特許異議申立
2016-700851
ポリアミド樹脂組成物及び成形品
- 審判番号
- 2016-700851
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-267115外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年09月12日
- 審決日
- 2017年06月30日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条、特許法第36条第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第1項、特許法第126条第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5885485号発明「ポリアミド樹脂組成物及び成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5885485号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第5885485号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5885485号の請求項1~6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成23年12月6日に出願され、平成28年2月19日にその特許権の設定登録がされ、同年3月15日にその特許公報が発行され、その後同年9月12日に東レ株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成28年 9月12日 特許異議申立書
同年11月14日付け 取消理由通知
同年 同月30日 上申書(特許異議申立人)
平成29年 1月16日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 同月24日付け 通知書
同年 2月22日 意見書(特許異議申立人)
同年 3月23日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月26日 意見書(特許権者)
第2 訂正の適否
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成29年1月16日に訂正請求書を提出し、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、」とあるのを、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、」に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0013】に
「〔1〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、」とあるのを、
「〔1〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0112】に記載した表1に
「
」とあるのを、
「
」に訂正する。
2 本件訂正の適否
(1)一群の請求項について
訂正事項1は、請求項1を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2~6はいずれも請求項1を引用するものであるから、請求項1~6は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、本件訂正の請求は、請求項1~6についてされているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前にポリアミドが
「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」であって、
「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」であったものを、
「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」
に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
訂正事項1により特定された「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」は本件訂正前の請求項1にポリアミドの選択肢の1つとして記載されているから、新規事項の追加はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、明細書の段落【0013】の記載について、上記訂正事項1により訂正される請求項1の記載との整合を図るものであり、本件訂正後において請求項1と同様の記載とする訂正を行うものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加、特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
訂正事項2は、明細書の段落【0013】の記載を訂正事項1により訂正される請求項1の記載と同様の記載とするものであるから、上記(2)イで述べたのと同様の理由により、新規事項の追加はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項2は、特許請求の範囲の全ての請求項と関係しているところ、本件訂正の請求は、全ての請求項について訂正を請求している。したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
(4)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、明細書の段落【0112】に記載した表1における「(B)安定剤とその配合割合」の欄の「種類」と「質量部」の記載位置を互いに入れ替えるものであるところ、本件訂正前に、実施例1~16について「種類」の欄には数値が、「質量部」の欄にはB1~B5(なお、B1~B5はそれぞれ明細書の段落【0104】に記載された特定の安定剤である)が記載されており、当該記載に誤りがあることは明らかである。訂正事項3は、その誤りを正し、「種類」の欄に特定の安定剤を、質量部の欄に数値を記載するようにするものである。また、訂正事項3は、表1の欄外に「種類」との記載を追加するものであるところ、かかる記載は、表1の欄外の記載であって、特に技術的意味を有するものではない。したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項の追加について
明細書の段落【0104】~【0111】には、
「〔安定剤(B)〕
(B1)フェノール系安定剤
N,N’-へキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)] チバ・ジャパン製 商品名 IRGANOX(登録商標)1098
(B2)ホスファイト系安定剤
ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト ADEKA製 商品名 アデカスタブ(登録商標)PEP-36
(B3)ヒンダードアミン系安定剤
ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-セバケート チバ・ジャパン製 商品名 サノール(登録商標)770
(B4)トリアジン系安定剤
2-(2’-ヒドロキシ-4’-ヘキシルオキシフェニル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン チバ・ジャパン製 商品名 TINUBIN(登録商標)167FF
(B5)無機リン系安定剤
次亜リン酸ナトリウム 和光純薬製 商品名 ジ亜リン酸ナトリウム
・・・
〔実施例1〕
製造例1で作製したポリアミド(A1)100質量部と安定剤(B1)0.1質量部とを、・・・ポリアミド樹脂組成物を得た。
・・・
〔実施例2~14、比較例1~7〕
(A)ポリアミドの種類、(B)安定剤の種類、配合量を、それぞれ下記表1及び表2に示すように変更した。その他の条件は、実施例1と同様の方法により、ペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
・・・
〔実施例15〕
ポリアミド(A1)67質量部と安定剤(B1)0.3質量部とを、・・・ポリアミド樹脂組成物を得た。
・・・
〔実施例16〕
ポリアミド(A1)50質量部と安定剤(B1)0.3質量部とを、・・・ポリアミド樹脂組成物を得た。
・・・
〔比較例8〕
ポリアミド(A17)100質量部と安定剤(B1)0.3質量部とを、・・・溶融混練を行った。・・・
〔比較例9〕
ポリアミド(A12)67質量部と安定剤(B1)0.3質量部とを、・・・ポリアミド樹脂組成物を得た。」
と記載されており、また、明細書の段落【0113】に表2として
「
」との記載があるところ、実施例1、15、16、比較例8、9ではいずれも安定剤の種類としてB1が用いられ、その量が実施例1では0.1質量部、実施例15、16、比較例8、9では0.3質量部であって、安定剤の種類及び量は、本件訂正後の表1の記載及び表2(表2は訂正されていない)の記載と合致するものであり、また、上記アで述べたとおり、表1について、本件訂正前に、「(B)安定剤とその配合割合」の欄の「種類」と「質量部」の記載に誤りがあることは明らかであるから、実施例1、15、16と同様に、実施例2~14についても、表1には「(B)安定剤とその配合割合」の欄について、「種類」と「質量部」の欄に互いに逆のものが本件訂正前に記載されていたということができる。
また、表1の欄外に「種類」との記載を追加する点についても、この記載は特に技術的意味を有するものではなく、表1には「種類」との記載が存在する。
してみると、訂正事項3は出願当初の明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、新規事項を追加するものではない。したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
訂正事項3が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するとする理由はない。したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項3は、特許請求の範囲の全ての請求項と関係しているところ、本件訂正の請求は、全ての請求項について訂正を請求している。したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
(5)まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する特許法第126条第4項から第6項までの規定に適合する。
したがって、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1~6について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」~「本件発明6」ともいう。)である。
「【請求項1】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
からなるポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):耐熱安定剤及び耐光安定剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の(B)安定剤と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)安定剤が、フェノール系安定剤、ホスファイト系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、トリアジン系安定剤、イオウ系安定剤、及び無機リン系安定剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)安定剤の含有量が、前記ポリアミド100質量部に対して0.01~5質量部である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリアミド30~95質量部に対して、(C)無機充填材5~70質量部を、さらに含有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。」
第4 取消理由通知の概要
当審が取消理由で通知した取消理由は、理由1~理由3であり、その概要は次に示すとおりである。
なお、取消理由通知において通知した理由2(1)は、取消理由通知(決定の予告)と同趣旨であるので、以下には、取消理由通知(決定の予告)で示した事項を記載した。
[理由1]本件特許の請求項1、3~6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、上記請求項に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
提示した刊行物及び参考資料は次のとおりである。
刊行物1:特開2007-182071号公報(特許異議申立人が提示した甲第1号証)
刊行物2:特開2003-277605号公報(特許異議申立人が提示した甲第3号証)
刊行物3:福本修編、「ポリアミド樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、昭和63年1月30日初版1刷発行、111~116頁(特許異議申立人が提示した甲第4号証)
参考資料:実験報告書、報告者:東レ株式会社 樹脂技術部 樹脂開発第1室長 高村 元(特許異議申立人が提示した甲第2号証)
[理由2]本件の請求項1~6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
具体的な理由の概要は次のとおりである。
(1)どのような方法によってYの値を制御するかは発明の詳細な説明の記載をみても不明であるといわざるを得ず、当該Yの値が-0.3≦(Y)≦0.8であることを発明特定事項とする本件発明1について、その全範囲にわたって、発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。
本件発明2~6についても同様である。
(2)本件特許明細書の段落【0112】に記載の表1における(B)安定剤とその配合割合の欄の「種類」と「質量部」が逆に記載されている不備がある。
[理由3]本件の請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
具体的な理由の概要は次のとおりである。
本件発明1~5の発明が解決しようとする課題は、過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形品の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、かつ、日光等に曝露させた場合でも色調変化等の物性変化が少ない耐候性に優れるポリアミド樹脂組成物を提供することであり、本件発明6の発明が解決しようとする課題は、前記ポリアミド樹脂組成物を含む成形品を提供することであると認められ、本件発明1は、(A)のポリアミドが、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド(以下「ポリアミド1」という。)であるか、又は(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド(以下「ポリアミド2」という。)であるところ、ポリアミド2を含有するポリアミド樹脂組成物について、発明の詳細な説明に具体的に記載されているのは、製造例9で製造されたポリアミドA9を用いた実施例14のみであり、本件発明1の全範囲にわたって、当業者が、発明の詳細な説明の記載から上記課題を解決することができると認識できるとはいえないから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものということはできない。
本件発明2~6についても同様である。
第5 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由1(特許法第29条第2項)について
ア 各刊行物及び参考資料の記載事項並びに引用発明
(ア)各刊行物及び参考資料の記載事項
刊行物1:
1a)「【請求項2】
アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する工程を経て電子顕微鏡観察で数平均内径10~80nmの凹部で表面が覆われたアルミニウム合金部品と、
前記アルミニウム合金部品の前記表面に射出成形で固着され、脂肪族ポリアミド樹脂と芳香族ポリアミド樹脂が単純混合されたもの、及び/又は、前記脂肪族ポリアミド樹脂と前記芳香族ポリアミド樹脂が分子的に結合されたものが主な樹脂分組成である熱可塑性合成樹脂組成物部品と
からなる金属樹脂複合体。」
1b)「【請求項9】
請求項1~8から選択される1項に記載の金属樹脂複合体において、
前記熱可塑性合成樹脂組成物が、樹脂分組成100質量部に対して充填材1~200質量部が含まれていることを特徴とする金属樹脂複合体。
【請求項10】
請求項9に記載の金属樹脂複合体において、
前記充填材が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、及びガラス粉から選ばれる1種以上の充填材であることを特徴とする金属樹脂複合体。」
1c)「【0064】
好ましい共重合ナイロンとしては、・・・ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、・・・ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)が挙げられる。
【0065】
好ましい共重合ナイロンは6Iナイロン成分が入ったものであり、特に好ましい共重合ナイロンは、ヘキサメチレンアジパミド成分(ナイロン66成分)、ヘキサメチレンイソフタラミド成分(ナイロン6I成分)、およびカプロアミド成分(ナイロン6成分)からなる3元共重合体(ナイロン66/6I/6樹脂)であり、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の当モル塩、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の当モル塩、およびεカプロラクタムを重合缶内で加熱、重合することで得られる。その共重合比率は、配合原料の比率である。好ましい各繰返し構造単位の共重合割合は、ナイロン66成分が65~90質量%、ナイロン6I成分が5~30質量%、ナイロン6成分が1~14質量%さらに好ましくは2~12質量%であり、ナイロン6I成分/ナイロン6成分の共重合比1.0以上を同時に満たすことが好ましい。これらの共重合比は共重合体を製造する際の原料の割合を調整することにより、達成される。」
1d)「【0071】
[熱可塑性合成樹脂組成物/充填材]
また、本発明の複合体は、アルミニウム合金部品と樹脂組成物部品の線膨張率差の調整、及び樹脂組成物部品の機械的強度を向上することを目的として、樹脂分合計100質量部に対し、更に充填剤1~200質量部、より好ましくは10~150質量部を含んでなる樹脂組成物部品であることが好ましい。
【0072】
この充填剤としては繊維状充填剤、粒状充填剤、板状充填剤等の充填剤を挙げることができ、該繊維状充填剤としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が挙げられ、ガラス繊維の具体的な例示としては、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド等が挙げられる。また、該板状、粒状充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、マイカ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物等が挙げられる。
・・・
【0074】
フィラーの種類とその含有率を選べば樹脂の線膨張率はアルミニウム合金等に近い値にでき、例えば、ガラス繊維40~50%をナイロン66に含ませると線膨張率は2~3×10-5℃-1に下がる。」
1e)「【0079】
以下、本発明の実施例を実験例に代えて詳記する。実施例で使用した共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造法と粘度数の測定方法は以下のとおりである。
〔参考例1 共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造方法〕
それぞれの共重合ポリアミドの原料となるジアミンと酸の等モル塩などの原料をそれぞれの質量比で反応器に投入し、投入した樹脂分全量と同量の純水を加え、重合缶内をN2で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm2に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で20時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で50時間以上乾燥した。
〔参考例2 粘度数の測定方法〕
ISO307標準方法に従って96%硫酸での粘度数測定を行った。
【0080】
[実施例1]
市販の1.6mm厚のA5052アルミニウム合金板を購入した。18mm×45mmの長方形片多数に切断した。このアルミ合金片の端部に直径2mmφの穴をプレス機で開けた。塩ビ樹脂カバーの銅線を用意した。合金片10個の穴に銅線を通しつつ途中を曲げ、合金片同士がべったりとは接触せぬようにしつつ10個をぶら下げられるようにした。アルミ用脱脂材「NE-6(日本国東京都、メルテックス株式会社製)」15%を含む槽を用意し液温を75℃とした。この脱脂材水溶液に5分浸漬し、水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液を用意し液温を40℃とした。ここへ先ほどのアルミニウム合金片を1分間浸漬し水洗した。
【0081】
続いて別の槽に1%苛性ソーダ水溶液を用意し、液温を40℃とした。ここへ先ほどの合金片を1分間浸漬し水洗した。続いて別の槽に1%塩酸水溶液を用意し、液温を40℃とした。ここへ先ほどの合金片を1分間浸漬し推薦した。続いて3.5%量の一水和ヒドラジン水溶液を60℃とした中に先ほどの合金片を1分間浸漬し、水洗し60℃×20分間温風乾燥機で乾燥した。アルミニウム合金片を銅線から外し、アルミ箔で包み、これをポリエチ袋に入れて封じた。翌日、電子顕微鏡「S-4800(日本国東京都、株式会社日立製作所製)」で、10万倍率で観察したところ20~40nm径、数平均内径で25nmの凹部で表面全面が覆われていることを確認した。
【0082】
一方、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーを参考例1の方法で合成した。得られた合成樹脂の参考例2記載の方法で測定した粘度数は85ml/gであり、溶融粘度は、フローテスター「CFT-500(日本国京都府、株式会社島津製作所製)にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下にて380ポイズであった。二軸押出機「TEM-35B(東芝機械株式会社製)」にて、ガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」をサイドフィーダーから添加量が50質量%となるように供給しながら、シリンダー温度280℃で溶融混練してペレット化したポリアミド系樹脂組成物を得た。
【0083】
アルミニウム合金片を保管して2日後、合金片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。射出成形金型の構造図を図1に示したが、図内で1はアルミニウム合金片、2は可動側型板、3は固定側型板、4は樹脂が射出されるキャビティー部、5はピンポイントゲート、6は接合面を示した。射出接合が為されると図2で示す一体化物が得られる。図2で1はアルミニウム合金片(1.6mm×45.0mm×18.0mm)、4は樹脂部(3mm×50mm×10mm)、5はピンポイントゲート、6は接合面(5mm×10mm)である。接合面の面積は0.5cm2であった。金型を閉め、ガラス繊維50%含有の前記ナイロン系樹脂組成物を射出し、図2で示す一体化品を得た。
【0084】
射出温度は260℃であり、金型温度は140℃であった。射出接合した約2時間後に150℃とした熱風乾燥機に入れて1時間置き、放冷した。その2日後に引っ張り試験機で10個のサンプル全てを引っ張り破断試験した。この試験ではせん断破断力が測定できる。その結果、平均したせん断破断力は26.0MPa(265kgf/cm2)であった。」
刊行物2:
2a)「【請求項1】 (A)ポリアミド樹脂100重量部に対し、(B)ガラス繊維を15~150重量部、(C)フェノール系熱安定剤を0.05~1.0重量部、および(D)銅化合物を銅化合物中の銅を基準として(A)に対して10~5000ppm含み、水と接触する成形品に用いられることを特徴とする樹脂組成物。」
2b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、引張強度、曲げ弾性率等の機械的特性に優れ、更に、耐熱エージング性、耐加水分解性に優れた水と接触する成形品に用いられる樹脂組成物および成形品を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド樹脂、ガラス繊維からなる組成物に銅化合物とフェノール系安定剤を添加することにより、引張強度、曲げ弾性率等の機械的特性に優れ、更に、耐熱エージング性、耐加水分解性に優れた水と接触する成形品に用いられる組成物および成形体を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。」
2c)「【0019】本発明に用いる(B)ガラス繊維の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、15~150重量部であり、30~50重量部が成型加工性、成形品表面外観の観点から好ましい。ガラス繊維の配合量が15重量部未満であると強度、剛性、耐熱エージング性が不十分であり、150重量部を超えると成型加工性や外観が著しく悪化する。また、本発明の(C)成分であるフェノール系熱安定剤は、ヒンダードフェノール系安定剤を好適に用いることができ、例えば、N,N‘ヘキサメチレンビス3-(3,5-ジ・ターシャリ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、トリエチレングリコールビス-3-(3-ターシャリ-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチル-フェニル)プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-ターシャリ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジンを例示できる。
【0020】また、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルフォスフォネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等を例示できる。本発明の(C)成分の配合割合は、ポリアミド樹脂100重量部に対して0.05~1.0重量部であり、(C)成分の配合量が0.05重量部未満であると、本発明の効果が得られないし、1.0重量部を超えると成形時にブリードし、成形品外観悪化や金型汚染等が発生しやすくなる。」
2d)「【0025】
【発明の実施の形態】以下の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例に用いた原材料及び測定方法を以下に示す。
〔原材料〕
[1]ポリアミド樹脂
PA1:ポリアミド66、相対粘度2.5、アミノ末端基数45m当量/kg、Cu濃度100ppm、CuI/KI(ヨウ素を銅に対して20倍モル添加)
PA2:ポリアミド66/6コポリマー(ポリアミド6の割合は5重量%)、相対粘度2.5、アミノ末端基数45m当量/kg、Cu濃度100ppm、CuI/KI(ヨウ素を銅に対して20倍モル添加)
PA3:ポリアミド66/6I(ポリアミド6Iの割合は5重量%;ポリアミド6Iはポリヘキサメチレンイソフタラミド)、相対粘度2.0、アミノ末端基60m当量/kg、Cu濃度100ppm、CuI/KI(ヨウ素を銅に対して20倍モル添加)
PA4:ポリアミド66、相対粘度2.5、アミノ末端基50m当量/kg
[2]ガラス繊維
旭ファイバーガラス社製;CS03JAFT756K25
[3]フェノール系安定剤
PH1:チバ・スペシャリティーケミカルズ社性;Irganox1098
PH2:吉富製薬社性;ヨシノックスBB
[4]銅化合物
Cu1:和光純薬工業製;CuI/KI(ポリアミド重合時に添加)
Cu2:Bruggemann Product社製;Bruggolen H321(溶融混錬時に添加)
【0026】〔試験片の作成〕
1(注:○中1)引張強度試験片および曲げ試験片の作成
射出成形機(日精樹脂製:PS40E)を用い、金型温度80℃で、ASTMD638 TYPE Iおよび長さ5インチ×幅0.5インチ×厚さ1/8試験片を成形した。
2(注:○中2)エージング性試験片の作成
射出成形機(日精樹脂製:PS40E)を用い、金型温度80℃で、JIS3号ダンベル(3mm厚)を成形した。
【0027】[測定方法]
(I)引張強度
ASTM D638に準じて、試験片を引張試験機(東洋精機製:UTM25)で、23℃、クロスヘッドスピード5mm/minの条件で測定を行った。
(II)曲げ弾性率
ASTM D790に準じて、試験片を引張り試験機(東洋精機製:UTM25)で、23℃、クロスヘッドスピード5mm/min、スパン50mmの条件で測定を行った。
(III)温水抽出後のエージング試験
オートクレーブ(内容量3L)に蒸留水2Lを計量し、JIS3号ダンベル片を浸漬後、蓋を密閉し、130℃のオイルバス中に24時間オートクレーブごと浸漬した。冷却した後、試験片を取り出し、取り出した試験片を200℃のオーブン空気中で1000時間放置し、冷却後、引張り試験を上記(I)引張強度記載の方法に従って、試験した。尚、この際のクロスヘッド間の距離を50mmに設定し試験を行い、処理前の引張り試験の結果を100%とした時の保持率を求めた。
【0028】(IV)ブリードアウト試験
上記エージング試験片の作成の際に50ショット後の金型汚染の有無を調べた。
(V)銅析出試験
SUS製オートクレーブ(内容量3L)に、表1または表2に示した溶融混合した組成物ペレット200gを入れ、内温が290℃になってから3時間経過後、冷却し、ペレットが溶融した樹脂魁を取り出し、銅元素の定量分析をICP法により実施した。その際、銅濃度が初期のペレットの80%以上を保持しているものを○、80%未満のものを×として評価した。
【0029】
【実施例1~7、9、10】東芝機械(株)製TEM35BS、2軸押出機を用いてシリンダー設定温度290℃、スクリュウ回転数300rpm、トータルフィード量50kg/hrでトップフィード孔にガラス繊維以外の混合原料を供給、サイドフィード孔から溶融したポリアミド樹脂中にガラス繊維を表1の比率になるように供給し、紡孔より押し出されたストランドを冷却後、長さ3mm、直径3mmのペレット状に切断、乾燥して、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。得られたペレットを上述の方法でシリンダー温度290℃の条件で成形し、評価した。その結果を表1に示す。
【0030】
【実施例8】ポリアミドとして銅を含まないPA4を使用し、溶融混合の際にBruggolen H321をPA4ペレットやガラス繊維以外の副原料として銅濃度が表1の割合になるように混合した以外は、実施例1と同様に溶融混合し、成形、評価を実施した。」
2e)「【0032】
【表1】
」
刊行物3:
3a)「2.5.2 耐熱性の向上
実用的に重要なのは,ナイロンの融点以下の温度における酸素存在下の劣化を防止することである.その理由は熱酸化劣化がナイロンの長期サービスライフを保証する温度と密接に関係するからである.・・・
ナイロンの耐熱剤について,多数の特許や文献などが発表されてきたが,実用的で有効な耐熱剤はほぼ表2.64の化合物に絞られる149).銅化合物はナイロン6の熱酸化劣化防止剤として表2.65に示すように,とくに高温領域で大き
な効果を発揮する149).・・・.ヒンダードフェノール,芳香族アミンは,ラジカル連鎖成長の防止剤として作用する.ヒンダードフェノール化合物の耐熱剤としての効果の一例を図2.91に示す149).」(111頁下から3行~113頁、図2.92の上4行)
3b)「
」(113頁、図2.91)
3c)「2.5.3 耐候性の向上
光酸化劣化は機構的には熱酸化と同じである.・・・.リンオキシ酸のマンガン塩などのマンガン化合物も古くから知られ,今なお実用化されている耐候剤の一つである.有機系耐候剤(いわゆる紫外線吸収剤)としては,ベン
ゾフェノン系,トリアゾール系,イミダゾール系,オキサゾール系,ヒンダードアミン系(HALS)などの各種化合物が提案されている149)150).」(115頁、図2.94、2.95の下3行~116頁2行)
参考資料:
「1.実験の目的
特開2007-182071号公報の実施例1に記載の合成樹脂(共重合ポリアミド樹脂)が、特許第5885485号の請求項1に記載の(A)ポリアミドであるか否かを確認する。
・・・
3.実験担当者
下記の者が実験を担当した。
東レ株式会社 樹脂技術部 服部恵一、滝口育美
4.実験実施年月日
平成26年11月1日~12月16日
5.実験方法
特開2007-182071号公報の明細書(以下、「同明細書」ということがある)の記載に従い、同明細書の実施例1に記載の共重合ポリアミド樹脂を同明細書の参考例1に記載の方法で合成した。また、得られた共重合ポリアミド樹脂の粘度数を同明細書の参考例2に記載の方法で測定し、また、溶融粘度をフローテスターで測定した。
5.1 共重合ポリアミド樹脂(ブロックポリマー)の合成
同明細書の【0082】(実施例1)に記載のとおり、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーを以下に記す参考例1の方法で合成した。
参考例1:同明細書の【0079】(〔参考例1 共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造方法〕)に記載のとおり、それぞれの共重合ポリアミドの原料となるジアミンと酸の等モル塩などの原料をそれぞれの質量比で反応器に投入し、投入した樹脂分全量と同量の純水を加え、重合缶内をN2で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm2に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で20時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で50時間以上乾燥した。
5.2 評価
(1)5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂を同明細書の参考例2記載の方法で粘度数を測定した。結果を表1に示す。
〔参考例2 粘度数の測定方法〕
ISO307標準方法に従って96%硫酸での粘度数測定を行った。
(2)また、5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂をフローテスター「CFT-500(日本国京都府、株式会社島津製作所製)にて、温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下にて、溶融粘度を測定した。結果を表1に示す。
(3)5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂の粘度数および溶融粘度は、同明細書の実施例1に記載の合成樹脂(共重合ポリアミド樹脂)の粘度数および溶融粘度(【0082】)に同じであった。
したがって、5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂は、同明細書の実施例1に記載の合成樹脂(共重合ポリアミド樹脂)と同一の樹脂であった。
5.3 全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)の定量、及びパラメータ(Y)の算出
5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂(同明細書の実施例1に記載の合成樹脂(共重合ポリアミド樹脂))が、特許第5885485号の請求項1に記載の(A)ポリアミドであるか否かを確認するために、特許第5885485号公報の記載に従い、全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)の定量、及びパラメータ(Y)の算出を行った。
すなわち、特許第5885485号公報の【0082】の記載に従い、以下のとおりに測定・算出した。
5.1で得られた共重合ポリアミドを用いて、1H-NMRにより求めた。
溶媒として重硫酸を用いた。
装置は日本電子製、「ECA400型」を用いた。
繰返時間は12秒、積算回数は64回で測定した。
各成分の特性シグナルの積分値より、イソフタル酸成分量、イソフタル酸末端基量、その他のカルボキシ末端基(例えばアジピン酸末端基)量を算出し、これらの値から、全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、及び下記式(1)のパラメータ(Y)をさらに算出した。結果を表2に示す。
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
6.まとめ
特許5885485号公報に記載の方法により、5.1で得られた共重合ポリアミド樹脂(特開2007-182071号公報の実施例1に記載の共重合ポリアミド樹脂)の(x)、(Y)を算出した結果、(x)は0.18、(Y)は-0.2となり、特許5885485号公報の請求項1に記載の(A)ポリアミドに該当するものであることがわかった。」(2~5頁)
(イ)刊行物1に記載された発明
上記摘示1a~1e、特に1eの実施例1の記載からみて、刊行物1には、
「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーである合成樹脂に、二軸押出機「TEM-35B(東芝機械株式会社製)」にて、ガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」をサイドフィーダーから添加量が50質量%となるように供給しながら、シリンダー温度280℃で溶融混練してペレット化したポリアミド系樹脂組成物」の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されている。
イ 本件発明1について
刊行物1発明に係る合成樹脂は、ナイロン66成分、6Iナイロン成分、ナイロン6成分からなるブロックポリマーであるところ、摘示1cからみて、該樹脂は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の当モル塩、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の当モル塩、およびεカプロラクタムを重合缶内で加熱、重合することで得られるものであるから、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであるといえ、本件発明1とは、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を構成成分とするポリアミドである点で一致する。また、刊行物1発明のポリアミド系樹脂組成物は、本件発明1のポリアミド樹脂組成物に相当する。
したがって、本件発明1と刊行物1発明との一致点・相違点は次のとおりである。
一致点
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を構成単位とするポリアミドを含有するポリアミド樹脂組成物。」である点
相違点1:ポリアミドについて、本件発明1が、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位とからなるとしているのに対し、刊行物1発明では、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成る、すなわち、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位以外にナイロン6成分を構成単位とする点
相違点2:本件発明1が、ポリアミドについて「当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である」及び「(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」と特定しているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点
相違点3:本件発明1がポリアミド樹脂組成物が「(B):耐熱安定剤及び耐光安定剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の(B)安定剤と」を含有することを特定しているのに対し、引用発明のポリアミド系樹脂組成物は安定剤を含有しない点
上記相違点について、相違点1はポリアミドの組成に関するものであるところ、相違点2もポリアミドの組成に関連するものであるから、相違点1及び相違点2を併せて検討する。
<相違点1、2について>
上記参考資料である実験報告書に記載の実験方法は、刊行物1に記載の参考例1、実施例1に記載された方法と同様の方法であり、その粘度数、溶融粘度の評価方法は刊行物1に記載の方法であって、それらの値が刊行物1に記載のものと同一であるから、実験報告書に記載の実験方法により得られた共重合ポリアミド樹脂は刊行物1発明の合成樹脂と同じものであるといえる。そして、同実験報告書には、当該共重合ポリアミド樹脂について、本件発明1で特定される(x)、(Y)を本件特許明細書に記載の方法により算出した値が0.18、-0.2であることが記載されており、それらの値は本件発明1で特定される範囲内の値である。
しかし、上記(x)、(Y)の値は、ポリアミドの構成成分によって変動することはその定義から明らかである。
したがって、刊行物1には、ポリアミド樹脂の具体的な例として、刊行物1発明のポリアミドに相当するポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)と共に、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)が例示されている(摘示1c)から、当業者が、刊行物1発明のポリアミドに代えて、ナイロン66/6Iを採用することに格別の創意を要したとはいえないといえたとしても、その際に上記相違点2に係る(x)、(Y)の値がどのような値になるかは不明であり、それらが本件発明1の範囲内にあるとはいえない。
また、刊行物1~3のいずれにも、ナイロン66/6Iであるポリアミドについて、相違点2に係る「当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である」及び「(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」とすることは記載も示唆もない。
してみると、相違点1、2に係る技術的事項を併せて採用することは当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1~3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
ウ 本件発明3~6について
本件発明3~5は本件発明1を引用し、さらに特定するものであり、本件発明6は本件発明1乃至5のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品であるところ(なお、本件発明2は本件発明1を引用し、さらに特定するものである)、上記イで述べたとおり、本件発明1が刊行物1~3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできないのであるから、同様の理由により本件発明3~6も本件発明1が刊行物1~3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
エ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、3~6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということはできず、よって、請求項1、3~6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである、ということはできない。
(2)取消理由2(特許法第36条第4項第1号)について
ア 特許権者が提出した参考文献及びその記載事項
平成29年5月26日付けで特許権者が提出した意見書に添付された参考文献1~7は次のとおりである。
参考文献1:特開2010-150445号公報
参考文献2:特開2011-111576号公報
参考文献3:特開2006-124669号公報
参考文献4:特開2002-194210号公報
参考文献5:特開平11-92657号公報
参考文献6:特開平3-76755号公報
参考文献7:特開2011-219635号公報
また、各文献の記載事項は次のとおりである。
参考文献1:
「【0041】
あらかじめ塩調製する場合には、ペンタメチレンジアミンとテレフタル酸の塩、炭素数7以上のジアミンとテレフタル酸の塩の混合比を変化させることによって、塩調製しない場合には、各原料の仕込み比を変化させることによってポリアミド樹脂の共重合組成比を変化させることができる。」
参考文献2:
「【0042】
・・・原料モノマーの仕込み比率を調整することにより、合成される共重合ポリアミド中の各構成単位の割合を制御することができる。」
参考文献3:
「【0035】
次に、本発明で用いられるポリアミド系樹脂(B)について説明する。
・・・本発明では、カルボキシル基やアミノ基で末端が調整されたポリアミド系樹脂が好適に用いられる。
【0036】
かかる末端が調整されたポリアミド系樹脂(B)としては、カプロアミドを主たる構成単位とし、末端調整剤を使用して末端カルボキシル基含有量[X]および末端アミノ基含有量[Y]が、{(100×[Y])/([X]+[Y])}≧5(ただし、[X],[Y]の単位はμeq/g・ポリマー)を満足するように調整したポリアミド系樹脂(B)が用いられる。
【0037】
上記における末端調節剤としては、炭素数2~23のカルボン酸、炭素数2~20のジアミンが用いられる。ここで炭素数2~23のモノカルボン酸としては、・・・
【0038】
・・・
【0039】
また、上記のモノカルボン酸のほかに、脂肪族ジカルボン酸(・・・アジピン酸・・・などのジカルボン酸類を使用したり併用したりすることもできる。」
参考文献4:
「【0022】前記カルボキシル末端基とアミノ末端基の比率や、アミノ末端基濃度、カルボキシル末端基濃度は、重合時に添加する末端調整剤(例えば、モノアミン、ジアミン、一塩基酸、二塩基酸など)の量を調節したり、ジアミンとジカルボン酸との重縮合によりポリアミドを製造する場合には、該ジアミンとジカルボン酸のモル比を変化させることによりコントロールできる。例えば、末端調整剤としてモノアミンを使用するとカルボキシル末端基が減少し、ジアミンを用いるとカルボキシル末端基が減少するとともにアミノ末端基が増加する。また、末端調整剤として一塩基酸を用いるとアミノ末端基が減少し、二塩基酸を用いるとアミノ末端基が減少するとともにカルボキシル末端基が増大する。」
参考文献5:
「【0009】ポリアミド樹脂の末端調整は、慣用の方法、例えば、末端調整剤の存在下でモノマーを重合させたり、重合して得られたポリアミド樹脂と末端調整剤とを加熱して反応させることにより行うことができる。ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基及びアミノ基の濃度は、末端調整剤の種類及び使用量を選択することにより調整できる。なお、ポリアミド樹脂の末端調整は、分子量分布の調整と併せて行うことができる点で、モノマーの重合時に行うのが好ましい。前記末端調整剤として、例えば、カルボン酸、アミン、ラクトンなどを使用できる。ポリアミド樹脂の末端アミノ基は、例えばカルボン酸又はラクトンにより封止でき、末端カルボキシル基は、例えばアミンにより封止できる。
【0010】上記カルボン酸としては、・・・アジピン酸・・・などの飽和脂肪族ジカルボン酸;・・・などが含まれる。」
参考文献6:
「また、ポリアミド樹脂はその末端基がモノカルボン酸化合物および/またはジカルボン酸化合物あるいはモノアミン化合物および/またはジアミン化合物の1種以上を任意の段階でポリアミドに添加することにより末端基濃度が調節されていてもよい。」(3頁右下欄9~15行)
「
」(8頁第1表)
参考文献7:
「【0019】
ポリアミド樹脂の末端調整は、慣用の方法、例えば、末端調整剤の存在下で、溶融重合、溶液重合や固相重合等の公知の方法で重合、又は共重合する事により製造される。あるいは、重合後、末端調整剤の存在下に、溶融混練することにより製造される。あるいは、重合後、末端調整剤の存在下に、溶融混練することにより製造される。このように、末端調整剤は、重合時の任意の段階、あるいは、重合後、溶融混練時の任意の段階において添加できるが、金属粉体複合成形品成形時のポリアミド樹脂の流動性、成形性を考慮した場合、重合時の段階で添加することが好ましい。
【0020】
ポリアミド樹脂の末端調整に際しては、モノアミン、ジアミン、モノカルボン酸、ジカルボン酸のうちの1種あるいは2種以上を適宜組合せて添加することができる。例えば、・・・アジピン酸・・・が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これら末端調節剤の使用量は末端調節剤の反応性や重合条件により異なるが、最終的に得ようとするポリアミド樹脂の相対粘度と末端カルボキシル基濃度、末端アミノ基濃度が前記の範囲になるように適宜決められる。」
イ 判断
(ア)理由2の(1)について
本件発明1は、「当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド」及び
「(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」と特定するものである。
この(x)及び(Y)の制御について、発明の詳細な説明には、
「【0038】
((A)ポリアミドの製造方法)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドの製造方法としては、上述したようにその他の共重合成分を有するポリアミド共重合体である場合を含めて、前記全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が0.05≦(x)≦0.5であり、上記式(1)におけるブロック化比率の指標である(Y)の範囲が-0.3≦(Y)≦0.8、好ましくは0.05≦(Y)≦0.8となるようなポリアミド(又はポリアミド共重合体)が得られればよい。
ポリアミドの製造方法としては、例えば、アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法);熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダー等の押出機で再び溶融させて重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物、固体塩又は重縮合物を、固体状態を維持したまま重合(固相重合法)させる方法等が挙げられる。
全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を上記数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効である。
上記式(1)におけるブロック化比率の指標となる(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要である。具体的には、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いることにより制御することができる。
【0039】
重合形態としては、特に限定されず、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
また、重合装置も特に限定されず、公知の装置、例えば、オートクレーブ型の反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等を用いることができる。
【0040】
上述したように、(Y)が-0.3≦(Y)≦0.8の範囲となるようにするには、熱溶融重合法によりポリアミドを作製することが好ましく、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを作製することがより好ましい。
バッチ式の熱溶融重合法の一例について以下に説明する。
重合温度条件については特に限定されないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。
例えば、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は水溶液を110~200℃の温度下で攪拌し、約60~90%まで水蒸気を徐々に抜いて加熱濃縮する。
その後、内部圧力を約1.5~5.0MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
その後、水及び/又はガス成分を除きながら、圧力を約1.5~5.0MPa(ゲージ圧)に保ち、内部温度が好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上に達した時点で、水及び/又はガス成分を除きながら圧力を徐々に抜き、最終内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるように、常圧で又は減圧して重縮合を行う。
さらには、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は重縮合物を融点以下の温度で熱重縮合させる固相重合法等も用いることができる。これらの方法は必要に応じて組み合わせてもよい。」との記載がある。
すなわち、発明の詳細な説明には、ポリアミドの製造方法として、熱溶融重合法、熱溶融重合法・固相重合法、押出重合法、固相重合法が記載され、(x)を上記数値範囲内に制御するための方法として、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効であることが記載され、(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要であり、具体的には、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いることにより制御することができ、さらに、バッチ式の熱溶融重合法の一例について記載されている。
さらに、発明の詳細な説明には、実施例1~13、15、16として、(x)及び(Y)が上記範囲内にあるポリアミド樹脂組成物の例(なお、実施例14のポリアミドはその構成成分が本件発明1~6とは異なる。)、比較例1~9として、(x)及び(Y)が上記範囲内にないポリアミド樹脂組成物の例、比較例10として、(x)及び(Y)が上記範囲内にあるが、耐熱安定剤、耐光安定剤を配合していないポリアミド樹脂組成物の例が記載されている。
ここで、(x)の制御については、(x)がポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率であり、本件発明1のポリアミドは酸としてアジピン酸及びイソフタル酸を、アミンとしてヘキサメチレンジアミンを用いること、原料の仕込み比を変化させることによってポリアミド樹脂の共重合組成比を変化させることができることは周知であること(参考文献1、2)から、原料として用いる全カルボン酸中のイソフタル酸の比率に関連することは当業者が容易に理解できる事項である。実際に実施例1~13、15、16においては、(x)の値と原料として用いる全カルボン酸中のイソフタル酸の比率とは完全ではないものの相当程度に一致する。してみれば、重合条件の調整が具体的にどのようなものであるかは必ずしも明らかではないものの、少なくとも原料として用いる全カルボン酸中のイソフタル酸の比率を調整することで(x)の値を制御できることは当業者が理解することができるといえる。
また、(Y)の制御について、(Y)は(EG)と(x)の関数であり、(EG)はイソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量であるところ、実施例1~13、15、16において、(EG)の値は、0.45~0.68の間で変化している。そして、ポリアミドの末端基調整をカルボン酸、アミンにより行うことが周知であること(参考文献3~7)、過剰のアジピン酸の添加を行う実施例1~9及び12、13、15、16によるポリアミドと該添加を行わない実施例10及び11によるポリアミドとの比較において、前者がより低い(EG)を有することを考慮すれば、イソフタル酸以外の酸であり本件発明1の必須のカルボン酸であるアジピン酸を過剰に添加することによって(EG)の値を制御できることは当業者が理解できるものと解される。
そして、上述のとおり、(Y)は(EG)と(x)の関数であって、(x)及び(EG)の制御方法を当業者が理解できるのであるから、発明の詳細な説明の段落0038~0040の記載、発明の詳細な説明に記載の実施例、比較例におけるポリアミド製造時の設定条件を参照しつつ、(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である範囲について当業者が実施することができるものと認められる。
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。
本件発明2~6についても同様である。
(イ)理由2の(2)について
この理由は、本件特許明細書の段落【0112】に記載の表1における(B)安定剤とその配合割合の欄の「種類」と「質量部」が逆に記載されている不備があるというものであるところ、上記本件訂正の訂正事項3によって、上記「種類」と「質量部」が正しい位置に訂正されたから、当該不備はない。
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1~6について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~6に係る特許は、上記理由2の(1)及び(2)の点で、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないということはできず、よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである、ということはできない。
(3)理由3(特許法第36条第6項第1号)について
上記取消理由で特許法第36条第6項第1号に適合しないとされたのは、上記本件訂正前の(A)のポリアミドが、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドについての発明であり、当該発明は本件訂正により削除されているから、本件訂正後に当該理由は存在しない。したがって、上記取消理由に記載した理由3について、本件発明1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないということはできず、よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである、ということはできない。
2 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項第3号について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項1、5及び6に係る発明(それぞれ、本件発明1、5、6に対応する。)について、甲第2号証を援用して、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するというものであると主張する(なお、甲第1号証は、上記刊行物1であり、甲第2号証は上記参考資料である。)。
しかし、上記1(1)イで述べたとおり、本件発明1は刊行物1に記載された発明とは相違点を有するものであり、相違点の全てが実質的な相違点でないとはいえないから、刊行物1に記載された発明であるとはいえず、本件発明5は本件発明1を技術的にさらに特定するものであり、本件発明6は本件発明1の組成物を含む成形品であるから、本件発明1と同様に、刊行物1に記載された発明であるとはいえない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
(2)特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項2に係る発明(本件発明2に対応する。)について、甲第2号証を援用して、甲第1、3及び4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという主張をする(なお、甲第1、3及び4号証は、順に、上記刊行物1、2及び3であり、甲第2号証は上記参考資料である。)。
そして、本件発明2は、本件発明1を技術的にさらに特定するものであるところ、上記1(1)イで述べたとおり、本件発明1が刊行物1~3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同様に、本件発明2も刊行物1~3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700851