特許異議申立
2016-701171
界面活性剤被覆半水石膏およびその製造方法
- 審判番号
- 2016-701171
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-532540
- 登録番号
- 特許第5948334号(P5948334)
- 請求日
- 2016年12月22日
- 審決日
- 2017年11月28日
- 公報発行日
- 2018年02月23日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社トクヤマ
- 【権利者代理人】大島 正孝
- 【権利者代理人】白石 泰三
- 【異議申立人】高橋 昌嗣
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 賢一
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 瀧口 博史
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5948334号発明「界面活性剤被覆半水石膏およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5948334号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第5948334号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5948334号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、2012年8月21日(優先権主張、2011年9月8日、日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成28年6月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人高橋昌嗣により特許異議の申立てがされ、平成29年3月21日付けで取消理由が通知され、平成29年5月22日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年6月29日付けで意見書が提出され、平成29年7月13日付けで取消理由が通知され、平成29年9月14日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年11月10日付けで意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年9月14日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。なお、本件訂正請求により、平成29年5月22日付けの訂正(以下、「先の訂正」という。)の請求は取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された「0.01~1重量部」を、「0.25~1重量部」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に記載された「該界面活性剤被覆半水石膏を300℃まで加熱したとき」を、「該界面活性剤被覆半水石膏を、パージガスを空気とし、パージガス流速100ml(STP)/分且つ昇温速度20℃/分で、300℃まで加熱したとき」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に記載された「40重量%以上である」を、「40重量%以上且つ半水石膏に対し0.2重量%以上でありそして上記界面活性剤がポリオキシアルキレンの硫酸エステルおよびポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種である」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に記載された「0.1~0.6重量部」を、「0.25~0.6重量部」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に記載された「上記界面活性剤が、ポリオキシアルキレンの硫酸エステル、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、グリセリンの脂肪酸エステルおよびポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種である、」を、
「上記ポリオキシアルキレンの硫酸エステルが下記式(S1)
R1O-(CH2CH2O)m-SO3-M+ (S1)
(上記式(S1)において、R1は炭素数12~18のアルキル基であり、M+はアルカリ金属イオンまたは第3級アンモニウムイオンであり、mは2~30の整数である。)
で表される界面活性剤であり、上記ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤が下記式(S2)
R2O-(CH2CH2O)n-H (S2)
(上記式(S2)において、R2は炭素数12~18のアルキル基またはフェニル基であり、nは2~30の整数である。)
で表される界面活性剤である、」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0003】の下から2パラグラフ目、段落【0005】の1パラグラフ目及び9パラグラフ目に記載された「0.01~1重量部」を、「0.25~1重量部」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の段落【0003】の下から2パラグラフ目に記載された「該界面活性剤被覆半水石膏を300℃まで加熱したとき」を、「該界面活性剤被覆半水石膏を、パージガスを空気とし、パージガス流速100ml(STP)/分且つ昇温速度20℃/分で、300℃まで加熱したとき」に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0003】の下から2パラグラフ目に記載された「40重量%以上である」を、「40重量%以上且つ半水石膏に対し0.2重量%以上でありそして上記界面活性剤がポリオキシアルキレンの硫酸エステルおよびポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種である」に訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の段落【0005】の2パラグラフ目に記載された「例えばポリオキシアルキレンの硫酸エステル、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、グリセリンの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤などを挙げることができ、これらのうちから選択される少なくとも1種であることができる。」を、「ポリオキシアルキレンの硫酸エステルおよびポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤のうちから選択される少なくとも1種である。」に訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の段落【0005】の4及び5パラグラフ目の「上記高級脂肪酸のアルカリ金属塩のうちの高級脂肪酸部分の炭素数は、・・・グリセリンモノステアリン酸エステルなどを挙げることができる。」との記載を削除する。
(11)訂正事項11
明細書の段落【0005】の9パラグラフ目に記載された「0.1~0.6重量部」を、「0.25~0.6重量部」に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1及び4について
ア 訂正事項1は、請求項1に記載された「界面活性剤」の「被覆量」を「0.01~1重量部」から「0.25~1重量部」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項4は、請求項2に記載された「界面活性剤」の「被覆量」を「0.1~0.6重量部」から「0.25~0.6重量部」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1及び4に関連する記載として、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の段落【0005】の実施例1には、「界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量は0.25重量%」であることが記載されているから、訂正事項1及び4は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
ウ 訂正事項1及び4は、「界面活性剤」の「被覆量」を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、請求項1に記載された「界面活性剤被覆半水石膏」を「加熱したとき」の条件について、「パージガスを空気とし、パージガス流速100ml(STP)/分且つ昇温速度20℃/分」であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項2に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】には、「界面活性剤被覆半水石膏を300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合」を求めるための「熱重量分析の条件」として、「昇温速度:20℃/分」、「パージガス種類:空気」及び「パージガス流速:100ml(STP)/分」とすることが記載されているから、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
ウ 訂正事項2は、「界面活性剤被覆半水石膏」を「加熱したとき」の条件を特定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、請求項1に記載された「300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合」を「半水石膏に対し0.2重量%以上」に限定し、さらに、「界面活性剤被覆半水石膏」の「界面活性剤」を「ポリオキシアルキレンの硫酸エステルおよびポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種である」ことに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項3に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】の実施例1には、「界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量は0.25重量%」であることが記載され、また、【表1】の「実施例1」には、被覆量が0.25重量%であり、300℃までの残存割合が80%であることが記載されて、界面活性剤の残存割合を半水石膏に対して0.2重量%(=0.25重量%×0.80)であることは記載されている。また、段落【0005】には、「本発明の界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の種類としては、例えばポリオキシアルキレンの硫酸エステル、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、グリセリンの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤などを挙げることができ、これらのうちから選択される少なくとも1種であることができる。」と記載されている。
よって、訂正事項3は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
ウ 訂正事項3は、「界面活性剤」及びその「残存割合」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項5について
ア 訂正事項5は、請求項3に記載された「界面活性剤」を、
「R1O-(CH2CH2O)m-SO3-M+ (S1)
(上記式(S1)において、R1は炭素数12~18のアルキル基であり、M+はアルカリ金属イオンまたは第3級アンモニウムイオンであり、mは2~30の整数である。)」で表される「ポリオキシアルキレンの硫酸エステル」、及び、「R2O-(CH2CH2O)n-H (S2)
(上記式(S2)において、R2は炭素数12~18のアルキル基またはフェニル基であり、nは2~30の整数である。)」で表される「ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項5に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】には、「上記ポリオキシアルキレンの硫酸エステルとしては、ポリオキシエチレンの硫酸エステルが好ましく、例えば下記式(S1)
R1O-(CH2CH2O)m-SO3-M+ (S1)
(上記式(S1)において、R1は炭素数12~18のアルキル基であり、M+はアルカリ金属イオンまたは第3級アンモニウムイオンであり、mは2~30の整数である。)」及び「上記ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が好ましく、例えば下記式(S2)
R2O-(CH2CH2O)n-H (S2)
(上記式(S2)において、R2は炭素数12~18のアルキル基またはフェニル基であり、nは2~30の整数である。)」と記載されているから、訂正事項5は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
ウ 訂正事項5は、「ポリオキシアルキレンの硫酸エステル」及び「ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項6~11について
訂正事項6~11は、訂正事項1~5に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させるための訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項6~11は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項2~6が、訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正事項1~5の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1~6について請求されたものである。また、訂正事項6~11の明細書の訂正は、この一群の請求項の全てについて請求されたものである。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項~第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1~6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
半水石膏100重量部に対して0.25~1重量部の被覆量で界面活性剤が被覆している界面活性剤被覆半水石膏であって、
該界面活性剤被覆半水石膏を、パージガスを空気とし、パージガス流速100ml(STP)/分且つ昇温速度20℃/分で、300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合が加熱前の40重量%以上且つ半水石膏に対し0.2重量%以上でありそして上記界面活性剤がポリオキシアルキレンの硫酸エステルおよびポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、前記界面活性剤被覆半水石膏。
【請求項2】
上記界面活性剤の被覆量が半水石膏100重量部に対して0.25~0.6重量部である、請求項1に記載の界面活性剤被覆半水石膏。
【請求項3】
上記ポリオキシアルキレンの硫酸エステルが下記式(S1)
R1O-(CH2CH2O)m-SO3-M+ (S1)
(上記式(S1)において、R1は炭素数12~18のアルキル基であり、M+はアルカリ金属イオンまたは第3級アンモニウムイオンであり、mは2~30の整数である。)
で表される界面活性剤であり、上記ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤が下記式(S2)
R2O-(CH2CH2O)n-H (S2)
(上記式(S2)において、R2は炭素数12~18のアルキル基またはフェニル基であり、nは2~30の整数である。)
で表される界面活性剤である、請求項1または2に記載の界面活性剤被覆半水石膏。
【請求項4】
累積細孔容積が0.5mL/g以下である、請求項1または2に記載の界面活性剤被覆半水石膏。
【請求項5】
請求項1に記載の界面活性剤被覆半水石膏の製造方法であって、
少なくとも二水石膏と界面活性剤とを含有する組成物を110~200℃で加熱する工程を経ることを特徴とする、前記方法。
【請求項6】
上記二水石膏が、天然石膏、排煙脱硫石膏および晶析工程を経た回収二水石膏よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の方法。
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、特許異議申立人の申立理由を全て採用し、平成29年3月21日付けの取消理由1~3を通知した。また、先の訂正後の請求項1~6に係る特許に対して、平成29年6月29日付けの意見書の特許異議申立人の主張を踏まえて、平成29年3月21日付けの取消理由4を通知した。そして、これら取消理由1~4の要旨は次のとおりである。
(1)取消理由1
請求項1、2及び5に係る発明は、甲第1号証(米国特許第2460267号明細書)に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、請求項1~6に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証(米国特許第1995963号明細書)及び甲第3号証(特開2010-13304号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(2)取消理由2
請求項1に記載された「該界面活性剤被覆半水石膏を300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合が加熱前の40重量%以上であること」との発明特定事項は、「300℃まで加熱」することの測定条件が特定されていないため、一定の特性を示しているといえないから、請求項1に係る発明は明確でない。よって、請求項1~6に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(3)取消理由3
請求項1~6に係る発明は、界面活性剤の種類、及び、300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合を測定するための昇温条件である昇温速度が特定されていないため、発明の詳細な説明に記載され、当業者が「半水石膏と水とを混合して石膏スラリーとした後、型枠への流し込み作業のために十分な程度に長い誘導時間と、作業効率の観点から十分に短い硬化時間とが両立された半水石膏を提供する」(段落【0003】)との課題を解決できると認識できる範囲のものといえない。よって、請求項1~6に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(4)取消理由4
請求項1~6に係る発明は、半水石膏に強い吸着力で被覆した界面活性剤の量、及び、300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合を測定するための昇温条件であるパージガス雰囲気やパージガス流速が特定されていないため、発明の詳細な説明に記載され、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえない。よって、請求項1~6に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3 甲号証について
(1)甲第1号証(米国特許第2460267号明細書)の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「A process of producing plaster of Paris comprising mixing ground gypsum with water and substantially one part per thousand of a water-soluble salt of a water-insoluble fatty acid having in its molecule only one carboxyl group, heating the mixture thus obtained with agitation in a closed vessel at a temperature between 125℃. and 160℃. until the gypsum is converted into plaster of Paris consisting mainly of hemihydrate crystals of squat shape, the proportion of water being sufficient to maintain a liquid phase throughout the treatment.」(請求項1、当審仮訳「粉砕石膏と、処理の間液相を維持するのに十分な水と、実質的に0.1%の、分子中にカルボキシル基を1個しか有しない水不溶性脂肪酸の水溶性塩とを混合し、得られた混合物を密閉容器中、撹拌しながら125℃~160℃の温度で、石膏が不規則な形状の半水水和物を主成分とする焼石膏となるまで加熱する半水石膏の製造方法。」)
イ 「Examples of fatty acids which I have used with very good results are palmitic acid, linoleic acid, ricinoleic acid, sulphoricinoleic acid. glycocholic acid and lauroglycoholic acid, each of these contains a single carboxyl group.」(第1頁右欄第9~13行、当審仮訳「良い結果が得られた脂肪酸の例としては、パルミチン酸、リノール酸、リシノール酸、スルホリシノール酸、グリココール酸およびラウログリココール酸が挙げられ、これらはそれぞれ1つのカルボキシル基を含有する。」)
ウ 「The quantity of catalyst required for producing good results is generally not more than 0.1% by weight of the gypsum, and may be substantially less.」(第1頁右欄第14~17行、当審仮訳「良い結果が得られるための触媒の必要な量は通常、石膏に対して0.1重量%を超えず、実質的に少なくてよい。」)
(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記(1)アによれば、粉砕石膏と、十分な水と、分子中にカルボキシル基を1個しか有しない水不溶性脂肪酸の水溶性塩の混合物を、密閉容器中125℃~160℃の温度で加熱することで製造した半水石膏が記載されているといえ、上記(1)ウによれば、1個しか有しない水不溶性脂肪酸は、石膏に対して0.1重量%以下で含有しているといえる。
これら記載を整理すると、甲第1号証には、「粉砕石膏と、十分な水と、分子中にカルボキシル基を1個しか有しない水不溶性脂肪酸の水溶性塩を石膏に対して1重量%以下で混合した混合物を、密閉容器中125℃~160℃の温度で加熱して得られた半水石膏」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
4 取消理由に対する当審の判断
(1)取消理由1(特許法第29条第1項第3号及び第2項)について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は「半水石膏」である点で一致しているが、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明1の「半水石膏」は、「界面活性剤被覆半水石膏」であって、「半水石膏100重量部に対して0.25~1重量部の被覆量で界面活性剤が被覆している」のに対して、甲1発明の「半水石膏」は、その製造工程で「分子中にカルボキシル基を1個しか有しない水不溶性脂肪酸の水溶性塩」を混合することを特定しているものの、「分子中にカルボキシル基を1個しか有しない水不溶性脂肪酸の水溶性塩」が「半水石膏」を被覆していることは明らかでない点。
(相違点2)
本件発明1の「界面活性剤」は、「該界面活性剤被覆半水石膏を、パージガスを空気とし、パージガス流速100ml(STP)/分且つ昇温速度20℃/分で、300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合が加熱前の40重量%以上且つ半水石膏に対して0.2重量%以上」であるのに対して、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。
(相違点3)
本件発明1の「界面活性剤」は、「ポリオキシアルキレンの硫酸エステルおよびポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種である」のに対して、甲1発明は、「分子中にカルボキシル基を1個しか有しない水不溶性脂肪酸の水溶性塩」である点。
そして、上記相違点のうち、少なくとも相違点3は、「界面活性剤」の種類が異なるから、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に記載する発明に該当しない。
次に、本件発明1が甲第1証に記載された発明及び甲第1~3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるかを検討する。
上記相違点3について検討すると、甲第1号証には、上記3(1)イのとおり、「分子中にカルボキシル基を1個しか有しない水不溶性脂肪酸」として「パルミチン酸、リノール酸、リシノール酸、スルホリシノール酸、グリココール酸およびラウログリココール酸」の脂肪酸は例示されているものの、「ポリオキシアルキレンの硫酸エステル」あるいは「ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤」を使用することは記載も示唆もなされていない。
また、甲第2号証及び甲第3号証にも、「界面活性剤被覆半水石膏」の「界面活性剤」として、「ポリオキシアルキレンの硫酸エステル」あるいは「ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤」を使用することは記載も示唆もなされていない。
そうしてみると、甲1発明において、「分子中にカルボキシル基を1個しか有しない水不溶性脂肪酸の水溶性塩」に代えて、「ポリオキシアルキレンの硫酸エステル」あるいは「ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤」を使用することは、甲第1~3号証に記載された技術的事項を参酌しても当業者が容易に想到し得るものでない。
したがって、相違点1及び2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1証に記載された発明及び甲第1~3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえず、その特許が特許法第29条第2項の規定を違反しているといえない。
イ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を減縮するものである。
したがって、本件発明2及び5は、上記アでの検討と同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に記載する発明に該当しない。
また、本件発明2~6は、上記アでの検討と同様に、甲第1証に記載された発明及び甲第1~3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえず、その特許が特許法第29条第2項の規定を違反しているといえない。
(2)取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について
本件発明1の「該界面活性剤被覆半水石膏を、パージガスを空気とし、パージガス流速100ml(STP)/分且つ昇温速度20℃/分で、300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合が加熱前の40重量%以上且つ半水石膏に対して0.2重量%以上であ」るとの発明特定事項は、「界面活性剤の残存割合」を測定するための条件が特定され、「界面活性剤被覆半水石膏」の一定の特性を示しているといえるから、本件発明1は明確である。
本件発明1を引用する本件発明2~6に対しても同様である。
したがって、本件発明1~6は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
(3)取消理由3及び4(特許法第36条第6項第1号)について
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】の記載からみて、発明の解決しようとする課題は、「半水石膏と水とを混合して石膏スラリーとした後、型枠への流し込み作業のために十分な程度に長い誘導時間と、作業効率の観点から十分に短い硬化時間とが両立された半水石膏を提供する」ことといえる。
そして、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであること、すなわち、本件発明1によって、十分な程度に長い誘導時間と、十分に短い硬化時間とが両立された半水石膏を提供できることを、発明の詳細な説明の記載により当業者が認識できる範囲のものであることを要する。
そこで検討するに、発明の詳細な説明の実施例には、300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合を、「使用装置:セイコーインスツル(株)製、TG/DTA6300
昇温速度:20℃/分
パージガス種類:空気
パージガス流速:100mL(STP)/分」(段落【0006】)の条件の熱重量分析で測定することが記載されるとともに、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを0.25重量%で被覆した界面活性剤被覆半水石膏であって、300℃で加熱した場合の界面活性剤の残存割合が80%(半水石膏に対する残存量は0.25重量%×0.8=0.2重量%)である界面活性剤被覆半水石膏(実施例1)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを0.52重量%で被覆した界面活性剤被覆半水石膏であって、同残存割合が86%(半水石膏に対する残存量は0.52重量%×0.86=0.45重量%)である界面活性剤被覆半水石膏(実施例2)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを0.48重量%で被覆した界面活性剤被覆半水石膏であって、同残存割合が81%(半水石膏に対する残存量は0.48重量%×0.81=0.39重量%)である界面活性剤被覆半水石膏(実施例3)、及び、ポリオキシエチレン(2)オレイルエーテルを0.57重量%で被覆した界面活性剤被覆半水石膏であって、同残存割合が85%(半水石膏に対する残存量は0.57重量%×0.85=0.48重量%)である界面活性剤被覆半水石膏(実施例4)が記載され、界面活性剤を被覆しない半水石膏(比較例1,2)、及び、300℃で加熱した場合の残存割合が40%未満(半水石膏に対する残存量が0.2重量%未満)の界面活性剤被覆半水石膏(比較例3,4)と比較して、誘導時間と硬化時間が両立した半水石膏となることが記載されている。
また、化学構造が類似した化合物は、類似の性質を示すとの技術常識を考慮すると、「ポリオキシエチレン」鎖を有する「ポリオキシアルキレンの硫酸エステル」あるいは「ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤」は、実施例に記載された「ポリオキシエチレンラウリルエーテル」、「ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム」及び「ポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル」と類似の性質を有していると認識できる。
そして、このような「ポリオキシアルキレンの硫酸エステル」あるいは「ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤」の被覆量が「半水石膏100重量部に対して0.25~1重量部」であって、実施例に記載された測定条件である「該界面活性剤被覆半水石膏を、パージガスを空気とし、パージガス流速100ml(STP)/分且つ昇温速度20℃/分で、300℃まで加熱」したときの「界面活性剤の残存割合が加熱前の40重量%以上且つ半水石膏に対して0.2重量%以上」であるとの実施例と同様な熱的性質を有していれば、実施例と同様な効果を奏すると認識できる範囲といえる。
そうしてみると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明といえるし、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
本件発明1を引用する本件発明2~6に対しても同様である。
したがって、本件発明1~6は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
イ 特許異議申立人は、実施例で挙げられたポリオキシエチレンラウリルエーテル等の具体的な化合物のどのような構造により、誘導時間と硬化時間を両立させるとの効果が得られるかについて、本件特許明細書に言及されておらず、実施例で挙げられた化合物と構造等が異なる他のポリオキシアルキレンの硫酸エステル及びポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤が同様な効果を奏することは明らかでないから、本件発明1で規定するポリオキシアルキレンの硫酸エステル及びポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤にまで拡張又は一般化できない旨を主張する(平成29年11月10日付け意見書の第3頁第10行~第4頁第15行)。
しかしながら、上記アで検討したとおり、化学構造が類似した化合物は、類似の性質を示すとの技術常識を考慮すると、「ポリオキシエチレン」鎖を有するポリオキシアルキレンの硫酸エステルあるいはポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤が、実施例のポリオキシエチレンラウリルエーテル等の化合物と類似の性質を有していると認識できるし、更に、このようなポリオキシアルキレンの硫酸エステルあるいはポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤を半水石膏に被覆した場合の熱的性質が、実施例と同程度であれば、その効果についても実施例と同程度となると当業者であれば当然に認識できるものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。
5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-701171