乙1及び乙2が示す技術常識を踏まえると、本件特許の発明の詳細な説明の【0047】に記載された「実施例では比較例よりも、焙煎初期の水抜(乾燥)工程の進行を早くでき、このことが寄与して、味覚形成時間が長くとれ、異なる味覚を作ることができたと考えられる」という記載は、実施例では、水素を燃料として焙煎開始の熱風温度を450℃とすることにより、焙煎初期の水抜(乾燥)工程が天然ガスを燃料とした場合と比して早く進行した結果、味覚形成に強い影響を与えるデベロップメントタイムの開始が早くなるので、異なる味覚を形成できることが判明したことを意味しているといえる。そして、本願の発明の詳細な説明に記載された、水素を燃料として焙煎開始の熱風温度を400℃又は280℃とした比較例2、4、7及び10では、天然ガスを燃料として同じ焙煎開始の熱風温度とした場合と比して、官能評価に有意差が生じていないのであるから、実施例で得られた異なる味覚の形成は、水素を燃料として焙煎開始の熱風温度を450℃以上とすることで初めて得られるものであり、実験を行うことで初めて知り得ることである。
甲1(10:45~12:38)には、水素を使うことで既存の燃料であるLNGとの味覚差があるのか検証することが開示されており、燃料として水素を用いた場合には、従来の炭化水素系燃料バーナによる熱風で焙煎したコーヒー豆と同じ味覚にならない可能性があることが開示されているものの、甲1及び他の証拠をみても、具体的にどのようなメカニズムで味覚差が生じ得るのかは開示されていないし、焙煎開始の熱風温度に着目して450℃以上とすることで初めて官能評価に有意差が生じることは記載も示唆もされていない。
よって、甲1及び他の証拠をみても、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けがあるとはいえず、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書(25-28頁)及び回答書(2-11頁)において、以下の主張をしている。
コーヒー豆の焙煎において目的のコーヒーの味覚を形成することは自明の課題であるし、目的の味覚を形成するためにバーナを制御し熱風の温度を調整することは当業者が当然に行うことである。そして、例えば、甲3(請求項1、【0009】)には、コーヒー飲料の製造方法において、コーヒー豆の焙煎を450℃から520℃の熱風を15分から25分吹き込むことにより、従来と同様に深煎り豆の製造が行える上に、香味の優れたコーヒー飲料を製造することが可能となることが記載されているように、コーヒー豆の焙煎開始の熱風温度として「少なくとも450℃」は、ありふれた温度に過ぎないのであるから、甲1発明において、焙煎開始の熱風温度を少なくとも450℃としてみることは、一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化にすぎない。
また、甲1には「水素を燃料として用いた場合、既存燃料のみを用いたときと比較して、味覚が変わる可能性がある。」ことが開示され、「水素を燃料として用いた場合、排ガス中の水分量が多い。」ことも開示されている。そして、熱風中の水蒸気の含有量は、焙煎プロセスにおける化学反応環境を決定づける重要な因子であり、水蒸気の含有量等の豆周辺の環境が変化すれば、メイラード反応やカラメル化といった味覚を形成する化学反応の進行様態が変化し、焙煎されたコーヒー豆の味覚が異なる結果となることは、当業者にとって当然に予測し得ることであるから、水素燃焼によって味覚が変化するという本件特許の効果は、燃料変更に伴う焙煎環境の変化から予測される当然の結果を述べたに過ぎず、格別の技術的意義を有するものではない。
これに加え、本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例で示された、酸味が強いコーヒー、後味が弱いコーヒー及び苦味が弱いコーヒーは、いずれも必ずしも味覚が優れたコーヒーであるということはできないから、従来とは異なる味覚を作ることができるという本件特許発明1の効果は、甲1発明の奏する効果に対して有利なものということもできない。
本件特許発明1は「コーヒー豆焙煎製造方法」なので、コーヒーの味覚の範疇にある何某かの味覚が形成されることは当然想定されることであり、特許権者が主張する味覚はコーヒーの味覚の範疇にあるので、当業者が当然想定する結果に過ぎない。さらに、甲7ないし14に示されるように、コーヒーの味覚についての嗜好は各人で異なり多様であるから、コーヒーの味覚は一概に優劣をつけられるものではないので、本件特許発明1により得られたとする味覚が、コーヒーの味覚の範疇にある何某かの味に過ぎない以上、優れた味覚であるとはいえない。
(イ)当審の判断
甲1には450℃という特定の温度の着目する動機となる開示はなく、また、コーヒー豆の焙煎開始の熱風温度を「少なくとも450℃」とすることが甲3に記載されているとしても、甲1には「既存燃料と比較して発熱量が少ないこと、排ガス中の水分量が多いこと等々、水素由来の課題がいろいろとございます。」という、既存燃料との違いも開示されているから、甲3に記載された熱風温度を甲1において採用する動機があったとはいえず、さらに、他の証拠をみても、甲1発明においてこの温度を採用する動機付けとなる記載を見いだすことができない。そして、水素を燃料とした場合に、熱風中の水蒸気の含有量の変化に伴い、豆周辺の環境が変化し、メイラード反応やカラメル化といった味覚を形成する化学反応の進行様態が変化する可能性があることを当業者が予測し得たとしても、水素を熱源として焙煎開始の熱風温度を400℃又は280℃とした比較例2、4、7及び10では、異なる味覚が得られていないのであるから、水素を熱源として焙煎開始の熱風温度を450℃とすることにより、味覚が変化するという本件特許の効果は、当業者の予測を超える顕著な効果であるといえる。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
エ 本件特許発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件特許発明2と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1において相違し、相違点1についての判断は、上記(2)と同様である。
よって、本件特許発明2は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)取消理由及び申立理由1(甲1を主たる証拠とする進歩性)についてのまとめ
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取消理由及び申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(明確性)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件の判断
特許異議申立人は特許異議申立書(32-39頁)において、上記第3 2の主張をしているので、検討する。
ア 混焼について
請求項1には「燃料として水素ガスを用い」と記載されており、水素ガスのみを用いるとは記載されていないので、他の燃料と併用してもよいことは明らかであり、請求項1の記載自体は明確である。そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0013】、【0023】及び【0033】等の記載とも矛盾しない。
よって、請求項1の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
イ 焙煎豆温度その1
請求項2には「焙煎豆温度」と記載されており、請求項2の記載自体は明確である。そして、コーヒー豆を焙煎する際に、焙煎豆の温度を直接測定する代わりに焙煎釜の内部の温度を測定することにより焙煎豆の温度を推定することは、一般的に行われていることであり、発明の詳細な説明の記載とも矛盾しないから、当業者の出願時における技術常識を参酌すれば、請求項2の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)申立理由2(明確性)についてのまとめ
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
よって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、また、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載を要する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明及び図面には、「本発明は、コーヒー豆焙煎装置およびコーヒー豆焙煎製造方法に関する。」との記載(【0001】)があり、コーヒー豆焙煎装置に関する記載(【0021】~【0032】、【図1】)があり、水素混焼バーナに関する記載(【0023】~【0024】、【0028】~【0030】、【図2】、【図3】)があり、水素混焼バーナの火力の制御に関する記載(【0030】~【0032】)があり、水素混焼バーナで発生した熱風でコーヒー豆を焙煎した具体的な実施例の記載(【0034】~【0047】)もある。
これらの記載からみると、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1及び2において特定される「コーヒー豆焙煎製造方法」についての具体的な記載があるといえるから、本件特許発明1及び2に関し、本件特許の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たすといえる。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は特許異議申立書(32-39頁)において、上記第3 3の主張をしているので、検討する。
ア 焙煎条件について
コーヒー豆を焙煎する際に、焙煎するコーヒー豆の量、焙煎するコーヒー豆の含水率、コーヒー豆のサイズ及び焙煎を行う容器のサイズ等に応じて、焙煎条件を調整することは、当業者が通常行うことであり、本件特許の発明の詳細な説明に具体的な条件が記載されていないとしても、当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明を実施することができるといえる。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
イ 焙煎豆温度その1及びその2
請求項2に記載された「焙煎豆温度」という用語は、当業者であれば出願時における技術常識を参酌すれば理解できるものであるから、請求項2に記載された「焙煎開始において焙煎豆温度が180℃超えて~240℃の間で最大値を取るようにし」という記載の意味も理解できるといえる。そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0035】には「焙煎豆温度は、焙煎中の豆に直接接触して測定した温度である」と記載されているのであるから、実施例におけるその測定方法も明らかであり、本件特許の図4に正確な温度の記載がないとしても、実施例を再現できないとまではいえず、焙煎開始における焙煎豆温度を請求項2に記載された範囲とするために、当業者が過度の試行錯誤を要するとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
ウ 前処理
本件特許の発明の詳細な説明の【0007】には「従来の炭化水素系燃料バーナによる熱風温度と同等の熱風温度にてコーヒー豆を焙煎し、異なる味覚を作ることができる、コーヒー豆焙煎装置およびコーヒー豆焙煎方法を提供する」と記載されており、「焙煎開始」における「焙煎豆温度」という用語の意味する温度も、従来の焙煎において当業者が理解する用語の意味する温度と同じと解される。そうすると、従来と同等の熱風温度で焙煎すれば「焙煎開始において焙煎豆温度が180℃超えて~240℃の間で最大値を取るように」できるといえるから、前処理が必ず必要であるという特許異議申立人の主張は失当である。また、仮に前処理が必要であるとしても、本願出願時の技術常識を参酌すれば、当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく焙煎豆温度を上昇させ、本件特許発明を実施することができるといえる。
(4)申立理由3(実施可能要件)についてのまとめ
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
3 申立理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許の発明の詳細な説明の【0007】の記載からみて、本件特許発明1及び2が解決しようとする課題は「従来の炭化水素系燃料バーナによる熱風温度と同等の熱風温度にてコーヒー豆を焙煎し、異なる味覚を作ることができる、コーヒー豆焙煎装置およびコーヒー豆焙煎方法を提供する」ことであると認められる(以下、「本発明の課題」という。)。
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明及び図面には、「本発明の水素混焼バーナによる高温焙煎期間は、従来の炭化水素系燃料系バーナによる高温焙煎期間と同じであっても、異なる味覚を実現できる」ことが記載され(【0012】)、水素混焼バーナの具体的な構造について記載され(【0023】~【0024】、【図2】)、所望の焙煎豆温度プロファイルに対応するように水素混焼バーナの火力を制御する方法が記載され(【0026】~【0032】、【図3】、【図4】)、水素混焼バーナで得られる熱風は、同じ熱量の天然ガスバーナで得られる熱風より、天然ガス比で約2倍の過熱水蒸気を含み、焙煎初期の水抜(乾燥)工程の進行が早くでき、味覚形成時間が長く取れ、異なる味覚を作ることができたと考えられることが記載され(【0047】)、【0034】~【0046】に記載された実施例及び比較例には、熱源として水素100%を使用し、焙煎初期の熱風温度450℃で中炒り、浅炒り又は深炒りした実施例1ないし3のコーヒー豆と、熱源として天然ガス100%を使用し、焙煎初期の熱風温度450℃で中炒り、浅炒り又は深炒りした比較例1、6、9のコーヒー豆とでは、官能評価において、それぞれ、酸味、後味、苦味について有意の差が得られたことが記載されており、焙煎初期の熱風温度を400℃又は280℃として同様に中炒り、浅炒り又は深炒りした比較例2ないし5、7,8、10及び11のコーヒー豆では、官能評価において熱源の違いによる有意の差がなかったことが記載されている。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明及び図面の記載から、水素混焼バーナで発生した熱風でコーヒー豆の焙煎をするコーヒー豆焙煎製造方法において、水素混焼バーナの燃料として水素ガスを用い、焙煎開始の熱風温度が少なくとも450℃となるように、前記水素混焼バーナの火力を制御すれば、熱風中の過熱水蒸気の作用により、本発明の課題を解決できると当業者は認識する。
そして、本件特許発明1は、上記発明特定事項をすべて満たすものであるから、発明の詳細な説明の記載から当業者が本発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明及び図面の上記記載並びに出願時の技術常識を踏まえれば、当業者は、本件特許発明1が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる。本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである本件特許発明2についても同様である。
よって、本件特許発明1及び2に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は特許異議申立書(32-39頁)において、上記第3 4の主張をしているので、検討する。
ア 混焼について
本件特許の発明の詳細な説明の【0047】には、水素混焼バーナで得られる熱風は、同じ熱量の天然ガスバーナで得られる熱風より、天然ガス比で約2倍の過熱水蒸気を含み、焙煎初期の水抜(乾燥)工程の進行が早くでき、味覚形成時間が長く取れ、異なる味覚を作ることができたと考えられることが記載されており、燃料ガスの一部であったとしても、水素ガスを用いれば程度の差こそあれ同様の効果が得られると当業者は認識する。したがって、対応する実施例がないことをもって、サポート要件を充足しないとする特許異議申立人の主張は採用することができない。
イ 焙煎開始の熱風温度
本件特許の発明の詳細な説明の【0047】の記載並びに【0034】~【0046】に記載された実施例及び比較例において、焙煎初期の熱風温度を450℃とした場合には、官能評価において熱源の違いによる有意の差が生じ、焙煎初期の熱風温度を400℃又は280℃とした場合には、官能評価において熱源の違いによる有意の差がなかったことが示されているので、焙煎初期の熱風温度を少なくとも450℃とすれば、熱源の違いにより異なる味覚を作ることができると当業者は認識する。そして、本件特許発明は「従来の炭化水素系燃料バーナによる熱風温度と同等の熱風温度にてコーヒー豆を焙煎し、異なる味覚を作ること」を課題とする「コーヒー豆焙煎製造方法」の発明であるから(本件特許の発明の詳細な説明の【0007】)、本件特許発明における「焙煎開始の熱風温度」の範囲に、450℃を超え「コーヒー豆の焙煎」に当たらないあらゆる温度が含まれるとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
ウ 熱風温度を450℃以上に維持する時間
当業者は、焙煎開始の熱風温度が少なくとも450℃であれば、その時点で「天然ガス比で約2倍の過熱水蒸気を含み、焙煎初期の水抜(乾燥)工程の進行が早くでき、味覚形成時間が長くとれ、異なる味覚を作ることができ」るという効果が得られるから、その後の温度の上昇及び下降に関わらず、本件特許発明は、発明の課題を解決できると認識することができる。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
エ 焙煎条件
本件特許の発明の詳細な説明の【0047】には、水素混焼バーナで得られる熱風は、同じ熱量の天然ガスバーナで得られる熱風より、天然ガス比で約2倍の過熱水蒸気を含み、焙煎初期の水抜(乾燥)工程の進行が早くでき、味覚形成時間が長く取れ、異なる味覚を作ることができたと考えられることが記載されており、焙煎するコーヒー豆の量、焙煎するコーヒー豆の含水率、コーヒー豆のサイズ及び焙煎を行う容器のサイズ等が異なる場合であっても同じ作用により、当業者であれば課題が解決できると理解する。また、特許異議申立人は、焙煎するコーヒー豆の量、焙煎するコーヒー豆の含水率、コーヒー豆のサイズ及び焙煎を行う容器のサイズ等が異なる場合に、本件特許発明が本発明の課題を解決できないことを示す具体的な証拠を提示するものでもない。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
オ コーヒー豆の種類
エと同様に、本件特許の発明の詳細な説明の【0047】の記載から、コーヒー豆の種類が異なる場合であっても、当業者であれば課題が解決できると理解する。また、特許異議申立人は、コーヒー豆の種類が異なる場合に、本件特許発明が本発明の課題を解決できないことを示す具体的な証拠を提示するものでもない。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
カ 焙煎温度その2
焙煎開始の熱風温度が少なくとも450℃である本件特許発明1がサポート要件を充足することは上記(4)で検討したとおりであり、本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに焙煎開始における焙煎豆温度を限定するものであるから、本件特許発明1と同様の理由によりサポート要件を充足するといえる。
特許異議申立人の主張は、上記(4)の判断に影響するものではない。
(6)申立理由4(サポート要件)についてのまとめ
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700767