特許異議申立
2016-701079
唇用固形化粧料
- 審判番号
- 2016-701079
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-128083外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年11月22日
- 審決日
- 2017年06月21日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5926896号発明「唇用固形化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
1.特許第5926896号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
2.特許第5926896号の請求項1及び3~8に係る特許を維持する。
3.特許第5926896号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5926896号(請求項の数は8、以下「本件特許」という。)は、平成23年6月8日(優先権主張平成22年9月17日)に特許出願され、平成28年4月28日にその特許権の設定登録がされたものである。
その後、特許異議申立人西村英人(以下、単に「異議申立人」という。)より本件特許の請求項1~8に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てがされ、平成29年3月23日付けで取消理由が通知され、同年5月29日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求書が提出されることで特許請求の範囲及び明細書の訂正(以下、「本件訂正」という。)が請求された。
2.本件訂正の可否
(1)訂正の内容
訂正請求書並びにそれに添付された訂正特許請求の範囲及び訂正明細書によれば、特許権者の求める本件訂正の内容は、実質的に以下ア.~ウ.のとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲を、請求項2の削除を含め、以下のとおり訂正する。
・本件訂正前
「【請求項1】
(a)モノイソステアリン酸グリセリン、イソステアリルグリセリルエーテル、ポリイソステアリン酸ポリグリセリル、水添ポリイソブテン、テトラ(エチルヘキサン酸/安息香酸)ペンタエリスリチル、テトラ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ダイマージリノール酸エステル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルから選択される、密着油 6~25質量%と、
(b)メチルフェニルシリコーン、テトラ(安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ジメチルポリシロキサン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、フッ素変性メチルフェニルポリシロキサン、トリエチルヘキサノインから選択される、該密着油より粘性が低いしみ出し油 40~70質量%と、
(c)カルナバロウ、キャンデリラロウ、ポリエチレンワックス、ビースワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、固形パラフィン、モクロウから選択される、少なくとも該しみ出し油と混合した時に、90℃で分散され25℃で固化するワックスと、を含み、
(a)と(b)を25℃で混合した時に分離し、
(b)しみ出し油中に(a)密着油が分散していることを特徴とする唇用固形化粧料。
【請求項2】
請求項1に記載の化粧料において、(a)と(b)が90℃で均一に分散していることを特徴とする唇用固形化粧料。
【請求項3】
請求項2に記載の化粧料において、・・・。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の化粧料において、・・・。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の化粧料において、・・・。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の化粧料において、、・・・。
【請求項7】
請求項6に記載の化粧料において、、・・・。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の化粧料において、、・・・。」
・本件訂正後
「【請求項1】
(a)モノイソステアリン酸グリセリン、イソステアリルグリセリルエーテル、ポリイソステアリン酸ポリグリセリル、水添ポリイソブテン、テトラ(エチルヘキサン酸/安息香酸)ペンタエリスリチル、テトラ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ダイマージリノール酸エステル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルから選択される、密着油 6~25質量%と、
(b)メチルフェニルシリコーン、テトラ(安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ジメチルポリシロキサン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、フッ素変性メチルフェニルポリシロキサン、トリエチルヘキサノインから選択される、該密着油より粘性が低いしみ出し油 40~70質量%と、
(c)カルナバロウ、キャンデリラロウ、ポリエチレンワックス、ビースワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、固形パラフィン、モクロウから選択される、少なくとも該しみ出し油と混合した時に、90℃で分散され25℃で固化するワックスと、を含み、
(a)と(b)を25℃で混合した時に分離し、
(a)と(b)が90℃で均一に分散し、
(b)しみ出し油中に(a)密着油が分散していることを特徴とする唇用固形化粧料。
【請求項2】
【請求項3】
請求項1に記載の化粧料において、・・・。
【請求項4】
請求項1または3のいずれかに記載の化粧料において、・・・。
【請求項5】
請求項1、3、4のいずれかに記載の化粧料において、・・・。
【請求項6】
請求項1、3~5のいずれかに記載の化粧料において、・・・。
【請求項7】
請求項6に記載の化粧料において、・・・。
【請求項8】
請求項1、3~7のいずれかに記載の化粧料において、・・・。」
イ.訂正事項2
明細書の段落【0006】を、以下のとおり訂正する。
・訂正前
「すなわち、本発明にかかる唇用固形化粧料は、・・・を含み、
(a)と(b)を25℃で混合した時に分離し、
(b)しみ出し油中に(a)密着油が分散していることを特徴とする。」
・訂正後
「すなわち、本発明にかかる唇用固形化粧料は、・・・を含み、
(a)と(b)を25℃で混合した時に分離し、
(a)と(b)が90℃で均一に分散し、
(b)しみ出し油中に(a)密着油が分散していることを特徴とする。」
ウ.訂正事項3
明細書の段落【0007】を、以下のとおり訂正する。
・訂正前
「前記化粧料において、(a)と(b)が90℃で均一に分散していることが好適である。
前記化粧料において、(d)・・・」
・訂正後
「前記化粧料において、(d)・・・」
(2)本件訂正の可否についての判断
ア.訂正事項1について
(ア)請求項1についての訂正
この訂正は、請求項1に係る発明である「唇用固形化粧料」を特定するための事項として、「(a)と(b)が90℃で均一に分散し、」なる要件を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。また、上記要件は願書に添付した特許請求の範囲の請求項2や、同明細書の段落【0008】に記載されており、この訂正は新規事項の追加に該当しない。そして、この訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(イ)請求項2についての訂正
この訂正は、請求項の記載を削除する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。また、この訂正が新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(ウ)請求項3~8についての訂正
この訂正は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~8について、実質的に請求項1についての訂正と同様に訂正するとともに、請求項2の記載を削除するのに伴い、その引用関係を整理するものである。そして、上記(ア)及び(イ)にて指摘したとおり、請求項1及び2についての訂正は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、この訂正についても、実質的に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。また、この訂正が新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(エ)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~8は、請求項2~8が請求項1の記載を直接又は間接的に引用しているから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものであるといえる。
イ.訂正事項2、3について
この訂正は、明細書の段落【0006】及び【0007】の記載について、特許請求の範囲の記載との整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。また、この訂正が新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。
ウ.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合する。
よって、結論1.のとおり、本件訂正を認める。
エ.補足
本件訂正後の請求項1が、実質的に訂正前の請求項2と同じ内容であることからすれば、本件訂正のうち、特許請求の範囲についての訂正は、請求項1を削除する訂正に等しいといえる。そうすると、本件訂正後の請求項の内容について、改めて特許異議申立人に意見を聞くまでもないことは明らかである。
したがって、当合議体は、本件訂正について、特許法第120条の5第5項に規定される「特別な事情」があると判断し、異議申立人に意見書を提出する機会を与えることなく以下審理を行ったところ、念のため付言する。
3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
上記2.で検討のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1及び3~8に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明3」~「本件発明8」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び3~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、請求項3~8の記載は省略する。)。
「【請求項1】
(a)モノイソステアリン酸グリセリン、イソステアリルグリセリルエーテル、ポリイソステアリン酸ポリグリセリル、水添ポリイソブテン、テトラ(エチルヘキサン酸/安息香酸)ペンタエリスリチル、テトラ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ダイマージリノール酸エステル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルから選択される、密着油 6~25質量%と、
(b)メチルフェニルシリコーン、テトラ(安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ジメチルポリシロキサン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、フッ素変性メチルフェニルポリシロキサン、トリエチルヘキサノインから選択される、該密着油より粘性が低いしみ出し油 40~70質量%と、
(c)カルナバロウ、キャンデリラロウ、ポリエチレンワックス、ビースワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、固形パラフィン、モクロウから選択される、少なくとも該しみ出し油と混合した時に、90℃で分散され25℃で固化するワックスと、を含み、
(a)と(b)を25℃で混合した時に分離し、
(a)と(b)が90℃で均一に分散し、
(b)しみ出し油中に(a)密着油が分散していることを特徴とする唇用固形化粧料。」
(2)当審による取消理由について
ア.取消理由の概要
平成29年3月23日付け取消理由の内容は、概略、以下のとおりである。
「理由1(特許法第36条第6項第2号)について
(1)本件特許明細書中において、「分離」の定義が一つに定まっているとはいえないため、本件発明1~8は明確でない。
(2)本件特許明細書中において、「分散」の定義が一つに定まっているとはいえないため、本件発明2~8は明確でない。
理由2(特許法第36条第6項第1号)について
本件発明は「塗布直後より二次付着レス効果に優れ、安定性も良好な唇用固形化粧料を提供すること」を解決課題とするものであるのに対し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の発明特定事項を満たすと思われる試験例1-3の口紅について(【0061】【表1】)、安定性は「×」、二次付着レス効果は「-」との評価が示されているのであるから、本件発明1では、上記課題が解決できないことは明らかであり、本件発明1~8は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」
イ.理由1(特許法第36条第6項第2号)についての当審の判断
以下(ア)及び(イ)で述べるとおり、本件発明1及びこれらを引用する本件発明3~8は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものである。
(ア) 「分離」の定義について
本件特許の明細書【0016】段落には、「(a)と(b)を、(a):(b)=1:1(質量比)で用いて、90℃に加温し、攪拌混合し、次いで静置し、混合物が25℃になった場合に、境界が均一に2層に分離しているものを「分離する」とし、半透明な状態、または、境界がなく透明な相溶した状態を「分離せず」とした。」と記載されており、この記載に基づくと、「分離」しているか否かの判断は、(a)成分と(b)成分のみを25℃で混合した時の状態に基づいて解釈されるべきものといえる。そして、本件発明1における「(a)と(b)を25℃で混合した時に分離し」との規定においても、「25℃で混合した時に」との条件が設けられていることから、同様の解釈が導かれる。
よって、本願発明1における「分離」の定義は明確である。
なお、上記の解釈は、平成29年5月29日付け意見書における、「本願請求項1における「分離」の定義は、本願明細書段落0016に記載の通りです。」(第4頁第23~24行参照)との特許権者の主張とも整合する。
(イ)「分散」の定義について
本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項2には「請求項1に記載の化粧料において、(a)と(b)が90℃で均一に分散していることを特徴とする唇用固形化粧料。」と記載され、同明細書の段落【0007】には、「前記化粧料において、(a)と(b)が90℃で均一に分散していることが好適である。」と記載されている。これらの記載に基づくと、「分散」しているか否かの判断は、他の成分が含有され得る「唇用固形化粧料」における(a)と(b)の状態に基づいて解釈されるべきものといえる。
よって、本願発明1における「分散」の定義は明確である。
なお、上記の解釈は、本件訂正の訂正請求書における、「訂正前の請求項2の発明特定事項・・・を請求項1に組み入れるものである」との特許権者の主張とも整合する。
ウ.理由2(特許法第36条第6項第1号)についての当審の判断
本件訂正によって、本件発明1に「(a)と(b)が90℃で均一に分散し、」なる要件が追加され、これによって、試験例1-3の口紅(段落【0061】の【表1】参照)は、本件発明1の範囲に含まれないものとなった。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
よって、本件発明1及びこれらを引用する本件発明3~8は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。
(3)異議申立理由について
ア.異議申立理由の概要
異議申立人の主張する異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
○申立理由1
本件発明1-8は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
○申立理由2
本件発明1、2、4~7は、甲第2号証に記載された発明と実質的に同一であり、それらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
○申立理由3
本件発明1-8は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
○申立理由4
本件発明1~8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号又は同第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。
甲第1号証:特開2009-280570号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2001-199846号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2006-022015号公報(以下「甲3」という。)
イ.当合議体の判断
当合議体は、以下に述べるとおり、上記申立理由1~4にはいずれも理由がないと判断する。
(ア)申立理由1について
A.本件発明1について
a.甲1に記載された発明
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲1には、「セレシンを12.0重量%、カルナウバワックスを1.0重量%、水添ポリイソブテンを20.0重量%、フェニルトリメチコンを20.0重量%含有する、口紅」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(実施例11(段落【0035】)参照)。
b.対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者における「水添ポリイソブテン」は前者における「(a)モノイソステアリン酸グリセリン、イソステアリルグリセリルエーテル、ポリイソステアリン酸ポリグリセリル、水添ポリイソブテン、テトラ(エチルヘキサン酸/安息香酸)ペンタエリスリチル、テトラ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ダイマージリノール酸エステル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルから選択される、密着油」に、後者における「フェニルトリメチコン」は前者における「(b)メチルフェニルシリコーン、テトラ(安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ジメチルポリシロキサン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、フッ素変性メチルフェニルポリシロキサン、トリエチルヘキサノインから選択される、該密着油より粘性が低いしみ出し油」に、後者における「セレシン」及び「カルナウバワックス」は前者における「(c)カルナバロウ、キャンデリラロウ、ポリエチレンワックス、ビースワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、固形パラフィン、モクロウから選択される、少なくとも該しみ出し油と混合した時に、90℃で分散され25℃で固化するワックス」に、後者における「口紅」は前者における「唇用固形化粧料」に、それぞれ相当するものと認められる。また、上記(a)成分の含有量について、後者における「20.0重量%」は前者における「6~25質量%」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致及び相違する。
<一致点>
「(a)モノイソステアリン酸グリセリン、イソステアリルグリセリルエーテル、ポリイソステアリン酸ポリグリセリル、水添ポリイソブテン、テトラ(エチルヘキサン酸/安息香酸)ペンタエリスリチル、テトラ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ダイマージリノール酸エステル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルから選択される、密着油 6~25質量%と、
(b)メチルフェニルシリコーン、テトラ(安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ジメチルポリシロキサン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、フッ素変性メチルフェニルポリシロキサン、トリエチルヘキサノインから選択される、該密着油より粘性が低いしみ出し油と、
(c)カルナバロウ、キャンデリラロウ、ポリエチレンワックス、ビースワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、固形パラフィン、モクロウから選択される、少なくとも該しみ出し油と混合した時に、90℃で分散され25℃で固化するワックスと、を含む、唇用固形化粧料。」
<相違点>
相違点1:
本件発明1においては、(i)「(a)と(b)を25℃で混合した時に分離」すること、(ii)「(a)と(b)が90℃で均一に分散」すること、及び(iii)「(b)しみ出し油中に(a)密着油が分散している」ことが特定されているのに対し、甲1発明ではそのことが特定されていない点。
相違点2:
(b)成分の含有量について、本件発明1においては、「40~70質量%」であることが特定されているのに対し、甲1発明では「20.0重量%」である点。
c.相違点についての判断
上記相違点1に関し、本件特許の明細書には、上記(i)と(ii)の要件を同時に満たす場合に優れた安定性と二次付着レス効果が奏されること(試験例1-3及び1-4(段落【0061】の【表1】)参照)、及び、上記(iii)の要件を満たす場合に、そうでない場合よりも優れた二次付着レス効果が奏されること(試験例3-3~3-8(段落【0078】の【表4】)参照)、が具体的な試験結果を伴って記載されている。
他方、甲1及び甲3には、(a)成分に相当する「水添ポリイソブテン」と、(b)成分に相当する「フェニルトリメチコン」の分離・分散状態についての記載はなく、また、上記(i)~(iii)の要件を満たすことによって安定性や二次付着レス効果を向上させ得ることについて、そのことを明示ないし示唆するような記載も見受けられない。
そうすると、甲1発明において、上記(i)~(iii)の要件を満たそうとする動機はなく、他方、本件発明1は、これらの要件を満たすことによって、優れた効果を奏するものであるから、上記相違点1が想到容易であるということはできない。
異議申立人はこの点に関し、「単に甲1発明において具体的に記載されていない性質を明記したものにすぎず、同様の成分を使用している以上は、甲1発明においても各成分は本件特許発明1と同様の性質を有すると考えるべきものである。」と主張している。
しかしながら、本件特許の試験例1-3(段落【0061】の【表1】)参照)には、本件発明1において規定される量の(a)~(c)成分を含んでいても、(ii)「(a)と(b)が90℃で均一に分散」の要件を満たさない試験結果が示されているところ、この記載からも明らかなように、本件発明1と同様の成分が使用されていても、上記(i)~(iii)の要件を満たすとは限らないものと認められる。そして、甲1発明が上記(i)~(iii)の要件を満たすと認めるに足る証拠はなく、異議申立人の上記主張を採用することはできない。
さらに、相違点2について、甲1発明において、(b)成分に相当する「フェニルトリメチコン」は任意成分として配合されており、この成分の配合量を増加させようとする積極的な動機があったとも認められない。
d.小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1及び甲3に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
B.本件発明3~8について
請求項3~8の記載は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして、本件発明1が、甲1及び甲3から想到容易であるということができないことは上述のとおりであるから、本件発明3~8も同様の理由により、想到容易であるということはできない。
C.まとめ
以上のとおりであるから,異議申立人が主張する申立理由1には理由がない。
(イ)申立理由2について
A.本件発明1について
a.甲2に記載された発明
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲2には、「水素化ポリイソブテンを11.15重量%、マイクロクリスタリンワックスを7.63重量%、及びフェニルトリメチコーン(1000cSt)を41.21重量%含有する、口紅」の発明(以下「甲2-1発明」という。)が記載されていると認められる(実施例2(段落【0050】)参照)。
b.対比
本件発明1と甲2-1発明とを対比すると、後者における「水素化ポリイソブテン」は前者における「(a)モノイソステアリン酸グリセリン、イソステアリルグリセリルエーテル、ポリイソステアリン酸ポリグリセリル、水添ポリイソブテン、テトラ(エチルヘキサン酸/安息香酸)ペンタエリスリチル、テトラ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ダイマージリノール酸エステル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルから選択される、密着油」に、後者における「フェニルトリメチコーン(1000cSt)」は前者における「(b)メチルフェニルシリコーン、テトラ(安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ジメチルポリシロキサン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、フッ素変性メチルフェニルポリシロキサン、トリエチルヘキサノインから選択される、該密着油より粘性が低いしみ出し油」に、後者における「マイクロクリスタリンワックス」は前者における「(c)カルナバロウ、キャンデリラロウ、ポリエチレンワックス、ビースワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、固形パラフィン、モクロウから選択される、少なくとも該しみ出し油と混合した時に、90℃で分散され25℃で固化するワックス」に、後者における「口紅」は前者における「唇用固形化粧料」に、それぞれ相当するものと認められる。また、上記(a)成分の含有量について、後者における「11.15重量%」は前者における「6~25質量%」に相当し、上記(b)成分の含有量について、後者における「41.21重量%」は前者における「40~70質量%」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2-1発明は、以下の点で一致及び相違する。
<一致点>
「(a)モノイソステアリン酸グリセリン、イソステアリルグリセリルエーテル、ポリイソステアリン酸ポリグリセリル、水添ポリイソブテン、テトラ(エチルヘキサン酸/安息香酸)ペンタエリスリチル、テトラ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ダイマージリノール酸エステル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルから選択される、密着油 6~25質量%と、
(b)メチルフェニルシリコーン、テトラ(安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ジメチルポリシロキサン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、フッ素変性メチルフェニルポリシロキサン、トリエチルヘキサノインから選択される、該密着油より粘性が低いしみ出し油 40~70質量%と、
(c)カルナバロウ、キャンデリラロウ、ポリエチレンワックス、ビースワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、固形パラフィン、モクロウから選択される、少なくとも該しみ出し油と混合した時に、90℃で分散され25℃で固化するワックスと、を含む、唇用固形化粧料。」
<相違点>
相違点:
本件発明1においては、(i)「(a)と(b)を25℃で混合した時に分離」すること、(ii)「(a)と(b)が90℃で均一に分散」すること、及び(iii)「(b)しみ出し油中に(a)密着油が分散している」ことが特定されているのに対し、甲2-1発明ではそのことが特定されていない点。
c.相違点についての判断
甲2には、(a)成分に相当する「水素化ポリイソブテン」と、(b)成分に相当する「フェニルトリメチコーン(1000cSt)」の分離・分散状態について、記載も示唆もされていない。また、甲2-1発明において、これらの成分が上記(i)~(iii)の要件を満たすことが、本件特許の優先日時点の技術常識からみて、記載されているに等しい事項であったとも認められない。
異議申立人はこの点に関し、「単に甲2発明において具体的に記載されていない性質を明記したものにすぎず、同様の原料を使用している以上は、甲2発明においても本件特許発明1と同様の性質が得られると考えるべきものである。」と主張している。
しかしながら、上記(ア)A.c.で述べたとおり、本件発明1と同様の原料が使用されていても、上記(i)~(iii)の要件を満たすとは限らないものと認められ、そして、甲2-1発明が上記(i)~(iii)の要件を満たすと認めるに足る証拠はなく、異議申立人の上記主張を採用することはできない。
d.小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2-1発明と同一であるということはできない。
B.本件発明4~7について
請求項4~7の記載は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして、本件発明1が、甲2-1発明と同一であるということができないことは上述のとおりであるから、本件発明4~7も同様の理由により、甲2-1発明と同一であるということはできない。
C.まとめ
以上のとおりであるから,異議申立人が主張する申立理由2には理由がない。
(ウ)申立理由3について
A.本件発明1について
a.甲2に記載された発明
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲2には、「水素化ポリイソブテンを11.00重量%、ポリエチレンワックスを10.00重量%、及びフェニルトリメチコーン(1000cSt)を35.00重量%含有する、棒状口紅」の発明(以下「甲2-2発明」という。)が記載されていると認められる(実施例5(段落【0054】)参照)。
b.対比
本件発明1と甲2-2発明とを対比すると、後者における「水素化ポリイソブテン」は前者における「(a)モノイソステアリン酸グリセリン、イソステアリルグリセリルエーテル、ポリイソステアリン酸ポリグリセリル、水添ポリイソブテン、テトラ(エチルヘキサン酸/安息香酸)ペンタエリスリチル、テトラ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ダイマージリノール酸エステル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルから選択される、密着油」に、後者における「フェニルトリメチコーン(1000cSt)」は前者における「(b)メチルフェニルシリコーン、テトラ(安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ジメチルポリシロキサン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、フッ素変性メチルフェニルポリシロキサン、トリエチルヘキサノインから選択される、該密着油より粘性が低いしみ出し油」に、後者における「ポリエチレンワックス」は前者における「(c)カルナバロウ、キャンデリラロウ、ポリエチレンワックス、ビースワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、固形パラフィン、モクロウから選択される、少なくとも該しみ出し油と混合した時に、90℃で分散され25℃で固化するワックス」に、後者における「棒状口紅」は前者における「唇用固形化粧料」に、それぞれ相当するものと認められる。また、上記(a)成分の含有量について、後者における「11.00重量%」は前者における「6~25質量%」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2-2発明は、以下の点で一致及び相違する。
<一致点>
「(a)モノイソステアリン酸グリセリン、イソステアリルグリセリルエーテル、ポリイソステアリン酸ポリグリセリル、水添ポリイソブテン、テトラ(エチルヘキサン酸/安息香酸)ペンタエリスリチル、テトラ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ダイマージリノール酸エステル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルから選択される、密着油 6~25質量%と、
(b)メチルフェニルシリコーン、テトラ(安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット、ジメチルポリシロキサン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、フッ素変性メチルフェニルポリシロキサン、トリエチルヘキサノインから選択される、該密着油より粘性が低いしみ出し油と、
(c)カルナバロウ、キャンデリラロウ、ポリエチレンワックス、ビースワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、固形パラフィン、モクロウから選択される、少なくとも該しみ出し油と混合した時に、90℃で分散され25℃で固化するワックスと、を含む、唇用固形化粧料。」
<相違点>
相違点1:
本件発明1においては、(i)「(a)と(b)を25℃で混合した時に分離」すること、(ii)「(a)と(b)が90℃で均一に分散」すること、及び(iii)「(b)しみ出し油中に(a)密着油が分散している」ことが特定されているのに対し、甲2-2発明ではそのことが特定されていない点。
相違点2:
(b)成分の含有量について、本件発明1においては、「40~70質量%」であることが特定されているのに対し、甲2-2発明では「35.00重量%」である点。
c.相違点についての判断
上記相違点1に関し、甲2及び甲3には、(a)成分に相当する「水素化ポリイソブテン」と、(b)成分に相当する「フェニルトリメチコーン(1000cSt)」の分離・分散状態についての記載はなく、また、上記(i)~(iii)の要件を満たすことによって安定性や二次付着レス効果を向上させ得ることについて、そのことを明示ないし示唆するような記載も見受けられない。
そうすると、甲2-2発明において、上記(i)~(iii)の要件を満たそうとする動機はなく、他方、上記(ア)A.c.で述べたとおり、本件発明1は、これらの要件を満たすことによって、優れた効果を奏するものであるから、上記相違点1が想到容易であるということはできない。
異議申立人の「単に甲2発明において具体的に記載されていない性質を明記したものにすぎず、同様の原料を使用している以上は、甲2発明においても本件特許発明1と同様の性質が得られると考えるべきものである。」との主張については、上記(イ)A.c.で述べたとおりであり、採用することができない。
d.小括
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2及び甲3に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
B.本件発明3~8について
請求項3~8の記載は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして、本件発明1が、甲2及び甲3から想到容易であるということができないことは上述のとおりであるから、本件発明3~8も同様の理由により、想到容易であるということはできない。
C.まとめ
以上のとおりであるから,異議申立人が主張する申立理由3には理由がない。
(エ)申立理由4について
異議申立人は、概略、以下のような点を指摘して、本件発明が、特許法第36条第4項1号又は同第6項第1号の規定により特許を受けることができない旨主張をしている。
○本件特許の明細書においては、(b)成分として、特定の「メチルフェニルシリコーン」を用いた試験例が記載されているのみであり、性状や性質が大きく異なるその他の「メチルフェニルシリコーン」においても同様の作用・効果が発現すると判断する根拠はない。
○どのようにすれば「(a)と(b)を25℃で混合したときに分離する」との要件を満たすといえるかが明らかにされておらず、当業者が相当の検討を行うことが必要である。
○請求項1において、(a)成分6~25重量%(b)成分40~70重量%という広い範囲において権利を主張しているが、その全範囲において効果が確認されていない。
しかしながら、本件特許の明細書においては、(i)「(a)と(b)を25℃で混合した時に分離」及び(ii)「(a)と(b)が90℃で均一に分散」の要件を同時に満たす場合に優れた安定性と二次付着レス効果が奏されることが、具体的な試験結果を伴って記載されており(試験例1-3及び1-4(段落【0061】の【表1】)参照)、また、そのような効果が奏される理論的根拠も記載されている(段落【0018】参照)。
したがって、本件特許の明細書の実施例において具体的に示された(a)及び(b)成分の組合せ以外のものを用いたとしても、上記(i)及び(ii)の要件を同時に満たす場合には、本件発明と同様の効果が奏されるものと推認される。そして、異議申立書において、そのことを否定し得る根拠が示されているともいえない。
また、本件発明においては、(a)成分及び(b)成分は、それぞれ一定の選択肢から選択されることが特定されていることから、上記(i)及び(ii)の要件を同時に満たす(a)成分と(b)成分の組合せを特定することが、当業者にとって格別困難であるとは認められない。
よって、異議申立人の上記主張を採用することはできず、異議申立人が主張する申立理由4には理由がない。
4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1及び3~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び3~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2に係る特許は訂正により削除されたため、本件特許の請求項2に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-701079