特許異議申立
2016-700941
発光素子の製造方法
- 審判番号
- 2016-700941
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-002758外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年09月30日
- 審決日
- 2017年05月17日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1652.121-YAB(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5898347号発明「発光素子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
平成29年2月7日付け訂正請求において、特許第5898347号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。
特許第5898347号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5898347号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成28年3月11日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人尾田哲之より請求項1に対して特許異議の申立てがされ、同年12月12日付けで取消理由が通知され、平成29年2月7日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年3月10日に特許異議申立人尾田哲之から意見書が提出され、同年3月27日に訂正拒絶理由が通知され、同年4月25日に意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年2月7日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許第5898347号(以下「本件特許」という。)の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1ないし訂正事項4からなる。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記n型層形成工程においては、形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより比抵抗が1.5Ωcm以下の前記n型層を形成する、」と記載されているものを、
「前記n型層形成工程においては、形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより、前記n型層に存在するSi原子の濃度に対するO原子とC原子の濃度の総和の比である総和不純物濃度比を0.8以下とすることによって、比抵抗が1.5Ωcm以下の前記n型層を形成する、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「請求項1に記載の発光素子の製造方法であって、
前記基板が、
単結晶サファイアからなる基材と、
前記基材上にエピタキシャル形成されてなる、AlpGa1-pN(0.8≦p≦1)からなる成長下地層と、
からなり、
前記n型層形成工程においては、前記成長下地層の上に前記成長下地層よりAlモル濃度が低い前記n型層を形成する、
ことを特徴とする発光素子の製造方法。」と記載されているものを、
「発光素子の製造方法であって、
所定の基板の上に第1のIII族窒化物からなるn型層をエピタキシャル形成するn型層形成工程と、
前記n型層の上に、第2のIII族窒化物からなる発光層をエピタキシャル形成する発光層形成工程と、
前記発光層の上に、第3のIII族窒化物からなるp型層をエピタキシャル形成する形成するp型層形成工程と、
を備え、
前記基板が、
単結晶サファイアからなる基材と、
前記基材上にエピタキシャル形成されてなる、AlpGa1-pN(0.8≦p≦1)からなる成長下地層と、
からなり、
前記第1のIII族窒化物が波長が300nm以下の光に対する吸収能を有さない組成範囲のAlxGa1-xN(0≦x≦1)であり、
前記第2のIII族窒化物が紫外領域に発光波長を有する組成範囲のAlyGa1-yN(0≦y≦1)であり、
前記n型層形成工程においては、形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより比抵抗が1.5Ωcm以下であり、前記成長下地層の上に前記成長下地層よりAlモル濃度が低い前記n型層を形成する、
ことを特徴とする発光素子の製造方法。」に訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0008】に「前記n型層形成工程においては、形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより比抵抗が1.5Ωcm以下の前記n型層を形成する、」と記載されているものを、
「前記n型層形成工程においては、形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより、前記n型層に存在するSi原子の濃度に対するO原子とC原子の濃度の総和の比である総和不純物濃度比を0.8以下とすることによって、比抵抗が1.5Ωcm以下の前記n型層を形成する、」に訂正する。
(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0010】に「請求項2の発明は、請求項1に記載の発光素子の製造方法であって、前記基板が、単結晶サファイアからなる基材と、前記基材上にエピタキシャル形成されてなる、AlpGa1-pN(0.8≦p≦1)からなる成長下地層と、からなり、前記n型層形成工程においては、前記成長下地層の上に前記成長下地層よりAlモル濃度が低い前記n型層を形成する、ことを特徴とする。」と記載されているものを、
「請求項2の発明は、発光素子の製造方法であって、所定の基板の上に第1のIII族窒化物からなるn型層をエピタキシャル形成するn型層形成工程と、前記n型層の上に、第2のIII族窒化物からなる発光層をエピタキシャル形成する発光層形成工程と、前記発光層の上に、第3のIII族窒化物からなるp型層をエピタキシャル形成する形成するp型層形成工程と、を備え、前記基板が、単結晶サファイアからなる基材と、前記基材上にエピタキシャル形成されてなる、AlpGa1-pN(0.8≦p≦1)からなる成長下地層と、からなり、前記第1のIII族窒化物が波長が300nm以下の光に対する吸収能を有さない組成範囲のAlxGa1-xN(0≦x≦1)であり、前記第2のIII族窒化物が紫外領域に発光波長を有する組成範囲のAlyGa1-yN(0≦y≦1)であり、前記n型層形成工程においては、形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより比抵抗が1.5Ωcm以下であり、前記成長下地層の上に前記成長下地層よりAlモル濃度が低い前記n型層を形成する、ことを特徴とする。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正後の請求項1の発明特定事項である「前記n型層に存在するSi原子の濃度に対するO原子とC原子の濃度の総和の比である総和不純物濃度比を0.8以下とする」について、本件特許明細書の記載を参酌し、その技術的意味を検討する。
(ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は、当審が付加した。以下同様。)。
a 「【0028】
n型層2の比抵抗には、作製条件によって違いが生じる。本実施の形態においては、MOCVD法を用いる場合に、成長温度を1150℃~1200℃と設定し、成長圧力を10Torr~50Torrとすることが、n型層2の低抵抗化およびキャリア濃度の増加を実現するうえで好適であることが、本発明の発明者によって確認されている。その詳細については後述する。」
b 「【0033】
<n型層の低抵抗化>
次に、上述したn型層2の低抵抗化を実現する好適な作製条件について説明する。図2、図3、図4、および図5はこれを説明するための図である。ここでは、基材1aとしてサファイアを用い、成長下地層1bとしてAlNを形成してなる基板1を用い、MOCVD法によって、種々の条件でn型層2を形成した場合について示す。原料ガスとしては、TMA(トリメチルアルミニウム)、TMG(トリメチルガリウム)、およびNH3を用い、それぞれの毎分の供給流量比が1:1:4000となるように供給している。また、Siドープのためのシランガスは、n型層2中のSi濃度が1×1019/cm2となるように供給している。」
c 「【0036】
図2および図3より、成長温度が1150℃~1200℃の場合に、高いキャリア濃度が得られ、かつ、1.5Ωcm以下という顕著な低抵抗が実現されてなることが確認される。また、図4および図5より、圧力が10Torr~50Torrの範囲で、高いキャリア濃度が得られ、やはり1.0Ωcm以下という低抵抗な状態が実現されてなる。これらより、成長温度を1150℃~1200℃と設定し、成長圧力を10Torr~50Torrとすることが、n型層2の低抵抗化およびキャリア濃度の増加を実現するうえで好適であるといえる。なお、これらの低抵抗な状態のn型層2において、良好な結晶品質が実現されているのは、上述の通りである。」
d 「【0040】
これらを鑑みると、n型層2における比抵抗の大小と、不純物であるO原子とC原子についての総和不純物濃度比との間には、相関があるものと判断される。その一方で、成長条件の変化に対する不純物濃度比の変化の挙動はO原子とC原子とで異なることから、これらを個別に制御するよりもむしろ、総和不純物濃度比を制御することが、n型層2の低抵抗化には有効であるといえる。例えば、総和不純物濃度比が概ね0.8以下であれば、1.5Ωcm以下という、比抵抗が充分に小さいn型層2の形成が実現されることになる。具体的には、上述したように、成長温度が1150℃~1200℃であり、成長圧力が10Torr~50Torrである場合に、係る低比抵抗のn型層2の形成が実現される。」
以上の記載によれば、
「前記n型層に存在するSi原子の濃度に対するO原子とC原子の濃度の総和の比である総和不純物濃度比を0.8以下とする」は、訂正前の「n型層形成工程」に、別途、何らかの「総和不純物濃度比制御工程」を追加することを意味するのではなく、少なくとも、本件特許明細書の【0033】に記載された特定の条件において、「形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより」、自ずと、達成されることであると解される。
以下、この解釈を踏まえて検討する。
(イ)特許請求の範囲の減縮
訂正前の請求項1の「n型層形成工程」は、「形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより比抵抗が1.5Ωcm以下の前記n型層を形成する」ものであるから、総和不純物濃度比を0.8以下とするものである。
そうすると、本件訂正により「前記n型層形成工程においては、形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより、前記n型層に存在するSi原子の濃度に対するO原子とC原子の濃度の総和の比である総和不純物濃度比を0.8以下とすることによって、比抵抗が1.5Ωcm以下の前記n型層を形成する、」に訂正することは、特許請求の範囲を実質的に減縮するものではない。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
(ウ)誤記又は誤訳の訂正
「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものを言い、誤記の存在が必要である。
そこで検討すると、訂正前の「前記n型層形成工程においては、形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより比抵抗が1.5Ωcm以下の前記n型層を形成する、」との記載は、本件特許明細書との関係で、誤りであるとはいえない。
よって、訂正前の前記記載に誤記が存在するとはいえないから、訂正事項1は、誤記の訂正を目的とするものではない。
(エ)明瞭でない記載の釈明
「明瞭でない記載の釈明」とは、特許明細書、特許請求の範囲又は図面中のそれ自体意味の不明瞭な記載、又は、特許明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載等、明細書、特許請求の範囲又は図面に生じている記載上の不備を正し、その記載本来の意味内容を明らかにすることをいう。
そこで検討すると、訂正前の「前記n型層形成工程においては、形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより比抵抗が1.5Ωcm以下の前記n型層を形成する、」との記載は、明瞭であるから、訂正事項1は、特許請求の範囲に生じている記載上の不備を正して、その記載本来の意味内容を明らかにするものではない。
よって、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。
(オ)請求項間の引用関係の解消
訂正事項1は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではない。
イ よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に規定する何れの事項を目的とする訂正ではないことから、訂正事項1についての訂正は認められない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しない、独立形式に改める訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ よって、訂正後の請求項2について訂正を認める。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、上記訂正事項1に係る訂正にともない特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるところ、上記「(1)訂正事項1について」で検討したように、訂正事項1についての訂正は認められない。
そうすると、訂正事項3は、上記整合を図るためのものではなく、単に記載を改めるものにすぎない。そして、訂正前の記載に「誤記又は誤訳」があるとも認められない。
イ よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に規定する何れの事項を目的とする訂正ではないことから、訂正事項3についての訂正は認められない。
(4)訂正事項4について
ア 訂正事項4は、上記訂正事項2に係る訂正にともない特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ よって、訂正後の明細書の段落【0010】について訂正を認める。
3 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1及び訂正事項3についての訂正は認められず、訂正事項2及び訂正事項4についての訂正を認める。
第3 取消理由
当審において、請求項1に係る特許(以下「本件発明1」という。)に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
【理由1】
本件発明1は、当業者が下記の甲第1号証に記載された甲1発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである。
甲1発明は、以下のものである。
「発光素子の製造方法であって、
サファイア基板の上にSiドープのn-Al0.69Ga0.31Nからなるn型層をエピタキシャル成長させる工程と、
n型層の上に、Al0.4Ga0.6Nからなる単一量子井戸層をエピタキシャル成長させる工程と、
単一量子井戸層の上に、Mgドープのp-Al0.4Ga0.6Nからなるp型層をエピタキシャル成長させる工程を備え、
n型層がAl0.69Ga0.31Nであり、
単一量子井戸層が紫外線領域である292nmの発光波長を有するAl0.4Ga0.6Nであり、
n型層の形成工程においては、温度を約1100℃(1050℃ないし1175℃)とし、形成圧力を76Torrとする、発光素子の製造方法。」(なお、下線は、当審で付した。以下同様。)
【理由2】
本件発明1は、当業者が下記の甲第1号証に記載された引用発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである。
引用発明は、以下のものである。
「発光素子の製造方法であって、
サファイア基板の上にSiドープのn-Al0.69Ga0.31Nからなるn型層をエピタキシャル成長させる工程と、
n型層の上に、Al0.4Ga0.6Nからなる単一量子井戸層をエピタキシャル成長させる工程と、
単一量子井戸層の上に、Mgドープのp-Al0.4Ga0.6Nからなるp型層をエピタキシャル成長させる工程を備え、
n型層がAl0.69Ga0.31Nであり、
単一量子井戸層が紫外線領域である292nmの発光波長を有するAl0.4Ga0.6Nであり、
n型層の形成工程においては、温度を約1100℃とし、形成圧力を76Torrとする、発光素子の製造方法。」
甲第1号証:Amy HANLON et al.、292nm AlGaN Single-Quantum Well Light Emitting Diodes Grown on Transparent AlN Base、Jpn.J.Appl.Phys.、日本、2003.発行、Vol.42、pp.L628-L630
甲第2号証:特開2002-359390号公報
甲第3号証:K.B.Nam, J.Li, M.L.Nakarmi, J.Y.Lin, and H.X.Jiang、Achieving highly conductive AlGaN alloys with high Al contents、APPLIED PHYSICS LETTERS、その他、2002.08.05発行、VOLUME 81, NUMBER 6、pp 1038-1040
甲第4号証:M.L.Nakarmi et al.、Transport properties of highly conductive n-type Al-rich AlxGa1-xN(x>0.7)、APPLIED PHYSICS LETTERS、その他、2004.発行、VOLUME85,NUMBER17、p.3769-3771
第4 甲各号証の記載
(1)甲第1号証については、下記「第5 当審の判断」を参照。
(2)甲第2号証には、「n-Al0.6Ga0.4N層を圧力15Torr、基板温度1150℃で形成する」という技術的事項が記載されている。
(3)甲第3号証には、「n-AlGaNを圧力50Torr、基板温度1050℃で形成し、比抵抗0.45ΩcmのAl0.7Ga0.3Nを得る」という技術的事項が記載されている。
(4)甲第4号証には、「0.0075Ωcmのn-Al0.7Ga0.3N」が記載されている。
第5 当審の判断
1 取消理由【理由1】について
(1)甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「発光素子の製造方法であって、
サファイア基板の上にSiドープのn-Al0.69Ga0.31Nからなるn型層をエピタキシャル成長させる工程と、
n型層の上に、Al0.4Ga0.6Nからなる単一量子井戸層をエピタキシャル成長させる工程と、
単一量子井戸層の上に、Mgドープのp-Al0.4Ga0.6Nからなるp型層をエピタキシャル成長させる工程を備え、
n型層がAl0.69Ga0.31Nであり、
単一量子井戸層が紫外線領域である292nmの発光波長を有するAl0.4Ga0.6Nであり、
n型層の形成工程においては、温度を約1100℃(1050℃ないし1175℃)とし、形成圧力を76Torrとする、発光素子の製造方法。」
(2)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下の点で相違する。
<相違点>
n型層形成工程に関して、
本件発明1は、「形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ
、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより比抵抗が1.5Ωcm以下の前記n型層を形成する」のに対して、
甲1発明は、温度を約1100℃(1050℃ないし1175℃)とし、形成圧力を76Torrとするものであって、比抵抗が不明である点。
(3)判断
ア そもそも、甲1発明の「n型層の形成工程」における温度及び形成圧力を、他の条件に変更しなければならないという課題はないことから、甲1発明の「n型層の形成工程」における温度及び形成圧力を変更する動機付けがない。
イ 確かに、甲第2号証には、「n-Al0.6Ga0.4N層を圧力15Torr、基板温度1150℃で形成する」という技術的事項が記載されているものの、甲第2号証は、「転位密度を低減することにより暗電流を抑制して光検出感度を向上させた半導体受光素子」に関するものであり、圧力15Torr及び基板温度1150℃は、低転位密度の窒化物半導体層を形成するための、一つの例示にすぎず、その条件で形成された「n-Al0.6Ga0.4N層」の比抵抗が小さくなることは記載されていないことから、甲1発明の「n型層の形成工程」における温度及び形成圧力の条件として採用する動機付けがない。
ウ 一方、甲第3号証及び甲第4号証には、比抵抗の小さな「Al0.7Ga0.3N」について記載され、さらに、甲第3号証には、「圧力50Torr、基板温度1050℃」で形成することも記載されていることから、甲1発明の「n型層(Al0.69Ga0.31N)」を形成するために、「n型層の形成工程」における温度及び形成圧力を「圧力50Torr、基板温度1050℃」に変更することは、当業者が容易に着想し得ることであるといえる。
しかしながら、当該「n型層(Al0.69Ga0.31N)」を、50Torrの圧力を維持したまま、基板温度だけを「1150℃以上1200℃以下」に高めた際に、同様に、比抵抗の小さな「n型層(Al0.69Ga0.31N)」を形成できることを示唆する記載はなく、その動機付けがあるとまではいえない。
エ そして、甲第2号証ないし甲第4号証の記載を総合しても、比抵抗を小さくするために、本件発明1と同様の条件を導き出せるものではない。
オ したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証に記載された甲1発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
カ まとめ
本件発明1に係る特許は、取消理由通知に記載した【理由1】、すなわち、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
2 取消理由【理由2】について
(1)甲第1号証には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「発光素子の製造方法であって、
サファイア基板の上にSiドープのn-Al0.69Ga0.31Nからなるn型層をエピタキシャル成長させる工程と、
n型層の上に、Al0.4Ga0.6Nからなる単一量子井戸層をエピタキシャル成長させる工程と、
単一量子井戸層の上に、Mgドープのp-Al0.4Ga0.6Nからなるp型層をエピタキシャル成長させる工程を備え、
n型層がAl0.69Ga0.31Nであり、
単一量子井戸層が紫外線領域である292nmの発光波長を有するAl0.4Ga0.6Nであり、
n型層の形成工程においては、温度を約1100℃とし、形成圧力を76Torrとする、発光素子の製造方法。」
(2)対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、以下の点で相違する。
<相違点>
n型層形成工程に関して、
本件発明1は、「形成温度を1150℃以上1200℃以下とし、かつ
、形成圧力を10Torr以上50Torr以下とすることにより比抵抗が1.5Ωcm以下の前記n型層を形成する」のに対して、
引用発明は、温度を約1100℃とし、形成圧力を76Torrとするものであって、比抵抗が不明である点。
(3)判断
ア 甲第3号証には、「n-AlGaNを圧力50Torr、基板温度1050℃で形成し、比抵抗0.45ΩcmのAl0.7Ga0.3Nを得る」という技術的事項が記載されていることから、引用発明の「n型層(Al0.69Ga0.31N)」を形成するために、「n型層の形成工程」における温度及び形成圧力を「圧力50Torr、基板温度1050℃」に変更することは、当業者が容易に着想し得ることであるといえる。
しかしながら、当該「n型層(Al0.69Ga0.31N)」を、50Torrの圧力を維持したまま、基板温度だけを「1150℃以上1200℃以下」に高めた際に、同様に、比抵抗の小さな「n型層(Al0.69Ga0.31N)」を形成できることを示唆する記載はなく、その動機付けがあるとまではいえない。
イ したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証に記載された引用発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
ウ まとめ
本件発明1に係る特許は、取消理由通知に記載した【理由2】によっては、取り消すことができない。
第6 むすび
請求項1に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由(【理由1】)及び取消理由通知に記載した取消理由(【理由2】)によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700941